「き、キョウヤが2人!?」
フィーベルが驚きの声をあげる。
「いや……………奴は儂の偽者じゃ。リィエル殿、剣を借りるぞ」
返事も待たずに、キョウヤはリィエルの剣を取り、目の前の自分に斬りかかる。
それを、手に持つ刀で受け止める偽キョウヤ。
「3人は逃げるのじゃ!!」
「え、でもキョウヤが…………」
「儂の事は良い!!早く行くのじゃ!!」
キョウヤは声の限り叫ぶ。
確かに、武器もなし、そして魔術や錬金術が封印されている以上、足手まといになるだけだ。
「…………行こう」
リィエルの声に2人は頷き、その場を後にする。
「……………さて、偽者。消えてもらうぞ!」
キョウヤは剣を改めて握りしめ、偽者に襲い掛かる。
「………………………」
偽キョウヤは何も言わず、同じ動作で襲い掛かる!
そして、剣が交差した。
「…………流石、儂じゃ」
本物のキョウヤの持つ剣は根本からパキッと折れていた。
これで、完全に攻撃手段を失った。
偽者のキョウヤは本物に近づき、剣を高く構える。
「………………すまんのう、皆。今の儂では力不足のようじゃ………………」
「いや、君には充分力がある……………奥の手を使わない、素でもね」
そう答えた者がいた。
黒獣が何体も飛んでくる………………偽者のキョウヤは剣で弾いていたが、余りの数に危機感でも感じたのか、窓から離脱していった。
「やぁ、キョウヤ君。随分苦戦していたね」
「創真殿……………」
黒い外套を身に纏う創真。その手に持つ、『文豪の世界』のカードには、赤い文字で羅生門と綴られていた。
「にしても、君の本気があればあんなのすぐ倒せるでしょ?」
「……………やはり知っておったか」
「まぁね。知ったときは一瞬焦ったが、今となっては問題ない。どうやら、月下獣が発動のトリガーの1つとなるようだね………………使うかい?」
「………………いや、アレは危険すぎる。もし、お主かノーネームが止めれなかったら…………」
「分かった分かった………………あ、そういやノーネーム君は?」
「……………あいつは………………」
フィーベル達が家を出て走っていると、そこに複数人の姿が見えた。
「やぁ、3人とも」
「ホリー君にデュオ君…………それに、先生にセラさん、アルベルトさんも?」
「お前ら、怪我はないか?」
「大丈夫。それより、グレン達の方がひどい」
リィエルに言われてみれば、所々に怪我が見えた。
「あの、先生!この霧って……………」
「ああ。白猫、この霧の正体を聞いたか?」
「キョウヤが助けに来てくれたとき…………自分にやられたとだけ聞きました」
「まさにその通りだ。この霧の中では…………………
魔術・錬金術を持つ自分が切り離される」
アルベルトがそう真実を告げる。
要は、魔術・錬金術を使える自分と、魔術・錬金術を使えない自分に分かれてしまったと言うことだ。
「それと、な。言いづらいんだが…………………
ルークが敵側に回った」
「「「………え?」」」
ルークが敵側に回った?
「嘘……………そんな事って……………」
「残念ながら本当の事なのじゃ」
後ろを向くと、そこにはキョウヤと創真がいた。
「あやつは、この霧を発生させる首謀者をここに呼び寄せたのじゃ……………」
「そんな!」
「『1番頼りがいのある奴が敵に回る』………やれやれ、厄介だね」
創真は大きなため息をつく。
「ホリーやデュオも魔術は使えないが、幸い僕の文豪の世界は機能する。唯一の対抗手段ってわけ。それと、ホリー。頼んどいた事は終わらせた?」
「うん。残っていた人達を全員安全な場所に避難させたよ。残ってるのは、僕らだけなはず」
サンキュー、と創真は笑みを浮かべるが、すぐに厳しいものに変わる。
「さて………………僕は首謀者を捕縛しに行く。場所も見当がついた」
「創真君1人で!?危険すぎるよそんなの!!」
セラは優しい。人が危険に飛び込んでいくのを止めずにはいられないのだろう。
「対抗手段が僕しかいないからね…………少なくとも今は」
「だからって、お前1人だけを行かせるわけには……」
「グレン先生らはホリー達とここの防衛をお願いしたい」
────────ここの防衛?
疑問符を浮かべる皆に、創真はタブレットを取り出して、映像を見せる。
「見て。偵察機からの映像だけど、魔物がウジャウジャ湧いてきてる。町のさらなる被害を防ぐために、こいつらの殲滅をお願いしたいんだ。」
「そういうことか……………だが、魔術を使えない今、俺らには…………」
「と、言うわけで良い物貸してあげる」
創真は、グレン、アルベルト、セラに見たこともない武器を渡していく。
「……………なんじゃこりゃ?」
グレンは普通のより大きな銃を持ちながら云う。
「ビームマグナム。反動凄いんで両手で構えてちょーだい。あと、もう一つ。これはレールガン。これも色々ヤバイんで」
「えっと………これはなに?」
「グレネードランチャー。反動はほぼないに等しいです。セラさんは後方支援が向いてそうなので撃ちまくってください」
「…………そして、この2つは?」
「ビームソードと、ヒートロッド。ほら、ここのスイッチを押せば…………」
アルベルトが剣の持ち手の部分にあるスイッチを押すと……………緑色のビームの刃が出現した。
何度か振って、悪くないな、とアルベルトは呟いた。
ヒートロッドは簡単に言えば鞭です、と、創真は付け足す。
「よし、それでは行動開始と行こうか」
「待って創真君!私達も連れてって!」
フィーベルの申し出に創真は驚きの表情を浮かべるが、
その目が真剣なのが直ぐに分かった。
「……………行くな、って言っても聞かないだろうね。言うこと聞けよ。良いな?」
創真の言葉に、フィーベル、ルミア、リィエル、そしてキョウヤはこくりと首肯く。
「よし……………死ぬなよ、5人とも」
「そちらこそ」
互いの健闘を祈りながら、彼等は別れて行動を開始した。
ノーネームはとある砦に来ていた。
「……………………」
霧に覆われている町を暫く眺めていたが、身を翻しそびえ立つ塔の中へ入っていった。
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