機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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戦いは最終局面を迎え、ムゲン達は各々が付けるべき決着のために、戦場へと向かう。

そして、戦場で相まみえる、宿敵――


70:分かり合う事

 第00特務試験MS隊、旧サイド2、アイランド・イフィッシュ付近へ到達。

 

 

 

 ついに辿り着いたこの場所で、あの男は待っている。

 

 俺と…いや、此処に居る全ての者との決着のために。

 

 道夜……お前も来ているんだろう。

 

 

 俺たちはブリッジへ集められ、ファングからの言葉を待っていた。

 

 彼は深呼吸をすると、静かに口を開く。

 

 

「……皆、俺たちは、辿り着いた。この、始まりの場所へ。ムゲンやリナにとっては故郷になる場所」

 

「大きく見れば、ここから連邦とジオンの因縁が始まった。そして、ベルベット、ヤツはここを決戦の場と定めたのは、何か意味があるからだ」

 

「俺たちは今まで、どんなに苦しい場面でも、絆と、確かな力で生き残ってきた。だから今度も、生き残るんだ」

 

「誰一人欠ける事の無く、皆で。 敵の数は不明、そしてどんな機体が出るのかさえ分からない。けれど、俺たちは伝えなければいけない」

 

「過去に生きてきた人々の命を、そして、今まで俺たちが戦ってきた"軌跡"を。後世に伝えるんだ」

 

「だから、伝えるものとして、生きよう」

 

「……ムゲン、うまいこと締めてくれ」

 

 俺は頷き、皆のほうを見て言う。

 

「………この戦場に、ベルベットは居る。そして、俺たちの仲間だった道夜も、リリーを救ってくれたジェームスも居る」

 

「俺は、この手で守れるモノを、守れるだけ守る。そして、俺が成すべきと思ったことを成す。……もし、俺が無茶をしても、皆俺についてこないでいい」

 

「俺がこの手で、出来る事をするだけだから」

 

「嫌だ」

 

 リリーが呟く。

 

「え……?」

 

「先生だけだと、勝手にどこか行っちゃう気がするから…。それに、私がジェームスに伝えなきゃいけない事もあるから」

 

「ムゲンさん」

 

 珍しくユーリが言う。

 

「道夜を連れ戻したいのはあなただけじゃないです。私も、彼を、今まで背中を預けてくれた親友を連れ戻したい。それに、無茶何て昔からでしょうに」

 

「ユーリ……お前…」

 

「そうですよ、ムゲンさん」

 

「エトワール…」

 

「ベルベットには、私にも借りがあります。家族ともども世話になりましたからね。……私も付き合います」

 

「……気合は十分のようだな。行ってこい、家は守ってやる」

 

 フユミネが静かにそう言った。

 

 

 ファングは頷き、声を上げる

 

「みんなの心は一つだ。行こうぜ、ムゲン。決着を付けに」

 

「…ああ。生き残って、帰ろう。過去を伝えるだけじゃなく、俺たちを待ってくれている人たちのために」

 

 皆が大きく頷く。

 

 

「各員、第一戦闘配備!これが決戦だ、気合を入れろ!各オペレーターはMS隊の発進誘導と、常にレーダーの探知を怠るな!!」

 

 艦長が叫び、それぞれが持ち場へと向かう

 

 

 機体を見上げ、各部位に追加武装と追加装甲を身にまとうレゾナンス。

 

「…これは……」

 

「レゾナンスに追加装甲と拠点制圧用の武装を纏わせた、フルウェポン状態だよ」

 

「…リナ……」

 

 彼女は俺のほうを見て頷く。

 

 俺は機体を見上げ、小さく呟いた。

 

「……行こう、相棒」

 

 機体に乗り込み、システムを起動する。

 

「……ムゲン」

 

 コックピットを覗く愛する人、俺は優しく微笑み頭を撫でる。

 

「必ず帰る、どんなことがあっても、君と、アウロラの元へ」

 

「…信じてます。貴方の事を」

 

 頷いて、コックピットを閉める。

 

「もういいの?これが最期の別れかも知れないのに」

 

 俺は首を横に振り、ターミナルに投影された天真爛漫な少女に答える。

 

「最期なんかないさ。俺は必ず生き残らなきゃいけないんだ。ヨハネや、アダムのためにも」

 

「……そうだね。行こう、勝つためでなく、負けないために」

 

 

 カタパルトへと立ち、発進の合図を待つ。

 

[ムゲン隊長、無事の帰還を、お待ちしています]

 

「分かってるさ、マーフィー。美味しいコーヒーのためにもね」

 

[……第一小隊隊長、ムゲン機、出撃どうぞ!]

 

「ムゲン・クロスフォード、ガンダムレゾナンス・フルウェポン、出撃する!!!」

 

 

 どんなに苦しくても、背中を支えてくれる人がいた。

 

 どんなに涙が流れても、前を見ろと言ってくれた人がいた。

 

 どれほどの人に支えてもらっただろうか、その人たちのためにも、俺は生きる。

 

 現在(いま)という時を超え、未来へと伝えるために。

 

 そのためにも、ヤツを討つ…!!!

 

 

 こちらへと気づいた敵が接近してくる。

 

 数は…5機。

 

「ならば!!ビームキャノンを使う!!」

 

「任せて!!どの機体を狙うの?」

 

「……一番手前だ!」

 

「オッケー!!照準完了、エイムアシスト起動!イケるよ!!」

 

「よし……!ビームキャノン、発射!!!」

 

 右肩部にラッチされたキャノンがビームを圧縮し、放つ。

 

 放たれたビームは敵の一番手前の機体に直撃し、爆散

 

 墜とした瞬間、喜びよりも先に頭を支配したのは、知らない誰かの声。

 

『……なんで……俺が……』

 

「っ……!」

 

 振り払い、ビームライフルを構えて発射。

 

 1機のコックピットが撃ち抜かれ、爆散。

 

 そしてまた、声が響く

 

『死にたく………ねぇ……よ』

 

「っ…何なんだ……これは……!」

 

「どうしたの…?」

 

「いや……なんてことは無い……」

 

「……」

 

 一気に…仕留める!!

 

「ミサイル全弾発射…!!」

 

「え!?まだ戦いは…」

 

 彼女の制止を聞かず、左肩のミサイルポッドを全弾発射。

 

 直撃するものもいれば、誘爆に巻き込まれた機体も居る。

 

 こんな攻撃も回避しきれず、墜ちて行く。

 

 そのたびに、頭へと響く声。

 

『…皆……ごめんよ……』

 

『母さん……!助け――』

 

『……強く生きるんだぞ……子供たちよ…』

 

「うわぁあああ!!!やめろおおおお!!!!」

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て叫ぶ。

 

「ムゲン…!?」

 

「はぁっ……はぁっ…!!!」

 

 こんな事……今までは……。

 

「…そっか、サイコフレームが"拾い"過ぎてるんだ…」

 

「……はぁっ……はぁっ…!」

 

「ムゲン、こっちを見て」

 

 エヴァが真剣にそう言った。

 

 彼女の瞳を見ると、だんだんと不愉快な気持ちが消えていき、安心感を覚える。

 

「……エ……ヴァ……」

 

「人間には、耐えられないよ。私が受け止める。だから、貴方は…貴方が成すべきことを」

 

「………わか……った…」

 

 操縦桿を握り直し、左腕に巻かれたリボンを強く握る。

 

 

『いいか、ムゲン、何があっても、例え手を失ったって、リナを連れて帰ってこい。生きてればそれでいい。……死ぬなよ、私の大切な弟』

 

「……必ず戻ります……」

 

 MSを墜としながら先へと進む。エヴァの瞳を見た後からは、あの声が聞こえなくなった。

 

 たぶん、エヴァが受け止めてくれているからなんだろう。……俺は独りじゃない。エヴァも、皆が支えてくれている。

 

 

 

 先まで進むと、1機のMSがこちらへと突っ込んでくる。

 

「……!!」

 

 ビームライフルを構え、発射。

 

 ビームを正面からシールドでガードして、その機体は一気に詰め寄りサーベルで斬りかかる。

 

 ビームトンファーで受け止め、得物同士がぶつかり合い火花を散らす。

 

「この機体は………!!」

 

「データ照合、これは……()()()()()()()()()()()……?」

 

[久しいなぁ……ムゲン・クロスフォード!!!!]

 

「何故……何故お前が……?!シゼル・クライン!!」

 

 間合いを取ってビームライフルを構えた瞬間、ハデスの手がライフルを抑えて

 

[ダメだな、お前はそんな武器より、近接だろう?]

 

「くっ…!!!」

 

 ハデスを蹴り飛ばし、間合いを取る。

 

[…それでいい。さあ、あの時の決着をつける時だ!!]

 

「決着は既についた!お前と戦う意味なんてないはずだ!!」

 

[俺にはあるんだよ、お前が終わっても、俺はずっとお前と決着を付けられずにいたんだ!!!]

 

 ビームダガーを構え奴に斬りかかる。

 

 奴はビームサーベルで受け止め、鍔迫り合いの形になった。

 

「それだけのために…!?何故お前が生きている!あの時お前は……!!」

 

[死んだと思ったさ、俺も…!!だが、俺は今ここにいる!その事実だけで十分だろう!!]

 

 シゼルは間合いを取り、ビームライフルを撃ってくる。

 

 それを回避しながら、ビームライフルを放ち相殺させ、トンファーで斬りかかった。

 

 しかし、それを読んでいたかのように回避されてしまう。

 

[ふん……時代が変わってもこの程度か!!]

 

「何を…!!」

 

[見せてみろ!お前が歩んできた戦いの道とやらを!!!]

 

 サーベルとトンファーが激しくぶつかり合い、離れ、それが何度も弧を書くように火花を散らしあう。

 

「戦いだけが……俺の全てじゃない!!!」

 

[それが誰に分かる!誰にも分かりはしない事を!!]

 

「お前がそれを知らないだけだ!!!知ることが出来なかっただけだ!!!」

 

[知った風な口を……!!!]

 

 奴がビームサーベルを持って切りかかってくる。

 

 ……この動き……。俺は、奴が次に動くであろう位置にダガーを投げつけた。そう、あの時と同じ。奴の反応なら、これは避けられない!!

 

[ぐっ……!?俺の動きを…!?]

 

 右腕にダガーが突き刺さる。その隙を逃がさず、右腕に刺さるダガーを持って、両断。

 

[ちっ……!!だが…!!!]

 

「もうやめろ!俺とお前の戦いは終わったんだ!」

 

[黙れ!!!俺は……俺は!!!]

 

 サーベルを構え、突っ込もうとした時

 

 

[そうだよ、シゼル。君の戦いは既に一年戦争のときに決着がついてたはずだよ]

 

 聞き覚えのある声……まさか……君もなのか……

 

「……ゼロ……なのか……?」

 

「機体照合。……()()()()M()k()-()0()

 

[ああ、随分と懐かしい声だ。久しいねえ、ムゲン。会いたかったよ]

 

「シゼルに加えて……ゼロ…どうして……何故生きている!?」

 

[………それは僕にも分からないのさ。それに、僕やシゼルだけじゃない。地球でも、"彼ら"が蘇ってる]

 

「何……!!」

 

[僕は、何のためにここに立たされているんだろうね?]

 

「……」

 

[それはたぶん、僕を蘇らせた人からすれば、ムゲンと戦えって事になるんだろうけど?]

 

「ゼロ……!俺は―――!!」

 

 下からの殺気。ファンネルか!!

 

 宙返りで回避する。

 

[ふっ、随分ニュータイプとして力を付けているようだね。僕も、少し遊びたくなった。行くよ、ムゲン!!]

 

 ゼロはサーベルを抜き、突っ込んでくる。

 

 それを受けるように、シールドで受け止めた。

 

 蹴り飛ばし、間合いを取る。ファンネルが回避する位置の背後に来るのが直感で伝わる。

 

 すかさず間合いを別の位置に取り、回避。

 

[うんうん、それでこそ、ムゲンだ!!嬉しいよ、僕は!!]

 

「…ゼロ…やめるんだ!!」

 

[君がニュータイプとしての力をいかんなく発揮してくれて、僕は…同じ同志を見つけられて本当に嬉しい!!]

 

 右……。続けて下と左。さらに上と右……。当たらないように回避していきながら叫ぶ。

 

「俺たちの決着も、グリプス戦役で終わってるはずだろう!?なら何故今更蘇ってまで戦おうとする!!」

 

[言っただろう?僕は君の力を見たいだけだって。あとは……まあ他にもあるけど、主な理由がそれだよ]

 

「…くっ…!!」

 

 ビームキャノンを発射し、位置を誘導する。

 

 背後と右に殺気。素早く回避しようとするも、機体が重さでワンテンポ遅れ反応し、ビームキャノンを貫く。

 

「!」

 

[フフフ………懐かしい、この感覚…!]

 

「ゼロ……お前は……!!」

 

[見せてほしいなあ、あのビームを切るやつ。さあ、ムゲン!!!]

 

 ファンネルを放ちながらビームキャノンを放ってくる。

 

 ファンネルは俺をビームキャノンの正面に立たせるように動き、狙ってくる。

 

「くっ……!!」

 

 シールドで防御するも、ゼロの思惑通り、ビームキャノンの射線へと入ってしまう。

 

 やるしかない…!

 

 ビームキャノンから、強力なビームが放たれる。

 

 ダガーを引き抜き、真っ二つにしてみせた。

 

[……わぁお、さっすがムゲンだ。いいねえ、シビれるよ]

 

「…気が済んだか。なら、もういいだろ!!俺たちは…戦う必要なんか!!」

 

[戦いはどちらかが死ぬまで、そうだろう!?ムゲン!!!!]

 

 接近し、コックピットの前でサーベルを構えるゼロ。

 

「いい加減に……!!!やめろおおおお!!!!」

 

 機体の肩部がスライドし、赤いサイコフレームが光を放つ。

 

[っ!!]

 

「今だ!!!」

 

 対応に遅れたところを逃さず左にラッチされた鞘を触る。

 

 撃ちだされた刀を持ち、力を込めて振りぬいた。

 

 刀は電撃を帯びながら、Mk-0の左腕を切り落とす。

 

 刀をコックピットに向けて言う。

 

「勝負、アリだ」

 

[…………凄いな……流石ムゲンだ……]

 

「……こんなの、自慢にもなりはしないよ」

 

 刀を鞘にしまいながらそう言った。

 

[………ふん、言うだけ、貴様もムゲンに負けているではないか]

 

 戦いを見ていたシゼルがゼロに言う。

 

[ああ、僕の……いや、"()()"の負けだよ。やっぱり、もう僕たちは"過去の人間"なんだね]

 

[…ちっ……]

 

「でも、君たちが居たからこそ、俺は此処に居る。君たちの想いを受け継いで、今ここにいるんだ」

 

[…そっか…。僕の想いをちゃんとここまで持ってきてくれたんだ……。それなら、感謝しないとね]

 

「…それは、今を生きる者の役目だから。お礼なんて、必要ないよ」

 

[……ムゲン、お前は……]

 

 シゼルが静かに口を開く

 

[昔とは変わったな]

 

「……変わるさ、人は。君だってそうだよ、シゼル」

 

[俺が?バカな]

 

 俺は首を振りハッキリと言って見せる。

 

「いいや、変わる。変わるチャンスはいくらでもあったんだ」

 

[……お前は、あの時、何故"受け止める"と言ったんだ]

 

 

 彼との最期、俺は彼を受け止めると言った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

[…だから…そんな世界を来ることを俺は望んじゃあいない!!そして…今はお前を殺すことが…一番なんだ!!!!]

 

「なら……受け止める…!」

 

[何…!?]

 

「お前のその縛られた心を…!俺が全部受け止める!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「……シゼル、お前は俺に似ていたんだ。一歩間違えれば、俺も同じ道を辿っていたかもしれない」

 

[お前と俺が似ている……?]

 

「俺とお前に差があるとすれば、お前はずっと独りだったんだ。頼れる人も居なければ、支えてくれる人も居ない」

 

「それを……一瞬だけ感じたんだ。だから、そう言った」

 

[……………]

 

「そして今、俺やお前のようになる可能性の人が、一人いる」

 

[何……?]

 

「一歩間違えれば、お前と同じ道を進んでしまうかもしれない」

 

[だったら何だ]

 

「お前は、何故ここに蘇った。何十年も前の人間が……。俺は、ちゃんと意味があると思うんだ」

 

[…………]

 

「それはたぶん、お前のような奴を再び生まないために――」

 

[くだらん]

 

 シゼルは言葉を遮りそう言い切った。

 

「…シゼル……」

 

[他人がどうだろうと俺の知ったことではない。俺が蘇った理由だと?そんなものは俺が自分で考えればいいだけだ]

 

「…もう、いいだろ、シゼル。意地を張り続ける事に何の意味がある。お前はあの時、俺の目の前で死んだ。それが真実だろうに」

 

[………]

 

「戦いだけが、全てじゃない。分かり合う道だって、手を取り合う未来だって、来るはずだ。それを信じたって、何も悪いことじゃないだろ…!」

 

[…………ふん。そいつはどこにいる]

 

「え……」

 

[その俺のようになるかもしれないバカはどこにいると聞いているんだ!]

 

「………この宙域にいる」

 

「ムゲン、宙域のデータ、彼に送るよ」

 

「ああ、頼む」

 

[…………一度だけだ。もう二度と俺に命令するな]

 

 シゼルは背を向け、その位置へと向かうために移動していく。

 

 

[…凄いね、君は]

 

「…ゼロ……?」

 

[戦いではなく、言葉で彼を動かした。君はやっぱり、"現在を生きる"人間だ]

 

「………そんな事ない。きっと、あれは彼の意志だ。…そう信じたい」

 

[……なら、君には伝えておかないとね。僕達はどうやって蘇ったかを]

 

「………ああ、教えてくれ」

 

[僕たちは、死ぬ直前までの記憶を埋め込まれた"クローン"だ]

 

「クローン……?」

 

 首を傾げると、エヴァが言う。

 

「複製された人間かな。私がやったアンドロイドみたいなものだよ」

 

[……造ったのはもちろん、ベルベット・バーネット。君ならわかるよね]

 

「……ああ」

 

[この先を進むと、その製造工場を含めた小さなコロニーがある。丁度、アイランド・イフィッシュが建っていた場所にね]

 

「コロニーが……?」

 

[コロニーというには小さすぎるけどね。ただ、人が100程度暮らすには十分な場所さ。彼はクローンを大量に生産し、君を、いいや君だけじゃない多くの人を傷つけるために……]

 

["ネズミ刈り"を作ったんだ]

 

「……ネズミ刈り……」

 

[連邦の中に巣食うネズミ、つまり公けに公開されていない特殊部隊を"事故に見せかけ壊滅"させる。その大多数を担うのがクローンさ]

 

[唯一の人間は、君が良く知る人だと思うけど?]

 

「………ジェームスの事か」

 

[そうさ。彼は、その事実も知らず、今も戦い続けている。……ひどく悲しい話だよね]

 

「……そうだね……」

 

[僕が知っているのはここまで、僕も、結局のところそれくらいしか知ることは出来なかった]

 

「なあ、ゼロ」

 

[なんだい?]

 

「どうしてそんな事を教えてくれたんだい」

 

 ゼロはふっと笑った後

 

[大したことじゃないよ、僕は、人を、人類を信じているから。……何より、命を玩具のように使う人を許せないだけさ。分かってくれるよね]

 

「……そうだな。お前やシゼルの命をこうも簡単に扱う、ベルベットは…許しておけない」

 

[だからせめてもの、彼への抵抗さ。さあ、行って。僕は―――!ムゲン、危ない!!!]

 

 反応するよりも早く、ゼロが前に躍り出る。

 

「ゼロ!?」

 

 そして、ビームライフルを構え発射。しかし、出力で負けて頭部が貫かれる。

 

[ぐっ………!!随分早い出だね……ベルベット…!!]

 

「何…!!」

 

 ゆっくりと姿を現したのは、真っ赤に塗装されたガンダム。

 

[喋りすぎだな、ゼロ・オブリビオン。せっかく蘇らせたというのに]

 

「ベルベット……!貴様!!!」

 

[……悪いけど、僕は一言も蘇らせてほしいなんて言ってない]

 

[ああ、そうだな。だが、死んだ人間が喋るというのもおかしい話だ。だから再び消えてもらおう]

 

「……やらせるか――」

 

[ムゲン]

 

 それを制止したのは、他でもないゼロだった。

 

[……彼は、僕が止める。君には、つけなきゃいけない決着が多い。だから、せめてこれくらいはさせてほしい]

 

 そう言いながら、蒼い色のオーラがMk-0から沸き立ち、赤いガンダムへと立ちふさがった。

 

「…ゼロ………」

 

[旧式がこの私に勝てると?]

 

[やってみなければわからない…!僕はそれを……背中にいる彼から教わった!!!]

 

[さあ行って、ムゲン!君が未来を……僕が見れなかった明日を!!!]

 

「…分かった。……必ずまた…!!」

 

 背を向け、ゼロから送られた座標へと移動する。

 

 

 

 

 コロニーの前、そこに佇む1機のガンダム。

 

 黒いその機体が、俺を待っている。

 

「………やはり、居たか。道夜」

 

[……待っていた、お前を]

 

「道夜……!!!」

 

[今度こそ、お前を討つ…!!!]

 

 刀とビームサーベルがぶつかり合う。

 

 得物が弾かれ合い、お互いに間合いを取ってビームライフルを構え、放つ。

 

 2機のガンダムが宇宙を舞いながら激しくぶつかり合う。

 

[遅い……!!]

 

 腹部に蹴りを入れられ吹き飛ぶ。態勢を整える間もなく、追撃でナイフが飛んでくる。

 

「ちっ!!!」

 

 蹴りでナイフを吹き飛ばし、そのままの勢いで刀を振りぬく。

 

 それを二振りのビームサーベルでつかみ、刀を溶解させた。

 

「っ……!!」

 

 そしてそのまま胸部へと斬りつけられる。

 

「ぐっ……!!!」

 

 追加装甲のおかげで致命傷は避けたが、これではもう使えないだろう。

 

「……フルウェポンを解除する」

 

 装甲と武装をパージし、再びリファーストを見据える。

 

「道夜……お前も…ずっと"独り"だったんだろ……」

 

[……"一人"だからなんだ]

 

「お前が支えてくれたことは何度もあった。でも、俺はまだ何一つお前にしてやれていない。……だから!戻ってくるんだ!今度は俺もお前の痛みを背負う!!」

 

[……何を…!!]

 

 ビームライフルを構え、牽制。それに反応したリファーストが回避しながらこちらを射撃。

 

 それをシールドで防御しながら、メガキャノンを発射。

 

 正面で爆発が広がる。

 

 ビームサーベルを引き抜き、リファーストへと駆ける

 

 左から右へ切り抜け、ビームライフルを両断。

 

 素早く反転し、サーベルを振り下ろすが、相手はそれをサーベルで受け止めた。

 

[何を言ったところで…今更ぁああ!!!]

 

「道夜!お前にも分かるはずだ!皆の声が!!!皆お前を待ってる!!誰一人、お前を責める奴なんかいないんだ!!!」

 

[黙れ……お前に何が分かる!理解してもらえぬ苦しみが!!理解してほしいと願っても、誰一人にも手を差し伸べられず!!お前だけだった!!!]

 

[お前だけがいつも……いつもぉ!!!!]

 

 リファーストは間合いを取り、バズーカを放ってくる。

 

 素早くシールドを構えメガキャノンを発射。

 

 弾頭とビームはぶつかり合い、宇宙に光を放つ。

 

 煙から飛び出してくるリファースト。そのまま流れるようにこちらへ迫る。

 

 咄嗟にシールドで防御。それを予測していたのか、ガンダムは横薙ぎにサーベルを振り、シールドを真っ二つに。

 

「っ……!!違う……!!お前にだって…手を差し伸べてくれた人はいたんだよ!!!ユーリだって、エトワールだって!お前を連れ戻したいと願ってる!!」

 

[黙れ……!そんなわけがない…!!]

 

「本当だ!!道夜!!戻ってこい!!!」

 

 片手でバズーカを放ちながら、再び距離を詰めてくる。

 

 再びぶつかり合うサーベル。

 

[いつもお前は青臭い言葉ばかり並べて……!人を分かった気になって!]

 

「くっ……!!俺は……!」

 

[そのくせ、責められればいつも逃げ出して!!!]

 

 サーベルで押し切られ、腹部を蹴り飛ばされる。

 

 反動で吹き飛ぶが、素早く機体を制御し体勢を立て直す。

 

「ぐっ…!!」

 

[そうして歩んできた道に、何の意味がある!!答えてみせろ!!]

 

 バズーカを発射しながら俺の側面へと移動していくリファースト。合わせるように俺は機体を動かし、ビームライフルで迎撃。

 

 爆発の光があちこちで放たれる。俺は爆風に紛れ、相手の死角へ。

 

 背後からサーベルを振り上げた。

 

「俺は……俺は!!!」

 

[答えられない……それがお前の答えか!ムゲン!!!]

 

 素早く反転した道夜は、振り上げた俺の腕を掴んで、投げた。

 

 投げられ機体が吹き飛ぶ。

 

「ぐぁああ!!」

 

[………所詮、お前はこの戦争という世界で生きるには、純粋すぎる。出会った時から、そう思っていた事だ]

 

「くっ……」

 

 態勢を立て直した時には既にそこには何もいない。

 

「っ!!」

 

 振り向きサーベルを振る。すると、ギリギリのところで道夜の攻撃をサーベルが受け止めていた。

 

[………純粋すぎるがゆえに……お前はニュータイプとしての力をいかんなく発揮し、そして……多くを惑わせた!!]

 

「違う……それは違うよ道夜!!確かに俺はニュータイプなのかもしれない、でも、道夜……お前だってニュータイプなんだ!!」

 

[何を……!!]

 

「皆の声を感じるんだろ!それが証拠なんだ!雑音に聞こえる声だって!それはお前がニュータイプである証なんだ!!」

 

[本物のニュータイプが……!!俺は……人工ニュータイプ……!セカンド・ムラサメだ!!!]

 

「違う……!!お前は、八雲道夜!俺たちの仲間だ!!!」

 

[黙れ……黙れぇええええ!!!]

 

 ビームサーベルを構え突っ込んでくる。

 

「……確かに、俺は甘いし、すぐ人を分かった気になる、そして、逃げもするさ…。でも……!!!」

 

 何度目かの衝突。

 

「でも……!俺には……お前や、沢山の人から、多くの事を学んで、受け継いできた!だから、俺はこの道を……この歩んできた"()()"を後悔していない!!!」

 

 力で押し切り、一気に間合いを詰める。

 

[くっ………!!]

 

「お前は……!!お前はこれでいいのか…!?人工ニュータイプとして、このまま宇宙を彷徨うだけの生き方で!!!」

 

[俺は任務のために――]

 

「違う!!任務とかそんなの関係ない!!お前は…!!お前自身がどうしたいかを聞いているんだ!!!」

 

[俺は………俺は―――あぁああああああ!!!!黙れぇえええええ!!!!]

 

「道夜…!?」

 

 瞬間、リファーストが真っ赤なオーラで包まれる。

 

[お前を……殺す…!!それだけだ!!!]

 

「道夜……!!!」

 

 

 

 

『ムゲン……………』

 

 頭の中に声が響く。

 

「…!ゼロ…!?」

 

『ごめん……僕はここまでだ』

 

「何…!!」

 

『忘れないでほしい、時には、言葉だけでなく、力を使わねば届かない事も。それでも………人を…信じてほしい』

 

「ゼロ……お前……」

 

『短い時間だけど、君とゆっくり話せて幸せだった。今、救いたい人がいるのなら、君は刃を…取るべきだ』

 

『その刃で、彼の心の壁を…貫くんだ』

 

『僕は知っている。君の背負った重さを、仲間への想いを』

 

『だから……これを託そう』

 

 ガンダムが虹の光に包まれる。

 

 そこには確かに、ゼロの温もりがあった。

 

「……ゼロ……!!」

 

『…大丈夫、君は、()()()()()()()()()()()。……未来を……頼むよ』

 

「………ゼロ……!!! ……分かってるさ…。後は…俺が…!!」

 

 

 

 

「レゾナンス、俺に力を貸してくれ!!!」

 

 サイコフレームの色が()()()()へと昇華し、全身から緑のオーラが沸き上がった。

 

 自然と恐怖を感じない。……ここに皆を感じる。

 

[……これは……!]

 

「……お前を目覚めさせるには……これで決着を付けなきゃな…!!!」

 

 ビームダガーを抜き、構える。

 

「道夜……お前を連れ戻すために、俺は……戦う!!!」

 

[……そうだ……!来い!ムゲン!!!]

 

 駆ける、そして、素早く切り抜け、反転。

 

 互いに得物がぶつかり合い、そして弾かれ合う。

 

「………もう、本当に、こんな戦いは終わらせなきゃいけないんだ!!」

 

[ならどうする!]

 

「ベルベットを討ち……お前とジェームスを連れ戻す!!!」

 

[やれるものなら…!!!]

 

「やってやるさ!!!」

 

 サーベルを構え、相手へと切り上げる。

 

 上昇回避した道夜へとサーベルが襲う。斬撃は相手の左足を切り落とし、左足が爆発。

 

[くっ…!!だが!!!]

 

 反撃にサーベルを振り下ろす道夜。対応に遅れ、右足に傷をつける。

 

「………道夜……必ず連れ戻してやる!!!」

 

 互いに間合いをとる。俺はサーベルを投げ出し、殴りにかかる。

 

 すると道夜もそれに合わせ殴りに来る。

 

 互いの拳がぶつかり合う。

 

「お前の痛みも、苦しみも……俺が背負う!だから!!」

 

[それだけで、俺を理解したつもりか!!!]

 

 蹴りと蹴りがぶつかり合う。宙返りのあと、再び拳が交わる。

 

「分からないさ……!だから教えてくれよ…!!!お前の事!!!」

 

[何……!]

 

「人は分からない事だらけさ、自分の事だって分かりきってない。でも、それでも、分からないから投げ出すんじゃなく、理解するんだ!!」

 

「そして、それを知って、受け止め、妥協して人々は生きていくんだろ!!!」

 

「俺はお前をほとんど知らない!でも、お前だって俺を知らない!!!だから、まだ一緒にやるべきことは沢山あるはずだ!!!」

 

[…俺は……!俺は……!!]

 

 道夜を蹴り飛ばす。すかさず受け身を取った彼は、再び突っ込んでくる。

 

 俺もスラスターを起動し、道夜へ殴り掛かる。

 

 

「道夜ぁああああああああ!!!!!」

 

 

 

[うぉおおおおおお!!!!ムゲェエエン!!!!]

 

 

 互いの拳が、メインカメラに打ち込まれる。

 

 衝撃で機体が吹っ飛ぶ。

 

 なんとか態勢を立て直す。しかし、道夜はうまく立ち直れず、宙を舞う。

 

 

 

 

 俺は道夜の機体へと近づき、手を差し出す。

 

[………なんの……つもりだ…]

 

 そんな彼へ、俺は静かに微笑んで言った。

 

「もう一度、俺たちはお互いを知る必要がある。俺だけじゃなく、皆」

 

[…………ムゲン……]

 

「もう、俺たちは戦う理由なんかない。そうだろ……道夜」

 

[……馬鹿だな……。まだ……やるべきことが残ってる]

 

「分かってる。でも、もうこれで、お前との戦いは終わり、そうだろ?」

 

[………]

 

 彼は静かに考えた後、俺の手を取り機体を起こす

 

[そうだな。……俺も、人の事を言えた義理じゃなかったな。他者を理解し、妥協して共生する…か。そうだな、人は、"()()()"そうあるべきだ]

 

「…それが、本当に分かり合うって事なんだと思う」

 

[……分かり合う…か。随分と時間のかかりそうな話だな]

 

「それでも、少しずつでもそうしていかなきゃいけないんだ」

 

[……ああ。……ありがとう、ムゲン]

 

「気にしないでいい。……そのためにもまずは、つけなければいけない決着がある。 エヴァ、ベルベットは」

 

「コロニー内部、そこに熱源反応があるから、たぶん、彼はそこに居る」

 

[…行くのか]

 

「ああ、行かなきゃいけない。全て、終わらせるために」

 

[………俺も行こう]

 

「道夜…」

 

[俺も、お前を知らなきゃいけない。だから、俺たちで終わらせて、帰るんだ]

 

 

[私も忘れないで!先生!]

 

 背後からネティクスと金に輝くガンダムが並び、こちらを見て言う。

 

「リリー……!それに…ジェームス…!」

 

[……大丈夫、私達は、分かり合えたから。ね、ジェームス]

 

 ネティクスの顔が金のガンダムのほうを見ると

 

[迷惑かけてすいませんでした。俺……]

 

 彼は恥ずかしそうにそう言った。俺は首を横に振りながら言葉を返す。

 

「…いいさ。………もう、恨みは晴れたんだろ?」

 

[……リリーが居なかったら、俺は変われなかった。俺は情けない男です……]

 

「いいんだよ、それで。これからは、二人で進んでいけばいいんだ」

 

[……はい]

 

「皆、覚悟は良いんだな」

 

[ああ、俺はいつでも行ける]

 

 道夜が軽く笑ってそう言う。

 

[私も行くよ、先生。私、皆を守りたいから]

 

[大切な事、リリーから教えてもらったんです。だから、俺も行きます。俺が本当にしなきゃいけない事、見つけたから]

 

「……分かったそれじゃあ――」

 

[待ってください。私達も忘れないでもらえますかね]

 

 遅れてユーリとエトワールの機体が到着する。

 

「…二人とも、無事だったか!」

 

[当然ですよ、私を誰だと思ってるんです?天才スナイパーですよ?]

 

[……面倒なのが来たな……]

 

[ん…?その声は!おお!懐かしきATM!!元気でしたかー?]

 

[……まだその呼び名かよ………はぁ…]

 

「ほんと…久々だな…」

 

 

[ムゲンさん]

 

「エトワール…?」

 

[私も、彼と決着をつけるため、行かせてください]

 

「……そうだな。君も行くべきだ」

 

[……はい]

 

 俺は4機のガンダムへ声をかける。

 

「…皆、ここから先、もう後戻りはできないけど、必ずみんなで帰ろう」

 

「俺たちの背中には、沢山の人々の想いがある。どんなに苦しくても、必ず生きよう…!!」

 

[ああ、俺たちはまだ、お互いの事を知らなさすぎる。だから、生きて、お互いを知ろう。俺たちはまだ、出会ったばかりなんだから]

 

 道夜を皮切りに、皆それぞれが想いを口にする。

 

[私、ジェームスともっと世界を見たい……!だから、そのためにも必ず生きて帰る!]

 

[俺は……名も知らない人から命を救われて、リリーの言葉でやっと目が覚めた。……俺にも沢山の人が手を差し伸べてくれてるんだって。だから、その想いを熱を…無駄にしたくない]

 

[無茶と言っても皆行くんでしょうし、私も行きますよ。…久々に三人で暴れられますしね]

 

[……ここまで繋げてくれた皆さんのおかげで、私は今ここにいる。だからその想いを無駄にせず、私は次代へとこの想いを残す義務がある。だから、そのためにも、彼を討つ…!!]

 

「………そうだな。……行こう、"始まりの地"へ」

 

 

 5機のガンダムがコロニーへと向かう。

 

 そして、始まる最終決戦。

 

 虹の軌跡が辿る戦いの果て

 

 

70 完


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