機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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08:死を司る執行人

 宇宙世紀0079.11.10 あの後、俺は見知らぬ研究所へと運ばれ、俺は研究者の実験台として調整を受けることになった。

 

 0079.11.11 俺は研究者から、【適合者】と呼ばれるようになった。どうやら実験は成功し、俺の身体は通常の人間以上になったらしい。

 

 0079.??.?? だんだん記憶があいまいになっていく…時折自分が誰だかすら分からなくなってくる。今日は…何をされたんだっけ…

 

 ????.??.?? …研究者が、MSを渡してくれた…

 

「起きろ。適合者」

 

「…」

 

「起きろって言ってんだろうが!!!」

 

 研究者は俺を蹴り飛ばす。体は宙を浮き、壁に叩きつけられる。最近殆ど食事が喉を通らなかったせいか、俺の体は呆気ないほどに飛んでしまう。

 

 俺は、震えながら立ち上がる。

 

「…」

 

「よし、起きたな。来い」

 

 研究者の後を俺は追う。

 

 ただただ長い廊下を歩く。光で目が痛くなる。

 

 今…何時だろう…。それを問おうとしても分からない…。喋る力が出ないからである。

 

「さぁ…着いたぞ」

 

 格納庫だろうか、見上げると、蒼い色のカラーリングが施されたジム…なのだろうか。頭部はジムそのものなのだが、機体の胴体はガンダムに近しい感じがした。

 

「…」

 

「RX-80-PR〔Ex〕…【ペイルライダーエクセキューション】…。死を司る執行人だ」

 

「…」

 

 俺はただ頷いた。

 

「お前はこれに乗って戦うんだ」

 

「たた…か…う…」

 

「そうだ!戦って戦って死ぬまで戦い続けるんだ!」

 

「…はい」

 

 戦う…その言葉により俺の意識がはっきりしはじめる。

 

 俺はペイルライダーに乗り込み、システムを起動させる。MSの操縦は、何故だか知っていた。長い間乗っていなかったのに。

 

「おぉ…!おおぉ!!!いいぞ!適合者よ!!」

 

 研究者は狂うほどの大声で笑った。

 

「…出撃…します…」

 

 俺は機体を動かし、戦場へ向かった。

 

 この機体は試験機らしく、表向きの戦場ではなく、相手の暗殺などを中心にデータを取るらしい。データも何のデータなのかは分からなかったし、別に興味もなかった。

 

 戦場に出ると、俺は研究者に通信を送る。

 

「…指示を…」

 

[指示か…そこにいるジオン軍や連邦軍、全てを抹殺せよ]

 

 それが彼の望み…。ならば私が執行する。

 

 レーダーを確認すると、ジオン機3機、連邦機5機だけであった。

 

「…執行する…」

 

 俺はまず、連邦軍の機体に矛先を向ける。

 

[な、なんだ?!あの敵は!!!]

 

[見たことないです!たいちょ…うわああああ!!!]

 

 俺は瞬時に敵を切り裂く。

 

「…次…」

 

[ひ、ひっ!!!]

 

[ひるむな!!相手は1機だ!!]

 

 ジムがまとめて切りかかってくる。

 

 俺は1機のジムの腕をつかむ。

 

[な、なんだ!?この化け物!!!]

 

【化け物】。その言葉が…心地よかった。

 

 俺はつかんだジムの腕を砕き、さらに、地面に投げ飛ばした後、追い討ちのようにビームライフルで()()も撃ち抜いた。

 

[て、てめぇ!よくもテリーを!!!]

 

 もう1機がマシンガンを放つ。俺は、それを軽く防ぎ、敵をビームライフルで撃ち抜いた後、ビームサーベルを構えながら言った。

 

「…執行する…お前に…死を」

 

[な、なんなんだよ!!!化けも…]

 

 そこで通信は途切れた。俺がビームサーベルでコックピットを貫いたからである。

 

 隊長機が撃破され、混乱に陥った兵士を俺は次々と殺していく。

 

 敵を倒すこと…それが…それだけが俺の悦びだった。研究者の言葉など、一切の興味が無かった。

 

 無残に転がる死体や機体を見つめながら、俺は自然と言葉が出た。

 

「…ふふふ…ははははは!!!!…楽しい…。敵を…もっと…!」

 

 そう笑いながらレーダーを見ると、先ほどまでそのレーダーに映っていた敵が1機いなかった。

 

 俺が振り返ると、そこにはクナイを構えた黒い色のザクが立っていた。おそらく不意打ちをしようとしたのだろう。

 

[あらら、ばれちまったか…]

 

「…そこにいたか…執行する…」

 

[おっと!やるってのか?お前みたいな冗談の通じない奴は苦手なんだよなぁ]

 

 俺は彼の言葉を無視し、ビームサーベルを引き抜く。

 

「…お前に待っているのは死のみだ…」

 

[ったく…じゃあ相手してやるよ!!]

 

 ザクは大型のヒートサーベルを引き抜いて斬りかかって来る。

 

 俺は片方のビームサーベルで受け止め、もう一本ビームサーベルを引き抜き、ザクを斬ろうとする。

 

 するとザクは、間合いを取り、すかさずクラッカーを投げてくる。

 

 投げたクラッカーをザクマシンガンで撃ち抜いて、クラッカーは爆発する。

 

 それをシールドで防いだ俺を、ザクは、クナイで回転するように攻撃する。ビームサーベルで受け止める余裕が無かったため、クナイがペイルライダーの頭部を掠める。

 

「…!」

 

 すると、モニターが砂嵐と化し、相手を見ることが出来なくなる。だが、別にどうとも思わなかった。

 

 俺は目を瞑り、足音を探った。

 

 右から来る…そして左から斬りかかって来る…それを俺の勘が告げた。

 

「……!!!」

 

[おぉ!やるなぁ!!!]

 

 俺の予想は的中し、モニターが戻ると、ビームサーベルがヒートサーベルの攻撃を受け、防いでいた。

 

「…」

 

 俺は一方のビームサーベルでザクを切り裂こうとするが、ビームサーベルはザクの腕をギリギリ掠めて当たらなかった。

 

[…危ねぇ!おい!修理代ひどいんだぞ!!分かってんのかよ!!]

 

「…」

 

 俺はヒートサーベルを吹き飛ばし、敵にビームサーベルを向ける。

 

[おっと…]

 

「…お前に死を…」

 

 

 

 それからの記憶は殆ど曖昧だ。その後、彼を殺したのか。それとも逃がしたのか。分からないが、今はただただ眠かった。

 

 体の自由は利かず、頭が割れそうなほどの頭痛と、吐き気…俺は一体どうしてしまったのだろう。

 

「…この…者は…だ…」

 

 研究者達が俺のベットの横で話をしている。会話は殆ど断片的で、聞き取れない。ああ…眠い…。

 

 自分がどうなるかなんてどうだっていい。俺に帰る家は無い。ただ俺は…戦うだけだ…。俺は現実から逃げるように眠りに着いた。

 

 …夢なのだろうか、見覚えのある人たちがこちらへ向かって歩いてくる。だが、名前を思い出すことが出来ない。

 

 あぁ…分からない…。どうして俺を見て笑うんだ…!どうして俺を…!!そうか…俺を見下して、笑ってるんだな…。

 

 そんな奴ら!俺のところから…!!!

 

「出て行けぇええええええええ!!!!」

 

「はぁっ!!はぁっ!!」

 

 顔からは大量の汗が噴きだし、心臓がドクドクと脈打つ。

 

 そんな時、何故だかは分からないが自分の顔から、汗とは違う何かが流れ落ちる。

 

「…俺…は…」

 

 それが何かは俺には分からない。分かっていたとしても理解しようとはしなかった。

 

 俺は震える手を押さえながら、自分の部屋を後にした。

 

 

 

 外に出て空を見上げると、星たちが、一つ一つ自分を主張しあうように輝いていた。

 

「…綺麗…な…星だ…」

 

 自分の体に言うことを聞かせるのが精一杯の俺には、この一言でさえ苦痛を感じる。

 

「…」

 

 このままずっとこうしていたい。全てを忘れて、このまま夜空を見上げていたい。そして、ふと、俺は思った

 

 こんな感情が俺にもあったのかと。

 

「くっ…!うあぁ…うぐぅ…!!」

 

 突然の頭痛、これももう慣れた事ではあるが、何度やっても慣れる事は無い。何だっただろうか、少し前に失った感情と同じ…そんな感じの…

 

「はぁ…はぁ…!!」

 

 激しい頭痛のする頭を抑え、俺は部屋に戻る。

 

 

 

 部屋に戻ると、研究者が苛立ちを隠せない様子で待っていた。あぁ…()()…か。

 

 俺が帰ってきたのを見るや否や、彼は俺の腹を一発殴った。

 

 俺の口から、望んでいないはずの血が吐き出される。

 

「か…はっ…」

 

 俺はそのまま地面にうずくまった。

 

「どこに居たんだ…寂しかったじゃないかよ!えぇ?」

 

 そう言って腕の骨をポキポキとならす研究者。これも…いつものこと…。

 

「…」

 

「何とか言ったらどうだよ!適合者!!!」

 

「ぐっ…!?」

 

 彼は俺を何度も蹴り飛ばす。これもいつも通りのことだ。

 

「…申し…訳…ありません…ぐはっ!!」

 

 謝ろうとする余裕すら許されないそんな状況…でも、それでいいのだと、自分に言い聞かせる。何故なら、自分が全て悪いから。

 

「ふんっ!!二度と逃げ出そうとすんなよ!!!」

 

 そう言って研究者は扉を強く閉めて出ていった。

 

 俺は震えながら立ち上がり、自分の口から出てきた血を拭う。この作業も毎日のように行なわれれば、慣れていくものだ。

 

 辛くも、悲しくもない。ただ、彼が去っていた後のこの静寂だけは、なぜか知らないがいつまでも慣れないものだった。

 

「…あ…くっ…」

 

 右腕が痛む。どうやらまた折れたみたいだ。

 

 俺の体は、改造されたせいか、()()()()()()()()()。そんな化け物になってしまったようだ。だが、今更そんな事どうとも思いはしなかった。

 

 俺はまたベットに横になる。ただ少しだけ…眠くなった。だが、どうしても眠れない。

 

 そういえば…少し前のことだ、一人の女性から手紙が届いていたのを思い出した。

 

 俺は研究者にばれない様に引き出しに隠した手紙を取り出し、読む。

 

「ムゲンさんへ…そちらでの生活はどうですか?苦しくないですか?笑えてますか?

 

 ムゲンさんがいなくなった私たちの部隊は、少なからず皆元気が無いように見えます。

 

 でも、私は信じています!ムゲンさんがきっと帰ってくるってことを…!

 

 だから、今は泣きません…きっとあなたに会えたとき、その時は私をまた…抱きしめてください!

 

 あ、そうでした!ムゲンさんのために、新しい機体を皆で製造していますよ!

 

 道夜さんは、「俺の機体のデータ、使えるはずだ」そう言ってデータを渡してくれて

 

 ユーリさんは、ムゲンさんの戦闘スタイルに合わせた機体の配色を考えてくれて

 

 フユミネさんは、武装の考案とコックピットの配置、そして、ファングさんが全体の機体バランスを考えてくれてるんです!

 

 私は…その前に1機だけ、同じ機体を造ってみました!名前は…まだ決めてないですけど!

 

 これを基に、みんなで今必死に考えています!だから…少しでもいい…早く帰ってきてね…」

 

 手紙はここで終わっていた。手紙を読み終えると、俺は手紙をたたんで、引き出しに戻す。

 

 誰が書いたのか、皆って誰…俺の頭の中はぐちゃぐちゃになり、それから逃げるように眠りに着いた。

 

 そして、嫌でもまた朝日は昇っていく。

 

 

 

「……」

 

 俺は着替えを済ませ、部屋から出て行く。そして、上着を着ようとする時、胸のポケットから何かが落ちた。

 

 俺はそれを拾い上げ、確認することなく元の場所にしまった。

 

 それが何なのかは分からない。

 

 ただ、俺が俺でいれる証みたいな…そんな大切なものなのは分かっていた。

 

「…行こう…」

 

 俺は自分に言い聞かせ、ペイルライダーに乗り込んだ。

 

 

08 完




今回のオリジナル機体です。


機体名  ペイルライダー・エクセキューション
正式名称 PALE RIDER Execution

型式番号  RX-80PR〔Ex〕
生産形態  試作機
所属    地球連邦軍
全高    18.2m
頭頂高   18.0m
本体重量  43.7t
全備重量  56.7t
出力    2,100kw
推力    65,000kg
センサー  6,500m
有効半径

武装    ジャッジメントビームサーベルx2
      頭部バルカンx2
     ハイパービームライフル
シールド

搭乗者   ムゲン・クロスフォード

機体解説

連邦軍のレビル派の高官、グレイヴによって立案されたMS開発計画「ペイルライダー計画」の中心機体の初号機。

当初は一年戦争時点での最新技術を導入した次世代MSとして開発が進められていたものの、莫大なコストによって試作機が4機完成した時点で量産化は断念される。

しかし、グレイヴは自らの政治基盤を固めるためにそれらの機体を回収して各機にヨハネの黙示録の四騎士の名称を与え

そのうち3機を連邦軍の非正規部隊に与えてデータを採取し、本機にはそれらから得られたデータをフィードバックさせたうえ

クルスト・モーゼスとアルフ・カムラに圧力を与えてEXAMシステムのデータの引き渡しを要求し、オーガスタ研究所にてそれを基に完成させた「HADES」を搭載させて完成した。

ビームサーベル2本に加え、ガンダム4号機、5号機の使用したビームライフルを装備しており、飛躍的に火力が向上している。

さらに、本機は、ムゲン・フォードクロスの戦闘スタイルにより、ジャッジメントビームサーベルなるものが装備され、最大出力時には、コロニーですら両断できるほどの火力を持っているが

使用時には機体が負荷に耐えられず、そのまま爆散してしまう可能性のある危険な武装である。

本機は、ジャブロー攻防戦に参加しており、連邦軍の特務部隊とジオン軍の特別競合部隊との戦闘に割って入り、戦闘を行なう事になる。

その際の戦闘で、ムゲン・クロスフォードが戦闘不能に陥ったため。

パイロットが変更され、機体名も変更となり、武装も増設されることになる。

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