機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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20:未来を歩んで

『父さん…母さん…俺は…うわあああああああ!!!!』

 

 あれからまだ1年もたっていない。

 

 よく考えると、どうしてこの道しか選べなかったのだろうか…。

 

 本当は楽になったほうが良かったのではないだろうか…。

 

 でも違っていた。いつの頃か母さんが言っていた言葉があった。

 

『人生にね、間違いなんてものは何一つ無いんだよ?』

 

『そうなの?』

 

『そうよ。だって、どんな道が示されようとも、どんな道が出来ていようとも、結局はその判断を下すのは自分自身』

 

『……』

 

『たとえそれが間違いであろうと、正しい道だとしても…その道は、全て間違いなんかじゃないのよ』

 

 

 

 視界がだんだん晴れていく…。

 

 俺はモニターを見つめ、奴と対峙する。

 

「……シゼル・クライン…!!!」

 

[ムゲン・クロスフォード…!!]

 

 自然とレバーを握る力が強くなる。全ての元凶…。父さんと母さんを殺すように仕向けさせたのも…ペイルライダーをおもちゃのように使ったことも…全て奴がやったことだ。

 

 だからこそ…奴を許すことは出来ない。

 

「絶対にぃいいいい!!!!」

 

 俺はビームダガーを構え奴に斬りかかる。

 

 奴は軽々とビームサーベルで受け止め、鍔迫り合いの形になった。

 

「ぐっぐおおお!!!」

 

[くっ…!!]

 

「お前を…俺がぁ…!斬る!!!」

 

[出来るものならやってみろ!この死に損ないがああああああああああ!!!!]

 

 シゼルは間合いを取り、ビームライフルを撃ってくる。

 

 俺はそれを回避しながら、スモークバルカンを直撃させ、斬りかかった。

 

 しかし、それは驚くべき速さで回避されてしまう。

 

「早い…!!!!」

 

[ふんっ!!心の変化はあっても…腕はあの時と同じか!!!所詮雑魚は雑魚なんだよ!!!]

 

「何を!!!」

 

 サーベルとダガーが激しくぶつかり合い、離れ、それが何度も弧を書くように火花を散らしあう。

 

「シゼルゥウウウウウ!!!」

 

[ムゲェエエエエエエエンン!!!!]

 

 俺は、ダガーを空中に投げ、カートリッジを持ち、ダガーの柄に装着させ、ダガーを持ち直す。

 

[ほぉ…リロード式か…ふふふ…面白いなぁ…!!]

 

 奴がビームサーベルを持って切りかかってくる。

 

 俺はそれを回避し、次に動くであろう位置にダガーを投げつけた。奴の反応なら…避けれない!!!

 

[ぐぅおっ!!!]

 

 案の定、奴の右腕にダガーが刺さる。俺は奴の腕に刺さったダガーを引き抜くと共に右腕を切り落とした。

 

[ちっ!!!右腕なぞ…くれてやるわ!!!]

 

「強情だな…!!本当はつらいんだろう!?」

 

[お前と一緒にされては困る。…お前のような…場数を踏んでいないお前とは!!!]

 

「なんだとぉ!!!」

 

 俺はビームダガーに力をこめ、奴の左足を切り裂く。

 

 その反撃といわんばかりにピクシーの右足が切り落とされる。

 

「くっ…!!!まだまだああああ!!!!」

 

[…楽しいなぁ…そうだろぉ?ムゲンよぉおおおおおおお!!!!]

 

 今一度ダガーとサーベルが激しくぶつかり合い火花を散らす。

 

[こんなに心昂ぶる戦いは久しい。…こんなに…こんなに心が躍る戦いは…久しぶりだ!!!!]

 

 奴の言葉には何故か、楽しげに聞こえる。

 

「…戦いは遊びじゃない…!!!」

 

[人はなぁ…どんな場所でも遊び心がなければ生きてはいけんのだよ]

 

「戦争は遊びでやっちゃいけないことだ!!!それぐらい…分かるはずだぁ!!!!」

 

[分かる分からないじゃない…。人間の心理だ。だから楽しむ!!!それだけなんだよ!!!]

 

「そんな…そんな理由で…!!!失った奴が何人いると思っているんだ!!!!

 

[知らんな!!そんなこと!!!]

 

「ジェームスの弟や妹は!?研究所のあの優しいおっさんは!?そして…グレイは……!!!!お前の遊びで殺されたのか!!!!」

 

[お前にとって大切でも、俺にはどうも思わん!!!そういうものだろう!!]

 

「なんだと…!!!」

 

[人間は…結局自分と自分の親しい人意外は何も興味が無い。実際そうだろう?お前も!!!]

 

「な、何…?」

 

[さっきのジオン兵もそうだ。知っているからこそ銃口を向けなかった。お前は向けられなかった!!]

 

[だが…あれが見知らぬ奴だったら…?迷わず切り殺していたよな?]

 

「…そ、それは…!」

 

[いいんだ…それで…。それが正しいのだ。人間はそういう生き物なんだ]

 

「……」

 

[少し昔話をしてやろう]

 

「な、なんだと!?」

 

 

 

[…地球に人類が増えすぎて、コロニーに移民を送った宇宙世紀が始まって、もう80年になろうとしている]

 

[地球もまだ統治されていない頃だ。昔の国と国は、経済的、軍事的にも争ってばかりだったそうだ]

 

「……」

 

[考えても見ろ…。人間が自分以外のために動く生き物ならば、そもそも戦争など起こらんだろうさ]

 

[それはいいと思うか?普通はそうだろう。『皆が他人を思いやれる人が増えればいい』。などと妄言を言っている奴がいるだろうが…そいつぁ違う]

 

[他人を思いやっても意味が無い。そう思うのは何故か…?分かるか?]

 

「……」

 

[たとえば、ある船が海に沈没した。漂流した板が流されていて、2人の人間がいるとしよう]

 

[その人間が、自分の命を投げ出してまで他人を助けようとするものなどいない。そして、2人で争いが生まれる]

 

[『俺は譲る』とか言う偽善者がいるだろうが、それは自分の命が本当に危機に瀕していないだけ…]

 

[人間、自分の命が危機に瀕すると、絶対に他人を思いやる余裕など生まれない。そもそも人を助けるのは義務でもなんでもないからな]

 

[人間は他人を助けたいと思わせるものは何か…それはな、人間にある【()()】だ]

 

「…感情…」

 

[そうだ。これがあるから人間は人間と争うことを心理的に嫌い、人間を殺すことに抵抗が生まれる]

 

[いいか?ムゲン…平和な世界が造りたいとか考えているならやめておくんだな]

 

「何…?!」

 

[不可能なんだよ…ましてやジオンと連邦が手を取り合うなんてもっと無理だ]

 

「そんなことは…!!」

 

[やってみなくてもわかる…。人間に感情というものがある限り、絶対に戦争、差別が生まれる]

 

「…それは…それは…」

 

 だんだん息が苦しくなる。当然といえば当然だ。奴に俺の全てを否定されているのだから。

 

[だが…その世界を造るのは簡単だ。人間が感情を捨てる…それだけで平和な世界できる]

 

「…」

 

[考えてみろ、感情がない。つまり、人を殺せといわれたら殺す。感情を持たないから自ら争いの火種をまかない]

 

[ほら…幸せな世界だろう?なぁ…ムゲンよ!!!]

 

「…やめろ…!!!」

 

[何…?]

 

「やめろよ…!!!!!」

 

 苦しい胸を押さえながら叫ぶ。

 

「何が…。何が平和だ…!!!それは…平和じゃない!!!!」

 

[ほぉ…どこが平和じゃあないんだ?争いが無い。立派な平和じゃあないか]

 

「確かに争いは無い…だが、それ以上に失っちゃあいけないものがあるんだよ!!!」

 

[俺は知らん…。そんなものを知らん]

 

「なら教えてやる!!!」

 

 叫びながらビームダガーを構え、奴に切りかかる。

 

 何度目かのサーベルとの衝突。

 

「人間が感情を失えば…確かに争いも貧困も差別も生まれないかもしれない…!!だが…!!」

 

「俺が夢見た…いや…俺が掴む平和はそうじゃない!!!!」

 

「皆が…笑っている…!!そんな世界なんだ!!!」

 

「ジオンだ連邦だなんか関係なしに、笑っている…!!そんな世界!!!」

 

 次第に力が強くなる。

 

[くっ…!!]

 

「父親と母親…そしてその子供が楽しそうに遊ぶ!!それをみて両親が笑う!!!そんな…そんな当たり前の世界!!!」

 

[知らん…!!俺はそんな世界…知らない!!!!!]

 

「一時の平和と言うかも知れない…けど…!それでいいんだ!!!人間は自ずと楽なほう、辛くない道を選ぶ!!!」

 

「なら…!!!手を取り合える日が来たっていいじゃないか!!!願ったって良いじゃないか!!!!」

 

 俺のダガーは奴のコックピットを掠める。

 

「くっ…!!!」

 

[黙れ…!!そんな世界は…!来ない!!永遠にぃいいいいいい!!!!]

 

 奴の機体のカメラアイが赤く光る。機体の廃熱部分から煙が吐き出される。

 

[その世界は俺の知らない世界だ!!俺は…信じない!!!!]

 

 奴はビームサーベルでピクシーの頭部を切り落とす。

 

「くっ…!!」

 

 モニターが砂嵐になる…。と思った。前を見ると、しっかりと奴がモニターで捕らえられている。

 

[…俺は…!!!そんな世界を見なかった!!いや!!!みれなかった…]

 

「何…?!」

 

[俺も…お前みたいに素直なときがあった]

 

[その町で平和に暮らせればそれでいい…そんな世界が続けばいい]

 

[ずっと願っていた…だが…そんなものは長続きしなかった]

 

[…連邦軍が町にやってきて、占領したんだ…。反抗した奴は全員銃殺された]

 

[…それからというもの…毎晩のように連邦の屯所には悲鳴と笑い声、そして銃声が響き渡っていたんだ」

 

[一度…奴らの屯所を覗いたことがあった。思わず目を背けてしまった。あまりにも惨かった]

 

[女は犯され、そして、用が無くなったから銃で撃ち殺したであろう死体が転がっている]

 

[その時、一人の女と目が合った。…きっと順番でやられるのは分かっていながら、そこに立っていた。逃げようとすれば殺されていたから…]

 

[そして、その時の少女の怯える瞳を俺は……忘れることが出来ない…]

 

「……」

 

[そんな世界を見てきたから、お前の両親が死んだとき、実は何の想いもおきなかった。町で…慣れてしまったからな…]

 

「…!!」

 

[…だから…そんな世界を来ることを俺は望んじゃあいない!!そして…今はお前を殺すことが…一番なんだ!!!!]

 

 

 

「なら……受け止める…!」

 

[何…!?]

 

「お前のその縛られた心を…!俺が全部受け止める!!」

 

[お前に…!お前なんかにわかるものかああああ!!!]

 

 奴がビームサーベルで右腕を攻撃する。

 

 俺はそれを回避し、奴の右腕からビームサーベルを吹き飛ばし、左足で奴の腹部を蹴り飛ばす。

 

[うぐあああ!!!!]

 

 奴は吹き飛ばされ、態勢を立て直すのがやっとだった。

 

[はぁ…ハァ…!!!]

 

「…お前を地獄から解放してやる!!」

 

 俺はビームダガーを構え、奴目掛けて突撃する。

 

「これで…終わりだ!!!シゼル!!」

 

[ふっ…]

 

 ビームダガーは、奴のコックピットに突き刺さる。そしてその瞬間、奴の機体からバルカンが放たれ、コックピット付近に直撃する。

 

「くっ!!!」

 

 そして、もう死んでいるはずのシゼルが、機体の右腕で、ピクシーの右腕を掴み、離さない。

 

「何っ!?」

 

[…ただじゃ…死なん…お前も…一緒だ…!!!]

 

「は、離せ!!この野郎!!!」

 

[い、嫌だ…ね…]

 

 機体から音が聞こえてくる。

 

【自爆シーケンス起動】

 

「何!?自爆…?!」

 

 一瞬でも油断した自分を悔いた。

 

「くそっ!!!はなれろ!!!!」

 

 無理やりでも離そうとするが、奴の執念が機体に宿ったのか、一切動かない。

 

「くっ!!!脱出出来るか…?!」

 

 コックピットハッチのボタンを見ると、先ほどの【ムゲンギア】での戦いで破壊されてしまっていたようだ。

 

 つまり…俺に残された脱出方法は無くなった。

 

「…本当に…終わり…なのか…」

 

 人間は、死を垣間見る瞬間、人生が走馬灯のように流れていくというのは本当らしい。

 

 懐かしくも狂おしい、そんな自分の人生はここで幕を閉じるのだ…。

 

【自爆2分前…】

 

 奴の機体から聞こえる死のカウントダウン。

 

「…ピクシー…お前と戦えてよかった…」

 

「…ずっと…お前は何も言わずに従ってくれてた…今回も…俺の意志に答えてくれたんだろう?」

 

「リナや皆と会いたかったけど…お前と戦場で死ねるなら…それはそれで本望だ…」

 

 するとどうしたことか、コックピットハッチが静かに開いていく。

 

「…!!…ピクシー…?」

 

 しかし、機械は何も喋らない。ただ何も言わず…。

 

「…そうか…これが…お前の答えなんだな…」

 

「…ありがとう…相棒…。一緒に戦えて…幸せだったぜ…」

 

 俺はそう言って、コックピットから抜け出した。

 

[ムゲン…ア…リ…ガ…ト]

 

 ムゲンには聞こえぬ小さな音…。しかしそれは確かに数々の戦いを共に生き抜いてきた相棒からの感謝の言葉だった。

 

「……ピク…シー…!!!」

 

 俺が安全な場所まで離れるのを見届け、奴の機体と共にピクシーも爆発する。

 

「……!!!!」

 

 

 

 その時見たあの光…忘れるはずが無かった。グレイの時と同じ、とっても…暖かい光…。

 

「そうか…これが…あいつの心だったんだな…」

 

 こうして暖かな光が消えるまで、俺はただ宙をさまよっていた。

 

 

 

[ムゲン!!ムゲン!!!!]

 

 聞きなれたリナの声…振り向くと、ボロボロのジムに乗ってリナが探しにきていた。

 

「…俺は…ここに居るよ…リナ…!」

 

 俺は手を振り合図した…。

 

 リナに手を引かれ、機体に乗り込む。

 

「リナ…どうしてこんな無茶を…」

 

「だって…ムゲンが消えちゃう気がして…」

 

 そんな言葉を聞いて、俺は微笑みながら言った。

 

「俺はどこにも行かないよ…お前のそばにずっと居る」

 

「…うん。分かってる…もう…一人にしないでね」

 

「あぁ…もちろんだ…。だってお前のことが…す、好きだからな…!」

 

 自分がずっと言えなかった感情…それを後押ししてくれたのは、色々な人と出会って強くなった自分と、過去の自分と対峙して、いつもずっと見守ってくれた相棒が居たからなんだと思う。

 

「…うん!!!」

 

 リナは、今まで以上の笑顔で俺に笑ってくれた。

 

「帰ろう…俺達の家…皆…待ってる」

 

「…そうだね…。帰ろう…手をつないで…ね?」

 

「あぁ…迷わないようにゆっくりな」

 

「うん…!」

 

 

 

 宇宙世紀0080.01.01 15:00 サイド6ランク政権の仲介により、月面のグラナダにおいて、

 

 地球連邦政府とジオン共和国臨時政府ダルシア政権(ジオン公国は「ジオン共和国」となり存続)の間に終戦協定(グラナダ条約)締結。

 

[一年戦争(ジオン独立戦争)]終結。アンマンにおける予備交渉のあと、グラナダにおいて正式調印が行われた。

 

 

 

20  一年戦争編 完


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