Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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空戦

 クロスターンを終えたドップ二機は翼下の増槽を切り離すと、むちゃくちゃとも言える膨大な推力を生かして、上昇しながらラダー隊へと向かっていく。

 

 まっすぐに降りながら速度を上げていくラダー隊に対して、ドップ隊は左右へ避けるような軌道を取った。ドップ隊の後ろでは、ファットアンクルが高度を降ろしているのが見えた。

 

「道を譲ってくれたのか?」

 

 左右に分かれたドップへとシールドを向けるが、距離が離れている上に相対速度が早すぎる。狙いを定めるよりも早くすれ違った。

 

 邪魔者が居なくなったのなら、今のうちだ。

 

 三機のベースジャバーは更に加速をかけ、ファットアンクルへと直進していく。

 

《後ろを取った!》

 

 上昇しながら反転していたドップが、いつの間にかラダー隊の左右斜め後ろに、それぞれ付いていた。

 

『散開ッ!』

 

 狙い澄ましたドップは息の合ったタイミングでバルカンとロケットを斉射する。火線がちょうどバツ印のようになり、ラダー隊に襲いかかる。

 

 タイミングを見計らい、隊列を維持したまま左右へと広がって火線から逃げる。が、ドップはそれまで全開だった推力をカットし、更にエアブレーキまで開いて軌道を無理矢理ねじ曲げた。

 

『くそっ!』

 

 隣を見ればレイエスのベースジャバーから黒煙が上がっていた。右側の尾翼が水平と垂直の両方とも、どこかへ消え失せてしまっている。

 

『あぁっ、落ちるっ!』

 

 火事を失ったベースジャバーは、ガクッと高度を落としてきりもみ回転を始める。めまぐるしく回るコクピットの中でレイエスはぎりッと歯を噛みしめていた。

 

「レイエス、離脱しろッ!」

 

 コクピットの中でクラノが叫ぶと、レイエスのベースジャバーのロックが外れ、ガルバルディが空中へと放り出された。

 

「逃がすか!」

 

 一撃離脱戦法の原則に則り、攻撃を終えて離脱していこうとするドップに向かって、シールド裏のミサイルをラダーとクラノのガルバルディが放つ。

 

 パシュッ、と飛んでいった四発のミサイルの内、ラダーが放った物はドップの眼前で近接信管が作動し、ひび割れたキャノピーに焦ったパイロットが舵を切ろうとした途端、二発目のミサイルがドップに直撃。瞬く間に火の塊となり四散した。

 

 一方でクラノのミサイルはドップの後方で一発が爆発。エンジン部に若干のダメージを与えた程度で、もう一発は翼の側で爆発。右羽をもぎ取ったが、ドップは平然と飛行を続けていた。

 

「羽は飾りか!?」

《よぉくも、パーカーをぉぉッ!!》

 

 片羽になったドップは再び反転し、ドップを落としたラダーの機体へと向けて発砲。

 

「させるかっ!」

 

 回避行動をとるラダーを援護するように、クラノはビームライフルのトリガーを引く。

 

 コンピューターの予測よりも早く、とっさにレバーを動かして照準した場所は、ドップの進む先とちょうど重なっていた。

 

《なっ――!?》

 

 黄色のビームがドップのど真ん中に突き刺さる。

 

「当たっ、た……?」

 

 咄嗟の事で、無意識のことだ。なぜ当たったのか、なぜ当てられたのか、クラノには理解できなかった。

 

『避けろっ!』

「えっ?」

 

 敵を落としたことに安心していたせいで、すっかり油断しきってしまっていた。

 サブモニターに映っていたラダーのベースジャバーが、下側から爆発。直後にクラノの機体も下側から突き上げられるような衝撃を受けた。

 

「対空砲弾か――!?」

 

 急いでベースジャバーとの接続を解除し、スラスターを噴かせて空中へと脱出する。

 機体が宙に浮くと、コンピューターがオートで降下姿勢を取らせた。

 

「一体なにが」

 

 コンソールを叩き、対空砲弾の飛んできた方向をズームすると、雪原の中にピンクの光りが二つ見えた。

 

 白い迷彩塗装が施されているのは、ザクとドムだ。先ほど撃墜したドップのことを恨んでいるかのように、こちらを睨み付けている。

 

 二機の内、ザクの方はマシンガンを装備していた。対空砲弾を撃ったのは、ザクの方か。精密射撃を行えるとは言え、ザクマシンガンで正確に二機のベースジャバーを撃ち抜いた技量。よほどのエースか、ニュータイプか。あるいは、その両方か。

 

 どちらにしても、このままでは――。

 

「狙い撃ちにされるのか!」

『させん……!』

 

 同じく降下姿勢を取っていたラダーのガルバルディが、スラスターを噴かして突撃していく。

 

「そんな、無茶です!」

 

《はッ、当たりに来たのかァ?》

 

 空中で真っ直ぐ突っ込んでいくラダーの機体は、敵にとって見ればただの的だ。クラノを守る為にしても、無茶が過ぎる。

 狙いを定めたザクがトリガーを引いた直後。ラダーのガルバルディは全身の推進装置を使って、降下しながら横に身体を捻り、一回転した。

 

「あのモーションは!?」

《MSでバレルロールだと!》

 

『そこだ』

 

 怯んだザクに向けて放ったビームライフルは、ザクが後ろに短くステップをしたことで、氷床を焼いただけに止まった。

 

《くっ、ゲタは脱がせた。逃げるぞ!》

 

 ホバー移動を行えるザク改とドムは踵を返して、氷上を滑るような動きで逃げていく。

 

 地表が近くなったクラノのガルバルディは、数あるモーションパターンから最適な動きを自動で選択して、雪原に降り立つ。

 

「逃がすかっ!」

 

 クラノは背を向けた二機のモビルスーツに向けて、ビームライフルを連射する。だが、すでに射程ぎりぎりまで逃げていたザクとドムに、あっさりとかわされてしまった。

 

『よせ、ここからでは当たらん』

 

 射撃を続けようとするクラノをラダーが制止して、先に降りていたレイエスの機体が合流してきた。どうやら無事だったらしい。

 

「追いますか?」

『ベースジャバーを壊されて、手ぶらで帰ったらどやされるだろうなぁ……』

『追うしかあるまい……ん?』

 

 クラノとラダーのガルバルディがビームライフルのグリップにあるエネルギーパックを交換していると、空からぱらぱらと雪が降ってきた。

 

『気象予報じゃ晴れだって……』

『コロニーなんて物が落ちたんだ。気象予報があてになる筈もない』

 

 ぱらぱらと降っていた雪は段々と強くなってきているように感じた。

 

『……急ぐぞ』

「「了解」」


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