戦いで消えていった人のために、二人は再び対峙する。
そして、彼らが戦いの果てで見たものとは―
0093.03.07
第00特務試験MS隊、ロンド・ベル本隊と合流。
0093.03.12
ネオ・ジオン艦隊、投降を偽装しアクシズを奪回。強奪した核兵器とともに地球へ降下させる。
俺たちは、戦闘前にブリッジで作戦の説明を受けていた。
「状況は最悪だ。ジオンがアクシズを奪回して、地球へと落そうとしている」
この場にいる全員が、暗い表情でファングの言葉を待つ。
「俺たちは…何度繰り返せばいいんだろうな。……それじゃあダメなんだ。俺たちで、変える。何としてもアクシズを止めるぞ!」
「この戦い、今まで以上の敵が来るだろう。それでも、俺たちは生きなきゃいけない。彼の、トクナガの言葉を忘れるな」
全員が強く頷く。
「……生き残って、全員で帰ろう。それじゃ、行動開始だ!!」
その言葉を皮切りに、全員が慌ただしく移動する。オペレーターは、各隊の支援のために、そして俺たちパイロットは格納庫へと向かった。
「3番と、5番機の弾薬足りてる!?後じゃない!今やって!!!」
格納庫に響く声。その声の主は、こちらに気づいたのか、近づいてくる。
「ムゲン……。準備できてるよ、あの子はいつでも戦える状態にしてある」
「……ありがとう。リナ」
「当然だよ。生きて帰ってきてね。じゃないと、
俺は小さく頷いて言葉を返す。
「…分かってるさ。必ず帰る」
機体に乗り込み、システムを起動。視界が広がっていく。
[ファング機、出撃する。各機、続け!!]
出撃ハッチが開き、ジェガンが出撃していく。
俺は大きく深呼吸をした後
「……ムゲン・クロスフォード、出撃する」
[ムゲン隊長。どうか……無事に…]
「ああ、分かっているよ、マーフィー」
戦場へ出る。ファングたちは既にこちらへと接近する敵と交戦していた。
俺の作戦は単独で別ルートを経由してアクシズへ取りつく事。しかし、思ったより相手の攻撃が激しく、前に進むには倒すしかないようだ。
[先生]
「リリー…?どうして君が…?」
リリーのジェガンが隣へ並び、こちらを見つめる。
[先生だけだったら、ちょっと心配で]
彼女が笑いながら言っているのが見なくても分かった。その心配が、純粋にうれしく感じた。
「……ありがとう。リリー」
[行こう。もう時間が無いよ。アクシズを止めないと]
「……分かっている。だが、その前に前に立ちふさがる敵を潰さないとな」
俺たちの前から迫る敵を睨みつけながら言う。
[そうだね……。やろう…!]
ビームライフルを構え、発射。続けて相手の回避位置へミサイルを放つ。
ビームを回避した1機が、ミサイルを放った位置へと、相手は反応に遅れたのか直撃を受けている。
「リリー!」
[……ファンネル!!]
爆発を切り裂くようにリリーのファンネルが被弾した敵を撃ち抜く。
残り確認できる数は6機以上。それでも…!
「リリー……俺に合わせるんだ。…行くぞ!」
[えっ…、う、うん!]
1機の敵を誘うように動き回る。つられた敵がビーム・マシンガンを放つ。その攻撃を見切り、機体を素早く宙返り。
それに合わせ、彼女がギラ・ドーガの正面へ突っ込む。
サーベルを引き抜き、ビーム・マシンガンを切り落とし、続けてファンネルでコックピットを貫いた。
「流石だ、リリー」
[ううん。先生に合わせれてよかった……]
ほっと胸をなでおろす姿が目に浮かんで、ちょっとだけ笑みがこぼれる。
「……でも、まだ終わってない」
[……うん。次が来るよ2時の方向……3機……!]
「了解だ」
敵は散開し、俺たちを包囲する形で迫ってくる。
俺とリリーは背中合わせになった。この感じは、昔も体験したことがあるような気がする。あの時も…俺が動けば、【
「……さて、どうするかな」
[先生、余裕だね]
「…そうも言ってられないさ。動いて相手をかく乱、続けて連携して1機ずつ仕留めるよ」
[……うまくできるかなあ……]
そんな弱気な彼女の言葉に対して、ふっと笑って返す。
「おや、ニュータイプでも怖気づくものなんだね」
[先生もニュータイプのくせによく怖気づくし、泣き虫だよ]
「……い、言ってくれるね……。それじゃ、見せてやろうじゃないか、俺が怖気づいてなんかないって所を!」
怖気づいてなんかいられない、彼を変えるためにも。
シールドからミサイルを放ち、それをバルカンで爆破。俺たち2機の姿を相手から見えなくさせる。
煙幕ではないから、それほど長い時間は得られないが、それでも出来るところまでやるしかない。
それに合わせ、彼女は動く。
続けて彼女は、1機の脚を止めた。
その隙を逃がさず俺は、脚の止まった敵をサーベルでコックピットごと切り裂く。
そして、再び背中がぶつかる。そして、2機は武器を構えた。
煙が消えると、そこに残るのは、無残に散った機体と、最後の1機。
瞬間、かつての言葉が蘇る。
「3機程度で……」
[わ、私達を倒せるなんて……]
「[思ってないよね?]」
2機のジェガンは、引き金を引き、ビームライフルが最後の1機を襲った。
直撃を受けた敵は爆発、再びレーダーを確認。
数は3機程度になってはいるものの、その奥からの増援。あまり消耗してはまずい。
[ムゲン!聞こえるか!]
ファングからの通信、彼の声の奥から聞こえる爆破の音。
「どうした!?」
[リリーもいるな?]
[うん。何…?]
[こっちはこれ以上進行できそうにない。相手の攻撃が激しくてな……、お前たちだけでもアクシズへ取り付いてくれ!―くっ!]
「ファング……!だが、それは……!」
[ムゲン、お前にはやらなきゃいけないことがあるはずだ。家は任せておけ!―ぐぁっ!?]
「ファング!!」
[彼の言う通りです。ムゲンさん]
エトワールからの通信。
「エトワール……?]
[あなたはもう迷わないんじゃないんですか。なら、戦艦は任せて行ってきてください。決着をつけるんでしょう?……私は信じますよ]
「……分かった。リリー、俺たちだけでも行こう」
[うん!皆、先生は任せておいて]
[無論だ。俺たちは一年戦争からずーっと生き残っているんだ。そして、これからも生き残らなきゃいけないんだ]
「……必ず戻る」
俺たちはスラスターを起動し、アクシズへと一気に迫った。
どれくらい移動したか、正面からファングたちが抑えてくれているおかげで、俺たちは敵にほとんど遭遇せずにアクシズの近くまで来ることができた。
目の前で地球へと落ちていく隕石を見て、思わず言葉を失う。こんなものが落ちれば、地球には人が住めなくなる。
あれだけ地球を想う気持ちがあったシャアが、なぜこんな行動をとったのかは俺には分からない。
それでも、一つだけ言えることは、こんな行動が正しいとは思わないということ。
一年戦争、デラーズ紛争、グリプス戦役、何度、何度繰り返せば気が済む…!
もう……こんな事は終わらせなければならない。
[…先生、敵。3機正面。……黒いのと白いのがいる]
「……そうか」
来た。
奴等なら来ると、俺も分かっていた。いや、お互いに待っていたんだ。
今度は……変えて見せる。
1機のギラ・ドーガと黒いザクが一気に迫ってくる。
ビームライフルを構えようとするその手を、リリーが遮った。
「リリー…?」
[黒いやつともう1機は私が。先生は、白い奴をお願い]
「だが……」
[私が、先生を守るから。…それとも、私に
リリーからの言葉に思わず言葉を失う。俺は頷き、彼女に言った。
「………分かった。その代わり、危なくなったら言ってくれ。……背中は預けるぞ」
俺はリリーと別れ、2機の間を抜け、ただひたすら白い機体へと迫る。
ビームライフルを構え、牽制。それに反応した白いザクが回避しながらこちらを狙撃。
それをシールドで防御しながら、グレネードランチャーを発射。
正面で爆発が広がる。
ビームサーベルを引き抜き、白いザクへと駆ける
左から右へ切り抜け、ビームスナイパーライフルを両断。
素早く反転し、サーベルを振り下ろすが、相手はそれをサーベルで受け止めた。
[待っていたぞ、ムゲン・クロスフォード!]
「…クロノード・グレイス!!」
サーベル同士がぶつかり合い、光を放つ。
[こうやって戦っていると、昔を思い出す…!]
「…くっ!」
クロノードは間合いを取り、バズーカを放ってくる。
素早くシールドを構えミサイルを射出。
弾頭はぶつかり合い、宇宙に光を放つ。
煙から飛び出してくる白いザク。そのまま流れるようにこちらへ迫る。
咄嗟にシールドで防御。それを予測していたのか、ザクは横薙ぎにサーベルを振り、シールドを真っ二つに。
「ちっ……!シールドが!」
[前と変わらず遅すぎるぞ…!ムゲン!!]
「何を…!」
バルカンを放ち、相手との距離を取る。
相手はそれを腕で防御。
[昔は煙幕弾だったな。だが、今はぁ!!!]
片手でバズーカを放ちながら、再び距離を詰める。
再びぶつかり合うサーベル。
「俺は……お前と決着をつける!!そして、アクシズを止める!!!」
[出来るものなら、やってみろ!!]
「やってやるさ!お前を変えて、アクシズを止めて、皆で帰るんだ!!」
サーベルを押し切り、ザクの腹部を蹴り飛ばす。
反動で吹き飛ぶザク。素早く機体を制御し体勢を立て直す。
[まだだ!]
バズーカを発射しながら俺の側面へと移動していくザク。合わせるように俺は機体を動かし、ビームライフルで迎撃。
爆発の光があちこちで放たれる。俺は爆風に紛れ、相手の死角へ。
背後からサーベルを振り上げた。
[俺が気づかないとでも…?!]
素早く反転したクロノードは、振り上げた俺の腕を掴んで、投げた。
投げられ機体が吹き飛ぶ。
「くっ……!!」
宙返りし、機体をクロノードがいた位置へ向けるが、そこには何もいない。
「……背後か!」
振り向きサーベルを振る。すると、ギリギリのところでクロノードの攻撃をサーベルが受け止めていた。
[流石だな、良い反応だ]
「良く言うな、こっちは必死なのに…。余裕そうじゃないか」
[そんなことはない。……楽しいなあ、ムゲン]
「戦いは……遊びじゃない!」
[違うな。お前も、俺も、どこかで戦いを望んでいたはずだ。俺たちはこうあるべきだったんだ!]
「…仲間と殺しあうことがあるべき姿だと!?」
[違う、俺たちはもともと仲間ではない!敵同士だ!]
「過去に仲間と言ってくれたのはクロノードだ!!」
[俺は……知らん!!]
ビームサーベルを吹き飛ばされ、追撃で右腕を切り落とされる。
右腕の爆発で、煙が機体を包み込む。このままじゃ、負ける…!
間合いを取り、正面を捉えた。しかし、そこには白いザクの姿はない。
上からの殺気…。バズーカでの射撃。
身を退いて弾頭を回避、続けて上を見る。だが、クロノードの姿は消えている。
「落ち着け……」
目を瞑る。相手が右側からバズーカを放ち、続けてサーベルで切り込んでくる感覚。
「右かぁああ!!」
サーベルを左腕に持ち、クロノードがいるであろう位置へ切りかかる。
[なにっ…読まれた…?!]
サーベルはバズーカの弾頭を両断。再びクロノードへ距離を詰めた。
「逃がすかぁああ!!」
瞬間、彼が避ける予兆、上へと上昇回避する【予感】がした。
サーベルを構え、相手へと切り上げる。
俺の予測は当たり、上昇回避したクロノードへとサーベルが襲う。斬撃は相手の左足を切り落とし、左足が爆発。
[しかしっ!まだまだ!!]
反撃にサーベルを振り下ろすクロノード。対応に遅れ、右足に傷をつける。
「くっ……!!まだ……まだだ!!!」
サーベルを構え、闘志を奮い立たせる。
クロノードはそんな俺の姿を見て、バズーカを宙へ投げ捨てた。
[ビームサーベル相手に遠距離じゃ、分が悪いだろう?こいつ一本で相手してやる、来い!!ムゲン!!]
「……ああ!行くぞ!!」
サーベルを相手へ向け、突撃。相手も負けじとこちらへ突撃してくる。
お互い、退くことも無かった。結局、戦うことでしか俺たちは俺たちであることを証明できないのか。
クロノードも、俺も………道夜も。
「うぉおおおお!!クロノードぉおおおお!!」
[ムゲェエエエエン!!!!]
その突きは、互いのメインカメラを貫く。
しかし、既に見えなくなっているであろうカメラは、互いにはっきりと敵を映し出している。
ザクの頭部にサーベルが突き刺さっていて、こちらも同じだろう。
持てる得物が無いとしても、俺たちは手を止めない。
左腕でザクの腹部へ一撃。反撃にこちらも腹部への一撃を食らう。
「ぐぁ!!」
[ぐっ…!!]
その反動でお互いに吹き飛ばされるものの、態勢を立て直し再び殴り掛かる。
お互いの拳が正面からぶつかり合う。
「ぐ……ぉおお!!」
[うぉおお!!!]
「お前は……俺と決着をつけるためだけにここへ来たのか!?全てを忘れて!!」
[そう……だ!!俺には何もない!!だから、お前を倒すことで俺は
「そんな……自分勝手な!!」
[何とでも言え!全てを失っていないお前には……!!]
お互いに相手のメインカメラに突き刺さるサーベルを掴み、引き抜く。
「……俺も、俺も沢山失ったんだ!!」
相手の薙ぎ払いを受け止め、何度目かの鍔迫り合い。
「失って、失って!全てを踏み越えたその先に俺はいるんだ!そうして犠牲となった命を、語り継いでいくために!!」
[俺は出来なかった!!]
「出来ていたさ!お前が失った記憶の中で!語り継いでいたさ!!」
[俺は……俺はそんな事知らん!!!]
サーベルで押し切られ、隙が出来る。
そこを逃がさず相手はサーベルで追撃を続けてくる。
何とか受け止めながら後退。
[俺に……そんな記憶はない!俺は…強化人間、クロノード・グレイスだ!]
「あったんだよ!!お前は、お前は人間だ!!人間のクロノード・グレイスなんだ!!」
[黙れぇえええ!!!]
「思い出せ!お前の記憶は副作用なんかで消えて良い記憶じゃない!!!」
腹部へ蹴りを入れられ機体が吹き飛ぶ。
機体を制御し、再びクロノードへ迫る。
「クロノード!!お前は……―っ!?」
2機の間を別つ巨大なビーム。そのビームは俺たちの戦艦のほうへと消えていった。
それと同時にマーフィーからの通信。
[た、隊長!クラップ級が…―うわっ!!]
「マーフィー!?どうした!!」
[大型ビームでクラップ級メインエンジンが損傷!!予備エンジンでもいつまで
「さっきのビーム砲か!?敵戦艦からの艦砲射撃だったみたいだな。マーフィー!クラップ級を後退させるように言うんだ!」
[分かっています!隊長たちの帰る場所を潰して……―!次弾来ます!!隊長、避けて!!]
「何!」
素早く後退、ビームは機体を掠めクラップ級へ。
[うわぁああ!!]
「マーフィー!!皆!!!」
マーフィーとの通信が途絶え、少しの間の後、艦長からの通信が入る。
[第00特務試験MS隊各員に告ぐ。我が隊のクラップ級は、撃沈した……いや、あと少しで沈む。クルーは全員退避済みだ。私も今から脱出する]
[第三小隊は脱出艇の護衛を頼む!……すまない、君たちの帰る家を……]
その報告を聞いて、少しだけ安心した。生きているのなら、またやり直せばいい。生きているだけで……いいんだ。
クロノードを見る。
彼は俺を待っているように見えた。
「…行くぞ、クロノード!」
[来い!!]
サーベルを横薙ぎに切る。それを受けて相手はサーベルで受け止め、鍔迫り合う。
「俺は……お前から教えてもらったんだ!仲間の大切さを!幸せを守っていかなければならないということを!」
[…俺は……知らない!!]
「否定するな!!お前は分かるはずなんだ!!人の温もりが!!」
[人の温もりが……
クロノードは腹部を蹴り飛ばし、間合いを取る。
「ぐっ!」
[それに俺は、お前とは敵同士だと言ったはずだ!!敵であるお前に教えることなどない!!]
「でも、感じるんだろう!?温かさを!!微かに残っているんだろう!?」
[それが……どうした!!]
「それは、お前が覚えていなきゃいけない記憶だ!!心だ!」
[俺は……この温かさを知らない!!]
「知っているんだ!!」
[知った風な口を……!!]
態勢を立て直し、出力を限界まで上げる。相手も出力を上げ始め、互いに対峙。
「俺は……お前を…お前に思い出してもらうためにここまで来た!!殺意なんかじゃなく、お前と【
[俺は……お前と
「出来るさ!!俺たちは、隣人まで愛せるニュータイプなんだから!!!」
[俺は強化人間だ!!それはお前も同じ!ニュータイプという存在のせいで造られた化け物なんだ!]
互いに切り抜け合い、再びサーベルが衝突。そのたびに火花がバチバチと飛ぶ。
「いいや違う!!俺たちは、そんな存在の前に一人の人間だ!人間誰にだってニュータイプの可能性がある!!」
[そんなもの…!!そもそもニュータイプは戦争が無ければ開花することは無かった!ニュータイプを生むには新たな戦争が必要だ!]
「違う!きっと、きっと戦争なんかなくてもニュータイプに成れる時代が来る!!そのために俺は戦っているんだ!俺たちのような存在を造り出さないために!!」
[黙れ!!]
サーベルのエネルギーが切れ、互いにサーベルを放り投げて殴り掛かる。
拳は互いのメインカメラを襲い、お互いに組合った。頭部と頭部が激しくぶつかり合う。
間合いを取り、拳を握りしめる。
お互いに察した。次の一撃で、決まる。
拳を振り下ろし、クロノードへ突っ込む。
相手も負けじとこちらへ突っ込んでくる。
「クロノード!!お前を……!!お前を変える!!!」
[死ね!!ムゲン・クロスフォードォオオオオ!!]
お互いの拳は、互いのコックピットへ直撃し、衝撃でヘルメットのガラスが割れ頬に傷をつけ、さらに飛び散る破片が右腕を傷つけた。
「ぐっ……」
[が……っ!]
クロノードは再び拳を握りしめ、殴ろうとする。その攻撃を、背後からカカサの機体が包み込む。
[カカサ!?止めるな!]
[……もう、いいだろう?友よ。……いいや、クロノード君]
[何!?俺は負けちゃいない!]
[君の負けさ、見てみな、次コックピットを殴られてたら君が潰れてしまう。あっちの装甲の硬さが、勝負の分け目だった」
クロノードの機体のコックピットは、それを守る装甲が砕け散っていて、コックピットハッチが丸見えの状態だった。
[……俺は……まだ……]
[…君はもう戦わなくていい。……もう、いいんだよ]
カカサの声は震えていて、クロノードへの本当の気持ちを、彼は伝えていた。
黒いザクが、白いザクを抱きしめ、泣いているように見える。
「……クロノード」
[………なんだ]
「かつて俺は、お前の居た部隊でお前と一緒に過ごした。それは、夢でもない。そこで、今いる部隊と同じ気持ちを覚えたんだ。記憶のない俺がだ」
「そして、お前はこう言った『その死を無駄にしないためにも、俺達が【
「…それから、敵同士として会うこともあれば、互いに協力し合うこともあった。だからこそ、お前を変えたかった。記憶を失ったままで死ぬなんて……俺だったら嫌だ」
[………]
「お前は、俺を倒して【存在を残したい】と言った。けれど、お前の存在を示すものは、俺たちが知っている。お前は、強化人間じゃないんだよ」
クロノードは少しの間考えた後、口を開いた。
[……分からない……。どうして、お前は
俺は首を振り彼に言う。
「確かに、俺はコロニーで生まれて、育った。一年戦争なんてものが無ければ、俺は普通にコロニーで生活して、普通の人間として暮らしていただろう」
「けれど、今のこの道を後悔はしていないんだ。俺には、かけがえのない友が居て、俺を見守ってくれた人が居て、何より大切な妻と娘がいる」
「きっと、どんな小さな選択でも、別の選択を選んでいれば、楽にもなれた、手を血に染めずに済んだかもしれない。けどさ」
「そうしたら、今の自分はどこにもいない。…だから、後悔はしてない。俺が地球を守る理由は―」
その言葉を遮るように、ファングからの通信が入る。
[ムゲン……アクシズが……落ちる……もう打つ手がない。……俺たちは……]
[先生……。もう、本当に駄目なの……!?]
リリーが慌ててこちらへ通信を送る。
「………」
[…そうか、アクシズが落ちるか……。残念だったな、ムゲン。お前の救いたいと思った地球は―]
「終わらせない……」
こんな所で終わらせるわけにはいかない。たとえこの身が無くなっても、救わなければならない命がある。
アウロラ……、エミリー……、ルナ……!フィアさん!!
守らなきゃいけない大切な仲間がいるんだ!!
俺は機体を動かし、アクシズへと突っ込む。
[先生、何を!?]
「アクシズを……押し返す!!!」
その言葉はリリーを含めた全員が驚いた。
[おいおい、ムゲン君、さすがに無茶があるぞ……こればっかりは―]
「無茶でもやるんだ!カカサ!!忘れたとは言わせないぞ、地球に、あの星に誰がいるのかを!!」
[っ……!……ふっ、そうだったな……。よし、俺もやる]
[カカサ!?なぜお前まで!]
[クロノード君、男にはね、やらなきゃならない時って言うのがあるのさ。
「……そうだ。やらずに諦めるなんて、俺は認めない。やってみるしかない!!」
[……先生、私もやるよ!!私も……守りたいから!もう、誰も失いたくない!]
「……リリー……」
それを聞いていたファングが叫ぶ。
[第00特務試験MS隊の皆、聞いてくれ!!俺たちはこれから新しい作戦を決行する!これは命を懸ける作戦だ。無理強いはしない。…皆で、アクシズを押し返す!]
「ファング…?!」
[お前だけに背負わせはしない。俺ももう、大切な仲間が死んでいくのを見たくはない。…たまには、カッコつけさせてくれよ]
「……ああ。やろう…!」
[何故……皆……]
クロノードは呆然とその光景を見つめている。
「…クロノード」
[……?]
「俺が地球を守らなきゃいけない理由は、俺の大切な娘と、お前の妻と娘がいるからだ」
[お、俺の……妻と……娘……?]
「そうだ。ルナちゃんとフィアさんを、アウロラを守らなきゃいけないからだ。だから、守るんだ」
少しずつ落下してくるアクシズの前へ、全員が立ちふさがる。既に何機かのMSもアクシズを押し返そうとしているのが見えた。その中には【ガンダム】の姿もあった。恐らくはアムロ大尉の。
アクシズへ取り付き、スラスターを限界まで噴射する。
「ぐぉおおお!!!!」
片手だけで押し返すのは流石に厳しいが、それでもやるしかない。
「頼む……!俺に……俺に力を…!!アクシズを押し返す力を!!今ここでこいつが落ちたら、アウロラが……ルナちゃんが、フィアさんが!!!だから、頼む!ジェガン!もう少しだけ…!」
しかし、だんだんと機体が引きはがされそうになっていく。
「くっそぉ…!!まだ!まだだぁ…!!!」
引き離されようとしたその手を、上から抑えつけるように、手が乗った。
「……クロ……ノード……?」
[……まったく。お前という奴は、いつも無茶をする。…だが、お前の言う通りだ。やらずに諦めるなんて、良くないよな?]
「お前……まさか……」
[……俺は、守るぞ。地球を、ルナも、フィアも。俺はまだ、あいつに【
全てを察した俺は、再び前を向く。
「やろう。今度は……全員で!」
グレイ……見ているのか?
君が見た理想、少しだけだが実現できているよ。
ジオンと連邦が、互いに協力して地球を守ろうとしている。
だから、頼む。地球を、俺たちに力を貸してくれ!
『……前を向いて、ムゲン。君は、もう一人じゃない。君という光に、皆が集まってきた。……僕は、信じている。君を』
[うおっ!?しまっ―]
「カカサ!!!」
カカサの機体が引きはがされ、吹き飛びそうになる。
それをクロノードの機体が掴み、必死に抑えた。
[クロノード!いいんだ!離せ!!このままじゃお前も!!]
[ふざけるな!!もう二度と、親友の……お前の手を離すものかよ!!!]
俺は機体の限界までスラスターを噴射する。
「うおおおおおお!!いっけええええええ!!!」
[結局、遅かれ早かれこんな悲しみだけが広がって地球を押しつぶすのだ]
[ならば人類は、自分の手で自分を裁いて自然に対し、地球に対して贖罪しなければならん!アムロ、なんでこれがわからん!]
[離れろ、…ガンダムの力は…!]
瞬間、ガンダムから【
その光が、アクシズに取りついた機体全てを優しく跳ねのけていく。優しい、その光は、グレイたちの死に感じたものと同じだった。
[こ、これは、サイコフレームの共振。人の意思が集中しすぎてオーバーロードしているのか?なのに、恐怖は感じない。むしろあたたかくて、安心を感じるとは]
[ムゲン……隊長。ア、アクシズが……地球から離れて……]
「……ああ」
俺は今、奇跡を見ている。アクシズが地球から離れ、そして宇宙へ広がるオーロラ。
「やっと、見れた。ゼロ………見ているかい、これが……人の温もり……。シゼルが知ることのできなかった感情が……広がっている……」
温かなその光が、俺に熱を与えてくれる。胸を押さえ、目を閉じる。
すると、ゼロやグレイ、彼らの事を感じることが出来た。
いるんだ…皆。見ているんだ、この光を。
[先生……]
彼女の声で我に返り、言葉を返す。
「リリーか……。どうした?」
[綺麗だね……。それに、温かい…]
「……そうだね。人の意志は、こんなにも温かいものなんだ」
[………帰ろっか、家に]
「ああ……帰ろう」
0093.03.12
ネオ・ジオン艦隊、投降を偽装しアクシズを奪回。強奪した核兵器とともに地球へ降下させるも失敗。
アムロ・レイとシャア・アズナプルの両名、死亡もしくは行方不明となり、消息を絶つ。[第2次ネオ・ジオン抗争]終結。
あの後俺たちは地球へと降り、日本へと向かった。
その理由は、一つだけ。
クロノード、カカサ、ルナちゃん。アウロラ、リナ…皆で来た。
病室を前に、何度も息を整えるクロノード。
そんなクロノードを見てくすくすと笑うカカサ。もうすでに前と同じ調子だ。
クロノードの記憶障害は、あの戦いで無くなりはしたものの、余命は変わらず、後1週間程度生き残れたら良いほうらしい。
正直、立って歩いていることさえ不思議と言われている。
「行ってやれよ、お前が一番最初だろ」
すると、彼は何度も頷きながら病室の扉を開いた。
そして、彼だけが病室へ入り、扉が閉まる。
しばらくして、病室の扉が開き、クロノードが手招きをする。その顔は、嬉しくてたまらない顔だった。無邪気なルナちゃんを見ている気分になったが、やはり家族ということか。
病室へゆっくりと足を踏み入れると、室内の奥、窓の外を見つめる一人の女性。
俺は思わず声が漏れた。
「あ………あ……!」
アウロラやルナちゃんがいる事さえ気にせずに、彼女へと歩いていく。
「……おや、その声は」
懐かしい声だった。数年ぶりに聞いたその声は、前と一切変わらない。
振り向いたその女性は、優しく微笑んでいる。
腰まである長い黒髪、つり目で、キリっとした眉。前見た時と変わらず美人だ。
「…ムゲン」
「…フィア……さん……」
まるで、母さんに再会したような気分だ。でも、それだけ嬉しかった。
また彼女と話すことが出来るなんて……。
彼女は俺の頭にゆっくりと手を乗せ
「見えたぞ、宇宙に輝く虹が。……お前は最高の弟だ。…ありがとう、ムゲン」
俺は、彼女へ涙を流しながら満面の笑みで返した。
「……どういたしまして、姉さん!」
59 完