機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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 宇宙世紀0087.11.24

 

 アーガマ、補給のためサイド2・13バンチ、モンガルテンへ入港

 

 0087.11.30

 

 エゥーゴのアーガマ、ゼダンの門を偵察

 

 0087.12.07

 

 ティターンズ、グリプス2を改造したコロニーレーザーでサイド2・18バンチを破壊

 

 0087.12.14

 

 エゥーゴ第二艦グロリアス、サイド2・21バンチをG3、毒ガス攻撃を予兆。サイド2・21バンチへ。

 

 エゥーゴ本隊到着まで時間が掛かる模様。

 

 

 

「何度繰り返すんだ……ティターンズは……!!」

 

 その話を聞いた俺は、移動で待機している間、悶々としていた。

 

「ムゲン……」

 

「リナ……。もう躊躇わないぞ……。ティターンズは……悪だ」

 

「ええ。彼らは、自分の利益のためだけに、人を虐げて、虐殺した。それを許すことなんか出来ない」

 

「ああ……!ここで、奴らを潰す…!!」

 

 もう、その決意に揺るぎは無い。

 

 

 

 俺は、少し気持ちを落ち着けるため、食堂へと足を向けた。

 

「………」

 

「よっ!ムゲン。隣、座り空いているぞ」

 

 フィアさんが手招きする。

 

「あ、はい……」

 

 コーヒーが入ったカップを持ち、彼女の隣の席へ座る。

 

「……」

 

「なあ、ムゲン」

 

「はい……?」

 

「戦いは、いつ無くなるんだろうな…」

 

 真剣な彼女の質問。俺は、どう答えればよいかわからなかった。

 

 そんな心の声が、いつの間にか口から漏れ出していた。

 

「…そんなの、分からない……」

 

「ああ。そうだな…。私も分からない…」

 

「……また、繰り返されてしまう…」

 

「毒ガスの話か?」

 

「……」

 

 辛かった。あんな事を繰り返すわけにはいかない…。

 

「まだ決まったわけじゃない。止めればいい」

 

「……そんな簡単に…」

 

「そのために今間に合わせようとしてるんだからな」

 

「…これが止められなければ……また、あの時と同じだ…」

 

「…ブリティッシュ作戦の事か」

 

「フィアさんは……あの作戦は…」

 

「軍人として言うなら、あの作戦は必要だったのかもしれない。だが、一人の人間から言わせてもらうなら……」

 

「人は、あんな死に方をするために生まれたわけじゃない。皆、祝福されて生を受ける。それは地球の人も、宇宙の人も関係ない」

 

「ええ……」

 

「私は、いや、私たちはすでに血で手を染めてしまっている……。どんなに願っても、どんなに祈っても、昔も、そして、これからも……」

 

「人に恨まれなければならない……。仕方のない事だ。人は、光になれる。だが、人は何かのために犠牲をいとわない闇にもなれる」

 

「私は、闇だ……。すでにその手で人を数えられないほど殺めた」

 

「フィアさん……」

 

「きっと、これからも人の命を奪うのかもしれない…。だが、ルナは……。ルナだけは……」

 

「……あの子だけは…こちら側にはなってほしくはない…」

 

「戦争のせいで、こんな所で過ごさなければならない。だが、それは不幸だ……。子供にとってそんなのは……」

 

「……でも…」

 

 彼女の言葉を遮った。それ以上に……子供にとっては、そんなこと以上に……。

 

「ムゲン……?」

 

「両親がいる。それだけでいいと思うんです……」

 

「それが、人を殺していたとしてもか……?」

 

「……こんな時、【()()()()()()()()()】という言葉で大抵何とかなってしまう世界は……やっぱり狂ってますよ…」

 

「ああ……。こんなに辛いことはない…。私は、ルナに何を教えてあげられるだろう……。何を残していけるだろう…」

 

「それは、あなた自身が決めることです。俺には決められないですよ……」

 

「…そうだな」

 

 少し考えた後、俺は言葉を繋いだ。

 

「でも、一つ言えるとするなら……。何かを残すため、何かを教えるために子供は存在しているわけじゃないですよ」

 

「子供は、純粋です。言葉を話せなくても、話せても、体のすべてを使ってあなたやクロノードを見て、何かを覚えている」

 

「……俺は、両親というのは、時に子供の背中を押してあげたり、辛いときには傍にいてあげたり……」

 

「ただ、そこにいる。そこで確かにルナちゃんの両親として立っている。きっと……それだけで……それだけでいいんです」

 

 何故か、父や母を思い出す。だが、不思議と悲しくはなかった。

 

「ムゲン……」

 

「両親がいないからこそわかることです…。物心ついた時から、親がいないなんて悲しすぎます……」

 

「……そうだな。お前は、辛い思いも、立ち止まることもあっただろうに…」

 

「ええ。現に、今も苦しんで、辛くて、恐怖で立ち止まることだってあります…でも」

 

「それを変えてくれたのは、今まで出会ってきた沢山の人たちです」

 

 

「家族を失って、軍に入りたての俺を、家族と言ってくれた人や」

 

「俺は俺であるということを教えてくれた人…」

 

「記憶を失い、ジオンなのに連邦だった俺に手を差し伸べてくれた大切な家族」

 

「記憶のない俺に、理想や夢を教えてくれた人」

 

「自惚れた俺に冷たい現実を突きつけ、そして、最後は和解して……約束を交わしてくれた人」

 

「人は、絶対に一人では生きていけない。人に唯一在る力、【心】を教えてくれた人」

 

「辛いときに、ずっと片時も離れず傍にいてくれた最愛の人…」

 

「そして、苦しくて、立ち止まりそうなときに、優しく抱きしめ、撫でてくれた姉のような存在…」

 

 

「みんな、皆が背中を押してくれた。知らないうちに、俺は沢山の人の意志を、希望を背負って生きている」

 

「でも、その感覚は……嫌いじゃない。人は、自分自身を残したくて、誰かに知ってもらいたくて、存在を残す…」

 

「それが、いい形でも、悪い形だとしても……」

 

「そんな過去があるから、今は前を向ける……。なんて……ね」

 

 軽く微笑む。彼女はその話を聞いて、言葉を返した。

 

「お前は……強いな」

 

「俺は強くないですよ。苦しんだり、辛い思いをしたり、逃げたりしてしまう……。まだまだ弱い人間ですよ」

 

「いいや。それは人間として当たり前の行動だ。痛みで苦しんだり、人が死んで辛い思いをしたり、怖くて逃げだしたくなってしまう……全部、人間である証だ」

 

「フィアさん………」

 

「私は、そんなに強い覚悟は無い……。私があるのは、ルナとクロノードのため…」

 

「それでいいんじゃないですか?」

 

「……そう、なのか…?」

 

「ええ。だって、家族を守りたいと思うのは、普通でしょう?」

 

「………ふっ…!そうだな…!普通だな……」

 

「ええ。その想いがあるなら、それはもうすでにあなたには家族のために戦うという覚悟がある」

 

「そう……だな」

 

「でしょう…?」

 

「………ああ。私は家族のために戦う。……ルナと、奴のためなら……わたしは死んでもかまわ……」

 

「それはダメだ」

 

 俺は少し声を強くした。

 

「…ムゲン…?」

 

「死んでも構わないなんて簡単に言わないで……。失ったほうの気持ちも考えてほしい……」

 

「ムゲン、お前……」

 

 俺は、顔を真っ赤にしながら言った。

 

「だ、だって……もうあなたは、俺の姉ですから……。俺にこんなに親しくしてくれて……」

 

「ムゲン………」

 

「だから、死んでもとか、命を投げ出すようなことは言わないで……。フィア……姉さん……」

 

「……!」

 

 彼女は凄く驚いている……。

 

「軍人である以上、いつも死と隣り合わせなのは当然。でも、自ら命を投げ出すことはしちゃだめだ……。それは、人間がすることじゃない……」

 

「そうか……。そうだな。お前は賢いな…ムゲン」

 

 彼女は俺の頭を優しく撫でる。その手は少しだけひんやりして、心地よかった。

 

「………俺は…そんな」

 

「いい子だ。ルナも可愛いが、お前も……可愛い。本当の弟みたいだよ…」

 

 その時の彼女の笑顔は、今まで見たどんなものよりも輝いて見えた。

 

「……そ、そんなに撫でないでください……」

 

「ん?もっと撫でてほしいって?しょーがないなぁ!ほーら!たくさん撫でてやるぞー!!」

 

「う、うわぁああ!や、やめてぇええ!!」

 

 そんなふざけあう時間が楽しくて……。

 

 

「……ムゲン」

 

「は、はい……?」

 

 なでなで地獄から解放され、肩で息をする俺に彼女は続けた。

 

「……わたしにも、戦う理由ができた……。お前のおかげだよ」

 

「……俺は何もしてないです。変わったのはあなたですよ」

 

「そうだとしても……。ありがとう」

 

「ど、どういたしまして……」

 

「さ、そろそろ時間だろう。行くか!」

 

「…はい!!」

 

 俺は、冷めたコーヒーを飲み干す。

 

 そして、席を立ち、食堂を後にする。

 

 

 

「あ、そうだ。ムゲン」

 

「なんです?」

 

 格納庫で別れようとしたときの事だった。

 

「ほら、これ持っていけ」

 

 彼女は、自身の髪を束ねていたリボンを解き、俺に手渡した。

 

「……急にどうしたんですか……?ま、まさか…!」

 

「いや、死ぬかもしれないから自分の持ち物を託すとかそういう展開のやつじゃない」

 

「じゃあなんで………」

 

「おまじないだ。コイツをパイロットスーツの上から腕に巻き付けておけ」

 

「な、なんの効果が……?」

 

「効果なんてないさ。そうだな……あるなら…」

 

「全員が生きて帰ってこれるおまじない……だろうか」

 

「……帰ってきましょうね。絶対」

 

「もちろんだ。私も、お前も…今度は無事に、な」

 

 そう言った後、彼女は先に機体に乗った。

 

 俺は、彼女のリボンを腕に巻いた。なんだか、少しだけ勇気が湧いてくる…。

 

 機体に乗り込み、システムを起動させる。

 

 悲劇を繰り返すわけにはいかない。誰も、あんな死に方を望んではいない……。そのためにティターンズを抜けたのだから。

 

「ムゲン・クロスフォード、ピクシー、出るぞ!!!」

 

 

 

 戦場へと出る。たった一つの望みにかけて。

 

[全機および全クルーに通達する!私は第00特務試験MS隊旗艦グロリアス艦長。ジェイク・マディソンだ]

 

[彼らは今、今再び30バンチ事件を繰り返そうとしている!それは……それだけは絶対にしてはならない!!]

 

[人の歴史は、繰り返さないために学ぶものなのだ!!ならば、この行為を、断じて許すわけにはいかん!!!]

 

[全員には迷惑をかける。だが、一つだけ言わせてほしい]

 

 俺たちは、俺を中心に、機体が集まる。

 

[全員。俺に…力を貸してくれ!]

 

 彼の強い想いが伝わった。

 

「俺も……一つ言わせてほしい。構わないな?艦長」

 

[ああ。許可しよう]

 

「……皆聞いてくれ」

 

「俺たちは、人を殺してきたかもしれない。それの償いとは言わない」

 

「それでも、二度と繰り返す気持ちがないのなら……。ティターンズのような奴らを許しておくわけにはいかない!!!」

 

「だから、皆……。俺についてきてくれ!!!」

 

 

 

 ピクシーの拳を強く握る。その手に、緑のザクが手を乗せた。

 

「…!」

 

[今更かっこつけるなよ?もう、皆の気持ちは同じだ。やろう。ムゲン]

 

 それに続けて、白と黒のザクも手を乗せる。

 

[そーいうことっ!俺たちはもう敵じゃない。もっとわるーいやつがいるんだからな。さ、止めてやろうぜ?]

 

[そうだ。俺たちは過去を繰り返すために生きているんじゃない。そうだろう?ムゲン]

 

 さらに、リゼルの手、サインスナイパーの手も重なる。

 

[もう、一人で生きる必要はない。俺たちは、手を取って戦えるんだ。それを教えてくれたのは…お前だ]

 

[早くティターンズを倒して、お茶でもしましょう。あ、お菓子はムゲンさんが買ってくださいね?]

 

 ガンキャノンの手、ジムコマンドの手。そして、銀色のガンダムの手が重なる。

 

[あなたに賭けてみたくなりました。私も、彼らを到底許すことが出来ない。さあ、やりましょう。今度は……共に!]

 

[俺は傭兵だ。だが……この甘々な家族には、そんなもの関係なかったな。さあムゲン。俺も戦おう…共にな]

 

[家族の意志は、みな同じだ。もう迷うことも、怖がる必要もない……。逃げることも…。さあ、行こうか?ムゲン]

 

 皆が俺の手に重ねて……。

 

「ああ……。行こう。悲劇は……繰り返させない…!!」

 

 

 

[これより、サイド2への毒ガス作戦を阻止する!!!全機、作戦開始!!!……生きろよ!]

 

 ジェイク艦長が叫ぶ。

 

 それに合わせ、全員がサイド2宙域へ向かった。

 

 

 

 サイド2付近まで近づくと、毒ガスのG3を設置しているところであった。

 

「カカサ!G3は何基ある!」

 

[そうだな。こんだけのコロニーだ……おおよそだが10はあって間違いない]

 

「随分多いな……。止められるのか…!?」

 

[止められるんじゃない。止めるんだろ?]

 

「…ああ。止めるぞ!全機散開!道夜、牽引(けんいん)を頼む!」

 

[了解だ。掴まれ]

 

 リゼルは変形すると、俺の近くへ。道夜の機体につかまる。

 

「よし、行ける」

 

[では、行くぞ!!]

 

 勢いよく突き進む。G3を目指して…。

 

「各個でG3を撃破してくれ!!」

 

[敵もさすがに気づいたか……。だが、リゼルの機動性なら抜けれる!!]

 

 レーダーでは一気にこちらに攻寄る敵。

 

「行けるのか…!?」

 

[行けるさ!舐めるなよ…!!]

 

 ものすごい速さで敵の横をすり抜ける。

 

 正面に敵。

 

「道夜!!」

 

[突っ込む!掴まってろ!!]

 

 俺は機体を動かし、道夜の機体にしっかり掴まった。

 

 道夜は敵を正面から吹き飛ばし、敵の前線を抜ける。

 

[よし、ムゲン!先にいけ!!]

 

「道夜!?」

 

[背後の敵は、俺がやろう。だから、前は頼むぞ!]

 

「……あぁ。わかった」

 

 先を進むと、コロニー外面に1基のG3を発見。

 

 それを守るように周囲の敵。今は一秒も無駄にはできない。

 

 ダガーを引き抜き投げつける。左側の敵に直撃。

 

 続けて右手でマシンガンを乱射。近距離まで近づきスモークバルカンを放った後、コックピットを銃弾が撃ち抜いた。

 

 G3へめがけ、ただひたすら駆け抜ける。

 

 さらに迫る1機を切り抜けながら撃墜。

 

 G3の近くまで来る。

 

「こんなものがあるから……!未来は……!いつまでも変わらない!!!」

 

 憎しみがこもったその一撃が、G3を切り裂く。

 

 外面から蹴り飛ばし、コロニーに被害がない位置でマシンガンを放ち爆発させる。

 

「こちらムゲン!1基やった!」

 

[こちらカカサ。俺も1基やった]

 

 残りはこれで8……。時間はあとどれくらいなんだ…!?

 

[全機、聞いてくれ!このG3は時限式だ!!時間はあと……5分…!!]

 

 カカサが叫んだ。あと五分……。間に合わせなければ!

 

[くそっ!こちらクロノード!!目の前にG3があるが、敵が多い!くっ!!!]

 

[私が狙います。敵を遠ざけてください]

 

 ユーリが応答。

 

[こちら、エトワールです。1基墜としました。予測ですが、あと7基はそれぞれ置く場所が似ているかと]

 

[予想通りなら、ムゲン隊長の近くに1基あります。できますか?]

 

「出来る出来ないじゃない。やるんだ!」

 

[そうですか。では、任せます。私も次に移ります]

 

 彼との通信を終え、次の1基を探す。

 

 

 

 彼の言う通り、近くに1基置いてある。

 

 幸いどこにも敵は見当たらない。

 

「よし、こいつで…!」

 

 ダガーを引き抜こうとしたとき、何かを感じた。おぞましいほどの殺気。下からだ。

 

「くっ!?」

 

 回避する。続けて右からの射撃。

 

「この感じ!」

 

 回避。さらに左。

 

 回避しながらその位置へナイフを投げる。

 

 遠くで小さい爆発。やはり……。

 

[やっぱり君かぁ…ムゲン…。フフフ……会いたかったよ……。もっとも、君はそうでもないだろうけど?]

 

「ゼロ…!邪魔をするな!!!」

 

 ガンダムは間合いを詰め、俺に斬りかかる。サーベルをダガーで受ける。

 

[邪魔…?フフフ…。そのために僕は来たんだよ?当たり前じゃないか]

 

「……ニュータイプならばなぜティターンズの味方をする!?」

 

[ニュータイプだからとか、そういうのは関係ないだろう?]

 

「なっ……!」

 

[僕は、僕なりに()()()()()()()()()()よ?他人の言葉で動く君のような存在じゃない]

 

「……俺は…」

 

[君はいつも人の言葉で動いて、ただ命令に従って生きている]

 

「…………」

 

 昔はそうだった。誰かの言葉で動き、自らの意志で動かなかった。グレイ……。君の理想にすがって……。

 

[見なくても分かる。君は、苦労もせず、ただ楽な道を歩いている]

 

 ああ。彼にも言われた言葉だ。楽に生きていた。……それでも

 

「俺は……」

 

[だから、君には僕の気持ちも、誰の理解も出来はしない]

 

 そうかもしれない。それでも………。

 

「分かりはしない」

 

[何……?]

 

「俺の気持ちも、お前には分かりはしない」

 

「誰一人にも手を差し伸べてもらえなかったお前には…」

 

[……]

 

「確かに、俺は苦労もせず、楽な道を歩いていたかもしれない。命令に従っているだけだったかもしれない…」

 

「それでも今は、これからは、俺の………」

 

 彼女のリボンが、俺に言葉を紡がせた。

 

「俺の【()()】で!!!戦うと……!守ると決めたんだ!!!」

 

「俺には、何もないかもしれない!それでも、人間は…人は!手を取って歩いていける!!!」

 

 ダガーで奴を吹き飛ばす。

 

[ぐっ……!!!]

 

「もう、俺は屈するわけにはいかない。立ち止まるわけにはいかない…。グレイと……」

 

 ナイフを投げつける。それを腕で吹き飛ばすガンダム。

 

 その腕をダガーで切り落とす。

 

「イーサンと!!!!」

 

 蹴り飛ばし、続けて刀を引き抜く。

 

「そして……家族が……いるんだ!!!!」

 

「だから、止まらない…!守ると約束したから…!!」

 

 一気に間合いを詰め、受け身を取れなかったガンダムの首を切り落とした。

 

[うぐぅう!!!まだだぁああ!!!ムゲェエエン!!!]

 

 ガンダムは再び立ち上がり、ファンネルを射出。

 

「俺は…ここから一歩も退かない…!!後ろには…!俺の背中を守る仲間が…!」

 

「必死に無事を祈る彼女がいるんだぁあああ!!!!!」

 

 右。ナイフを投げつけ、ビームが発射される前に撃墜。

 

 続けて、下。軽々回避。さらに反撃にマシンガンで撃墜。

 

 後ろ。ビームが放たれるであろう場所に刀を一気に振りぬく。

 

 ビームは真っ二つになり、俺の機体に触れることはなかった。

 

[くっ!!やはり君は……!!]

 

「もう、俺は悲しみも、苦しみも…。痛みも、逃げることも……。しなくていい」

 

「背中を押してくれる人がいる!!」

 

[フフフ……そうか。君も……ニュータイプだったんだね………]

 

「終わりにしよう……これで…!」

 

 刀を構え、ガンダムの胴体を切り落とした。

 

[ぐぅううう!!!……君は、勘違いしているよ]

 

「何…?!」

 

[まだ…僕は終わってない……フフフ……]

 

「何を…!!」

 

 背後からの殺気。まずい、回避に追いつかない…!!

 

[これで……さようならだよ、ムゲン]

 

 ビームの一射。

 

「くっ!!」

 

 たとえやられるとしても、あのG3を壊さずに死ねるものか……!

 

 俺は、マシンガンをG3目掛けて放つ。

 

 せめて、あれだけでも……!!!

 

「おちろぉおおおおお!!!」

 

 銃弾はG3に直撃。爆発する。

 

「しまっ……!!」

 

 一射はそのタイミングで機体のスラスターを破壊。

 

 ブースターが使えなくなった。

 

「くっ!」

 

 その一射の後、ゼロが駆るガンダムは動かなくなる。

 

 ただ宙に浮くガンダム。もう、何も言うことはなかった。

 

 俺は、背を向け、離脱する。

 

 

 

 後2分……。

 

[くそっ!!もう時間が…!!まだ6基あるってのに!!!]

 

 時間が無い。だが、ピクシーのスラスターは破損し、動かない。

 

 そんなもどかしさと怒り。

 

「ああぁああ!!!!動け!!動けってんだよおおお!!!ピクシー!!!駄目だ!!駄目なんだよ!!!!」

 

「ここで動いてくれなきゃ……。また…俺たちみたいなのが……。生まれちまうんだよおおお!!!!」

 

 それでも機体は動かない。

 

[ムゲン……限界だ。離脱するんだ]

 

「ふざけるな!!!ユーリ!!G3を…!!!」

 

[無理です……射程外です……]

 

「駄目だ……駄目なんだ!!!!もう…もう!!!」

 

 本当に無力だ……。何もできずに……。

 

[ムゲン]

 

「……!」

 

[泣くな。1基沈めた]

 

「…フィア……さん……」

 

[だが、これ以上は……無理だな…]

 

「そんな…!!」

 

[……出来ることはやったんだ……]

 

「ぐぅうう!!!畜生…!!」

 

 胸が張り裂けそうだ。

 

[離脱する…!っ……!?クロノード!お前何をしてるんだ!!!]

 

[俺が、止める!!!まだ時間はある!20秒あるなら…!!]

 

[クロノード!!限界だ!!くっ…!!敵が…!!!]

 

[くそっ!!うぁあああ!!!]

 

「クロノード!?」

 

 クロノードに何かあった。それだけは分かった。

 

[うぁっ…!!!]

 

「フィアさん!!!!」

 

 何があったのは間違いない……それでも、動けなかった…。機体が…。

 

[………ム……ゲン……。クロノードを……]

 

「フィアさん…!!何があったんです!?」

 

[……お前も……クロノードも……いや……。みんな……]

 

「嘘だ!ふざけるな!!!」

 

[フィア!!なんで……なんで俺なんかを…!!!くっ……ティターンズどもがあああああああああああ!!!!!]

 

 彼の悲痛な叫びが響く。

 

[………それで……いいんだ]

 

「良く……ないだろ…!!」

 

「なんで、なんでなんだよ!!!どうして……!?どうして俺の大切な人は消えなければならない?!」

 

[ムゲン!!彼らを回収した、グロリアスへ戻るぞ!!急げ!!!]

 

「あ、ああ…!!!」

 

 大丈夫。間に合わせる。今度は……俺が助けるから……!!!

 

 

 

 格納庫へ戻る。機体から飛び降りるように、そして彼女の機体へ走った。

 

 彼女の機体はそこらじゅうに穴が開いていた。

 

「フィア……さん…!」

 

「あ……あ…ムゲンか…」

 

 担架に乗せられた彼女。至る所に破片が刺さっている。

 

「ここで治療する。急いで」

 

 医師のサムエルさんが道具を持って走ってくる。

 

「………なあ、手を……」

 

 彼女は震える手を俺に差し出した。

 

「……ああ」

 

 彼女の手を握った。いつも冷たい彼女の手は、熱を持っていた…。

 

「ぐっ…!!うぅ!!!」

 

 痛みに苦しむ彼女。俺は必死に彼女の手を強く握った。

 

「フィアさん…!!!」

 

「我慢して!ムゲン、その手を離すなよ!!!」

 

 サムエルさんは必死に彼女を治療している。

 

「は、はい!!」

 

「フィア!!!」

 

 クロノードが駆け寄る。彼も怪我をしていた。それなのに……そんなの構うことなく。

 

「おぉ……。クロノードか………。すまん……」

 

「そんな事言うな…!!俺を……俺を庇うことなんか…」

 

「……体が動いたんだ。()()()……」

 

「ぐっ…うぅ…!!!なんで…」

 

「泣くなよ……お前は……わたしの夫なんだから…」

 

「お前が居なきゃ、俺は何もできない…!!!」

 

「…死にはしないさ……。だろ?ムゲン」

 

「えっ………」

 

「生きて……ルナを……お前を…見守らなきゃいけないんだから…」

 

 涙が零れた。ただ……苦しかった。

 

「あぁ………。みんな、迷惑……かけて…ごめん……な」

 

 周りには、心配して皆が駆け寄っている。

 

「迷惑じゃない…!みんなで、皆で歩いてきたんじゃないか!!」

 

「ふふ……。クロノード………。お前……大泣きしてるじゃないか……」

 

「あ、当たり前だろ!?俺を………唯一俺を愛してくれた………人なんだぞ!?」

 

「……ああ……。そうだな…」

 

「うぐっ……!!!はぁ…………はぁ………」

 

 至る所から血が噴き出す。見ているだけでも痛々しい。

 

「フィアさん!!」

 

「な、なぁ……ムゲン」

 

「………な、なんですっ…!」

 

「ルナは………見てないな……?」

 

「…あたり…前でしょ…!!!こんな姿見せられませんよ!!!」

 

「………よかった……」

 

 彼女は虚ろな瞳で天井を見つめた。そして……。

 

「…………………良いものだな………………家族は……………」

 

 そして、静かに瞳を閉じた。

 

「………!!!嘘だ……!駄目だ!!ダメだ、ダメだダメだ!!!!フィアさん!!逝くな!!逝っちゃダメなんだ!!!!」

 

「フィア……!!うぅ…!!!お前ってやつは……。くそっ!!くそがあああ!!!!!!」

 

 クロノードは走って格納庫を出て行った。

 

「お、おい!クロノード!!!」

 

 カカサはそれを追って出ていく。

 

 

 

「ルナちゃんはどうするんだよ!!!俺を見守るんじゃないのかよ!!!家族を置いていくのかよ!!!!!」

 

「……………うるさい。眠れないだろう……」

 

 肩で息する俺に、そんな言葉を言う彼女。

 

「えっ………」

 

 生きていた………?拍子抜けだった。だが、その反面嬉しさがあった。

 

「疲れたんだ………。少し……眠らせてくれ」

 

「………フィアさん…」

 

「なあ、ムゲン……」

 

「……なんです…?」

 

「次起こしてくれるなら………できれば、【()】が輝いて、希望に溢れているときに起きたい……」

 

「…………出来るだけ、頑張るよ……。姉さん」

 

「嬉しいねえ……。クロノードの事も、頼んだぞ……私の…………弟」

 

 彼女はそれから喋らなくなった。だが、息はある……。生きているんだ……。本当にそれだけが救いだった……。

 

「よし、治療は終わった。医務室に運ぶ。手伝ってくれ」

 

 

 

 彼女を医務室へ連れて、俺と道夜は静かに眠る彼女を運びながら話した。

 

「…………また……繰り返してしまった……。彼女の犠牲も……」

 

「こんな言葉で片付けたくはないが…、言えるとするなら…」

 

「……【()()()()()()()()()()】んだ……。仕方が………うぅっ…!!!」

 

 道夜も泣いていた。彼が涙を流すのを見たのは……これが初めてだった。

 

「……俺たちは……良くやったさ……」

 

「くっ……!!うぅ…!」

 

 悔しかったのだろうか…。道夜は声を(こら)えながら泣いた。

 

 彼女を医務室まで連れ、ベッドへと寝かせる。

 

 道夜はそのあと何も言わずに立ち去った。

 

「……サムエルさん…」

 

「なんだい?ムゲン中尉」

 

「………彼女は…」

 

 その言葉を言い切る前に、彼は遮る。

 

「彼女は、生きている。だが、今は……いや、いつ目が覚めるかは分からない。それこそ、もう二度と目が覚めることはないかもしれない…」

 

「そんな……!!」

 

「だが、それは彼女次第だ」

 

「フィアさん……次第…」

 

 俺は彼女の顔を見つめる。静かに眠っている…。

 

「………彼女は、良く戦っていた。そして、年長者としての役目を果たそうとしていた」

 

「……」

 

「それは、君が一番よくわかっているはずだ」

 

「はい……」

 

「いいかい?ムゲン君」

 

「これは、誰も悪くない……」

 

「悪いのは………ティターンズです」

 

「いいや。違う」

 

 彼は冷静に言い放った。俺は、それに腹が立った。……じゃあ何が悪いんだ……。

 

「じゃあ、何が悪いんだよ!!!彼女を、こんなにしたのは奴らだ!!!」

 

「悪いのは、人間じゃない……。戦争そのものが悪いんだ」

 

「……でも、俺は納得がいかない……!命をこんなに簡単に奪っていいなんて…!!」

 

「……残念だが、それは君が言える立場じゃない。それは、わかるね?」

 

「くっ……!!」

 

「お互い、家族というものがいて、それを失った人もいる。それは君も同じ。だが、彼らとてそれは同じだ」

 

「………」

 

「争いが起きて、そして大切な人を失った。そして、自らの恨み、私情で軍隊に入る」

 

「全て、戦争というものがあるせいなんだ」

 

「……じゃあ、俺は……俺たちはこの怒りをどこへぶつければいいんですか……!」

 

「…怒りは、ぶつけるだけが能じゃないはずだ」

 

「え………?」

 

「言葉は、人を幸せにすることができる反面、使い方を間違えれば、時として人を傷つけることだってある」

 

「………」

 

「結局…、この世に存在するモノをどう扱うか、扱う人次第になるんだ」

 

「過去、原子力という核を使った機能があった。今でも使われているところもあるのかはわからんが」

 

「あれは元々、発電や、人々のより良い世界のために作られたシステムだ」

 

「……」

 

「だが、ある時、その方法とは別の使い方をした人が出てきた。そう、戦争に利用すること」

 

「……軍事的な…」

 

「そうだ。核は軍事的に強い力を持った。かつては、核抑止という言葉もあったのだからな」

 

 聞いたことはある……。互いに核を持つことで、攻撃したら報復する。お互いが自国に核を撃たれるのは嫌だからってシステム…だった気がする…。

 

「最近の話で言えば……。まあ、ニュータイプというものが現実味があるだろうか?」

 

「ニュータイプ……」

 

「ああ。彼らは洞察力、認識力の拡大による精神的な共感、そして肉体的な体感によって隣人をも大切にすることのできる人間だと云われている」

 

「だが、考え方を変えてみれば、こうも捉えられる。洞察力や認識力が高いのなら、それは少し先の未来を予兆出来る、と」

 

「それならば、軍事的に利用すれば強力な兵士になる……。そう考えた人がいたのか、それとも成り行きかはわからない」

 

「だが、道夜や、君のようなパイロットを作るまでに至る。普通の人間をニュータイプに改造する……」

 

「………それは…とても悲しい事です」

 

「ああ。結局は、モノは使い方次第。その人次第でモノだって、人だって変わる」

 

「………」

 

「君の怒りは十分わかる。ならば、その怒りは、未来を繋ぐために使えばいい」

 

「どうすれば……」

 

「それは、君が見つけることだ。私には私の未来がある。そして、君の未来は君だけのものだ」

 

「そうですね………」

 

「ああ。だから、それでも何かを恨みたいのなら……人ではなく、戦争を恨むんだ」

 

「人を関係なく殺し、必要のない兵器までを造り出し、そして過去の歴史を繰り返させる……あのシステムのようなものを……」

 

「………」

 

「さて、少し話が長くなってしまったね。彼女は私が様子を見ているから、ゆっくり休みなさい」

 

「でも………」

 

「倒れてもらっては困るんだよ。だから、ゆっくり休むんだ」

 

「………はい…」

 

 俺は渋々病室を出た。

 

 

 

 そのあと、俺は部屋に戻る。

 

「………」

 

 ()()()()()……。その言葉は、今の俺には苦でしかなかった。

 

 急に響くノックの音。

 

「………開いてるよ」

 

 もう、立つことすら疲れた。

 

 扉が開く。立っていたのはリナだったが、様子がおかしい。

 

「……ど、どうしたの…?リナ……」

 

「うっ…!!うぅ!!えぐっ!!」

 

 彼女は子供のように泣いている。俺は、立ち上がって彼女を抱える。

 

「ど、どうしたんだよ…?なんでそんな泣いてるんだ……」

 

「フィアさんが………。うぅ…!!!」

 

 ………みんな気にしていたんだろう。あの道夜も…。ユーリでさえも…。

 

 俺に……出来ることを。

 

「とりあえず入ろう…。話は聞くからさ」

 

「うんっ!!うん…!!」

 

 彼女は泣きながら俺の部屋へと入った。

 

 俺はベッドに腰かけ、彼女へ手を広げる。

 

「おいで。抱きしめてあげるから」

 

「……!!」

 

 彼女は顔を濡らしながら、こちらを見た。

 

 そして、ゆっくり近づき、俺の胸に顔を(うず)めた。

 

「うぅ!!うぐっ!えぐぅ!!うわああああああん!!!!」

 

「ああ…。辛かったな…。悲しかったな………」

 

「フィアさんが……!!うぅ!!!」

 

「……死んでない。生きているよ…」

 

「でも……!でもっ!!!」

 

 全て聞いたようだ…。いつ目が覚めるかわからないことも…。

 

「……リナ、泣かないで…。フィアさんも、それを望んではいないよ」

 

「うぐっ…!!ううぅ!!!何もできなかった!!!私は…!!!」

 

「俺もだ………。無力だった」

 

 俺は彼女の背中を優しく撫でる。

 

「こんな別れ……嫌だよ……!!!」

 

「ああ。こんな別れ方、あっていいはずがない」

 

「うぅっ!!」

 

 彼女はそれだけ信頼されていた。皆が、彼女を想った。

 

 彼女の犠牲は、無駄にはしない。

 

 それが、今俺にできる最善の事…。

 

 軍人として言うなら、必要な犠牲なのかもしれない。

 

 でも、俺は……人間だ。

 

 

「うっ……。ぐすっ……」

 

「リナ」

 

「な、に…?」

 

「俺たちは、彼女の犠牲を無駄にはできない。彼女の意志を、ここで止めるわけにはいかない」

 

「だから、皆で背負うんだ。彼女の意志を…」

 

「………」

 

「繰り返すこの戦いを、もう二度と繰り返させないために……」

 

「そう、だね………。私も、自分にできることをしないと……」

 

「そうだ。俺たちは、希望を繋いで生きている」

 

「繋がれた意志を、ここで止めてはいけない…」

 

「だから今は、戦うんだ」

 

「……ムゲン…」

 

「大丈夫。お前は、俺が守る」

 

「……私も……あなたを守る…」

 

「…それでいい。互いに……助け合おう」

 

 俺は、彼女を強く抱きしめる。

 

 そして、俺たちは共に夜を過ごした。

 

 俺に今できることは、彼女を慰めることだから…。

 

 

 人が、戦争を繰り返すのだろうか。…それとも、歴史が戦争を繰り返させるのだろうか…。

 

 

 歴史は、二度と繰り返さないためにあるものなはずなのに……。

 

 

 もし、後者ならば……それは皮肉としか言いようがない…。

 

 

 だが、今わかっていることは……。俺たちは、前に進むしかないということ。

 

 

 失っても、振り返ることを許されず、立ち止まることでさえ……。

 

 

 人の繋がりは、そうやって紡がれる…。

 

 

35  完


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