宇宙世紀0079.10.4 第00特務試験MS隊、ニューヤーク基地北部に位置する市街地の戦闘に参加。
戦果は、ムゲン機が著しい戦果を挙げた模様。
報告終了。
地上に降りた俺は、まず隊長機であるファングさんを確認後、レーダーで敵の位置を確認する。
「こちらムゲン、敵影なしです。どうしますか?」
ファングさんに無線を送る、するとファングさんは言った。
[分かった、少し前に出よう!全機、陣形を崩さず前へ前進!]
その言葉を聞き、他の小隊員もファングさんに続く。
俺も陣形を崩さず前進した。
すると、突然ファングさんの機体が止まり、しゃがんだ。
[レーダー前方に敵影2機確認した。まだこちらには気づいてないようだな…]
その言葉を聞き、道夜の機体が前に出る。
「道夜!何してるんだ!!!」
俺は叫んだが道夜はその言葉を無視し、前方の2機に攻撃を開始する。
道夜の突然の
[今だ!!!]
ファングさんが叫ぶ。
すると、俺以外の機体が2機を蜂の巣の如く射撃する。
[敵機の撃破を確認!射撃、止め!]
ファングさんの言葉と共に全員が攻撃を止める。
俺はそんな光景をただ見ていることしか出来ず、少しへこんでいると、ファングさんが察したかのように言った。
[ムゲン。最初はそんなものだから、気にしなくていい。お前はお前の戦いをしろ]
と、優しく言ってくれた。
俺はその言葉を聞き
「分かりました!ファングさん!」
と、頷きながら言った。
[ファングさん、前方から敵影4機、後方から敵影3機……囲まれてる]
と、道夜が言った。
[くっ…場所がバレたか…!各機自分の判断で敵を撃破しろ!いいか、一人で行動するな!]
[了解!!]
全員が散り散りになっていく。
俺も散開して敵を迎え撃った。
ザクが2機迫ってくる、1機はバズーカを持ち、もう一方はマシンガンを持っていた。
1機がマシンガンで牽制してくる。
俺は咄嗟にマシンガンをシールドでガードする。
その隙を見て、もう一方のザクが背後に回り、バズーカを放った。
バズーカは見事に俺の機体のバックパックに直撃し、バックパックから電気が走る。
「しまった!?」
俺はパニックになり、機体の制御ができず、機体が前のめりになる。
そこをすかさずザクがヒートホークを握り、止めを刺そうとしてくる。
「ダメなのか…俺は…!」
俺は覚悟を決め、目を瞑った。
そして、次の瞬間爆音が響き渡った。
「え…?」
目を開くと、奥のザクが的確な射撃により撃破され、横たわっている。
そして、ヒートホークを握ったザクは、それに気づき、背後を振り返った。
そして、無線が来て、無線の主は叫んだ
[今ですよ!!]
俺はその言葉で、ジムを起き上がらせ、ビームサーベルを引き抜く。
ザクがこちらを向き、ヒートホークを構えなおす。
一瞬も気が抜けない睨み合いが続く。このときだけは、無線の声すら聞こえず、ただ相手のザクとの睨み合いが続いた。
そして、俺の頭では、先に動いたほうが負ける、そんな言葉がよぎった。
暫く睨み合いが続き、遂に痺れを切らしたザクがヒートホークを持って突撃してくる。
そしてザクが大きく振りかぶったその瞬間を俺は見逃さなかった。
「この勝負、貰ったああああああ!!!!」
俺は、両手でビームサーベルを構えて、ザクのコックピット目掛けてビームサーベルで貫いた。
見事にビームサーベルはザクのコックピットを綺麗に貫いた。
ザクが動かなくなるのを見て、俺はビームサーベルを引き抜いた。
「やった…のか…」
ザクを倒した後、緊張の糸が切れたかのように、機体内の空調音が聞こえてくる。
そして、モニターに目をやると、遠距離用ライフルを持ったジムが立っていた。戦闘後に聞いた話だが、そのジムの名前は
「やりましたね!」
そんな丁寧な言葉遣いを聞いて気づく。声の主、ジムスナイパーに乗っていたのはユーリだった。
「倒せた…のか…」
まだ倒せた実感がわかなかったが、自分の手を見ると、凄く震えていた。自分が人を殺したからなのか、敵を倒せた喜びからなのか、それは分からなかった。
[スラスターがやられてるみたいですね。とりあえず、修理しましょう。今修理兵を呼びます]
そう言って、ユーリは無線を切った。
俺はコックピットの中で、少し考えていた。
「何故だろう…倒せたのに…怖い…」
俺は自分の手を思いっきり握った。人を殺してしまったそんな感情からなのか、自然と体が震えている。
待っている間俺は敵がレーダーにいないことを確認し、コックピットを開く。
すると待っていたのは、小さな子供だった。銃を構え、こちらを睨む。大体8才くらいの子だろうか
俺は少し焦ったが、少しの間が空いた後、その少年から話しかけてきた。
「おい、お前、ここで何してるんだ!」
「それはこっちの台詞だ!何でMSに乗ってき…!?」
言い切る前に銃口を向けられ、言葉を失ってしまう。どうやら俺には質問する権利はないようだ。
「機体が損傷して、動けないんだ。だから修理兵を待ってる」
それを聞いた少年は、少し考えた後、こう言った。
「お前…悪い奴なんだろ!!」
【悪い奴】。そんな言葉が頭に響いた。実際自分はどうなのだろう、と少し考えたが、こう言った。
「そうかもしれない…けど、お前たちに危害を加えるつもりはない。分かってくれ」
少年は、銃を降ろして、言ってきた。
「お前、名前は?」
俺は素直に名前を答えることにした。
「ムゲン・クロスフォードだ、お前は…?」
すると少年は黙り込んでしまった。
俺は察した、この子は名前がないのだと。
「…そうだな…お前は一人なのか?」
それを聞いて少し目つきがきつくなったが、素直に答えてくれた。
「…2人…弟と妹がいる…」
「…じゃあ、お前はお兄さんなんだな」
俺は少し考えた後この子に名前をつけてやることにした。
「お前の名前…俺が付けてもいいか…?」
少年は驚いていたが、少し考えた後、黙って頷いてくれた。
「ありがとう。…お前の名前は、ジェームスなんてどうだろう?」
ジェームスは頷いた後、笑顔でこう言った。
「…ジェームス…ジェームス…うん!いい名前だな…!」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
「今日から俺には名前があるんだ!ちゃんとお前じゃなく、ジェームスって呼んでくれよ!」
そんな嬉しそうな姿を見て、この笑顔を守りたいと心から思った。
「ジェームス…突然のことで理解できないとは思うが、今は戦闘中なんだ。俺の言葉が分かるなら、俺が居なくなっても絶対に建物から出るなよ!」
守りたいから、だからこそ強く言った。
ジェームスは少し驚いたが、頷いて言った。
「…分かった。けどさ、この戦いが終わったら、俺の兄弟にも名前を付けてやってよ!!」
俺は頷き、それを見たジェームスが喜んで機体を降りていく背中を俺は見送った。
しばらくすると、ホバートラックがやってきて、ジムの修理をはじめる。
[ムゲン、大丈夫か?]
その無線と共に目の前にジムが降下してきた。どうやら声の主は道夜のようだ。
「あぁ、大丈夫だ、何とか倒せた」
[そうか、よかった…なんだ!?]
突然空から爆弾の雨が降り注ぎ、ホバートラックが2機とも撃破される。
[…残念だが修理は終わりみたいだな、ムゲン]
爆風が消え去ると、見たことのない部隊章をつけた機体が3機立っていた。
[俺が前に出る、ムゲンは…っ!?お、おい!ムゲン、何をしてるんだ!!]
ジェームスたちは俺が守る、咄嗟にそう思った俺は敵に攻撃を仕掛けた。
「俺が相手になってやる!!!」
その言葉が通じたのか、相手のザクの1機が言った。
[そんなボロい雑魚で何が出来んだよ、こりゃ傑作だぜ!ハハハ!!]
その言葉で俺の頭の中は真っ白になり、ザクに向かって突進した。
「言いやがったな…お前!!!」
俺はすばやく懐に飛び込みザクの腕を切り落とす。
そして、ザクの腹部に蹴りを入れ、踏みつけながらこう言った。
「お前…こいつが雑魚だといったな…?その言葉はな…お前みたいな奴の事を言うんだよ!!!」
[て、てめぇ!!!殺してやる!!!]
ザクは起き上がろうとするが、踏みつけられている脚のせいで動くことが出来ない。
すると横からもう1機のザクがバズーカを放ってきた。
俺はシールドを構え、バズーカを難なく防いだ。
横のザクが動こうとした瞬間、ビームサーベルによりザクの背中が貫かれた。
[遅かったな…]
道夜の言葉と同時に、コックピットから脱出し逃げていく兵士が見えた。
俺はザクから脚をどかし、すかさずビームサーベルでザクの両足を切り落とす。言うまでも無く、ザクは戦闘不能に陥ってしまった。
[あと1機…だな]
道夜の言葉から、少し焦りを感じる。それほど強い相手なのだ。
相手のザクに目をやった。見た目は普通のザクとなんら変わりない機体だが、何とも言えぬ威圧感が俺達を飲み込み、圧倒する。
「くっ…なんだこいつ…!」
道夜も俺も動くことが出来なかった。
すると、相手のザクから無線が来て、こう言った。
「動かんのか、なら俺から行かせてもらうぞ!!」
そしてザクは俺を狙ってマシンガンを撃ってくる。間一髪、シールドで守ることが出来た。しかし次の瞬間、右側から強い衝撃が走り、機体が吹っ飛ばされてしまった。
「うわあああ!!!」
[ムゲン!!…ぐあっ!!]
道夜も、相手の動きについていくことが出来ない。
「くっ…このまま…負けるわけには…」
しかし、そうは言っても、先ほどの衝撃により機体の左腕が言うことを利かないのだ。まともに応戦することなど出来る筈も無かった。
すると、外から一人の影が視界に映る。ジェームスだった。
「やめろ!!ジェームス来るな!!!」
その言葉に気づいたザクがジェームスに照準を合わせる。
「っ…!やめろおおおおおおぉぉ!!!」
俺は、ジェームスをジムで庇うようにうずくまった。
射撃は外れ、近くの建物を燃やす。
俺はジェームスをコックピットの中に入れる。
「大丈夫か!?しっかりしろ!!」
ジェームスは震える手で俺の手をきつく握りしめ、怒りに震えながら搾り出すように言った。
「妹と…弟を…返せ…!!!」
建物に目をやると、無残にも小さな少年と少女が倒れているのが分かった。
「…すまない…ジェームス…」
「俺の…妹と…弟を…!!」
「…ジェームス…しっかりつかまってるんだぞ」
そう言って俺はジェームスに微笑む。
「…?…うん」
ザクに目をやると、道夜のジムのビームサーベルとヒートホークがぶつかり合って、戦っていた。
「道夜!下がってくれ!こいつは…俺がやる…!!」
[だが…!]
「いいから!道夜はファングさんを…!」
少し考えた後、道夜はザクとの間合いを取り、俺に言う。
[分かった、俺がファング隊長を呼んでくる…!]
そう言って、道夜はミデアに向かった。
「お前だけは…絶対に…!!!」
ザクのパイロットはその言葉を鼻で笑う。
[やれるものならやってみろ!]
俺はビームサーベルを持ち、ザクに切りかかる。
しかし、ザクは俺の攻撃を軽々とかわし、左腕を切り落とす。
「くそっ…!!」
[遅いな…遅すぎる…]
挑発するようにザクのパイロットが笑う。
俺は静かに動きを止め、目を瞑る。
ジムが動かなくなったのを見て、ザクのパイロットが言った。
[ふっ…負けを認めたか、ならば死ね!!!!]
その言葉と共にヒートホークを振りかぶった、その瞬間、俺はビームサーベルを引き抜き、ザクの胴体を半分にするように切り抜けた。
すると、綺麗に胴体が半分になる。
[ば、馬鹿な…?!何故俺が負け…る!?]
その言葉を最後にザクは爆発四散した。
ビームサーベルをバックパックにしまい、俺はため息をつく。
そして、震えるジェームスに言った。
「すまない…俺がもっとしっかりしてれば…!!こんなことには…!お前を悲しませることなどなかったのに…!!!」
自分を嫌になることは何度もあったが、今回はひどく自分を恨んだ。自分の力のなさに。
ジェームスは泣きながら言った。
「…俺は…どうすればいいんだ…?これから…教えてくれよ…ムゲン!」
その言葉が俺にきつく突き刺さる。
しばらく沈黙が続いた後、ファングさんたちがやってきた。
[作戦終了だ、全員帰還するぞ]
そうして、皆帰還しようとする背中に俺は言った
「皆、お願いがあるんだ…」
俺はコックピットを開け、ジェームスのことを話した。
「そうだったのか…辛かったな、ジェームス。…分かった。その妹と弟、そしてお前のために、ここに墓を立てよう。…こんなことでしか力になれなくてごめんな…」
そう言って、皆で二人分の小さな墓を作り、遺体を埋めた。
俺は二人に名前を付けた。弟のほうには
そして、ジェームスも部隊に連れて行こうとしたが、その時、ジェームスは言った。
「俺はいいよ。ムゲンたちに迷惑かけるのもいけないし…それに、この二人の面倒も見なきゃいけないから」
と、言ったその彼の瞳は、新たな決意を秘めていた。
こうして、ジェームスを残し、俺たちはミデアに戻ったが、俺の気持ちは、この日の曇り空のように曇っていた。
02 完
今回の登場キャラです。
名前:ジェームス
年齢:8
性別:男
説明
ニューヤーク市街地のスラムで生まれた少年。弟と妹がいた。
両親は彼らが生まれたあと戦争で亡くなった。
口調は子供らしさがあり、元気よく喋る。
性格は兄であるからか正義感や責任感の強い子である。