モンスターハンター 閃耀の頂   作:生姜

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▼参考文献
2004/ハンター大全
 2006/ハンター大全2
 2008/モンスターハンターイラストレーションズ
 2009/ハンター大全G
 2010/ハンター大全3
 2015/ハンター大全4

 参考・引用ページ数、ほぼ全域の為略。
 二次創作の為、出版社及び著者名略。

▼その他文献
 MH二次創作ライトノベルシリーズ
 ネット上で書かれている、先達作者皆様方の小説



≪ 狩人の章 ≫
第一話 遠くに在りて


 悠久の大地の上を季節風が吹いた。

 地上の砂粒はひしめき合い、海流のようにうねりを持って動き続けている。

 ―― 大砂漠。砂の波が寄せては引く、砂と熱と風の世界。

 そんな、絶えず動き鳴動し続ける世界にあって唯一、砂が止まる地域があった。

 「ロックラック」。広遠な不毛の大地に映える一枚岩の上に立つ、砂漠の交通拠点である。

 街の基盤でもある巨大な一枚岩の阻害もあってか、周辺数キロのみではあるものの、砂の動きが止まるのだ。止まった砂原ならば歩行も可能となる。だからこそ今日もまた、一団。砂の上を大小様々の影が寄り合いながら進んでいた。目的地は、先に立つロックラックである。

 たかが砂粒を人をも殺し得る凶器へと変える太陽が、不毛の地を行く人々にとっては大きく感じられる。圧力を伴う程の熱が、生物の脚を縛り付けている。

 風が止み、砂嵐が収まった。大人に混じって重荷を背負う少年と少女が、この好機に皮製の水筒に口をつける。口を開けて奪われる水分が惜しい。そう考えて湿らす程度に水を含んだ。

 

「――、」

 

 含んだ所で2人と、2人を含むキャラバンの頭上を大きな影が覆った。子供は空を見上げる。

 飛行船だっ。

 童心と物珍しさからか、少年と少女は叫んだ。ロックラックは飛行船の離陸地点ともなっているため、未だ知らぬ飛行船というものを見るのは、旅の目的でもあったのだ。

 頭上を覆っていた影は、過ぎ去って行く。あれは飛行船ではなく気球だと大人達は思ったが、これは子供に与り知らぬ事。只でさえ辛い砂漠越え。子供の気力が多少でも回復したのなら、ここで無為に否定する事も無い。どうせ街に着けば、幾らでも見る事が出来るのだから。

 

「……?」

 

 歩き出そうとした大人を他所に、子供は未だ空を見上げていた。眩しくは無いのだろうか。大人たちが怪訝に思っていると、足元にもう1度影が現れる。

 気球だ。2機目である。

 大人も顔を上げる。確かに気球だ。同じ空域に2機。……だがここは、既にロックラックに近い位置である。離着陸をしていれば、そういう事もよくよくあるだろう。率いる長も、そう考えていた。

 

 砂漠を割って出でる岩峰を見るまでは。

 

「―― ォォォ……―― ンン。……ォォォオオッッ」

 

 咆哮と共に大地が裂ける。2本の牙で天を突き、太く長い体駆がのそりと地上へ這出した。

 その身体は砂に塗れ塵に包まれ。それでいて尚蒼く美しい色をしている。

 動作そのものは緩慢。だが振り上げた牙は、その動作のついでとでも言わんばかりに土塊を軽々と飛ばし ―― 土塊は一団へと向かって落ちて来る。

 激しい衝撃が大地を振るう。落ちたのは、旅団を30メートル程超えた先だった。

 土塊は地に衝突し、砕けた。幸いその破片も隊には被害を与えなかった……が、塊自体大きいのだ。押し潰されたら、と。そもそもあの質量が宙を舞う現象からして既に理解の範疇を超えている。

 そこに至って、やっとのこと思考が追いつく。あの岩峰は生物なのだと。あの巨体は、自分達の遥か遠くに現れたのだと。

 だというに、これだけの威圧感を発しているのだ。子供は腰を抜かし、大人ですら身体どころか指の一本動かせはしない。……だから目の前の脅威から視線も逸らせない。遥か先からの眼光に、魂ごと射竦められていた。

 

「……!」

 

 数瞬の後。唯一、竦む思考を振り払い我を取り戻したキャラバンの長が、ある一点に気付いて後ろを向く。陽炎の幕の向こうにはロックラックが聳え立ち、自分達の隊を挟んだ反対側には、あの生物が居る。

 ……街はこのまま押し潰されるのではないか?

 ロックラックが成り立っている岩盤。これは残るだろう。だがその上に居る人々は、建築物は ―― 街は。あの生物によってひとたまりも無く潰される。そんな悪夢を鮮明に思い描いてしまった。

 頭上をまだ、気球が回遊している。よくよく見れば気球の球皮部分には2頭の龍……「古龍観測隊」の紋章が描かれているのが判る。底部から突き出された望遠鏡は、全て岩峰と見紛う生物へと向けられていた。

 ここまで考えきり、妙に冷静になった自分がいる。観測隊が出ていると言う事は、ギルドにも報告がされている筈だ。だとすれば。

 

 はたして、予感は的中する。

 

 船底が砂の海を滑る。巨大なマストが空を切る。

 生物と自分達と、その間。砂漠の地に1隻の船が躍り出ていた。

 船はロックラックと生物を結ぶ直線上で、その動きをぴたりと停止させた。船の中から3人と……1匹が、姿を現す。

 最も近い位置にいた長の耳が、辛うじて人の声を聞き取った。待ち望んだ人間、脅威と成る生物を狩る「狩人」。

 ―― ハンターの声に違いなかった。

 

「ハァーッ、ハッハッ! 待ち望んでいたぞ、峯山龍! 我が大槌の贄となるが良いっっ!!」

 

 身の丈ほどもある大槌を背負う大男。腰に手をあて胸を張り、豪快に笑っていた。顔すらも鎧で覆っているが、肩と頭上に頂かれた大きな角が目を惹いて止まない。王者の風格をそのままに写し取った、不動の鎧であった。

 

「もう。私達はここまで戦ってくれた皆の代表なのよ? 負けたらロックラックも大惨事なんだから、緊張感を持ってよ。……気持ちは分かるけど」

 

 長い紫髪の映える女。白色の布鎧で口元までを覆っている。全身の稼動部を避けた位置に悉くホルダーがあるが、大男よりは軽装だ。目元だけ、透き通った肌が覗いている。呆れたような声の後、手に持った白い弩弓をガチャリと引いた。

 

「御主人、どうぞ作戦通りに。接近しても、私は撃龍槍と大銅鐸、大砲とバリスタに専念させていただきます」

 

 船上に残ると言ったのは、アイルーだった。自分達の生活にも根付いているその獣人は、しかし、よく知る一般のアイルーとは違っていた。あれだけの威圧感を受けてもおどおどとせず、落ち着き払っている。ポンチョも着ている。

 ……そしてなにより語尾に「ニャ」を付けていない。実に新鮮だった。その丁寧な口調に、人間かとすら思った。

 

「うん。ネコは、それでよし。荷物管理と撃龍槍を任せる。ジブンは近づいたら ―― 」

 

 最後の1人。座り込み、アイルーへと返答しながら大砲の整備をしている人間。

 白を基調とした砂漠では暑苦しい布製の防具と、手足に金属質の銀鎧。頭に被ったフードの後ろから2つ、長い耳にも見える飾りが垂れている。

 その愛らしさが勝ってか。他の2人(と、1匹)に比べれば質量的な威圧感はない。の、だが、しかし。

 ……なんだあれは?

 腰に、背に、胸に、下腕に、上下腿に。至る所に付けられた皮製の袋に、これでもかと道具や武器が入れられ ―― 詰め込まれている。

 見えるだけでもあるものは瓶詰めの液体であり、あるものは短い刀。背には主武器と思われる鉈が2本と短槍が1本。腰には波打つ刃の用途を判断しかねる短剣や、ぴかぴか光る虫籠がぶら下がっている。

 その狩人が立ち上がり、此方へと振り向いた。あらゆる道具を身につけた狩人は、何故か兎の面をしている。面に覆われているせいで顔は見えないが、視線が交わるのが感じられた。

 

「―― 」

 

 仮面の狩人が着火すると、その足元から信号付きのタル爆弾が撃ち上がった。商隊や旅人の間で良く使われるその信号。仮面の狩人が「逃げろ」、と言ったのだ。

 しかし戦いの火蓋を切る権限は、生物の側にある。人知を超える脅威との戦いは、こちらの逃げる間を待たずして始まった。

 狩人達は砂漠を滑る船に備え付けられた極大の弩を雨の如く撃ち、大砲を放つ。運搬を含め、休みなく続けられる作業だ。

 岩峰の龍も撃たれてばかりではない。岩を弾き飛ばし、船を襲おうと試みる。直撃はしないが、破片が当たっただけで太いマストが容易く折れた。

 長は震える隊を何とか立たせ、街の方向へと歩き出した。逃げようという意志があったのは幸いだ。唯一人々が取る事の出来る存命の策が、逃走(これ)であった。

 逃げながらも時折、長と2人の子供だけが振り向く。

 ハンターとはいえ、たかが人間。自分達と同じ生き物のはず。それでもたった3人と1匹で生物の威圧感を受け止め、むしろ笑っていたのだ。 

 暫くして、隊は無事に砂漠の街の入り口へと到達する。それだけで精一杯だったほとんどの隊員は、戦いを見守る街の人々に半ば抱えられる形で運ばれて行った。

 ……見たい。

 それでも考えるより早く、長の脚は動いていた。その後を元気な子供2人が付いて来る。街の見晴らしの良い高台へと昇り、戦いを見届けたい。息を吸っては吐き、岩の階段を昇りきる。高台に登ると、砂漠を覆う砂埃が晴れていた。これならば遠くまでを見渡す事が出来る。

 長と子供達が目を凝らす。未だ遠くに、巨龍と、木製の船が見えた。黒い粒となった3人の狩人も、辛うじて見えている。だが、あの巨龍にとって木製の船など障害には成り得ないだろう。街までの障害物は、狩人達以外には何も無いと言って良い。

 ……だが。よく見てみれば相手にも、無い。

 砂の大地を裂き屹立していた牙は、2本共に折れていた。

 ロックラックの高台。周囲には同じ様に、沢山の見物客が居た。全員が全員、砂埃が晴れ見えてきたこの状況に湧きあがる。生物の咆哮が響くたび、人々からは嬌声と喝采があがって。まるで祭りのようだった。

 我が街の撃龍槍、思い知ったか! と、誰かが叫んだ。どうやらあのハンター達が。引いてはこの街の誰かが作った武器が、あの牙を折ったらしい。

 

「―― オオオオォォォ……オオオオッッ!!!!」

 

 それでも龍は折れた牙を掲げた。広大な砂の海にあって吸い込まれず、水底までを震わす咆哮。弓なりに立ち上がった巨体はそのまま太陽光を遮り、影となってハンターの頭上に振り下ろされる。先行した風圧によって、砂埃が舞い上がった。

 振り下ろされるより早く、砂漠に散開した黒い点があった。押しつぶそうと降った身体を避けた点達(・・)が3つ、これを好機とばかりに駆けて行く。

 龍の身体が大地を震わす。

 2つ、両の前足へと纏わり付いた。

 1つ、腹の下へ潜り込んだ。

 龍は折れてすら脅威と成り得る牙を振り回し、両脚を暴れさせ、時に身体全てを使って押し潰そうとする。

 死闘だった。最も尊ぶべき命を天秤に置いて生死を賭ける、殺し合い。

 巨龍の大質量によって巻き上げられた砂埃が時間を置いて街を襲った。そんな事は関係ない。キャラバンの長は瞼を見開き、砂埃の先を確かと見据える。ハンターと龍の戦いを見逃したくないのだ。その後ろからは、子供達も、食い入るように龍とハンターの姿を見つめている。

 何度目だろうか。龍がその身体を持ち上げ、弓なりに反らせた。押し潰そうとするのかと、視線を凝らす。

 違った。持ち上がった巨躯はそのままねじれ、熱砂へと横ばいに臥した。……動かない。龍は遂に、地に根付く岩峰と相成った。

 爆音が沸きあがる。龍でなく人々の声でも、街や砂漠は震えるのだ。

 幾人かは歓喜のまま、砂漠へ駆けて行く。長は高揚感を抑え付け、駆け出そうとした子供達の肩をつかんだ。あれは目に見えるよりも遥かに遠い位置にある。龍が大き過ぎて、距離感覚が無いだけなのだ。

 ……せめて装備は必要だろう。

 2人を連れ、長は砂漠横断用の荷を置いた詰め所へと急いだ。渡ったばかりの砂漠を戻ってでも、あの巨龍を見てみたかった。打ち倒した狩人達に逢って、礼を言いたかった。

 子供達の方が着替えるのが早い。長も着替えて街の入り口に向かうと、既に龍へと向かう旅団が組まれていた。長と子供はその一団に入り、龍へと向かう事にした。

 

 太陽が砂原の端へと沈む。

 雲一つ無い天頂を彩る星々と、青く耀(かがや)く月。

 照らされた砂漠の夜に、一際大きな炎の灯りが点いた。

 囲む人々に ―― 失われた1つの命。その分まで、幸あれと。

 




・冒頭には、死体を。
 冒頭というには少々後半ですが、転がりました。でっかいヤツが。
 狩り自体が一種のお祭り騒ぎとも成る、生きる宝山。恐ろしさと、活気と、強さ。モンハンの世界を体言できるお相手だと思います。

・因みにこの後、宴会なんぞやっていたせいでジエンモーランの解体が遅れ、半分ほど解体した所でティガレックス筆頭肉食獣軍団が押し寄せ、砂漠は大変な事になります。地獄絵図を収拾すべく、ハンター達が大連続狩猟で地獄の底を見ます。街人は街の門を閉めて撃竜槍だけで反撃します。
 今回はプロローグを綺麗に終わらせる為、ここで切りましたが。
 頑張れ、負けるな、ロックラック。あとハンター達。

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