結城 創真の暗殺教室   作:音速のノッブ

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創真「前回までのあらすじ!なんやかんやで復活した千影は風人君とデートを楽しんでいたが、しかし!突如としてデートの邪魔するかのように現れたのはテロリスト軍団だった!」

風人「ほんと、タイミングの悪い時に来たよね~。折角良いところだったのにさ~」


創真「まぁ、良いんですけどね。後でボコボコにして仕返ししてやりますから。ついでに僕らに限っては神崎さんのせいで死ぬほど気まずい雰囲気を味わっていたので、その鬱憤晴らしに派手にやってやりますよ!!」


風人「あ、そうだったんだ~。うちの鬼がすみませんね~。後できつく言っておきま」


神崎「何をきつく言っておくのかな、風人君?」


風人「ゲッ……………」


創真「めんどくさい人が来た………」


神崎「創真さん?今なんて言ったかもう一度言ってくれますか?」


創真「めんどくさい人が来た…………」


風人「って、ほんとに言っちゃった~」


神崎「フフッ、そうですか……………そうですよね、私なんてめんどくさい人ですよね、前回ハイライトのない暗い目であんなにぶつぶつお経みたいに言ってたらめんどくさいですよね、ほんとになんで素直に二人を見守ってあげることのできないような性格になってしまったんでしょうね私って人はほんとうに(以下略)」


風人「あーあ、創真のせいでめんどくさいことになっちゃったよ~。どうすんの~?」


創真「もう後は知らん」


風人「無責任だ~。ちゃんと何とかして~」


創真「さぁ、と言うわけでコラボ最終回!果たしてどのような結末を迎えるのか!それでは、どうぞ!」


風人「スルーされてる~。あ、そうだ。もし今日初めてこのコラボの存在を知った人は前の後編その1に戻って、そこの前書きに貼ってあるURLのお話を読んでからこの話を読むと良いよ~。前編のURLも貼ってあるからね~」











結城 創真の暗殺教室×暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~ 後編その2

反撃開始……とは言ったものの無策に行こうものなら犠牲者が出てしまう。そこで創真は────

 

「まずは情報収集だ。人質の数と場所。それからテロリストの構成員数。後は、外部の情報だが…………」

「うわぁ~……どうやって調べようね~」

 

作戦を立てるには当然だが相手に関する情報が必要。正確な情報を多く持っていることは戦いにおいて重要な要素の一つだ。

 

「既にもう手は打ってある」

「手……ですか?」

「テロリストが占拠するって分かった時から既に情報を嗅ぎ回らさせていたのさ……帰ってきたね」

 

すると、突然何もないところから青いトンボが姿を現した。同じく紫色のサソリも現れる。

 

「トンボ?」

「サソリ?」

 

それは機械仕掛けのトンボとサソリだった。

 

「これは僕の発明品の一つのマシンドラゴンフライ。こっちがマシンスコーピオン。これで陰からこっそりと様子を探ってもらっていた」

「ほへぇ~……このメカ虫って創真の手作りなの~?」

「まぁね。僕の自慢の発明品たちさ」

「じゃあ、今の状況ってどうなってるんですか?」

 

創真はマシンスコーピオンとマシンドラゴンフライから送られてきた映像を早送りで見ながら答える。

 

「……………1階に集められた人質たちは1階、2階、3階に大きく3つに分けられてるね。2階に神崎さん、1階に風人君の言ってた知り合い2人がいるのが確認できた」

「う~ん。つまり、人質をばらしたってこと~?」

「これは推測でしかないが彼らの思惑は2つ」

 

創真はまず、指を1本立てる。

 

「1つ。人質が多すぎること。人質が多すぎると彼らが人質全員の動きを把握できない。つまり反撃のチャンスを与えてしまうことになる」

 

そして、2本目の指を立てる。

 

「2つ。確実な制圧。例えばだけど、外にいる人たちが乗り込んできたとする。人質が全員固まっていればそこを解放するだけで解決する。でも、1から3階に分散されたら、1つの階を解放しようとすればその動きが他の階にいる仲間に伝わってしまう」

「伝わった仲間が人質を殺す。或いは人質を殺すぞと言って、解放しようとした人たちを無力化するというわけですね」

「そういうこと。で、これは僕らにも言えるわけだ。確実なのは全員でワンフロアずつ解放すること。でもそれは不可能になってしまった。だから、僕らも3つに分かれて一斉に無力化するしかない」

「りょーかい。で、誰がどこに行くの~?」

 

この場には創真、風人、千影、ホリー、キバット、デュオの6人(?)。順当に行けば二人一組で解放に向かうだろう。

 

「僕は3階。ホリー、デュオ、キバットは1階。風人君。君と千影さんは2階を頼むよ」

「嫌だ」

 

創真の提案を風人は即蹴った。

 

「………君、状況分かってる?」

「分かってるよ。僕を2階にしたのは有鬼子が2階にいる人質だから。そこに不満はないよ」

「なら、組み分け?僕にはこれがベストだと思えるんだけどね」

「そうだね。ベストかもしれないけど、僕の力では人質と千影の両方を守れない。だから嫌だ」

「……………なるほどね。なら、千影さん。君はこの荒事と無縁だ。逃げの選択をとっても誰も責めやしないよ。ただ、君は風人君の言う通り、ただ守られるだけの存在でいたいかい?それとも……………」

 

千影は数秒間考えた後、

 

「……ううん。私も戦いたい。確かに怖いし逃げたいという思いもある。でも、嫌なの。風人君に負けるとか風人君たちを危険にさらすとかそんなんじゃない。ここで何もしなかったら、私の大切な人たちを見殺しにしているようで……」

 

千影の思いは強かった。だから、風人は……

 

「分かった~でも、無理しないでね~」

 

折れた。風人が反対したのは千影を巻き込みたくないという思いからだった。だから、彼には彼女のこのまっすぐな思いを否定することは出来ない。揺らぎない覚悟と決意の眼差しにあてられたからだろう。

 

「ふふっ。それは風人君もだよ」

「これで決まりだね。人質の移動も終わったみたいだし、今から5分後に各々の場所で行動開始。目標は人質全員の無事とテロリストの無力化。勿論失敗は許されない」

 

創真は全員の顔を見渡して─────

 

「さぁて………悪党の退治を始めますか」

 

───────作戦開始を宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==================

 1F

 

それは唐突に現れた。テロリストらが人質が逃げないように見張っていたところ、急に上の天井から穴が開き、人が2人+コウモリ1匹が入ってきたのだ。

 

「おー。まさにジャストタイミング!ばっちり遭遇だ~」

「創真の情報通りだな」

 

白の男はのほほんと。黒の男は緊張を解かない様子で云う。

 

「にしても……………こんな美しいレディがいるにも関わらず、白昼堂々と人質を取ったりするとは……………覚悟は出来てるんだろうね、家畜の豚共」

「んだと、ガキのくせに生意気な!」

 

挑発に乗った男が白の男に銃を向ける。が、それを近くに身長の高い男が止める。

 

「相手は子供だ。どうせ何も出来まい。白いチビの挑発に乗るな」

「……………………チビ、だと?」

 

そう白の男───────ホリーが呟いた瞬間、男2人の身体が盛大に吹き飛び、商品棚を巻き込んで、ガラスの割れる音と伴に昏倒する。

 

「だ─────れがチビじゃゴラァ!!お前の背が高すぎるだけだろうが!言っとくが、僕は平均以上あるんだぞ!!それに、まだ成長期真っ最中なんだよ!!」

「成長期はもう終わってるだろうが」

 

デュオが呆れ気味にツッコミを入れた時、騒ぎを聞き付けたテロリストらの増援が現れ、ホリーらに銃を向ける。

 

「チッ、バレたか」

「そりゃ、あんだけ音を立てたらバレるに決まってんだろ」

「キバットの言う通りだな…………」

「ふんっ。デュオ、1回だけブレイクポイントを作って。そしたら、後は僕がやる。デャオらは流れ弾から皆を守って」

「分かった」

「任せとけ!」

 

デュオとキバットは頷く。

 

「おい貴様ら!両手を手の上に乗せて膝をつけ!」

「やーだね。誰がテロリストなんかの指示を聞くもんか。テメェらくそ雑魚が僕らに指図すんな」

「なっ……………」

 

予想外の言葉に詰まるテロリストら。そんな彼等の事などいざ知らず、ホリーはデュオに声を掛ける。

 

「デュオ」

「あぁ」

 

その瞬間、デュオの身体が赤く光出す。

 

「な、何だあいつは!?」

「通りすがりの元・死神だ…………覚えておけ」

 

次の瞬間、デュオの身体から赤い衝撃波がテロリストらに向けて放たれた瞬間、周囲の商品棚等を巻き込んで、テロリストらが大きく吹き飛ばされた。

 

「うわぁ!!」

「なんだ今のは!?」

「重力操作を応用して生み出した衝撃波だ…………ホリー」

「任せといて。さぁて、君たち。よくも千影ちゃんと風人君とのデートを邪魔してくれたね。いちゃいちゃしてるのをもっと見たかったのに……………許さねぇぞ、テメェら!さぁ!お前らの罪を数えろ!!」

 

お怒りの理由が変なのを通り越して、逆にホリーらしい。ホリーは超高速で走り出し、手当たり次第襲い掛かる。悲鳴やら銃声やら爆発音が辺りに響き渡る。

 

「………………あぁ、そうだ。えー、皆さん。我々が来たのでもう大丈夫ですので、ご安心を」

「て、て言うかあんたら誰なんだよ?警察か?てか、あんた、さっき何をしたんだ?」

 

 人質の一人がデュオに尋ねる。

 

「否、違う。警察ではない。我々は……………………何て言えば良いんだ?」

「あー、正義の味方とでも言っておけば良いんじゃないか?」

「まぁ、そんなもんで良いか。我々は」

「おい、ちょっと待て!!あの喋ったコウモリ、キバットじゃないのか!?」

 

デュオを遮って別の男が驚いた様子で叫ぶ。それに呼応されるかのように──────────ライダーファンが騒ぎ出す。

 

「よーく見たら、確かにそうじゃん!」

「めっちゃそっかくりだ!と言うか、声まで完璧に本物だろ!」

「cv杉田だ!」

「銀さんの声だ!」

「…………………何か、俺様人気だな?」

「良く分からんがそうだな」

 

写真を撮られまくっているキバットが不思議そうに言い、同じくデュオもキバットの人気を不思議そうに言うのだった。まぁ、雰囲気的にデュオの能力の事などどうでも良くなってるので、デュオ的にはありがたかったりする。

 

「デュオ!!そっちに何人か行ったよ!!」

 

ホリーの声に振り向くと、銃を持った男2人がデュオらに射線を合わせながら走ってくる。

 

「俺は左のを」

「なら、俺様は右をやるぜ!」

 

デュオとキバットは同時に飛び出す。男らの銃口から弾丸が発射されるが、それらをデュオの黒獣が切り刻む。そのままデュオは距離をつめて銃をへし折る。男はナイフに武器を持ち替えて襲い掛かるが、デュオは余裕で避け、お返しとばかりに黒獣で吹き飛ばす。

 

「キバって、行くぜ!」

 

その台詞に歓喜するライダーファンの歓声を受けつつ、キバットも男と対峙する。

 

「おら、どうした!ちゃんと狙えや、このヘタクソ!」

 

キバットは迫る弾丸をすばしっこい動きで避けながら挑発する。

 

「くそっ、蝙蝠もどきが!!」

「あ!?ざっけんなよ、こいつ!俺様はれっきとした蝙蝠だ!!」

 

キバットは自身の羽で銃を一刀両断にし、体当たりで吹き飛ばした。

 

「くそが!!」

 

 男はナイフを投擲する。が、そんな攻撃がこの蝙蝠に通用する訳がない。キバットはナイフを口で加えて受け止める。

 

「おぉ!!第1話の戦闘シーンの再現!!」

「生きてて良かったー!」

「ったく、うるしゃい奴りゃだ」

 

キバットがナイフを加えながらため息をつく。そのままナイフを噛み砕き、その破片をペッと飛ばす。

 

「おいおい、もう終わりか~?」

「黙れ─────!!」

 

逆上した男は素手で襲い掛かる。が、その拳がキバットに当たる直前に消える。と言うか、男の姿自体が消えた。

 

「よっしゃあ!!これでラストじゃあ!!」

「ったく…………良いとこだけ持ってくなよ、ホリー」

 

マネキンと抱き合いながら気絶している男を見ながらキバットが悪態をつく。

 

「いーじゃん別に。早い者勝ちだよ?」

「けっ……………にしても、お前。中々派手にやったな」

「え?」

「え?じゃねぇだろ……………お前、どうやったらテロリストらが天井に突き刺さってたり、凍ってたり、ほぼ全裸でぶっ倒れてたりしてんだよ…………」

 

キバットの言う通り、異様な光景が広がっているのは事実である。

 

「うーん…………………まぁ、色々!でも、殺してはないよ!子供に悪いからね!」

「いや、この光景もあまりよろしくはないかと思うが………………」

 

そこへデュオがやってくる。

 

「お前ら。まだ仕事は終わってないぞ。これから怪我人がいないかの確認や、テロリストらを拘束したりするぞ」

「じゃあ、デュオがあいつら拘束しておいて!僕らは怪我人がいないか確認するから」

「さぼるなよ」

「さぼらないよ!どんだけ僕の信用度が低いのさ!」

 

不満そうなホリーに、デュオはさぁな、と答える。

 

「じゃあ、そっちは頼んだぞ………………………本当に異様だな、この光景は………………」

 

若干引き気味でデュオはテロリストらを拘束を始めるのだった。

 

───────────―1Fの制圧完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2F

 

「さてと~」

 

敵の数はそこそこいる。対してこちらは風人と千影の二人のみ。しかも、向こうは人質が沢山いるという一見したら救出はムリゲーな状況にある。

 

「行こうか~」

「うん。私たちなら大丈夫」

 

しかし、2人にはこの状況でも作戦を遂行出来るという絶対の自信がある。

 

(1Fの創真。3Fのホリー、キバット、デュオ。この作戦の成功か失敗かを決めるカギは僕らだろう)

(創真さんやホリー君らと比べたら私達は最弱)

 

2人は同時に向き合って頷く。

 

((でも千影\風人君が一緒なら負ける気がしない!))

 

お互いを信頼しているが故の自信。今の彼、彼女に敗北のビジョンはない。元の黒いワンピースに着替えた千影が幽霊化をし、顔をうつむかせたままゆっくりと飛び出す。

 

「何者だ!」

 

すぐさま近くにいた男が気付き千影に向けて発砲する。だが、

 

「何だと!?」

 

発射された弾丸は千影をすり抜け後ろの壁に当たる。

 

「デテイケ……!」

「あ、ありえない!」

 

わざと怖がらせるような声を出す千影。一方の男はもう2発千影に向け発砲する。だが……

 

「な、なんで当たらないんだ……!」

 

2発ともすり抜け再び壁に当たる。

 

「ココカラデテイケ……!」

「ゆ、幽霊!?」

「何事だ!」

 

と、ここでその男の仲間が6人、銃声を聞きつけやって来る。

 

「ゆ、幽霊が……!」

「ただのトリックだ!幽霊なんているわけがない!」

「相手は人間!数打てば当たる!」

 

やってきた6人の仲間たちも銃を放つ……が、やはりすり抜けてしまう。

 

「畜生が!」

 

しびれを切らせたのかついに一人の男が銃を投げ捨て、咄嗟に懐にあるサバイバルナイフで斬りかかる……が。

 

「何で当たんねぇんだよ!」

 

そのナイフは空を切るのと同じく実体を捕らえることはなかった。

 

「フフフ……」

 

唐突に千影が手を前に差し出す。すると、

 

 ドタッ

 

「おい!どうした!?」

 

手をかざした直線上にいた男が何の前触れもなく倒れる。

 

「き、気絶してやがる……!おいお前!何をした!」

「フフフ……!」

 

再び手をかざす。

 

 ドタッ

 

そしてまた何の前触れもなく、直線上にいた男は地に伏した。

 

「フタリメ……アトゴニン」

 

歯を二カッと見せて数を数える。その光景に、

 

「の、呪いだ!」

 

誰かが恐怖のあまり叫ぶ。こういうとき人の恐怖は伝染する。つまり……

 

「な、何かトリックがあるはずだ!」

「そ、そうだ!幽霊なんているわけが……」

 

冷静な判断能力が男たちから奪われる。もう、冷静に分析するなんて芸当はできない。できるとしたらそいつは心臓が大草原の奴だろう……と、ここで男の1人が急に後ろを振り向いた。

 

「おい!こんな時に冗談はやめろよ!」

「どうしたんだよ!一体……」

「今誰か俺の肩を叩いただろ!」

「はぁ!?そんなことするわけねぇだろ!?バカかお前は!」

「アト……ヨニン」

 

男たちの軽い騒動の中、千影が手をかざした先にいる男が倒れていた。

 

 ――パリン!

 

騒動に追い打ちをかけるように蛍光灯の割れる音が響く。

 

「な、何だよ!怪奇現象かよ!」

「お、怒ってるんだ!怒ってるに違いない!」

「フフフ……ヒトリ……フタリ……サンニン…………ヒトリタリナイ」  

 

ばっと顔を見合わせる3人の男。この場には最初7人居た。3人倒れたから後、4人いるはず…………が。

 

「お、おい……1人足りねぇぞ……!」

「ま、まさか!け、消されたのか!?」

「ひぃぃぃいいいいい!」

 

ありえないと信じたい男。動揺する男。発狂する男。三者三様な反応を見せる中……

 

「コレデ……ゼロニン」

 

その3人の視線は千影のすっと挙げられた手に集中する。そして、それが振り下ろされたとき。一人ずつゆっくりと地に伏せていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~ノリノリだったねぇ~」

「もう!女の子に銃を向けて発砲だなんていい根性してるよね!」

「あはは~というか自由すぎでしょ~合わせる身にもなってよ」

「こっちの台詞でもあるよ?急に蛍光灯割ってみたり一人を物陰に隠してみたり……というか着替え剥ぎ取ったんだね」

「まぁね~これから使うし~」

 

この会話で分かる通り男たちは千影ではなく風人によって気絶させられたのだ。まぁ、2人はこの作戦、全てその場のノリに任せてやっているから恐ろしいものだ。ちなみに、最初に呪いだと叫んだのは風人である。

 

「お、あんなとこにも見張り発見~」

 

と、軽い感じで手錠を2個。タイミングをずらしてその男めがけ勢いよく投げる。1つの手錠は後頭部に当たり、その衝撃で振り向いた瞬間2つ目の手錠が男の目に当たる。

 

「はい。しゅーりょー」

 

そして、急接近し、掌底を喰らわし、気絶させる。

 

「おい!大丈夫か!」

 

と、手錠を回収した後にわざとらしい声を上げる風人。すると数人の男たちがこちらにやってくる。

 

「どうした?」

「急にこいつが倒れて……何かあったか?」

 

男たちが倒れた男の周りに集まり確認している。

 

「……気絶している。一体誰……」

「まぁ、犯人は僕だけどね~」

 

次の瞬間。変装していた風人がテロリストの一人を倒す。

 

「貴様!なにも……!?」

 

続けざまに2人目。流れるように3人目と倒す。

 

「遅いよ~あくびが出ちゃう~」

 

挑発する風人に向け残った2人が狙いを定めて発砲しようとする……が、

 

「えい!」

 

かわいらしい声と共に振り下ろされたものが男の一人の後頭部を直撃。残った男がそっちを見るも、

 

「よそ見厳禁~」

 

風人のハイキックが直撃し、ダウンした。

こんな感じの連携で2階の敵をあらかた一掃した2人。

 

「さぁ、後は人質だけかな~」

「じゃあ、私は……」

 

幽霊化したまま綺麗に風人と重なる。お互いの動きがズレれば不自然に感じるだろうが、この2人に限ってそんなことはない。

 

(奴らは人質が全員無傷で生きていることに価値がある。今までの騒動で敵も見えぬまま発砲しようものなら確実に人質が暴動を起こすだろう。そうなれば、奴らは圧倒的に人数で不利だ。まぁ、銃声も悲鳴も聞こえなかったから無傷だろうけど)

(そういえば、風人君大きくなったなぁ……抱きしめられたときにも感じたけど……。あれから成長したんだね……身も心も……)

 

「終わりにするよ~」

「うん。合わせるよ」

 

そして、風人は人質たちの前に出る。そこには5人の見張りが人質を囲うようにして立つ。銃口は全て人質たちに向けられている。

 

「おい。さっきの騒動は何だった」

 

1番近くにいた男が変装した風人に話しかける。

 

「はっ。ネズミが一匹紛れ込んでいたようですが、始末を」

「残りは」

「他にもネズミがいないかの捜索。いたとしても始末して終わりでしょう」

「分かった」

「……すみません。実は他にも報告があります」

「何だ?言ってみろ」

「いえ、あの4人にも一緒に聞いてもらいたいです。少々重要なので……よろしいですか?」

「……分かった。おいお前ら!」

 

そして集まる4人の男。最初に風人に話しかけた男と2人は風人と向き合うが風人の両脇に立つ2人は銃口を人質たちに向けたまま話を聞こうとしている。

 

「で?わざわざ一緒に聞いてほしい重要な報告とは何だ」

「実はですね……」

 

風人はゆっくりと両手を前に出す。正面にいた男たちも左右の男もつい手の動きに視線を誘導される。そして、

 

「アンタらを潰しに来ました♪」

 

そのまま手を水平に持ってきて、左右の男の顎下で急停止し、そのまま顎を打ち上げ、裏拳を顔面に放ち沈める。一方風人の胸あたりから()()()()=手のみ実体化させた千影の手が現れ、その手が正面に居た1人の男を掴む。

 

「なっ……!」

 

目の前の仲間の格好をした者の急な裏切りと、その男から本来あり得ない第三の手が現れたことによる動揺。その2つが合わさった結果掴まれたその男は為す術なく……

 

「これでおしまい♪」

 

風人は正面の掴まれた男を足払いで背中から倒しつつ強烈なボディーブローをお見舞いした。

 

「ば、化け物め!」

「な、何者だ貴様!」

 

銃口を向ける男2人。しかし、銃口を向けられた風人は全く動じていない。

 

「……いつから僕と千影だけだと錯覚した?」

 

マスク越しに余裕の表情を向ける。その言葉にますます動揺を隠せない2人の男。

そして……

 

「「カハッ……!?」」

 

崩れ落ちる2人の男。その後ろには、

 

「やっほー。有鬼子~元気だった~?」

 

マスクを脱ぎ捨てる風人。一方で、2人の男を背後から気絶させた神崎は、

 

「……風人君!」

「おっと……!」

 

咄嗟の事に反応できた千影は風人から離れ実体化し、反応出来なかった風人は背中から倒れ込む。

 

「バカ!捕まってなかったから心配したんだよ?」

 

胸元に飛び込んできた神崎は床ドンをする形で風人の上にまたがる。

 

「あはは……」

「すごく怖かったんだよ……?いつ殺されるか分からなかったから……」

 

ここで風人は気付く。話している神崎の声が、肩が震えていたことに。

 

「……ごめん」

「もう……何で謝ってるの」

 

すると、まだ人質として捕まっていたことによる恐怖が残る中、精一杯の笑顔を向ける。

 

「私はこんな状況でも信じていたんだよ。『前みたいに風人君が助けに来てくれる』って。私は何度も風人君に助けられた。風人君なら、絶対こんな状況で何もしないという選択肢はないと信じてたよ。そして、その信頼に応えてくれた───────」

 

 

 

 

 

──────ありがとう。本当に。また助けられたね。

 

 

 

 

 

 

普段の姿からはあり得ないその素直な感謝に風人は、

 

「……別に……これぐらい普通だし……」

 

素直になりきることができない。自分1人では絶対に助け出せなかった事実と、神崎からのまっすぐで心の底からの感謝する姿を(不覚にも)愛おしいと思い、彼女を直視できないのだ。一方の千影はその様子を見て思っていた。

 

(……有希子さん。貴女も充分風人君の信頼に応えてますよ)

 

あの状況で、動ける人間はいない。ましてや、暗殺の訓練をしているとはいえまだまだ中学生。知り合いの1人もいないこのいつ殺されてもおかしくない状況。精神的にも擦り切れるこんな時でも、神崎は風人の信頼に応えた。

 

(……よかった。2人は確かな信頼関係で繋がってるんだね)

 

双方向の信頼。そして、それに応える姿。無意識だったとしてもその光景に嬉しさと少しの悲しさが込み上げてくる。その場所が既に自分だけのものでなくなったという事実に。

 

「……コホン。2人とも?今の状況分かってます?」

 

わざとらしい咳払いとともに若干の嫉妬の込もった声で2人に話しかける千影。神崎はハッとした様子で周りを見渡して気付く。人質たちがこちらを見ていることに。それに気付くとさっと風人から飛び退いて、顔を真っ赤にして蹲る。風人は、

 

「あ、人質の皆さん~助けに来ましたよ~」

 

パッパッと背中だったりを払って、普通に立ち上がった。あまりの言葉と状況がわずかな間に二転も三転もしたために人質はぽかーんとし、千影は風人の言葉にため息をつく。

 

「さ、全員とっ捕まえよ~」

 

そして、何事もなかったかのように犯人を捕らえていく。

─────────2Fの制圧かn

 

「…………………あれ?」

「どうしたの千影~?」

「ペンダントが急に光出して………」

「どれどれ~?」

 

風人がペンダントを手にとってじっくり見てみる。すると

 

ベシッ!

 

「痛っ!」

 

ペンダントから飛び出したカードが風人の額に強く当たった。そのカードは風人の周りをクルクル飛んでいたかと思えば、天井を貫いて消えていった。

 

「何で急に………………あ!それより風人君、大丈夫!?」

「全然大丈夫~。じゃ、さっさと拘束していこっと」

 

 

改めて─────────2Fの制圧完了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==================

3F

 

 

「……………………」

 

涼香は不安そうに辺りを見回す。そして、小さくため息をついた。

 

(まさか、映画とかドラマの世界でしか起こらないような事が現実に起こっちゃうなんて………………無事に帰れるのかな………………もしかして、このまま殺され…………)

 

それ以上考えると気が狂いそうで、涼香は頭をブンブン振って最悪のシナリオを考えるのを止める。すると、小刻みに震えている手をそっと握ってくれる人がいた。

 

「雷蔵君………………」

「大丈夫ですよ。必ず助けは来ます。それまで諦めずに頑張りましょう」

「……………………うん。ありがとう」

 

すぐそばに大切な存在がいることに涼香は素直に感謝した。

 

「雷蔵君は凄いね。こんな状況でも冷静でいられて」

「こう見えてもかなり緊張していますけどね」

 

雷蔵は苦笑する。その時だった。

 

「もういやだよう!早く帰りたいよう!」

 

子供の泣き出す声が聞こえた。傍にいるお母さんらしき人物が必死に大丈夫だよ、等声を掛けるが子供は泣き止まない。

 

「おい、うっせぇぞ!!とっととそのガキを黙らせろ!!」

 

テロリストの1人のイラついた声が聞こえた。周りの人たちもしきりに言葉を掛けるが、泣き止む気配はない。その状況に、怒鳴った男は涼香らの傍に立っている男に声を掛ける。

 

「おい、あのうっせぇガキを殺しても良いか?目障りでしかねぇ」

「あ?………………まぁ、人質が1人くらい減っても良いか。好きにしろ」

 

それを聞いた男は拳銃を取り出し、元来た道を戻っていく。

 

 

 

────────このままでは、あの子供の命が………!!

 

 

 

そして、気付けば雷蔵は立上がり、その男にタックルを仕掛けていた。

 

「雷蔵君!?」

「グォ!?テメェ、何する!!」

「相手はまだ子供です!こんな状況で泣きたくなるのは不自然ではない!むしろ当然のことです!泣き声がそんなに気にくわないなら、別の所に移れば良いじゃないですか!」

「んだと!?人質の分際で俺に命令するな!」

 

男は雷蔵を引き剥がし、軽々と投げ飛ばす。雷蔵は壁に叩きつけられ、地面に突っ伏した所を他のテロリストらに押さえ付けられる。

 

「ちっ……………だが気が変わった。あのガキは殺さないでやる。だが、その換わりにテメェの命を貰うぜ」

 

そう言って男は銃を雷蔵に向ける。

 

「ダメ!!やめて───────!!」

 

涼香も飛び出すが、直ぐに押さえ付けられる。

 

「雷蔵君!!雷蔵君─────────!!」

 

雷蔵は特に何も言わず、目を閉じて最後の時を待っているように見えた。

 

 

 

──────誰か─────────誰でも良いから──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────助けて…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダァン!!

 

銃声が響き渡る。涼香は思わず目を閉じた。すると、そんな涼香の目の前に何かが落ちて来た。目を開けると、それはさっきまで男が持っていた銃だった。

 

「グッ……………何だ………!?」

 

男が手を押さえながら辺りを見回す。辺りには特に怪しいも人影はない────────今のところは。

 

「ふいー。危機一髪だった」

 

そんな声がしたかと思えば、涼香の目の前にいつの間にか穴が空いていた天井から人が降ってきた。そして、目にも留まらぬ早さで涼香を拘束していた男の意識を刈り取った。

 

「立てるかい?」

「あ………………はい、大丈夫です」

 

 差し出された手を掴んで、涼香は立ち上がる。そして、改めて目の前の男を見る。20代位の男だった。白いコートを羽織っているのが特徴的だ。

 

「お前!そこを動く」

「うるさい、そして遅い」

 

男らが銃を抜いて彼に向けるよりも早く、彼は愛銃『トカレフ』の速射で男らが持っていた銃を撃ち飛ばす。

 

「やれやれ、どんな世界でもトラブルは付き物か…………いやー、めんどくさいね」

「………………警察の人ですか?」

「まさか。警察は未だに外でずっと待機してるだろうよ」

「じゃあ、あなたは………………?」

 

涼香の質問に青年は答えた。

 

「僕の名は結城 創真。何て言うかねぇ……………まぁ、超天才!な正義の味方って所で。以後、お見知りおきを」

「はぁ…………」

 

(何かお兄ちゃんを連想させる感じの人な気がする………………)

 

涼香がそんな事を考えていると、創真はテロリストらに向けて話し掛ける。

 

「さーて君たち。今から選択肢を2つ出そう。1、大人しく警察に捕まる。2、僕にこてんぱんされてから捕まる。どっちにする?」

 

創真の提案にポカーンとしていたテロリストらだったが、次の瞬間笑い出した。

 

「おいおい、お前頭おかしいんじゃねぇのか?どんな馬鹿だって、今のお前は圧倒的に不利だって分かるぜ?」

 

 確かにその通りだ。今、創真は360°全方向から狙われているのだ。

 

「おやおや、テロリストに頭おかしいと言われるとはね。君たちの今までやってきた事の方がよっぽと頭がおかしいと思うが。あぁ、そんな事が分からない低能だからテロなんて愚かな行為をやってるのかい?」

「ちょ、ちょっと!」

 

まさに油に火を注ぐような発言。涼香は流石に不味いと思うのだが、創真はそんな様子を一切見せない。

 

「………………おい。最後の警告だ。大人しくしろ。さもなければ、お前を殺すぞ。ここのフロアには100人近くいる。1対100でどうにか出来ると思ってるのか?」

 

低い声で最終勧告するテロリスト。だがやはり、創真は大したことないように言う。

 

「1対100、か。確かにそれじゃいくら僕といえども流石に無理があるね。あぁ、山ほど応援が欲しいね…………ねぇ、君たち。アレが見える?」

 

創真は近くにあるガラス張りの窓を指差す。呼ばれた涼香と雷蔵は窓の外を見てみる。

 

「何も見えないですが……………おや?」

「あ!何かが近づいてきてます!アレがもしかして……」

「そゆこと。援軍だ」

「何!?」

 

テロリストが雷蔵と涼香を押し飛ばして、窓の外を見る。そして、驚きの表情を浮かべる。

 

「な、何だアレは!?」

「あれはねぇ…………あ、君。そこから退いた方が良いよ」

「は?」

「あ、もう手遅れ」

 

その瞬間、窓ガラスを突き破って入ってきた何かに男は大きく吹き飛ばされた。空中で3回転した後に頭を打ち付けて男はダウンする。唐突に乱入してきたのは、創真の発明品───────動物や昆虫をモチーフとした機械、通称マシンシリーズ全機体だった。マシンシリーズは人質らを守るかのようにテロリストらの前に地に足をつけたり、ホバリングしたりする。

 

「初めての全員集合作戦(ホームパーティープロトコル)、って所かな。さて………律、クローバー。ターゲットは銃を持つテロリスト全員だ。ただし、殺しはしない事。子供がいるしね。その上で、容赦するな。良いね?」

『了解です!』

『分かった』

 

マシンを操る人工知能らがそう答えると、呼応するかのように、マシンシリーズ全機の目が一斉に光る。

 

「どうせこんな機会は滅多にない。兎に角、派手にやりたまえ。テロリストの諸君。ちっこいからって舐めてたら吹き飛ばされた彼の道をそのまま辿るよ?さぁ…………………ショータイムだ」

 

マシンシリーズは一斉にテロリストらに襲い掛かり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなちっこいので倒せるとでも思ってんのか!!」

 

男は手にもつ銃を、目の前のカブト虫型のマシンに向けて引き金を引く。しかし、そのマシン──────マシンカブトはすばしっこい動きで避ける。すると、マシンカブトの角が赤く光だした。マシンカブトは男に急接近し、角で銃をかちあげる。

その瞬間、銃の半身が綺麗に切れた。

 

『この角からは高熱を発している。通称、ヒートホーンとか創真は言っていたな。何でも切れるそうだ。例えるなら、ザクのヒートホークとか一緒とか』

「は、はぁ!?何だよそれ!」

『自分で考えとけ。檻の中で、な。律』

『はい!』

 

律の操るマシンクワガタから発射された催眠ガス入りの弾が炸裂し、男は気絶した。

テロリストらは着々と無力化されていた。素早い動きで敵を戸惑わせながら催眠弾を撃ち込むマシンスコーピオン。墨を吐いてアシストをするマシンオクトパス。体当たりで敵を沈めるマシンホーク。巨体を持つマシンタイガーは敵から恐れられ、追いかけっこをする構図が出来上がる。マシンウルフ、マシンモンキーは集団で迫り来る弾丸を怖れる素振りも見せずに着々と無力化していく。マシンカブト2、マシンクワガタ2はそれぞれ赤く、青く発光しながら高速スピードで空を飛び回り、彼等の飛んだ後には敵が倒れていた。そんな彼等よりも早く飛ぶのがマシンカブト3。緑色に光りながら飛翔し、2つの銃口からショットガン並の威力の弾を連射する。

 

「もうすぐ全員を無力化出来るね。いやー、流石創真氏。こんな優秀なマシンを作っちゃうなんて、自分の才能が恐ろしいね~」

 

自画自賛している創真に苦笑する涼香と雷蔵。彼等含めて人質の皆は今、蜂形マシンのマシンワスプが大量に集まって作った防護用のドームの中にいた。

 

「あぁ、そう言えば。君たち、名前は?」

「私は岩月涼香と言います」

「僕は篠谷雷蔵と申します」

「涼香ちゃんに雷蔵君、か。にしても、雷蔵君は勇気あるね。かの銃を持つ暴君に立ち向かうとは」

「あのときは無我夢中でした」

「君は素晴らしい彼氏さんを持ったね、涼香さん」

「……はい!!」

 

良い笑顔で言い切る涼香。創真がそれを見てフフッと笑う。すると、創真の通信機に律の声が聞こえてきた。

 

『創真さん、敵の制圧率が90%を超えました!残りの人数は10人もいないかと思われます!』

「残党は何処に?」

『何処かに隠れているみたいだ』

 

そう答えたのは割り込んできたクローバー。

 

「ふぅん………………律、クローバー。マシンシリーズはもう全員撤収させて良い。人質たちの護衛の方に専念してくれ。残りはストレス発散に……………………僕がやろう」

『好きにしろ』

『了解です!』

「じゃ、残りを仕留めに行ってきまーす」

「え!?そ、創真さん!?残りもあの機械に任せた方が」

「良いの良いの、ノー問題だからー」

 

創真は手をヒラヒラと振りながらワスプのドームを出ていった。創真が出ていった瞬間、空いた出口が一瞬で塞がる。

 

「…………………行っちゃった」

「まぁ、恐らくあの方なら大丈夫でしょう。そんな気がします」

「確かに……………何か創真さんが負ける結末なんて想像できない………………何でだろう………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、残りは何処かな……………?」

 

デパート内を捜索する創真。辺りには倒れているテロリストらの姿しか見えない。

 

「あー捜すのめんどいなぁ。これならマシンシリーズに任せた方が良かったかも。はぁー」

 

めんどくさそうな表情でため息をつく創真。だが、次の瞬間後ろを振り向くとそこには、飛来する複数の対戦車用のロケット弾があった。創真は背面跳びの要領で避ける。着地した瞬間、後ろから爆風が襲い創真のコートを大きく揺らめかす。

 

「戦車用のを人間相手に使うなんてね。容赦が無さすぎだろ!」

 

テロリストらはそれには答えず、今度は別の奴が大きな両手持ちの銃、『ガトリングガン』で創真を蜂の巣にしようとする。創真は柱の影に身を潜める。

 

「チッ、銃の射程外だな………なら、一旦返してもらうよ、千影さん。来い、文豪の世界!」

 

そう叫ぶと、床をぶち抜いてカードが現れる。創真はそれをキャッチする。

 

「『汚れっちまった悲しみに』」

 

そう唱えた瞬間、創真の姿が大きく変わる。そして創真は銃弾の嵐の中に身を投じる。ガトリングガンを持つ男は創真に向けて撃つが、創真に当たった弾丸は瞬時に質量を消され、木片のように跳ねて地面に落ちる。

 

「なっ!?銃が効いていない!?」

 

男は赤く光る創真を見て畏怖する。別の男らが創真に向けて対戦車弾を放つが、創真はそれらを2丁のトカレフで撃ち落とし、大きな爆発を起こす。そして、爆煙の中から黒い布が飛び出し、テロリストらの持つ銃を真っ二つにした。

 

「羅生門の切れ味は凄いだろ?」

 

後ろから声がしたと思えば、いつの間にか創真が立っていた。男がナイフを創真に投げるが、そのナイフは創真の体をすり抜けた。すると、創真の姿が消えていく。いつの間にか辺りには緑に光る雪が降っていた。

 

「これは映像!?」

「『細雪』さ」

 

そう解説しながら接近した創真は拳で男を殴り飛ばす。別の男らが総掛かりでナイフを手に襲い掛かってくるが、創真は軽々とそれらを避けながら体術で1人ずつ意識を奪っていく。そして残りがついに1人となった。

 

「君で最後だ」

「馬鹿な………………こんな筈があるか!俺たちがこんな奴らに負けるなど、ふざけるな!!」

 

男は拳を握りしめて創真に襲い掛かるが、創真はその拳を左手で受け止める。その手は─────────

 

「なっ!何だその手は!?」

 

────────その手は『白虎』の手と化していた。男が力を込めてもびくとも動かない。

 

「見れば分かるだろ。虎の手だ、よっ!」

 

同じく白虎の手と化した右手で創真は男の腹部を軽く殴った。それだけで男は創真の前に膝をつく。

 

「ほ、ほんとに貴様は……………何者、なんだ………」

 

男はそう呟いて気絶する。創真はそれに対してこう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い奴の………………敵さ」

 

 

───────3Fの制圧完了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

===============

 

「おーい、創真~」

 

 

1階の警備室で作業をしていた創真が振り向くと、風人と千影が駆け寄ってきた。

 

「そっちも終わったみたいだね」

「何とかね~。拘束したテロリストらも1階に集めといたよ~」

 

さらに、ホリーとキバットも現れる。

 

「こっちも全員終わったよ。今、デュオが皆を1階に誘導しているよ。ところで、創真は何をしているの?」

「奴等がこのデパートを停電にしたからね。今、電源を入れ直している所だ。電源が戻れば、閉ざされている入り口のシャッターも開けれるだろうからね」

「そんなことしなくても、創真とかが蹴り飛ばして開ければ良いんじゃないの~?」

「………………あのねぇ、風人君。恐らく外には警察が大量に待機しているんだよ。彼等の前でそんなことしたら、今日は警察署泊まりになるし、しかも僕らは別の世界の人間だ。国籍とかないし、色々と不味いことになるだろ?」

「あ、そっか~」

「……………よーし。先ずは電源が復活、と」

 

創真がエンターキーをターンと叩いた瞬間、デパートに光が戻った。

 

「ふぅ。クローバー、シャッターの方は開けれる?」

『ちょっと待ってろ。あと 5分位掛かる。ったく、システムがボロすぎるだろ』

「まぁ、我々の時代のと比べたら遅いのはしょうがないね。じゃあ、クローバー。出来たら報告よろしく」

『あぁ、分かった』

 

取り敢えず創真らは警備室を出る。そこでは、解放された人々が安心した様子で知り合い等との話に花を咲かせていた。

 

「こんなに大勢を、俺様たちが守ったんだなー」

「まっ、当然の結果だね」

 

キバットとホリーが嬉しそうに云う。風人もうんうん、と満足そうに頷く。

 と、そこへ。

 

「あ、いた!お兄ちゃん!大丈夫だっ………………えぇ!?千影ちゃん!?」

 

涼香は千影をみて大声をあげて驚く。雷蔵も驚きの表情を露にする。

 

「久しぶり、涼香ちゃん。見ない内に大きくなったね」

「え、あ…………う、うん。ちょっとお兄ちゃん、どういうこと!?何で千影ちゃんがいるの!?」

「まぁ後で落ち着いたら詳しく話すよ~。それより、2人とも大丈夫だった~?」

「うん。そこにいる創真さんのお陰でね。私も雷蔵君も無事だよ」

「僕にとっては、創真さんは命の恩人です。後でしっかりお礼をさせてもらいます」

「えーそんな大袈裟な。別にお礼なんていらないよー」

 

謙虚な創真だが、絶対にします、と雷蔵は引きそうにない。

 

「あーそうだ。風人君、良かったら乾杯しない?」

 

創真がいつの間にか買ったのか、缶ジュースを渡しながら風人に提案する。

 

「何に乾杯するの~?」

「テロ事件の解決記念に、と言うのはどうだい?」

「良いね~。じゃあ、テロ事件の解決記念に………」

 

2人は缶ジュースを軽くカチンとぶつけ─────

 

「「乾杯」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────とはならなかった。

 

ドゴォン────────!!

 

唐突に、デパート全体が大きく揺れた。

 

「何事!?」

「何だ……………!?」

 

ホリーとデュオが辺りを見回す。

 

「クックック……………」

 

テロリストの1人が笑っているのに気づいた風人は彼に早歩きで近づく。

 

「ねぇ……何がおかしい」

「なぁに、これからパーティーが始まるからさ………………今、外にいる俺たちの仲間が戦闘ヘリでこのデパートへの攻撃を開始した」

 

男の服の襟元には通信機らしき機械が付いていた。

 

「何………………!?」

「この建物を支える主要の柱への攻撃を行っている頃だ。それらの柱を何本か破壊すれば、この建物は崩壊する」

「そしたら君たちも死ぬけど?」

 

いつの間にか近くに来た創真が尋ねるが、男はだからどうしたと言う風に云う。

 

「このまま無様に捕まるなら、貴様等を道連れに死んだ方がましだからな!ハハハハハハッ!!」

「チッ、狂ってやがる……………今から避難させても間に合うかどうか…………」

 

風人が不安そうにしている大勢の人々を見回しながら云う。創真はスマホの中のクローバーに話し掛ける。

 

「クローバー。この建物の崩落までの予想時間は?」

『5分持てば奇跡だろうな』

「5分じゃ避難には足りないな……………なら、やることは1つだね」

 

創真がスマホを操作すると、目の前に創真の愛車、赤いパニガーレv4が出現する。

 

「奴等を妨害するしか道はないね」

 

創真はバイクに跨がり、エンジンを吹かす。その瞬間、創真の姿が変わる。ライダージャケットに袖を通した軽装に変わり、ソフト帽子を被る。

 

「ホリーらは皆の誘導を頼む」

「え?僕かデュオがついていかなくて良いの?」

「こんなに大勢いるんだから、誘導係は1人でも多い方が良いだろ?それに、ホリーなしでも僕には新兵器があるからね。テストはこれが初めてになるけどまぁ、大丈夫でしょ。じゃあ、後は頼むよ」

 

そう言うと創真は愛車と共にデパートの奥へと消えていった。

 

「……………さて。避難誘導を開始するか」

「そうだね!よし、じゃあ皆!僕についてきて!」

 

ホリーが先導し、それに皆付いて行く。デュオたちも声を張って、皆を入り口に向かわせる。

 

「千影と雷蔵は有鬼子と先に行ってて~。僕と千影はホリーたちを手伝うよ~」

「…………………分かった。じゃあ、後でね。行こう、雷蔵君」

 

涼香は雷蔵と共に出口へ向かって行った。

 

「じゃあ、私はここを。風人君はあっちを誘導しよう」

「おっけー」

 

千影と風人はそれぞれ散る。

 

(創真さん、大丈夫だと良いけど…………)

 

そんな事を考えながら誘導を手伝う千影。すると────────再び声が聞こえてきた。

 

『心配ならさー、助けに行けば良いんじゃないのー?』

「この声は…………世界一の探偵さんですか?」

『そうだ。それに、君は力を持っているんだ。創真も言っていただろ?大いなる力には、大いなる責任が伴うと。彼の言うことは正しい。君も力を持つ者として、その責務を果たすべきだと思うけどね』

「…………………………探偵さん」

『うん?』

「創真さんが何処に向かっているか分かりますか?」

『…………そう来なくっちゃね。恐らく、屋上だ』

 

それを聞いた千影は走り出した。千影が抜けたのには誰も気付かなかった───────────1人を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひょー!ヤバすぎだろー!」

 

創真はデパートの駐車場内をバイクで走り抜けていた。現在5F。ただ、中々イレギュラーな状況───────迫り来るミサイルを避けながら。恐らく、敵として認定されたのだろう。仲間から聞いたのか。

 

『今度は追尾式が多数接近!』

「人間相手に使うもんじゃないでしょー!」

 

ミラーでそれを確認した創真。さらにスロットルを回してスピードを上げつつ、5Fから屋上への連絡路を車台スレスレでスピードをほとんど落とさずコーナリングする。そして遂に屋上へと着いた。タイヤを横滑りさせながらスピードを落としていく中、創真は懐から単機関銃UZIを出してミサイルに向けて引き金を引く。それによって放たれた弾丸によって、ミサイル群は全て爆発した。創真が降りると、バイクは消えてなくなった。創真は空となったUZIを捨ててヘリと対峙する。

 

「……………距離がありすぎるな。端まで寄っても銃もアレも射程圏外……………バズーカの類いだと殺しかねないし………………って、来たー!」

 

ヘリに搭載されている機関銃から無数の弾丸が放たれる。創真は近くの車の陰に身を寄せる。

 

「取り敢えず、『ナノテク』使うか」

 

創真がポケットから指輪を出して左手にはめる。すると、付いている赤い宝石から液状体のような物が放出され、創真の服ごと全身を覆っていくと、その姿がまたもや変わる。ショットコート、ベスト、さらにその上から黒のロングコートを袖を通さず羽織ると言った格好に変わる。

 

「起動は成功、と。先ずは、停まってる邪魔な他のヘリを排除するか」

 

 すると、創真の衣服から刺々しい木の枝のような物が全方位に射出され、残りのヘリを全て貫き、爆発する。

 

「さて……………飛んでるあいつにはナノテクの射程圏外だ。端まで行っても届かないから、もっとこっちに来てもらわないと困るんだが、どうしたものか………」

 

創真は困ったように呟く。すると、ヘリから再びミサイルが放たれる。創真はトカレフを構えようとしたその時だった。下から地面に穴を開けて人が飛び出してきた。その人物はコンクリートの破片を、ベクトル操作によってマッハ級のスピードで投げる。コンクリートはミサイルを貫通し、ミサイルは爆発した。

 

「大丈夫ですか?創真さん」

「やれやれ………………先に避難しておけって言わなかったっけ、千影さん?」

「大いなる力には、大いなる責任が伴う」

「………………………」

「創真さんはそう言っていました。 確かにその通りだと思います。そして私にも………………力があります。なら、私もその責務を果たさないといけないと思います。私も、微力ながら創真さんの力になりたいんです!」

「……………………フフッ。それなりの覚悟はあるみたいだね。なら、2人で大いなる責任を果たすとしようか!」

「はい!」

 

話は済んだか、と言わんばかりにヘリの機関銃から大量の弾丸が放たれる。創真は巨大な盾をナノテクで作り出して防ぐ。千影は自身の黒い服から飛び出した黒獣が産み出した赤い波紋────────『空間断絶』に守られる。

 

「千影さん!君、サッカーとか得意だった?」

「え?ま、まぁそれなりには……………」

「なら、跳ね返してくれよ……………ボールじゃなくて弾丸だけどね!」

 

創真はトカレフから弾丸を1発、千影に向けて撃つ。

 

「………………っ!!そう言うことですか!」

 

千影は創真の意図を理解した瞬間、千影の足が赤く光る。そして、タイミングよく千影は小さな弾丸を蹴る。さらに速度が増幅された弾丸は機関銃を撃ち抜き、爆発を起こした。

 

「お見事ー」

「もう…………ちゃんと言ってくださいよ、そう言うのは!」

「それは悪いね。まぁ、君なら分かると思っていたし」

 

2人がそんな会話を繰り広げている間に、体勢を立て直したヘリのドアが開き、男が身を出して、手に持つライフルで2人を狙う。2人もそれに気付き、警戒体勢を取ろうとしたその時、何処からか豪速球で飛んできた()()が男のライフルを弾き飛ばした。

 

「よそ見は禁物だよ~?」

「んなっ……………君もかよ…………」

「ちょ、風人君!?どうしてここに!?」

「いやー、千影が何処かに行くもんだから気になっちゃって~」

「やれやれ、こんな危険な所にわざわざ来る程バカな一般人だとは……………」

「むぅ~。僕は一般人じゃないし、暗殺者だし!て言うか、助けてあげたんだからお礼の一言位あって」

 

言い切るより前に風人は創真と千影に服を捕まれて後ろに飛ぶ。さっきまで彼等がいた所にミサイルが撃ち込まれ、爆発を起こす。3人は柱の陰に隠れ、創真が煙幕弾を使って時間稼ぎをする。

 

「さて、風人君へのお礼は100年後にするとして、あのヘリをどうするか…………僕的には、殺さないで無力化して、ちゃんと罰を受けてもらいたいけどね」

「100年後って死んでるし~。まぁでも、創真の意見には賛成かな~」

「死なせないで無力化……………相手は殺す気満々でしょうから、結構難しいですね」

「そうなんだよねー。何か使えるもんないかなー……………………」

 

創真は服の懐から色々と取り出す。グミやら、銃やら、時計やら………………色々と要らないものも混ざっているが、全部地面に出して置いていく。

 

「…………………あ!それ、僕の手錠だ~。長いひも付きの~」

「ひも付きの手錠…………………閃いた!まず、この手錠をあのヘリの脚に引っかけよう。そしたら、千影さんが能力を使って引っ張ってあのヘリをこの屋上の真上まで手繰り寄せる。あ、計算上このひもが途中で切れることはないから。そしたら僕のナノテクの射程範囲に入るから、ナノテクで操縦してる奴を引きずり下ろして拘束する。完璧だな」

「じゃあ、誰が手錠を引っ掛けるの~?」

「勿論、君。使い慣れてるし」

「うーん……………なら、確実に引っ掛けれるように、もっと近づきたいなー」

「我々で援護するから安心した前。死なせはしないさ………………多分」

「そこは大丈夫って言い切って~」

「…………とにかく!あと5秒位で煙幕がはれるから、そしたら風人君は飛び出して引っ掛ける。それで良いね!!3、2、1…………GO!」

 

風人は手錠を持って飛び出す。ヘリからは風人目掛けてミサイルが飛んでくるが、千影の黒獣が撃墜する。風人は車などの障害物を避けたり飛び越えたりしながらどんどん近づいていく。

 

「よーし、この距離なら行ける!おりゃあー!」

 

風人が手錠を投げるのとヘリからミサイルが放たれたのはほぼ同時だった。手錠とミサイルはお互い触れるか触れないかの距離ですれ違った。手錠はヘリの脚部に上手く掛かった。ミサイルが風人に当たる直前に、風人が走り高跳びの背面跳びの要領で上手く避けた。ミサイルは後ろの車に着弾して爆発する。

 

「良いよー!引っ張っちゃってー!」

 

風人の合図を受けた千影は手に持っていた紐を手で手繰り寄せていく。ひもがピーンと張った瞬間、千影は赤く光だし、能力を使って引き寄せていく。ヘリの方も抵抗しているようだが、その甲斐もなくどんどん引き寄せられ、ついにデパートの屋上の真上にまで来てしまった。

 

「よーし!仕上げだ!」

 

創真の黒いコートから先端が握り拳の形をした布が飛び出し、ヘリのフロントガラスを突き破る音がして、ついでに悲鳴も聞こえてから数秒後、意識を奪われ、布に拘束された2人のテロリストがフロントガラスから出てきた。同時に操縦者を失ったヘリは駐車場に真っ正面から突っこみ、地面を削りながら滑っていたが、やがて動きを止めた。

 

「………………ふいー。これで終わりだ…………」

 

疲れた創真は地面に座り込む。そこへ風人と千影もやってくる。

 

「流石創真だね~。全部作戦通りに行ったよ~」

「これで、終わったんですね…………」

「いやーお疲れさん。もう疲れた…………明日もオフにしよう…………さーて、取り敢えずこのテロリストらを連れて下に戻りますか。風人君、手錠を掛けといて」

「オッケ~。にしてもさー、大分派手にやっちゃったね~」

 

テロリストに手錠を嵌めながら風人は辺りを見回すと、確かにミサイルの爆発によって屋上には大量に穴が空いていた。

 

「まっ、そう言うのも含めて色々と彼等の罪は重いだろうね。取り敢えず、死人が出なかっただけ良いでしょ」

「そうですね。死人が出なかったのは本当に良かったです!」

 

千影は満足そうに笑顔で言う。

 

「さーて、行くか」

 

創真はテロリストの1人を引きずりながら出口に向かう。ちなみに、もう1人を引きずっているのは風人だ。彼等に続いて千影も出口に向かおうとすると、何かに足がつまづいた。

 

「あ!」

 

倒れそうになった千影。近くには穴があり、落ちそうになるが、誰かが千影を支えた。

 

「大丈夫~千影?」

 

支えたのは、咄嗟に反応した風人だった。

 

「あ、ありがとう風人君……………でも…………」

「うん~?」

「そ、その……………胸に手が当たってる………………」

「え?……………う、うわぁ!ご、ごめん!」

「う、うんん。別に大丈夫…………別に風人君が触りたいなら、触らせてあげても…………」

「え」

 

何だかヤバそうな展開になろうとしている2人に創真は咳払いをしてから云う。

 

「…………………あのー、そう言う展開は夜に2人きりでやってくれますー?」

「絶対やらねぇよ!」

 

風人は珍しく顔を赤くしながら叫ぶ。それに対して千影が残念そうに見えるのは気のせいだろうか……………。

 

「まぁ、夜のお楽しみが増えたって事で」

「だからしねぇよ!」

 

風人は落ちていたコンクリートの破片を創真に向けてぶん投げる。創真は余裕で蹴り返し、返ってきたのを風人はスッと避けた。コンクリートの破片は先程千影がつまづいた物に当たり、それに押されてその物体は穴に落ちる。

 

その瞬間─────────爆発が起きた。

 

「うわぁ!?え、何!?」

「あー……………風人君。君が避けたコンクリートの固まりに当たって今、落ちたんだよねー……………ヤバイのが」

「ヤバイのって何……………?」

「ヘリについてたミサイルポッド」

「マジかぁ…………。落ちた衝撃で爆発したって事か…………でも、あんだけ撃ってたんだから弾数はほとんど残ってないだろうし~現に今の爆発もそれほどじゃなかったから良かったね~」

 

いつもの調子に戻って云う風人。だが─────────

 

「それがねー。良くないんだよ」

「…………………………え?」

「今の爆発、この駐車場の大きな支柱のほぼ真横で起きたのよー…………で、元々この建物攻撃されてたのに加えて今の爆発によるダメージ…………」

「…………………………結論は?」

「…………………………僕の計算だと間もなく、この建物の構造上、真ん中らへんからぽっきり折れて崩壊するかと…………」

 

そう呟いた瞬間、建物が僅かに傾き始めた。どうやら、すでに始まっているようだ。

 

「テメェ、創真!何やってんだよ!最後の最後でやらかしやがって!」

「うっせぇ!君が避けたのが悪いんだろうが!て言うか、投げてきたのが1番悪い!!」

「お前が色々とからかったからだ!!」

「もう!!喧嘩している場合じゃないでしょ!!」

 

千影の大声で我に返った2人。確かにそんな事を言っている場合じゃない。3人で作戦会議を始める。

 

「これ、普通に階段で行って間に合う~?」

「下ってる途中に瓦礫で生き埋めになるかも知れないよ」

「だね。でも、千影なら…………」

「それを考えていたんだが、どうも魔力………………もっと簡単に言えば電池不足だ。今は実体化するだけで精一杯………………多分そうだろ?」

「…………確かにそうみたいです。念じても何も起きません」

「なら…………そうだ!創真が持っているワイヤー銃なら何とかなるでしょ!」

「ワイヤー銃、さっき懐から色々出してた時に地面に置きっぱにしちゃったんだよねー………………で、しかもその置いた場所がさぁ………………」

 

創真が視線を向ける先は、崩落で大きな穴が空いていた。

 

「さっき崩壊が始まった途端に大きく崩れたんで、今のところ手持ちの武器は『ナノテク』以外一切ございません。ついでにナノテクはあと10秒位使ったらエネルギー切れになるんで……………」

「何で拾っとくのを忘れたんだよ!」

「………………ぐうの音も出ない。恐らく、探している間に倒れるだろうね」

 

四面楚歌という言葉がここまで相応しい状況もそうはないだろう。そんな中、風人が頑張って知恵を振り絞る。

 

「………………なら、ホリーとかデュオに連絡するって言うのは~?特殊な電波だから僕のスマホだと通じないんでしょ~?あの2人なら何とか出来るんじゃないの~?」

「スマホもさっきの大穴に落ちてますんで、連絡は…………………………ん?待てよ………………」

「今ので何か思い付いたの~?」

「連絡………………別にスマホとかに頼らずとも直接口頭で伝えれば良いんじゃないか!」

「と、言うと?」

「良い考えが思い付いた。今から僕が千影さんをナノテクでホリーたちがいると思われる方向にぶん投げるから、ホリーたちを呼んできてくれない?あいつら飛べるからさ。そうすれば運んでもらって解決だ」

「おぉー頭いい~創真~」

「えぇ!?ちょ、そしたら私が死んじゃいます!……………って、既に死んでましたね、私………………あぁ、もう!時間もないのでそれで行きましょう!」

 

半ばやけくそ気味の千影をナノテクで作った巨大な手が掴む。

 

「じ、じゃあ……………5秒数えたら飛ばしてくだ」

「飛んでけー!!」

「いっけぇー」

 

盛大に無視して創真は千影を投げ飛ばす。悲鳴も何も聞こえず、千影はデパートの陰に姿を消した。

 

「さぁ、これが吉と出るか凶とでるか………」

「大丈夫だよ~千影だもん」

「謎すぎる根拠なことで…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「建物が傾き始めてる……………」

 

ホリーが少し驚き気味の口調で呟く。どうにか来ていた警官を説得してデパートの見える巨大な公園へと避難してきた矢先、デパートが崩れ始めたのだ。

 

『あの近くにいたら危なかったな………』

『助かったー…………』

『ほんと、あの人たちに感謝だね』

 

公園に避難してきた人たちは口々に言う。そんな感じの会話が聞こえる中、ホリーらは創真らの事を心配していた。

 

「創真はともかく、千影ちゃんと風人君の姿が見えなかったのが不安だな…………」

「くそっ、気付くのが遅すぎだぜ」

 

ホリーのフードの中にいるキバットが悔しそうに云う。

 

「まぁ、多分創真を助けに行ったんだろう。それに、先程聞こえていたヘリの音が完全に聞こえなくなった辺りを見るに、敵を倒したのだろう」

「あぁ、俺様の耳から完全に音が消えたからな。創真は異能力を持ってるから脱出なんてとっくのとうにしてるだろ。もうそろ来るんじゃねぇのか?」

「多分そんな所だろうな。恐らくもう来てもおかしくは…………ん?」

 

デュオが何かを感じたのか、空を見上げる。

 

「おい………………人が…………と言うか、あれは千影さんじゃないのか?何故か空から落ちてきてるんだが……」

「何で落ちてきてんだ!?よし、行けっホリー!」

 

キバットが体当たりでホリーを押し飛ばす。

 

「え?どうしたの急に僕を押し出し…………って、人が降ってきたー!そして、ぶつかるー!!」

 

話を聞いてなかったのか、ホリーが千影が落ちてきたのに気付いたときには千影の涙目の顔がすぐそこにあった。ホリーはほぼ結果的に身を挺して千影のクッションとなった。

 

「いたたた…………何だ?何か、手に柔らかい食感が………………何だろうこれ?」

 

ホリーは何かを触ってみる──────そして、無論お約束通り

 

「キ………………キャ─────────!!」

「へっばい!?」

 

ホリーは吹き飛ばされ、近くの木に大激突する。ぶつかった衝撃に驚いた鳥が逃げていく。

 

「ま、マジで何………………って、千影ちゃん!?って事は………………まさか…………さっきのはおっp」

「それ以上言ったら殺しますよ!?」

 

千影が自分の胸を手で覆いながら顔を赤くして叫ぶ。

 

「………………で、どうしたんだ千影ちゃん?ラッキースケベを喰らったのは災難だったが、何で空から降ってきたんだ?」

 

キバットの問い掛けに千影は思い出したかのように早口で喋り出す。

 

「そうでした!実は風人君と創真さんがまだ脱出してなくて…………助けに行ってください!デュオさんたちは飛べ」

 

デュオが千影の口を塞ぐ。千影も人が沢山いることを認識し、口を閉じる。デュオは千影を連れて公園を出て、少し距離が離れた公園からは死角の所に来てから口を開く。遅れてホリーもやって来る。

 

「2人は何処に?」

「屋上の駐車場です!」

「了解」

 

デュオは黒い翼を自身の背中から展開する。ホリーは千影をお姫様だっこして、白い翼を展開する。

 

「………………あの、ホリー君。さっきはすみませんでした。その、動揺してつい…………」

「あ、いや、その…………何かごめん!後で何かお詫びを」

「じゃあ、ホリー君。私の胸を触った罰として…………2人を絶対に助けてください!」

「……………………了解!つかまってなよ~!」

 

間もなく飛び立つと言うときに、キバットが千影に何かを囁く。千影は頷き、ホリーの耳元で、とびっきりの可愛い萌えボイスで囁く。

 

「が・ん・ば・れ♪」

「頑張りま───────────────す!!」

 

ホリーはデュオを置き去りにして、マッハクラスの速さで飛び立った。

 

「キバット、何を言ったんだ?」

「可愛い萌えボイスで、頑張れって言えって言ったんだ。案の定、普通じゃ出せない程の加速力で飛んでいったな。これで余裕で間に合うな」

「………………やれやれ」

 

デュオも負けじとスピードを出してデパートに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。風人らはと言うと

 

「ねぇ、そろそろ不味いんじゃないの~?」

「不味いね、これは。いつ、一気に折れてもおかしくない。むしろ、こんなにゆっくりと傾いていってるのが奇跡に近いね。さらにラッキーな事に、この屋上には車がほとんどないから、車が大量に滑り落ちてくるなんてことはない。警戒するとしたらヘリだけど、僕らのいる位置には絶対来ないから大丈夫だね」

「だね~………………そう言えば創真には、彼女とかいるの~?」

「唐突だね………………婚約者がいるよ。この世界にもいる、倉橋さんだよ」

「へー…………そのペアは意外~」

「良く言われるよ。それを言ったら君と神崎さん………………ッ!!」

 

創真は突然後ろを向く。風人も何かを感じて振り向くと、何と拘束されていた筈のテロリスト2人が平然と立っていた。

 

「残念だったな。あんな手錠ごときで俺らを拘束できると思ったら大間違いだ。俺らは昔泥棒をやってたんだ、手錠の拘束を抜けるなんて朝めし前なんだよ」

「へぇ、そりゃすごいやー。とは言え、武器の類いは全部抜いてあるから何も出来まい」

「どうかな?」

 

男は嵌めていたダイヤの指輪の宝石を押した。その瞬間、不時着していたヘリから電子音が鳴り響く。

 

「……………………まさか、ね」

「このヘリは自爆機能が装備されている。中には大量の武器を積んであるから、結構な威力になるな」

「道連れにするつもり~?」

 

風人の問い掛けに、テロリストは嘲笑う。

 

「良いや。死ぬのはお前らだけだ」

 

男2人は傾きつつある地面を駆け落りる。そして、大きくジャンプしたと思えば─────ウイングスーツ、別名ムササビスーツを展開して空を滑空する。

 

「じゃあな!精々最後の時間を楽しめよ!」

 

男らはそう言い残して反対方向に消えていった。

 

「くそっやられた……………創真、無駄かもしれないが、端に避難しようぜ」

「……………………よし」

 

風人は端の方へ寄ろうとする。すると突然、創真は風人を抱える。

 

「え?創真?」

「よーし、行くよー!」

 

創真も地面を駆け降り始める。

 

「ちょ、待て!お前と心中なんて嫌なんだけど!」

「それは僕もだけどね!行くよ──────少年、ジャーンプ!」

 

創真は空に飛び出す。その瞬間、大きな爆風が2人をさらに押し出した後に─────落下を始める。

 

「……………あぁ、これは死んだな」

「どうかな?残念ながら、僕らはまだ死なないらしい……………予想通りね」

「はい?」

 

何言ってんだこいつ……と思うと、聞き慣れた声が聞こえた。

 

 

「創真ァ───────────!!」

 

 

「風人君────────────!!」

 

 

風人が後ろに首を向けると、千影を抱えたホリーが高速で迫っていた。少し後ろからデュオの姿も見える。

ホリーは千影を一旦上に投げ、デュオと一緒に創真に憑依する。創真の背中から白と黒の翼が2つずつ生え、緑と赤の粒子が放出され、地面すれすれで落下が止まる。同時に、黒い布が風人と千影をキャッチする。

 

「マジか……………何でもありかよ…………」

 

風人の驚く表情を見た創真は満足そうににやっと笑う。そして、崩れてくるデパートの方に手を向ける。

 

(ノーネーム)の技を借りさせてもらうよ………『アルテマ!』」

 

創真の手の平に出来た魔方陣から高粒子のエネルギーが放たれ、落ちてくる瓦礫は跡形もなく消え去った。

 

「…………………ん?」

 

眩しさのあまり目を瞑っていた風人が目を開けると、創真の隣に誰か─────────全身黒いコートで身を包み、フードを被る男が立っていた。男は創真と共に手を構えていたが、創真が手を下ろすとその動きに連動して手を下ろした。そして、フッと消えていった。

 

 

「ふぅ………………これでよし、と」

「……………何だったんだろう、さっきの」

「うん?」

「まぁ、良いや~。ねぇ、創真。真剣に訊くんだけど、それって僕でも出来る?」

「多分無理。それに、君がさっきみたいなのを覚えたらいたずらに悪用しそうだし、教えるのもお断りだね………………実際、そのつもりだったんじゃないの?」

「ま、まさか~。そ、そんなわけ」

「バレバレだから」

「…………ちえっ」

「…………あぁ、そう言えば。さっき逃がしたあの2人を捕まえなくちゃ。まぁ、そう遠くには逃げてないだろうし、ちゃちゃっと捕まえて終わりにしようか」

「あ、その事なんですが」

 

口を挟んだのは千影だった。

 

「実は、ホリー君とデパートに向けて飛び立った直後にムササビスーツ…………でしたっけ?とにかく、飛んで逃げる残党がいたのを、ホリーさんが『邪魔じゃー!!』って叫びながら蹴り落としたので………落ちていったその2人は皆さんが避難していた公園の木に引っ掛かったのが見えたので、その場にいる警察に拘束されてるかと思います」

「ふーん………じゃ、これで完全にテロ組織は壊滅って事かぁ……あー疲れた。にしても、風人君と千影さんは災難だったね。デートの邪魔されて」

「……………でも、充分良い思い出は作れました。私は満足していますよ!」

「そっか。なら良かったよ。僕も色々と頑張った甲斐があったわー……………………あ」

 

創真は空を見上げて何かに気付いた。他の面々もその訳がすぐ分かった。

 

「虹だ…………」

 

千影が見たがっていた虹が空に掛かっていた。いつの間にか雨は止んでおり、雲の隙間から太陽の光が差していた。

 

「あれが虹……………すっごく綺麗だね、風人君!」

「そうだね~。でも、千影の方が綺麗だよ~」

「フフッ、ありがと風人君」

 

彼等は虹が消えるまでずっと空を眺めていた。やがて虹が消えると、消防車や警察のパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。

 

「さーて。面倒ごとに巻き込まれる前に我々は退散しますか」

「そうだね~。じゃあ、また飛んで行こー!」

「はいはい」

 

ホリーとデュオが憑依した創真は風人と千影を抱え、緑と赤の粒子を煌めかせながら飛び立って行った──────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は飛んで翌日。

 

「もう時間か……」

 

テロリストを潰した風人たち。あの後、たまたま親が二人とも出張だった風人の家に創真、ホリー、デュオ、キバット、千影、神崎、涼香、雷蔵と言った面々が集まった。そこで、ささやかながらの事件解決パーティーをした。そして、夜。千影は風人の家……もっと言うなら風人の部屋で泊まった。そこで何があったかはご想像にお任せするとしよう。ムフフな展開があったかもしれないし、なかったかもしれない。

 

「あっという間だったね……」

 

千影のやりたいことはやった。未練が残らないようできることをすべてやった。

 

「ここが、今風人君が学んでいる場所なんだね……」

 

そして、今いるのは3年E組校舎。千影が今の風人の学んでいる場所を見たいと言ったのと創真が最後の別れの場所は人目につかない方がいいという2つの理由でだ。

 

「ここにはね。僕にとっても色んな思い出があるんだよ~」

 

風人と千影が校舎の中に入っている。この場に殺せんせーはいない。さすがに一般人である雷蔵と涼香がいる以上姿を見せることはできないので、風人が事前に電話で頼んで留守にしてもらった。殺せんせーは何かを察したのか、深くは詮索してこなかった。

 

「ま、卒業するまでまだまだ沢山の思い出を作るつもりだけどね~」

「ふふっ。いいなぁ。私もここで風人君と学んでみたかったよ」

「そうだね……」

 

叶うことのない願い。願ってしまうのは仕方のないことだろう。

 

「行こうか」

「もう満足した~?」

「うん」

 

2人でグラウンドに出る。すると、グラウンドにはもう1人増えていた。

 

「あなたが……閻魔大王ですか?」

 

恐る恐るといった感じで千影が増えていた男に尋ねる。

 

「おう!かの偉大な閻魔大王だ。凄いだろ~?」

 

その男────閻魔大王はそう答えた。

 

「へーこの人が、創真たちが言ってた陰口にやたら敏感な閻魔大王か~」

「は!?ちょと待て!お前たち、俺をどんな感じで説明したんだ!?」 

「どんなって、風人君が言ってくれたまんまだよ」

「この野郎……」

「にしても……ぷぷっ。声とイメージが合わない……ぷぷっ」

「ダメだよ風人君……クスッ。笑うのは本人のいないとこじゃないと……」

「お前ら舐めてるだろ!」

 

と、正体を知ってもいつも通りな様子に他の面々はあきれるのだった。一通り笑いも済み、本題に入る。

 

「さーて、結城創真。お前は勝手に別の世界への介入を行ったな?………………これで2度目の」

「前にもこんなことがあったんだ~」

「前に魔術の世界に行った事があってね」

「1度目はデュオのこれまでの働きに免じて見逃したが流石に2度目は見過ごせない……………んだけど、まぁお前には魂の凍結魔術を解除してもらった借りがある。それに免じて今回は目を瞑ってやる。感謝しろよ」

「そりゃどーも。まぁ、こうなることも見通してたけどねー」

「フン…………で、千影と言ったか?お前はどうだった?楽しめたか?」

「はい、とっても!」

「……………それは良かった、な。さーて、もう時間だ。あと何か言いたいことがあるなら手短に済ませてくれよな」

 

先ず、千影は創真らの前に立つ。

 

「創真さん、ホリー君、デュオ君、キバット君。あなたたちのお陰でこんなにも意味のある楽しい時間を過ごせました。本当にありがとうございました」

 

1人1人に向かって丁寧に頭を下げていく千影。

 

「いえいえ。僕らも楽しい時間を過ごさせてもらったよ。ありがとね、千影さん」

 

創真が代表して千影に言う。

 

「雷蔵君。涼香ちゃんはいい子ですよ。優しくて可愛くて、でも、抱え込んじゃった時はしっかり支えてあげてね。頼りにしているから」

「お任せください」

 

続いて雷蔵と、そして、

 

「有希子さん。風人君はよく暴走してよく怒らせてしまってるけど、これからも私の分までよろしくね……貴女でよかったよ。風人君の隣に立っている人が」

「私もあなたのような人が風人君を育ててくれてよかったです。ありがとうございます」

 

風人の扱いはともかく、2人の間で大切な何かがしっかりと共有されたようだ。

 

「涼香ちゃん……」

「ごめんね……千影ちゃん……。まだ泣かないつもりだったんだけど……」

 

見ると既に涙があふれ出てしまっている涼香。

 

「私こそごめんね……。急にいなくなっちゃって。つらい思いをさせちゃったね」

「……ううん。千影ちゃんのせいじゃないよ」

 

すると、お互いに抱き合う涼香と千影。

 

「……またつらい思いをさせちゃうね。でも、もう大丈夫。今の涼香ちゃんには支えてくれる人たちがいるからね。きっと、大丈夫だよ」

「うぅ……そうだね。うん。元気でね」

 

笑顔を向ける2人。そして、千影は風人と向き合う。

 

「言いたいことはいっぱいある」

「僕も言いたいことはいっぱいあるよ」

「でも、言わない」

「僕も言うつもりはないよ」

 

そして2人は無言で近づき、自然な流れで――――キスをした。

 

「ありがとう。愛してるよ」

「ありがとう。大好きだよ」

 

数秒間のキスの後、2人は互いに笑顔を向ける。

 

「……………じゃあ、行くぜ」

 

浮き上がる閻魔大王と千影の身体。

 

「風人君!これ!」

 

投げられたものをキャッチする風人。

 

「……大切にしてね」

 

そして、2人は光に包まれて、消えた……それと同時に最後まで役割りを果たした文豪の世界のカードとペンダントが落ちてきたのを創真がキャッチする。

 

「……さよなら。元気でね」

 

風人が受け取ったもの。それは、クレーンゲームで千影がゲットした小さなペンギンのぬいぐるみだった。

 

「これでよかったのかい?言いたいことを言わなくて」

「そりゃあ、よくはないと思うよ。でもさ、言ったらキリがない。言いたいことは言葉に出さなくても伝わってる。だから、あれでよかったよ」

「そっか……………さて、僕たちもそろそろ帰るとしよう」

 

創真たちが並ぶ。ホリーが呪文を唱えると、彼等の足下に巨大な魔方陣が出現する。

 

「元気でね!皆!また会えたら会おうよ!」

「だな!またいつか会おうぜ!」

「……その時を楽しみにしている」

 

ホリー。キバット、デュオ。未来への再会を誓う三人の姿。そして、

 

「風人君。君の予測不能な思考には僕も手を焼かされたね。神崎さんたちに苦労をかけ過ぎないようにね」

「はは。創真たちも向こうで元気でね~。楽しかったよ。また会えたらよろしくね~」

「あぁ…………それと、君に暗殺教室の先輩として1つ忠告しておこう。この先、君には色んな脅威が襲い掛かる。そして、その中には……………千影さんの死に関連するものある」

「……っ!それって……」

「だが……………どんな脅威にも決して屈するな。茨の道だろうと、決して歩みを止めるな。醜くも足掻く、ストレイドッグスのようにね。それじゃあ………いつか、未来で」

 

魔方陣の光が増した瞬間、彼等の姿は何処にもなかった。

 

「行ちゃったね」

「そうだね。…………ねぇ、風人君」

 

すると、神崎は自身の胸に風人の顔を押しつけた。

 

「ちょ、有鬼子……一体何を……」

「今日だけは。今日だけは涙を流してもと思ういいよ。千影さんを元気で見送ろうとしていたのは分かるし、創真さんたちにも心配かけないようにしていただろうけど、バレバレだよ?」

「あーあ。うまく隠してたつもりなのになぁ……」

「だから今は泣いてもいいよ。隠さなくてもいい。私がずっとそばにいてあげるから……ね」

 

その日風人は泣いた。神崎はなだめることをしなかった。ただ、彼の涙が止まるまで静かに彼に胸を貸し続けた。

 

(千影さん。風人君のことこれからも見守って下さいね。私もあなたに負けないように頑張りますよ)

 

空を見上げる神崎。そこには雲一つない空が広がる。

 

 

 

 

 

─────大丈夫だよ。

 

 

 

 

その空は彼らの明るい未来を指しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創真は自分の会社のビルの屋上にいた。風でコートが揺れるなか、創真はとある新聞を座って読んでいた。

 

「『国際的に有名なテロリストによるデパートジャック。幸いにも、怪我人はおらず、テロリストも詳細不明の者達による活躍で全員拘束された』、か。我々の事もSNS上で色々と話題にされているようだが、まぁこっちには何の影響もありまい。見つけ出される事もないから、そのうち沈静化するだろうね………………にしても」

 

創真は新聞をしまってスッと立ち上がる。

 

「やっぱり、この街は美しいものだねー」

「そうかなー?そんなにいつもと変わらないと思うけど」

 

そう言うのはホリー。彼の後ろにはデュオとキバットがいた。

 

「変わらないのが美しいんじゃない。で、どうかしたの?」

「…………………創真。お前、どこまで知ってるんだ?千影さんの死について」

 

ホリーの問いに創真は真意の読めない笑みを浮かべながら云う。

 

「…………………全部だよ。何から何まで全て調べがついてある」

 

創真は懐からとある紙の束を見せる。『和泉 千影の死の真相について』と言うタイトルが打たれていた。

 

「いつの間にそんなのを…………なら、何でそれを風人に渡さなかったの?」

「………………ほんとは渡そうかと迷ってたんだけどね。でも、千影さんの死の真相については風人君自身の手で明かされるべき、と思ってね。この報告書は封印と言うなの処分をしておくよ」

「創真がそうするなら俺らに異論はない……………………あいつが心配か?」

「なーに、心配はしていないさ。彼なら恐らく大丈夫。何があってもそれら全て乗り越えるさ」

「何故そう自信満々に言えるんだ?」

 

キバットの問いに一呼吸置いて創真は答えた。

 

「何故なら、彼も暗殺教室の暗殺者(アサシン)だからだ」

「「「………………」」」

「あの教室の生徒は例えどんな困難が立ちふさがっても必ずそれを乗り越えてきた。だから、何も心配の必要はないよ」

「……………………そうだね。例え世界は違えど、風人君は暗殺教室の暗殺者(アサシン)。きっと大丈夫だね」

「俺様もそう思うぜ!」

「………………だな」

 

3人の反応を見て創真は微笑を浮かべた。

 

「さて、確か今日は椚ヶ丘で夏祭りがあるんだったね。皆も来るし、僕らも行こうか」

「あ!そうだった!」

「よっしゃあ、キバって行くぜ!」

「なら、行くか」

 

次の瞬間、そこには彼等の姿は無かった。ただ、赤と緑の粒子が綺麗に舞っているだけだった。

 

(さぁて風人君。君がこれから迫る脅威に対してどんな選択をしていくのか…………………楽しみだねぇ)

 

 

創真はニヤリと笑った。




はい、と言うわけで全てのストーリーが終わりました。どうでしたか?面白かったなら嬉しいです。果たして創真のみが知る千影の死の真相とは一体………………?その答えはいずれ本編にて風人自身が知ることになるでしょう。そう言えばなんですが、この話はあちらの本編とリンク出来るように作ったんですよね。僕の勝手な設定としては、あちらの本編での時系列的にはイトナ加入辺りから体育祭までの間と言う設定になっておりまして。……………………あちらの本編で反映されるかは分かりませんが。ちなみに、最後にSNS上で議論されてる、とありましたが、特にいらないかと思って描写は省きましたが裏設定としては『SNSにて話題沸騰なのは主にキバットについて』……………創真ら他の面々も結構目立つような事はしたはず(創真のマシンシリーズ、デュオの黒獣、ホリーの魔法、風人らの活躍や千影の手だけ実体化したの等々)なのに、それらは蚊帳の外で、キバットのみが注目されると言う、何とも言えない感じ…………。


それと、千影の死の真相については僕もかなり気になっています。千影が何故殺されたのか、が1番の伏線になってる気がしますし、殺したのは誰なのかとか、その訳とはとか………………後で創真大先生に聞いてみよっかな。と言うわけで、この辺で失礼します。あっ、黒ハムさん!コラボ承諾してくれてありがとうございました!!また機会があればしたいです!!


よっしゃあ!!キバって、受験勉強だ───────!!


……………あっ、そうだ(唐突)。1つ忘れてた事がありましたわ。最後に、下にあの人その後を綴っておいたので、それを見てみるとしましょうか。























エピローグ


「…………………………ふわぁ~。寝過ぎちゃったなー。それに…………………懐かしい夢を見てた気がする………」

ソファーでの昼寝から目覚めた千影は背伸びをして辺りを見回す。そこはいつもと変わらない光景の自分の部屋があった。

「まさか自分だけの家を貰えるなんて…………天国ってサービスが良い所なんだね……………あ、そうだ。確か創真さんが贈って貰ったおまんじゅうがあったっけ」

千影は冷蔵庫を開けて『いるまんじゅう』を取り出し、お茶とともにいただく。

「うーん、甘くて美味しい!今度お手紙でお礼を言っておかなくちゃ」

千影と創真はたまに文通でやり取りを交わしている。一緒に届く美味しい食べ物や面白い漫画などが千影にとっては結構な楽しみだったりする。

「………………あれ?」

テーブルの上に、いつの間にか大きめな段ボールが置いてあった。千影はその上に置いてあったメモ帳を手に取り、書いてある文を読む。

「『創真が作った誕生日プレゼントを置いておく。誕生日おめでとう デュオより』…………あ!今日は私の誕生日!すっかり忘れてた…………えーっと、中身は………………アルバム?」

千影はソファーに腰を下ろしてアルバムを開く。

「……………………わぁ!これ、風人君とのデートの時の………………いつの間に撮っていたんですね…………」

写真に映る笑顔の千影と風人は笑顔だった。

「あ、ホリー君達と遊んでいた時のも……………ほんとに色んな写真があるんですね…………………」

懐かしそうに眺めていく千影。そして最後の1ページには────────

「なっ!?」

何と風人とのキスシーンも写真になっていた。

「こここここここ、こんな所まで撮らなくて良いんです!もう、創真さんったら!」

創真に向けて軽く文句を言う千影。それが創真に届いたかはさておき千影が後書きに目を通すと────────

「え?『送った小説も見てみてね』………………あ、段ボールの奥に何かまだ残ってる……………」

千影は小説を手に取り、タイトルの部分を読む。

「タイトルは『暗殺教室 ~超マイペースゲーマーの成長(?)譚~』……………もしかしてこれは…………まぁ、読めば分かるよね。じゃあ早速最初から読んでいこっと」

千影はページをめくり、(風人)の物語を読み進めていくのだった──────────。

─終わり─



オリジナル登場人物


結城 創真 和光 風人

ホリー
デュオ
キバット

岩月涼香
篠谷雷蔵

氷室 翔
月城 碧海
月城 隼
クローバー





和泉 千影




ノーネーム(超特別友情出演)







ストーリー構成 音速飛行

前編執筆 音速飛行

前編監修 黒ハム


後編執筆 黒ハム

後編監修 音速飛行

後編 戦闘シーン(創真 ホリー デュオ キバット ラストバトル)執筆・監修 音速飛行


特別協力(special thanks) artisan


制作・執筆 音速飛行 黒ハム


2019年 6/16~8/25


速報 『今日の0時、ノーネームは帰ってくる』

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