モンスターハンター 閃耀の頂   作:生姜

21 / 58
第二十話 装い新たに

 アイルー達を呼んで黒狼鳥の運搬を依頼。岐路に着いたヒシュらは2日かけてジャンボ村へと到着した。

 報告書への書き込みを終え、依頼窓口(クエストカウンター)で暇そうにしていたパティにギルドへの提出を依頼すると、ヒシュは村の南に借家しているハンターハウスの二階……自室までを真っ直ぐ戻る。

 ハンターハウスに同居しているダレンとノレッジは、それぞれ地下と二階の向かいの部屋を寝室にしている。が、その二名は現在レクサーラとドンドルマに遠征中である。そのため、二階の自室でなくとも空間そのものは空いている。唯一にして最大の問題は、今現在もその空間を人が寝泊りできない程に占拠している資料の山であった。

 ヒシュは一階で鎧を外し自室に入ると、窓を開け、扉の横に『大鉈』と『短槍』を立てかけた。後で手入れを施すため、手近に置いておくのが昔からの習慣である。

 

「……う゛」

 

 ヒシュは無言のまま一度はベッドに腰掛けたものの、暫くして手持ち無沙汰になり、資料の山の片付けを始める事にする。

 部屋の一角に堆く積まれた紙の束を、表紙と付箋による区分を見ながら仕分けする。しかしそんな中にある一冊。ライトスから黒狼鳥の狩猟を依頼された際、事前情報として学術院から取り寄せた一冊の本が目に留まり、自然とそれを手に取っていた。

 冊子の表を見れば「クックラブ」という明るい装いの題が躍る。が、ヒシュはその装いは記憶に無かった。未だ目を通していない資料だろう。と、ぱらぱらと捲ってみればどうやら怪鳥 ―― イャンクックについての記事が組まれた雑誌、そのバックナンバーであるらしい。

 何とはなし、興味のままに表紙を捲ってゆく。黒狼鳥の単語を鍵にして資料を取り寄せていたからであろう。手元にある号には怪鳥の近似種、翼を持つ鳥竜種についての特集が組まれていた。内容は黒狼鳥や毒怪鳥、別の大陸にすむ彩鳥……果てはその祖先にまで遡っており、学術的な知識が必要な部分も数多く存在している。はてこれは一般的なハンターが読むには難しい内容なのでは……などと、つらつら考えていると。

 

「……?」

 

 頁を捲っていた手と視線が、あるモンスターの写実絵を見た部分で止まる。どこか見覚えの在る外観の生物だ、と感じた。既視感の様な、懐かしさとも言うべきか。

 だがそれは記憶の大海に埋もれた小船の様なもの。直ぐには思い出すことも出来ず、ならば絵を詳しく観察しようと、ヒシュは視界を狭める仮面に手をかけ ――

 

「―― 只今戻りました、御主人」

「……ぅ、……あ」

 

 部屋に入って来たネコを見て、しかしヒシュは手を止めた。雑誌をベッドに放って歩み寄ると、ネコの身体に余る大荷物をひょいと持ち上げる。

 

「ああ、申し訳ありません。ありがとうございます。……もしや取り込み中でしたでしょうか」

「……んー……ん」

「それならば良いのですが……あ、説明が遅れまして申し訳ありません。これらは全て、薬なのですよ。村長殿や村民の方々から我が主に渡して欲しいと頼まれましたものでしてね」

 

 笑みのままのネコにそう告げられ、机の上に並ぶ瓢箪や竹筒や瓶等様々な容器を見やり、かっくりと傾ぐ。

 

「……?」

「ハイ、これらは全て薬です。挨拶回りの際、村長や村人の前で主殿の体調が芳しくない旨を告げました所、皆様方から御主人に渡して欲しいと。代償を支払っている今の主殿の状態を心配して下さっているのでしょう。嬉しい事です」

「ん、ん」

 

 今度は肯定の意を込めて何度も頷きつつ、ヒシュは早速と薬を手に取り次々と飲み干していった。

 瓶を3つと瓢箪を2つ。軟膏には流石に手をつけなかったものの、薬塗れになった口内を水でゆすぎ口元を拭った後、ヒシュは久方振りに喉を鳴らそうと試みる。

 

「……ん……あ゛~……」

「如何でしょう?」

「う……あ、う゛……あ、あー……ん、何ほは声、出る、カモ」

 

 抗炎症作用のある薬草が含まれていたのであろう。数分ほど唸り声を上げていると、はれぼったさや声の雑みも取れてくる。今まで全く振るわなかった声帯は少しずつ本来の動きを取り戻し、段々とはっきりした声が出せるようになっていた。

 様子を見ていたネコは、主の復調にうんうんと頷く。

 

「流石は薬師謹製のマカ薬ですね。代償による声帯疲労が、これ程の合間に軽快しようとは」

「う。ジブン、げん、き」

「……ふむ……ですが、御主人。今回の黒狼鳥は、あれを使わねばならぬ程の相手でした。声は兎も角、精神と肉体の疲労の程は如何でしょう?」

 

 心配の色を濃く含んだ視線だった。ヒシュはまず、心配をかけまいと、率直な感覚を述べる事にした。

 

「ダイ、ジョー、ブ。……これれも、ロックリャックで、ジエン、モーラン、を相手取った時よりは……んん゛っ。……大分マシ、だ、から」

「ああ、そうですね。理解承知です。……判りましたので、これ以上は喉を痛めてまで声を発さなくとも、判っていますよ。まずは回復を。御身を大切にしてください。それが私の願いでもありますゆえ」

 

 ネコのひげがくたりと萎び、視線を落とす。

 意を汲んだ言葉に、それでも。

 

「ん。……次に、こりぇを、使うなら、……きっと」

 

 大陸の辺境ジャンボ村。ヒシュはその空を、北東へと果てしなく伸びた碧空を見上げた。

 視線が向かうのはテロス密林の奥。そこは未だ自然によって濃く覆われ、大陸の辺境に広がり続ける狩人ですら未だ足を踏み入れざる地。

 天に遥か聳えるは、密林が「高嶺」。

 暗雲と緑に潜むは、混沌たる「未知」の鳥竜。

 万物を拒み排する壁の如く ―― 故に御伽噺の龍が拠とする根城の如く。

 

 

 

 

 狩猟依頼を全てこなしたという報告を、ダレンを追ってドンドルマへ向かったライトス宛に送り、更に数週が過ぎた頃。狩猟の後の手続きも落ち着き、ジャンボ村だけでなくヒシュらもいつもの光景を取り戻していた。

 

 ―― カァーン……カァーン……

 

 真昼を告げる鐘が村の西から東へと響き渡る。

 つられて昼時の到来を知った村人は次々と仕事の手を止め、ある者は弁当の包みを開き、ある者は各々がひいきにする飯屋を目指して歩き出す。

 そんな日常の最中にあるジャンボ村の河川を、一艘の船が上り来る。

 荷台には瞼を閉じたままの黒狼鳥が一頭、鋼線でがんじがらめに括られている。それは海上を経て輸送された、3日前にヒシュとネコが仕留めた個体であった。

 日の照らす村中。ヒシュらが村つきのハンターとして着任してからは毎度の事ではあるのだが、見たことのない生物……モンスターの物珍しさに、出かけの村人達が足を止めては集まっては視線を注ぐ。しかし黒狼鳥の外見を見るや否や、叫び声をあげる者もいれば、ただひたすら無言に驚く者、子供の中には逃げ出す者まで出る始末。黒狼鳥の紫苑の体色や刺々しい外見と死骸になって尚放たれる威圧的な雰囲気は、村人にしてみればただ恐怖の対象であった。

 しかし当のヒシュはと言えば……祭り半分恐怖半分、怖いもの見たさから阿鼻叫喚の様相を呈している……川港からも村人達からも離れ、高台に据え付けられた火事場の屋根の下で金槌を振るっていた。隣には、ヒシュの様子を熱心に見入るおばぁの姿がある。

 

「ほっ、いいかい? 近年は燃石炭のお陰で炉の中も一層の高温を保つことが出来るようになったとはいえ、マカライト鉱石の扱いは慎重にやらなくちゃあいけないよ」

「ん。……そういえば、おばあ。槍の機構について、後で質問したい」

「後でね。ほらほら、時間が勝負だよっ! 腕を止めないでおくれ!」

「ん、ダイジョブ。教えは守る」

 

 時折入るおばあの指導に真っ直ぐ耳を傾けながら、ヒシュは幾度となく金音を重ね続ける。すると。

 

「―― 主殿。今、お時間は宜しいでしょうか」

 

 鎚を止めた頃合を見計らって。坂を上ってきたネコがその腕に書類を抱えながら、炉の正面に立つ主へと恐る恐る問いかけた。ヒシュはまず、竜鱗のミトンで熱した鉄塊を「触知」していたおばあへと伺いをたてる。

 

「……おばあ。良い?」

「ほっ、まあ良いさ。どうやらお前さんには、ある程度鍛冶の基礎が身についているみたいだからね。……ついでに昼飯を食べて来ると良いよ。採寸は前の時に済ませてあるけど、図面を起こす必要もあるだろうさ。出来た晩には取り掛かるから、そのつもりでね」

「ん。ありがと、おばあ」

 

 ヒシュは金槌を炉の脇に置くと赤熱した鉄塊を水へと入れた。水蒸気が立ち上る中、竜鱗で作られた手袋を外し、それでは、と手を振る。主の身が整うと、ネコがおばあに向かって一礼する。おばあが鍜治場の奥へと入ったのを見届けた後、連れ立った主従は村の中央部にある鉄火場の坂を下り始めた。

 向かう途中もイャンガルルガを見てきたという村の人々に様々と話しかけられ、それら会話を楽しみながら、川の際に建てられている酒場を目指す。

 

「あっ、ヒシュ! あの紫のでっかい鳥すげーな! ヒシュが狩ったんだって!?」

「そう。イャンガルルガ、もしくは黒狼鳥って呼ばれてる。ジャンボ村の辺りで見かけるのは、珍しいみたい。普段はアルコリスの森丘に多く居て ―― でも、そもそも個体数は少ないって」

「ねーね、いあん……がるるる、にも毒あるー?」

「ん、尻尾にある。気をつけてね。毒袋は抜いてあるから大丈夫だと思う……けど、棘棘してるからあんまり触らない方がいい? かも」

「ヒシュ。後で風車の作り方、教えて」

「良いよ。そういえばお母さん、元気?」

「うん!」

「ん。それは良かった」

 

 ヒシュの周囲には村の子供達が群がっていた。先ほど船で運ばれた黒狼鳥を見て来た子供も多くおり、口々にモンスターについての質問を並べる。男女問わず普段からヒシュに懐いてる子供らに対して、ネコに声をかける者は子供の他主婦や男衆が多い。

 

「ネコ居たー!」

「うぷっ。……あのう。申し訳ないですが、私どもはこれからあちらに向かう予定でして。今は遊ぶことが出来ないのです」

「えー!」

「その辺にしとけ。はっは、ウチのガキがすまないね。どうも」

「いえ、その点については全くもって構いませんよ。子供は元気なのが仕事ですからね」

「ありがたい。……ヒシュもネコも、これから昼飯か?」

「はい。これからパティ殿の酒場へと伺わせていただくつもりです。つい先ほどまで、鍜治場のおばあの所に厄介になっておりました」

「今日も鍜治場かい? 熱心だねえ」

 

 イャンガルルガの狩猟を終えてからというもの、ヒシュは金床に着き始めていた。実際の所今までは「必要が無かった」だけで、ヒシュはその好奇心ゆえに鍛冶の心得も多少……ほんの僅かながら齧ってはいる。しかし大陸を渡り、ジャンボ村に来て、狩るべき獲物を定めて。現在ヒシュらの置かれた状況は、以前とは大きく異なっていた。

 村人らの波を抜けて手を振る。辺りに人が少なくなったのを確認して、ネコは改めて尋ねた。

 

「主殿、喉の具合は如何でしょう」

「ん……痛みも引いた。……でも、その代り、薬で舌がひりひりしてるけどね」

「マカを作用させた薬は刺激も強くなりますから。……ですが、喉の為にも、薬による(うがい)は継続すべきでしょうね」

 

 中央広場の掲示板の前を横切り、酒場へと足を伸ばす。言いつつも時間を無駄にすまいと、ヒシュはネコから差し出された紙を受け取ってその内容へと眼を通し始めた。

 

「これが今回の報酬と取り分になりそうです」

「ん……」

 

 紙面にはびっしりと、件の黒狼鳥の報酬としての内訳試算が書かれていた。今回狩猟した黒狼鳥の身体測量の結果と、素材として使用できる部位の総量。それらからハンターズギルドおよび依頼主であるライトスら四分儀商会に納品される素材を差し引いた取り分 ―― を、ネコが計算したものである。

 ヒシュは字を追って仮面の内側で眼球を右へ左へと動かし、うんと頷く。

 

「ん。ネコ。ジブン、決めた」

「……ふーむ。それは、もしや?」

「そう」

 

 ネコが半分以上を確信しながら尋ねると、ヒシュはその通り、肯定する。

 

「おばあの技術、凄い。多分、シャルルよりもずっと。だから鉱石の精錬とか、殆どはおばあに任せられる。でもおばあは人間で、高齢だから。手伝いは必要。……今のおばあには弟子も居ない。皮の加工とか、単純な作業なら、ジブンでも手伝える。なら、勘も戻しておかなきゃいけないから」

「……つまり……決定ですね」

「そう。決めた。ジブン、今回狩猟したイャンガルルガの素材を買い取って、防具にする」

 

 やや興奮の色が見える口調で言うと、どこか誇らし気に胸を張った。

 ハンターにとっての防具とは身を守る鎧にして、その力量を測る物差しでもある。現在ジャンボ村着きの他の狩人はといえば、ノレッジは『ランポスシリーズ』を、ダレンは『ハンターシリーズ』を纏っている。必要な部分を個人の体駆に合わせてはあるものの、これらは「王立武器工匠」の傘下にある武具工房にて製図された、極めて一般的な鎧である。

 対してヒシュが纏っている鎧は未だ、大陸を跨いだ際に持参できた『レザーライトシリーズ』と呼ばれる皮の軽装が主だったもの。だが先に待つ獲物、未知の怪鳥は、その一息で焦土をも作り出す ―― 凄まじい蒼炎を吐く規格外の生物である。挑むにあたって炎熱に耐え得る鎧の備えをというのは、予てからの課題でもあった。

 宣言を受けて、ネコは髭をぴくりと揺らしながら……自らの主の言葉を適える為に(・・・・・)と思案を並べる。

 

「確かに、ライトス殿の依頼はイャンガルルガの素材を目的とするものではなかったですし……金額や取引次第で買取は可能でしょう。それにあの未知(アンノウン)に対抗し得るものとなると、防具の調整にも時間を設けたいですからね。判りました。まずはギルドと、依頼主であるライトス殿に交渉を持ち掛けましょう。素材は……何時もの様に出来れば丸ごと一頭を、ですね?」

「ウン。その方が良い。このイャンガルルガとジブンならきっと、いい感じになる。と、思う。それに、鳥竜種なら丁度いいし」

「了解しました。先ずはオリザを呼びましょう」

 

 ぴーぃ、と甲高くも透き通った音が響く。待たず空を切り、路の傍に生えた木の枝の1つを選んで大鷲が降り立った。律儀に伝書鳥としての役目を果たすオリザである。

 ネコが近寄って手招きをすると、オリザはヒシュの腕甲へと飛び移る。ヒシュはその喉を撫で、

 

「クルルル」

「……ん?」

 

 しかしネコが連絡の為の便箋を入れようとして、首元の鞄が膨らんでいる事に気が付く。

 

「ネコ、これ」

「ふむ、オリザが何かしら預けられている様ですね。どれ……にゃにゃっ!?」

 

 留め金を外すと、内側から紙の束が勢い良く溢れ出してネコの頭上から降り注いだ。

 どうやら遠征をしている内にギルドや書士隊からの連絡が溜まっていたらしい。ヒシュは動じずそれらを拾い上げ、歩きながら1つ1つ差出人を確認する。しかし、資料の間に挟まっていた一通の便箋を手にした所でその動きはぴたりと止まる。代わりに喜色を放ちながら、隣で便箋を集めて揃えるネコを抱き上げた。

 

「……ネコ、これ!」

「わ、我が友! 私を抱き上げなくとも、読めますと……ああもうっ!」

 

 ヒシュはにゃあにゃあと声をあげて抗議するネコを宥めながら封を切り、手紙を取り出す。ネコも観念し、主に抱きかかえられながら覗き込めば。

 

「ノレッジ殿からの……」

「手紙!」

 

 ネコとヒシュは一旦顔を見合わせた後、順に目を通してゆく。

 彼の少女は、大変な目に逢いながらもガノトトスを狩猟したこと。最近ではギルドから捌き切れない程の依頼が寄せられ、近場のハンター達と狩りに出ていること。温暖期に入る前に砂漠の管轄地全てを回る計画がある事。新しい弩や、砂漠だと補修の為のランポス素材が手に入り辛いため、砂漠に適した新しい防具を作成途中である事。温暖期でも活動できる渓谷の狩場があるため、未知(アンノウン)やギルドの大きな動きが無い限り、修行は温暖期を終える頃まで続ける心算である事 ―― 等々。ノレッジのレクサーラにおける近況が流麗な筆記で綴られていた。

 手紙を読み終え、主従は顔を上げる。目を瞑れば、遠い西の地で常の如く明るさを放ちながら猟場を駆けるノレッジの姿が鮮明に思い浮かべられた。

 ヒシュは手紙を封に入れ直すと、懐へと滑り込ませる。自然と、話題は少女のものへと移る。

 

「順調みたい。よかった」

「クルルル」

「……ふーむ。我が友よ、これは興味からの問いなのですが……レクサーラに残ったノレッジ様は、無事に修行を終える事が出来るでしょうか?」

「んー。才能は、ある。凄くね。後はノレッジの運次第だと思う。……だから、ジブン、あんまり心配はしていない。それに、また手紙を書くっても書いてある。楽しみにしてよう」

 

 少女の居る西は、酒場の在る方角。視線を向けても、ジャンボ村から見える景色は、ただ青々と茂る木々が延々と続いているだけ。ハンターとして師であるヒシュは、責任も感じているのであろう。手を伸ばしても届かない場所で奮闘しているであろうノレッジの身を案じていた。

 そんな主の様子を腕の中から見上げたネコは首を振るい、感傷の漂いだした雰囲気を変えるためにと話題を探す。

 

「……そう言えば御主人、あの『お守り』をノレッジ様に渡したのですか?」

「? 駄目だった?」

「いえ。ですがあれはハイランド師から頂いた、言葉通りの『お守り』の筈でしょう。……ノレッジ様の気性からしても、むしろ、そういった輩には『逢うべき』なのではないでしょうか? いえ、主の心配も勿論の事判るのですが……それにしても、私が船の手配をしている内にとは。してやられたと言うか出し抜かれたと言うか、にゃんと言うか……」

 

 最後だけ言葉を濁した友の様子に仮面の主は盛大な疑問符を浮べ、ネコは一つ、咳を挟んで続ける。

 

「にゃふん。それはそれとして、兎に角、詰まる所ですね。ノレッジ様に渡ったあの『お守り』は、所謂『魔よけ』の類でしょうに。狩猟の成就は副次的な効果だった筈ですよ?」

「ん。そうだけど、でも……ノレッジの『運』もだけれど、生きて帰ってこそのものだね(・・・・)。師匠としては、やっぱり心配で、そのためのお守りだから。……そう言われるとハイランドはちょっと怖い、かも知れない。ネコ。ジブン、勝手に手放したって怒られると思う?」

「にゃーん……どうでしょうね。あの御方は読み辛いですので、私には何とも。……ハイランド様はあれからかつての功績が評価され、遥か南端の地に在る彼の王国に招かれていた筈。狩人との兼業により御多忙であるとのお手紙を幾通も頂きましたし……と、すれば」

 

 ヒシュもネコも、その狩人の師として最も長く、最も深く、最も多くを学ばされた(・・・・・)ハイランドという女傑を思い返す。思わず溜息と懐かしさとを混ぜ込めて吐き出し、

 

「最も近場に存在するハンターズギルドの所在地 ―― レクサーラに逗留されたノレッジ様も、ハイランド卿にお会いする機会があるのでしょうか……?」

「かも。ハイランドは跳ねっ返りだから、レクサーラのギルドの人からすれば、やっかみ半分で噂されてると思う、けど」

「ふふ。それは容易に想像できますね。ならば……きっと……ふーむ。大変ではありましょう。けれども折れずに頑張って欲しいものです」

「ウン。確かに、ノレッジには頑張って欲しい。それは同意。―― だから」

「クルルゥ」

 

 想う。そして、だけではなく、ノレッジやダレンやライトスら面々が再びジャンボ村へと集う時。その時こそ……決戦の時なのだろうと。いずれ来る戦火の兆しに、ヒシュもネコも想いを馳せた。

 ―― だが。今は、まだ。

 

「だから、ジブンらも、頑張る」

「ええ。彼奴めを狩猟すべく、私も尽力を致します」

「お願い。手伝ってね、ネコ」

「承りました。我が友にして、我が主」

 

 そうこう話している内に、ヒシュらは酒場まで辿り着いていた。ヒシュはネコを地面に下ろすと忙しなく走り回るパティに軽く挨拶をしてからその横を抜け、何時ものカウンター席の奥へと向かう。

 何せ昼食を食べ終えた後、武具の図面を書き出すためにおばあの待つ鍜治場へととんぼがえりする予定だ。どうやらまだまだ、やるべき事は山積みである。

 

「んっ、いただきます」

「はい。いただきます」

「クル、クルルゥ」

 

 目指すは未知 ―― 更にはその先へまでも。

 果てしない獲物を追うのは、狩人らにとって当然の生業。

 彼の者達の心内に、歩みを止める心算は、依然として在りはしない。

 




 まず、拙作中でのクックラブの刊行に伴いお許しを下さった百聞一見さんに感謝のお言葉を述べさせていただきまして……ありがとうございます。
 さては、一介のファンフィクションなのです。重要な部分を担っていたりは、あまりしませんのですよ。
 さて。前話より戦闘狂の黒狼鳥、イャンガルルガさんとの狩猟描写とその結末でした。
 因みに。狩猟描写が割合を占めてくる第一章ですが、なにせ章題が章題ですので。暫くは血で血を洗う生臭ーい狩猟が続いてしまいます予定です(土下座
 とはいえ、それだけでは物語の体を成さないのも当然の事。第一章の末辺りからは、このペースよりはかなり落ち着く予定になっております次第。……とはいえ私の事。その場合、狩猟の描写が長くなってしまうのでは……と自分で自分を危惧していたりなんだり。
 今回の狩りのお話においては、ヒシュの持つ狩人としての方針を全面に押し出しております。心云々やら道具のポイ捨てやらとどめの云々やら、ある意味謎部分ばかりを追加した気がしてしまいますが、判る人には判ることも、無きにしも非ず。
 因みの因みに。拙作において、狩人が狩場に持っていく武器は1つだけという決まりはありません。ゲーム的な都合だと解釈させていただいております。それは確かに、頼れる一振りがあればそれを極めて……というのがモンスターハンターの正道です。私拙作の世界においてもトップのトップはそういった狩人達が多いですし、へビィボウガンばかり使うノレッジも例に漏れません(……今の所は)。そういったレベルの高い得物の描写がないのは、ジャンボ村の設備が追い付いていないから、というのが理由になります。
 ヒシュにおきましては装備リセットされておりますので、こういった手段を用いて様々な角度から攻撃を加えることで補わさせていただきました。とはいえ、道具やら毒やらを多用するのは当初からの方針でもありますね。
 そして遂に、ヒシュが奇面族であるとの明言をばさせていただきました。はい、鉈(の様な刃物)を振り回してきーきー鳴いているあの方達です。リオソウルの近くにキングチャチャブーを配置とか、珍しくボウガン担いだ私への挑戦ですか。鬼畜ですか(歓喜
 尚、色々と「えっ?」と感じられる部分があるかとは思いますが、詳しい所は後々に。この立ち位置は主人公として必要なものになる予定です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。