宇宙世紀0079.11.08 俺達の部隊はオデッサ作戦で第1軍として最前線で戦うことになって1日が経過した。しかし、ジオン軍との睨み合いが続き、戦場は一時的に
一方の俺は、出撃できる機体が無く、俺はただ戦闘を見守ることしか出来ず、俺は苛立ちと歯がゆさによって
「くそっ!!!」
俺はミデアの壁を思いっきり殴る。しばらくするとその反動で殴ったほうの腕が痛くなった。当然と言えば当然なのだが…。
前の戦闘で俺は機体を大破させてしまい、作戦に参加することができない状況にあった。
「む、ムゲンさん…落ち着いて…」
リナさんが俺を落ち着かせようとする。
「でも!!俺だって戦いたい…!!」
「機体がないんですから仕方ないですよ。だから、少し落ち着いて座ってください」
「…あぁ…うん。ごめん…」
俺は少し落ち着いてイスに腰をかける。
しばらくの間、俺とリナさんの間に沈黙が続いた後、リナさんが口を開いた。
「あ、あの…ムゲンさん…」
突然声をかけられて、俺は少し驚きながら聞き返す。
「な、なんですか…?」
「わ、私…あの戦闘でムゲンさんが助かってよかったって、本当に思ってるんです…」
「え…?あ、あぁ…うん、あの時はリナさんがいなかったら俺はたぶん…。だから、とても感謝してるよ。ありがとう…リナさん」
「いえ、それで…ですね…。お願いしたいことがあるんです」
「お願い…?」
俺が聞き返すと、彼女は顔を真っ赤にさせながら言った。
「ムゲンさん専属の整備兵にならせてください!」
「え…?」
一瞬言葉が理解できなかった。俺は一度、頭の中の情報を整理する。
しばらくした後、俺は彼女の言葉の意味を理解した。そして俺は、彼女に微笑みながら言う。
「俺専属の整備兵になったら、修理はほぼ毎日だと思うけど、それでもいいなら…」
俺の言葉を聞き、彼女はそれはもう飛び跳ねるくらい喜んで言った。
「本当ですか!?やったぁ!!!ずっと…夢だったんです。専属の整備兵になるのが…」
「そうだったんだ…でも、喜んでもらえて嬉しいよ」
そう言って俺はまた彼女に微笑んだ。
その後、彼女と他愛も無い話をしていると、3機ほどだろうか、格納庫へ見知らぬ機体が入ってくるのが分かる。
「あれは…」
「見たことのない機体ですね…。見に行って見ましょうか」
どうせ出撃も出来ないからと思った俺は、リナさんに頷く。そして俺たちは格納庫へ向かった。
格納庫へ着くと、3機の機体が補給を受けていた。その足元には、パイロットらしき人物が3人、整備長と話しているのが分かる。
「いやぁ…すまないな。丁度弾薬が尽きてしまってて…迷惑をかけるな」
「気にしないでください。弾薬くらいなら分けることは可能なので…。えっと、それで必要なものは…。お、リナ!いいところに!!」
整備長がリナさんを呼ぶ。リナさんは、俺に待っててと一言言って、整備長のところへ向かっていった。
何もしないで待っているのもなんだったので、俺は補給を受けている3機に目をやる。
1機は、改良型のガンキャノンだろうか…そして、もう1機はガンダムタイプの機体みたいだ。
そして最後の1機は、ガンダムともジムともいえない見た目の機体だったが、胸部の武装を見るに、陸戦型ガンダムの改良型なのが見て取れた。カラーリングは全身黒めの色合いだった。
「おっ、その野戦服、パイロットだな?」
不意に背後から声をかけられ、俺は驚きながら背後を振り向いた。
「そうですけど…あなたは…?」
「俺か?俺は、トラヴィス・カークランド中尉だ。皆からはフィクサーって呼ばれてるから、お前さんも好きに呼ぶといい」
トラヴィスと名乗る人物は笑顔で手を差し出してきた。
「ムゲン・クロスフォード伍長です。よろしくお願いします!」
俺は彼の手を握る。彼の手は優しくて、暖かかった。
「あぁ…お前さんが…。噂は聞いているよ」
噂…たぶん、初陣でジムを中破させたことだろうか…。今考えると少し頭を抱えたくなってしまう。
すると、トラヴィスさんは言った。
「ん?何をそんなにしょげてるのか知らないが、お前さん、初陣で敵を数機同時に相手したそうじゃないか。しかも格闘で」
「え…?」
確かに俺はあの時、道夜と共に3、4機ほどのザクを撃破したのを思い出した。そして、守れなかった二人の小さな命も…。
「…確かに…撃破はしました…。でもあの時は自分でも必死で…」
「そうだろうなぁ…。まぁ、あんまり気張るなよ。こんな大規模な作戦の時に言うのもなんだけどな」
「はい…少しですけど、元気になれました」
「ん?そうか。そりゃあよかった」
「フィクサー、誰と話しているんだ…?」
トラヴィスさんは声の方向へ振り向き、言った。
「あぁ、リッパーか。何、ここの部隊の部隊員と話してたんだ。ほら、お前が前から気にかけていたパイロットだ」
トラヴィスさんの横に並ぶように一人の青年が俺の前で立ち止まる。
青年は、だいたい20歳くらいだろうか、額にはバンダナをして、少し肌の色が黒かった。
「ほぉ…お前が初陣で格闘を使って敵を撃破した奴だな…」
「え…っと…ムゲン・クロスフォードです…」
俺はたじろぎながら挨拶をする。
「フレッド・リーバーだ。よろしく」
そう言って彼は少し微笑んだ。
「あの戦いで格闘を使ったのはたまたまで…その、マグレなんです…」
「おいおい…3体も格闘で撃破しておいてマグレはないだろう…」
「でも…あの時仲間がいなかったら俺は…」
俺は今までほとんど褒められることはなかった。父親からも…。だからなのだろうか、どうしても褒められるとどうしていいかわからず、自分を批難してしまう。
「仲間とか、そういうのはいいんだ。大事なのは、お前が格闘で敵を撃破したっていう結果が残ってるんだ。それを恥じる必要はないと思うぞ」
「結果…」
「そうさ、結果が全てと言うわけではない。だが、結果が出れば守れる者も自ずと増えていく…そういうことなんだ」
「おー?リッパーが珍しく説教してるぞ?」
「説教なんかじゃない。ただ褒めているだけなんだが…」
リッパーさんは少し照れながら頭を掻く。
そんな光景を見ていた俺は、少し元気になれた。
「…お前はきっと強くなる、なんとなくだが、格闘のセンスは
そう言ってリッパーは俺の肩に手を乗せた。
「…はい!」
俺が大きく頷くと、彼は軽く微笑んでから自分の機体のところへ戻っていった。
その背中を、俺とトラヴィスさんは見送った。そして、トラヴィスさんが口を開く。
「リッパーは、お前さんのことをかなり気に入ってるみたいだなぁ…」
「そうなんですか…?」
「あぁ、そうみたいだ…。なんせあれだけ激励してるのを見たことはないからなぁ」
「俺は…期待に答えられるかな…」
皆からの期待を一身に背負った俺は、不安なのかそんな言葉が口から漏れた。
すると、トラヴィスさんは微笑みながら言う。
「そうだな、お前さんはまだ若いからなぁ。一つ一つ困難を乗り越えていけばいい。ゆっくりと、自分のペースでな」
「トラヴィスさん…」
「なんだ…お前さんを見ていると、息子のことを思い出してしまうなぁ」
失礼だと思いながら、俺は恐る恐る聞いた。
「息子さん、いるんですか…?」
「あぁ、いるさ。…まぁ、今は会えてないんだがな」
そんなトラヴィスさんの瞳は、少しだけ悲しそうに見えた。
そんな彼を見て、俺は言う。
「えっと…きっとまた会えますよ」
「そう…だな…また会える…きっとな…」
その話の後、俺はトラヴィスさんにいろいろな話を聞いた。
彼らが乗っている機体の名前や、メンバーの名前、部隊の雰囲気など、色々なことを質問した。その時の俺は、父親にいろいろな事を聞いている気分になれた。
俺とトラヴィスさんが話していると、突然大きな振動と共に足音が聞こえてくる。
「この振動…」
「お前さんの仲間が帰ってきたのか?」
俺は目を瞑り、足音を聞いた。
そして、俺は気づく。この足音は…ジムやガンダムの物じゃない…と。
「この音は…ジオンです…!!!」
「何…!?くそっ!ミデアに入る時に気づかれたか!!」
トラヴィスさんは大声で叫んだ。
「スレイヴ・レイス隊!このミデアを防衛するぞ!」
そう叫んだ後、彼は俺のほうを向き、言う。
「お前さんは、ミデアの中で待機しててくれ」
「…分かってます…。お願いしますね…」
何をお願いするとは言ってないが、俺の言いたいことは彼に伝わり、彼は頷いていった。
「言われなくても、任せてもらうぜ」
彼は機体に乗りこみ、格納庫から出て行く。
続いてガンキャノンとガンダムも出て行った。
俺は走ってブリッジに向かう。この船の中で唯一外が見れる場所、そこがブリッジだったから。
ブリッジに着くと、当然人は無く、俺の息を切らした音だけが反響して聞こえてくる。
俺は急いで、外を見る。すると、戦闘は既に始まっていて、10機ほどのザクを相手に3機の機体が大暴れしていた。
ピクシーと呼ばれる機体が近接戦闘を仕掛け、相手をまとめて切り伏せる。
ガンキャノンが遠距離から砲撃を放ち、相手を粉砕する。
そして、スレイヴ・レイスがビームライフルなどの武装を使い、敵を撃破する。
見れば見るほど、俺は言葉を失って、彼らの戦闘を見つめていた。
恐ろしいまでの連携プレイ。今の俺たちには…こんなことは出来ない…。
そんな3機のうち、飛びぬけて見つめていた機体があった。【ガンダム・ピクシー】と呼ばれるあの機体だった。
あの機体と共に駆け抜けられたらどんなに素晴らしいんだろうと、頭の中で思う。
自分たちの劣勢に気づいたのか、ジオン軍は撤退していく。
3機は、そのまま遠くに歩いて行ってしまう。別れの挨拶もなしに行ってしまうのだろうか…。
俺は我慢できず、無線を取り言った。
「トラヴィスさん!!!」
俺の言葉が届いたのかは分からない、だが、機体はこちらを振り向く。
「ありがとうございました!!また…また会えますよね!!!」
スレイヴ・レイスは腕を大きく上げ、親指を立てた。
この通信は、きっと届いた。そう信じて俺は無線を切った。
しばらくその場に立ち尽くしていると、突然背後から物音がした。俺は背後に振り向いた。
「あ……」
扉の端から、こっそりとこちらを見つめていたリナさんが、気づかれたからか小さく声を上げる。
「リナ…さん…?どうしたんですか?」
「えっと…あの…。さ、さっきの機体…凄かったですよね!」
突然だったが、確かにあの機体が凄いのは分かる。
「そ、そうだね…特にあの」
「ピクシーですね」
俺の心を見透かすように彼女は言った。そうだ、俺はあのピクシーで『戦いたい。敵を倒してみたい』そんな心がいつしか生まれているのに気がついた。
「でもきっと、俺なんかじゃ到底乗れる機体じゃないんだろうな…」
「きっと…いつか乗れますよ。ムゲンさんなら!」
彼女が優しく励ましてくれる。
「あ、ありがとう…。でも…」
それでもへこんでいる俺を見て、彼女は言った。
「分かりました!私が…私がピクシー…造ります!!」
「え…?」
「だから、私たち整備班が全力でピクシーを造ります!あなたのために!!」
思いがけない言葉で、俺は驚きを隠せない。
「だから…」
彼女は俺の手を取っていった。
「そんなに悲しまないでください…」
慰めのつもりで言ってくれたのだろうか…。そんな彼女の優しさが身に染みる。
「うん…ありがとう…リナさん」
「よし、飲み物でも飲みに行こうか!」
「…はい!!」
俺とリナさんは、ブリッジを後にした。
06 完