機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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イーサン・マクラウド。

その男の最期は、ムゲンや第00特務試験MS隊に、どんな影響を与えたのか。

それを、彼は知らない。

かつての彼は、人であった。しかし、ある事件によって………。

そして、最後の最後、やっと再び人間になることができた。

これは、そんな彼の過去。


デラーズ紛争編外伝
外伝:Episode of Ethan


 宇宙世紀0083.11.13 スターフォール作戦において、第00特務試験MS隊所属、イーサン・マクラウド中尉 戦死。

 

 

 

 俺に背を向けるガンダム。ただ、それを見つめていた。

 

 暗い……空を覆う巨大な物体。

 

 俺の…最後の……任務であり、唯一の家族を守るための…。

 

「…なに…怖がってるんだよ…俺…」

 

 いざやろうとすれば怖がってしまうものだ。

 

 手が動かない…。

 

「……怖ぇ……なぁ……」

 

 大きな物体を見上げながら、小さくつぶやいた。

 

「エミリー……生きていたんだな……」

 

「俺は……最初から間違っていた……」

 

 俺が狂い始めたのは、家族が死んだと伝えられてからだ。

 

 あれは……忘れもしない出来事。

 

 

 

 遡ること宇宙世紀0079.10.20 地上ではオデッサ作戦が始まった時だ。俺はその時、まだただの民間人。

 

 サイド3に居続けることが難しくなったため、家族で、地球に行くことになった。

 

 そして、輸送用シャトルに乗っていた時に、事件が起きた。

 

[お客様にお伝えいたします。現在、このシャトルは、大気圏突入のため、一時的に移動を停止いたします]

 

「もうすぐだぞ。地球に降りるのは久しいな」

 

「そうね。でも、もう二度と宇宙には戻れないのかしら……」

 

 と、妻のサリアが心配そうに言葉を返した。

 

 俺は微笑み、彼女に言う。

 

「そんなことはないさ。戦争が終われば、また戻ってこれる」

 

「そうね。きっとそうよね……」

 

「ああ。心配するな」

 

 そう……戦争なんか俺たちには関係ない事だ。

 

「パパ!!見てみて!!青いよ!!」

 

「ああ。エミリー。あれが地球だよ」

 

「地球……!綺麗だね!!」

 

「ああ。とても……綺麗だな……」

 

 正直なところ、ここまで間近で見たのは俺も初めてだった。だから、結構衝撃を受けている。

 

「あそこに降りるんだよね?」

 

「そうだよ。もう少ししたら降りれるさ」

 

「楽しみだなぁ!ねえねえ!降りたらお買い物したい!!」

 

「ん?そうだなぁ……地球はコロニーほど平和じゃないから、難しいかもしれないなあ…」

 

「そうなの?」

 

「ああ。だが、降りたらお出かけはしよう」

 

「本当!?絶対だよ!!」

 

「ああ。いいだろう?サリア」

 

「ええ。ただ、先にやることをやってからね?」

 

「わかってるさ」

 

 

 

 それから、1時間の間、待った。

 

 しかし、一向に船は動かない。

 

 唐突に放送が響き渡る。

 

[貴様らに報告する。このシャトルは、ジオン軍がジャックした]

 

「なんだ…!?」

 

「え…!?」

 

 一瞬理解ができなかった。

 

[貴様らは我がジオンを亡命した!!]

 

「な、なにいってるんだよ!!」

 

 ほかの乗客もざわついている。

 

[亡命した奴をジオンは許さない]

 

「ふ、ふざけるな!!!俺たちは裏切ってなんか!!」

 

 一斉にざわつきだす。それを、一発の銃声が全てを遮った。

 

「!!!」

 

「…貴様らは祖国を裏切った反逆者だ!!それは許されるものではない!!!」

 

「ちょ、ちょっとまて!!俺たちは裏切ってない!!ちゃんと許可をもらって…!!」

 

「許可などされていない!!現在我が国は地球連邦軍と戦争状態にあるのにもかかわらず、地球行きの便があるはずがないだろう!!!」

 

「じゃ、じゃあなんで…!!!」

 

「その理由は……死んでから考えるんだな!!!」

 

「貴様ら!!並べ!!」

 

 そう言って、ジオン兵が俺たちを強引に立たせ、並ばせる。

 

 シャトルは、尾翼側に出口があり、ハッチを開けばすぐに脱出することもできなくはないが…相手は軍人だ。

 

「くそっ!!なんでこんなことに!!」

 

「恨むのなら、自分を恨むんだな!!」

 

「くそったれが!!!!」

 

 俺たちは何もしていない。それなのに……。

 

「……ふむ、10人か……」

 

「どうします?中尉…」

 

「…全員射殺だ」

 

「了解です」

 

 殺される。……恐怖を…感じた。

 

「……くっ…!」

 

「パパ………こわい……」

 

「大丈夫、パパが守るから…!」

 

「うん……」

 

「……」

 

 

 

 それから、順番に民間人が殺されていく。……こんな死に方が…あっていいものなのか…。

 

「…うぅ……やだ……死にたくないよ……」

 

「大丈夫だ。エミリーも、誰も死なないから」

 

「……ほんとう……?」

 

「ああ。約束だ」

 

「……うん。……約束……」

 

 俺は、彼女の手を強く握った。

 

 約束したところで、何が変わるわけでもないのに…。

 

「…イーサン……」

 

「サリア…?」

 

「私……あなたを信じてきたこと…後悔してない…」

 

「…すまない…俺が地球へ行こうなんて言わなければ…!」

 

「いいえ。あなたは間違っていない」

 

「……」

 

 彼女は、泣いていた。心が苦しくなる。

 

「誰も……彼らも間違ってない」

 

「何故!?俺たちを殺そうとするやつらを庇う!?」

 

「……だって、彼らだって…人間だよ」

 

「それでも!やつらは軍人で、俺たちは民間人だ!民間人を殺す軍人なんか…!」

 

「軍人以前に……()()()()()だよ」

 

「…それは…そうだが…」

 

「一人の人間としてはしたくなくても…。それでも、軍人だからしなくてはならない行動だとするなら……」

 

「本当に恨むべきなのは……()()()()()()

 

「…戦争…そのもの…」

 

「うん。戦争というものが、人の有り方を変えた。戦争というものが、さらに差別を作った」

 

「戦争というものが、家族の形を……変えることがあるかもしれない……」

 

「…そんな……」

 

「認められなくても、これは現実。受け入れなければならない事」

 

「……俺は…」

 

「でもね、わたしは…あなたとエミリーを死なせない」

 

「唯一の……私を愛してくれた人たちだから」

 

「え…?おまえ、何を…」

 

 彼女は微笑んだ後、ハッチのボタンを押した。

 

 ハッチが開かれ、それに気づいたジオン兵が彼女を取り押さえる

 

「サリア!!!」

 

「その子と逃げて!!!」

 

「ふざけるな!!お前も…!!!」

 

「見てわからない!?わたしは…もう…!!!」

 

「くそっ!!ふざけんな!!エミリーはどうするんだよ!」

 

「お前が色々教えるんじゃないのかよ!!!」

 

「地球に降りたら出かけるんだろう!?」

 

「俺を……俺を一人にするのかよ!!!!」

 

 彼女は涙を流しながら一言言った。

 

「……ごめんなさい…」

 

「……!」

 

 俺は、その時覚悟した。彼女も本気なのだ。

 

「エミリー……行こう」

 

「嫌だ!!ママ!!!ママぁあああ!!!!」

 

 俺はエミリーを抱きしめ、シャトルから飛んだ。

 

 

 

 それからの記憶は…ほとんど覚えていない。

 

 しかし、次に目が覚めた時、俺は地球の小さな病院にいた。

 

 動かぬ体で視線をやると、全身が包帯で巻かれている少女の姿…。エミリーだ。

 

「……」

 

 言葉が出ない。出せないが正しい。

 

「お目覚めですか」

 

「……」

 

 俺は頷く。

 

「二人とも、すごい生命力です」

 

「話によると、連邦のパトロール艇が見つけた時には、既に酸素がなくなっていたそうですからね」

 

「…え…み……り………は…」

 

 何とか声に出すが、まともにしゃべれはしなかった。

 

「…娘さんは………その……」

 

「……」

 

「落ち着いて聞いてください。彼女は……昏睡状態で、まだ目が覚めていません…」

 

「………」

 

 胸が苦しくなった。何故…こんなことに…。

 

 

 

 それから、2か月後、俺は退院し、頻繁にエミリーのお見舞いをしに来た。

 

 しかし、それでも、彼女は目を覚まさなかった。

 

 病院に来ては、ずっと彼女の手を握って離さなかった………。

 

 

 

 ずっと………。

 

 

 

 ある日、病院に行くと、病院の周りに人が集まっていた。

 

 近くに寄って話を聞いたとき、俺は、その場に崩れてしまった。

 

「………そんな…」

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「エミリー………。嘘だ……。嘘だぁああああああ!!!!!」

 

 病院は、とある反連邦主義者の自爆テロで、爆破された。

 

 中にいる人の安否は分からず、生きているものはいない。

 

 俺は、それから……戦争を憎んだ。

 

 生きる意味を失い、ただ、ただ絶望していた時、俺は、連邦軍の募集を見て、軍へと入隊した。

 

 訓練学校では優秀な戦績を収めたのはかすかに記憶にあるが、何をやったかは詳しくは覚えていない。

 

 

 

 そして、宇宙世紀0083.10.13 第00特務試験MS隊に所属することになった。

 

 俺は、専用の機体を受領し、小隊長とかいうふざけたやつと模擬戦をした。

 

 

 

「くそ…!!くそがああああああ!!!」

 

 ダルマになったジムの中で、俺は叫んだ。

 

「お前さん。強いなぁ。これなら第1小隊も安心だなあ!」

 

「てめえ……!!同情のつもりか!!」

 

「いや?そんなつもりは一切無いぜ?お前さんは強い。これはたぶん見てるみんなが理解したさ」

 

「………くっ……。ふははは!!!面白い部隊に来たもんだ!!ははっはははは!!!傑作だ!!」

 

 負けてしまった。そのことを悔やんでいるわけじゃない…。

 

 ただ、ムゲン・クロスフォードは、戦争を楽しんでいると感じた。

 

 だから許せなかった。

 

 彼は、強い。だが、なんの意思もなく、【()()()()()()】だった。

 

 だからなおさら俺は腹が立った。

 

 

 

「経験?……何言ってるんだお前…」

 

「…何…?」

 

「お前は経験以前の問題だ」

 

「お前からは戦いをするオーラがまったく感じられねぇ…。お前だけぬるま湯に漬かってるようなもんだ」

 

「なんだと…!!」

 

「上官ってのはすぐ手を挙げたがるよなあ…。てめぇに教えてやるよ。今のてめぇになら負けねえ…。もう一度俺と模擬戦をしてみろ」

 

「……」

 

 許せなかった。戦争で生き残ったことを……。人に自慢するようなことじゃないのに…それを偉そうに言う彼が。

 

 だから、俺は負けなかった。

 

 

 

「くっ…!」

 

「ほら。結果こうなった。てめぇには、強さの本質が見当たらねぇんだよ」

 

「…強さの……本質……?」

 

「そうだ。お前はなぜ戦う?意味もなく戦うお前は、いったい何がしたいんだ?」

 

「お、俺は……意味もなく戦っているわけでは…!」

 

「いいや。お前からは戦う闘志が感じられないんだよ。過去の栄光、理想にしがみついてばかりで、今を見れちゃいねぇ」

 

「……そ、そんなことは…!」

 

「確かにてめぇは一年戦争を生き残ったのかもしれねぇ。けどな、今のままじゃてめぇは確実に死ぬ。いや、俺が殺しちゃうかもなあ?」

 

「お前に殺されるほど…俺は……」

 

「甘くはないってか?冗談きついぜ…。この状況になってまで言えるとか、どんだけ甘いんだよお前」

 

「くっ…!!!」

 

「だが俺には、しなければならないことがあるんだ…!」

 

「それ、理想だろ?」

 

「……!」

 

「現実も見れない奴が、高いところに止まって理想語ってるんじゃねえよ」

 

「いいか?理想を持つのは構わねぇ。けどな、てめぇがすべきことは理想をかなえることじゃねえ」

 

「目の前の現実を受け止めることだろうが」

 

「目の前の…」

 

「だからてめぇには闘志が感じられねえ。正直ガッカリだぜ。一年戦争を生き残った奴が、くだらない理想にしがみついた性根の腐った奴だとはな!!」

 

「……」

 

「戦う意味も、現実も見れないお前に、今の俺は倒せねぇ。いや、敵すら倒せねぇよ」

 

「な……な…」

 

「お前。軍やめちまえよ」

 

「……!!!!!」

 

「てめぇがいたら、部隊が全滅しちまう。さっさとやめるんだな」

 

 見ていて腹が立った。昔の自分を見ているようで…。だから強く言った。

 

 それから、彼は脱走した。もう二度と顔を見ることはないと思っていた。しかし、次に会った時の彼は少し違って見えた。

 

 

 

「ちっ!こいつらぁ!!!邪魔なんだよ!!!」

 

 数機に囲まれ、手間取っていた時だった。

 

[俺の……]

 

「なんだ…?!」

 

[俺の部下に……仲間に手を出すんじゃねぇええええ!!!!]

 

 あの声はまさしく、奴だった。怖気づいて逃げ出した……彼。

 

 すぐさま周りに煙が巻かれ、俺の機体は敵から見えなくなる。

 

[イーサン・マクラウドだな]

 

「あぁ?…てめぇは…なんで出てきてんだ?雑魚のくせによ!!」

 

[ああ。すまない。だが、雑魚でも何でもいい。お前を死なせるわけにはいかない]

 

「な、なに…カッコつけてるんだよ。てめぇに守られなくても俺は…」

 

[強がるなよ?お前は俺の部下だ。だから、隊長に任せておけばいいんだ]

 

「……な…」

 

[見ておけイーサン!!!お前の隊長の背中!]

 

 彼は、驚く速さで敵を倒していく。

 

 その背中は……彼女の強い背中を思い出させた。

 

 一瞬目を疑った。そして、その時俺は思った。

 

 彼は……変わったと…。

 

 それでも、大多数の数を相手に、苦戦し、そして、倒れる。

 

 だが彼はそれでも…。

 

[動けよ…!!動きやがれ!!!俺の体ぁああああああああ!!!!!]

 

[…そう…それで……いいんだ……]

 

[俺たちは……まだ…終わってない…]

 

[全員が無事に生還するまでは!!!!]

 

[だから頼む!ピクシー!!!力を…俺に力を貸せぇええええ!!!!]

 

 俺には…その背中が、ぼろぼろの彼らに……希望を見た。

 

「……似ている……」

 

 小さく言葉が漏れる。

 

 サリアに……。

 

 

 

 そして、彼は、本当に希望を見せてくれた。

 

「……パパ!!!!」

 

「…ああ?!……え……?」

 

 凍り付いた。彼女の声だ。

 

 あの……あの時から変わらない……。

 

「パパだよね!?イーサンって…!!!」

 

「……ちょっと待て…隊長、機体を近づけてくれないか」

 

 はやる気持ちを抑え、待つ。

 

「あ、ああ。待ってろ」

 

 ボロボロの機体がこちらへ寄ってくる。

 

 俺は、急いでコックピットのハッチを開いた。

 

 そして、彼女の手を握る。

 

「……エミリー……なのか……?」

 

「パパ…なんだね……」

 

「そうか……エミリーの親父さんって…」

 

「エミリー…お前は死んだはずじゃあ……」

 

「違うよ!!生きてた!!パパのおかげで!!!」

 

「……はは……そうか……そうかあ…!!」

 

「大きく…なったな……」

 

「パパ………会いたかった…ずっと探してた」

 

 

「パパだ……ずっと…探してた…」

 

「ああ……お前が死んだと思って…俺は…俺は…!!!」

 

「こんなに近くにお前がいたのに、どうして…!どうして気づかなかったんだ…!!」

 

 俺も何一つ見えていなかった……。こんなにも近くに、大切な家族がいたのに…。

 

「パパぁああ!!」

 

 

 

 だが、俺は覚悟を決めていた。娘に会う前から……。

 

「イーサン、離脱だ!!」

 

「……駄目だ。それはできない」

 

「何故!?やっと会えたんだぞ!?娘に!!」

 

「それでもだ。俺は…軍人だ」

 

 そう。一人の人間である前に…。今の俺は()()だ。

 

「そんな…!!そんなことってさぁ!!!」

 

「理解出来はしないさ。お前は…優しい男だからな」

 

 理解はできない。誰にも……。俺は彼の頬を撫でた。

 

「駄目だ…駄目だよ…!!こんな別れ…あっていいはずがないだろ!!!!」

 

「目の前にやっと…やっと再会できた娘がいるんだぞ!!?」

 

「わかってる!!!」

 

 俺は叫んだ。苦しいのは十分わかっている。だが、それでも…。

 

「だからこそ、俺は…俺の務めを果たさなきゃあいけない…」

 

「イーサン…」

 

「頼む…。ムゲン・クロスフォード。これは…俺にしかできない事なんだ」

 

「……お、お前ってやつは…」

 

「エミリー…いいかい。ムゲンと共に、家へ帰るんだ」

 

「やだ!!もう離れたくない!!!」

 

 そう言って一層強く抱きしめてくる。

 

「俺だって寂しいさ。けれどな……隊長の言う通り、お前にしかできない事がまだあるはずだ」

 

「…パパ……」

 

「だから…お前はまだこっちに来ちゃだめだ…」

 

「…うぅ…ぐすっ……」

 

「…隊長。最後の…頼みを聞いてくれないか」

 

「……なんだ」

 

「この…世界で一番愛おしいバカな娘を……家へ……返してやってくれ……」

 

「……いい…のか……?」

 

「ああ…。もう、覚悟は決めてある」

 

 もう…引き下がることはできない。それが……俺の役目なのだから。

 

「……わかった。行こう。エミリー」

 

「いやだ!!絶対にはなれない!!!」

 

「エミリー!!!」

 

「っ!!!」

 

 彼は叫んだ。彼は俺たちを想って彼も覚悟を決めた。

 

「彼は……軍人だ。彼の……最後の任務を…遂行させてやってくれ……」

 

「……うぅ……」

 

「エミリー。泣くんじゃない。君は強くて優しい子だよ」

 

「……パパ…」

 

「随分と母さんに似てきたな。これなら、きっと幸せな家庭を築くことができるだろうさ」

 

 サリア……お前の娘は……こんなに立派になったんだぞ……。

 

「…うぅ…」

 

「さぁ。時間だ…そろそろ行かないと…わかるね?」

 

「……うん……」

 

「そうだ。この写真。持っていけ」

 

「…これは……」

 

「お前の母さんの写真だ。どうだ…?お前に似て美人だろう?」

 

「うん…!うん!!」

 

「……ムゲン隊長。あんたは…きっと、これからもつらい思いをするだろう」

 

「けどな、その時、そばにいてくれる家族を……仲間を……」

 

「…ああ……守って見せる……」

 

「ああ。…期待してるぜ?」

 

「……離脱する…!」

 

 

 

「…なに…怖がってるんだよ…俺…」

 

 いざやろうとすれば怖がってしまうものだ。

 

 手が動かない…。

 

「……怖ぇ……なぁ……」

 

 なんとか体を動かし、機体に乗り込む。

 

「……ああ…死にたく……ねぇなぁ……」

 

 涙が零れた。辛いと言えば辛い。当たり前だろう…。

 

 だが、それでも…俺の役目は果たさねばならない。

 

「…んじゃ、やるか……」

 

 機体の装甲をパージし、武装を解除する。

 

 そして、ビーム砲台を持ち、飛び上がる。

 

 スラスターを最大稼働して、ただ一直線に墜ちる星へと…ただ一人。

 

「……いいや……一人じゃないな……」

 

 知らないうちに忘れていた。俺のそばにはいつも……彼女がいることを…。

 

 

 

『イーサン』

 

「………ああ。これでお前の所に行ける」

 

『もう、戦わないでいいんだよ』

 

「……これが本当に最後だ」

 

『そうね。やっと会えるね…』

 

「……エミリーは、立派になったんだよ……本当に…」

 

『ええ……』

 

 機体の自爆装置を起動させ、ビーム砲台をコロニーに突き刺す。

 

 そして、スラスターを限界まで起動し、なんとか押し返そうとするが、到底無理なこと…。

 

 

 

「俺は………戦わなくて済むんだな……」

 

「……ムゲン……クロスフォード………」

 

「俺の未来は…託したぜ……」

 

「最後の最後で……俺は、やっと………人間に……なれた…」

 

 瞬間、すべてが白い光に飲み込まれる。

 

 痛みは……なかった……。

 

 

 

 これで……

 

 

 

 これでよかったんだ……

 

 

 

 さぁ……俺の物語の終幕だ……

 

 

 

 後は……若い奴らが……希望をつなぐ……

 

 

 

 こうして……人の歴史は紡がれる……

 

 

 

 ムゲン………戦争を………終わらせろ………

 

 

 

 星に……なれなかった俺たちの代わりに………

 

 

 

外伝 完


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