やはり、この主人公は黙って見てる訳がない。
茅野が跳び去った方向を創真は暫く見ていたが、準備室の屋根から飛び降りて、皆の元へ行った。
「そ、創真君……………カエデちゃんに殺されかけたって本当?」
「うん。崖から突き落とされた」
その言葉に、皆は表情を暗くする。茅野が創真を本気で殺そうとしたことが信じられなかったのだ。デュオが憑依を解除して口を開く。
「それにしても、彼女は最初から触手を隠し持っていたのだろうな。体に負担が大きすぎたんじゃないのか?」
「……………メンテもせずに触手を表情も変えずに隠し持てる筈がない。あれは地獄の苦しみだ。脳の中を棘だらけの虫が暴れまわる感じが絶えず続く」
かつて触手を持っていたイトナが言うのなら、相当の苦しみなのだろう。
「あのー……………さっき茅野ちゃんが言ってた雪村 あぐりって誰?」
碧海だけでなく、創真や隼も同じ気持ちだった。
「俺らの前の担任だよ。碧海さん達は知らないけど、2年の三学期の間だけ、担任をやってたんだ」
「で、今その先生は何処に?」
創真は磯貝に訊くが、磯貝は首を横に振る。
「ちょっと良いか?」
そう言ったのは三村だった。
「茅野を何処かで見たことがあるって気がしてたんだ………で、さっき髪を下ろしてたのと、きつめの表情で思い出した」
三村はスマホを操作して、ある画像を見せる。
「磨瀬 棒名って天才子役がいたんだ。今は休業してて…………雰囲気も全然違うし、分からなかった」
「…………………………」
1時間後
創真は1人、王の間で玉座に座っていた。あの後、茅野から連絡が来て、7時に椚ヶ丘のすすき野まで来いとのこと。特にすることもないので、一時解散となったのだ。
当然、ここの空気も重い。
「………………創真。茅野ちゃんが許せないか?」
何故そんなことを訊く、と言った目で創真はホリーをチラッと見る。
「茅野ちゃんは……………今まで楽しいことをしてきたのも、多分全部演技だったんだよ……………だから……………その……………」
ホリーもこれ以上は言葉が出なかった。
「……………確かにホリーの言う通りかも」
そう言って創真は静かに立ち上がる。
「欺かれてたのは確かに良い気持ちじゃないね」
「……………創真はどうする?」
デュオの問いに創真はもちろん、と続ける。
「茅野ちゃんの暗殺を止める。命に関わるからな。多分殺せんせーには茅野ちゃんが知らない何かしらの事情があるはず。もし、殺せんせーが殺されたら…………茅野ちゃんは真相を知れないし、後々後悔するだろうからね」
「……………で、どんな作戦で行く?」
「作戦としては、茅野ちゃんの攻撃を受け止めつつ、触手を抜く方法を探す。これが基本コンセプトだ…………あと、イトナ君にも触手について色々聞いておこう。さて…………」
そして、7時。
「来たみたいだね!じゃ、終わらそっか」
すすき野に集まった皆の前で、茅野は笑顔でそう言う。
「茅野ちゃん。メンテもせず持っていたその触手……………すぐ撤去しないと…………死ぬよ?」
「うるさいな、創真君は!!いちいち首を突っ込まないでよ!!」
「君は大事なクラスメイトなんでね。そうは行かない」
「………………ほんと、創真君はうざったい………な!」
ボウッ!!
触手が炎を纏い、円を描いた。すると、炎のリングが出現する。皆は驚いているが、創真は無言で茅野を見据える。
「これで最後にするが…………その状態では、身体に大きな負担が掛かる………………やめるんだ」
「私はやると決めたら一直線なの!絶対に!!」
「……………そう。なら、僕もやるとしましょう」
そう呟き、創真も炎のリングに足を進めた。
「創真君!!」
「大丈夫だよ、陽菜乃」
心配する倉橋に頬笑み、前を向いて茅野を見据える。
「……………殺されたいの?」
「どうかな………仮に死にたくても、君じゃ僕は殺せない」
「言ってくれるね……………!!殺せんせーの前に出るなら、創真君から殺してあげるよ!!」
「…………デュオ」
後ろにいたデュオは首肯き、創真に憑依する。纏った黒外套から黒獣が2体出てきて、大きく唸る。
「殺し合い………と言うのが今の状況にぴったりかな?さぁ、始めようか!!」
創真の叫びに応えるように、黒獣も吠える。
茅野VS創真の死闘が………………幕を開けた。
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