機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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かつて復讐に駆られ軍に入った少年は、数々の戦いと出会いを経て、強く逞しい壮年へと成長した。
そして、遂にその戦いに終止符を打つ。他の誰でもない、自分自身の手で。

それぞれの想い、そしてムゲンが決めた最後の道は――


73:虹の軌跡・上

 5機のガンダムがゆっくりとコロニーへと入っていく。

 

「……これは……」

 

 機体を降りて、周囲を見渡す。

 

 この景色を、俺は知っている。

 

 ずっと……ずっと昔の記憶。

 

 道夜も、その景色を見てはっとした。

 

「……ここは……。何故……」

 

 リリーが不思議そうに俺を見る。

 

「先生……どうしたの?」

 

「……ここは………」

 

 そうだ、ここは……

 

 足は自然と居住区へと向かっていた。

 

「居住区に入って、そこから左に曲がり、突き当たったところに見える黒い色の屋根の家……」

 

 呟きながら足を運ぶと、そこに建っていたのは、かつて俺が両親と住んでいた家。

 

 どれだけ望んでも、二度と戻ることは出来なかった……俺の…故郷。

 

「……これが、お前の家か……」

 

 道夜がつぶやく。

 

 俺は小さく頷き、再び別の場所へと足を向ける。

 

「帰って来た時、父に手を引かれ、この道を進んだ」

 

 そして、大きな建物の扉を開く。

 

「……ここだ」

 

「ここが……どうかしたんですか?」

 

 エトワールが静かに口を開いた。

 

「…ここが、俺にとっての…"全ての始まりの場所"」

 

 過去の記憶が蘇る。

 

 

『父さん…ここはどこなの?』

 

 

「そんな俺の問いに、父はひたすら何でもないと言い続けた。そして、大きな振動、そのまま俺はクローゼットへと押し込まれる」

 

「父が最期に見せた笑顔は、とても悲しそうだったのを今でも覚えている」

 

「そして、クローゼットの隙間から部屋をのぞいた時、俺の両親はジオンの兵士に撃ち殺されていた」

 

「死んでいるのにも関わらず、何度も何度も持っている銃で射的の的のように俺の両親の顔を撃っていた」

 

 それを聞いてエトワールが

 

「なんて………惨い…」

 

「……そして、俺はその恨みから連邦へと入隊したんだ」

 

 今でも、憎んでも憎み切れない事ではある。

 

 だが、今はもうそれだけじゃない事を理解している。

 

 だから、彼らを許せる気がした。

 

「……何故、俺にこの景色を見せようとするのか……」

 

「それはたぶん、これを作ったアイツが、俺の事を追い込もうとしているからだろう。………そうだろ、ベルベット」

 

 銃を構え、クローゼットへ向ける。

 

 

 すると、クローゼットがゆっくりと開き、あの男が姿を現す。

 

 そして、男は不敵に笑って言う。

 

「そんな物騒な物は仕舞うんだ、ムゲン。ここには、お前の両親が眠っているんだ。今の姿をお前の両親が見たらどう思う?」

 

「ふざけるな!俺の両親は、あの時死んで、そのコロニーももう……ないんだよ!!」

 

「…あれから既に17年という時間が経っている。そして、直に宇宙世紀は100年という区切りになる」

 

「そろそろ、君たちとも因縁を断ち切っておかねばな?」

 

 道夜が銃を構え言った。

 

「それは光栄だな。丁度俺たちもお前との縁を切りたくてここに来たんだ」

 

「…八雲道夜。お前もサイド2出身だったな?」

 

「だったら何だ。全て、全てお前が指示し、俺を改造させた。いいや、俺だけじゃない。ムゲンも、クロノードも、全てはお前が仕組んだことだ」

 

「いけないな、八雲道夜。知ってはならないことまで知っている」

 

「クロノードまで……?!」

 

「まあいい。丁度いい機会だ、教えてやる」

 

 ベルベットは静かに言葉を続ける。

 

「確かに、俺は道夜、そしてムゲンを強化人間へと変えた。それだけじゃない、純粋なキリング・マシーンとしてお前たちがクロノードと呼ぶ少年も強化人間へと変えた」

 

「…だが…クロノードはジオンの人間のはずだ!!」

 

「そうか…お前は知らないのか。アイツが元々"()()"の人間だったことを」

 

「っ…!?」

 

「いや、連邦の研究所で強化手術とケアをしたんだ。そして、未完成だと知ったからジオンへ"売った"」

 

「それを…お前が…!?」

 

「そうだ。ジオンは嬉しそうに買ってくれたよ、"命令に忠実な兵士"とな」

 

「………貴様…!!!」

 

 銃を握る力が強くなる。

 

 アイツが居なければ…クロノードは生きていた……。

 

 そう思えば思う程……。

 

 だが、その手をリリーが優しく包み込み、首を横に振る。

 

 それを見て面白いと思ったのか、彼は言葉を続ける。

 

「それだけじゃなかったな。ジェームス、そしてリリー、君たちもそうだった」

 

「だが、君たちは強化手術を受ける前に逃げられてしまってね。随分手を焼いた。特に、リリーには困ったものだよ。ジェームス、君が逃がしてしまったから」

 

 それを聞き、ジェームスが叫ぶ。

 

「黙れ!どれだけ俺とリリー…いや、研究所の子供たちを傷つけたら気が済むんだ!!」

 

「ふん。だが、力が欲しいと言ったのは君のはずだ」

 

「っ……」

 

「リリーの死が辛かったんだろう?だから恨みを晴らすためならどんなことでもやってやる、そう言ったのは君だろう?だから力をやった」

 

「確かにそうかもしれない……。でも、リリーは生きている!俺があの時命を懸けてでも守ろうとした子は、俺の隣にいてくれている!だからもう、憎しみだけで生きる事はしない!!」

 

 リリーも頷きながらジェームスの言葉に続く。

 

「私も同じだよ。皆、私を支えてくれてる。だからもう、迷うことは無い」

 

 彼はつまらなそうに首を振り、エトワールへと口を開く。

 

「そうだ、君とも縁があったね。エトワール」

 

「………」

 

「いやはや、君の両親は忠実で助かったよ。そのおかげで、ちゃんとサイコフレームの機体まで完成したんだ。感謝しきれない」

 

「…貴方は、そうして父と母が時間と命をかけて造り上げたものを使い、また争いを繰り返そうとしている。そんな事に何の意味があるんです」

 

「意味などない。ただ、人が繰り返すという事実だけ、そこに残る。意味など、所詮授業でしか使わぬもの。歴史の一部となり、生きる者たちに意味を説いたところで、返ってくるはずもない」

 

「……どんなことにだって意味はあるはずです。私が今を生きる事も、あなたとこうして話していることも」

 

「では何だというのだ?答えてみてほしい」

 

「それは……」

 

「そうだ、何もないのだよ。意味よりも、事実のみが存在する。意味など、人が取ってつけたような綺麗ごとなんだ」

 

「くっ……」

 

 

 

 

「…もういい」

 

 俺は静かに口を開く。

 

「ん?どうしたのかな?ムゲン」

 

「お前がどんな気持ちで此処に居るかなんか、もうどうだっていい。俺は……お前を殺すためにここに来た。さっさとMSに乗ったらどうだよ…!!!」

 

「おやおや、俺はまだ紳士なんだがな。俺の"二ヒリティ"には、お前たちの機体など足下に及ばんから言っている。お前たちが望む、"言葉での解決"というので済ませようとしているのだが?」

 

「俺たちに言葉での解決など…ない。お前は……今を生きる人を見ているんじゃない。自分しか見ていない…!」

 

「すべて自分の思うようになると思っている…!!」

 

「そうだが?それが悪い事か?」

 

「コイツ……!!!」

 

 彼はふっと笑い、続ける。

 

「まあいいだろう。お前の望み通り、二ヒリティで戦ってやろう」

 

 彼がパチンと指を鳴らすと、地響きが起き始める。

 

「………ベルベット…」

 

 そして、彼は建物を出ながら言う。

 

「決着の時だ、ムゲン・クロスフォード」

 

 そして、次の瞬間、建物が消え去り、その場に赤いガンダムがこちらを見下ろしていた。

 

「………」

 

「先生……!」

 

「ムゲン!!」

 

「分かってる!!!……」

 

 相対する5人、俺は大声で叫んだ。

 

 

「レゾナンス!!!!!」

 

 

 居住区を空から飛び、そして俺の元へとガンダムが降りたつ。

 

 

[……そうか、ニュータイプとして目覚めたか。だが、それがどうだというのだ。世界を変えられるとでも?]

 

 機体に乗り込みながら言う。

 

「変えて見せるさ、少なくとも、俺の手で出来ることくらいは!!」

 

 遅れて他の機体も集まり、5機のガンダムが並ぶ。

 

[悪いが、俺もまだ知らなければならないことが沢山あるからな。…だから今は、お前という存在が邪魔だ……!ベルベット!!]

 

 道夜がビームライフルを構える。

 

[…世界なんか変えるつもりはない…。けど、皆で一緒に歩める道だけでも…!私は…拓いて見せる!!]

 

 リリーが手を広げると、ファンネルが空を舞う。

 

[俺は……俺を救ってくれる皆を守りたい。……世界よりも、俺は……!!]

 

 ビームサーベルを構えながらジェームスは言った。

 

[私は、世界何て興味ありません。あなたとの決着をつけるためにここにいます]

 

 エトワールがキャノンを構え、そう言い切る。

 

[あなたには何の興味もありませんが、仲間を今までさんざん傷つけてくれた礼、させてもらえますよね?]

 

 ユーリがスナイパーライフルを構える。

 

 

[所詮、旧式が…!!]

 

[旧式だろうと……!!]

 

「やってみせるさ…!道夜!!!」

 

[合わせる!]

 

 道夜がビームライフルで牽制、その隙に間合いを詰め、ダガーを振り上げる。

 

 それを見切るようにサーベルで受け止めながら、ビームをシールドで防ぐベルベット。

 

「……くっ…!!」

 

[言っただろう?お前たちでは勝てないと!]

 

 吹き飛ばされ、態勢を整える。

 

[だが、5対1では分が悪い。悪いが、他の子には()()の相手をしてもらおうか]

 

 ニヒリティが手をあげると、レーダーの反応。

 

「くっ……!クローンか…!!」

 

 

 

 背を向けようとした時、道夜が叫ぶ。

 

[ムゲン!!!]

 

「……道夜…?」

 

[仲間を信じろ。アイツらはもう、"独り"じゃないことを知っている]

 

「……」

 

[お前が繋げて、皆が信じた。だから今度は、お前が信じる番だ]

 

「……分かった。やろう、道夜。俺たちの背中には、信じる仲間が!」

 

[……護るべき命が]

 

[二人してニュータイプとでも言うか!!]

 

「俺たちはニュータイプなんかじゃない!!」

 

 間合いを詰め、トンファーで鍔迫り合う。

 

 それに合わせ、道夜がバズーカを放つ。

 

[そうだ、俺たちは不完全な人間だ!ニュータイプでも、強化人間でもない!]

 

「だから未来を信じれる!!!」

 

 もう一方の手でダガーを抜き、一気に振りぬき肩を傷つける。

 

 続けて道夜が詰め寄り、シールドを両断。

 

[だから願いを込めるんだ!!]

 

[それだけで…世界が変えられるわけでは無い!!!]

 

 回し蹴り、それを避けて間合いを取る。

 

「誰も世界を変える事を望んでるわけじゃない!」

 

[世界は望まなくとも変わるものだ、だから、その可能性を見せるだけで十分なんだ!]

 

「それを理解できないお前は…!!人ではなく、ただ先の世界しか見えないお前は!!!」

 

 再び接近し、サーベル同士がぶつかり合う。

 

[それ以外に何がある!!!お前たちもニュータイプならわかるはずだ!この世界の果てが!!戦いの果てが!!!]

 

「だとしても…!!!」

 

[人の願いも、託された想いも全て、果ての前の幻想にすぎない!だから理解し、世界を良いほうへと向かわせたいだけだ!!!]

 

「お前がしようとしているのは、人間の生き方を否定することだ!想いを消した世界で、何をするんだ!繋がりも、歴史すらない世界で!!」

 

[再生だ…!腐りきったこの世界をもう一度やり直す!!]

 

「違う…!!誰も再生なんて望んでない!!」

 

 もう一方の手でサーベルを引き抜くベルベット、それを受け止めるように道夜がサーベルをふりぬく。

 

[それは誰かがすることじゃない!世界自身がそう感じた時、世界がそれを行うんだ!!]

 

[そんな事をする権利は…人間には無いんだ!!]

 

「世界は……誰のものでもない!!」

 

[ならばいいのか!!このまま争いが繰り返されるこの世界でも!!貴様たちはそれを望むというのか!!]

 

 ベルベットは間合いを取って言う。

 

「望んじゃいない。でも、お前が変えるべき事でもない!過去に戦争があった、だからもう繰り返しちゃいけない、それを伝えるのが、過去を生きた俺たちの役目なんじゃないのか!!!」

 

[綺麗ごとを…!それで世界が変わると思うのか!!]

 

「変わるさ!少しずつでも変わっていける事を、人はみんな知っている!!!」

 

[俺たち過去の人間の戦いは、終わっている!だから若い奴らに、託して、伝えなきゃいけないんだろ!!ベルベット、貴様だって!!]

 

[ふざけるな。俺はまだ過去の人間ではない!!]

 

 ニヒリティが両手を広げると背後から大型のユニットが接近する。

 

 そして、そのユニットから高出力のメガ粒子砲が放たれ、道夜を襲った。

 

[ぐあぁあああああ!!!]

 

「道夜!!!…ベルベット、貴様!!!」

 

[そうだ。俺はまだ……現在(いま)を生きる人間だ!!!]

 

 そして、合体すると、大型のMAとなって再び立ちふさがる。

 

 

「こいつは…!!」

 

[さあ、ムゲン。第二ラウンドだ!!!]

 

 MAから放たれるビームが街を焼いていく。

 

「……くっ…!」

 

[どれだけ変革を望んでも、否定し続けるお前のような存在がいるのでは、世界は変えられん。だからお前を殺してやる…この手でな!!]

 

「人が強引に作り出す世界に、平和があるのか!?お前のような傲慢な人間が造る世界ならなおのこと!!」

 

「世界は、自然に変わっていく、それを待つのも、人間の役目だろ!!」

 

[ならば、戦争が起きるのも、世界の定めなのか!違うだろうに!!]

 

「だとしても、お前が世界を変えれば、今を生きる人々はどうなる!!」

 

[全ての事に犠牲はつきものだ。お前の両親も、戦争のために犠牲になった!!]

 

「犠牲の上に成り立つ世界など…!!」

 

[お前とて同じ事、誰もが平和な世界をと望みながらも、何人を殺し、何人の人間に恨まれた!!]

 

[犠牲失くして変革はない!!そのための犠牲だと思え]

 

「ふざけるな!犠牲を前提に考えるな!きっと犠牲が無くても分かり合える時代は来るはずだ!!」

 

 接近してビームトンファーを振るい、腹部を狙う。

 

 しかし、Iフィールドがそれを妨げ、反撃にメガ粒子砲が放たれ、左腕を焼く。

 

「ぐっ……!!」

 

[それはいつだ?明日か?10年後か?答えられるわけが無い。いつかはと言いながら、お前だって心では来ないかもしれないと思っているからだ]

 

「だが……それでも…言い続けなきゃいけないんだ!!」

 

 それでも負けじとダガーを強引にIフィールド発生器へ突き刺す。

 

[言い続けてどうなる!世界がそれを聞くとでも思うか!!]

 

「言わなきゃ……言ってやらなきゃ伝わらない!!」

 

[ならば叫べばいい!誰も聞きはしないその言葉を!!そして嘆けばいい!再び繰り返される戦争を!!]

 

[俺を討ち、後悔しろ!!戦いが繰り返されるという事実に!!]

 

「誰もお前に変えてほしいとは思っちゃいない!!未来は、一人一人が変えていくものだ!!!」

 

[相容れないものだな…!貴様だけは!!]

 

「それは…出会った時からそうだろ!!!」

 

 トンファーでもう1基のIフィールド発生器を突き刺し、脚部を両断する。

 

[ぐっ……!しかし……どれだけ足掻こうが今更…!!]

 

[お前たちに出来る事など限られている!変える力も無く、ただ叫ぶことしか出来ぬ者たちよ!!!]

 

 ビームライフルで右足が貫かれる。

 

「うっ………」

 

 思わずエヴァが声を上げた。

 

「エヴァ……!」

 

「大丈夫…。終わらせなきゃ、全部…!!」

 

「分かってる…!!」

 

[これでトドメだ!!!]

 

 メガ粒子砲が俺を捉える。

 

[させない!!!]

 

 放たれる刹那、正面に展開される防御壁。

 

「リリー…!!」

 

[お待たせ、全部片づけたよ!]

 

 リリーは俺の横に並ぶと、ベルベットへと叫ぶ。

 

[確かに私たちは、叫ぶことしか出来ないよ。でも、力は無くても、出来る事はある!!]

 

[何を言う。ならばお前たちは世界に貢献できているとでもいうのか!]

 

[そんな難しい事じゃない。世界は単純で、優しいものなんだって、伝えることは出来る!]

 

[それが…綺麗ごとだと何故わからん!!!]

 

 背後からIフィールドをかき消すほどのビームが飛び、そしてフェネクスが躍り出る

 

[綺麗でも、偽善でも、救われる人がいるかもしれないだろ!!!何故頑なに否定し続ける!!]

 

[お前たちこそ、何故信じ続けられる!!愚かだと思ないのか、人間という存在が!!]

 

[……確かに……愚かだ……]

 

「…道夜……?」

 

 ボロボロになったリファーストが立ち上がり、俺の横へと並び言う。

 

[呆れるほど殺し合い……そのたびに戦争は嫌だと嘆き……そしてまた争う。こんな愚かなことがあるか……]

 

[なら――]

 

[だが………それ以上に、人の優しさを……温もりを知ってしまったからには………信じるしかないんだ]

 

[温もり…!?そんなもののために……!?]

 

[そんなものじゃありません]

 

 満身創痍のV-アルバが言う。

 

[その温もりと優しさが、世界を温めてくれる。どれだけ暗くて、寒くても……その熱が、また人々を温めるんです]

 

[温もり……、あの時、アクシズ・ショックが起きても、世界は変わらなかったのだぞ!そんな人類を、まだ信じるというのか!!]

 

[いずれ、お前たちも食いつぶされるだけじゃないのか!!!]

 

[そうかも………しれませんね……]

 

 片足を引きずるλガンダムが言う。

 

[軍人としての役目を終え……それで、私達は使い捨てられるのかもしれませんね。……けど]

 

[私は後悔しない。ムゲンさんや道夜、彼らと出会えたこの軌跡の果てが、その結果でも。私は、それでいい]

 

[何故………]

 

[何故……?簡単ですよ。世界よりも大切な、どんなものとも代え難い友が居るんですから。友が信じているなら、私も信じないといけませんからね]

 

「ベルベット、世界は、お前が思っているほど簡単じゃない。こんなに少ない人ですら、思うことは全く違う」

 

「だからこそ、世界を信じてみたいんだ……!」

 

[……話にならんな………!!]

 

「分かってるはずだ、もうこんなことする必要がないことくらい…!!」

 

[ふざけるな…!!まだ戦いは終わってはいない!!]

 

 俺は二ヒリティの前に出て手を広げる。

 

[何を……死にたいのか!?]

 

「……死ぬつもりも、殺すつもりもない。お前の気持ちも、俺には理解できるから」

 

[まさか本気でニュータイプにでもなったつもりか!?]

 

「そうかもな。理解したくなくても、理解できてしまうんだから」

 

 頭の中で彼の過去も、記憶も、悲しみも、すべて理解してしまったからこそ、俺はもう戦う気は無かった。

 

 ベルベットも、同じで、ただ世界をいい方向へ変えたかったんだ。

 

 恨みもあった。殺したいとも思った。

 

 けれど、それは出来なかった。

 

 ……()()()()()()()

 

[俺を……侮辱する気か!貴様ぁあああ!!!!]

 

 高出力のメガ粒子砲が放たれる。

 

[っ……!!]

 

 皆動けなかった。なら……!!

 

 皆の前へ立ち、背を向け、メガ粒子砲の直撃を受ける。

 

「ぐっ………!!!」

 

[何故………!!]

 

 ベルベットに向き直り、口を開く。

 

「……もういいだろ、お前も……」

 

[…馬鹿にして……!!!どこまで俺を侮辱すれば…!!!]

 

 アームを振り上げ、レゾナンスを掴む。

 

[ムゲンさん!!]

 

「くっ……!」

 

[お前だけ戦いを放棄して……!!お前の両親を殺させたのは俺だぞ!恨まないのか!?殺さないのか!?目の前にいるというのに!!]

 

「……恨みもしたさ……、殺したいと何度も思ったさ!!!だが、お前と戦ううちに、そんなの消えたんだ」

 

[なっ……!!まだ言うか!!なり損ないのニュータイプのくせして!!!]

 

「……お前を知ってしまっ――」

 

[黙れ!!!お前が……お前が俺を知るなぁああああ!!!!]

 

 ギリギリと音を上げ腕がレゾナンスを潰そうとする。

 

「うっ…うぅ…!!これ以上は…!!」

 

「エヴァ……。くそっ…!!」

 

機体を動かそうにも動かない。

 

[このまま…!死ねよ!!!]

 

「……ベルベット…!お前とは…分かり合えないのか…!!」

 

[分かり合うことなど……!!既に捨てている!!]

 

「この……!!分からず屋め…!!!いい加減!!!」

 

「目を覚ませぇええええ!!!!」

 

 レゾナンスから強烈な光が放たれる。

 

[何……!!何の光だ!?]

 

「レゾナンス!!!!」

 

 叫ぶとともにレゾナンスがニヒリティのアームを掴むと、軽々と引き裂き、腕から抜け出す。

 

[な、何をしたんだ!?くっ!!!]

 

 一気に間合いを詰め、ベルベットと相対する。

 

[まだ苦しみたいか!!いつかは来ると、そんな願いだけで戦い続けて!!]

 

「……願わなきゃ、叶わない事もあるだろ!!」

 

 Iフィールドを展開するニヒリティ。しかし、それに動ずることなくレゾナンスは二ヒリティの肩部に腕を突き刺した。

 

 腕はIフィールドを貫通し、二ヒリティの装甲を容赦なく抉っていく。

 

「それに、この道は俺が選んだ道だ!!後悔も沢山した!!苦しみもした!それでも!今があるから、前へ進むんだ!!」

 

[それが綺麗事だと言っている!それだけで、これからも戦い続けるのか!!永遠に来ない、分かり合える世界を目指して!?]

 

「ああ!戦い続けてやるさ!分かり合える世界が来るまで!!!」

 

 両手をクロスして振り下ろすと、二ヒリティのコックピットに傷をつける。

 

[くっ……いつまでもそんな綺麗事を…!!…くそっ!機体が!!]

 

 

 ベルベットが機体から降りてどこかへと走って行く。

 

「何を……!!」

 

 追撃しようとした時、エトワールが制止する。

 

[私が追います。ムゲンさん、あなた達は先に脱出を]

 

「エトワール……」

 

[討てないんでしょう?決着は私の手でつけますから]

 

「………分かった、信じるよ」

 

 彼は機体から降りてベルベットを追う。

 

 

 直後、ニヒリティが勝手に動き出し、コロニーに大穴を開けて逃げて行ってしまう。

 

「なんだ…!?」

 

[……ムゲン、追わないとまずい!]

 

「分かってる!!」

 

 俺たちはニヒリティが開けた穴を通り宇宙へと出る。

 

 すると、ニヒリティは地球へと向けて一直線に移動をし始めている。

 

「これは……!」

 

「ムゲン、マズいよ。あの機体、地球へ落ちるつもりみたい」

 

「何だと…!?」

 

[止められないのか!]

 

 道夜が叫ぶ。

 

「多分、並みの武装じゃ破壊しきれない。破片が大気圏で壊れるかは分からないし…粉々には出来ない」

 

「…被害は少なくできるんだな?」

 

「分からない。100mを超える物体が宇宙から落ちるから、少なくとも落ちた地域は……」

 

「……くっ…!!」

 

[でも先生]

 

 リリーが笑顔で言う。

 

[私達に出来る事をする。そうだよね。……ファンネル!!!]

 

 ファンネルが舞い、ニヒリティを攻撃するが、Iフィールドがそれを防ぐ。

 

[なら……!!一気に接近する!!]

 

「リリー…!」

 

 遅れてコロニーを脱出したエトワールが言う。

 

[遅かった……!二ヒリティはもうベルベットの手から離れて…!!]

 

「どこを壊せばいい!?」

 

[恐らく、コアユニットの…ニヒリティ本体を狙えば!!]

 

[その機能が停止しない限りは地球へ落下する……!!]

 

[なら、私の出番ですね…!!]

 

 片腕でスナイパーライフルを構え、放つ。

 

 しかし、実弾ですら容易にその装甲を貫くことは出来ない。

 

[こんなこと、いくらだってありましたから。貫けないなら…貫くまで!!!]

 

 俺はニヒリティの正面へと移動しようとする。

 

 しかし、スラスターがうまく機能せず、動けなかった。

 

「くっ……!!動いてくれ…レゾナンス!!」

 

 すると、右肩と背中に手が置かれる。

 

「……!」

 

[ムゲンさん、動けないなら、俺が]

 

[俺も力を貸そう、ムゲン。……今度は…皆でヤツを止めるぞ!!]

 

「……ああ……!助かる!」

 

 2機の力を借りながら、ニヒリティの前へと移動できたときには、既に大気圏前。

 

「時間が無い、何か、破壊できる武器は…!」

 

[ビームマグナムが、1発だけなら]

 

「……マグナムだけじゃダメだ、もっと力が無いと…!」

 

[まだ、ファンネルは使えるよ!!]

 

[限界地点まで、残り100!機体が追い付けません!!後は……!!!]

 

「…くそっ……力が!!」

 

[ムゲン!!!]

 

[ムゲンさん!!]

 

[先生!!!]

 

「……分かってる!!やるぞ!!」

 

ジェームスがビームマグナムを構える。

 

その手の上に手を乗せる。そして、道夜も同じく手を乗せ、リリーはフェネクスの背中へ両手を預ける。

 

「皆の想いを、この一射に託すんだ!全て……終わらせるために!!!」

 

[分かってるさ。全て、終わりにするんだ]

 

[これは、始まり。ここからまた…生きるために!!!]

 

[そうだ、俺たちは…変わるために……、この一撃を!!!]

 

想いを込めた一射は、ニヒリティを飲み込むほどの力を発揮する。

 

 

[やったのか!?]

 

[いや、まだです!!]

 

 煙の中、二つの目が強く光り、俺たちの横を抜けていく。

 

「なっ…!!」

 

 ニヒリティを黒い波動が包み込み、前よりも速度を増して落ちて行こうとする。

 

「もう限界、離脱しないと。………ムゲン?」

 

 全員が離れる中、俺は……

 

 

「……俺が止めなきゃ」

 

[ムゲン!離脱するんだ!!もう限界だと言われただろ!!]

 

[先生!!]

 

「……止めなきゃならないんだ!!!」

 

「皆が………皆が託してきたこの"軌跡"のためにも!!!」

 

「そうだね、やろう、ムゲン」

 

「…ああ」

 

[死ぬ気か!?]

 

「俺は死なない。必ず、リナとアウロラの所へ戻る!!!」

 

 

 

 

 レゾナンスはニヒリティの前へ立ちふさがり、手を広げる。

 

「悪いね、エヴァ、こんな事に付き合わせて」

 

 エヴァは首を横に振りながら言う。

 

「いいよ。きっと、これで正しいと思うから」

 

 俺は前を向き、二ヒリティを見る。全てを恨む、そんな憎悪が、力となってあの機体に宿っている。

 

「………恐怖なんかない。必ず……戻ると決めたから」

 

 ……俺は、それでも……、優しさが世界を変えると信じたい。

 

 レゾナンス……、俺の……俺の想いを!!!

 

「ニュータイプの力なんて"要らない"!!!皆を救う……あの機体を止める力を……俺にくれ…!!」

 

「レゾナンス!!!!!」

 

 瞬間、視界が虹に包まれる。

 

 

 痛みは無い。

 

 何が起きたんだろう……。

 

 そんな事、考える事さえどうでも良かった。

 

 ずっとこの温かさを感じていたい。

 

 ずっとこのままで……。

 

 俺は……。

 

 

 

 

『ムゲン』

 

 振り返ると、そこにはエヴァが居た。

 

「……エヴァ……?」

 

『貴方の願い、レゾナンスは叶えてくれたよ。ほら、見てごらん』

 

 エヴァが伸ばしたほうを見ると、そこでは、ニヒリティを優しく包み込むレゾナンスの姿があった。

 

 背中から"生えた"結晶の翼が、宙域を虹の光で照らす。

 

「…これは………」

 

『貴方も、私もあの中にいる』

 

「どういうことだ……?」

 

 

『それはね』

 

 正面から歩いてくる少年。

 

「グレイ……!」

 

『今なら、君にもいろいろなものが見えると思う。ほら、周りを見れば、沢山のモノが輝いている』

 

 キラキラと光る星のようなもの……手を伸ばせば届くかもしれない。

 

『これは全て、"人の想い"。その星のようなものの数だけ、人の想いで溢れている』

 

「………温かい…」

 

『この想いこそが、世界を温めてくれているもの。君はそれを守った。"()()()()()"』

 

「…俺は……死んだのか?」

 

『………本当はそうかもしれない。けれど、耳を澄ましてごらん、君にも聞こえるはずだよ』

 

 

[ムゲン!!!お前がこんな事で……こんな事で良いのかよ!!――俺もお前も…!!まだ何一つ互いを知っちゃいないんだぞ!!!!]

 

 道夜の声……、アイツとも……もっと話すことがあったはずなのにな……。

 

[先生ぇ……!!逝っちゃやだよ……!!!先生ぇ!!!!]

 

 リリー……、君はいつも……泣いてばかりだな……。

 

[ムゲンさん!!アンタ……また戻るって言ったじゃないかよ!!!]

 

 ジェームス……、リリーは良い人と出会ったな。

 

[ムゲンさん!また死んだふりですか?いい加減にしてくださいよ]

 

 ユーリ……、今度は違うみたいなんだ……。

 

[ムゲンさん、こんな事で……リナさんに笑われますよ!!!早く目を覚まして!!!]

 

 エトワール……、ああ、これほどまでに感情が溢れているなんて。

 

 

 彼らの言葉を聞くたびに、俺は安心感を覚えていく。

 

 もう、大丈夫かな……。

 

 もう、立ち止まっても―――

 

 

『ムゲン』

 

「……!!」

 

『大丈夫だよね、貴方はいつも、どんな時だって私の所へ帰ってきてくれたもんね。……だから今度も必ず……』

 

 リナ………。そうだ……俺は……

 

 

『パパ』

 

「アウロラ………!」

 

『今日は、すっごく大きい虹が見えたんだ!きっとあれは、パパだよね!!分かるんだ!あの暖かいのは、パパなんだって!!……早く、帰ってきてほしいな……パパ…ママ…』

 

 俺は……俺にはまだやるべきことがあったんだ……。

 

 いつまでも……この温もりを感じているわけにはいかなかったんだ……。

 

 

『分かってるよ、君の言いたいこと』

 

「…グレイ、俺は……」

 

『大丈夫、君なら』

 

「どうすればいい」

 

『光が見えるよね』

 

 指を刺した先に、小さな光が見える。

 

 俺は頷くと、グレイは優しく笑んで言う。

 

『あそこまでたどり着けばいい。大丈夫、君を邪魔するものは何もないから』

 

「……ありがとう、グレイ」

 

『僕こそありがとう。君と出会えたこと、そして、君が僕の願いをかなえてくれたことも、全て…ありがとう』

 

 俺はゆっくりと歩き出す。

 

 

 そして、一歩一歩進むたびに、声が響く。

 

『ああ……あの時の少年が……、私は、君を信じて正解だった……』

 

 研究所で、俺を唯一救ってくれたお爺さんが嬉しそうに言った。

 

『ムゲン・クロスフォード。……お前の作る未来、信じているぞ』

 

 シゼルが、今まで聞いたどんな口調よりも優しい声で、そう言った。

 

 

『ムゲン、良い男になったな。本当に、強くなった』

 

 イーサンが、まるで我が子に言うようにそう言った。

 

 

『……ムゲン、やはり君は、僕が認めた男だった。変えられないと思った、ベルベットの心さえも、君は……変えたんだ』

 

 ゼロが涙を零しながらそう言ってくれた。

 

 

『ムゲン・クロスフォード……。俺の半身を、守り続けてくれたこと、感謝する。………お前を信じた、Eveが…いや、エヴァが正しかったのだな』

 

 完成型AI、アダムはそう言った。

 

『ムゲン、オレは、お前の中に光を見た。その光は、宇宙を照らす光となった。………優しさとは…いいものだな。ムゲン』

 

 ヨハネが、微笑む姿が容易に想像できた。

 

 

『よっ!ムゲン!バッチリ仕事したな!!……もう、いいんじゃないのか?』

 

 ジャックさんが陽気にそう言ってくれる。

 

『……ムゲン、願うなら、もう一度あなたに……。…やっぱなんでもねぇ……』

 

 アルマが照れくさそうにそう言った。

 

『大丈夫、ムゲン。私達は、あなたが選んだ選択は、間違ってないって信じてるから』

 

 マヤが優しく微笑みながら言う。

 

 

 

『…………ムゲン』

 

 俺の前に立つ白髪の男。

 

「……クロノード」

 

『お前にも迷惑かけたな。……この目で見てきた。良い世界になったな』

 

「ルナちゃんにも、会ったのか」

 

『ああ。全てを伝えた。………アイツら、変わってなかったよ』

 

「……そうだね、でも、皆変わったんだ。俺も、カカサも」

 

『…強くなったな、ムゲン。 ……さて、この先に進めば、お前は元の場所へ戻れる。だが……お前は一つだけしなきゃいけない事がある』

 

「え………?」

 

『お前が背負って来たものを、ここで降ろすんだ』

 

「……俺が背負ったものを…」

 

『何もない。次に目覚める時、お前は、戦う人間ではなくなる』

 

「……」

 

『お前の戦いは、この瞬間に終わりを迎えるんだ』

 

「だが俺は――」

 

 クロノードは俺を優しく抱くと、頭を撫でながら言う。

 

『もう、いいんだ。全て、終わったんだよ』

 

「………」

 

『辛かった復讐も、苦しい思いも、痛みも、悲しみも。全て、ここへ置いていけ』

 

 嬉しかった。もう、ここで終わりにしても良いとも思えた。けれど……違うよ、やっぱり。

 

 俺は…この温もりを置いていくことなんかできない。

 

「………ありがとう、クロノード。……でも、それは出来ない」

 

『何………』

 

 俺は、クロノードから離れるとハッキリと伝える。

 

「俺は、この歩んできた軌跡を、ここに置いていくつもりはない。だって、置いて行ったら、お前たちを置いていくことになる」

 

「それはダメだ。誰かが語り継いでいかなきゃならない。お前も言ってただろ、"俺を記憶する人がいてくれてよかった"と」

 

『お前は…まだ戦うつもりか』

 

「違う。俺はもう戦わない。だが、お前との思い出も、皆から託された想い全てを忘れるつもりはない」

 

「ここへこうして導いてくれたこの人生は、お前たちが居てくれなかったら絶対に歩んでこれなかった道だから」

 

「……だから、俺はこの軌跡を――」

 

 

「"虹の軌跡"を忘れるつもりはない」

 

 

『……そうか』

 

 クロノードは、もう一度俺を抱くと、笑って言った。

 

『これで本当にお別れだ。………もう、会えなくなるからな』

 

「…ああ。……今まで、ありがとう」

 

『こちらこそありがとう。お前に出会えたことが、何よりの幸運だった』

 

 彼は俺の背中を叩いて押した。

 

「……クロノード…」

 

 彼を見ると、笑っていた。最期の別れの時と同じ。

 

『行け、ムゲン。お前はもっと先を見て来い。戦いではない、他の未来を』

 

 

 彼と別れ、光に手を伸ばす。

 

 眩い光が去ると、現実の音が耳へと流れ込む。

 

 

[――私達の中に眠る、可能性と言う名の内なる神を信じて………]

 

 

 

「……っ……はっ……!」

 

「目、覚めた?ムゲン」

 

「……エヴァ……ここは……」

 

「レゾナンスの中。でも、もうお別れ」

 

「え……?」

 

 レゾナンスのコックピットがひとりでに開く。

 

「最期の役目を、私とレゾナンスで果たす」

 

「何を………」

 

「宇宙で見てて。ううん、貴方が見届けて。あなたと、レゾナンスの"戦いの果て"を」

 

「………」

 

 俺は小さく頷き、席を立つ。

 

「…寂しく……なるね」

 

「うん。………もう二度と、会えないと分かってるから、私も寂しい」

 

「………短い時間だったけど、ありがとう。エヴァ、レゾナンス」

 

「どういたしまして。さ、行って」

 

 俺は機体から降りて、宇宙を漂う。

 

 レゾナンスからだんだんと離れていく。

 

「…………ガンダム……」

 

 一瞬、レゾナンスの顔が笑っているように見えた。

 

 次の瞬間、レゾナンスの翼が羽ばたくと、周囲に虹の光を放ちながら、ニヒリティを包み込む。

 

 あまりの輝きに、目が眩んだ。

 

 再びレゾナンスのいた場所を見ると、そこに残ったのは、温かな虹の光だけだった。

 

 俺はその時理解した。

 

 エヴァとレゾナンスが、ニヒリティを抱いて、"宇宙へ旅立った"のだと。

 

 

 俺は胸に手を当て呟く。

 

「……ありがとう、ガンダム。……君と出会えたことを…君と戦えたことを、誇りに思う」

 

 

 

 その後、俺たちは地球へと降り、基地へと帰還した。

 

 そして、メディカルチェックを受けた際、俺の"ニュータイプとしての力と驚異的な回復能力"が失われたことを知った。

 

 

 きっと、クロノードが……いや、皆が俺にしてくれた最後のプレゼントだったのかもしれない。

 

 もう、戦う必要が無くなった俺へ…。

 

 

73 完




これが本当に最後の機体説明、ベルベットが駆ったニヒリティの設定です。

機体名  ニヒリティ
正式名称 nihility

型式番号  END-78
所属    不明
全高    19.7m(ハル・ユニット装備時:130m)
本体重量  20.5t(ハル・ユニット装備時:153.8t)
全備重量  23.5t(ハル・ユニット装備時:155.6t)
出力    3,480kW(ハル・ユニット装備時:35,660kw?計測不能)
推力    142,600kg(ハル・ユニット装備時:28,827,500kg?計測不能)
センサー  24.000m(ハル・ユニット装備時計測不能)
有効半径

武装    ビーム・ライフルx1
    60mmバルカン砲×2
    ビーム・サーベル×2
    シールド×1
(ハル・ユニット装備時)
    肩部大型メガ粒子砲×6
    背部大型ミサイルコンテナx6
    腰部Iフィールド・ジェネレーター×4
    腹部大口径ハイメガ粒子砲×1

搭乗者   ベルベット・バーネット

機体解説

ベルベットが単独で極秘裏に設計・開発した、ガンダムタイプのMS。

外見は全身が真っ赤に塗装されたRX-78タイプの機体だが、中身は現代の技術の粋を集めて開発された傑作。

基本的な武装はビームサーベルやビームライフルなど、ガンダムが扱う武装になっている。

単純な武装故扱いやすく、さらには、機動力を活かして戦うこともできるため、通常状態でも強力。

この機体にはMA形態も存在する。

二ヒリティをコア・ユニットとする拠点攻略用巨大MAで、ハル・ユニットとドッキングすることで超大型MAへと変貌する。

拠点攻略用MAというだけあり、武装のほとんどが大型のもので、肩部には大型のメガ粒子砲が6門、腹部に大口径のハイメガ粒子砲を1門

そして背部には1つに100発以上を収容する大型ミサイルコンテナが6基搭載されている。

防御面もぬかりなく、腰部にIフィールド・ジェネレーターを4基搭載している。

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