結城 創真の暗殺教室   作:音速のノッブ

189 / 201
次で最後かな?


#10 陰鬱なる汚濁

「創真、大丈夫か!?」

 

 

無言の空間がその場を支配していた中、駆けつけたのはホリーだった。

 

 

「まったく、あの異能力の発動を感知して来たら………………使っちゃヤバいって言ったのに!」

 

 

「悪いね。取り敢えず回復頼むわ」

 

 

ホリーは回復の呪文を唱える。これで完全復活的な感じだ。

 

 

「ホリー殿、お主魔術が………………」

 

 

「倒したからね。他の皆も何とかね」

 

 

超時間が掛かったけどね、とホリーは付け加える。

 

 

「ホリー、不味いことになった」

 

 

「龍の事?さっきすれ違ったよ。まぁ、透明化してやり過ごしたけど。町に着くまで10分が良いとこだ」

 

 

「まぁ、気づかれてるかも知れないがな。ジャティス君と言ったっけ?今回あいつの元に潜入してたんなら、あの龍の事教えてくれない?」

 

 

「………………しょうがないね。良いだろう」

 

 

「なんか………………やけに素直ね」

 

 

フィーベルの呟きはごもっとも。逆に怪しく感じる。

 

 

「今回は僕の力ではどうしようもないからね………………あの龍は再生能力、攻撃力が非常に高い。クローバー曰く、普段はリンゴのような形をしてるとか」

 

 

「それで?」

 

 

「普段は結界が張られていてね。その兵器を起動させた一瞬だけ結界が消えるから、それを狙っていたんだがね」

 

 

「いらん情報ばかりやな…………何か弱点は?」

 

 

「無いね。外部から破壊するのは無理に等しい」

 

 

「外部から……………………ね。なら、内部からなら破壊できるわけだ」

 

 

「面白いことを考えるね。そんな馬鹿なことを言うとは思ってなかったよ」

 

 

「馬鹿かどうかはやってみてからのお楽しみさ………さて、ホリー。僕を町までテレポート出来る?」

 

 

「勿論!じゃあ、行」

 

 

「待って!!」

 

 

そう声をあげたのはフィーベルだった。

 

 

「私達を置いていく気?」

 

 

「連れてけとでも?」

 

 

「当たり前よ!」

 

 

創真はため息をつく。

 

 

「悪いが、行っても足手まといになるだけだよ。君達ではね」

 

 

「……………創真、あなた馬鹿じゃないの?」

 

 

「あ?」

 

 

「全部知ったような口聞いてるけど、私達は色んな試練を乗り越えてきたのよ!それに、ルークは私達を助けてくれた。今度は私達が助けるの!!」

 

 

「そうだよ!私達にも何か出来ることはあるよ!」

 

 

「ん。私も力になれる」

 

 

「お主1人にカッコつけさせる訳にはいかないからのう」

 

 

フィーベル、ルミア、リィエル、キョウヤが創真に強く訴える。

 

 

「………………分かった、連れてくよ。だが、1つ言わせてもらう。まず、フィーベル。僕は馬鹿じゃない。そして、ヘタレな君に言われたくはない」

 

 

「な!?」

 

 

「ルーク君から聞いたんだよね~。聞いてて笑ってしまったよ」

 

 

「あいつ、余計なことを……………!!」

 

 

怒りに燃えるフィーベル。

 

 

「……………君達、早く行かなくて良いのかい?」

 

 

「あーそうだね。丁度良い。ジャティス君も手伝って」

 

 

「僕に指図するな。言われなくても、正義の実行の為にあいつを倒す。言っておくが、君達と協力するつもりはない」

 

 

何だかんだで協力してくれるようだ。

 

 

「じゃ行くよ!『テレポート』」

 

 

ホリーが唱えた瞬間、青い光が彼等を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開けると、そこには見覚えのある町が広がっていた。

 

 

そして目の前にはグレン達が。

 

 

「お前ら!無事だったか…………って、ジャティス!テメーが何で一緒にいるんだよ!?」

 

 

「グレン、悪いが今回は敵対するつもりはないよ。あいつを倒すためにね」

 

 

「絶対信用ならねぇな!て言うか、あいつって誰だよ!!」

 

 

「上を見た前」

 

 

「は?」

 

 

ジャティスに言われ、上を見上げると…………そこには龍がいた。

 

 

予想通りの時間ピッタシ現れた。

 

 

「って、なんじゃありゃ!?」

 

 

「龍………………それに、龍の頭上にいるのはクローバーか?」

 

 

アルベルトの言う通り、首謀者であるクローバーがいた。

 

 

「ん?何故ここにいるんだ…………?まぁ、良い。これが起動した時点で私の勝ちだからね」

 

 

「甘いな。確かに僕を抜けば君の勝ちだろうが、生憎ここには僕がいる!」

 

 

自分アピールを欠かさない創真。

 

 

「テメーの好きなんかにさせるか!!おとなしく捕まりやがれ!」

 

 

「悪いね先生。僕を捕まえる前に君達が死ぬからそれは無理だ」

 

 

そう言ってクローバーは指を鳴らす。

 

 

龍は大きな口を開けたかと思うと、その口から赤い火球を放った。

 

 

アルベルトらが軍用の魔術を使い、それらを相殺していく。

 

 

「流石だね。毎回会うたびに腕が上がっているようだ」

 

 

「世辞は良いからジャティス!テメーも戦いやがれ!!」

 

 

「分かった分かった」

 

 

ジャティスは人工精霊を生み出し、次々と龍に向かって突撃させる。

 

 

「ふん、その程度かジャティス・ロウファン!その程度で神を打ち破れるとでも思ったか!?」

 

 

クローバーはそう嘲り、天使を次々と破壊していく。

 

 

「チッ…………………」

 

 

デュオは舌打ちをし、鎌を持って飛び立つ。

 

 

龍はそれに対抗し、火球を放つがデュオはそれらを切り刻んでいく。

 

 

「オラァ!!」

 

 

遂に龍に一撃を喰らわした。

 

 

「ほう……………だが、無意味だ」

 

 

「!!」

 

 

直ぐ様再生する。

 

 

デュオが動揺した一瞬を狙い、龍の尾で弾き飛ばす。

 

 

「なら、これでどうだ!」

 

 

ホリーの掌から赤い光線が放たれる。

 

 

『ゴガァァァァァァァァァァ!!』

 

 

龍はそう咆哮をあげると、火球ではなく赤い光線を放ち、光線同士がぶつかり合う。

 

 

しかも、ホリーの放つ光線を押し返した。

 

 

「うわっ!?」

 

 

ホリーは何とか避けるが、彼でも間一髪だった。

 

 

『ホリー、準備できた』

 

 

通信機から創真の声が聞こえてきた。

 

 

「準備運動終わった?」

 

 

『ああ。地味に準備運動が重要なんだよね…………全員に離れるように言っといて』

 

 

「了解!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良い感じに場が暖まってきたじゃねぇか」

 

 

高層の建物の頂上で創真は笑う。

 

 

『創真、こっちは良いよ!思う存分暴れな!!』

 

 

「言われなくてもそのつもりだ…………『汝、陰鬱なる汚濁の許容よ。改めて我を目覚すことなかれ』」

 

 

創真の全身に赤い異能痕が走る。『汚濁』が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウラァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

そんな龍にも負けない咆哮がグレン達の耳に入ったかと思うと、巨大な爆発音が聞こえた。

 

 

「な、何だ!?」

 

 

グレンの疑問はすぐに分かった。

 

 

宙に浮く人の姿が見えたからだ。彼─────────────創真の回りには巨大なコンクリートの塊が浮いている。

 

 

龍は目標を視認すると、赤い火球を何発も放つ。

 

 

しかし、創真はそれらに浮かせていたコンクリートの塊をぶつけていく。

 

 

さらに、掌から赤い光弾を出現させ、龍に放つ。

 

 

その光弾は腹部に命中し、大きな穴を開けた。

 

 

「流石、汚濁だ」

 

 

「ホリー君、汚濁って……………?」

 

 

「汚濁とは、汚れちまった悲しみに、の本当の仕様さ。自らを重力の化身にし、周囲の重力子を操る。あの重力子弾はブラックホール的な物だ」

 

 

「ブラックホール!?それヤバイんじゃねぇか!?」

 

 

「グレンの言う通り、とてつもない破壊力さ。だが、理性を失い、本人にも制御が効かない。力尽きるま…………いや、死ぬまで暴れ続ける」

 

 

「そんな!!」

 

 

セラが悲痛な声をあげる。

 

 

「しかし、幾ら強くともすぐに再生されちゃ意味がないが」

 

 

ジャティスの言う通り、どんなに削っても直ぐに再生している。

 

 

「まぁ、そうだが…………今手を出すと、僕らもやられかねない。出来るのは見守ることのみ」

 

 

ホリーは感情を押し殺し、静かに云った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ここまでの強敵は見たことがないですね!ですが、この龍には及ばない!」

 

 

そういうとクローバー自ら創真に突撃し、蹴り飛ばす。

 

 

蹴り飛ばされた創真は骸砦まで吹き飛ばされてしまった。

 

 

「さて……………本格的にこの街を終わらせるとしようか」

 

 

龍は口を開け、収束された赤い光線をチャージし始める!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ゴガァ!!』

 

 

「な!?」

 

 

何と、龍の口に骸砦が叩き込まれた。

 

 

吹き飛ばされた創真が、重力操作で骸砦を地面から抜き、それを高速でぶん投げたのだ。

 

 

龍の内部で行き場を失ったエネルギーが大爆発を引き起こし、大きな悲鳴をあげる。

 

 

しかし、まだ終わらない。

 

 

骸砦の近くにあった、廃棄された高層建築物の上に乗って来た創真がビルを上下させ、物理攻撃を喰らわす。

 

 

「この糞がァァァァァ!!」

 

 

珍しく焦ったクローバーが手をかざすと、龍は再度ビームを発射しようとする。

 

 

「ウオラァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

その隙を逃さず、創真は再び龍の口にビルを飲み込ませる。

 

 

クローバーがしまった、と思った時にはもう遅かった。

 

 

創真は特大の重力子弾を口部にお見舞いした。

 

 

重力子弾が龍の口の中に入り、見えなくなった瞬間…………………その身が内部から弾け、大きな爆発が起こる。

 

 

「バカな………………龍が!!」

 

 

爆発に巻き込まれる直前、クローバーはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃー!!やりやがったぜ創真の奴!」

 

 

「あっぱれじゃ!!」

 

 

グレンやキョウヤは喜びの声をあげる。

 

 

「あ、創真の汚濁を解除しないと!」

 

 

今だ宙に浮いている創真に向かってホリーは飛翔する。

 

 

「……………待って!確かルークがあの龍の中にいたの!!」

 

 

「あやつはどうなったのじゃ…………!?」

 

 

皆は辺りを見回すが、何処にもその姿が見えない。

 

 

「キバット君、辺りを飛んで探してきてくれない!?」

 

 

「ルミアちゃんの頼みなら喜んで!」

 

 

キバットは超高速で捜索を開始する。

 

 

そして僅か1分後、直ぐに戻ってきた。

 

 

付いて来い、と言うキバットに案内されると、そこには俯せに倒れているルークの姿があった。

 

 

「んん………………あ?ここ何処だ?」

 

 

しかも丁度目覚めた。

 

 

「る、ルーク!お主大丈夫か!?」

 

 

「キョウヤ?あー何か体がめっちゃダルいがそれ以外は何ともねぇよ」

 

 

あの爆発があったのに、奇跡的に無事とは…………………皆はホッとした表情を浮かべる。

 

 

「そうだ、言わなきゃいけないことがあったな………皆、俺は今回」

 

 

「ルーク君は街を守ろうとした……………だろ?」

 

 

そう言ったのは、ホリーとデュオに肩を借りている創真だった。

 

 

「言わなきゃいけないのはこっちの方だよ。ルー君、街を守ってくれてありがと!」

 

 

「ルミア………………」

 

 

「皆、ルミアと同じ気持ちだろ?」

 

 

グレンの問い掛けに、皆は肯定の意を込めた笑みを浮かべる。

 

 

「でも創真、悪かった。操られていたとは言え、攻撃しちまって」

 

 

「弱かったから大丈夫です」

 

 

 

「チッ…………あーそうかい。そういや、クローバーは何処だ?一発殴らないと気がすまねぇ」

 

 

「呼んだかい?」

 

 

皆が振り向くと、ジャティスによって拘束されたクローバーの姿があった。

 

 

「やれやれ……………まさか龍を倒されるとは。恐れ入ったよ創真君」

 

 

「そりゃどーも」

 

 

満更でもない、と言った感じの表情を創真は浮かべる。

 

 

「アルベルト、彼の身柄は君に預けよう。後は好きにした前」

 

 

「……………分かった」

 

 

「おや?私は檻に入るつもりはありませんよ?」

 

 

「何言ってやがる?ちゃんと罰を受けやがれ」

 

 

「ほう?この国では死人を罰する事が出来るのかい?」

 

 

「「「え」」」

 

 

「幽霊?え、って事は死んでるって事だよね?」

 

 

キバットも声が裏返っている。幽霊嫌いなのだろうか?

 

 

「あんた、幽霊か?」

 

 

「違うよ創真君。私は3年前に死んだ。私は私の肉体から分離した異能さ」

 

 

「あー……………………そう」

 

 

創真が黙った所で、グレンが口を開く。

 

 

「で、アルベルト。こいつはどうする気だ?」

 

 

「……………当てはまる事例がなくて、判断のしようがない」

 

 

アルベルトが思案をしていると、創真が何か閃いた表情をした。

 

 

そのままクローバーに近寄ると、何か囁いた。

 

 

「ふむ………………牢屋よりはましだな。それに、君に興味が湧いた」

 

 

「なら、やるねー」

 

 

「待て、何を」

 

 

アルベルトの言葉を待たず、創真は文豪の世界のカードをかざすと、クローバーの姿が消えた。

 

 

「お、おい創真?」

 

 

ルークが声をかけると、創真はご安心を、と続けた。

 

 

「彼を文豪の世界の中に閉じ込めました。もう一切出てこれないので安心だろ?」

 

 

「勝手なことを………………」

 

 

「まぁ、死人は裁けないんだからこれが最適解だ」

 

 

デュオも賛同し、アルベルトはやれやれ、と言いたげな表情でため息をついた。

 

 

「さて、停戦もこれでおしまいだ。けりをつけようぜジャティス……………って、あら?」

 

 

さっきまであったジャティスの姿が消えていた。

 

 

ルークは辺りを見回すが、何処にもいない。

 

 

「さっき帰っていったよ?」

 

 

「止めろよホリー!!」

 

 

「いやぁ…………あ、『また近い内にまたお会いしましょう』って伝えといてって言われたんで~」

 

 

ホリーがのほほんと伝言を伝えた。

 

 

「お、朝日だぜ!」

 

 

キバットが日の出に気づく。

 

 

暖かい朝日が、街を、彼等を労うように照らしていたのだった。




THE NEXT story 6/17 PM 22:00

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