隼side
翌日から当然と言えば当然なのだが、創真は完全に孤立した。とは言え、本人は全然涼しい顔をしてたが。
「隼、顔が暗いな。昨日のまだ引きずってるのか」
「別にぃ………そんなのじゃねぇよ」
「そんなのって?」
「…………………」
俺は何も答えず、昨日の事を思い出していた。
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隼と碧海はテストの結果通知を父親に見せた。
「碧海は今回も1番の成績だ、な」
一言褒め、父は隼の結果通知に目をやる。
父は隼の結果を見るなり、隼に平手打ちをした。碧海は驚きの表情を見せ、何かを言いかけたが、口を閉ざしてしまった。
「俺は首位を守れない低能は求めてない。で、お前から首位をうばった奴の名前は?」
「…………結城 創真って奴だよ」
「チッ、奴の息子か………………忌ま忌ましい。次そいつに負けたら2回殴って5回蹴る。分かったらとっとと出ていけ」
「……………………」
隼は何も言わずに出ていった。
今日ので色々分かった。父は屑人間であったと言うことに。1番じゃなきゃ気にくわないのだ。そして、1位じゃなきゃ暴力で制裁を加える……………暴君ってことに。
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「………………隼?」
「……………!わりぃわりぃ。ちょっとボーッとしてた」
「本当にお前大丈夫か?」
───────大丈夫……………って言ったら嘘になるんだけどな。
内心でそう苦笑する隼。そして、廊下が騒がしいことに気づいた。
「なんか廊下うるさくね?」
「確かに……………なんだ?」
廊下のざわめきに、彼等はやっと気づいた。
「おい、今廊下で喧嘩が勃発してるぞ!」
クラスの誰かが教室にそう叫ぶと、興味津々の野次馬共は廊下に顔を覗かせた。無論、隼もだ。
廊下で戦っていたのは───────
「もー暇なんで帰って良いかい?君が殴っては、空振りでの繰り返しで飽きたんだが」
「今やってんだよ!!」
察しがつくだろうが、今戦ってるのは、創真と昨日創真に倒された彼だ。言動から察するに、どうやらなんのダメージも与えられてないようだ。
「で、まだ?僕は早く昨日買った漫画の続きが気になるから、早いとこ終わってもらって続きを読みたいんですけどー。日本語の意味、分かりますかー?」
「調子に乗りやがって…………!!お前ら、作戦通りにやれ!!」
すると野次馬の中から2人の男子生徒が飛び出し、創真の手を拘束する。
彼の下っ端達だ。
「ほほーう、そう来たか」
「オラ、何か言うことあるか?」
「そうだなぁ………………さい」
「あ?聞こえねーぞ」
「だから…………………………頭突きにご注意くださいって言ったんだよ」
「な……………ガハッ!!」
創真の頭突きを喰らい、鼻血を出してしまった。
「はい、そして君達も邪魔」
創真は手を拘束していた下っ端を何ともなかったようにまとめて投げ飛ばした。
「やれやれ、勝負ありだね。それにしても、君達もしつこいなぁ。はっきり言うけど、君達じゃ弱すぎて僕を倒すには100年は掛かるだろうね。相手にするのも飽きたし、こう言うときは生活指導の先生に言うのが良いのかな?」
「勝手に言えば良いだろうが。そんなことされても、痛くも痒くもないぜ?」
「でしょうね。そんなとこだと思ってたよ。なら、こう言うのはどうかな?」
創真は懐から写真を数枚、彼の元にばらまく。それを見た瞬間、彼の顔が真っ青に染まった。
「この写真に写ってるの、君だよね。いやー、いけませんねぇ。まさか、浮気してるとはねー?」
隼も写真を覗き込んでみた。その写真には、そいつともう1人、女の子が手を繋いでるところが写っていた。それだけなら何の変哲もないのだが、それが複数枚もあり、しかも写っている女子は全員異なる。
「他にも色々とあるけどね。さーて、この写真はどうしよっかなー?学校中にばらまくか。いや、それよりも、この写真に写っている女子に送ってやるか」
「ま、待て!それだけは止めろ!」
「止めろ?言い方が違うんじゃないかな?」
「…………やめ、て下さい」
悔しそうに顔を歪めながら、彼は消え入るような声で呟いた。
「……………………そーだねぇ。なら、今後一切僕に何の危害も加えようとしないなら、良いけど?」
「わ、分かった!もうお前に関わらねぇから、やめてくれ!」
「はいはい…………………さて」
創真は視線を彼から外して、皆の方に向ける。
「言っておくけど、君達もだよ。もし、彼みたく僕に何かしらの危害を加えようとしたら、君達もこうなるかも知れないことを覚悟しておいてね。あまり僕を侮らない方が良いと思うよ。別に仲良くしろとは言わないけど、厄介事を持ってくるのを止めてほしいだけだから。じゃ」
言いたい事を全て言い終えた創真は、教室へ戻ろうとする。
「待てよ創真」
彼の足を止めたのは隼だった。
「お前、この写真をどうやって見つけた?昨日の今日で早すぎないか?」
「早すぎないか、だって?僕にとっては、1日あればこんな情報を突き止めるなんて、容易いことさ。どうやって見つけたかは秘密だけど」
「怪しいな。この写真も合成とかじゃないのか?」
「合成だとしたら、何故彼がそこまでビビっていたんだい?」
「それは…………………………………」
隼が答えに詰まっている間に、創真は別の質問をしてくる。
「所で隼君。小耳に挟んだんだが、ここの教師の中に、社会の先生で、陰で女子にセクハラをするのがいると聞いたんだが、それは本当かな?」
「え………………ま、まぁ、俺もそれは聞いたことがある。担任やらに相談する女子もいるそうだが、当の本人は何年も前からいる古株の教師だから、言えないとかそんな事を聞いたことがあるぜ…………けど、何で唐突にその話題を?」
「…………………………」
創真は何も言わない。
「おいおい、まさか次はそいつを潰すとか言うんじゃないだろうな?まさか、揺さぶるネタも既に掴んでるのか?」
「さぁね。まぁ、取敢えず来週の今日くらいを楽しみにしてたら、とでも言っておこうかな?」
創真は恐ろしいほどの不敵な笑みを浮かべるのだった。
それから1週間後の朝の教室。隼はそんなことも忘れて雑談を友達としていた。そこへ、担任が入ってきたので、皆は席につく。
「えー、じゃあHRを始める。じゃあ、日直の人…………………」
そんなこんなで、朝のHRは続いていき、そして最後に先生からの連絡がされて、終わりを迎えようとした時だった。
「あぁ、そうそう。今日、お前ら社会の授業があると思うけど、それは自習な」
「自習かよー。あの先生どうしたんだよ、サボりかー?」
誰かがおどけた様子で大声で言い、皆は笑いを浮かべる。しかし──────────
「笑い事じゃないぞ。恐らく、今週の社会の授業は全部自習だからな。と言うのも………………あの先生、辞めたんだよ、ここを」
「「「……………………………」」」
皆は暫く言葉が出なかった。
「え、先生。辞めた、ってのは…………」
「文字通りだよ。あの先生、唐突に退職届を出してな。校長先生もビックリして、理由を聞いたんだが、頑なに答えなくてな。結局、退職届は通って、昨日で先生辞めた、って訳だ」
(まさか…………………)
隼は創真の顔が浮かんだ。否、創真だけでなく皆もだった。
「まっ、よく分からんが俺が知ってるのはここまでだ。そんな訳で、HRを終わるぞー。授業の準備をしとけよー」
そう言い残して、先生は教室を出ていった。
「おいおい、マジかよ……………」
隼は席を立って、隣の教室へ駆け込む。そこでは文字通り創真が皆に囲まれていた。
「おや、隼君じゃないかー。元気そうだねー」
「おい、創真。お前があの先生をここから辞めさせたのか…………………?」
「………………………あぁ。と言っても、正確には彼が自主的に出ていくように仕組んだんだけどね」
その言葉を聞いて、隼を含め皆は言葉が出てこなかった。
「まっ、これでこの学校にはびこる悪質な人間は消えたし、皆さんも良かったんじゃないですか?僕としても、恐らく皆さんは僕に対して何かしらの危害を加えようとは完全に思わなくなるでしょうし、一石二鳥って事だ……………」
創真はスッと立ちあがり、教室を出ていく背中を皆は見つめるしかなかった。
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