特務警察署の日々   作:宇垣秀康

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頑張ります。ある程度書き溜めてから投稿します。


事件簿
はぐれ者の巣


 

何処の警察にもはぐれ者はいる。

 

 

 

しかし、そういう奴に限り、一芸に長けており、発見が早かったり、よく分からない方面から攻め込み、犯人を確保するものだ。辞めさせるにも理由がない。

大抵上層部は扱いきれない彼らを忌み嫌い、端に追い込むが、そこから又抜け出てくるのも常である。

能力は高い。しかし、使いづらい…

そこで上層部は考えた。そして内村完爾のはぐれ者対策として行っている特命係の資料を見て思い付いたのだ。

-はぐれ者ははぐれ者同士集めておけばいいのだー

と。

 

しかし、いかんせん人数が多い。面子を見る限り特車を入れる車庫も必要だ。そこからは押し付けあいが始まる。何せ自身の管轄下におくならばどうしようもなく…問題を起こす。解決しても手柄を横取りされたと感じる署内の雰囲気は最悪となろう。

そして…ならば新しく作られる署をそいつらに自由に使わせればいい。と言う結論に至った。

 

なに、基本は警視庁の特命係と変わらず、警察の雑用だ。そして厄介な奴らは兎に角色々首を突っ込みたがる。ならば取り敢えず広域捜査の許可を出すが、各署との連携も現場の警官たちが嫌がって取りにくいだろう。

これで本当に陸の孤島となりたる警察署が出来上がるのだ。そして、身勝手な者達の集まりだ。なにか問題があれば全体の責任として、叩き潰せばいい。

そうして、上層部の会合が終わる。

無論、反論するものもいた。中でも話の中でも取り立たされた特命係を擁する内村完爾の焦燥っぷりといったらない。なにせ特命係の…いや一人の警部の功績を知っている。そして、上層部にはその功績は伝えていない。なによりこのような流れになると思っていなかったのだ。各署のはぐれ者の愚痴を言い合って終わると思っていたのだ。しかし、話す中で内村は思った…

「あれ?これで面倒な警部がいなくなったら…やり易いだけなのでは?…」と。

面倒は新しい署に手伝わせればいい。なによりそれをあの「小野田長官」と「蟻塚監察官」が言っているのだ。何の問題もないと心が軽くなり、最終的には賛成したのであった。それを見て他の者たちも賛成にまわり、新署舎の建設が進むのだった。

そして会議が終わり、大方の人が浮かれて出ていった。

閑散とした会議室に残っていた数人は暫くして真面目な顔から相貌を崩し、笑っている。一人は大真面目に口を結び、その中の二人を見ている。

「いやぁ、これで色々やりやすくなるねぇ…蟻塚ちゃん?」

「そうですな。なによりこれで肩の荷が降りたってものですよ。小野田長官殿?」

柔和な笑いをしている者とそれに受け答えしながらも自身の閻魔帳に先程までの上層部の醜態の採点をするのを忘れない。

何より残っているのは彼らの派閥の者達のみ…

そう、他の上層部を煽り、焚き付け、彼らの思いを理解できるもの達を集めたのだ。それも反則ギリギリなのだが言い逃れできないくらい合法的に…

 

「これで警察庁の方も問題もないよね?大河内ちゃん?」

「はい。委細問題なく、何より上層部の皆様の信任もありますので…」

名前をあげられた監察官がハキハキと答える。

「それで?一番上は勿論僕と蟻塚ちゃんが押さえるけど彼らのすぐ上に誰がつくのかは決まった?室井ちゃん」

「はい。私の下に暫く着いていた者ですが、彼ならば新しい署で立派に纏めあげられると思います。」

次に呼ばれた髪を撫で付け渋い顔をしている男が答える。

「まだまだ固いなぁ。…そんなんじゃ、本庁の奴らに睨まれちゃってるでしょ?」

「…すみません。気を付けます。」

「まじめだねぇ…そこが気に入ってるんだけどね?」

小野田は笑いながら、室井が更に眉間にシワを寄せたのを見ていた。周りの他の者達も苦笑いをしながら見ている。そして蟻塚監察官と言われた男が

「室井くん、小野田長官は批判してるのではないぞ?君の真面目さ、熱を此処にいるものは皆知っている。だからこそ今回のこの運びに君を誘ったのだ。」とフォローを入れる。

それを見た室井は

「ありがとうございます。」と頭を下げる。

空気が元に戻ったところで、小野田がまた話始める。

「で?結局彼らの新しい巣となる庁舎の名前は?こっちで決めていいってことになってたけど…決まってるの?」

と問うと大河内が答える。

「はい。こうなると思っておりまして、候補がいくつか…この中からどれにしましょう。」

懐から新庁舎の名前が書かれた紙を数枚出し、小野田と蟻塚の前に出す。

「そうだね。これとかどうかな蟻塚ちゃん?」

「そうですな。これなら彼ららしいと思います。異存はありませんな。」

残っているグループの上層二人が決めた名前が正式に通り、建物の建設も進む。その中で人員の移動の決定も進む。あるものは辞令を出す者に食って掛かり、またあるものは嫌らしい笑いをする上司に大人しく従い、またある署では課ごと移動が決まる。

 

 

 

 

「いやぁ、すまんなぁ?なにせ小野田長官直々の考えなのだ。お前には悪いが拒否権はない。相棒も連れていけ。鑑識も数人出向が決まっている。よろしく頼む。くれぐれも使い潰さんようにな?」

「分かりました。それでは角田課長に引き継ぎなどもありますのでこれで失礼します。」

眼鏡をかけた小柄な警部が署長室から出ていく。

 

 

 

バンッ!!

「納得いきません!なぜ私たちが!」

「検挙率もあがってますし、問題行動もなかったとおもいますが?」

婦警が二人署長室に来た鋭い眼光の黒い服を着て、髪を撫で付けている男に噛みついている。既に片方は相手の役職を忘れているのではと思うくらい激昂している。

「…正直に言おう。君たちを疎ましく思っている奴が上にいるのだ。監察官が押さえていてくれたことも槍玉にあげられている。このままでは監察官の立場も悪いのだ。分かってくれ。」

「っ!なんで監察官まで!?私たちの責任なんでしょ!」

「…成る程。私たちは監察官を貶めるのにはちょうどいい火種だってことね。」

「そんなっ!」

婦警は二人とも辛そうに…悔しそうに床を見ている。

それを見ていた男が静かに口を開き、

「安心してくれ。この程度で監察官殿がどうなるわけではない。しかし、新庁舎で君たちに活躍してほしいというのは蟻塚監察官の本心だ。今日も直接話をすると言って聞かなかったのだ。監察官殿に他の仕事もあり私が来たが、今回の異動…君たちに悪い話ではないはずだ、宜しく頼む。」

と深々と頭を下げる。官房長官の補佐官と言う肩書きの男が只の婦警に頭を下げるという珍事の中、真剣な状況を鑑みた二人は出向を決意する。その後自身の課でお別れパーティーを盛大に行われるが、出向後、ちょくちょく遊びに来るので様々な婦警から合コンの開催の依頼を受けているのを白バイから涙ながら不安そうに見ている男の姿も良く見られるようになるのだった。

 

 

また、別の所轄では…

「なんでわしが出向なんですか署長~!」

「いい加減にしないか!両津!…しかし、説明もなく出向というのはどうかと私も思います。署長!」

と、署長につめよる巡査部長と巡査長。困るのは署長である。そこに大河内監察官が現れ、

「ならば、私が説明します。私は警察庁監察官の大河内と申します。」

突然現れたエリートに驚く巡査部長と署長。しかし、当の巡査長は面倒くさそうに

「で?そんなエリート様がわしになんのようだ?」

と鼻をほじりながら署長室のソファーにぞんざいに座り答えただけであった。

しかし彼の対応にも理由がある。今まで刑事や警部といって、一緒に活動してきたのは海パンだったり、変態だったり、変態だったりといいイメージがないのだ。

そしてこの出向命令…今までの経験としていいことがない。いいように使われて終わりだ。だから行く気など更々にない。だからこそ悪態をつき、自分はめんどくさい人間だと思わせる素振りをとったのだ。

しかし、大河内もそんな事歯牙にもかけず向かい合うソファーに腰掛け話を始める。

「まずは謝罪を。特殊刑事課などというお粗末な集団を貴方に押し付けたものが上にいたことによりまともな対応が遅れたことが多々あり、またそのグループのせいであなた方の陳述書などが握りつぶされていました。本当にすみません。その上でお願いします。新しい署に出向をお願いします。」

「嫌だ。」

「そこで貴方に刑事に戻ってほしいのです。」

「なんですと!良かったじゃないか両津!出世するぞ!」

「嫌だ。」

巡査部長の合いの手も受け入れず、大河内の方も見ず断る巡査長…

大河内はそこで更に真面目に問うのであった。

「…南部刑事…」

「!」

「私も昔、話を聞きました。素晴らしい刑事であったと…」

「……い」

「今、彼がいたらあなたを誘ったでしょう。あなたが挙げた手柄は素晴らしい。しかし過去を引きずり…」

「…さい」

「今までも問題を起こしていますが、それすらすくむほどの手柄です。それを否定など出来ない。」

「うるさい!!」

「両津!!」

「部長!署長!!わしは今のままが一番だ!真面目にやれというならこんな遠回しで言わんでもいいでしょう!こんな…!こんなやり方!」

「汚いのはわかっています。しかし私もあなたが出向してほしいと思っている人間の一人です。手柄など本当はどうでもいい。なによりあなたの人間性が素晴らしい。」

「あぁ?お前何言ってるんだ?」

「今出向を求めている新しい署ははぐれ者の集まりだ。警察の体裁や面子など気にしない者達…そのなかで若い者もいますが、若者の気持ちが分かり、上の者とやりあえる者がいるんです。今、私に噛みついている貴方のような…!」

真剣な気持ちが伝わる。巡査長はまっすぐ監察官の眼を見ながら聞く。

「…わしに望むのはそれだけか?ならなぜ刑事に戻らないといかんのだ!南部さんの名前まで出して!」

と、ここが引っ掛かっているのだ。

「…今出向してくるなかでも、小野田長官が眼をかけてる警部どのが…その…特殊な方でして……あまり…その、人との付き合いが上手い方でなく…纏めきれるか不安で…纏まりがつかないのではと思いまして…貴方のような人の繋がりを重要視する人が必要なのです…」

警部どのの話をしだした途端、声色が小さくなっていく監察官を見て巡査長は自分を利用してきた今までの者とは違うと感じた。本当に必要なのだろう…そう思ったときには、顔に少し笑みが出てくる程度にはなった。

しかし、真剣な空気の中、署長と巡査部長は静かに様子を伺っていた。

「…わしはやりたいようにやるぞ。自分の後輩を調査に使うかも知れん…いや使うぞ?」

「構いません。ある程度の広域捜査の許可、所轄への協力依頼は許可されています。」

「関係無くとも別の手伝いをするかもしれんぞ?」

「それも構いません。基本は本庁の雑用と警察のイメージアップが主だった仕事だと思ってください。あと、貴方には技術的な開発も許可がおりるようになっています。今はまだ何時からとは言えませんが特車も入ります。」

「…そうか…

部長…今までありがとうございました!わし、両津勘吉!出向を慎んでお受け致します!」

ここにまた1人刑事に戻る決心をした男が物語に参加したのであった。

 

 

 

 

そして数ヶ月後、晴天。

完成した新庁舎に出勤してくる者達の目には怒り、諦め、希望が見える。

 

そして、新庁舎に新しく署長となった男のスピーチが始まる。掴みは第一子誕生の喜びで集まっている警官たちの中に優しい空気が流れる。笑っているものもいるが、不快になっているようではない。そして最後に

 

「…だからこそ、僕たちは皆さんの平穏を守るために活動するのです。皆さんの力を存分に使ってください!たとえ、管轄外でもどんどん意見してください!皆さんで協力していきましょう!此処にこの言葉を私の初の命令として発令し、私の所信表明とさせていただきます!

 

 

特務警察署

 

 

署長 真下正義 ! 」

 

 

 

 

 

宣言と共に署員全員の敬礼が揃い、心が一つになった気がしたのだ。

 

 

 

 

 

 

これははぐれた者達だと言われた者達の物語である。




相棒のキャラが上層部に多くいます。
小野田さん…好きなんです

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