「いやー、うまかったな!創真の婆ちゃんが作る蕎麦は」
前原が満足そうに云うのを、氷室は心の中で賛同していた。
(いや、ほんとその通りですよ。味付けが絶妙で、しかも使う食材にも拘っていて。これから月に1回は食べに行きましょうかね………それほどの価値があの店にはある!)
心の中でそんな事を考えている氷室。そんな彼の視界に何処からか走ってきたワンボックスカーが映った。たまたま車内が見えた氷室は、目をハッと見開いた。何故なら、車内に見覚えのある人物がいたからだ。
それは長い黒髪に、緑のツインテール────────
(………神崎さんに茅野さん………?)
彼の目には手を縛られている2人の姿が映った。それも一瞬で、直ぐに通りすぎてしまった。
(……………行きますか)
別に氷室には助ける義理も理由もないのだが、流石にこのまま見過ごすことは彼には出来なかった。車へ駆け出そうと思ったその時、彼等にはこの事を言うべきか一瞬迷った。
───────彼等は修学旅行中。余計な心配はさせたくないですね。
そう結論付け、氷室は彼等の元をこっそり離れた。不意にいなくなっても彼等を心配させるので、即興で思い付いた適当な理由をメールで創真の元に送り、少し離れた駐車場に停めてあったフェラーリに乗り込み、一気に飛び出したのだった。
フェラーリの加速力で一気に追い付いた氷室。しかし、追跡してるのがバレぬよう、一定の距離を保って追う。そこへ、氷室のスマホに電話が掛かってきた。氷室は耳元に付けてあるBluetoothを操作して、電話に出る。
「もしもし、氷室です」
『氷室さんか。1斑の皆は無事か?』
「…………何かありましたか?」
『実は4班の生徒がよその高校生とトラブルがあってな。念のため、他の班の安全も確認している所だ』
氷室は心の中でやはりですか、と呟き、電話越しに烏間に問い掛ける。
『……………そのトラブルとは、神崎さんと茅野さんが車で誘拐された、ですか?』
『!!見かけたのか!?』
『ええ。今追ってる最中です。誘拐した奴等は何処かに向かっているようなので、行先を特定しだい、また電話します』
『…………分かった。その時は、奴に掛けてくれ。奴が今しらみつぶしに探していってるからな。くれぐれも、無茶はしないでくれ』
烏間との通話を終え、氷室はふぅ、とため息をつく。
「まったく、修学旅行邪魔するなど…………赦しがたいですね」
氷室side
「……ここですか」
誘拐班達は車を乗り捨てたあと、神崎さんと茅野さんを連れてこの潰れた店に入っていったのを彼等の死角から確認済みです。なお、今は偵察中です。
「ふーむ。潰れたボウリング屋さんですか…………確かに隠れるには最適ですね。さて、殺せんせーに電話を…………」
「……おい、何してんだお前」
後ろから声がしたので振り向くと……モヒカン頭の不良がいました。多分、誘拐した奴等の仲間でしょう。
「えー………あなた方の仲間が生徒を拉致したという情報を貰ったので、取り返しに来ました」
「な!?テメー警察か?とにかく無事に返すわけにはいかな……ゴフ!」
話してる最中でしたが、気絶させる程度の蹴りを撃ち込ませて頂きました。
「反応が遅いですよ」
「調子に乗りやがって……お前、ぼこされたい…ガハ!」
今度は腹にパンチを。驚くほどに反応が遅く、少し意外でした。喧嘩慣れしてませんね。
「喋ってる暇があるなら……………来たらどうです?」
少しビビったのか、私が一歩出ると不良達は一歩下がり始めました。すると、その時でした。不良らが突然ガムテープで簀巻きにされ、同時に意識も刈り取られたのは。
「ヌルフフフフ、簀巻きのできあがりですねぇ」
「遅いですよ……………殺せんせー」
私の文句に、殺せんせーはいやぁ、と切り出して続ける。
「他の場所からしらみつぶしに探してまして……………ここに神崎さんと茅野さんがいるんですか?」
「ええ。彼女等を連れて入っていくのをしっかり見ました」
「ヌルフフフフ…………では、私の生徒に手を出したことを後悔させてやりますかねぇ」
殺せんせーは触手をポキポキと鳴らしながら入口に向かっていくのを、私も慌てて追いかけました。
…………て言うか、触手ってポキポキと鳴るものなんですかね?
to be continue………
次回、突入じゃあ!