「創真、大丈夫か!?」
無言の空間がその場を支配していた中、駆けつけたのはホリーだった。
「まったく、あの異能力の発動を感知して来たら………………使っちゃヤバいって言ったのに!」
「悪いね。取り敢えず回復頼むわ」
ホリーは回復の呪文を唱える。これで完全復活的な感じだ。
「ホリー殿、お主魔術が………………」
「倒したからね。他の皆も何とかね」
超時間が掛かったけどね、とホリーは付け加える。
「ホリー、不味いことになった」
「龍の事?さっきすれ違ったよ。まぁ、透明化してやり過ごしたけど。町に着くまで10分が良いとこだ」
「まぁ、気づかれてるかも知れないがな。ジャティス君と言ったっけ?今回あいつの元に潜入してたんなら、あの龍の事教えてくれない?」
「………………しょうがないね。良いだろう」
「なんか………………やけに素直ね」
フィーベルの呟きはごもっとも。逆に怪しく感じる。
「今回は僕の力ではどうしようもないからね………………あの龍は再生能力、攻撃力が非常に高い。クローバー曰く、普段はリンゴのような形をしてるとか」
「それで?」
「普段は結界が張られていてね。その兵器を起動させた一瞬だけ結界が消えるから、それを狙っていたんだがね」
「いらん情報ばかりやな…………何か弱点は?」
「無いね。外部から破壊するのは無理に等しい」
「外部から……………………ね。なら、内部からなら破壊できるわけだ」
「面白いことを考えるね。そんな馬鹿なことを言うとは思ってなかったよ」
「馬鹿かどうかはやってみてからのお楽しみさ………さて、ホリー。僕を町までテレポート出来る?」
「勿論!じゃあ、行」
「待って!!」
そう声をあげたのはフィーベルだった。
「私達を置いていく気?」
「連れてけとでも?」
「当たり前よ!」
創真はため息をつく。
「悪いが、行っても足手まといになるだけだよ。君達ではね」
「……………創真、あなた馬鹿じゃないの?」
「あ?」
「全部知ったような口聞いてるけど、私達は色んな試練を乗り越えてきたのよ!それに、ルークは私達を助けてくれた。今度は私達が助けるの!!」
「そうだよ!私達にも何か出来ることはあるよ!」
「ん。私も力になれる」
「お主1人にカッコつけさせる訳にはいかないからのう」
フィーベル、ルミア、リィエル、キョウヤが創真に強く訴える。
「………………分かった、連れてくよ。だが、1つ言わせてもらう。まず、フィーベル。僕は馬鹿じゃない。そして、ヘタレな君に言われたくはない」
「な!?」
「ルーク君から聞いたんだよね~。聞いてて笑ってしまったよ」
「あいつ、余計なことを……………!!」
怒りに燃えるフィーベル。
「……………君達、早く行かなくて良いのかい?」
「あーそうだね。丁度良い。ジャティス君も手伝って」
「僕に指図するな。言われなくても、正義の実行の為にあいつを倒す。言っておくが、君達と協力するつもりはない」
何だかんだで協力してくれるようだ。
「じゃ行くよ!『テレポート』」
ホリーが唱えた瞬間、青い光が彼等を包んだ。
目を開けると、そこには見覚えのある町が広がっていた。
そして目の前にはグレン達が。
「お前ら!無事だったか…………って、ジャティス!テメーが何で一緒にいるんだよ!?」
「グレン、悪いが今回は敵対するつもりはないよ。あいつを倒すためにね」
「絶対信用ならねぇな!て言うか、あいつって誰だよ!!」
「上を見た前」
「は?」
ジャティスに言われ、上を見上げると…………そこには龍がいた。
予想通りの時間ピッタシ現れた。
「って、なんじゃありゃ!?」
「龍………………それに、龍の頭上にいるのはクローバーか?」
アルベルトの言う通り、首謀者であるクローバーがいた。
「ん?何故ここにいるんだ…………?まぁ、良い。これが起動した時点で私の勝ちだからね」
「甘いな。確かに僕を抜けば君の勝ちだろうが、生憎ここには僕がいる!」
自分アピールを欠かさない創真。
「テメーの好きなんかにさせるか!!おとなしく捕まりやがれ!」
「悪いね先生。僕を捕まえる前に君達が死ぬからそれは無理だ」
そう言ってクローバーは指を鳴らす。
龍は大きな口を開けたかと思うと、その口から赤い火球を放った。
アルベルトらが軍用の魔術を使い、それらを相殺していく。
「流石だね。毎回会うたびに腕が上がっているようだ」
「世辞は良いからジャティス!テメーも戦いやがれ!!」
「分かった分かった」
ジャティスは人工精霊を生み出し、次々と龍に向かって突撃させる。
「ふん、その程度かジャティス・ロウファン!その程度で神を打ち破れるとでも思ったか!?」
クローバーはそう嘲り、天使を次々と破壊していく。
「チッ…………………」
デュオは舌打ちをし、鎌を持って飛び立つ。
龍はそれに対抗し、火球を放つがデュオはそれらを切り刻んでいく。
「オラァ!!」
遂に龍に一撃を喰らわした。
「ほう……………だが、無意味だ」
「!!」
直ぐ様再生する。
デュオが動揺した一瞬を狙い、龍の尾で弾き飛ばす。
「なら、これでどうだ!」
ホリーの掌から赤い光線が放たれる。
『ゴガァァァァァァァァァァ!!』
龍はそう咆哮をあげると、火球ではなく赤い光線を放ち、光線同士がぶつかり合う。
しかも、ホリーの放つ光線を押し返した。
「うわっ!?」
ホリーは何とか避けるが、彼でも間一髪だった。
『ホリー、準備できた』
通信機から創真の声が聞こえてきた。
「準備運動終わった?」
『ああ。地味に準備運動が重要なんだよね…………全員に離れるように言っといて』
「了解!!」
「良い感じに場が暖まってきたじゃねぇか」
高層の建物の頂上で創真は笑う。
『創真、こっちは良いよ!思う存分暴れな!!』
「言われなくてもそのつもりだ…………『汝、陰鬱なる汚濁の許容よ。改めて我を目覚すことなかれ』」
創真の全身に赤い異能痕が走る。『汚濁』が始まった。
「ウラァァァァァァァァァァァ!!」
そんな龍にも負けない咆哮がグレン達の耳に入ったかと思うと、巨大な爆発音が聞こえた。
「な、何だ!?」
グレンの疑問はすぐに分かった。
宙に浮く人の姿が見えたからだ。彼─────────────創真の回りには巨大なコンクリートの塊が浮いている。
龍は目標を視認すると、赤い火球を何発も放つ。
しかし、創真はそれらに浮かせていたコンクリートの塊をぶつけていく。
さらに、掌から赤い光弾を出現させ、龍に放つ。
その光弾は腹部に命中し、大きな穴を開けた。
「流石、汚濁だ」
「ホリー君、汚濁って……………?」
「汚濁とは、汚れちまった悲しみに、の本当の仕様さ。自らを重力の化身にし、周囲の重力子を操る。あの重力子弾はブラックホール的な物だ」
「ブラックホール!?それヤバイんじゃねぇか!?」
「グレンの言う通り、とてつもない破壊力さ。だが、理性を失い、本人にも制御が効かない。力尽きるま…………いや、死ぬまで暴れ続ける」
「そんな!!」
セラが悲痛な声をあげる。
「しかし、幾ら強くともすぐに再生されちゃ意味がないが」
ジャティスの言う通り、どんなに削っても直ぐに再生している。
「まぁ、そうだが…………今手を出すと、僕らもやられかねない。出来るのは見守ることのみ」
ホリーは感情を押し殺し、静かに云った。
「……………ここまでの強敵は見たことがないですね!ですが、この龍には及ばない!」
そういうとクローバー自ら創真に突撃し、蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた創真は骸砦まで吹き飛ばされてしまった。
「さて……………本格的にこの街を終わらせるとしようか」
龍は口を開け、収束された赤い光線をチャージし始める!
『ゴガァ!!』
「な!?」
何と、龍の口に骸砦が叩き込まれた。
吹き飛ばされた創真が、重力操作で骸砦を地面から抜き、それを高速でぶん投げたのだ。
龍の内部で行き場を失ったエネルギーが大爆発を引き起こし、大きな悲鳴をあげる。
しかし、まだ終わらない。
骸砦の近くにあった、廃棄された高層建築物の上に乗って来た創真がビルを上下させ、物理攻撃を喰らわす。
「この糞がァァァァァ!!」
珍しく焦ったクローバーが手をかざすと、龍は再度ビームを発射しようとする。
「ウオラァァァァァァァァァァァ!!」
その隙を逃さず、創真は再び龍の口にビルを飲み込ませる。
クローバーがしまった、と思った時にはもう遅かった。
創真は特大の重力子弾を口部にお見舞いした。
重力子弾が龍の口の中に入り、見えなくなった瞬間…………………その身が内部から弾け、大きな爆発が起こる。
「バカな………………龍が!!」
爆発に巻き込まれる直前、クローバーはそう呟いた。
「よっしゃー!!やりやがったぜ創真の奴!」
「あっぱれじゃ!!」
グレンやキョウヤは喜びの声をあげる。
「あ、創真の汚濁を解除しないと!」
今だ宙に浮いている創真に向かってホリーは飛翔する。
「……………待って!確かルークがあの龍の中にいたの!!」
「あやつはどうなったのじゃ…………!?」
皆は辺りを見回すが、何処にもその姿が見えない。
「キバット君、辺りを飛んで探してきてくれない!?」
「ルミアちゃんの頼みなら喜んで!」
キバットは超高速で捜索を開始する。
そして僅か1分後、直ぐに戻ってきた。
付いて来い、と言うキバットに案内されると、そこには俯せに倒れているルークの姿があった。
「んん………………あ?ここ何処だ?」
しかも丁度目覚めた。
「る、ルーク!お主大丈夫か!?」
「キョウヤ?あー何か体がめっちゃダルいがそれ以外は何ともねぇよ」
あの爆発があったのに、奇跡的に無事とは…………………皆はホッとした表情を浮かべる。
「そうだ、言わなきゃいけないことがあったな………皆、俺は今回」
「ルーク君は街を守ろうとした……………だろ?」
そう言ったのは、ホリーとデュオに肩を借りている創真だった。
「言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。ルー君、街を守ってくれてありがと!」
「ルミア………………」
「皆、ルミアと同じ気持ちだろ?」
グレンの問い掛けに、皆は肯定の意を込めた笑みを浮かべる。
「でも創真、悪かった。操られていたとは言え、攻撃しちまって」
「弱かったから大丈夫です」
「チッ…………あーそうかい。そういや、クローバーは何処だ?一発殴らないと気がすまねぇ」
「呼んだかい?」
皆が振り向くと、ジャティスによって拘束されたクローバーの姿があった。
「やれやれ……………まさか龍を倒されるとは。恐れ入ったよ創真君」
「そりゃどーも」
満更でもない、と言った感じの表情を創真は浮かべる。
「アルベルト、彼の身柄は君に預けよう。後は好きにした前」
「……………分かった」
「おや?私は檻に入るつもりはありませんよ?」
「何言ってやがる?ちゃんと罰を受けやがれ」
「ほう?この国では死人を罰する事が出来るのかい?」
「「「え」」」
「幽霊?え、って事は死んでるって事だよね?」
キバットも声が裏返っている。幽霊嫌いなのだろうか?
「あんた、幽霊か?」
「違うよ創真君。私は3年前に死んだ。私は私の肉体から分離した異能さ」
「あー……………………そう」
創真が黙った所で、グレンが口を開く。
「で、アルベルト。こいつはどうする気だ?」
「……………当てはまる事例がなくて、判断のしようがない」
アルベルトが思案をしていると、創真が何か閃いた表情をした。
そのままクローバーに近寄ると、何か囁いた。
「ふむ………………牢屋よりはましだな。それに、君に興味が湧いた」
「なら、やるねー」
「待て、何を」
アルベルトの言葉を待たず、創真は文豪の世界のカードをかざすと、クローバーの姿が消えた。
「お、おい創真?」
ルークが声をかけると、創真はご安心を、と続けた。
「彼を文豪の世界の中に閉じ込めました。もう一切出てこれないので安心だろ?」
「勝手なことを………………」
「まぁ、死人は裁けないんだからこれが最適解だ」
デュオも賛同し、アルベルトはやれやれ、と言いたげな表情でため息をついた。
「さて、停戦もこれでおしまいだ。けりをつけようぜジャティス……………って、あら?」
さっきまであったジャティスの姿が消えていた。
ルークは辺りを見回すが、何処にもいない。
「さっき帰っていったよ?」
「止めろよホリー!!」
「いやぁ…………あ、『また近い内にまたお会いしましょう』って伝えといてって言われたんで~」
ホリーがのほほんと伝言を伝えた。
「お、朝日だぜ!」
キバットが日の出に気づく。
暖かい朝日が、街を、彼等を労うように照らしていたのだった。
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