結城 創真の暗殺教室   作:音速のノッブ

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第85話 まさかの時間

「……お父様。わざわざお迎え、ありがとうございます」

 

 

碧海がそう言うのを創真は背を向けて聞いていた。

 

 

「…………聞いたぞ。お前、何やら隼を使って人体実験に手を出したそうだな」

 

 

「え…………何故それを」

 

 

(やはり知ってたか。流石は、ダークサイドとの繋がりがある奴だね)

 

 

「俺は色んなところに目や耳がある。全部お見通しだ。まったく、期待はずれだ。結果的に、お前は負けたそうだな。優秀かと思っていたが、お前も堕ちたものだな。結論から言うと、お前は月城家追放だ。2度とその面を見せるな」

 

 

────────おいおい、マジかよ。自分の子供を追放だと?マジで言ってるのか!?正気の沙汰じゃないぞ………………。

 

 

「ち、ちょっと待ってください、お父……」

 

 

碧海は後ろへ吹き飛ぶ。何故なら腹に蹴りを入れられたからだ。

 

 

「言ったはずだ。お前のような面汚し…………………乃ち、価値のない人間は…………要らない。負け犬が」

 

 

「………………………おい」

 

 

ここでようやく創真が前を向き、隼と碧海の父親と向き合った。

 

 

「なんだ貴様は?部外者は黙っていろ。それとも痛い目に遭いたいのか?」

 

 

「だめ………創真君に………手を出さないで………」

 

 

「創真君……………?どこかでその名前を…………」

 

 

「流石は、この社会の暗部を取り仕切るだけの事はある。僕の名前も何処かで聞いたのかな?ちなみに、名字は結城。父親は世界ナンバー1の会社を束ねる社長だよ」

 

 

「まさか…………」

 

 

「そ、僕がその息子って訳。多分あんた、僕の親の事、死ぬほど妬ましいだろ?あんたが日本一なら、うちの親は世界一だからな」

 

 

「まぁ、その通りだな。ぶっ殺したくなるほど、妬ましいな」

 

 

隼と碧海の父親は殺気を丸出しにしながらも笑う。

 

 

「ぶっ殺せないのかな?他の会社の奴等には手を掛けてきた癖に」

 

 

「ほう……………何の事かな?」

 

 

「表向きは日本一のIT企業の社長。だが、ただの社長ではなく、正しくは裏社会との繋がりを持つ異色の、だな。これまでも自分の差し金とバレないように暗殺者を雇い、別のライバル企業の社長などの重役の人間を暗殺させたり……………ほかにも産業スパイが何百人もいるそうだね……………だが、父さんの企業相手には殆ど上手く行ってないんじゃないのかな?」

 

 

「さーな。そもそも、それは噂だろ?証拠はあるのかい?」

 

 

「無いね。まぁ、正しくは法的には証拠にならない証拠ならあるらしいけど」

 

 

「あぁ、そんな所だとは思っていたよ」

 

 

「あとは、マスコミを買収しているとかもよく聞くけど。どうせ不祥事やらが表沙汰にならないようにしてるんだろうけど」

 

 

「それも噂だろ?」

 

 

「まーね。まぁ、僕的にはあんたが黒よりのグレーな事をやってるのはどうでも良いんだよ。だが、碧海さんを追放とか、価値のないとかは気に入らないな」

 

 

それを聞いた彼は嘲笑うかのような表情で云う。

 

 

「簡単な事も分からないのかな?俺の家では、常に頂点に立っているのが必然なんだよ」

 

 

「……………………で?」

 

 

「碧海は敗けた。だから、俺の家にはいらない。それだけだ」

 

 

「…………………………」

 

 

「まだ分からないか?なら、もっと簡単に言おう。商品価値のない奴は、不必要ってこ」

 

 

「碧海さんは物じゃない!!人間だ!!」

 

 

怒りを爆発させた創真は、彼の胸元を掴み、柱に叩きつけた。

 

 

「ぐおっ……………てメェ、ガキの癖になんつーバカ力だよ……………!!」

 

 

彼も無抵抗ではなく、創真はの腕を掴んで引き剥がそうとするが、びくともしない。

 

 

「さっきから黙って聞いてれば、何なんだよ!!商品価値だと?人の価値をあんたが決めるな!!」

 

 

滲み出る殺気。それが余りにも膨大すぎて、そばにいる氷室も碧海もホリー、デュオ、そして掴まれてる張本人も何も言葉が出なかった。

 

 

「あんたは、あいつの…………いや、あいつらの親だろ!!自分の子供が間違った道を行ったのに、それも咎めないで!!親なら、自分の子供が道を間違った時は叱って正してやり、正しい方向に導くもんだろうが!!そんな事も中学のガキに言われないと分かんねぇのかよ!!」

 

 

暫くして、創真は胸元を離す。彼は胸元を直し、暫く黙っていた。やがて、背を向けて車の方へ歩きだす。

 

 

「………………碧海。暫く、このガキの元で世話になれ」

 

 

「……………………へっ?今なんて………」

 

 

「だから、結城創真の世話になれって言ったんだよ」

 

 

「待て待て待て!何勝手に話を進めてんだよ、おい!」

 

 

創真の打って変わって焦ったような声には反応せず、彼は続ける。

 

 

「どうせ俺は暫く家を留守にする予定だったんだ。丁度良いだろうが」

 

 

「え、うーん……………………まぁ、良いか」

 

 

「何納得してんの!?良くない良くない!全然良くないから!何勝手に決めて………………って、あ、おい、待っ」

 

 

狼狽える創真を余所に、隼と碧海の父親は車で去っていった。

 

 

「何だよ、あいつ………………ガキに怒鳴られたのがそんなに気に食わないか?腹いせか、くそったれが…………」

 

 

ぶつぶつと恨み言を呟く創真。誰も話し掛ける勇気が出せず、暫く時間だけが過ぎていった。

 

 

「まーまー、落ち着けって創真!」

 

 

そんな空気を破ったのは、何処からともなく現れたキバットだった。

 

 

「落ち着け?僕はいつも落ち着いてるぞ!冷静だし、頭脳明晰だ!」

 

 

「いや、どう見てもそうには見えねぇが…………なぁ、創真。碧海ちゃんをお前の家で居候させてやれよ。彼女が可哀想だろ。何処にも行く場所もないんだから」

 

 

「…………………まぁ、可哀相っちゃ、可哀相だが」

 

 

「だろ?なら、人助けだと思って、な」

 

 

「……………………………………」

 

 

創真は黙りこむ。しかし、直ぐに何かを決めたような表情でスッと立ち上がる。

 

 

「キバット」

 

 

「お、礼なら構わないぜ。これくらい、感謝される事じゃなくて」

 

 

「いや、そうじゃなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんた、姿を見せてるんじゃ………………?」

 

 

その一言が皆に伝わった瞬間───────────

 

「あ」

 

 

「不味い………………」

 

 

「あちゃー…………」

 

 

ホリーとデュオは今更のように、しまった、と反応を見せ、氷室もやってしまいましたねー、との意を込めた苦笑いを浮かべる。創真とキバットは、ぎこちない動作で首を動かし、碧海の方を向く。

 

 

「「………………み、見えてた?」」

 

 

「う…………………………うん」

 

 

「アウト────────────────!!」

 

 

「モガァ!!」

 

 

辺りに創真の叫び声と、キバットの悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、碧海は創真の家に住むことが一時間に及ぶ話し合いで決まった。創真はホリーに、記憶消せ、記憶!と目配せで言ったのだが、ホリーは、女の子相手にやるのはやだ!と、謎の矛盾発言(前に倉橋にはやった)で拒否し、そこで揉めている間にキバットが全部話してしまった。あ、じゃあついでに、と軽いノリでホリーも自分の詳細をこと細かく話し、結局デュオも順番的に話した。そして、彼等の事は絶対口外にしないことを碧海に誓わせた。

 

 

そんなこんなで疲れ果てた創真は、ひとっ飛びで帰るのではなく、何となくの気分で電車に揺られていた。隣には碧海も座っている。

 

 

「くそっ、あのコウモリ……………姿をE組以外の奴等には見せるなって言っておいたのに……………余計なアドバイスをするためだけに、姿をばらしやがって……………いや、余計ではないのか?だけど、キバットだけじゃなくホリーとデュオの事もばれちゃったもんなぁ……………………まぁ、他の人に言わないでくれれば良い話だし、まぁいいか…………」

 

 

何処か不機嫌そうにも見えなくはない創真。そのせいか、彼の座っている電車の椅子から半径50㎝以内に碧海以外は誰も近寄ろうとしない。ちなみに、当初はホリーとデュオは、ルームシャアしている友達と言う設定だった。

 

 

「あ、あのー創真さん?」

 

 

緊張気味の碧海が創真に話し掛ける。

 

 

「何で急にさんづけになった………………何です?」

 

 

「あ、いや…………もし迷惑なら、別に良いんですよ………?」

 

 

「それで、どっか行くとこあるの?」

 

 

「うっ……………」

 

 

碧海は黙りこむ。そして、暫く両者の間に無言が続く。

 

 

「碧海さん」

 

 

漸く創真が口を開いた。

 

 

「な、何でしょ…………うわっ、と」

 

 

創真が何かをポイッと投げてきたのを碧海は慌ててキャッチする。それは、鍵だった。

 

 

「それ、僕の家の鍵。予備のをあげる」

 

 

「え、じゃあ……………」

 

 

「そんな意外な事でもないだろ。さっきの話し合いで、君の同居は決まったんだし、鍵をあげとくのは当然だろ……………にしても、疲れて眠いなぁ」

 

 

創真は大きなあくびをする。そんな様子の創真を見た碧海は、フフっと笑って口を開く。

 

 

「あのね、創真君」

 

 

「…………………」

 

 

「さっきは、その、ありがとう。色々言ってくれて。凄い嬉しかった。君は、やっぱり良い人だね……………私も君が…………なーんてね」

 

 

碧海は恥ずかしそうに最後の方をぼかす。

 

 

「まぁ、迷惑を掛けるかも知れないけど、これからよろしくね、創真君!」

 

 

「……………………」

 

 

「ちょっと、何か一言くらい言ってよー」

 

 

碧海が創真の顔を覗くと──────────

 

 

「え…………………………寝てる……………」

 

 

──────────なんと、寝ていた。

 

 

「えぇ……………じゃあ、私の全部聞いてなかったって事………?はぁ………………まぁ、言えただけ良かったのかな……………?」

 

 

「…………………………む。次か」

 

 

予兆もなく、創真は起きた。

 

 

「5分くらいしか寝てないけど、何かスッキリしたなー」

 

 

「ねぇ、創真君。聞いてた?」

 

 

「え、何を?」

 

 

「い、いやいや、何でもないよ!それなら、良いんだよそれで!さぁ、もう着くから行こ?」

 

 

「う、うん」

 

 

未だに不思議そうな表情を浮かべる創真の手を碧海は引っ張って立たせる。

 

 

「改めまして、これからよろしくね創真君」

 

 

「じゃ、こちらこそよろしく、碧海さん」




THE NEXT story 2/17 PM 22:00



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