機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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24:戦いの意味

 宇宙世紀0083.10.14 00:50 アナベル・ガトー少佐、RX-78GP02Aガンダム試作2号機サイサリス積載のコムサイで宇宙への脱出を計るもRX-78GP01ガンダム試作1号機ゼフィランサスによって阻止

 

 ディック・アレン中尉戦死。カレント小隊全滅

 

 06:20 バニング小隊、海岸線でRX-78GP02Aガンダム試作2号機サイサリスと交戦。アナベル・ガトー少佐とRX-78GP02Aガンダム試作2号機サイサリスはU-801ユーコンに回収され脱出に成功。

 

 アフリカへ向かう

 

 10:51 ジャブローのジョン・コーウェン中将より、アルビオンのエイパー・シナプス艦長にRX-78GP02Aガンダム試作2号機サイサリス奪還命令

 

 MS3機、パイロット3名アルビオンに補充。

 

 コウ・ウラキ少尉、ベルナルド・モンシア中尉とRX-78GP01ガンダム試作1号機ゼフィランサスをかけ模擬戦

 

 11:00 ムゲン・クロスフォード少尉、コウ・ウラキ少尉と会談。

 

 あの後、三時間ほど仮眠を取った後、基地の食堂で、コウ・ウラキ少尉と話をしていた。

 

 

 

「……それで、ムゲンさんの機体って、地上戦用の近接機ですよね?」

 

「…あ、ああ……そうだね……」

 

 彼がこれほどまでにMSマニアとは知らなかった。そのせいで少しだけ口調が変わってしまう。

 

「やっぱりだ!しかも、あの感じだと、1機か2機後の新型ですよね?」

 

「……うん。大当たりだ……!」

 

「予想通りです。あ、まだ聞きたいことがあって…」

 

「うん?なんだい?」

 

「どうすればムゲンさんのようなパイロットになれますか!?やっぱり、好き嫌いとかないんですか?」

 

「…う、うーん…そうだなあ……」

 

 さすがに唐突すぎて返答に困ってしまう。

 

 それに、言い方は悪いが、運良く生き残れているだけであって、特別なことなど何一つしていないのだから。

 

「と、とりあえずあれだね。好き嫌いは無いよ……」

 

 と、苦笑しながら答えた。

 

「へー…。やっぱりかあ…」

 

「…いわゆるエースパイロットになるためには、いろいろ経験することだと思う」

 

「なるほど……」

 

 俺が次の言葉を発しようとしたとき、入り口から大声で叫ぶ声。

 

「経験?……何言ってるんだお前…」

 

「…何…?」

 

 声の主を見ると、イーサンであった。…面倒な相手だ。

 

「お前は経験以前の問題だ」

 

 俺を指さし叫ぶ。

 

「お前からは戦いをするオーラがまったく感じられねぇ…。お前だけぬるま湯に漬かってるようなもんだ」

 

「なんだと…!!」

 

 頭にきた俺はイーサンの胸ぐらをつかむ。

 

 しかし、イーサンは余裕の表情で続ける。

 

「上官ってのはすぐ手を挙げたがるよなあ…。てめぇに教えてやるよ。今のてめぇになら負けねえ…。もう一度俺と模擬戦をしてみろ」

 

「……」

 

 周囲の視線が一身に集まる。ここで受けないわけにはいかない。俺自身も苦労しているということを彼に見せつけねばならないと思った。

 

 

 

 機体に乗り込み、基地から1キロほど離れた場所で演習は行われる。

 

 機体と機体が向き合う。

 

[ムゲン!今のお前に、俺は倒せねぇよ!]

 

「言ってくれるな…!後で後悔するなよ…!!」

 

 機体のスラスターを起動し、すばやく相手の懐へ潜り込む。そして、ダガーを引き抜き正面を切る。

 

 しかし、既にイーサンは正面にはおらず、少し焦りを感じながらもレーダーを確認。見ると背後に反応。

 

 素早く振り向き、相手との間合いをとる。

 

[ほら。遅い斬撃だ。これが一年戦争の生き残りの実力かぁ?笑わせるなよ!!]

 

 イーサンは大型のヒートブレイドを振り上げ、叩き潰してくるであろうと直感で感じた。

 

 それに対応するため、まずは右へ回避、そこから武器を蹴り上げ一気に射程に持ち込む。頭で作戦を組み立て、行動に移す。

 

「まずは……み…!?」

 

 謎の衝撃で機体が吹き飛ばされる。そして、左腕が動かない。

 

 頭での状況処理が間に合わない。

 

[終わりだな……]

 

 片膝をついたピクシーの前に、大型の剣を持ったジムが立ちふさがった。

 

 そしてジムは、俺とピクシーをあざ笑うかのように見下ろしている。

 

「くっ…!」

 

[ほら。結果こうなった。てめぇには、強さの本質が見当たらねぇんだよ]

 

「…強さの……本質……?」

 

[そうだ。お前はなぜ戦う?意味もなく戦うお前は、いったい何がしたいんだ?]

 

「お、俺は……意味もなく戦っているわけでは…!」

 

 言い返そうとする言葉に力が入らない。

 

[いいや。お前からは戦う闘志が感じられないんだよ。過去の栄光、理想にしがみついてばかりで、今を見れちゃいねぇ]

 

「……そ、そんなことは…!」

 

[確かにてめぇは一年戦争を生き残ったのかもしれねぇ。けどな、今のままじゃてめぇは確実に死ぬ。いや、()()()()()()()()()()()?]

 

 と、挑発気味に笑いながらイーサンは言う。

 

「お前に殺されるほど…俺は……」

 

[甘くはないってか?冗談きついぜ。この状況になってまで言えるとか、どんだけ甘いんだよお前]

 

「くっ…!!!」

 

 言い返す言葉がない。確かにそうだ。あれが本当の戦闘だったら自分は死んでいた。

 

 しかし、それでも、ここまで言われる筋合いはない。

 

「だが俺には、しなければならないことがあるんだ…!」

 

[それ、理想だろ?]

 

「……!」

 

[現実も見れない奴が、高いところに止まって理想語ってるんじゃねえよ]

 

[いいか?理想を持つのは構わねぇ。けどな、てめぇがすべきことは理想をかなえることじゃねえ]

 

[目の前の現実を受け止めることだろうが]

 

「目の前の…」

 

[だからてめぇには闘志が感じられねえ。正直ガッカリだぜ。一年戦争を生き残った奴が、くだらない理想にしがみついた性根(しょうね)の腐った奴だとはな!!]

 

「……」

 

[戦う意味も、現実も見れないお前に、今の俺は倒せねぇ。いや、敵すら倒せねぇよ]

 

「な……な…」

 

[お前。軍やめちまえよ]

 

「……!!!!!」

 

 その言葉が俺の脳を貫いた。

 

[てめぇがいたら、部隊が全滅しちまう。さっさとやめるんだな]

 

 そう言いながら、ジムは背を向け歩き出す。

 

 それを俺はただ見つめることしかできなかった。

 

 

 

 それから、俺の頭の中で、イーサンの言葉が何度もよみがえってくる。

 

『お前からは戦う闘志が感じられないんだよ。過去の栄光、理想にしがみついてばかりで、今を見れちゃいねぇ』

 

「……」

 

 理解はしたくても、認めたくはない。

 

『一年戦争を生き残った奴が、くだらない理想にしがみついた性根の腐った奴だとはな!!』

 

 グレイとの理想は……くだらないのか……?

 

 自分には何が足りないのだろう……。俺とは……なんなんだ……?

 

 考えれば考えるほどわからない。

 

 俺は、グレイとの約束をかなえるためだけに戦っている。

 

 

 でもそれは現実では到底無理なことで……。

 

 

 現………実………?

 

 

 じゃあ俺の戦う意味は何なんだ……?

 

 

 俺って一体何なんだよ……。誰か……。

 

「ゲン…!!ムゲン!!!」

 

「はっ…!」

 

 現実に引き戻してくれたのは、リナの声であった。

 

「だ、大丈夫?ぼーっとしてるよ?」

 

「……あ、ああ……」

 

 リナは少し微笑んだ後、俺の隣に腰かけて

 

「どうしたの?悩んでるの?」

 

 と、優しく声をかけてくれる。

 

「……あ、ああ……」

 

「どんなこと?教えて!!」

 

 目をキラキラとさせながら、リナは俺の答えを待っている。

 

 誰かに打ち明けたほうが少しは気が晴れると思った。だからリナにあったことを話した。

 

「なるほど……」

 

「どう……思う?」

 

「どうも何も。確かに、ムゲンは理想にしがみついて、戦う理由がない」

 

「やっぱり……か……」

 

 答えを聞いて少しだけへこんだ。

 

「でも、ね?戦う理由がないなら、作ればいいんじゃないかな」

 

「……戦う理由……?そんなもの……」

 

「あー!それだよ!ムゲンの悪いところ!弱気になるといつもネガティブになる!」

 

「………でもさ……いきなり見つけるなんて…」

 

「誰もいきなり見つけろ。なんて言わないよ!ゆっくり探して見つければいいんじゃないかな?」

 

「……あ、ああ……」

 

「ムゲンが願う理想も、時には必要だって私は思うんだ」

 

「理想が……?」

 

「うん。イーサンって人も言ってたじゃない?理想を持つことが悪いわけではないって」

 

「……ああ…」

 

「人はさ、本当につらくなったり、頼れるものがなくなると、いないはずの神さまとか、偶像だって作り出すんだよ」

 

「だからね、人は理想、夢を持つことは正しいことだと思うんだ」

 

「……」

 

「ムゲンは、理想も、戦う理由も、どちらもを共存させるようになれればいいんだよ!」

 

「難しいな……」

 

 そう言った後、小さく溜息を吐く。それを見たリナは、さらにつづけた。

 

「人ってさ、変わるのには時間がかかるから」

 

「でも、俺は3年も経っているのに全く変わっていない。でも、無理して変えてた…」

 

「ううん。無理して変えたら体が持たないよ。ムゲンはムゲンのペースで変わればいいんだよ」

 

「……」

 

「ムゲンはね、わたしとか、ほかの皆より変わるタイミングと、気づくのがちょっと遅いだけ。あと、周りに流されすぎ!もう少し自分の意志で動かなきゃ!」

 

「……」

 

「…一人で変わるのは難しいから、皆でがんばろ?」

 

 リナは優しく微笑む。

 

 その優しさに、胸が詰まる。

 

「……頑張ってみるよ……」

 

「うん!その気持ちが変わるための第一歩だよ!」

 

 

 

 リナと話したおかげで少しだけ気分が晴れたが、しかし、それでもイーサンの言葉が俺の頭からは離れない。

 

 考えることに夢中になっていたのか、気づくと、格納庫の自分の機体の前にいた。

 

 ピクシーは左腕が損傷し、吹き飛ばされた反動で、全身が汚れている。

 

 その顔はどこか悲しげで、見ているとこちらまで悲しくなってくる。

 

「おっ!小隊長じゃないかあ!」

 

 背後から少し老けた男性の声が聞こえ。振り返ってみる。

 

「あ、トクナガさん……」

 

「おう!どうした!元気ないな!」

 

 この元気なおじさんは、ダイチ・トクナガ。第00特務試験MS隊の整備長を務めている。そして、リナの親代わりでもある。

 

「……いえ……」

 

「そうかあ。ならいいんだ!」

 

 そう言って(きびす)を返そうとする彼に、俺は

 

「あの…!」

 

 止めた。

 

「ん?」

 

「トクナガさんは、理想だけで戦う人をどう思いますか…?」

 

 トクナガさんは静かに考え、しばらくすると、口を開いた。

 

「いいんじゃないか?」

 

「え……?」

 

「人ってのは、一人一人違うもんだ。だから、何を考えて、なんのために戦うか。それは理想だって戦う理由に入るんじゃないか?」

 

「…」

 

「その理想のために戦うってのは良い事だ。でも、それだけじゃ駄目だ」

 

「え……?」

 

「理想だけで戦うと、疲れちまうよ。だって、大きい夢なんだから」

 

「……」

 

「だから、小さい目標ってのを見つけること。これが一番大切だと思うぞ?」

 

「小さい目標……」

 

「……君、いくつだ?」

 

「…19です…」

 

「まだ人生始まったばかりじゃねぇか!だったらなおさらだ!」

 

「え……?」

 

「若いってことはそんだけ夢を見れる。小さい目標だっていくらでも見つけられる」

 

「俺の歳になるとな、そういう若い連中を見守ることが、生きる理由だからな」

 

「…そうなんでしょうか…」

 

「そうだ。過去の戦争を引き起こしたのは、お前やリナが生まれる前の人たちだ。歳食った連中はな、それを繰り返させないために語り継いでいるんだ」

 

「……」

 

「ムゲン君。理想があるならそれに突っ走れ!そして、どんな小さなことでも構わない。理想以外に戦う理由を見つけろ」

 

「戦う…理由…」

 

「俺が言ってる戦う理由は、戦闘だけじゃない。君が、これから生きていくうえで、()()という敵に立ち向かうための戦う理由を見つけるんだ」

 

「…人生…」

 

「人は、一人では生きていけないという言葉があってな。知ってるか?」

 

「……いえ…」

 

「人ってのは、必ずどこかで他の人を助け、助けてもらっているんだよ」

 

「だから、ムゲン君。君はもう少し人を頼ってもいいんじゃあないかな?」

 

「……」

 

 

 

 トクナガさんと別れた後、部屋に戻り、さっきまでの言葉を繰り返し聞き、考えていた。

 

 俺は……どうすればいいのだろう……。

 

 わからない……。

 

 まるで出口のない迷路を地図も持たず歩いているような気分だ。

 

「俺が……戦う理由……」

 

 ……考えれば考えるほど、わからなくなっていく。

 

 人は……いや、自分自身の存在価値を見つけるというのは……本当に難しい……。

 

 

24 完




今回登場したキャラです。

コードネーム:ダイチ・トクナガ(U.C.0079~0093)

年齢:48

性別:男

階級:技術少佐

説明

第00特務試験MS隊の整備長を務める人物。

過去については部隊のほとんどが知らないが、リナ・ハートライト技術曹長とは長い付き合いらしい。

常に笑顔を絶やさない陽気なおじさんで、部隊員からも整備の評判もよく、さらには人望も厚い。

そして、年齢層が低い部隊での保護者のような立ち位置にいて、常に皆を見守っている。

部隊長であるファングの部隊全員家族という言葉に共感し、この部隊に入ったというのはファングとトクナガでの秘密となっている。

なお、下の名前はダイチであるが、基本的には苗字であるトクナガで呼ばれる事が多い。

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