機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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残党の妙な動き、そして再び戦地となるトリントン。

そこでムゲンが出会った敵は、思わぬ相手であった。


66:亡霊の妖精と魔獣に飼われた炎の魔神

 宇宙世紀0096 地上に残存するジオン残党に不審な動きあり。また、オーストラリア各地で残党による小規模な蜂起が確認される。

 

 幸い俺が任されたのはトリントン基地からさほど離れてはいない。

 

 今回もまたある程度楽な仕事ではある……

 

 しかし―――

 

 何かが引っかかる。

 

 俺たちは………

 

 

 アラートの音で現実へと引き戻される。

 

「っ……!!」

 

 寸での所でダガーで攻撃を受け止め、状況を把握する。

 

「……考えてる場合じゃない…なっ!!!」

 

 力で押し切り、一度間合いを取る。そして正面に相対するドム型へ再び接近し、斬りかかった。

 

 それを受けるようにドム型はヒートサーベルを抜いて鍔迫り合う。

 

 打ち合い、互いに離れては再び斬りかかる、攻撃する位置を読まれているのか、俺が慎重になりすぎているのかは分からないが、妙に相手と同じ位置へと攻撃が重なる。

 

「ちぃっ……!ならば!」

 

 攻撃をいなして回し蹴り、吹き飛び体勢を立て直す暇も与えずに相手の頭部にもう一方のダガーを突き刺す。

 

 トドメという所で背後からの殺気。瞬時に機体を動かし回避する。

 

 そしてそのままの勢いで背後にいたザク目掛け接近し、両手のダガーで切り抜けた。

 

 その一撃は、綺麗に両腕を切り落とし、敵の戦意をも削ぐ。

 

 ザクとドム型の機体はなす術もなく後退していく。……これでいい。また来るなら、今度は……。

 

 レーダーに反応。さらに8機の増援が確認された。

 

 おかしい……幾らなんでも小隊規模を超える数が来るなんて……。

 

 俺の考えすぎなのか……?

 

 いずれにしても、今はこの状況を乗り越えるしかない。

 

 数では不利でも、ここで退くわけにはいかない。違和感を振り切り、前を見る。

 

「…行くぞ、ピクシー!」

 

 一気に間合いを詰め、突出している一機のグフを両断、続けざまに腰のマシンガンを構え、敵のほうへと乱射。

 

 それを見て相手の陣形が崩れ出し、一機がこちらへと迫る。

 

「来た……!もう一機!!」

 

 数的不利ならば、一対一の状況を疑似的に作り出して状況を打開するしかない。

 

 しかし、相手も手練れ、それ故にその考えは読まれているようで、俺の周りを他の機体が包囲し始める。

 

「分かってるさ…そううまくいかないくらい……。でもさ…!!」

 

 瞬時に反転し、背後から迫るザクのコックピット目掛けダガーを突き刺す。

 

「それでも、やるしかないんだ…!殺るか殺られるかなんだ……!俺は……殺る…!!」

 

 地面へと仰向けに倒れるザクからダガーを引き抜き、腰部分にラッチしてあるグレネードを2つ投擲、対象はMSではなく、地面。

 

 爆風がピクシーを包み、姿を隠す。

 

 これで動じるはずもないのは分かっている。だが、ほんの少しの隙は生まれる。

 

 煙の中を突き進み、そして踏み込む。

 

 分かる、感覚で……正面の敵が

 

「がら空きだ…!!!」

 

 煙から二つの瞳が輝くと、鋭い刃が軌道を描きドムの懐へと飛び、突き刺さる。

 

 宙返りしながらドムに突き刺したダガーを抜いて再び相手の位置を確認。残りはあと5体……。

 

「…これだけやっても、まだ数が居る……。やはり一人では厳しいか…!」

 

 それでも、退くわけにはいかない。ここで彼らを見逃せば、また争いが生まれてしまう。

 

 彼らも俺と同じで、過去に囚われ、意地と誇りをかけて戦っている。ならば、自らの使命と掲げたものの為なら、どんな犠牲でさえ……

 

 そう思えば思う程、退けないと、俺の意志が再び戦う力を与えてくれる。

 

 グレネードの残弾はあと一つ、マシンガンもギリギリ……だが、やるしかない。

 

 

『でも、今のお前は軍人だ、やるべき事がある。それは全て、あの子たちのためになる。それだけは忘れちゃいけない』

 

 フィアさんの言葉が蘇る。俺は小さく頷いた後、呟いた。

 

「…分かってるさ。…だから!!!」

 

 グレネードとマシンガンを構えながら1機のザクへと迫る。

 

「…まずは、マシンガン!!」

 

 マシンガンを乱射し、相手を動かす

 

「そして、グレネード!!!」

 

 最後のグレネードをザクの目の前に投げる、振動を受けたグレネードは爆散し、ザクの姿が見えなくなる。

 

 その隙に背後へ――

 

 機体を動かした時、脚部に電流が走り、一瞬動きが固まった。

 

「っ…!ピクシーが間に合わないのか…!?…なら!!」

 

 マシンガンを捨て、その場でダガーを抜いてザク目掛け投げつける。

 

 一本は頭部へと突き刺さり、そして二本目は見事にコックピットを貫いた。

 

 機体が動かないなら、パイロットが合わせるしかないと、この一年、旧式のMSを扱う訓練をしておいて正解だった。

 

 ある程度のイレギュラーくらいなら、俺が合わせることが出来る。……しかし…

 

 背後からの殺気。レーダーを見ると、背後に4機のMSが。

 

「……参ったな……武装も無いとなると…」

 

 残るは拳……なんて、無理だよな。

 

 大人しく投降するしか……

 

 

 瞬間、背後からの爆音。レーダーを見ると、友軍の反応。……連邦の増援……?

 

 何にせよ、今の好機を逃がすわけにはいかない。

 

 マシンガンを拾いなおし、背後にいる一機のコックピットへマシンガンを押し当て、引き金を引く。

 

 この距離なら、絶対に外さない。

 

 地面に倒れるザク、正面を見ると、既にほかのMSは連邦のジェガンによって撃破されていた。数は2。

 

 嫌な予感がするものの、一応連邦機に通信を送る。

 

「…こちら第00特務試験MS隊所属、ムゲン・クロスフォードだ、救援感謝する」

 

 そう言いながら、脚部に隠した小さい実体型のダガーを引き抜く準備をする。

 

 俺の思い違いなら武器を納めるだけだが……

 

 俺の言葉に返答するように、ジェガンのパイロットが言う。

 

[気にすることはない。それに、()()()()()()()()()()()()()()]

 

「何……?」

 

[手柄を取られたくなかっただけさ。お前の命と言う手柄をな!!!]

 

 瞬間、ジェガン2機がビームライフルをこちらへ構え、発砲。

 

「くそっ!やっぱりかよ!!!ならこっちもやるしかない!!」

 

 脚部のダガーを引き抜いて距離を詰める。

 

 2機のジェガンに目をやると、俺に応答していないジェガンが少しだけ動きがおぼつかないように見て取れた。

 

「……!」

 

 素早く対象を変更し、新米のジェガンの元へ駆ける

 

 そして、その勢いのまま、ダガーをコックピットへ突き刺し、引き抜く。

 

 力なく倒れるジェガンを横目に、もう一機の機体と相対する。

 

「…これで、一対一だ」

 

[……ふん。だから何だ、所詮お前の機体は旧式だ。いくら足掻こうとも、ジェガンには遠く及ばない]

 

「かもな……、だが、ピクシーも地上ではガンダムと並ぶ性能を発揮できる!そして、パイロットの腕次第で、ジェガンを超えることだってな!!」

 

[言ってろ、お前を討って、俺の手柄にしてやる]

 

 ビームサーベルを構え、ジェガンが突っ込んでくる。…乗ってくれたか

 

 ダガーを右手に持ち替え、ジェガンと鍔迫り合う。

 

 流石に、サーベルだけ取っても性能差があるのは分かった。…だが、こっちにはそれを上回る技術と経験がある!!

 

 ダガーの力を緩め、相手が態勢を崩したところに蹴りを入れる。

 

[ぐっ……!!やってくれる……!!]

 

 すかさず間合いを詰めながら頭部バルカンとマシンガンを発射。

 

 咄嗟にシールドを構え、それを防御した所を逃さない。

 

「いけぇえええ!!」

 

 勢いのまま思い切りダガーを右から左へと振りぬいた。

 

 しかし、武装が実体型のダガーだったために、シールドを両断することは出来ず、傷をつけるだけで終わってしまう。

 

「っ…!!」

 

 考えるよりも先に体が機体を動かし、シールドをバネに宙返りして間合いを取る。

 

[残念だったな、その武器じゃ無理だよ。お生憎様]

 

 武器も機体にも性能差がある。そして、こちらは決定打の薄いダガーのみ。相手のコックピットを的確に狙うしか勝ち目はない。

 

 一方ジェガンにはピクシーを追い詰めるだけの推力と、そして豊富な武装があった。

 

 くそ……!だが……こんな所で…!

 

 互いににらみ合いが続く中、その状況を切り開いたのは一つの通信だった。

 

[やあやあムゲン君、ちょっといいかい]

 

「カカサか!?一体何だ!戦闘中だぞ!!」

 

[おや、それはすまないね。ただ、こっちも一大事でさ。ほかの皆よりトリントンに近い君だからこそ最初に伝えておこうと思って]

 

「……どうしたんだ」

 

[トリントンが、襲撃されている。相手の目標は、トリントンの基地司令部]

 

「!!」

 

 トリントンが…襲撃を受けた……?アウロラは……アウロラは…!?

 

「アウロラは無事なのか!?孤児院の皆は!」

 

[今確認中だ。すでにフィアが行動を起こしているから、何ともないとは思うが……。とにかく、君も急いでトリントンに来てくれ]

 

 彼も相当忙しいようで、その言葉を最後にすぐに通信を切られてしまう。

 

「………邪魔だ……」

 

[ふん…!これで終わりにしてやる!!]

 

 目の前を立ちふさがるあのジェガンが…今はただ邪魔でしかなかった。

 

「お前が……!!」

 

一気に間合いを詰めて、ダガーで斬りかかる。それを受けるようにシールドで防御するジェガン

 

「お前が…邪魔だああああああ!!!!」

 

左腕でシールドを強引にはぎとる。

 

[なっ…!!!]

 

 ダガーを構え、そして

 

 

[ネズミごときに…"()()()()()"であるこの俺―――]

 

 

 突いた。

 

「……はぁ……はぁ…!!」

 

 彼の"最期の言葉"も気になりはしたが、今はそんな事を考えている場合では無かった。

 

 ビームダガーを格納し、素早く基地へと移動を開始する。

 

 モヤモヤとした違和感…そして、ファングの言っていたことが的中した。

 

 しかも、その話をしていた矢先に……。

 

 

 狙っていたのか……残党は……。

 

 

 

 俺が到着していた時には、すでに警備隊は壊滅状態、そして今も、残った警備隊と残党が激戦を繰り広げている。

 

 そして、その戦火は、望まずとも居住区へとのびようとしていた。

 

「……間に合ってくれよ…!!!」

 

 機体を動かし、居住区へと駆ける。

 

 残党だって何やってるんだよ……目的のためなら、同じ人間を殺していい理由になるって言うのか…!?

 

 前を立ちふさがる機体を2対のダガーで切り伏せながらひた走る、ただ皆が無事でいてくれることを願いながら。

 

 居住区の端へと辿り着くと、そこに居たのは1機の残党の機体。そしてその足元には……

 

「ルナ!!アウロラ!!!!!」

 

 迷ってなんかいられなかった、そのMSをタックルで吹き飛ばし、居住区に戦火を及ばせないようにする。

 

[連邦のガンダムだと!?何故ここに!!]

 

 態勢を立て直してこちらを見据えるドム。

 

「そんなことはどうだっていい!まだ避難できていない人がいるかもしれないのに、なぜ居住区を背に戦おうとした!!!」

 

[俺たちには意地がある!その障害になる連邦の基地に庇護される者たちなど…!!!]

 

「命は……!そんなに軽いものじゃない!!!」

 

[減らず口を!!!]

 

 モニターで子供たちが避難するのを確認する。……よかった…。

 

「命を侮辱する人間のいう事か!!!」

 

[俺の誇りを侮辱する人間が!!!]

 

 互いに得物がぶつかり合い、火花を散らす。

 

[どれだけ俺たちが惨めな思いをしてこれまで生きてきたか、お前に分かるのか!?]

 

「分かりはしないさ!でも、だからって命を軽く見るのは違う事だ!!」

 

[お前たち連邦だって、人の命など軽いものとしか見ていないくせによく言う!!!]

 

 打ち合い、互いに衝撃で離れる、もう片方のダガーを振りぬくと、ドムはその手を掴み、ヒートサーベルを振り上げる。

 

 ピクシーの腕でその攻撃を受け止め、互いに組み合う。

 

「何を…!!連邦の中にだって、命を大切にする人だっている!!」

 

[軍人が綺麗ごとを言うかぁ!!!]

 

「軍人である前に、俺は一人の人間だぁああ!!!」

 

 押し切って、態勢を崩したドムへダガーを突き立てる。

 

 力なく倒れるドムを見ながら俺は呟く。

 

「でも……軍人なのは本当さ。お前を敵だと思ってしまったんだから」

 

 矛盾でも、言い続けなければいけない。これが正しいんだって。

 

 レーダーを確認すると、さらにこちらへと4機ほど接近してきている。

 

 背後には居住区が、これ以上退くことは許されない。

 

 

「なら……!!」

 

 ダガーを構えなおした瞬間、背後から駆け抜けていく緑の機体。俺はその機体に見覚えがあった。

 

「あれは……!!」

 

 その緑の機体は果敢に4機のMSと戦闘を開始する。

 

[ぼーっとするな、ムゲン!!ここは戦場だ!!]

 

「フィアさん!?なんで!!」

 

[私がただ黙ってみていられるほど我慢強い女じゃないのは知っているだろ?カカサには黙って出てきた]

 

「……カカサに叱られるよ……」

 

[なら、今この場で居住区に戦火が及ぶことを許していいのか?違うだろ。思い出せ、お前の戦いは、あの子たちの為だろう]

 

「……分かってますよ、言われなくたって!」

 

[その意気だ。ムゲン、この先に地上制圧部隊の指揮官らしき機体を確認した。お前はそっちへ向かうんだ]

 

「でも、フィアさん一人じゃ…!」

 

 フィアさんはふっと笑って

 

[何を言っている?私はお前の姉であり、そして何より、クロノードの妻だ。私の強さなら、お前たちが一番知ってるだろう?手練れだろうが負けはしないさ]

 

「……信じますよ、本当に無事でいてくださいよ!!」

 

[無論だ。…さあ、行けムゲン!!道は切り開く!!]

 

 サーベルで1機を突き刺し、片方の手でビームライフルを持ち引き金を引く。その一射は他の機体を貫通する。

 

「……行こう、ピクシー!!」

 

 

 フィアさんが開けてくれた道を駆け、俺は指揮官機と思われる存在へと近づいていく。

 

 それは紫のカラーリングをしたザクともグフともいえない機体。

 

 機体の腕部に何本ものナイフを携えていることから、近接機だという事が容易に理解できた。

 

 紫の機体は俺を見据えると

 

[………その機体、随分と久しい]

 

 聞き覚えのある声が機内で響いた。

 

 多少低くなっているものの、昔聞いた彼の声だった。

 

「まさか………リッパー……なのか」

 

[そうか……ピクシーの乗り手はムゲン、アンタだったか]

 

「何故……ジオンに……それに、その機体は…」

 

 聞きたいことは沢山あった。だが、彼は小さく笑って一言だけ

 

[野暮だな。この場には、俺とイフリート、そしてお前とピクシーが居る。その事実だけで十分だ]

 

 彼は……此処を死地と……

 

「分かった。なら俺はレイスとして…アンタを討つ!!」

 

[ああ、行くぞムゲン!!]

 

 荒野に2機のMSが睨み合う。

 

 かつて仲間同士であったものが、数十年という時を超え敵として相まみえている。

 

 この二人に、多くを語る必要は無かった。

 

 

 一気に間合いを詰め、ダガーで切りに行く。それに呼応するようにイフリートもナイフを振りぬく。

 

 刃と刃が、己の伝えたい意思と、今まで培った全ての技術がぶつかり合う。

 

 互いに苦労を超え別れと死を超えた先で、この場所に立っている。

 

 だからこそ

 

 もう一方のダガーで胴体を切りに行こうとするが、イフリートの手がそれを遮りピクシーの腕を掴む。

 

[歳を取っても、技術はまだまだひよっこか!ムゲン!!]

 

「何を…!!」

 

 捕まれた腕を振り払い、右足でナイフを蹴り上げる。そして、頭部めがけダガーで突きに行く。

 

 しかし、それを読んでいたかの如くイフリートは身をかがめ、腹部へと蹴りを入れてくる。

 

 機体が吹き飛びながらもなんとか態勢を立て直し、再び接近し、切りかかる。

 

 互いに得物がぶつかり合い、火花を散らす。

 

[楽しいぞ、ムゲン!!俺が戦った中で、最高の戦いだ!!]

 

「くっ……!!」

 

[お前なら、俺を殺せるかもしれない、そう思えたのはこれが二度目だ!!]

 

「リッパー……!アンタは…!!」

 

 イフリートが力を緩めたかと思えば、頭部へとまわし蹴りを決められ、さらにその隙に左腕を切り落とされる。

 

「っ……!このっ!!!」

 

 素早く足払いし、回避した所にダガーを振りぬく。それによってイフリートの右腕が両断。

 

[ふっ…!ああ……この感覚だ、俺は今充実しているという…この感覚!俺はこれを求めていた!!]

 

「それだけの人生で……!!」

 

[ああ、そうだ。だがそれも後悔しちゃいない。シュナイドにムゲン、お前たちのようなパイロットと戦うことが出来たんだからな!!]

 

「アンタは……戦いで何を得たんだ…!!生き残った意味は…!!」

 

 ダガーで切りかかるも、間合いを取られ回避される。

 

[意味なんかない。俺を殺せるような奴に巡り合えなかっただけだ。そして、戦いは俺の心にぽっかりと空いた穴を埋めてくれる存在だ]

 

[お前に理解されるつもりも、理解してもらうつもりもない。だが、今はそれよりも!!]

 

 再び鍔迫り合い、火花を散らす。そしてリッパーはとても楽しそうに言った。

 

[お前と戦えることが何よりも楽しい!!]

 

「そのために残党で戦って……!戦争を繰り返したいのか!?」

 

[俺には戦う事しかない。だから、戦えるなら、それでいい!ラプラスの箱も、それを取り巻くものも、何一つ興味はない!!]

 

「くっ……!!だからって……!市民を殺していい理由にはならない!!残党は……市民だって平気で殺そうとしたんだぞ!?」

 

[これは戦争だムゲン!人は死ぬ!望まなくたって!!そして、今日死んだ奴は、そこがヤツの寿命だったってだけだ!!]

 

「戦争で人が死ぬ……確かにそうかもしれない…!!だけどさ!!!」

 

 腹部を蹴り、そしてそのまま頭部へダガーを突き刺す。お返しと言わんばかりにピクシーの頭部が斬り飛ばされる。

 

「そんなの……人の死に方じゃないだろっ!!!」

 

[俺たちにはそういう死しか、未来はないだろ!!俺たちは軍人なんだ!!]

 

「だけど……それでも!!!」

 

 互いに頭部が壊れ、満身創痍の状態だった。

 

 次で決まる。

 

 お互いの勘がそう告げた。

 

[…これで終わりにするぞ、ムゲン!!]

 

「リッパー……!!」

 

 ダガーを構えなおし、イフリートを見据える。

 

 そして、2機か駆けた。

 

 勝負は一瞬で決まった。

 

 ナイフをコックピット目掛け刺し込みに来るところ、機体を制御しギリギリを掠めてナイフは空を切り、ダガーがイフリートのコックピットの前で止まる。

 

[…………どうした、トドメを刺さないのか]

 

 ダガーを格納し、首を横に振りながら言う。

 

「……俺には、仲間は討てない」

 

[……甘いな。これがお前じゃなかったら普通に切り伏せてた]

 

 するとイフリートもまたナイフを納める。

 

「戦いを楽しんでいたようだし、これだと興醒めかな?」

 

[……いや、格付けは済んだ。俺の負けだ]

 

「リッパー……」

 

 すると、イフリートのコックピットハッチが開き、壮年になったリッパーが姿を現す。

 

 そして俺もコックピットを開き、彼と相対する。

 

 

「…久しいな、ムゲン。そのピクシー、誰から」

 

「トラヴィスさんだよ、レイスとして出来る最後の事だって、託してくれた」

 

 するとリッパーはふっと笑って

 

「彼らしいな」

 

「ああ、全くそう思うよ」

 

 二人の間に風が流れていく。

 

 そして少しの間を開けた後リッパーは口を開く。

 

「………そういえばさっき、お前は俺に言ったな、"生き残った意味"と」

 

「ああ」

 

「実は言うと、俺にも分からない。……だがいつか、俺を殺してくれる存在が、俺の心の穴を埋めてくれる場所があるはずだと思って戦ってきた」

 

「リッパー……」

 

「お前とはもっと――…!」

 

 リッパーが見るほうを見てみると、遠くから連邦の機体が迫ってきているのが分かった。あれは俺達の部隊じゃない……

 

「……お迎えか?」

 

「いや、俺の部隊じゃない」

 

 彼らの機体を見ながら言う。

 

「そうか。おい、ムゲン」

 

 彼の言葉を聞き、彼のほうを見ると、赤いバンダナをこちらへと投げた。

 

「っと……リッパー…?」

 

「ムゲン、イフリートに乗れ」

 

「どういうことだ、リッパー」

 

「あれが狙ってるのはたぶん、お前とピクシーだ」

 

「えっ……?」

 

 まさかさっきの男のような奴なのか……?

 

「ダイバーから話を聞いたことがある。連邦の特務部隊を事故と見せかけて壊滅させている部隊がいると」

 

「まさか、あれがその部隊だと…?」

 

 彼は小さく頷き、ピクシーの手に乗って俺の肩に手を置いた。

 

「……最期の戦いが、お前との一騎打ちでよかった」

 

「リッパー…!?」

 

「お前は、生きろ。俺には、戦いしかなかったが、お前には守るべきものも、家族もいるんだろ。だから生きろ」

 

「そんな、お前だって仲間じゃないか!」

 

 リッパーはコックピットに乗り込みながら言う。

 

「そうさ。俺とお前はレイスの仲間だ。仲間を守りたいと思うのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「………ダメだ、フレッド……!お前は…!」

 

 彼は小さく笑って言う。

 

「やっと、シュナイドが言っていたことが理解できた気がする。ムゲン、そのバンダナは、俺のレイスとしての最期のプレゼントだ。失くすなよ」

 

 彼は俺をイフリートの手に乗せるとMSのほうへと駆けた。

 

「フレェェェッド!!!」

 

 

 そのバンダナは、薄汚れていた。しかし、確かに存在した。フレッド・リーバーという男の物だった。

 

 俺はバンダナを巻き、イフリートへと乗り込む。

 

 そして、彼に背を向け歩き出す。

 

「………後は任せてくれ、フレッド……、レイスの皆…」

 

 

 その後、ロンド・ベル隊の到着によって事態は終息。大型MAも沈黙が確認された。

 

 別れは辛かったが、泣きはしなかった。

 

 彼はきっと、俺が泣くために生かしてくれたわけじゃない。

 

 だから、彼の分まで前を見なければ。

 

 

『辛い時は、笑おう。泣いてたら、前は見えないから』

 

 …分かってるさ、エヴァ……。

 

 命を超え、また一歩先へ……

 

 何度繰り返せば、その果てにたどり着けるのだろうか……。

 

 だが、それでもと、言い続けていくしかない。

 

 それが、生きる者の使命だから

 

 

66 完


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