宇宙世紀0079.12.24 18:10 第3艦隊、サイド4の残骸を楯に、ソロモン至近距離まで到達。先鋒のパブリク突撃艇部隊発進。ビーム撹乱幕を展開。
18:35 第3艦隊から、MS隊、戦闘機隊発進。
18:50 第2連合艦隊、サイド1の残骸を楯に、新兵器のソーラー・システム展開。ソロモンゲート、ソーラー・システムの照射により融解。
19:10 連邦軍第2連合艦隊、MS隊を先発させつつソロモンに接近。
俺は補給を受けるため一度、グロリアスに帰還し、機体の中で補給が終わるのを待っていた。
グレイの事を伝えるべきか…なんて事を考えながら…。
[ムゲン。補給終わったよ!]
「…あ、あぁ…うん」
[どうしたの…?]
心配そうなリナの声。そういえば、まだ記憶が戻ったことを誰にも伝えてなかったな…。
「…いや…なんでもない。それで、このビームダガー…」
[あ、気づいた?新しい武装なんだけど]
「何が違うの…?」
少し考えた後、リナが答える。
[えっと、カートリッジから供給されるエネルギーを調整して…]
あまりにも分かりづらいので、黙っていると
[…あ…。まぁ、簡単に言うと、自由に刀身を伸ばしたり縮めたり出来るようになった!…ってことかな…]
と、分かりやすく教えてくれた。…察してくれてよかった。
[後…ね?]
「何だ?」
少し恥ずかしそうに言うリナ。
[その…この機体さ…]
「うん?」
[この子の名前なんだけど…]
「うん。ピクシー・ハートライ…」
[それ…。恥ずかしいからさ、名前変えて欲しいなぁ…って…]
「あ…ご、ごめん…」
[…いや…こっちこそ…]
互いに謝りあう。こんな光景、前にも見たことがあったな…そんなことを思い出した。
「ふふっ…」
そんなことを思い出したら少し笑ってしまう。
[な、何がおかしいの?]
「あー…ごめん。そうだな…名前か…」
しばらく考えるがしっくりとした名前が出てこない。
「…【
ふと、そんな言葉が漏れ出す。
[ミラージュ…?]
「…【
[ピクシー・ミラージュ。…いいね…!かっこいい!!]
[じゃあこの子の名前はミラージュ!…分かった?]
「あぁ…分かった。…そろそろ行くか…」
[気をつけてね…ムゲン]
「…ありがとう。リナ」
[…あれ…]
何かに気づくリナ。何があったのだろう。
「どうした…?」
[いやね、何かムゲンがさっきと違う感じがして…]
「どういうこと?」
[えっと…記憶があったときのムゲンみたいだった…って思って。…ま、まぁ…気のせいだよね…]
と、少し残念そうに言った。…やっぱり記憶が戻ったこと伝えておけばよかったかな…と、少し後悔する。
「気のせいだよ。じゃ、行って来る」
[あ、うん。頑張ってね!]
「了解だ!ムゲン・クロスフォード、ピクシーミラージュ…出るぞ!!!」
カタパルトから射出された俺は、ファングさんたちと合流を目指す。
「…急ごう…!」
俺はブースターを吹かし、移動する。
しばらくすると、レーダーに機影が見えてくる。識別は連邦機とジオン機。
[…う、うわあああああ!!!]
1機のジムがザクに切られようとしている。俺は居てもたっても居られなくなり、ビームダガーを引き抜き、ザク目掛けて突進する。
[な、何だ!?ガ、ガンダム!?]
「やらせない!!!」
俺はジムを庇うように立ちふさがった。
[…ガ、ガンダムだ…。…助かった…!]
「退け!命を無駄にするな!!」
俺の言葉を聞き、ジムは一言礼を言って撤退していった。
[相手がガンダムだろうが、こっちは数で圧せる!行くぞ!!!]
1機のザクがマシンガンを放つ。俺はスモークバルカンでそれを相殺する。
[何!?スモーク!?]
俺はビームダガーの出力を少し上げた後、両手で構え、目をつぶる。
スモークが晴れ、ザクがヒートホークで切りかかろうとするのが感覚でわかった。
その瞬間、俺はビームダガーをザク目掛けて斬りつけた。
ザクは真っ二つに斬られ、爆散する。
[く、くそ!!怯むな!!!攻めろ!!]
そう叫びながらザクが特攻してくる。だが、それは俺の目の前で止まった。
一発の弾丸がザクのコックピットを貫く。
撃った主が誰かはなんとなく予想はついていた。
[ムゲンさん。ぼーっとしてたら死にますよ?]
「…すまない。ユーリ」
[まったく…後でお菓子おごって貰いますからね]
「…現金な奴だな…まあいいさ。まずはこいつらを片付ける!」
まずはユーリがスナイパーライフルで1機のザクの足を止め、続けて俺がビームダガーでザクの頭部を切り落とす。
そして、止めに、ビームダガーでコックピットを貫いた。
「…次だ!!」
[援護は任せてもらいますよっと]
そう言いながら彼女はどんどん敵の足を止める。
[くそっ!なんてスナイパーだ!!]
[!?はや…うわあああああああああ!!!]
ユーリに気をとられている隙に、俺は1機ずつ確実に仕留めて行く。
「後何機いる…!?」
[そうですねぇ…あと10機くらいですかね。弾薬はありますし、頑張って動いてくださいね]
「…相変わらず…人使いが荒いな…」
と、小さくつぶやいた後、俺は敵に斬りかかる。
[何か言いました?]
「気のせいだろう…っ!」
[だといいですけどね]
ユーリとの連携で、あっという間に10機片付けられる。
レーダーを確認しても、敵影は見当たらない。
「…終わったか…」
[みたいですね。さて、先に進みますか]
「そうだな…」
俺達はファングさんに合流するために移動を開始する。
[そういえば、ムゲンさん]
「何だ?」
[記憶治ったの、皆に言ったんですか?]
「えっ…!?」
なぜユーリは記憶が治ったのを知っているのだろう…。
「な、何で知ってるんだ?」
[さっきと雰囲気としゃべり方が違うので]
普段何も考えてなさそうで意外に人をしっかり見ているユーリを、少しだけ尊敬した。…ほんの少しだけ。
「…あぁ…戻ったさ…全ての記憶が…」
[どうです?記憶が戻った感想は]
「…嫌なことも多いが、それよりも見えたものがあった」
[見えたもの…?]
「自分がしてきた過ちだったり、人の暖かさだったりってものが見えた」
[へーそーなんですかー(棒)]
ほとんど棒読みなユーリ。一瞬機体ごと蹴り飛ばそうとも思ったが、やめておくことにする。決して後の仕返しが怖いからではない。そう決して。
「俺は連邦とジオンどちらにも行ったから分かる。たぶん、分かり合える世界は来る」
[…ジオンと分かり合うなんて無理なんじゃないですかねぇ…]
「何でだ?」
[…あの頭の硬い連邦の上層部が「はいそうですか」で頭を下げるわけがないじゃないですか]
「…まぁ…そうだが…」
[まぁ、でも…いいんじゃないですかね。夢くらいは持ってても]
「…そうだな…」
[先を急ぎましょう]
「あぁ…」
しばらく移動していると、連邦軍の識別反応がレーダーに映った。
「ファングさん!!」
[ムゲンか?!丁度いい!手を貸してくれ!]
「どうしたんですか?」
[数が多くてな、道夜とフユミネだけじゃ足りないんだ。すまないが手を貸してくれ]
「了解です!ユーリ!行くぞ!!」
[言われるまでもないんですがねぇ…]
俺はビームダガーを引き抜き、2機のザクをまとめて切り伏せる。
[!!…ムゲンか!?]
「待たせたな!道夜!」
[…遅かったな]
その道夜の言葉には普段と違う何かを感じた。とても嬉しそうな…そんな感じの。
「ユーリ、援護を頼むぞ!」
[任せてください。道夜も居ることですし。久々に撃ちますよー]
そう言ってスナイパーライフルを構えるユーリ。
「俺はフユミネさんの所へ向かう。ここは任せた!」
[…任せておけ。…そういえば…ずっと前もこんな別れ方をしたな…]
「…その話は後にしよう」
[分かってる]
[生きろよ…ムゲン]
「そっちもな。道夜」
俺はブースターを起動させ、フユミネさんの所へ急いだ。
[…はっ!!]
フユミネさんは鮮やかに敵を倒していく。まずビームガンで敵を貫き、続けて背後から迫る敵をマシンガンで的確に撃ち抜いていく。
だが、4機の機体がフユミネさんを囲む。俺はビームライフルを構え、照準を合わせる。
「…頼む…そのまま動くなよ…!」
1機のザクがヒートホークを振り下ろそうとしたとき、俺はビームライフルのトリガーを引いた。
「いっけぇぇえええええ!!!!」
放たれたビームはザクのコックピットを見事に貫いた。奇跡的だ…。
[む……。ムゲンか…助かったぞ]
「大丈夫ですか?」
[あぁ、問題ない]
そう言いながらもフユミネさんはザクと戦い続ける。
「手を貸します!」
[必要ないが…まぁいいだろう。頼むぞ]
「…素直ですね」
[素直じゃ駄目か?]
「いいえ…。援護します!」
俺はビームライフルを構え、ゆっくりと照準を合わせる。さっきよりうまく当てることはできないだろう。ならば、牽制でもと。
俺はビームライフルを慎重に撃つ。
慎重に撃ったはずなのに、ビームは一発も敵に当たらなかった。
[…ちゃんと狙ってるのか?ムゲン]
「狙ってます!!でも当たらないんです!」
[…そ、そうか…]
「ビームライフルは駄目だ!俺にはこいつがある!」
そう言って俺はビームダガーを1本引き抜き、出力を上げる。
すると、ビームの刀身が伸びた。これじゃもはやビームサーベル…なんて事はリナには言わないでおこう。
「何にせよ…今は使える武装だ!」
俺はビームダガーで横なぎに斬り払った。
そして、ザクが3機まとめて真っ二つになる。
[…ムゲン…やはりお前は格闘のほうが性に合ってるんじゃないか…?]
「…そ、そうですね…」
[さて…残るは1機…]
前を見ると、見たことのある機体がいた。
「こ、こいつは…!」
[…まったく…またこいつの相手か…]
[…ムゲン、お前とこいつはつくづく縁があるようだな…]
「…あまり嬉しい縁じゃないですね…こいつとは…」
そう、俺たちの前に立っている機体。それは、改修されたペイルライダーだった。
「…フユミネさん…こいつとは俺が決着をつけます…下がっててください!」
[一人でやる気なのか?]
「…はい…。だから下がってください」
[…分かった。任せたぞ]
そういってジム・コマンドが後退する。
「…久しぶりだな…ペイルライダー…。とはいっても、もうパイロットは変わってるんだったな…」
『…アソボウヨ』
「何…!?この声はパイロットの声なのか…?!」
それにしては機械的な声だ…あまりにも人間のような言葉では…。
そんなことを考えていると、ペイルライダーはビームサーベルで切りかかってくる。
俺はそれをビームダガーで受ける。
「くっ…!こいつ…前より強くなってる…!!」
当然といえば当然だが、あのビームサーベルではないのは一瞬で分かった。それが幸いだったかもしれない。
『…タノシモウヨ。モットアソボウヨ』
「ペイルライダー…お前…!」
俺はビームサーベルを吹き飛ばし、間合いを取る。そして、ビームライフルを構え、射撃するが…。
ペイルライダーは素早い身のこなしで、回避する。
「くっ…どうする…」
少し考えていると、戦艦の残骸が宙をさまよっているのを見つける。
俺は、ひとまず残骸に身を隠すため、後退する。しかし、そうはさせまいとペイルライダーが追ってくる。
「ちっ…!ピクシーに追いつけるなんて…!」
『マッテヨ、アソボウヨ』
不気味な声が機体の中で響き渡る。俺はどうしてしまったんだ。
俺は不意に反転し、ビームダガーでペイルライダーを切り裂こうとする。
しかし、それは回避され、ペイルライダーは零距離で180mmキャノンを放とうとした。
俺は、機体を無理に動かし、回避したが、そのためか、足の関節から電流が流れる。
「くっ…!」
奴と戦って5分くらい経っただろうか…突然ペイルライダーのカメラアイが緑色に戻り、動かなくなった。
「…HADESの声…だったのか…?そうか…きっとそうだったんだな…ペイルライダー…」
長くここに居ると、シゼル専属の部隊がこいつを回収しに来るはず。面倒なことを避けるため、俺はその場から後退した。
宇宙世紀0079.12.24 19:30 公国軍、MS部隊、艦艇を呼び戻し、水際作戦を展開。ソロモン総司令官ドズル・ザビ、MA、MA-08ビグ・ザムで出撃。
20:20 連邦軍MS隊、ソロモン内に突入成功。
20:25 公国軍、グラナダ基地よりソロモン支援艦隊を発進させる。
20:40 ソロモン総司令官ドズル・ザビ中将、ソロモン放棄を決意。
20:55 連邦軍作戦司令官、マクファティ・ティアンム提督戦死。
ティアンム提督が亡くなったこともあったためか、連邦軍は破竹の快進撃でソロモンを攻略していく。
それに負けじとジオンの新型MAを駆るドズル・ザビが応戦する。
こんな事をしても、何も変わらないのに。人が死んでいくだけなのに…。
そのころ俺達はグロリアスに帰還し、2度目の補給を受けていた。
「…まだ…戦いは終わらないんだろうか…」
[知らん。そんなことは俺に聞かないでくれ]
補給を受けている間、俺と道夜はそんな話をしていた。
[道夜機出撃できます!]
[…了解。八雲道夜…出るぞ]
[先に行くぞ、じゃあな]
「…あ、あぁ…」
そう言って道夜は出撃して行った。
[ムゲン。もう少しで修理終わるよ]
「…分かった」
俺はしばらく目を瞑り、考え事をすることにした。
俺がずっと忘れていた記憶。取り戻すことはできた。それは嬉しい。だが、でも…心のどこかで、それでも何か悲しいものを感じていた。
理由は…たぶん、グレイのことだろう。
「…グレイ……お前は…」
彼が語った夢…そのときの瞳を思い出すととても心が苦しくなる。力強く、楽しそうで…でも、少なくとも無かったあの悲しげな瞳を…。
[ムゲン…?]
「…?!…あ…?どうした…?」
[ご、ごめん…驚かせた…?]
リナの心配そうな声が無線越しからも伝わってくる。俺は彼女を安心させるように言った。
「あぁ…別に大丈夫だよ…」
[そう…?なら…いいんだけど…]
「それで?俺を呼んだって事は何かあるんだろう?」
[あ…そうだった。えっと、補給が終わったって事を報告したかっただけだよ]
「お、そうか…。分かった。出撃する」
[気をつけてね]
「もちろんだ。ムゲン・クロスフォード、ピクシーミラージュ。出るぞ!」
そう叫び、機体を動かそうとした時だった。唐突に艦内に無線が響き渡る。
[皆聞いてくれ!!!俺たち第00特務試験MS隊は現在の作戦であるソロモン攻略戦への介入をしない!!いや…する必要が無くなったというべきだな]
そうしてファングさんが次に口を開くまでは、俺もリナですら言っている意味が分からなかった。
[この戦い、俺たち連邦軍の勝利に終わる。だから、もう無駄に戦うな!失うな!!!この戦いで…何も失わせるな……!]
彼の言葉…その言葉には、色々な感情が詰まっていた。
[…聞こえたな?全機…帰還しろ!!]
彼の一声で、リナたち整備兵が忙しそうに行動を始めるのを、俺はただ機体のモニターで呆然と見つめていた。そして、一つ頭に浮かんだ言葉があった。
『俺は何の役に立っている…?誰の役に立っている…?……俺はいったい何のために戦っている…?』
そんな言葉が頭の中でグルグルと回り続けている。
……突然モニターの左側が眩しく光る。
思わず手で覆ってしまうほど…。
だが、その光を見るまでに時間は要らなかった。
…地球では見慣れた星がそこにはあった。
「……」
モニターに目をやると、誰もがその光に唖然としている。
……その光は、あるいは戦い疲れたものたちを優しく包み込み、あるいはこの戦いで消えていった者たちを悼む光であり…それは万人に平等に与えられる。
そのときだけは、誰であろうがその光に心奪われ…自分が自分でいれる証……。
そんな暖かい光は、俺たちを見守ってくれている。
16 完
今回登場したミラージュの設定です。
機体名 ピクシー・ミラージュ
正式名称 PIXY Mirage
型式番号 RX-78-XX〔Mi〕
生産形態 ワンオフ機
所属 第00特務試験MS隊
全高 19.2m
頭頂高 18.3m
本体重量 35.5t
全備重量 38.5t
出力 1,440kW
推力 70,500kg
センサー 6,000
有効半径
武装 頭部バルカンx2
ミラージュサーベルx2
ビームライフル
エッジナイフx8
Eパックx8
搭乗者 ムゲン・クロスフォード
機体解説
ピクシー・ハートライトの装甲や、武装の追加などをし、ソロモン攻略戦から参戦したムゲン・クロスフォード少尉の専用機。
武装は、近接寄りの武装で固められている。本機に搭載されている2本のビームダガーは、出力を調整することで、ビームの刀身を伸ばしたり、縮めたりすることが可能な武装。
さらには、機体への負担を無くすために、ダガーの柄にEパックを装着する、ジム・コンバットカスタムのサーベルの方法を採用している。
考案者は、ムゲン少尉の専属整備兵であるリナ・ハートライト曹長。