機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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44:小さな願い

 宇宙世紀0089.7.1 第66特殊戦闘小隊野営地を試作AI[ヨハネ]率いるAI小隊が襲撃。

 

 先行でムゲン・クロスフォード中尉が単機で交戦。

 

 

 

「……くっ!」

 

 左からの攻撃を回避。続けて正面の敵へと一気に迫る。

 

 シールドミサイル発射、素早く飛び上がりながら相手の位置を確認。

 

 サーベルを引き抜きながら地面へと振り下ろす。

 

 地面に着地と同時に、切り伏せた敵が両断され、爆発による煙でジェガンの全身を包み隠す。

 

「……次は……2機……!」

 

 もう一本のサーベルを引き抜き、右手のサーベルを逆手に持つ。

 

「……正面に1機。左右に2機ずつ。……ならば…!」

 

 左から迫る敵にシールドミサイルを放ち、左の相手へと一気に詰め寄る。

 

 煙から飛び出したミサイルを1機はガード。それをフォローするように前へ出ようとした1機を見逃さない。

 

「逃がすかあああ!!」

 

 右のサーベルを相手の左腕から頭へと振りぬく。

 

 続けて左腕のサーベルで相手の胴体と下半身を両断する。

 

 次に、シールドを構えた1機と相対する間もなく、左のサーベルを投げつける。

 

 相手がそれを吹き飛ばす瞬間、隙が生じた。

 

「……!」

 

 素早く足払い。1機はそれを見越して飛び上がる。

 

「今だ……!!」

 

 サーベルを持ち直し、両手で相手の機体目掛けてサーベルを突き刺した。

 

 その後、相手は動かなくなり、地面へと転がった。

 

「………はぁ……はぁ……」

 

 流石に、一人で多くの敵を倒すなど、限界がある。

 

 それに、向こうは人間ではない。そんな人間の隙を見逃すはずがない。

 

「ぐぁっ!?」

 

 背後からの衝撃。機体が地面へと倒れこむ。

 

 立ち上がろうとするも、2機に機体を抑え込まれる。

 

「……くそっ…!」

 

[………無様だな。ムゲン・クロスフォード]

 

 地へと伏したジェガンの前へ、1機のザクが立つ。

 

 声には聞き覚えがあった。

 

「……何故……俺の名を……」

 

[お前の情報は全て調べた]

 

「……そうかい」

 

[先ほどのお前の戦いを見させてもらった]

 

「………だからなんだ」

 

[……そこで、今一度お前に問う。お前は正しいのか?]

 

 正しい……?戦いが正しいと問うのか?

 

 彼は……俺に何を求めている?

 

「………正しい……か……」

 

「戦いに、正しさなんてあるものか」

 

[………正しさが無い?それはオレには理解できない答えだ]

 

「……戦う事そのものに正しさなんか無いさ」

 

[では、何故戦う?なんのために人は戦い、戦うことを正義とする?]

 

「………」

 

 俺は、返す言葉が見当たらなかった。

 

 確かに、そうなんだ。

 

 戦うことに正しさは無いと思ったら、何のために戦って、戦うことを正義とする奴らはどうなる……?

 

[答えられない。そうだろう。お前の言う正しさがない戦いというのは、そんな矛盾を生み出す]

 

「………」

 

[もう一度聞く。お前は――――]

 

「俺は、俺のしていることは正しいとは思っちゃいない。……だが、それでも、俺たちは戦わなければならない」

 

「俺が、戦争を正しいと思わない理由は、人を殺めているから」

 

「戦争が、多くの人を殺し、差別や貧困を悪化させ、自然破壊を繰り返す。そのすべてが、戦いで悪化する。決して正しい事じゃないのは分かっている」

 

「それでも、戦わなければいけないのは、明日を……【()()()()()()()()()】だ」

 

[未来を……変える?]

 

「そうだ。繰り返して、失い続けるこの世界を、俺は変えたいんだ」

 

「これ以上……俺や、リナのように家族を失う人々を……増やしたくない…」

 

「戦争で、泣いている子供たちを救いたいんだ。だから、今は………」

 

[………]

 

「今は、たとえ矛盾である行為だとしても、戦わなければ……いけないんだ…!」

 

「俺は、軍人である前に、一人の人間だ。そして、未来を作るのも、変えていけるのも、人間だけだ!」

 

「お前にも……分かるはずだ。人間は……悪いヤツだけじゃないんだって。無力で、何もできないヤツもいる。……けど!」

 

「そんな無力な人に手を差し伸べる良い人だって、いるんだよ………!」

 

[……………そう、か]

 

 彼は、静かに言葉を返した。

 

「………」

 

[手を]

 

 その言葉で、機体を抑えつけていた2機が離れていく。

 

[ムゲン・クロスフォード。……お前は、人を信じているか?]

 

 答えに、迷うことは無かった。

 

「……ああ。確かに、人間は悪い所もある。けれど、良い所だってあるんだ。それを、俺は信じたい」

 

[……そうか。……………その言葉。忘れない]

 

「え……?」

 

 

 

[撤退だ。全機―――――……!]

 

 瞬間、射撃の嵐がヨハネを襲う。ヨハネから見れば正面から。

 

 つまり………連邦。

 

[隊長!無事ですか!!!]

 

「ガイ!」

 

[ムゲン・クロスフォード……。また――――]

 

 瞬間、背後からの射撃。ヨハネの機体が貫かれた。

 

 目の前でザクⅢが膝を折る。

 

「……なん……だ……!?」

 

[隊長!ジオンです!!]

 

「何!?ヨハネはジオンのAIじゃないのか!?」

 

[………ムゲ……ン……]

 

「ヨハネ!?」

 

[……オレは………死んではいない。だが……身体の状態はそれほど良くない]

 

「………」

 

[隊長!!どうしますか!?――くっ!!]

 

[ムゲンちゃん!早く決めてくんね?こっちもいつまでも保たないっしょ―――くそっ!]

 

[そうです……!……俺は……ムゲンが決めた道を……信じる!]

 

「………お前ら……」

 

 3機は俺とヨハネを守るように陣形を形成。ジオン機体と交戦している。

 

[……構う……必要はない……。オレは…AIだ。お前たち……人間の敵………]

 

「違う!!」

 

[隊長!?]

 

「AIだって……分かり合えるかもしれないだろ!!!それに、お前言っただろ!自分の目で見るまでは信じないと!!」

 

[………!]

 

「なら………」

 

 機体をゆっくりと起き上がらせる。

 

「その目で見届けろ!!俺たち人間が作る未来を!人間の……暖かさを!!」

 

[ムゲン………]

 

 俺は機体の無線を味方全機に繋ぐ。

 

「………第66特殊戦闘小隊全機、およびAI小隊に告ぐ!!」

 

「こちら、第66特殊戦闘小隊部隊長、ムゲン・クロスフォード!!」

 

「これより、66隊は、ヨハネ機を………撤退まで援護する!!!」

 

「動けるものは俺に……力を貸してくれ」

 

[……ムゲン………クロス………フォード……]

 

「ヨハネ。お前は【()()()()()()()()()()】。未来を見るために」

 

「だから、お前を……殺させはしない」

 

[……隊長の命令なら、引き受けないわけにはいきませんしね。……さ、早く撤退を]

 

[ムゲンちゃんは甘々っしょ。ま、嫌いじゃないけどさ!]

 

[戦う理由は、俺たちにもあるから……!]

 

「………ジェガン、俺は……守りたい!力を貸してくれ!!」

 

 

 サーベルを引き抜いて、相手へ迫る。

 

 相手の胴体を切り落とす。……AIと戦うよりも楽に感じるのはなぜだろう。

 

 だが、今はそれでいい。

 

「うぉおおおお!!!」

 

 次の1機を蹴り飛ばし、シールドミサイルを放つ。

 

 着弾し、さらに追い打ちの如くガイからの援護射撃が相手を襲う。

 

「次だ!!」

 

[隊長!右です!]

 

 素早く右へ振り向きシールドを構える。

 

 爆風が機体を包み込み、視界が遮られた。

 

 相手が一気に詰め寄りサーベルを振り下ろす。

 

 シールドが両断されるも、一度間合いを取る。

 

 続けて相手のサーベルが再び俺を襲う。

 

 負けじとサーベルで応戦。

 

 サーベル同士がぶつかり合い火花を散らす。

 

 負けるものか。

 

「迷うものか……!」

 

 

 そうだ。

 

 

 最初から答えは在ったんだ。

 

 

 俺が戦う理由も。

 

 

 俺は――――――

 

 

「仲間を……守るために……他者を斬る!!!」

 

 相手のサーベルを吹き飛ばし、サーベルを構える。

 

「たとえそれが、矛盾だったとしても!!」

 

 サーベルを、相手のコックピットへと突き立てた。

 

「今は、それが俺にできる最善だから」

 

 

 

 サーベルを引き抜き、レーダーを確認する。

 

 相手はまだ5機ほどいるだろうか。

 

「……やるしか……ない!」

 

[ムゲンちゃん、手ぇ貸すよ。一緒にやっちまおうぜ?]

 

「……ああ。行くぞ!カイル!!」

 

[オーライ!]

 

 俺とカイルは一気に相手へと迫る。

 

 カイルがビームライフルで牽制。うまく相手を俺の正面へと誘導する。

 

「ナイスだ!あとは……!」

 

 こちらに気づいた相手はとっさにシールドを構え、防御姿勢を取った。

 

「……だが…!」

 

 素早く両手のサーベルを逆手に持ち替え、右でシールドを両断。

 

 続けて左で相手の左腕を切り落とし、その間に右のサーベルを持ち替え、トドメに右のサーベルで相手の胴体目掛け斬り上げた。

 

 相手の機体の胴体が斜めに両断され、爆発する。

 

「次だ!!」

 

[くっ……!!]

 

 カイルはもう一機の敵と鍔迫り合いの形を取っていた。

 

 スラスターを起動し、カイルと相手へと移動。

 

「カイル!間合いを取れ!!」

 

[っ……!オーライ!!]

 

 その言葉で素早く身を退くカイル。

 

「逃がすかぁあああ!!」

 

 相手がこちらを向いた時には既に遅く、サーベルが相手の胴体を両断し、俺は既に相手の背後へと。

 

[おーすっげぇ……。そんな芸当見たことないわ]

 

「……褒められるようなことじゃない。それより、次だ」

 

[オーライ。んじゃ、背後は任せてくれちゃってオッケーよ]

 

「ああ。頼んだぞ」

 

 

 

 俺は、正面に立つ2機の前へと立ちふさがる。

 

「……さてと……」

 

 相手の機体はカスタムはされていないものの、武装でだいたいの陣形が見て取れた。

 

 1機は近接寄りの機体。サーベルを軸にした戦いをしつつ、2機目の中距離から遠距離の武装でトドメ。

 

 つまり最初に落とすべき敵は……。

 

「……その長モノを持ったザクⅢ!」

 

 機体を動かし、狙撃型のザクへ。

 

 それを遮るように近接型が立ちふさがる。

 

「ちっ!邪魔を…!!」

 

 スラスターを起動し、近接型とぶつかり合う。

 

 相手が慣れていないのか、ぶつかった瞬間、微かに機体がブレていた。

 

 なるほど、新兵か。

 

「邪魔だぁああ!!!」

 

 サーベルとサーベルがぶつかり合う。

 

 左のサーベルを持ち直し、相手のコックピットへ突き刺す。

 

 それを狙撃が阻止し、左手のサーベルが吹き飛ばされる。

 

「くっ!!」

 

 相手のサーベルを吹き飛ばし、左足を軸に回し蹴りを腹部へと直撃させ、間合いを取った。

 

 近接型が怯んでいる隙に狙撃型を仕留める。

 

 

「……すぐに……逝かせてやる」

 

 こちらの声が聞こえたのか、相手は負けじと狙撃を仕掛けてくる。

 

 しかし、その攻撃は掠りもしない。ユーリの狙撃を見てきたから分かる。狙撃機体の弱点を。

 

「狙撃型の弱点。それは意外にもあってな。一つは―――」

 

 相手の懐へ飛び込み、スナイパーライフルを両断する。

 

「火力の高さと重さ故に長モノは取り回しが悪いんだ。そして、もう一つ―――」

 

 相手は反撃をしようとマシンガンを取り出すが、相手の反応が一歩遅く、俺は両腕を切断した。

 

「近接武器を携行しないヤツが多いってことだ。……自惚れるのも、度が過ぎれば自分の命を危険に晒す。覚えておくんだな」

 

「ああ、でも――――」

 

 トドメに胴体を真っ二つする。両断され、胴体だけが地面へと大きな音を立てて転がった。

 

「…次へと活かすことも出来ないだろうが、な」

 

 

 息つく暇もなく、背後からの殺気。

 

「後ろか!!」

 

 振り向きながらサーベルを振るう。

 

 サーベルとサーベルが再びぶつかり合い、火花を散らした。

 

「………」

 

 左手を握りしめ、相手の頭部をぶん殴る。

 

 それに驚いたのか、少しだけサーベルを持つ力が弱くなるのを感じた。

 

「………筋は悪くない。だが―――」

 

 力で押し切り、右腕を両断。

 

「インファイターに近接戦闘を挑むほど……無謀なことはない…!」

 

 続けざまに頭部を切断。

 

「だからお前は――――」

 

 サーベルを両手で構え、相手のコックピットへ突き刺した。

 

「負けるべくして負けるんだ」

 

 サーベルを引き抜くと、相手は力なく地面へ伏した。残った俺は、次の敵へと向かう。

 

 

 

[くっ……!!]

 

 零次が2機に囲まれている。状況的には不利だろう。

 

 サーベルを1機に投げつける。

 

 反応が遅れたのか、サーベルは相手の腕に突き刺さり、隙が生じた。

 

「今だ!零次!!」

 

[言われなくたって!!うぉおおおお!!]

 

 零次は素早くサーベルを引き抜き、相手を切り裂く。

 

 サーベルが弧を描くように相手を切断する。

 

 そんな零次の背後に、敵。

 

「間に合うか……!」

 

 スラスターを起動し、もう一機へと駆け抜けながら零次に声をかける。

 

「零次!屈め!!」

 

[え!?は、はい!!]

 

 零次が機体を屈める。見えた!敵の位置!!

 

 こちらに気づいたのか、相手はマシンガンを放つ。

 

「今更遅い!!!」

 

 射撃を零次の機体を掠めながら回避し、相手の胴体目掛けサーベルを振りぬく。

 

 すかさず防御姿勢を取ったのが、逆に仇となった。

 

 その一振りは、ザクの両腕を切断。

 

「零次!トドメを!」

 

[分かってる!!]

 

 機体を宙返りさせ、間合いを取る。

 

 それを見送って、零次はビームライフルを構え、トリガーを引いた。

 

 ビームは見事にコックピットを貫き、ザクは地面へと伏した。

 

「……よし、終わったな」

 

[え、でも、まだ一機……]

 

「いいや。もう終わりだ。劣勢が分かっているなら……な」

 

 最後の1機を睨みつける。

 

 自分の立たされている状況を理解したのか、相手は機体を動かし、森林へと消えていった。

 

「な?」

 

[……でも、戦っていたかも……]

 

「その時は倒すさ。でも、必要ない敵まで倒す必要はないさ。相手も人間だからな」

 

[……そう、ですね]

 

 

[ムゲン………クロスフォード]

 

 零次との無線の間に割って入るかのように聞こえてきたのは、ヨハネの声。

 

「ヨハネ。無事のようだな」

 

[……ああ。………いいのか]

 

「いいのか。とはなんだ?」

 

[……敵であるオレを逃がして……]

 

「さっき言っただろう?まだ、お前は人間を敵とは認めていないんだろ?なら、俺たちの敵になるかって言われたら、そうではないだろう?」

 

[…………。離脱する]

 

 その言葉の後、少しの間沈黙が訪れた。

 

 どうやら、ヨハネ達AIも戦線から離脱したのは間違いなさそうだ。

 

 俺は彼らに無線を送る。

 

「よし、皆、帰ろう…。なんだか……疲れた」

 

 それから、俺たちは野営地へ戻った。

 

 そして、皆帰るなり自分のテントへ戻って眠りについた。

 

 誰一人、例外無く。

 

 

 

 

 夢を見た

 

 暖かく、優しい夢

 

 彼女が笑っていて、娘は幸せそうに目を瞑っている

 

 静かな花畑に3人で

 

 小さい幸せを感じながら

 

 風が通り抜けるとともに、彼女が何かを言った

 

『――――――……だよね』

 

 言い終えると小さく微笑んで、俺を見つめる

 

 ハッキリとは、聞こえなかった

 

 視界がだんだんと落ちていき、遠ざかっていく

 

 

 待って

 

 

 覚めないで

 

 

 まだ―――――――――――

 

 

「……!!!」

 

 覚めてしまった。今まで夢を見て覚めないでほしいと思ったことは無かった。

 

 ……それだけ、幸せだった。

 

「………」

 

 時計を見ると、朝4時。

 

「起きるか」

 

 小さく呟いた後、立ち上がる。

 

 

 

 テントを出ると、まだ外は夜と変わらない暗さで、森林である分余計に暗い。

 

 大きく息を吸い込み、深呼吸。

 

「…………」

 

「隊長?」

 

「へっ!?」

 

 急に声を掛けられ、ビックリして変な声が出てしまった。

 

「……だ、大丈夫ですか?」

 

 どうやら、声の主はガイのようだ。こんな時間まで起きていたのだろうか。

 

「……起きていたのか?」

 

「ええ。先ほど目が覚めまして。コーヒーでも飲みますか?」

 

「そうだな。よし、テントに戻るか」

 

 踵を返してテントへ戻ろうとしたとき

 

「隊長」

 

「な、なんだ?」

 

「……さっきの、面白かったですよ」

 

 ……恥ずかしくなってきた。

 

「そんなのはいいから、戻るぞ!!」

 

 恥ずかしさを紛らわすために、俺は一足先にテントへ入った。

 

 

 

「さて、ガイはコーヒーでいいのか?」

 

「ええ。って、私がやりますよ」

 

「いや、たまには俺が淹れよう」

 

 なんだかんだ言って、こっちに来てからはガイがほとんど淹れてくれていた。

 

 まあ、誰が淹れようと味が変わるわけじゃないが。

 

 いやでも、案外そうでもないかもしれない。

 

 研究所の爺さんに淹れてもらった時のコーヒーや、ヘンリーさんの淹れたコーヒーもまた違う感じだったのを思い出す。

 

 そんな昔を思い出しながら、俺はゆっくりとコーヒーを淹れた。

 

 コーヒーの香りが、俺を目覚めさせ、心を落ち着かせてくれる。

 

「うん。いい香りだ……」

 

「ですね。……穏やかで、静かだ」

 

「良いことじゃないか。こんな時間は大切にしたいところだよ」

 

「ええ。戦闘ばかりで疲れますし、余計にこんなひとときが幸せに感じますよ」

 

 しばらくして、二人分のコーヒーが出来上がった。

 

 カップにコーヒーを注ぎ、机へと運ぶ。

 

「砂糖とミルクはどうする?」

 

「ああ、それは自分でやりますよ」

 

「わかった」

 

 俺はコーヒーを机に置いて、ミルクと砂糖を用意。ガイに差し出した。

 

「………」

 

 コーヒーを一口。

 

 香ばしい匂いが、鼻から抜けて、まだ疲れが抜けきらぬ体に染みていく。

 

「………」

 

 この沈黙でさえも、幸せなひとときと感じられる。

 

「隊長」

 

「どうした?」

 

「…………良い……朝ですね」

 

「ああ。そういえば、こんな朝はこっちに来てから初めてかもしれないな」

 

「……いつも起きる時は会議や敵襲やらで起きますからね…。まあ、こんな朝は珍しいでしょう」

 

「でも、たまには良いな。………なんか、優雅な気分だよ」

 

「ははっ!」

 

「後はここに、皿に乗ったケーキと、近くにコーヒーを淹れてくれるメイドさんなんかがいれば、それはもう完璧なんだろうけどね」

 

「………隊長、メイドに興味が……?」

 

「い、いや、例え話だからね!?」

 

「ははは!!分かってますよ!」

 

「まあ、そんなのが無くたって、これはこれで、良いもんだろ?」

 

 俺は軽くカップを持ち上げ、彼に笑って見せる。

 

「………ええ」

 

 彼は、小さく頷いた。

 

 それから、ガイはコーヒーを口へ運ぶ。

 

 目を瞑り、コーヒーの味を確かめる。

 

「美味しいですね。お上手です、隊長」

 

「…ははは。ありがとう。でも、コーヒーだったら、妻のほうがもっと美味しく淹れてくれる」

 

「そうなんですか?……随分と奥さんを慕ってらっしゃるんですね」

 

「……まあなあ。まあ、まだ結婚はしてないんだけどさ」

 

「なのに……妻ですか」

 

「ああ。一応子供もいるからね。それに、他人に妻の名前を言うのもさ」

 

「なるほど。……確かに、それだったら……」

 

「……でも、いつかは結婚するさ。いつになるかは分からないけれど」

 

 そう言いながら天井を見上げる。

 

「楽しみですね」

 

「……楽しみ……だな」

 

 なんだか少しだけ照れくさくなった。

 

 それを隠すようにコーヒーを一口。

 

「隊長って」

 

「う、うん?」

 

「面白い人ですよね」

 

【面白い】とは今まで言われたことがなかった。

 

 いや、言われていたのかもしれないが、俺自身はそんなこと微塵も思ったことは無い。

 

 俺は少しだけ不思議そうに聞き返す。

 

「な、なんで?」

 

「だって、AIと分かり合えるなんて言う人を、私は初めて見ましたからね」

 

「ああ……」

 

 その事か、と思い少しだけ安堵した。

 

 別の意味で面白いとかって言われていたら――――

 

「まあ、日常でも面白い人だとは思っていますけど」

 

「…………」

 

 なんか、心を見透かされたような気がした。

 

「あれ……なんか気にしてましたか?」

 

「ち、違う……気にしてない」

 

「……気にしてますよね?」

 

「き、気にしてないぞ!!」

 

「ははは!!ほら!その反応!面白いですよ隊長!!」

 

「お、お前なあ……!」

 

 腹を抱えて笑うガイを、俺はため息をつきながら見ていることしか出来なかった。

 

 ああ、恥ずかしい。

 

 笑い終えたガイは、少し間を置いた後

 

「それで」

 

「うん?」

 

「本当にそう思っているんですか?」

 

「AIと分かり合えるという話かい?」

 

「はい」

 

「どうだろうなあ」

 

 分からない。けれど、人間と同じように知性を持つのなら、分かり合える可能性だってある。

 

 そんな、小さな【願い】ともいうべき、そんな感じのモノ。

 

 確証も、正しい事かもわからない。

 

 けれど、信じてみたい。AIと分かり合える事を。

 

「……信じたい」

 

「隊長……」

 

「無理かもしれない。けれど、俺は信じたい」

 

「AIと人が分かり合う。そんな可能性だってあるはずだ」

 

「手を取り合って歩ければ、きっといい未来があるはずさ」

 

「………人と人ですら分かり合えない世界に、そんな……」

 

「ああ。でも、AIは頭イイだろう?」

 

「…………はは……!」

 

「な、なんだよ」

 

「ははは!!!くっ……!!はははは!!!!隊長、最高ですよ!それ!!」

 

「な、なんだっての!!」

 

「AIは頭がいいから……ぷっ…!!ははは!!!」

 

「わ、笑うなぁ!!!俺だって、なんて言ったらいいか分からないんだ!!でも、そんな世界あったら素敵だろう!?」

 

「ふふふ……!え、ええ!!面白いですよ!!ははは!!!」

 

「………」

 

 ため息を吐くと、彼は

 

「いえ、すいません。……そうですね、確かにそうだ」

 

「ガイ……」

 

「人と人が分かり合えない世界でも、AIと人が分かり合えないって理由にはなりませんよね」

 

「それに、隊長の言う通り、AIの知能は高いですし、確かに、不可能ではないと私も思いますよ」

 

「隊長、私もあなたの面白い理想、少しだけ見てみたいです」

 

「……ガイ……。って、面白い理想って言ったか!?」

 

「言ってません」

 

「言っただろ!!」

 

「言ってないですよ。そんなことよりコーヒー冷めちゃいますよ」

 

「はぐらかすのか!?おい!ガイ!!!」

 

「いやはや、今日もコーヒーが美味いですね」

 

「お、お前ぇえええ!!!」

 

 

 こうして、今日も今日とて日は昇る。

 

 何が起こるか分からない未来。

 

 もしかしたら本当にAIと分かり合うことのできる世界になるかもしれない。

 

 それは、誰にも、神でさえも分からない。

 

 

44 完




2話前に本来掲載するはずだったヨハネの設定です。遅れて申し訳ありません。


機体名  ザクⅢ(AI搭載型)
正式名称 ZAKU Ⅲ

型式番号  AMX-011
生産形態  試作機
所属    不明
全高    21.0m
本体重量  44.2t
全備重量  52.1t
出力    2,150kw
推力    28,400kg×2
19,300kg×6
総出力 172,600kg
センサー  9,700m
有効半径

武装    ビームサーベルx2
      ビームライフル
     
     

搭乗者   試作AI[John]

機体解説

第一次ネオ・ジオン抗争にて量産されたザクⅢを、ビルダ・オルコットが改造し、試作型AI[John]の搭載を以って完成した機体。

このMSはパイロットを必要とせず、自らの意志で敵と味方を判別し、攻撃をするようにシステムされているほか、戦闘の技術を学習し、それに対応する攻撃を繰り出せる。

ビルダ曰く、「AIはニュータイプや人間を超えた力を持つ最高の存在」らしい。

AIであるが、感情を持つことで残虐性を増大させようと試みられているものの、この機体に搭載されているAIには感情というものを覚えさせるには時間が掛かりすぎたため、搭載されていない。

そのため、このAIはいつも自分を「失敗作」と言い続けている。

このAIのベースは男らしく、口調は問いかけるような言葉に加えて、一人称は『オレ』としている。

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