「神崎さん………早く逃げた方が良い……今のあいつには…………」
創真が目の前にいる神崎に言うが、それでも動かない。
「ホリー………お前の速度なら……」
「分かってるよ!でも、あの状態じゃ、僕が助ける前に刺される可能性が……」
距離を縮めて、余り刺激しても大惨事に成りかねないため、ホリーもその場を動けない。
「思い出して、隼君………夏休みの島で……一緒にゲームしたよね………?」
「ゲー………ム………?」
「私は楽しかった。………だからまた一緒に対戦しようって言った………」
「……………………」
「………だから………戻って来て………?」
隼は創真に降り下ろそうとした刀を創真の目の前から遠ざける。
「くそ………何をしている!早くとどめをさせ!」
しかし、シロの声にすら隼は反応しない。すると、隼の手から刀が落ちた。乾いた音がその場に響く。
「…………正気に戻ったか!?」
デュオが独り呟く。
「………隼君………戻って来てくれ………」
「「「!?」」」
「ゴチャゴチャ………ウルセェンダヨ!」
隼が神崎の首を掴み、強く締める。
「オマエノコエ………キクト………アタマガイタクナル………シャベルンナヨ!」
「それは……本当の隼君が………抵抗してるから………だよ……」
首を絞められながらも、神崎は諦めない。
「ウルセェ………シネ……!!」
隼がナイフを取り出し、高く構える……!
「危ない!」
創真の服の袖口からワイヤーアンカーが発射される。狙いは隼ではなく、床に落ちているサーベルだ。先端のアンカーがサーベルの持ち手を掴み、創真が立ち上がると同時に、サーベルが手に収まり、隼のナイフを斬り上げた。
「とっとと目を醒ましやがれ、隼!!」
創真が精一杯の力を込めて、隼を蹴り飛ばす。
「グハ!!」
あまりの勢いに、隼が苦痛の声を漏らす。
「隼の事を考えて、あまりやりたくなかったが………仕方ない。ドミネーター」
『執行モード。リーサル・エリミネーター』
ドミネーターの銃口から、天井に向けて弾丸がきっかり12発放たれた。
「天井でも落とそうとでも言うのかい?そんなもの、今の隼なら避けれる」
「本当に頭悪いな、シロ。落とすのは天井じゃない。お前、ここに住んでたのか知らないけど、なんもここの事とか分かってないんだな」
創真が言い終わった途端、天井が爆発した。隼の目に、巨大な物が落ちてくるのが見えた。間一髪で隼は落下物を避ける。
「これは………貯水槽!」
屋上から落ちてきた貯水槽に阻まれ、貯水槽の向こうにいる創真の姿が見えない。すると、創真のいる方向から吸着型機雷が飛んできて、貯水槽の側面に張り付いた。
「……まさか……!!」
シロは創真が何をしたいか分かったようだ。
「はい、ドーン」
文字通り、ドーンと爆発し、貯水槽の水が流れ出す。隼は大量の水に巻き込まれ、足元をすくわれる。創真は貯水槽の上に飛び乗り、ワイヤーアンカーを発射する。
「隼、避けろ!」
シロの指示に素早く反応した隼は、ギリギリの所で避けられた。ワイヤーアンカーは水溜まりが出来ている床に突き刺さった。
「大量の水を流して足元をすくわせ、隙を作ろうとしたのか………良いアイデアだったが、残念な結果に終わったね。もうアイデアはつきたかい?」
「………僕はね、ガンダムマニアなんですよ。だから、さっきの機雷も、このサーベルも、このワイヤーアンカーも全部ガンダムの作品に出てくる」
「…………だからなんだと言うんだい?」
「このワイヤーアンカー………グフカスタムのアレなんですよね……まぁ、簡単に言うと
『放電機能』があるんですよ…………!!」
「!!不味い!!」
シロが漸く思惑に気がついたが、もう遅かった。創真は放電を開始する。
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
床に出来てた水溜まりを通して、隼に電気が流れ、苦痛の声をあげる。シロはと言えば、一人だけ置いてあったテーブルの上に移ったので、ノーダメージ。創真がアンカーを外した瞬間、隼は床に膝をつく。
「シロさん、勝負ありですね。隼君はもう戦闘不能です」
デュオが貯水槽を端にどけ、殺せんせー達が創真の横に並ぶ。
「くそ………!!なら薬をもう一本……」
「薬なんて必要ないよ」
奥にある階段から女の声がした。
「やっぱりあんたか………」
創真がその女…………碧海を見て呟く。碧海はチラッと皆の方を見たあと、隼に声を掛ける。
「立ちなさい、隼。そして、彼を殺しなさい」
「…………殺す………?」
「そうよ……………殺れ」
碧海の冷たい声が、隼を再び立ち上がらせた。そして、落ちていたナイフを手に取る。
「隼君…………目を覚ましてよ……」
神崎さんが消え入りそうな声で呟く。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
隼が声にならない雄叫びをあげ───────────
『ねぇ、隼君。これからは私のことを有希子って……』
ああ………そうだ………そうだよ…………。夏休み最後の夏、言ってたじゃないか………。一緒にゲームしたり………楽しくやってたじゃないか………。そして彼は脳裏に別の人物を思い浮かべる。いつもクールで………いつも1番で………ムカつくけど、俺の最ッ高の親友。俺の彼女…………親友…………そいつらの名前は……!
「神崎……………創真……………!!」
隼は倒れた。その時の彼は、笑顔だった。
「隼君…………今度こそ………」
「そうだよ神崎さん………ただいま……あと、わりぃな、創真………それに皆も迷惑かけて………」
「ふん…………」
創真もやっと笑みを浮かべる。
「クッ…………もういい!!隼が殺らないなら私が……!!」
碧海がナイフを片手に創真に突進する。それを、創真のサーベルが受け止める。
「碧海さん………あなたは間違っている!」
「何でよ!私は……………隼と一緒にいたいだけなのに!」
「そのためにこんな事を起こしたのか!?いい加減にしろ!お前、自分が何したか分かってんのか!?お前、下手したら隼が……………死んでたかもしれないんだぞ!!デュオ、来い!!」
呼ばれたデュオは創真に憑依する。姿が変わった瞬間、黒獣が外套から飛び出し、碧海のナイフを砕いた。創真はサーベルを捨てて、通常モードのドミネーターに持ち替え、麻酔針が発射された。
「……………色々言いたいことは山ほどあるが、とりあえず寝てろ」
碧海は創真の目の前で床に倒れる。同時に創真もゆっくり倒れる。
「創真君、大丈夫!?」
「いや、大丈夫。ただ、疲れただけ………」
力なく創真は心配している倉橋に笑いかける。
「うぐっ!……………くそっ、意識が………」
突然、隼の視界がグニャリと歪んだかと思えば辺りがぼやけて見えていく。
「あれ…………………俺、どうなっ」
隼は膝をついてゆっくり前に倒れた。
「「「隼!?」」」
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え?隼は死なねぇだろ?
まぁ、そうやな………