E組の面々が囚われている部屋の扉がゆっくりと開いた。皆が注目するなか、1人の人物が入ってきた。
「やっほー、皆」
「碧海!?」
隼が驚きの余り立ち上がって問う。
「碧海ちゃん、私達の為に……………」
「あ、皆知ってたんだ。それと、創真君も同じく捕まったよ」
「あいつは何処にいんだよ?」
「別の所に囚われてる。事情が事情だから、しょうがないよ」
すると、寺坂は悔しそうにテーブルを叩きつける。
「俺達があっさりと捕まったりしなきゃ……………創真の野郎が何か一手を撃てたかも知れねぇのに……………クソッ!」
「「「……………………」」」
皆が沈黙するなか、新たに部屋に入ってくる人影があった。烏間である。
「「「烏間先生!」」」
皆が期待の籠った声をあげる。すると、渚が烏間の前に立つ。
「お願いです、出してください。学校に行かないと行けないんです」
「…………………こうなっては、俺にもどうしようもない。聞いた話によれば、山の中には『群狼』と言う傭兵集団が展開されている。彼等はゲリラ戦や破壊工作のエキスパート。特にリーダーの、クレイグ・ホウジョウ……………奴はどう考えても俺の3倍は強い。戦闘で奴を本気にさせては、勝ち目はない………………残念だが、あきらめるんだ」
「いやです!」
珍しく渚は大声を出して反発した。
「殺せんせーと話してないこと、やりたいことがまだ沢山ある!だから、学校に」
渚の言葉を待たず、烏間は襟首を付かんで自分の方に引き寄せる。
「出さない。そう言った筈だ。良く聞け渚君、俺を
「!!」
烏間は手を離し、渚は床に尻餅をつく。
「君らも、3日位頭を冷やして考えるんだな」
そして、烏間は出ていった。
「くそッ、やっぱダメか……………所詮、烏間先生も上には逆らえねぇって訳か……………」
隼は失望気味に呟くが、碧海は違った。
「でも、烏間先生は良い情報をくれたじゃん?」
「あ?」
「気づいてないの、隼?山の中には傭兵集団がいて、リーダーは烏間先生の3倍は強い…………さらに、3日位頭を冷やせ、って云うのは3日待ってもレーザー発射には充分間に合うとも読める。多分、それまでに烏間先生は何とかしてくれると思うよ」
「……………おぉ。なるほど」
感心したかのように隼が呟く。すると今度は渚が喋り出す。
「前に烏間先生、『もし俺が困ったら迷わず君達を信用して任せる』って言ってた。だから、困らせるなって言うのは僕らを信頼して任せるって事だよ。皆で考えて整理しよう。僕らがどうすれば良いのか……………殺せんせーがどうしてほしいのか」
その頃、特別な檻の中にいる創真らはと言うと。
「(さて、そろそろ始めようか)」
創真はテレビを消して、スッと立ち上がる。そして、テレビリモコンを手が滑ったかのように落とす。
カーン─────────
そんな音が響き渡った。
それを聞いた隣のホリーらは、目配せで会話する。
「(合図が来たね!)」
「(よっしゃあ!作戦開始だ!デュオ、頼むぜ)」
デュオは頷き、壁に寄り掛かる。すると、彼の着ている白い衣服から、白色の獣が少しだけ飛び出す。
「溶け込め」
デュオが小声で呟くと、白い獣は自分の身体の色を変化させ、周囲に溶け込む。カメレオンの如く、周囲に溶け込んだ獣はスルスルと進んでいき、ドアの下の隙間からスッと外に出る。
「(にしても、デュオの能力も進化したな。色を変えて、景色に溶け込ませるなんてな)」
「(そして、国の人間はデュオの異能力を大雑把にしか知らないから、デュオに服を着せてしまった。それが、唯一のミスだ)」
ホリーは魔法を使おうとすれば声に出さなければならないから、それをすれば何かしようとしていることがバレて、創真に被害が及ぶ。キバットに関しても同様の事が言える。だから、ホリーらの部屋には音声も拾う監視カメラがつけられていた。確かにこれで、ホリーとキバットの対策は出来ていたが、唯一デュオに対しては1つの彼等の勘違いで、対策が出来ていなかった。
デュオの能力は自身の着ている黒い外套を不定形の黒獣に変化させる、と烏間も含め皆はそう思っている。だが、それは微妙に違う。デュオの本当の異能力は、『自身の着ている衣服を不定形の獣に変化させる』なのだ。烏間や国の人間は、デュオの黒い外套が無ければ獣は出せないと思っているのだが、実際は何でも服さえ着ていれば発動するのだ。だから、デュオに対してするべき本当の対策は、服を着せない事だったのだ。加えて、デュオの異能力は進化して、色を変えれるようになったので、今も監視カメラを通して見ている監視員の自衛隊員には、デュオが異能力を使用していることは分からなかった。
デュオは目を瞑って自分達がここまで歩いてきた時に覚えた道取りを思い起こしながら、その通りに見えない黒獣を操作していく。そして数分後、デュオは目を開けて2人にしか聞こえないような小声で喋り出す。
「今から、この施設への電力供給を止めてやる」
そそして次の瞬間、部屋の電気が消えた。同じく、設置されていた監視カメラも停止する。その瞬間、デュオの服に獣が戻ってきて、静かに服の中に戻る。
「流石デュオ。作戦通りやってくれたね」
漸く創真は口を開いた。
「礼には及ばん。この建物へと繋がる配電線は全て切っておいた」
「…………………おい、人が来るぞ。数は1人」
耳の良いキバットが彼等にそう報告する。
「よーし、次の段階に移るよ」
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僅か1秒以内に起こった事だった。懐中電灯を持ち、囚われの身の彼等が停電に便乗して逃げ出して無いかを確認しに来た自衛隊員は、唐突に大きな音がしたと思えば扉が吹き飛び、その0.001秒後に飛び出してきたホリーに銃を奪い取られ、声を出す暇もなく布型のデュオの獣が自衛隊員をぐるぐる巻きに拘束された。ついでとばかりに、装備していたトランシーバー等も奪われた。
「動くな。声も出すな。少しでも動こうとしたら……………」
そう言いながらデュオは何もない所から出現させた愛用の鎌を取り出し、首元に突き付ける。
「………………殺すぞ」
元死神の殺気の入り交じった言葉は、男がデュオに従う事を直ぐに決めさせる程の迫力があった。
「さて、死にたくなければ質問に答えてもらおうじゃないか。今、この施設にお前を除いて後何人お前の仲間はいる?」
「お、俺とあともう1人だけだ。う、嘘じゃないぞ!」
「そーかい。嘘だったら、承知しないぞ。で、もう1人は何してるんだ?」
「恐らく、電源の復旧作業を行っている筈だ………」
「ホリー、もう1人も制圧してこい」
「りょーかい」
そう言って、ホリーは一瞬で姿を消す。
「……………所でデュオ。創真の部屋の扉も開けてやれよ」
「………………そう言えば、忘れていたな」
デュオは白獣を刀のような形状に変化させ、斬撃を走らせた。扉は跡形もなく崩れ、創真が出てくる。
「よーやく出れた。さて、質問はまだ終わりじゃないよ。これから、あんたら2人以外に誰か来る予定とかあるの?」
「い、いや。暗殺終了までの期間、我々2人だけでこの施設に泊まり込み、交代でお前たちを監視する予定だった。ここにくる者はいない筈だ」
「ふーん…………(まっ、とある裏社会に精通してる人から聞いてたけどね)」
すると、ホリーが気絶した男を連れて帰ってきた。
「いや、危なかったよ。あと少し遅かったら、外部に連絡を取らせる所だったよ」
「連絡してないよな?」
「寸前で通信機を奪って、気絶させたよ。それと、デュオ」
ホリーはデュオに黒い外套等々やスマホを。創真にも服とスマホをパスした。
「金庫に保管してあったのを取ってきた。無論、僕の服もね!」
そう言ってホリーはくるっと回転すると、いつもの白い服に戻っていた。デュオも着ていた白い服を脱ぎ捨て、いつもの服装に戻る。それを見たキバットは明るい声を出す。
「やっぱ、お前らはそれが1番お似合いだぜ!さて、創真。これからどうする?バリア、破壊しに行くか?」
「そんな事したら、我々が檻から出たのがバレる。そしたら、皆をまた人質にして振り出しに戻される。次はさらに厄介な警備になって、多分脱出は難しくなるね。だから、皆が脱出するまで僕らはここで待機して、捕まってるって言う設定にしとかやきゃいけないね」
「確かにそうだな………………よし、でこいつらはどうする?」
キバットは2人の自衛隊員をチラッと見る。
「念のため身ぐるみ剥がして、ホリーとデュオが着ていた白い服を着せて、檻の中に入れときゃ良いでしょ。あ、そう言えばさ。何か僕やホリー、デュオ、キバットが何か脱獄とかしそうな事したら、僕の部屋に高圧電流が流れるとか言ってたけど、あれって本当だったの?」
「あ、あぁ。電流は流れるが、スタンガンより少し強い程度の物だ」
「それ、そこまで高圧じゃなくね………………まぁ、良いや。じゃ、ホリー。僕の部屋に入れておいて。僕も、あんたらが何か不用意な事したら、電流流してやろっと」
ホリーは白い服を高速で着せ、檻の中に2人を放り込んだ後、細切れになっている扉を修復してつけ直し、自衛隊員の2人を閉じ込めた。
創真らは階段を上がって監視カメラのモニターがある部屋に来た。部屋の中は勿論、真っ暗だった。
「うーん。僕らは出れたし…………キバット。配電線を繋ぎ直せる?」
「んなの、容易いことよ!ちっと待ってな」
キバットは部屋を飛び出す。数分後、部屋に明かりが灯った。
「さて、作業でもやろうか……………」
創真がそう呟いた直後、ホリーが没収した通信機から声がした。
『こちらは作戦本部。奴等は変な行動を起こしてないか?どうぞ』
それを聞いたデュオはハンドサインで、それを貸せと云う。ホリーは通信機を渡し、デュオは咳払いをした後に口を開く。
「問題ありません。彼等は何も妙な行動は起こしていません。どうぞ」
先程話した自衛隊員そっくりの声で答えた。
『そうか。それなら構わない。それでは、あと1週間よろしく頼んだ』
そう言って通信機は沈黙した。
「上手く誤魔化せたね。見事な声真似だ」
「デュオは何でも出来るなぁ……………」
創真とホリーは感心した様子を見せる。デュオは照れ臭そうに話を振る。
「そんなことより、作業をしなくて良いのか?まだやることは残っているだろ?」
「あぁ、そうだったね。よし、王の間から色々と運んでこないと……………」
創真が王の間からワープしようとしたとき、何かを思い出したかのようにあぁ、と思い出す。
「父さんに電話しておこっと」
「え、大丈夫なの?電話してるのとかバレたら、不味いんじゃ………………」
「大丈夫。バレないように特殊な電波を使ってるから…………………もしもし父さん?うん、ジャックしたよ。うん、大丈夫。それで、他の皆が脱出したら、また電話してほしいんだよね。そ、じゃよろしく」
創真は電話を切る。
「よーし、作業開始だ!」
今度こそ創真は消える。
「あ、僕も創真のアレの作成の続きをしなくちゃ!最低でも、1つは実装しないと!」
ホリーも消える。そこへキバットが戻ってくる。
「おい、デュオ。創真とホリーは?」
「作業に戻った。キバット、俺達も手伝うぞ」
「そうだな。よし、やるか!」
レーザー発射まであと7日…………
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