機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

65 / 97
戦士の帰還―The Hidden story 0089―
49:不穏なトリントン


 宇宙世紀0089.7.21 ムゲン・クロスフォード中尉、長期の遠征からトリントン基地へ帰還。

 

 

 久々のトリントンでまず最初に感じたのは、普段とは雰囲気が全く違うということ。

 

 何と言えばいいだろう。【()()()()()】といえば分かりやすいだろうか。

 

 それだけではない。どことなく、兵士の雰囲気も険悪だ。

 

 さっきから誰かとすれ違うたびに殺気を感じる。

 

 これじゃあ、俺たちが最初にトリントンに来た時に逆戻りだ。

 

「ちっ……」

 

 すれ違う兵士に舌打ちをされる。

 

 状況が理解できないせいか、対応に困った。

 

 

「……いったい何があったんだ……?」

 

「あっ!!!」

 

 考え込んでいる俺の背中に、声がかけられた。

 

 振り向くと、俺の姿を見てひどく驚いている青年が立っている。

 

 黒色の短髪で、目は黒い。どことなくアジア系の顔つき。

 

 どちらかというと垂れ目なのだろうか。いかにも感情が顔に出やすそうなタイプの男性。

 

「…どうしたんだい?」

 

「あ、あなたは…!!む、ムゲン・クロスフォードさん!?」

 

「………そう、だけど……?」

 

「やっぱり!いやー!よかった!!!」

 

「な、何を喜んでいるんだい……?」

 

 すると彼ははっとした顔をした後

 

「すいません、自己紹介がまだでしたね。俺は八剱 俊太郎(やつるぎしんたろう)。最近このトリントンに来ました。よろしく!」

 

「そうか。俺はムゲン・クロスフォード………って、知ってるか。まあ、よろしく頼むよ」

 

「はい!」

 

 彼は嬉しそうに頷いた。

 

 こうやって知り合ったのも何かの縁と思い、俺は彼に何があったのかを聞いてみることにした。

 

「……しかし、トリントンの様子がおかしい。俊太郎は何があったか知っているか?」

 

 すると彼は悲しそうな顔をした後、言葉を返す。

 

「……ムゲンさんがここに来る一週間前の事です。俺は丁度、このトリントンに転属して初日に起きたことでした」

 

「…やはり、何かが……」

 

「はい。その日は、丁度第00特務試験MS隊が遠征から帰還する日で、基地の皆も嬉しそうでした」

 

「………」

 

 トリントン基地に転属になって、初めてこの基地で行ったことは、俺たち部隊と他の人々との壁を無くすことだった。

 

 ファングは他の部隊の隊長と積極的に話をして、俺や道夜なんかも毎日周りとの壁を無くすために努力していたのを今でも覚えている。

 

 そうやって、いつしか俺たちの部隊はトリントンで自他ともに認める、無くてはならない存在として信頼を得た。

 

 だから、皆喜ぶのも頷けた。しかし、今のこの状況はなんだ……?

 

 一体、何があったんだ……?

 

 まるで、俺だけが時間に取り残された。そんな気分になってしまっている。

 

「俺も、初めて会えるのでワクワクしていたんです」

 

「まあ……名前だけは有名だからね……」

 

「特務試験隊の旗艦が着艦すると、戦艦のハッチが開いて、そこから一人の女性が降りてきました」

 

「女性……?」

 

「はい。白いワンピースを着た女性で、その服には、血が………」

 

「何………!?」

 

 俺たちの部隊で女性と言えば、多くは無い。ユーリ、リナ、リリー、オペレーターのククリくらいだ。

 

 本当に、何があったんだ……?

 

「それで、女性は保護され、そのあとにアレが起きたんです」

 

「アレ……?」

 

「はい。………ムゲンさんには信じてもらえるかは分かりませんが。……聞きます…?」

 

「……聞かせてくれ」

 

 ここまできてお預けなんて出来るわけがない。

 

 俺も知らなければいけない。事の発端を。

 

「女性を保護した後、すぐさま戦艦が離陸し、戦艦の上に乗った【()()()M()S()】がこの基地の格納庫へ射撃を開始しました」

 

「………!!!」

 

 衝撃だった。俺たちの部隊が……トリントンを攻撃した……?

 

「すぐさま防衛のため、俺たちはMSに搭乗しましたが、的確な狙撃でほぼすべてのMSが行動不能に。そして、特務試験隊の戦艦は消えていきました」

 

「……そうか」

 

「その様子だと、ムゲンさんはその場所にはいなかったようですね」

 

「ああ。俺は別の事情でアジアのほうに行ってたんだ。………」

 

「信じられませんか…?」

 

「……少しね…。だが、それが本当なら、申し訳ない事をした」

 

「俺はいいんです。でも、問題はここからで」

 

「…まだ何かあるのか?」

 

「問題は、彼らが消えた後、一部の部隊が声を上げたんです」

 

「『奴らは裏切り者』と」

 

「………」

 

 当然と言えば当然だろう。今まで仲間だった者が突然攻撃してくれば。

 

 MSを攻撃したという事実。これは明らかに裏切りとも思える行動だ。

 

 だが、なら何故裏切る必要があった……?

 

「それに賛同した者と、特務試験隊を擁護する人とで、今トリントンは割れています」

 

「………上層部は、どちらを?」

 

「無論、裏切りという方針で考えているようです」

 

「……まいったな……」

 

 帰ってきて早々に問題とは……。だが、何とかしなければならない。

 

 俺たちだけの問題ではなく、このトリントン基地の問題なのだから。

 

「……よし、とりあえず状況は理解した。まずは擁護してくれている人たちに会ったほうがいいだろうな」

 

「そうですね、案内します。行きましょう」

 

 彼の後を追うように歩き出す。

 

 歩いている途中、すれ違う人の視線が何度も俺を見たのは気のせいではないだろう。

 

 

 しばらくして、ボロボロの建物が見えてくる。

 

 ボロボロというのも、物理的に破壊されている状態。

 

 建物のほぼ半分が消し飛んでいる。

 

 ここにも、被害があったのだろうか。

 

「………」

 

「ひどいもんですよね。MSの銃弾一発で吹き飛びましたよ」

 

「………ああ」

 

「入りましょう」

 

 建物の中に入ると、途端に外の騒がしさが消え静かになった。

 

「……この下です」

 

「………」

 

 頷き、彼の後を追う。

 

 コツコツと足音だけが響き渡る。

 

 その静けさが、余計に虚しく感じた。

 

 だんだんと賑やかな声が聞こえてくる。

 

 扉の前まで行くと、俊太郎は扉を大きく開き

 

「皆!聞いて!!」

 

 そう叫んだ。

 

「なんだよ、俊太郎。また何か面白い冗談でも見つけたか?」

 

 中から一人の男性が叫び返す。

 

「冗談とかじゃない!本当のビッグニュースさ!」

 

「信じがたいぞ」

 

「マジもマジ!!ムゲン・クロスフォードさんが来てる!」

 

「何……!ムゲンが来てるのか!?特務試験隊の!?」

 

「冗談なんかじゃないって!!」

 

 そう言った後、俊太郎はこちらに視線を送り『こっちに来て』と目で伝えてくる。

 

 俺は若干呆れながら扉の前へと進む。

 

 そして、部屋に入ると、丸いテーブルを中心に3人が座っている。

 

 俺に3人の視線が集中した。……当然……なのだろうか。

 

「ああ!!!本当にムゲンじゃないか!!!久しいなぁ!!」

 

 思わず立ち上がってしまうほど喜ぶ男。

 

 彼は確か、俺が最初にこの基地に来て案内をしてくれた人だ。

 

 茶色の髪が肩に掛かっていて、顎に髭が生えている。

 

 右目は黒で、左目は……黒目の部分が白く濁っている。……たぶん、何らかの病気で失明したのかもしれない。

 

 名前を聞く機会が無くてそのまま会えていなかったのだが。

 

「久しぶりです。……えっと……」

 

「ジャックでいい。よろしくな」

 

「はい。ムゲン・クロス―――」

 

「知ってるって!」

 

 笑いながら言葉を遮られてしまった。

 

「あ……そうでしたね……」

 

「えっと……」

 

 残り二人は、女性だった。なんか、ずっとこっちを見られているんですけど。

 

「…………」

 

 一人の女性はメモとペンを取り出し、手慣れた手つきで何かを書いた後

 

「………!」

 

 そっと俺に差し出した。

 

 受け取ってメモを見てみると

 

『私は、マヤ。生まれつき声が出ない。よろしく。』

 

 と書いてある。

 

 ……なるほど。

 

「ああ。よろしく。マヤ……さん」

 

 すると、何か思ったのか、続けてメモを書き始める。

 

 書き終えると再び俺にメモを差し出した。

 

『私は、あなたよりも6才も年下です。さん付けする必要ないです。』

 

「そ、そうか……。じゃあ、よろしく。マヤ」

 

 すると、納得したのか微笑んだ後小さく頷いた。

 

 赤いミディアムヘアーで、眠たそうに目を細めている。

 

 美人というよりは可愛い子。

 

 もう一人に向き直ると目が合った。

 

「あ……えっと……君は?」

 

「…………ちっ」

 

「え……」

 

 な、なんか舌打ちされた……?

 

「おい、アルマ。初対面でそんな態度するなよなぁ……?ったく、そんな怒ると可愛い顔が台無しだぞ?」

 

「うっせぇ!おっさん!!!誰が可愛いって!?」

 

 するとジャックさんは肩を竦めながら

 

「おー怖い怖い。その凶暴な性格さえなかったら美人で可愛いんだけど」

 

「てめぇ!!もっかい言ってみろ!!!!」

 

 もはや俺を置き去りにして二人の間で喧嘩が起きそうだ。

 

 ……一方的に見えるが。

 

 少し溜息を吐いた後

 

「……ま、まあ……よろしくね、アルマさん」

 

 すると、こちらに向き直り、きつく睨みつけてくる。

 

 黒の短髪で、ボブカットというのだろうか、そんな髪型で、目は釣りあがっている。……怒っているからだろうが。

 

 おそらく年下だろうが、何故か『さん』を付けないと恐ろしい事になりそうだからつけておこう。

 

 ジャックさんの言う通り美人だ。

 

「………な、なんです……?」

 

 しばらく睨みつけていた彼女は、瞬間表情を変えて、顔を赤くしながら

 

「……よ、よろしく………」

 

 小さく挨拶してくれた。

 

「…ああ。よろしく」

 

「……に、二回言う必要ないだろ」

 

「それもそうだ」

 

「おっ!アルマ、顔赤いじゃねぇか。いやー、やっぱ可愛いわー。おじちゃん感激!!」

 

 その言葉を聞いて、ほんのり赤い顔から一変

 

「はぁ!?うっせえよ!!おっさん!!」

 

「いやまあそう言わずに」

 

「あー…このおっさん嫌いだわ……」

 

 面倒だと言わんばかりの声で呟く。

 

「ま、こんな感じの俺達さ。よろしくな」

 

「ええ。よろしく」

 

 

 しばらく話をしていると、唐突にジャックさんが切り出した。

 

「それで、ムゲンよ」

 

「なんです?」

 

「ムゲンんとこの戦艦、グロ……テスクだっけか」

 

「バカ、グロリアスだ。おっさん」

 

 的確……かどうかは分からないがフォローをいれてくれるアルマさん。

 

「そうですね。グロリアスがどうしました?」

 

「そこから、リナちゃんだけ降りてきたんだけどよ。ありゃあ、なんかあるんじゃねえかと思うんだよ」

 

「リナが……!?」

 

「ああ。服は血だらけで、何事かと思ったけど、とりあえずお前んとこのヤツらで作った家に送ったぞ」

 

「………そう、ですか……」

 

 俯いて考えていると

 

「会いたいなら会って来ればいいじゃん。バッカじゃねぇの?」

 

「え……」

 

 顔を上げると、アルマさんは呆れながらこちらを見ている。

 

「お、俺、そう見えてた?」

 

「お前って、俊太郎に負けてないくらい単純だな」

 

「え………」

 

「褒めても何も出ないっすけど?アルマさん」

 

 素直に喜んでいる俊太郎。

 

「うっせぇ!褒めてねぇよ!!!」

 

 それに反応して怒鳴るアルマさん。

 

 呆気にとられながら彼女の顔を見ていると、少しだけ顔を赤くして

 

「さ、さっさと行って来いよ。めんどくせぇなあ……」

 

 と、そっぽを向いてしまった。

 

「ま、気になるなら見て来いよ。俺たちはここにいっからさ」

 

「……わかった」

 

 俺は部屋を後にし、自宅へと向かった。

 

 

 

 基地を出て、港の近くにある丘を目指す。

 

 丘を登ると、だんだんと見えてくる木造の建物。

 

 あの場所だけは前に来た時と変わらない。

 

 少しだけ緊張しながら扉をノックする。

 

「……はい…?」

 

 ゆっくりと扉が開き、会えるのを夢にまで見た愛おしい女性が現れた。

 

「………リナ……」

 

「ムゲン………!!!」

 

 たった2ヶ月会っていないだけなのに、こんなにも久しく感じる。

 

 彼女をこちらへ引っ張り、思いっきり抱きしめた。

 

「あ…………おかえり……」

 

 耳元で小さく彼女は言う。

 

「……ああ。ただいま」

 

「本当に………会いたかったよ」

 

「俺もさ。リナが無事で良かった」

 

「……私は………」

 

 彼女は、そっと離れた後、俯いた。

 

「……どうした?」

 

 顔を覗き込むと、彼女は涙で顔を濡らしている。

 

「……私は……何もできなかった……」

 

「何が……あったんだ?」

 

「………」

 

 リナは俯いたまま、黙り込んでしまった。

 

「とりあえず、家に入ろう。話はそれからでいい」

 

 リナの頭を軽く撫ででやる。彼女は小さく頷く。俺は彼女の手を引いて家へと入った。

 

 彼女を椅子に座らせ、震える小さな手を優しく包み込む。

 

「………リナが落ち着くまで、ずっとこうしてあげるから。何も怖くないよ」

 

「……うん」

 

 グロリアスの中で起きたことを知っているのは、彼女しかいない。

 

 だからこそ、聞かなければならないんだ。

 

 辛い事だとしても。歩みを……止めるわけにはいかない。

 

 一時の静寂。リナの手は震えていて、冷たかった。

 

 そして、やっとリナが小さく呟いた言葉は

 

「………皆………」

 

 そんな一言だった。

 

「リナ?」

 

「…………アウロラ………」

 

 そう、どこか変だった気持ちがやっと理解できた。

 

 アウロラが………どこにもいない。

 

「アウロラが……!?」

 

「…うっ……くっ……!!私は……!!!」

 

「リナ、大事な話だ。グロリアスで、特務試験隊で一体何があった……?」

 

「………わ、わたしは………」

 

「いい、ゆっくりで。落ち着いて話してくれ」

 

 小さく頷いた後、彼女は口を開いた。

 

「……1週間前の事。遠征から帰還したグロリアスに、突然知らない兵士達が乗り込んできたの」

 

「兵士が……?連邦か?ジオンか?」

 

「……連邦……。……よく覚えてるよ」

 

 リナの言葉に、怒りを感じた。今まで見たどんなリナよりも、恐ろしい怒り。

 

「……私は整備していて、アウロラを部屋で寝かしていた。その時、アウロラの面倒を見てくれたのはファングさんで」

 

「実際そこで何があったのかは分からない。けど、気づけばファングさんとアウロラは人質にされてた」

 

「………彼らの要求は、トリントン基地への攻撃。出撃してくる防衛隊は全て撃墜というものだった」

 

「この要求が認められなければ…………あ、アウロラ……から………こ、殺すって………」

 

「…なんだと………?」

 

 これが連邦のすることか?

 

 人質を取っておいて……幼い子供まで殺すだと!?

 

「だから……従うしかなかった」

 

「だが、リナ、お前はどうして降りてこれた……?」

 

「………トクナガさんが庇ってくれたから……」

 

「トクナガさんが……?」

 

「うん。【俺たちは嘘はつかない】という証明のつもりとして、リリーちゃんと私が狙われた」

 

「………どうして……女性ばかり……」

 

「分からない。けど、男性なら使えるだろうとでも思ったんじゃない?」

 

「それを……庇ったのか?」

 

「うん。寸での所で。けど……トクナガさんはそれで怪我を……」

 

「何……!?」

 

「足を撃たれて……」

 

「…………」

 

 背中から怒りと憎悪がゾワゾワと駆け巡った。

 

「それで……ユーリが基地を攻撃したわけか」

 

「……うん。この時ばかりはムゲンも道夜さんもいなくて良かったと思えた」

 

「きっとムゲンはアウロラを盾にされたら………」

 

「………ああ、抵抗できる自信は無い」

 

 ……出来るはずがない。

 

「……リナ、グロリアスはどこに?」

 

「分からない。……ムゲン、ごめんなさい。私……母親失格だよ」

 

「……そうかもしれない」

 

「……うん」

 

「でも。リナやアウロラが辛い時にいてやれなかった俺も……父親失格だ」

 

「あなたはでも………」

 

「だからこそ、今度は…道を間違えないようにしないとな」

 

 優しく彼女に微笑む。

 

「ムゲン……」

 

「失敗したなら、次失敗しないように活かせばいい。そのためにも、今はみんなを救う方法を探さないと。そうだろ?」

 

「………うん」

 

 彼女は、小さく笑ってくれた。

 

「あ、やっと……笑ったな」

 

「あ………。ありがとね、ムゲン」

 

「気にするなよ。俺は、お前に数え切れないほど救われた。今度は【()()()()()()()()】」

 

「………」

 

 唐突に扉が開き、黒い服を着た男が入ってくる。

 

「お前……」

 

「やぁやぁ!お楽しみ中に悪いねぇ!!よっ!久しいな、ムゲン!!」

 

 そうやって入ってきたのはカカサだった。……カカサなら……。

 

「カカサ、一つ頼みが―――」

 

「グロリアスの場所だろ?分かってるって」

 

「お前……」

 

「いやぁ、盗み――ゲフンゲフン。つい通りかかったら聞こえてね」

 

「………」

 

「カカサさん、それ本当ですか?」

 

「おうよ!この天下のカカサ・キヤモイ!断じて盗み聞きなんかしていないぞ!」

 

「……そんなのはいい。すまないが、教えてくれ」

 

「…無論さ。そのために不法侵入してるんだからね」

 

 この怪しい男。本当だったらぶん殴っている。

 

 だが、こんな時は本当に必要な存在だ。

 

「もともと、君にも伝えようとしてたわけだし、丁度いいし」

 

「……にも?」

 

「ん。ああ、道夜っちにさ、先に伝えてたんだヨ。グロリアス内部で起きたことをね」

 

「お前、知ってたのか」

 

「モチのロン。スパイとして潜入してたら運悪く遭遇しちゃって―――」

 

 カカサの胸ぐらを掴み叫ぶ。

 

「知ってて………!!!お前…!!!!」

 

 彼は平然と言葉を続ける。

 

「お言葉だけどムゲン君。君にそんなことをされる理由がないんだけれど?」

 

「な、なに!?」

 

「君は僕っちの【()】だよ?僕ちゃん連邦じゃなくてジオンだから」

 

「………す、すまない……」

 

 そうだ。状況を理解していないのは俺だった。

 

 それに、カカサに声を上げて言える立場でないことも。

 

 カカサから手を離すと、彼は掴んだ場所を丁寧に叩いた後続けた。

 

「ま、君の気持ちも分かるけどもさ。僕っちも同じ立場だったらそういう行動していたと思うよ」

 

「カカサ……」

 

「続けるよ。グロリアスがいる場所は、実は俺にも分からないんだ」

 

「はぁ!?お、おま――」

 

「まあ聞いて。そこで提案。いる場所が分からないなら、こちらへ誘い出せばいい。でしょ?」

 

「………でも、どうやって…」

 

「その作戦の前に、乗っ取った彼らが何をしているか、少し教えてあげるよ」

 

「うん……?」

 

「彼らはね、グロリアスを乗っ取った後、ムゲン君達の名を騙って人から金を巻き上げたりしてる。ようするにクズってこと」

 

「………」

 

「でもいいよね、君たちの名前を騙っているおかげで、本物に被害が行ってくれるんだからね。入れ食い状態さ」

 

「……本当にクズだな……」

 

「まったくだね。この僕ちゃんでも考えても行動しないことを簡単にやってのけるんだから」

 

 考えたことあるんだ……。

 

「ということで、彼らを誘い出すのは簡単な話、金で釣ればいいのさ」

 

「金で?」

 

「そう。例えば、【()()()()()()()()()()()()】とかね」

 

「………で、そのパイロットってのは?」

 

「とっておきを用意してやろうじゃないか。なあ、ムゲン君」

 

 そう言って怪しく微笑んだ。

 

 察しがついてこちらもニヤリと微笑む。

 

「……ああ。彼らにとっておきをプレゼントしてやらないとな」

 

「と、言うわけでリナっち、しばらくここでお世話になっちゃうぜ!!」

 

「ど、どういうわけです!?」

 

「………ま、真面目に言うなら、俺じゃなくて…。クロノード君?」

 

 ゆっくりと入ってくる男。ああ、間違いない。

 

「この子―――いや、ルナを……預かってほしい」

 

 彼の足元にはルナちゃんがいた。ルナちゃんを……預かる……?

 

「クロノード、どういうことだ?」

 

「……理由は…聞かないでくれ」

 

「何でだ!?お前、ルナちゃんが寂しがるじゃないか!!」

 

「だからお前たちに頼んでいるんだ。……俺は………」

 

「クロノード………?」

 

 彼の様子はいつもとどこかが違っていた。

 

「頼む。聞いてくれないでくれ」

 

「分かりました」

 

「り、リナ!?」

 

「私は構わないよ。それに、ムゲンに力を貸せるわけじゃないし。だから、今はルナちゃんだけでも守ってみせるから」

 

「…すまない…えっと……リナ」

 

「…大丈夫ですか?クロノードさん」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

 そんな彼を見ながら、俺は違和感を感じていた。

 

 その日は、クロノード、カカサを泊め、久々に昔の話で盛り上がった。

 

 

 ルナはクロノードにくっついて静かに眠っている。

 

 リナも寝息を立て眠りについていたが、カカサだけは、外で空を見つめていた。

 

「どうした?眠らないのか?」

 

「………なあ、ムゲン」

 

 いつものノリで返してくると思いきや、彼は真剣な眼差しでこちらを見つめる。

 

「……どうした?」

 

「……なんか言いたいこと、あるんじゃないの?」

 

「え」

 

「例えば、【()()()()()()()()()()】……とかね」

 

「……ああ。変だったな」

 

「………最近、余計ひどくなってるよ」

 

「どういうことだ?」

 

「お前には、しっかり言っておく必要がある。ルナを預けなければならない理由を」

 

「………教えてくれ」

 

「クロノード君……いや、クロノードは強化人間ってのは知ってるよね」

 

「ああ。幼いころ調整を受けたとか」

 

「……その副作用で、寿命が短くなってる。無論、道夜君も含まれる話だが」

 

「………」

 

「クロノードは、最近急激に記憶障害が起きてる」

 

「……だから…リナの名前で…」

 

「そうさ。最近じゃ愛する娘の名前さえ忘れそうになってる」

 

「………そうか……」

 

「俺の見立てなら、後4年」

 

「…クロノードが……死ぬ……?」

 

「………ああ。認めたくもない事実だよ。だけど、現実さ」

 

「そんな……」

 

「これは、俺とクロノードで決めた。彼は言ったよ『俺の記憶にルナがいるうちに別れたい』ってな」

 

「おかしい話さ。どうして家族が別れなきゃならんのよ。でも、クロノード君の意志は……叶えたいじゃん?」

 

「そこで君たちを頼った。………どうか頼む。彼のために、いいや!ルナのために、あの子をここにいさせてやってくれ!!!!」

 

 カカサは膝をついて頭を下げた。

 

「か、カカサ!!いいんだ!!分かってる!!そこまで言われたら断れないし、断る気なんてない!!」

 

「………すまねえ……すまねえ……。俺じゃあ……アイツを救えないんだ……!!」

 

「カカサ………」

 

 カカサは泣いていた。友のために。

 

 断るなんて出来るかよ。

 

 理由を知ってしまったら……。

 

 少しだけ生暖かい風が、俺たちの間を抜けていった。

 

 

49 完




新キャラの設定です。

名前:八剱 俊太郎

年齢:23

性別:男

主な搭乗MS:陸戦型ジム

階級:准尉

説明

コロニーで生まれ、地球の日本で育った青年。

前まではアジア地域の部隊に所属していたが、最近トリントン基地に転属となった。

感情が顔に出やすく、言ってしまえば単純な人物。

しかし、礼儀はしっかりしている。

髪は黒で短髪。目の色は黒。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。