機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

46 / 97
36:Hope and the future

 宇宙世紀0087.12.14

 

 ティターンズ、サイド2・21バンチをG3、毒ガス攻撃。住民は全員死亡

 

 0088.01.18

 

 アクシズ、ゼダンの門(旧ア・バオア・クー)を破壊。グリプス2をも占拠し、ティターンズの拠点を奪う。アクシズはグラナダへ向かう落着起動へ

 

 0088.01.25

 

 アクシズとティターンズが決裂。ジャミトフ・ハイマン総帥暗殺。以後、パプティマス・シロッコがティターンズを掌握。

 

 0088.02.02

 

 エゥーゴ、メールシュトローム作戦発動。艦隊戦によりグリプス2を奪回。アクシズの軌道変更に成功

 

 0088.02.06

 

 MRX-010サイコ・ガンダムMk-Ⅱ、80%の状態で出撃

 

 0088.02.20

 

 グリプスを巡るエゥーゴ、アクシズ、ティターンズ、三つ巴の艦隊戦

 

 エゥーゴ第二艦グロリアス、グリプス2付近へ。戦闘開始。

 

 

 俺たちは、この戦いを終わらせる使命がある。

 

 失ってきた人のために……。

 

 そして、大切な人のために……。

 

 

 

[各員に告ぐ。これより我が第00特務試験MS隊は、グリプス2の防衛作戦へ参加する。敵はかつてないほどの強大な数だ]

 

[加えてエース揃いだ。しかし、こちらも負けてはいない。その誇りを忘れるな!!]

 

[我々が成さねばならぬこと…。この戦争はすでに終局へ向かいつつある!!]

 

[これで終わりにするのだ!!!もう、悲しみを広げてはならない!!!]

 

 艦長が言い終える。

 

 既に格納庫で準備していた俺は、機体に乗り込む。

 

「………ピクシー。行こう。もう何も言わないさ」

 

 システムを起動させる。

 

 俺個人も……決着をつける時だ。

 

[ムゲン。いいか?]

 

 道夜からの無線。

 

「なんだ?」

 

[終わらせるぞ。この戦いを]

 

「……無論だ。俺個人の決着もつけさせてもらう」

 

[………生き残るぞ。この戦い]

 

「ああ」

 

 彼との通信を終える。

 

 

[ムゲン機、発進どうぞ。どうか……無事に帰還を]

 

「ああ。…ムゲン・クロスフォード、ピクシー行くぞ!!!」

 

 カタパルトから射出される。

 

 戦場へ出ると、そこは既に戦いが始まっている。クワトロ大尉たちも……どこかで戦っているのだろうか…。

 

 

 

 流石にこちらにも気づいた敵が、既に何機かこちらへ迫る。

 

 目視、敵影4機。

 

「道夜!やるぞ!!」

 

[了解した。前へ!]

 

「無論だ……!!」

 

 ダガーを抜き、一気に攻め寄る。

 

 道夜の射撃で誘導された敵が、丁度俺の正面へ。

 

「待ってたぜ!落ちろ!!!」

 

 素早く切り抜け。敵を真っ二つに。

 

「道夜!!」

 

 2機にマシンガンを放つ。当てるつもりはない。

 

 マシンガンを回避しながらこちらへと迫る2機。

 

[ああ。そこだな!]

 

 道夜はサブアームに装備したバズーカを放つ。

 

 その弾丸が2機をまとめて消し去った。

 

 道夜の背後へ敵が迫る。

 

「道夜!背後だ!!」

 

[くっ!!]

 

 反応が一歩遅れた。まずい…!!

 

 道夜を襲うはずの一撃は、圧縮されたビームがそれを遮った。

 

[すまん。助かったぞクロノード]

 

[……次に行く。そっちは頼むぞ!]

 

「ああ。クロノード。お前も無事でな」

 

[当たり前だ。生きて帰ろう……]

 

 そう言って、彼は離れていく。

 

[よし、俺たちも散開して敵を叩こう]

 

「ああ。それじゃ!」

 

 俺は機体を動かし、移動する。

 

 

 

 0088.02.21

 

 アーガマ、戦闘宙域に到着。ラーディッシュ轟沈

 

 

 

 グリプスの近くまで来ただろうか。進みながら敵を落としていると、あの感覚が蘇る。

 

「!」

 

 右……。続けて下と左。さらに上と右……。

 

 当たらないように回避。この攻撃は間違いない……。

 

「ゼロ………!!!」

 

[フフフ……ムゲン…。君も僕を感じたんだね?]

 

 互いにサーベルとダガーがぶつかり合う。

 

「いい加減しつこいぞ!!!」

 

[いいや?これは僕が望んでやってるわけじゃない]

 

「何……?」

 

[ニュータイプ同士は引き合う運命なのさ……フフフ……]

 

「俺はニュータイプなんかじゃない!!」

 

[いいや?君は……ニュータイプだ。その感覚……間違いないよ]

 

「……減らず口を!!」

 

 蹴り飛ばし、間合いを取る。ファンネルが回避する位置の背後に来る……!?

 

 すかさず間合いを別の位置に取り、回避。

 

[ほら、君はこの攻撃が避けれている……。それこそニュータイプの証だ]

 

「ニュータイプだろうがなかろうが…!!お前を倒す!!」

 

[フフフ!いいよ!僕を殺してみろ!!]

 

 ダガーとサーベルがぶつかっては、間合いを取り合い、再びぶつかる。

 

「ちっ!!」

 

 間合いを取り、ナイフを投げる。

 

 それをガンダムはロングビームライフルで撃ち落とす。

 

[無駄だよ!僕にはそんな小細工さ!!]

 

「それでも!!」

 

 ナイフを2本投げつけ、素早く相手の懐へ。

 

[来ると思った!そこだ!!!]

 

 ガンダムの肩からミサイルが飛び出す。

 

「くっ!」

 

 素早く移動し、誘導ミサイルを回避する。

 

[流石だねえ……あれを回避できるなんて]

 

「そこだぁああ!!!」

 

 ダガーを横薙ぎ。それを受け止めるサーベル。左腕でダガーを抜き、受け止めた腕に突き刺そうとするが

 

[甘いよ!!]

 

 ガンダムは片方の腕でそれを阻止する。

 

「つよい……!!」

 

[さぁ。楽しもう!戦いを…!人殺しを!!]

 

「……!」

 

 確かに……彼は強い……。だが、あきらかに戦いを楽しんでいる……。そんなことは……!!!

 

「うぐぅうう…!うぁぉおおおおお!!!」

 

 ダガーの持つ右腕に力が入る。

 

 こっちが勝っている……。

 

「ぁぉおおおおお!!!」

 

[くっ!!さすがに……やるね…!]

 

 互いに間合いを取りながら攻撃。

 

 互いを掠め、過ぎていく。

 

[これなら…!どうだ!!!]

 

 ガトリングをシールドから放ち、続けてミサイルを発射してくる。

 

「ちっ……!!」

 

 流石に回避しきれない…!!

 

 ミサイルが1発、機体に被弾する。

 

「ぐぁ!!!」

 

[これで終わりぃ!!]

 

 隙を見せた俺に、トドメのビームキャノンを放ってくる。

 

「く…!!」

 

 態勢を立て直す時間など…!!

 

 しかし、それは止められた。ファングの一撃によって。

 

 彼は俺と彼の間のビーム目掛けて、バズーカを放つ。

 

 バズーカを撃ち抜いたビームは減衰し、俺を貫くには至らなかった。

 

[ムゲン!!そっちは頼んだぞ!]

 

 そう叫び、ファングは背を向けた。

 

「……。そうだな……しっかりしないと…」

 

[フフフ……そうでなければ…!さあ、やろうじゃないか]

 

「……お前の……戦いを楽しむ姿……!俺は…昔の自分を見ているようで…腹が立つ…!」

 

[だからなんなんだい?]

 

「…なおさら、お前を倒す理由ができた…。それだけだ」

 

[なら、やってみろ!!!]

 

 ビームキャノンを放つ。

 

 それをダガーを引き抜き、真っ二つに。

 

[ビームを斬るとは……。君は凄い……フフフ…]

 

「うぉおおお!!!」

 

 一気に間合いを詰める。

 

 奴はニュータイプ。それなら、こいつが読めない動きを…!!

 

「そこだぁああ!!!」

 

 俺は、ガンダム本体ではなく、ガンダムの持つロングビームライフル目掛け、弧を描くように回転しながら切り落とす。

 

[何っ!?]

 

「次だ!!」

 

 素早く旋回。ナイフを肩に位置するミサイルコンテナとロケットランチャーコンテナめがけて投げる。

 

 対応が遅れ、二つの武装が破壊。

 

[くっ!!ふざけるなぁああ!!!]

 

 ファンネルを射出してくる。

 

 右……。次は上と下。後は………全方位……違う……どこだ?!

 

 対応が遅れる。

 

 ビームが右足を、続いて左肩を撃ち抜く。

 

「がぁっ…!!!くそっ!!」

 

 さらに追い打ちでビームは腹部、コックピット近くを掠め、機体の左目を撃ち抜き、左腕を貫いた。

 

 機内でアラートが鳴り響く。

 

「くっ……!!」

 

[今度こそ終わりだよ。君は…!!]

 

 サーベルを構えたガンダム。いや、まだだ……諦められない…!!

 

「俺は絶対に…!諦めるわけにはいかない……!!」

 

 

 

『そうだ……』

 

「…!!!」

 

 彼女の声だった。

 

『諦めるな。お前はまだ負けてない……』

 

「……ああ。わかってるよ…」

 

『………私は、いつでもお前のそばにいる。その、腕に巻いたリボンが…お前と私を【繋いでる】』

 

「……わかります。フィアさんの勇気や、想いが……ピクシーに…!」

 

『私だけじゃない。リナも……そして、お前の家族も…』

 

「……はい」

 

『目を開け…。そして、前を向け。ムゲン・クロスフォード。お前は……私の最高の弟だ…!!』

 

「………」

 

『怖がるな。お前は覚悟を決めている。さあ、行くぞ』

 

 体が勝手に動いて、操縦桿(そうじゅうかん)を握る。

 

「……はい」

 

 

 

 その一振りを回避。

 

[なにっ!?]

 

[ならば……ファンネル!!!]

 

『ムゲン。左へ、続いて一度背後に下がれ。そして、そのあとすぐにダガーを投げろ。いいか、コックピットへだ!』

 

「はい!」

 

 機体を動かす。左へ。右に通り過ぎるビーム。

 

 続いて一度身を引く。正面を真下にビームが。その瞬間、ダガーを相手のコックピット目掛け投げる。

 

[くっ!!]

 

『続いて一気に間合いを詰める。まだ、左腕は動くな?』

 

「……わかってます。()()でしょう?」

 

 一気に間合いを詰め、スモークバルカンを放ち、鞘を触る。

 

 撃ちだされた刀を持ち、力を込めて振りぬいた。

 

「でやぁあああああ!!!!」

 

 その一撃は、ビームキャノンを切り裂いた。

 

[まだまだぁあああ!!]

 

 反撃に左腕が破壊される。

 

「次は……左だ!!!」

 

 続いて左へ避け、敵の翼を切り落とす。

 

[逃がすものかぁ!!!!]

 

 ファンネルが右足を撃ち抜く。

 

「ぐぉおおお!!!」

 

 背後のファンネルを振り向き切り落とす。

 

 右腕の刀を構えなおし、続けて相手の左足を切り落とす。

 

 ファンネルが刀を吹き飛ばす。

 

「まだだ……!」

 

『私達「俺達はまだ終わってない!!!」』

 

 ナイフを持ち、ガンダムの右目を刺す。

 

[ムゲンクロスフォードォオオオオオオオ!!!!]

 

「ゼロ!!!お前は無に帰れぇええええええ!!!!」

 

 互いの拳がぶつかり合う。こちらの力が勝った。相手の左腕がピクシーの拳で破壊される。

 

[まだまだぁあああ!!!]

 

「ぬおおおおお!!!」

 

 頭部と頭部が激しくぶつかり合う。そのたびにモニターが消えかける。

 

 その勢いでお互いに機体が吹き飛ぶ。

 

「ぐっぁ…!!!」

 

[がっ…!!くっ!!]

 

 衝撃でヘルメットのガラスが割れる。

 

 その破片で左目から血が流れる。

 

[ム………ゲ……ン…!!!うおおおおおおお!!!!]

 

 ガンダムが一気に迫る。

 

「……ゼロオオオオオオオオオ!!!!」

 

 こちらも負けじと迫る。

 

 拳に……最後の力を込めた。

 

「ぬあぁあああ!!!!!」

 

[であぁあああああああ!!!!]

 

 互いの……最後の力がぶつかり合う。

 

「ニュータイプだってなんだっていい……!俺に……!俺にこいつに勝てる力を……!!!」

 

[ここで死ぬのは……君だぁあああああああ!!!!!]

 

 力が……劣っている……!

 

『ムゲン!!!男の根性…見せてやれ!!!ヤツとは背負ってる重さが違うってことを!!!』

 

「……ぐっ!!!」

 

「たのむ……ピクシー…!!俺に……【()()】ってのを見せてくれぇえええええ!!!!」

 

 その時、ピクシーから虹の光が一瞬発せられた。その光が、敵を飲み込む。

 

[くっ!!なんだ!?]

 

 勢いが弱まる。もう今しかない。

 

「いっけぇえええええええ!!!!!!」

 

 最後の力を込め、拳を突き出した。

 

 拳は、ヤツの右腕を打ち砕きながら、敵のコックピットを殴りつけた。

 

[うぐぅううう!!!!]

 

 その勢いでヤツは吹き飛ぶ。

 

 その隙に刀を持ち直し、一気に詰め寄る。

 

「これで……!終わりだぁあああああ!!!!」

 

 刀を振り下ろす。今度は手ごたえがあった。

 

 機体は両断される。

 

 

 

[………は……は…。すごいよ……き……み…は……]

 

 宙に浮かぶガンダムからの声。

 

「……はぁ……はぁ…!!!」

 

[ぼくの…………まけ……だ………]

 

「お前は……ニュータイプなはずだ。なら、何故……地球に残ろうとする彼らの味方をしたんだ……!」

 

[………それは……。きぼうが……あると……………しんじたかったんだ………。かはっ………]

 

「希望………?」

 

[かれらも…………まだ……くさりきってないと………しんじたかった………]

 

「…たったそれだけの理由で!?虐殺を…!」

 

[うん………。ゆるされないことは……りかいしてる………]

 

「……」

 

 俺は許せなかった……。そんな理由で……人を殺すなんて…。

 

[でも………ね………。ニュータイプがさ…………ちきゅうにすむひとを…………じんるいを……しんじなくて………どうするの……さ……]

 

「…!!」

 

[かわらないと……………わかっていながら…………。それでも………って………さけばなきゃ、さ………]

 

「こんな時になって……なんでだよ……!一人で背負いやがって!!!」

 

 何故だか涙が零れた。

 

[きみは………やさしい………。てきなのに………ないてくれるんだ………]

 

「………ないてない……!」

 

[………ふふ……。でも…………ぼくは……やっとすくわれる………。おなじ………ニュータイプをみつけたから……]

 

「俺は……」

 

[うん。………かんぜんじゃない……。でも、きみにも…………このじんるいすべてに………その【()()()】はあって……]

 

[………でも、きみは……その資質が……開花しかけてた………]

 

「………」

 

[でも………。きみはそれを消されてしまった………。過剰な薬物投与………身体の強制的な調整で………]

 

[……人工のニュータイプを作るのに…………ほんとうのニュータイプを使ってしまって……その結果その資質をけされる………。はは………じつに……皮肉だ……]

 

「………俺は」

 

[きみは………これいじょうぼくのはなしをきかないでいい……。きょうかんしてしまうだろうから………。そして、きみはぼくに【情】をめばえさせてしまう……]

 

[そしたら………わかれがつらいだろう……?]

 

「…くっ!!!」

 

[もしかしたら………ぼくたちは……ちがうかたちであえてたら………【()()()()()()】……かもね……]

 

「ニュータイプが持つ……本来の力…。共感し、隣人でさえも大切にできる力……」

 

[うん……。わかっているじゃないか………。でも………]

 

[きみは………【無限】で………ぼくは【零】………。けっきょく………まじわることはない………]

 

「ふざけるな!だったら、【零】がなければ【無限】も!1もないんだ!!君は必要だったんだ!!!」

 

[ひつよう………か……。はじめていわれた……そのことば………]

 

[………【()()()()】…………その言葉………]

 

 その言葉を最後に、ガンダムは俺の目の前で爆散した。その光は……グレイと同じ光……。暖かかったんだ……。

 

「くっ……!!!結局、お前も変えたかったんじゃないか…!!人間が好きだったんじゃないか!!!」

 

 どうして……こんな最期を迎えなければならないんだ……。

 

 戦争は……どうして、人を奪う…?

 

 

 

「………」

 

 俺は確かにこの目で見た。

 

 Zガンダムが、巨大な機体を貫く姿を……。

 

[動け!ジオ!何故動かん!?]

 

[うおおおおおお!!!]

 

[女たちの所へ帰るんだ!!!!]

 

[お、女だと……?ぬああああああ!!!!]

 

 

「………」

 

 カミーユも……自身の決着をつけたんだな……。

 

 

 

 俺は一足先に帰還。機体から降りる。

 

「ムゲン!!!!」

 

 リナが駆け寄ってくる。

 

「……ただいま。……ごめんな。ピクシーがこんなになっちまった…」

 

「いいの!また直せばいい…。でも、あなたは一人だけだから……」

 

「……」

 

「おかえり……私の……大切な人」

 

 彼女は俺を優しく抱きしめてくれた。

 

「………」

 

「ごほんっ!お取込み中悪いが…リナ?」

 

 トクナガさんが咳払いし、彼女を呼ぶ。

 

「あ……っ!え、えっと……これはですね………」

 

 彼女は顔を真っ赤にし、慌てている。

 

「はっはっは!若いなぁ!!まあ、その続きは仕事してからだ!!帰ってくるぞー!!全員無事にな!!!」

 

「…はい!!!」

 

 

 俺はリナと別れた後、走って病室へ向かった。あの時の声は……間違いない。だったら…

 

 勢いよく扉を開く。

 

「おや?ムゲン中尉か。どうしたんだい?って、随分怪我をしているな…。治療する。座りなさい」

 

「はぁ……はぁ……。フィアさんは…?」

 

 すすめられた椅子に腰かけ、治療を受ける。

 

「…ん?眠っているぞ……?」

 

「……え……。でも、さっき、戦闘で……」

 

「うん…?気のせいじゃないのかい……?彼女はずっとここで眠り続けていたよ。……さ、これで大丈夫だ。念のため、数日は左目のアイパッチは外さないように」

 

「………は、はい………」

 

 じゃあ、あの声は一体……。

 

 俺は、彼女の近くへ歩み寄る。

 

 彼女の手を握る。

 

「………」

 

 なんとなく、彼女の口が動いているように見えた……。気のせいかもしれない……。でも彼女は。

 

 

 お………か………え………り

 

「………!!!」

 

 確かにそう動いた。

 

「………ああ。ただいま…姉さん…」

 

 泣きながら、返した。ただ、その一言だけを。

 

 

 

 宇宙世紀 0088.02.22

 

 エゥーゴ、アクシズ、ティターンズによる艦隊戦。エゥーゴによるコロニー・レーザー斉射によりティターンズ艦隊壊滅。コロニー・レーザー破壊。

 

 エゥーゴ、戦力の過半数を喪失。シャア・アズナブルも行方不明となり、地球圏は残ったアクシズ軍によって掌握される。

 

 これにてグリプス戦役と呼ばれる戦争は幕を閉じた。

 

 

 

 俺たちは、久々に地球へと降りた。

 

 理由は一つだけ。

 

「……これでお別れだな…」

 

「ああ。寂しくなるな、ムゲン」

 

「まったくだよー。俺もさびしくってさびしくって……」

 

「フィアさんは……どうするんだ?」

 

「……彼女は、医療施設へ連れていくさ。もちろん、民間の信頼できる所だ」

 

「軍は信用ならないからネー。ま、たまには会いに行ってあげてもいいんじゃあないかい?」

 

「ムゲンだったら、いつだって会いに行ってくれて構わない……」

 

「むげん………。もうあえないの?」

 

 ルナちゃんが寂しそうな顔をする。俺はクロノードに視線を送る。

 

 クロノードは察して、承諾してくれた。

 

 俺は、彼女を抱き上げる。

 

「……大丈夫。また会えるよ」

 

「ほんと!?やったー!!」

 

「ああ。本当だ。必ずまた会おう。それまでの【()()()】だ」

 

「……おわかれ……。さびしいね…」

 

「ああ……。寂しい」

 

「でも、また会えるから、お別れって言えるんだよ」

 

「そうなの?」

 

「ああ。……だから、また会おうね。ルナちゃん」

 

 彼女を優しく撫でた。そして、彼女を降ろす。

 

「………ぐすっ…」

 

「ルナ。おいで」

 

「…うん」

 

 彼女は俺のほうを見なかった。彼女なりに考えたんだろう……。

 

「さて、それじゃ、またな……。今度は……敵同士だ」

 

「ああ。だが、また協力できるかもな……」

 

「…ふっ…。期待してる」

 

「クロノード君。時間だ。行こう」

 

「ああ……」

 

 彼らは俺たちに背を向け、歩き始める。

 

 

 

「行っちゃったね…。フィアさんも…ルナちゃんも…」

 

「ああ。でも、また会えるさ」

 

「そう、だね………」

 

「そうさ。俺たちは互いに助け合って生きていて、必ずどこかで交わる。それが【()】と【()()】でも……」

 

「………さ、戻るか」

 

「ええ」

 

「あ、今日の夕飯はカレーだって!」

 

「えぇ……またカレーかぁ……」

 

 それから、俺たちの日常は、ジオンの残党と戦う日々に戻る。

 

 

 

 そして、月日が経ち宇宙世紀0088 07.08

 

 

 

 俺は食堂でリナと話していた。

 

 ふと、何かを思った彼女が急に真剣な顔をし、言う。

 

「……ねえ、ムゲン…?」

 

「うん?」

 

「……その、さ……言いたいことがあるんだ」

 

「な、なんだよ……?」

 

 彼女は顔を赤くして、言葉を繋いだ。

 

「わたしさ………、子供……出来ちゃった……」

 

 頭が思考停止状態に陥る。うん?今、なんて言った……?

 

「……え……?な、なんだって……?」

 

 聞き直してしまう…。リナは顔を真っ赤にし、叫んだ。

 

「あ、赤ちゃんできたの!!!あなたと私の!!!」

 

 食堂の全員がこちらを見た。そりゃあ当然なんだが……。

 

 赤ちゃん……。子供………。

 

「う、そ………?」

 

「本当だよ……?」

 

「い、いつから………?」

 

「えっと……最近だから……まだ先の話だけど……」

 

「……そ、そっか……。はは………子供……かぁ……」

 

 急すぎて受け止めきれない俺がいる……。

 

 ちょっと深呼吸しよう……。

 

「………」

 

「……」

 

 暫くの間ができる。それから、落ち着いた俺は口を開く。

 

「そっか…。俺の子供……できたんだ……」

 

「ふふふ……。何て名前にしようか…?」

 

「う、うぅん……そうだな……」

 

 そんな急に言われたって思いつかない………。

 

 しばらく考えた後、ふと二つの名前を思いついた。

 

「………あ、【アウロラ】なんてどうだ…?」

 

「アウ……ロラ……?」

 

「ああ。オーロラとも読めるけど。意味は【虹】……」

 

 虹は、どんな位置からも見ることができて、その輝きは、心を癒してくれる。どんな人にも平等に光となって欲しい……。

 

 そんな子に育ってほしいから……。

 

「男だったら……【アラン】……かな…」

 

「アランの意味は【調和】……」

 

 調和は、お互いに手を取り合い、どんな人とも【分かり合える】……そう、ニュータイプのような…そんな存在に育ってほしいから……。

 

「……いいね!ムゲンが決めたんだし、それでいいよ!」

 

 彼女は俺に微笑んだ…。こんな彼女の子供………。きっと、笑顔がかわいい子が生まれるだろうな……。なんて思いながら…。

 

 

36  グリプス戦役編  完




グリプス戦役編いかがでしたでしょうか。

今回テーマとしては【家族】というテーマを掲げて書いています。

さて、それでは今回登場したゼロの機体です。



機体名  ガンダムMK-0 (デストロイユニットMK-2装備)
正式名称 GUNDAM Mk-ZERO

型式番号  RX-178-00[De]
生産形態  試作機
所属    ティターンズ
全高    24.9m
頭頂高   18.5m
本体重量  33.4t
全備重量  89.1t
出力    1,930kW
推力    20,300kg×4
総推力 81,200kg
センサー  11,000m
有効半径

武装    ロングビームライフル
      ビームサーベルx2
      ビームキャノン
      大型ミサイル・コンテナ
      ロケットランチャー・コンテナ
      ガトリングシールド
試作ファンネルx17


搭乗者   ゼロ・オブリビオン

機体解説

数々の戦闘により収集したデータを基に、【ガンダムTR-0】のデストロイ・ユニットを強化、改装したものを装着している。

元々は地上戦闘がメインのユニットであったが、強化と改装により、サイズをコンパクトなものにし、機動力を低下させないような作りになっている。

欠点として、地上での運用は一切考慮していない。その重量を補うほどの推力は持つが、地上戦闘ではほぼ動けないであろう。

武装も前とくらべ、非常に豊富になり、デストロイ・ユニットの武装を引き継ぎつつ、シールドにガトリングガンを追加。

さらに、ファンネルを5基追加している。

その重量からくる重さを軽々と扱うことができるのは、やはりゼロが優秀なNTだからなのだろうか……?

それとも、執念からくるものなのだろうか…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。