Reincarnation of Z   作:秋月 皐

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今回は少し短めです。


降伏勧告

 ロンドン基地を発ち、北西へと進路を向ける二機のミデア。その格納デッキに搭載された水中型ザクの薄暗いコクピットの中で光る赤い非常灯を眺めながら、クラノは無線機から聞こえてくる予定の指示を、今か今かと待っていた。

 ボッというノイズのような起動音が入り、ミデアパイロットであるケースの声が聞こえてきた。

 

「ラダー隊、予定降下ポイントまで六分だ。機体の立ち上げを開始しろ」

「ラダー、了解」

「レイエス、了解」

「クラノ、了解」

 

 返事をしてから機体の電源を入れて、各種モニターのスイッチをオンにすると、モニター越しに周囲の状況が確認できるようになる。右隣にあるレイエスの水中型ザクもモニターを起動したのか、ピンク色のモノアイが光って左右に動いた。

 

 ジェネレーターを起動させる。重水素とヘリウム3をIフィールドの中で核融合させることで抽出された電力が、パルスコンバーターで流体パルスに変換されて、機体の各部にあるアクチュエーターを作動させることで、防水用シーリングが施された機体の各関節が動くようになる。

 

 連邦軍が採用しているフィールドモーターシステムに比べて、機体が重くなる代わりにメンテナンス整が高いのが、ジオン軍で採用されていた流体パルスシステムの特徴だ。

 確かに、乗ってみれば分かるが機体を動かす感覚がまるで違う。普段から訓練で使用している連邦軍機の方が、自分にはあっていそうだと感じた。

 

 事前に作成していたモーションパターンが記録されたカセットを、右側にあるカセットボードに挿入して、モーションパターンをロードする。

 

 戦術データ表示モニターで、武装の装備状況、燃料量と機体整備状態を。メインパネルで弾薬数をチェックする。サブロックガンと胸部ロケットポッドに頭部機関砲。全てが確かに装備されて、弾薬もマックスの状態だ。整備状態も良好で、燃料も満タンになっている。

 

 主警報装置のどれもが作動していないことを確認して、座席の裏の酸素ボンベと左下にあるサバイバルコンテナを開き、機体内装備品をチェックする。どれも問題はない。

 最後にもう一度、ヘルメットとノーマルスーツの点検をして、出撃準備を整えた。

 

「クラノ、レイエス。予定降下ポイントまで九十秒だ、準備はいいな?」

 

 ちょうど準備を終えたところでラダーの声が聞こえる。

 

「格納デッキ、ハッチオープン。クラノ機、カタパルトスタンバイ」

 

 格納庫後部のハッチが開かれる。サブモニターで背後を確認すると、青い空と海がまるで境目の無いかのように繋がって、広がっていた。

 機体がカタパルトに固定されて、重い金属音が鳴る。

 

「グッドラック! 続いてレイエス機、カタパルトスタンバイ」

 

 金属が擦れる激しい音を立てながらカタパルトが作動して、機体が空中に放り出される。ペダルを細かく踏んで、スラスターを噴かして機体を安定させながら、落下速度を調節する。ラダーの乗る水中型ガンダムに続くようにして、エメラルドグリーンの海面へと大きな水しぶきを上げながら機体はダイブした。

 

 適切な水深を保つために、バラストに海水を注水させながら、視界を遮る白い泡が落ち着くのを待っていると、レイエスの水中型ザクがダイブしてきた。

 

 泡が晴れて視界がクリアになると、水中型ガンダムが左手で「行くぞ」のハンドサインをしてからフェロー諸島へと向かって進み始める。ラダー機に続いてレイエスとクラノの水中型ザクが推進を開始した。

 

 しばらく進むと目標であるノルソイ島が見えた。港にはいくつかの漁船が停泊していて、一見すると普通の漁村のようにも見える。

 

 しかし、水中には潜水艦用の隠しデッキの入り口と思われる鉄の扉が存在していた。ここに住む連中が黒であることは間違いないようだ。

 

 予定されていた通り、兵装安全装置(マスターアームスイッチ)をセーフからオンへと切り替えて、レイエスの水中型ザクと共に胸部ロケットを発射する。ロケットポッドから放たれたロケットは垂直に海中から飛び出して、向きを変えて陸地へと向かった。

 

 陸地付近に脅威となる敵兵力がいないことを確認すると、レイエスの機体と共に浮上する。陸地に立ち、改めて周囲の状況を確認する。民家のような建物が六つ、エレカが四台、武装車両が二台、煙を上げている。どうやら居住区だったのか、破壊した建物と似たような建物が点在している。ジオン残党兵の寝床なのだろう。

 

「テロリストに容赦する必要は無いか」

 

 レイエス機にモノアイを使った光信号で攻撃開始を指示する。60 mm頭部機関砲で建物と武装車両を中心に、次々と破壊していく。

 施設を破壊する後ろで、ラダーの水中型ガンダムが浮上してきた。少し距離のあった格納庫にも三発の胸部ロケット砲を放つ。

 

 燃えさかり、煙を上げる基地施設を見て、サウサンプトン基地の惨状を思い出す。あの基地程ではないが、心が多少なり痛む。しかし、生かしておけばより多くの人を殺すかもしれないジオン残党に手加減をする理由はない。残りのロケットを隠しドックのある岩場へと放つが、大したダメージを与えられていないようだった。

 

 水中型ガンダムから攻撃中止のサインが送られる。外部スピーカーがオンになると、ラダーが降伏勧告を始めた。

 

「我々は地球連邦軍ティターンズである。この基地は我々ティターンズが制圧した、降伏するのならこれ以上の攻撃は行わない。速やかに降伏せよ」

 

 しばらく待つが、誰も応じない。それどころか、水中にある隠しドックの扉が開き始めた。

 

「愚かだな」

 

 音を聞いたラダー隊の三機は再び水中へと飛び込み、開きかけの扉の隙間に向かってビームライフルとサブロックガンで斉射を仕掛ける。いくつかの弾が扉に当たり、水中で白い爆発を起こす。

 

 煙のような泡を引き裂くかのようにして、水色のモビルスーツ、ズゴックが姿を現した。


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