じゃ、どうぞ!
「僕の中で…………人の顔が明るいときは安全。暗いときは危険ってイメージがありました。鷹岡先生とやったときも、暗いときは攻撃を避けるのに徹してました。何となくですけど………」
殺せんせーはまだ無言だ。
「この前死神に受けた 技で、視界が一気に変わりました。僕が感じていた明暗は、意識の波長だったと分かりました。今なら、死神と同じことができると思う。…………大した長所もない僕には、この先望めない才能だと思います。だから殺せんせー……………………
僕は殺し屋になるべきでしょうか?」
気になってついて来たキバットも、この言葉には度肝を抜かれた。殺し屋を将来の選択肢に入れてしまうなど………普通はないからだ。
「…………渚君」
「………はい」
「正直に言うと、君に暗殺の才能があることは疑う余地もない。波長を見抜く観察眼に加え、どんな敵にも立ち向かう勇敢さも素晴らしい」
が、と殺せんせーは言葉を一旦切る。
「君の勇気には自棄が含まれている。『僕ごときどうなっても良い』、と」
殺せんせーの指摘に、渚は息を呑む。
「先ずは何故君がその才能を身に付けたか、よく見直しなさい。そうすることで、何故君がその才能を身に付けたか、誰のために使いたいか見えてくるはずです。もし、それでも君が殺し屋になりたいと思うなら、先生は全力でサポートします」
目を瞑って聞いていたキバットは廊下から静かに姿を消した。
(…………………さて……………)
「………………渚が殺し屋?」
放課後、碧海と一緒に帰っていた創真はキバットの言葉に眉を潜める。
「そりゃまた危険な仕事を選んじゃってるね~。逆にすごいと思う………」
碧海は逆に感心している。
「…………………俺様が思うに、恐らく親が何か絡んでると見た」
「親?親と渚が殺し屋を希望するのに何の関係があると?」
「知るか、そんなこと!だが、俺様の勘がそう告げてる。と、言うわけで、今日渚の家にちょっくら行ってくるわ!そんじゃ」
キバットは創真から離れ、1人飛んでいった。
「…………意外と過保護だな、あいつ」
PM 5:30
「まだ帰ってこないな。そんなに面白い話が聞けてんのかね?」
「どうだろうね~。どうせ、美女に目を奪われて何処かほっつき飛んでいるんじゃない?」
「碧海さんの説が最有力だな……………にしてもさ、僕らも暇だし行かない?誰かに捕まって、動物園にでも送られて面倒くさいし」
ホリーがケーキを食べながら提案する。
「えー…………まぁ、確かにトラブってたらやだし………行くか」
創真が嫌々腰を上げ、支度を始めた。
家から15秒で、渚の家付近に到着。
「んで、キバットは何処?」
「取り敢えず捜してみるか」
創真らは辺りを捜索する。が、何処にも姿が見当たらない。
「やれやれ。結局美女に目を奪われて何処かほっつき歩いてるみたいだな。あーこの時間無駄だったわ。じゃ、帰」
「お?お前ら何してんだよ」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには捜索対象のキバットがいた。
「ったく、何処行ってたんだよ?渋谷にでも行ってたのか?」
「なわけねぇだろ!それより、ちょっとそこの公園に行こうぜ。話したいことがある。色々分かったんだけどよ……………」
「お、おっかねー…………渚の母ちゃん、モンスターペアレンツだったのかよ」
ホリーが怯えた表情をする。キバットの聞くところによると、渚の家の場所は知ってたが、部屋番号までは分からず途方にくれていると、突然ヒステリックに叫ぶ女の声がしたらしい。
で、叫び声がする部屋のベランダから覗くと、渚の髪を引っ張って叫ぶとんでもないババ……………いや、渚のお母さんがいたらしい。それで自慢の耳で暫く聞いていたそうだ。
「渚の観察眼の鋭さは、この母親が原因だな。大方、渚は母親の顔色伺って生きてきたから、観察眼に優れてるんだろうな」
「で、具体的にどんな話してたのか?」
「えっとな……………まとめると、どうもあの母ちゃんは渚をE組から抜けさせようとしてるらしくてな。まぁ、それに反対でもしたからキレたんだろうな。んで、明日殺せんせーに会いに行くんだとよ」
「そうかそうか………………殺せんせーに……………え?」
「おい───!!それヤバイだろ!!バレたらとんでもない事になるぞ!!」
「烏間先生は出張でいないし、あの痴女ビッチではダメだ」
「なら、氷室さん?いや、名目上の担任は烏間先生だし、ダメか」
「ぎりアウトだな」
「ちっ、詰んだわ!」
5人はあーでもない、こーでもないと議論を続けたが、良い解決策は出なかった。
「くそ、最低だ!あのバカタコじゃ、何かやらかすに決まってる!!くっそ、烏間先生がこういうときにいれば………………」
ホリーが殺せんせーをバカ呼ばわりする。
「はぁ…………………」
デュオはため息をつく。
「こりゃヤバイね~」
碧海さんはいつも通り。
公園の空気が若干重くなった。
「…………あれ?創真君?それに碧海さんやホリー君たちも?」
顔を上げると、渚がいた。
「渚君………………何故ここに?」
「ちょっと気分転換したくて」
渚は創真の隣に座る。
「あの…………うちのキバットから聞いたんだけどさ………」
「うん。こっそり最後まで聞いてたの分かってたよ。姿がちらっと見えたんだ」
「……………バレてたのかよ。渚は苦労してるな」
「そんなことないよキバット君。普段は大したことないから」
「で、明日どうするの?面談に来るんでしょ?」
「うん。さっき殺せんせーに電話で言ったんだけど、任せろって豪語して…………」
「「「「「不安だ」」」」」
5人全員、意見一致。渚はアハハ………と、苦笑い。
「まぁ、1つアドバイスするなら、自分の気持ちは明日にでもしっかり伝えた方が良いかな。難しいかも知れないけど、言わなかったら後悔するかもよ?」
「……………うん。分かってくれるか分からないけど、やってみるよ」
「そう、それで良い。じゃ、僕らは帰るよ。おやすみ」
「うん。おやすみ」
創真は碧海を抱えて飛び去っていった。明日、上手く殺せんせーが説得してくれますように……………三日月に祈る渚であった。
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蛇足だけど、MPはモンスターペアレンツの略です………。