機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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17:掴めなかった望み

 宇宙世紀0079.12.?? ソロモンが陥落してから二日後…だんだんと迫る決戦を前に、心を躍らせるものがいた。

 

「……ムゲン・クロスフォード…」

 

 自分の機体なのだろうか見上げながら微笑むその男。

 

「……司令。調整は如何ほどに…」

 

 その部下であろう人物が男に問う。

 

 男は不敵に笑った後、言った。

 

「…最大だ。機体の限界まで上げろ」

 

「…!で、ですがそれではあなたの身が…!」

 

 男を案じて彼は言ったのだろう。だが、その言葉が届くには彼の心は狂いすぎていた。届くはずが無かった。()()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけしか見えない男には…。

 

「…構わん…。限界まで上げろ」

 

「り、了解です…」

 

 彼は渋々頷き、踵を返し歩いていった。

 

「…元々は…違っていたのだがな…」

 

 男は小さくつぶやく。それが何を意味しているのかは分からない。男は小さなため息をほっとはいた後、口を開いた。

 

「…宇宙世紀…。そもそもそれが間違っていたのだろうか。…ジオンや連邦が争う事で生まれた憎しみ…悲しみ…差別…」

 

「虐げられる者が居て、虐げるものが居た…それはこの戦争から始まったことじゃあない…」

 

「では…俺がどうしてこの軍に入ったのか…」

 

 男には分からなかった。全てを崩した奴が現れてしまったことで…全てが壊れてしまった。

 

「彼だけのせいではないな…。だが…ならなぜ俺は彼を恨んでいる…?この身が壊れそうなほど恨んでいるのは何故だ…?」

 

 今の男の頭では考え切れなかった。だから考えることをやめようとする…。いつもならここで終わっているはずだった。

 

「……そうだ…奴が…俺には…奴が…いいや…この話はよそう…」

 

 そういって咳払いをした後、話を続ける。

 

「俺が軍に入ったのは……ただの正義感だったか…」

 

「俺が住んでいた町では争いや差別、そんなものは日常茶飯事だった。俺も被害者の一人だったからな」

 

「争うこと、差別…そんなものは気にならなかった。だが、連邦の兵士が町を占領してから…」

 

「連邦に歯向かえば銃で撃たれることが日常的になり、兵士は女を毎晩屯所へ連れて行く。連れて行かれるのを拒否すれば、即刻銃殺」

 

「…あの町の凄惨な光景とあの時感じた火薬と血が混ざり合ったような匂い…。あれをずっと嗅いでいたらきっと人は狂ってしまうだろう」

 

「俺はその町で育ち、考えた。どうすればこんな腐ったことが変えられるのかを…」

 

「そして結論に至った。俺が連邦のトップになって腐った奴らを叩き直して全て変えると」

 

「それからの俺は必死だった。ただトップになることだけを夢見て、連邦軍に入隊し、まずい飯を食わされ、血の滲む様な訓練。訓練が終われば死ぬように床に就く。そんな生活だった」

 

「そんな苦行を強いられても、あの時の俺は折れなかった。ただトップになるというフワフワしたものにすがって必死に喰らいついていたからな」

 

「苦労の末に俺は【()()()()】と呼ばれるレビル派の高官と出会い、右腕として働くようになった」

 

「…グレイヴの右腕となってからは、もはや表沙汰に出ることは無くなった。そして、裏での暗殺の指揮、得体の知れない研究の数々の主任として」

 

「…そういえば…今度出撃させるペイルライダーのパイロットも俺が主任だったな…」

 

「そんなある日、()()()M()S()()()()()()()()()()()()()を暗殺するように仕向けることになった。あまり乗り気ではなかったが、ジオンが殺したように仕向けさせた」

 

「その光景を見てグレイヴは嘲笑(あざわら)っていたか…。俺にとってはなんとも思わなかったが。彼にはとても刺激的だったのだろう…」

 

「そういえば…あの時からか…あの少年の瞳に憎しみというものが宿ってしまったのは…」

 

「ムゲン・クロスフォード。…彼と戦場で出会い、刃を交えて俺は再び理解した。あの時やはり殺しておいたほうがよかったと…」

 

「それが…彼にとっても…俺にとっても幸せだったのだろうと…」

 

「…………次の戦い…必ず俺と奴のどちらかが死ぬ…」

 

「…何故だか分からない…。長年の勘だろうか…」

 

「…生きてきた上でどんな奴にも言われた言葉があった…」

 

『お前…機械みたいだな』

 

「機械みたいといわれて、あまり自覚は湧かなかった」

 

「でもよく考えるとそうかもしれない。人の下で働き、ただ言われたことをこなす…それを苦痛とも思わない」

 

「…だが、俺はそれでも立ち止まってたらいけなかった。この先も…止まれない…」

 

 ……それから行く刻がたった後…。

 

 

 

「…シゼル様…出撃なさるのですか…?」

 

「ああ…もう逝かなければ」

 

「…ご無事で…」

 

「…お前はもう故郷にもどれ。こいつの修理は要らない」

 

「えっ!?」

 

「…二度は言わんぞ。その頭が吹っ飛ばされたくないなら二度と俺の前に出てくるな!!クズが!!」

 

 男はあえて強い口調で言った。そうでもしないと動かない頑固な奴だと知っているから。

 

「…そこまで言うなら…生きろよ…シゼル・クライン」

 

 そうぽつりと呟いて歩いていった。

 

「……さぁ…ハデスジャッジメント…!行くぞ!!!」

 

 

17 完





機体名  ハデス・ジャッジメント
正式名称 HADES judgment

型式番号  RX-80-HA〔ju〕
生産形態  試作機
所属    ??
全高    18.2m
頭頂高   18.0m
本体重量  43.7t
全備重量  45.6t
出力    2,100kw
推力    65,000kg
センサー  7,000m
有効半径

武装    ジャッジメントビームサーベルx2
      長距離射程型ビーム・ライフル
      実弾型スナイパーライフル(typeNemesis)
      膝部コールド・ブレード×2
      シャドウ・クナイx2
     
搭乗者   シゼル・クライン

機体解説

地球連邦軍の高官であるグレイヴの右腕であるシゼル・クライン大佐が駆る機体を、ア・バオア・クー攻防戦へ備えての強化を行った機体。

目を覚ましたムゲンによって頭部を破壊された後、ハデスシステムを強化、ペイルライダーに搭載されているもの以上の性能が発揮できるようになった。

武装も一新されており、ペイルライダーエクセキューションに搭載されたジャッジメントビームサーベルを始め、クロノード機のゲルググが持つ長距離射程型ビーム・ライフル

さらには、ジムスナイパーネメシスが持つ実弾型スナイパーライフルも搭載されている。

そして、AEWFCが装備する脚部コールド・ブレードに加え、ザク・インヴィジブルが扱うシャドウ・クナイを装備するなど、あらゆる試作型武装が盛り込まれている。

なお、この武装データは全て、権力を行使して取得したものであり、性能は従来のものとまったく変化はない。

本機は見て取るとおり、全距離での対応が可能な万能機へと変化している。

本機は、ソロモン攻略戦でどちらの軍にもつかず参戦し、瞬く間にザク・インヴィジブルと、クロノードが駆るザクを破壊している。

その圧倒的な力は、全ての者に裁きを加える。

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