機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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02:初めての戦場

 宇宙世紀0079.10.4  第00特務試験MS隊、ニューヤーク基地北部に位置する市街地の戦闘に参加。

 

 戦果は、ムゲン機が著しい戦果を挙げた模様。

 

 報告終了。

 

 

 地上に降りた俺は、まず隊長機であるファングさんを確認後、レーダーで敵の位置を確認する。

 

「こちらムゲン、敵影なしです。どうしますか?」

 

 ファングさんに無線を送る、するとファングさんは言った。

 

[分かった、少し前に出よう!全機、陣形を崩さず前へ前進!]

 

 その言葉を聞き、他の小隊員もファングさんに続く。

 

 俺も陣形を崩さず前進した。

 

 すると、突然ファングさんの機体が止まり、しゃがんだ。

 

[レーダー前方に敵影2機確認した。まだこちらには気づいてないようだな…]

 

 その言葉を聞き、道夜の機体が前に出る。

 

「道夜!何してるんだ!!!」

 

 俺は叫んだが道夜はその言葉を無視し、前方の2機に攻撃を開始する。

 

 道夜の突然の強襲(きょうしゅう)で、前方の2機はパニックになっている。

 

[今だ!!!]

 

 ファングさんが叫ぶ。

 

 すると、俺以外の機体が2機を蜂の巣の如く射撃する。

 

[敵機の撃破を確認!射撃、止め!]

 

 ファングさんの言葉と共に全員が攻撃を止める。

 

 俺はそんな光景をただ見ていることしか出来ず、少しへこんでいると、ファングさんが察したかのように言った。

 

[ムゲン。最初はそんなものだから、気にしなくていい。お前はお前の戦いをしろ]

 

 と、優しく言ってくれた。

 

 俺はその言葉を聞き

 

「分かりました!ファングさん!」

 

 と、頷きながら言った。

 

[ファングさん、前方から敵影4機、後方から敵影3機……囲まれてる]

 

 と、道夜が言った。

 

[くっ…場所がバレたか…!各機自分の判断で敵を撃破しろ!いいか、一人で行動するな!]

 

[了解!!]

 

 全員が散り散りになっていく。

 

 俺も散開して敵を迎え撃った。

 

 ザクが2機迫ってくる、1機はバズーカを持ち、もう一方はマシンガンを持っていた。

 

 1機がマシンガンで牽制してくる。

 

 俺は咄嗟にマシンガンをシールドでガードする。

 

 その隙を見て、もう一方のザクが背後に回り、バズーカを放った。

 

 バズーカは見事に俺の機体のバックパックに直撃し、バックパックから電気が走る。

 

「しまった!?」

 

 俺はパニックになり、機体の制御ができず、機体が前のめりになる。

 

 そこをすかさずザクがヒートホークを握り、止めを刺そうとしてくる。

 

「ダメなのか…俺は…!」

 

 俺は覚悟を決め、目を瞑った。

 

 そして、次の瞬間爆音が響き渡った。

 

「え…?」

 

 目を開くと、奥のザクが的確な射撃により撃破され、横たわっている。

 

 そして、ヒートホークを握ったザクは、それに気づき、背後を振り返った。

 

 そして、無線が来て、無線の主は叫んだ

 

[今ですよ!!]

 

 俺はその言葉で、ジムを起き上がらせ、ビームサーベルを引き抜く。

 

 ザクがこちらを向き、ヒートホークを構えなおす。

 

 一瞬も気が抜けない睨み合いが続く。このときだけは、無線の声すら聞こえず、ただ相手のザクとの睨み合いが続いた。

 

 そして、俺の頭では、先に動いたほうが負ける、そんな言葉がよぎった。

 

 暫く睨み合いが続き、遂に痺れを切らしたザクがヒートホークを持って突撃してくる。

 

 そしてザクが大きく振りかぶったその瞬間を俺は見逃さなかった。

 

「この勝負、貰ったああああああ!!!!」

 

 俺は、両手でビームサーベルを構えて、ザクのコックピット目掛けてビームサーベルで貫いた。

 

 見事にビームサーベルはザクのコックピットを綺麗に貫いた。

 

 ザクが動かなくなるのを見て、俺はビームサーベルを引き抜いた。

 

「やった…のか…」

 

 ザクを倒した後、緊張の糸が切れたかのように、機体内の空調音が聞こえてくる。

 

 そして、モニターに目をやると、遠距離用ライフルを持ったジムが立っていた。戦闘後に聞いた話だが、そのジムの名前は()()()()()()()と言うらしい。

 

「やりましたね!」

 

 そんな丁寧な言葉遣いを聞いて気づく。声の主、ジムスナイパーに乗っていたのはユーリだった。

 

「倒せた…のか…」

 

 まだ倒せた実感がわかなかったが、自分の手を見ると、凄く震えていた。自分が人を殺したからなのか、敵を倒せた喜びからなのか、それは分からなかった。

 

[スラスターがやられてるみたいですね。とりあえず、修理しましょう。今修理兵を呼びます]

 

 そう言って、ユーリは無線を切った。

 

 俺はコックピットの中で、少し考えていた。

 

「何故だろう…倒せたのに…怖い…」

 

 俺は自分の手を思いっきり握った。人を殺してしまったそんな感情からなのか、自然と体が震えている。

 

 待っている間俺は敵がレーダーにいないことを確認し、コックピットを開く。

 

 すると待っていたのは、小さな子供だった。銃を構え、こちらを睨む。大体8才くらいの子だろうか

 

 俺は少し焦ったが、少しの間が空いた後、その少年から話しかけてきた。

 

「おい、お前、ここで何してるんだ!」

 

「それはこっちの台詞だ!何でMSに乗ってき…!?」

 

 言い切る前に銃口を向けられ、言葉を失ってしまう。どうやら俺には質問する権利はないようだ。

 

「機体が損傷して、動けないんだ。だから修理兵を待ってる」

 

 それを聞いた少年は、少し考えた後、こう言った。

 

「お前…悪い奴なんだろ!!」

 

【悪い奴】。そんな言葉が頭に響いた。実際自分はどうなのだろう、と少し考えたが、こう言った。

 

「そうかもしれない…けど、お前たちに危害を加えるつもりはない。分かってくれ」

 

 少年は、銃を降ろして、言ってきた。

 

「お前、名前は?」

 

 俺は素直に名前を答えることにした。

 

「ムゲン・クロスフォードだ、お前は…?」

 

 すると少年は黙り込んでしまった。

 

 俺は察した、この子は名前がないのだと。

 

「…そうだな…お前は一人なのか?」

 

 それを聞いて少し目つきがきつくなったが、素直に答えてくれた。

 

「…2人…弟と妹がいる…」

 

「…じゃあ、お前はお兄さんなんだな」

 

 俺は少し考えた後この子に名前をつけてやることにした。

 

「お前の名前…俺が付けてもいいか…?」

 

 少年は驚いていたが、少し考えた後、黙って頷いてくれた。

 

「ありがとう。…お前の名前は、ジェームスなんてどうだろう?」

 

 ジェームスは頷いた後、笑顔でこう言った。

 

「…ジェームス…ジェームス…うん!いい名前だな…!」

 

「喜んでもらえて嬉しいよ」

 

「今日から俺には名前があるんだ!ちゃんとお前じゃなく、ジェームスって呼んでくれよ!」

 

 そんな嬉しそうな姿を見て、この笑顔を守りたいと心から思った。

 

「ジェームス…突然のことで理解できないとは思うが、今は戦闘中なんだ。俺の言葉が分かるなら、俺が居なくなっても絶対に建物から出るなよ!」

 

 守りたいから、だからこそ強く言った。

 

 ジェームスは少し驚いたが、頷いて言った。

 

「…分かった。けどさ、この戦いが終わったら、俺の兄弟にも名前を付けてやってよ!!」

 

 俺は頷き、それを見たジェームスが喜んで機体を降りていく背中を俺は見送った。

 

 しばらくすると、ホバートラックがやってきて、ジムの修理をはじめる。

 

[ムゲン、大丈夫か?]

 

 その無線と共に目の前にジムが降下してきた。どうやら声の主は道夜のようだ。

 

「あぁ、大丈夫だ、何とか倒せた」

 

[そうか、よかった…なんだ!?]

 

 突然空から爆弾の雨が降り注ぎ、ホバートラックが2機とも撃破される。

 

[…残念だが修理は終わりみたいだな、ムゲン]

 

 爆風が消え去ると、見たことのない部隊章をつけた機体が3機立っていた。

 

[俺が前に出る、ムゲンは…っ!?お、おい!ムゲン、何をしてるんだ!!]

 

 ジェームスたちは俺が守る、咄嗟にそう思った俺は敵に攻撃を仕掛けた。

 

「俺が相手になってやる!!!」

 

 その言葉が通じたのか、相手のザクの1機が言った。

 

[そんなボロい雑魚で何が出来んだよ、こりゃ傑作だぜ!ハハハ!!]

 

 その言葉で俺の頭の中は真っ白になり、ザクに向かって突進した。

 

「言いやがったな…お前!!!」

 

 俺はすばやく懐に飛び込みザクの腕を切り落とす。

 

 そして、ザクの腹部に蹴りを入れ、踏みつけながらこう言った。

 

「お前…こいつが雑魚だといったな…?その言葉はな…お前みたいな奴の事を言うんだよ!!!」

 

[て、てめぇ!!!殺してやる!!!]

 

 ザクは起き上がろうとするが、踏みつけられている脚のせいで動くことが出来ない。

 

 すると横からもう1機のザクがバズーカを放ってきた。

 

 俺はシールドを構え、バズーカを難なく防いだ。

 

 横のザクが動こうとした瞬間、ビームサーベルによりザクの背中が貫かれた。

 

[遅かったな…]

 

 道夜の言葉と同時に、コックピットから脱出し逃げていく兵士が見えた。

 

 俺はザクから脚をどかし、すかさずビームサーベルでザクの両足を切り落とす。言うまでも無く、ザクは戦闘不能に陥ってしまった。

 

[あと1機…だな]

 

 道夜の言葉から、少し焦りを感じる。それほど強い相手なのだ。

 

 相手のザクに目をやった。見た目は普通のザクとなんら変わりない機体だが、何とも言えぬ威圧感が俺達を飲み込み、圧倒する。

 

「くっ…なんだこいつ…!」

 

 道夜も俺も動くことが出来なかった。

 

 すると、相手のザクから無線が来て、こう言った。

 

「動かんのか、なら俺から行かせてもらうぞ!!」

 

 そしてザクは俺を狙ってマシンガンを撃ってくる。間一髪、シールドで守ることが出来た。しかし次の瞬間、右側から強い衝撃が走り、機体が吹っ飛ばされてしまった。

 

「うわあああ!!!」

 

[ムゲン!!…ぐあっ!!]

 

 道夜も、相手の動きについていくことが出来ない。

 

「くっ…このまま…負けるわけには…」

 

 しかし、そうは言っても、先ほどの衝撃により機体の左腕が言うことを利かないのだ。まともに応戦することなど出来る筈も無かった。

 

 すると、外から一人の影が視界に映る。ジェームスだった。

 

「やめろ!!ジェームス来るな!!!」

 

 その言葉に気づいたザクがジェームスに照準を合わせる。

 

「っ…!やめろおおおおおおぉぉ!!!」

 

 俺は、ジェームスをジムで庇うようにうずくまった。

 

 射撃は外れ、近くの建物を燃やす。

 

 俺はジェームスをコックピットの中に入れる。

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!!」

 

 ジェームスは震える手で俺の手をきつく握りしめ、怒りに震えながら搾り出すように言った。

 

「妹と…弟を…返せ…!!!」

 

 建物に目をやると、無残にも小さな少年と少女が倒れているのが分かった。

 

「…すまない…ジェームス…」

 

「俺の…妹と…弟を…!!」

 

「…ジェームス…しっかりつかまってるんだぞ」

 

 そう言って俺はジェームスに微笑む。

 

「…?…うん」

 

 ザクに目をやると、道夜のジムのビームサーベルとヒートホークがぶつかり合って、戦っていた。

 

「道夜!下がってくれ!こいつは…俺がやる…!!」

 

[だが…!]

 

「いいから!道夜はファングさんを…!」

 

 少し考えた後、道夜はザクとの間合いを取り、俺に言う。

 

[分かった、俺がファング隊長を呼んでくる…!]

 

 そう言って、道夜はミデアに向かった。

 

「お前だけは…絶対に…!!!」

 

 ザクのパイロットはその言葉を鼻で笑う。

 

[やれるものならやってみろ!]

 

 俺はビームサーベルを持ち、ザクに切りかかる。

 

 しかし、ザクは俺の攻撃を軽々とかわし、左腕を切り落とす。

 

「くそっ…!!」

 

[遅いな…遅すぎる…]

 

 挑発するようにザクのパイロットが笑う。

 

 俺は静かに動きを止め、目を瞑る。

 

 ジムが動かなくなったのを見て、ザクのパイロットが言った。

 

[ふっ…負けを認めたか、ならば死ね!!!!]

 

 その言葉と共にヒートホークを振りかぶった、その瞬間、俺はビームサーベルを引き抜き、ザクの胴体を半分にするように切り抜けた。

 

 すると、綺麗に胴体が半分になる。

 

[ば、馬鹿な…?!何故俺が負け…る!?]

 

 その言葉を最後にザクは爆発四散した。

 

 ビームサーベルをバックパックにしまい、俺はため息をつく。

 

 そして、震えるジェームスに言った。

 

「すまない…俺がもっとしっかりしてれば…!!こんなことには…!お前を悲しませることなどなかったのに…!!!」

 

 自分を嫌になることは何度もあったが、今回はひどく自分を恨んだ。自分の力のなさに。

 

 ジェームスは泣きながら言った。

 

「…俺は…どうすればいいんだ…?これから…教えてくれよ…ムゲン!」

 

 その言葉が俺にきつく突き刺さる。

 

 しばらく沈黙が続いた後、ファングさんたちがやってきた。

 

[作戦終了だ、全員帰還するぞ]

 

 そうして、皆帰還しようとする背中に俺は言った

 

「皆、お願いがあるんだ…」

 

 俺はコックピットを開け、ジェームスのことを話した。

 

「そうだったのか…辛かったな、ジェームス。…分かった。その妹と弟、そしてお前のために、ここに墓を立てよう。…こんなことでしか力になれなくてごめんな…」

 

 そう言って、皆で二人分の小さな墓を作り、遺体を埋めた。

 

 俺は二人に名前を付けた。弟のほうには()()()()、妹のほうには()()()と名づけた。

 

 そして、ジェームスも部隊に連れて行こうとしたが、その時、ジェームスは言った。

 

「俺はいいよ。ムゲンたちに迷惑かけるのもいけないし…それに、この二人の面倒も見なきゃいけないから」

 

 と、言ったその彼の瞳は、新たな決意を秘めていた。

 

 こうして、ジェームスを残し、俺たちはミデアに戻ったが、俺の気持ちは、この日の曇り空のように曇っていた。

 

 

02 完




今回の登場キャラです。


名前:ジェームス

年齢:8

性別:男


説明

ニューヤーク市街地のスラムで生まれた少年。弟と妹がいた。

両親は彼らが生まれたあと戦争で亡くなった。

口調は子供らしさがあり、元気よく喋る。

性格は兄であるからか正義感や責任感の強い子である。

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