前回から1年も間が空いていますが、それでも楽しんでいただけるようこれからも頑張っていきますので、よろしくお願いいたします。
後日、俺とエトワール、そしてリナはオービットさんの案内で宇宙へと上がった。
グロリアスや、基地の事は他の部隊に留守を頼み、今こうして輸送船の中から宇宙を眺めている。
他の部隊の人たちからは、基地の事や戦艦の事は任せて気にせず行ってこいと笑顔で送り出された。
トリントンで起きた事件以来、俺たちの部隊の信用を取り戻すのにそれなりの時間は掛かったが、今は昔と変わらず信頼されていると信じたい。
静かに宇宙を見つめるというのも、たまには悪くない。戦いのことも、仕事も忘れてただ静かに見つめる宇宙は、いつもと変わって見えてキラキラと光って見えた。
「……綺麗だ…」
この景色も、戦いが無かったころと比べたら変わってしまったのだろうか。そう思うと、少しだけ悲しくも思えた。
「何を、見ているんだい?」
背後からの声。振り向く間もなく声の主は俺の隣で同じく宇宙を見つめながら聞いてきた。
「いえ、この宇宙も戦争が無かったときはもっと綺麗だったんだろうな、と思っていたんですよ。オービットさん」
「…そうだな。戦争によって変わってしまったのは地球だけじゃないのかもしれないな。……だがそれは私達には分からないさ。無論、君や私が一年戦争やそれよりずっと前から生きていたというなら話は別だがね」
「そうですね……。ただ、それを思うと少し悲しく感じたんですよ」
「悲しい…?それはまたどうして」
「…それは俺にも分かりません。ただ、戦争というモノのせいで地球が、宇宙が変わってしまったのなら、それはとても悲しい事ですよ」
暫くの間の後、オービットさんが口を開く。
「…君は、この真っ暗闇の宇宙に、何を想う?…私達の先祖は、宇宙に何を想ったのだろう。君の意見を教えてほしい」
「宇宙に…想う事……」
この宇宙に、過去の人は何を想って宇宙へと旅立ったのだろうか……。願いを込めてなのか、それとも人の醜い負の感情だったのか……。
ただ、俺が想う答えを彼に打ち明けた。
「……"
「希望?」
「宇宙に出れば、新たな可能性が生まれ、そして人は適応する。…それを信じて、それを希望と思って宇宙へと行ったんじゃないでしょうか」
「…そうか…希望か…。……ああ、いいじゃないか。そうだな、人はきっと希望を込めて宇宙へと旅立ったのかもしれないな」
そんなオービットさんの瞳は悲しげに見えた。
それから1週間後。俺たちを乗せた輸送船は目的の場所へと辿り着く。
一見すればデブリ帯で、ここに本当に目的のモノがあるのか少し心配になった。
「………本当にここにあるのかな……」
隣でデブリ帯を見つめながらリナは呟く。
「大丈夫だよ。オービットさんを信じよう」
「……うん…」
そんな心配そうな声を出すリナに対してオービットさんが微笑みながら言う。
「そんな心配そうな顔をせずとも、もうすぐそこ…っと、言っている間に」
目の前に視線をやるオービットさんにつられ、俺もリナも正面を向く。
すると大きな隕石に埋め込まれたかのように存在する小さな入り口を見つける。丁度輸送船1機が入る程度だ。
「……ここが…?」
「そうだ。デブリ帯に隠れてMSの研究を行う私の施設だ。着艦後、ハートライト君には例のフレームを見せるとしよう」
「…はい!」
長く暗い通路を、ただ前へ進んでいく。全員が静かに。
この先にオービットさんが言っていた機体のフレームがあるのだという。
緊張とそしてワクワク感、それが同時に込み上げてくる。
一体、どんなモノなんだろう。そんな幼い感情。
通路の先に光が見えてくる。そしてその光に吸い込まれるように足を踏み入れた。
「……ついたぞ。ハートライト君、クロスフォード君。これが君たちに託したいフレームだ」
目の前に佇む、外装のない機体フレームが2機。
「……これが……」
「サイコフレーム……!」
感動のあまり声が漏れ出すリナ。実物を見るのはリナも俺も初めてだった。いや、俺に関してはMSのフレームを見ること自体初めてかもしれない。
これだけでは良い代物なのか、そうでないのか、素人の俺にはいまいちわからないが、リナの説明を聞く限り良いものであると思う。
「……機体フレームの全てをサイコフレームに置き換えたのが、このフレームだ」
凄いのは分かった。しかし、何故こんな所にこんなフレームが…?オービットさんは俺の心を読んだかのように言葉を続ける。
「軍縮の中でもジオンに圧倒的な脅威と、ジオンを服従させる意味を込めて「再びガンダムを蘇らせる」という計画―――。"
「RE:RX計画……。それに、なるはずだった……?」
リナが堪らず聞き返す。
「私もその開発に携わっていたが、ある時から計画に携わる者が多く失踪してしまったんだよ。それで開発は中止。残ったのは開発終了済みの"5機"のフレームだけだ」
「…そのうちの2機が…今俺たちの目の前にある奴だと…」
「まあ、そういう事だな。…そして計画が白紙になったこのフレームたちに付けられた名は、"ゼロ・フレーム"」
「ゼロ……フレーム……」
「……でも、いいんですか?私達にフレームを渡したことがバレたらオービットさんは――」
オービットさんは静かに首を横に振り、リナの言葉を遮った。
「いいんだよ。君たちには関係のない事だ。それに、この計画だって、実行されればまた大きな争いが起きていたかもしれない。いっそ抹消しても良かったのかもしれない。だがね…」
オービットさんは俺のほうを向いて力強く言う。
「私はクロスフォード君に託してみたくなったんだ。君ならこの力を、正しく使えるんじゃないかって」
「……それは…買いかぶりすぎですよ。俺はただの人間です。他の誰とも違わない」
「そうかもしれんな。でも、私は信じてみたいのさ、若い力を。……どうか、受け取ってほしい」
彼の決意に満ちた瞳が、真っすぐに俺を見据る。……断ることなんか、出来ないさ。
「……分かりました。…俺は、俺に出来る事をやってみます」
「ありがとう。……それじゃあ、早速機体の格納……っと、その前にクロスフォード君にはやってもらわないといけない事がある」
「……何を…?」
「いや、大したことではないが、フレームの最終調整のために、君の脳波データが欲しいんだ」
「え……?」
俺より先にリナが反応する。
「あのままでは、機体を扱えない―いや、"君が耐えられない"。だから、それを抑えるために、サイコ・フレームを君用に調整する」
「でも……脳波データって…」
「ああ、脳へ少しばかり痛みが来るかもしれない……――」
「……なら、良いです」
「リナ……?」
彼の言葉を遮り、リナは身体を震わせながら言う。
「ムゲンが傷つくなら……私はそんな力必要ない…」
「…ハートライト君………。なら、止めるかね?力を得るには、時に代償が必要な時もある。綺麗ごとでは済まない時もね」
「…でも……」
「リナ」
俺は彼女の頭を撫でながら微笑む。
「俺は大丈夫。…やっと、俺のための機体が造れるんだろ?なら、俺はお前に力を貸すよ。その痛みは、俺の力に代わるんだ」
「……ムゲン………。やめてよね、帰って来た時に私やアウロラを忘れる事なんか、しないでよね……」
彼女へ小さく頷き
「ああ、忘れるわけないよ。リナやアウロラは俺にとって光なんだから」
俺はオービットさんに振り向き頷く。
「…覚悟は決まったようだね。…なら、早速始めよう。時間はあまり残されていないからね。ハートライト君、君はフレームの足元にあるコンソールで待っていてくれ。彼のデータを送り次第君が調整するんだ」
「わ、私が…ですか」
「そうだ。大丈夫、君なら私よりもうまくできる」
リナに微笑んだ後、彼は背を向けて歩き出す。それに続いて俺も歩き始めた。
その部屋は真っ白な医務室のような部屋だった。そこに一つのベッドとなんかの機械が置いてある。
「すまないね、あの時の研究所を思い出させてしまったかな?」
「…気にしないでください。それで、何をすれば?」
「うむ。それじゃあまず、紹介しよう。レナ、彼がクロスフォード君だ」
オービットさんの声に反応して、機材の調整をしていた白髪の女性が姿を見せる。
そしてこちらに目をやるとニッコリと微笑んで見せた。
その姿に、俺は思わず呆然としてしまう。何故か彼女からエトワールが見えたから。
「あら、あなたがムゲンさんですか。初めまして、私はレナ。よろしくお願いしますね」
「………」
「どうしました?私の顔に、何かついてますか……?」
華奢な体、整った顔、そしてガーネットの瞳。そのどれもが、エトワールとそっくりだった。
「あ、いえ……何でもないですよ」
「…そうですか。それで、ア……じゃなくてオービット、何をすればいい?」
「ああ、彼をベッドへ。予定通りサイコフレームの調整をする」
「分かったわ。さあ、ムゲンさん、このベッドに横になってください」
言われるがままに、俺はベッドに横になる。そして静かに目を瞑った。
「少しここで眠っていてください。次に目覚める時には、終わっていますから」
「…はい」
「それでは、始めます――」
記憶――俺に眠っている記憶――
かつての記憶がよみがえってくる。
守れなかった人たちの命、俺を救ってくれた人たちの命―
それが、目の前を通り過ぎては消えていく。
どんなに願っても戻らないモノ、それは過去という存在。
繰り返させないために、俺と同じ過ちを起こさせないためにと思いながらも、その記憶は、俺自身をひどく傷つけてくる。
独りでは……寒く…痛い……。
独りでは、この闇は歩けない。
独りでは―――
いいや、俺はもう独りじゃなかった。
たとえ過去の記憶が俺を傷つけ、自身を責めようとも、手を伸ばしてくれる人がいて、護らなければならない人がいる。
大切な家族と仲間を。
だから、この痛みも、寒さも、全て受け止める。
『……俺は……もう大丈夫だ。……この痛みも、俺自身のモノだから。もう、痛くも、寒くもない』
意識が晴れていく。さっきまで寒く、痛みを感じていたのが嘘のように、今は温かく、そして安心を感じる。
……やっと…ゆっくり寝られるな……。
深い意識の奥へと落ちて行く。…ゆっくりと。
どれくらい時間が経ったのか……、自然と目が覚め体を起こす。
周りを見渡しても、誰も居なかった。……データは取れたのだろうか…。
ベッドから降りようとした瞬間、ひどい頭痛に見舞われ、頭を押さえる。
「……っ……」
痛いが、大したことじゃない。これくらいの痛み、彼女の為ならいくらだって耐えられる。
俺はベッドから降り、この部屋を後にした。
部屋から出ると、目の前の椅子に腰かけるエトワールが居た。
彼もこちらに気づいたようで、ゆっくり微笑んで口を開く。
「ムゲンさん、目が覚めましたか?」
その笑顔が、さっきのレナさんとそっくりで、言葉を失ってしまう。
そんな俺を見て怪訝そうな表情でエトワールはこちらを見ている。
「……あ、すまない。……隣、いいかな」
「ええ。構いませんよ」
俺はエトワールの横に腰かけた。
「………」
お互いに何かを話すわけでもなく、静寂。
それに耐えられず、俺は口を開いた。
「…えっと……なあ、エトワール」
「なんです?」
「……君は、レナさんって人には――」
「会いましたよ」
俺が言いきる前に言葉を遮ってくる。
「………そ、そうか……なんか、あの人、似ているね。エトワールに」
「そうですか?………私はそうは思いませんでしたけど」
「……そっか。なら、俺の気のせいかもしれないな……」
「それにしても、どうしてそんなことを言い出したんです?似ているなんて、急ですね」
急と言われるのも無理はない。俺だって、なんでレナさんからエトワールを感じたのか、全く理解できていないんだから。
何と言うんだろうか……勘…と言えばいいのか…。エトワールとレナさんには、何か同じものを感じさせた。
「…ああ…何て言うんだろう……言葉にしにくいけど、似ているように感じたんだよ」
「へえ……。不思議な事もあるものですね……」
「エトワールは、あの人と会ってどう感じた?」
「どう、と言われても……特に何も思いませんでしたよ」
「…そう…か……俺の考えすぎ…かな」
「……………そうですよ。……さて、ムゲンさんの目も覚めた事ですし、私は周りの哨戒でも―――」
瞬間、施設内に響き渡る警報。
「………なんだ…!?」
「嫌な予感がします。ムゲンさん、私は先に出撃して様子を見てきます」
「エトワール!?」
制止する前にエトワールは走り出す。彼に続くように俺は格納庫へと向かった。
格納庫へと辿り着くと、こちらに気づいたのか大声でオービットさんが声を上げる。
「クロスフォード君!」
「オービットさん!これは一体…!?」
「
「え…!?」
「連邦がこの施設を見つけたんだ」
「でも、ここは連邦の施設だったんじゃ…!?」
「…それも前の話さ。計画が白紙になった今、この施設もこのフレームも連邦には邪魔でしかないのさ」
「そんな…!!」
「……仕方がない事とは言え…少しばかり見つかるのが早かったな…!」
「………」
「フレームの搬入を急がせる。クロスフォード君も待機していてくれ」
そんな状況で、黙ってみていられるわけが無かった。かといってMSがあるわけでもないし……。
悩んでいるうちに、知らず知らず言葉が漏れ出す。
「…………MSは…」
「MS……?余剰パーツで組み上げたジムならあるが………。まさか、出撃する気か?!」
「行きますよ。フレームの搬入って言ったって、まだ時間が掛かるのは目に見えてるでしょう?」
「無茶だ。MSと言ったってあれは戦闘用の武装なんか無いぞ!?」
「……だとしても、このままここで黙ってみていられるほど俺は我慢強くありません。…俺にも、手伝わせてください」
「クロスフォード君………。…分かった。こっちだ、ついてきてくれ」
格納庫の一番端へと歩いていく。そして、そこに佇む煤けたジム。
「…いいか、真面に戦える機体じゃない事は見ての通りだ、なんとか敵の足止めをするだけでいい」
機体へと乗り込み、システムを起動させていく。コックピットも旧式で、かつてのジムやミラージュのような感覚を思い出させた。
…これならまだ戦える。
「…オービットさん、使える武装は?」
『そうだな、ビーム兵器は一切搭載されていないし……頭部バルカンくらいか…』
周りに目をやり何か使えるものが無いか確認する。すると、機体の横に立てかけてある作業用の長いレンチを見つける。
「…これなら……」
レンチとハンガーにかけてある鉄板を強引にシールド代わりに装着。
『クロスフォード君……』
「ある程度の時間は稼ぎます。……ムゲン・クロスフォード、ジム、出撃します!!!」
ハッチから出撃し、宙域へと飛び出した。
63 完
今回出てきたRE:RX計画の概要です。これは、完全オリジナルで、頑張って考えた自信作です!
RE:RX計画概要
RE:RX計画とは、連邦軍の一部の技術者とアナハイム・エレクトロニクスによって計画された計画である。
連邦軍が、軍縮の中でもジオンに圧倒的な脅威と、ジオンを服従させる意味を込めて「再びガンダムを蘇らせる」というコンセプトで計画が始められた。
計画の着手を始めたのが宇宙世紀0094年。しかし、途中、計画にかかわっていた連邦の技術者が謎の失踪を遂げることで計画は白紙になった。
しかし、この研究のデータは、0096年、UC計画の中枢である「ユニコーンガンダム」に応用されている。
【RE:RX計画の内容】
宇宙世紀0093.3.12 小惑星アクシズが地球へ降下。ロンドベル隊がそれを阻止し、その際、アムロ・レイが駆る「νガンダム」が緑色の光を放ち、アクシズを押し返すという奇跡が起きた。
後に云われる「アクシズショック」である。
当時、最新技術であった「サイコ・フレーム」。
この技術を応用し、ムーバブル・フレームそのものを、サイコフレームを使って構築した「フル・サイコ・フレーム構造」の機体を作るという計画が、本計画の大々的な部分である。
0096年にロールアウトされる「ユニコーン」には、強度と生産性の問題をクリアしたサイコフレームを使用しているが、
こちらのフレームは、強度、生産性の問題が解決していない時に開発を始めたため、大幅なコストの割には、それほどの効果を得ることが出来なかった。
その問題の解決策を探しているときに、技術者の失踪が起き、結局は白紙となってしまった。
本計画で開発、生産されたフレームは、すべて合わせると5機程度。5機のフレームを作るだけでも莫大な時間とコストが掛かった。
しかし、「ユニコーン」ほどではないにしろ、「フル・サイコ・フレーム」であることには変わらないので、性能は他の機体と比べても圧倒的と言っても過言ではないだろう。
その圧倒的な性能故、扱えるパイロットはほとんどいない。実質はニュータイプや強化人間などが駆る機体になるとされている。
本計画は、途中で白紙になったため、機体のフレームは生産されているものの、外装や武装などはまったく存在しない。
フレームには名称があり、機体フレームの胸部部分に位置する場所にその名が刻まれている。
このフレーム全体の名称は、計画が白紙、つまり"ゼロ"になったことに由来して、「ゼロ・フレーム」と呼ばれている。
全体の名称は、白紙になった後、アナハイムが勝手につけた名称。本来は1機ずつフレームに名称がある。
1号機には「ファースト・フレーム」、2号機には「セカンド・フレーム」、3号機には「サード・フレーム」、4号機には「フォース・フレーム」、5号機には「フィフス・フレーム」
それぞれに何か特徴があったのかは不明だが、どのフレームも、全て「フル・サイコ・フレーム」というのは共通である。
宇宙世紀0095年現在、UC計画による「ユニコーン」開発と共に「ファースト・フレーム」を除く4機のフレームは、破棄。
証拠隠滅のために暗礁地帯に隠された小さい研究所へ送られ、処分される予定である。
「ファースト・フレーム」のみ、フル・サイコ・フレーム構造を取り入れたフレームとして、連邦軍上層部へと譲渡されている。
なお、この5機のフレームの機体には、[RERX]という型式を振り分ける予定であった。