機動戦士ガンダム虹の軌跡   作:シルヴァ・バレト

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14:宇宙へ ―意志を引き継いで―

 宇宙世紀0079.12.4 第30特別遊撃部隊は、ジオン公国の重要拠点であるソロモンへの召集が掛けられ、宇宙へ上がることとなる。

 

「と、言うわけで…俺達の部隊第30特別遊撃部隊は軍の上層部によって正式的な部隊になった」

 

「そんなわけで俺達の部隊は今後行われるであろう大規模な作戦に参加するため、宇宙(そら)に上がる」

 

「そのためにまずは、マスドライバー基地に向かう必要があるんだが…おい、カカ…」

 

「ここからだと遠いが、中東にあるアデン基地と呼ばれるジオン管轄の基地がある。そこのHLVを使えばいいだろう」

 

「…そうか…今居る場所がニューヤーク付近だ…そこから中東のアデンまではこの輸送機でもだいたい5日間くらいはかかるか…」

 

「どうするかね?クロノード君よ」

 

「…よし、それで行こう。全員が輸送機に乗り込んだら移動を開始する。以上だ!!」

 

 全員が司令室から出て行く。そして、俺も静かに司令室を後にした。

 

 

 

 司令室を出ると、クロノードが、小さなボードとにらめっこをしているのが目に入る。

 

「どうしたんですか?」

 

「うん?あぁ、ムゲンか。何、メンバー確認をしていたんだ」

 

「メンバー…ですか」

 

「あぁ。ここの部隊の連邦軍のメンバーと、ジオン軍のメンバーを全員確認していたんだ」

 

「どうしてそん…」

 

「まあ、色々とあるのさ。そんなことより、移動を始めたら航行中は地上に降りれないが、準備はいいのか?」

 

 言葉を返そうとしたが、彼に遮られた。そして、俺は少し戸惑いながら言葉を返す。

 

「俺は大丈夫です」

 

「そうか。んじゃあ、自分の部屋で仮眠でもとって来るといい。少しは寝ておかないと、いざと言うとき何もできないからな」

 

「了解です」

 

 彼に一度お辞儀をした後、俺は自分の部屋に向かった。

 

 

 

 部屋に入り、灯りをつける。そして、ベッドに腰を掛け、周りを見渡す。

 

 部屋は静かで、目を瞑ると自然と眠くなってしまうほどだった。

 

「…寝ようかな…」

 

 そんなことを考えていると、突然部屋にノックの音が響き渡る。

 

 誰だろうと思いながらドアを開けると、そこにはいつものうるさいカカサがいた。

 

「よぉ!どうせ一人で寂しいかと思ったから会いに来てやったぜ!どうだ?嬉しいだろう!」

 

「…え…っと」

 

「言葉が出ないほど嬉しいのか、そうかそうか、じゃあお邪魔するぜ!」

 

 そう言って許可も取っていないカカサは俺の部屋に入って床に座り、俺に言う。

 

「おいムゲン!茶をくれ、茶を!!」

 

「…」

 

 一瞬この馬鹿をぶん殴って追い出そうとも思ったが、結局何をやっても戻ってくるな。と思った俺は、一息ため息を吐いた後ドアを閉め、お茶の用意を始める。

 

「少しは気を遣えないのか…?」

 

「んー?何を言ってるんだムゲン君。俺は()()()()()って言っただろう?だから気を遣う必要なんかないのサ」

 

「…」

 

 全力で殴りたい衝動を抑え、俺は黙ってお湯を沸かす。

 

「さて、クロノード君は忙しいみたいだし、ここで少しやることをやらせてもらうかねぇ」

 

 そう言ってカカサは机に色々な資料を広げ、確認している。何を書いてあるのかは俺にはまったく分からなかった。

 

 ふと、一枚の資料が偶然自分の足元に落ちた。俺はそれを拾い上げ、目で読み始める。

 

「…これは…」

 

 俺が資料を読んでいるのを見たカカサは、驚くべき速さで俺が持っていた資料を奪い取った。

 

「おっと、それ以上はいけないなぁ。人の情報を見るのは良くないって、それくらいできるだろう?これ以上見るなら、情報料を払ってもらうよ?」

 

 口調はいつもと変わらないものの、目は本気だったので、すぐに気がついた。これはまずい、と。

 

「…ご、ごめん…」

 

「さっきの情報は忘れてくれるね?忘れなかったら、大変なことになるんだぞ。たとえば、これから3日間足をタンスの角にぶつけてしまうとか…分かったね!?」

 

「え…あ…うん」

 

「よしよし…ところでお茶はまだかね?」

 

「え?あ、ごめん」

 

 ポットをみると、すでに湯気が昇っていた。俺は火を消し、お茶の葉が入った急須にお湯を入れる。

 

「よし、出来たよ」

 

「おう、君は優秀な人間だな。まあ、俺ほど優秀な人間は居ないけどな!だいたい3位くらいか…いや、4位…」

 

「…あの…」

 

「ん?何かねムゲン君よ」

 

 俺の過去について聞こうと思った。しかし…

 

「俺の…」

 

「君の情報は何もない。俺の財布の中身くらいないね」

 

「そうですか…」

 

 あまりにも冷たい反応をされて、少し気分が滅入った。そんな姿を見たカカサが言う。

 

「あーそうそう。一つだけあったな。とはいっても、10円くらいの価値にしかならん奴だけどな。…いや、5円…いやいや…2円…」

 

「教えてください!!俺に…その情報を…!」

 

 食い気味に迫る俺に少し驚きながら、カカサは答えてくれた。

 

「本当にいいのか?1円にも満たない価値だぞ?」

 

「何でもいいから教えてください!自分の過去が…俺は知りたい!!」

 

「…わーったよ…まったく…そんなに叫ばないでくれ。うるさいから。五月の蝿みたいに」

 

 いつもうるさいのはどっちだという言葉は、胸の中で秘めておくことにする。今さえぎったら何も教えてはくれないだろうし。

 

「ムゲン君。君の前に居た部隊の名前を教えてあげよう。そこの部隊は、連邦上層部から「モルモット部隊」と呼ばれている部隊なんだ」

 

「…モルモット…?」

 

「そうさ、MSの試験運用や、データ採取。大規模な作戦ではいつも最前線。そんな部隊だ」

 

「そこの部隊には、基本的に新型のMSが配備されず、ただデータを収集することだけを目的とされている」

 

「それじゃあ…修理とかは…」

 

「あー…まあ、そこは大丈夫だ。その話はタンスにしまっておくとして。いや、クローゼットでもいいぞ?はたまたスーツケースでも」

 

「そんなことはいいとして、その部隊の名前は…」

 

「…」

 

「【()0()0()()()()()M()S()()】って言うのさ。どうだ?いかにもって感じだろう?」

 

 名前を聞いた瞬間、何故か懐かしい感じがした。理由は分からないが、ずっと前に聞いたことのある名前…

 

「…そうですか…ありがとう」

 

「おう。別に1円の価値もないから、今回は10円で我慢してやろう。あーむしろ100円でもかまわんぞ?」

 

「え…」

 

「なんて、冗談の冗談の冗談だ」

 

 少し困惑する俺を見て、少しあきれながらカカサは言った。

 

「つまり、冗談ってことだ」

 

「…はあ…」

 

「あー…ほんと、クロノード君みたいに頭がカッチカッチの奴だなぁ…少しはやわらかくすれば?この俺みたいにサ!」

 

 とか言って、頬を伸ばして「ビローン」とか言っているカカサ。…なんかムカつく。

 

「さて、じゃあ情報も教えたし、やることやったから帰って寝よう。じゃ!」

 

 そう言って颯爽と俺の部屋を出て行くカカサ。俺は唖然としながら、ドアが閉まるまでその場に立ち尽くしていた。

 

「…なんだったんだ…」

 

 それからは、何の問題もなく輸送機は俺達を乗せ航行した。

 

 

 

 宇宙世紀0079.12.9 第30特別遊撃部隊は中東のアデン基地付近に近づいていた。

 

「さて、ここからはこの輸送機は別の部隊に譲渡して俺達はMSでアデン基地に向かう。子供達と女性はここで他の地上部隊に任せる」

 

 俺達は司令室でクロノードの作戦を一通り聞いている。俺はその時、ただただ嫌な胸騒ぎがするのを必死に抑えていた。

 

「さて、今回は作戦という作戦はない。なんせ俺達はジオン軍なんだから。小隊に分ける必要もない。さぁ、皆!宇宙(そら)へ上がるぞ!!」

 

「おー!!!!」

 

 全員が歓喜の声を上げる。当然といえば当然なのだろうか、もともとジオン軍は宇宙移民の人たちだから、故郷に帰れるのは嬉しいのだろう。

 

「よし、全員MSに乗り込め!あと、整備兵はパイロットと同乗してくれ!以上だ!!」

 

 その言葉と共に、全員が急いで格納庫へ向かった。

 

 俺も歩いて格納庫へ向かう。

 

 格納庫に着くと、すでにMSがどんどん出撃しているのが目に入った。

 

 俺はピクシーに乗り込み、システムを起動させる。

 

「…行こう、ピクシー…」

 

 俺はピクシーを動かし格納庫を出た。

 

 

 

[全機揃ったな。よし、移動を開始するぞ]

 

 そうして、クロノードの機体が歩き出した。それに続いて多くの機体が歩き出す。俺も遅れをとらぬように機体を動かした。

 

 しばらくすると、大きな発射台が目に入る。あれがたぶんHLVの発射台なのだろう。

 

[…止まれ]

 

 急にクロノードが全員を制止させる。俺の嫌な胸騒ぎが当たらなければ良いのだが…

 

[どうしたんだい?クロノード君よ]

 

[…基地の様子がおかしい…]

 

[隊長…!レーダーに反応…!連邦軍です!!!]

 

[何…!?]

 

[連邦がどうしてここに居るんだよ!!!]

 

[ちっ…これはやっちまったな…。すまん、クロノード。俺の情報収集不足だった。こんな状況も見分けれないとは…]

 

[気にするな。もうそんなこと慣れたさ。さて…囲まれている以上は、前にいくしかないな!!!]

 

[さて…全機!あのHLVのところまで強行突破作戦を行う!!!いいか!一機でも多くHLVにたどり着くんだ!!!!]

 

 その言葉を皮切りにクロノードが戦陣を切って突撃する。

 

 嫌な胸騒ぎはこれだったのだと気づいた。俺はクロノードを追うために機体を動かす。

 

[さぁて…。こうなったらヤケだ!!!俺だってやってやる!!!!]

 

 一人の兵士が連邦兵に切り込んだ。すると、後ろを歩いていたザクが次々に連邦機へ攻撃を始める。

 

[何をしている!!!HLVのところまで…]

 

[隊長、俺達は大丈夫です!隊長は、精鋭の奴らを引き連れてHLVへ!!!!]

 

[なんだと!?]

 

[ここぐらい…っ!かっこつけさせてください!時間稼ぎぐらいはしてっ…!!みせます!!!…ぐあっ!!!]

 

[だめだ!!!皆宇宙へ行くんだろう!!!]

 

[隊長…俺達…隊長に従ってきて正解でした。最後はこんな派手な戦いになるなんて!!!…うおっ!!!]

 

[だめだ…だめだ!!!!皆で…]

 

[クロノード君…行くんだ。ムゲン、お前もだ]

 

「そんな…!俺だって戦います!!!」

 

[だめだ。味方の誠意を無駄にしたいのかい?それほど君の器は小さかったか?]

 

 彼の言葉に一理あった。この状態で戦ったら勝ち目はない。それでも彼らは俺達のために戦っている。

 

 それを無駄にしないためにも…

 

「…くっ…。分かった…」

 

[ムゲン?!お前は裏切るのか!?]

 

[違う…!クロノード…!!]

 

[…だったら俺は…]

 

[残るなんていうなら君を全力でぶん殴るけど構わないかね?クロノード君よ]

 

 口調は普段と変わってはいない。しかし、カカサの言葉は本気だというのが痛すぎるほど伝わった。

 

[…くっ…すまん…。みんな…!]

 

[隊長…謝らないでください。俺達は地上に残されたときから覚悟は出来ていました。だから、謝る必要なんてありません!!]

 

[…お前ら…!]

 

[行くぞ!HLVで既にグレイが準備しているはずだ!!!]

 

「…了解!!!!」

 

[行くんだ、クロノード。振り向かず、俺達は宇宙(そら)に帰る!!]

 

[あぁ…行くぞ、カカサ!!ムゲン!!!背中は…任せた!!!!]

 

[勿論だとも。さぁ、行くぞムゲン!!!!]

 

「あぁ…分かった!!!」

 

 俺はビームダガーを引き抜き、ジムを切り裂く。そして、手前のガンキャノンをカカサがヒートサーベルで貫く。

 

[もう少しだ…!急げ!!!]

 

[隊長!!!]

 

[グレイか?!何だ!!!]

 

[HLV発射準備完了です!!!いつでもいけます!!!]

 

[よし、分かった!!!すぐ向かう。 聞いたな、二人とも!行くぞ!!]

 

「了解!!!」

 

[おうよ!!!]

 

 俺達は敵を倒しながらHLVに向かった。

 

 そして、HLVの前にたどり着くと、連邦の制服を着た人が手を振っていた。おそらく彼がグレイだろう。

 

[ここに機体の収納を!!!]

 

[ムゲン、お前は右のHLVを使え。そしてグレイと共に乗ってくれ]

 

「え…?」

 

[急で悪いがここでお別れだ。俺達はジオン軍に戻る。そして、お前達は連邦軍に戻るんだ]

 

「そんな…!」

 

[分かってくれ…!]

 

[別れは悲しいが、今は時間がない。ムゲン、お前にデータを送った。後でお前のとこの整備兵に渡すんだ]

 

「…え?」

 

[じゃあ、また会おう。次回は戦場でな。その時は容赦はしないぜ?あー…少しはしてやらんでもないぞ?]

 

「…分かった」

 

 カカサとクロノードが機体を格納するのを見たグレイは

 

[隊長!HLV発射させます!!!また…お会いしましょう!]

 

[了解だ…また会おう]

 

 そして、HLVは宇宙を目指して上っていった。

 

 俺は機体をHLVに格納し、HLVに乗り込む。

 

 

 

「準備はいいですか?ムゲンさん!」

 

「いいですよ!」

 

「了解です!首の骨折れないように気をつけてくださいね!!!」

 

 すると、大きな地響きと共に上からものすごい圧がかかる。

 

「うぐぐぐぐっ!!!!」

 

「ぐっ……!!!!」

 

 そして、しばらくすると、その圧は消えた。そして、窓を見ると、地上ではまだ特別遊撃部隊の面々が連邦軍と攻防を繰り広げていた。

 

 その姿をただ見ている事しかできなくて、俺は涙が頬を伝う。

 

「くっ…うぅ…!!皆…!!!」

 

「…仕方ないんです…。皆の意志を継いで、僕達はに行くんです。隊長だってそうしたはずです…」

 

「…そう…だね…」

 

 しばらくすると、パイロットスーツに着替えるように言われ、スーツとヘルメットを着用した。

 

 そして、ついに地球を離れ、俺は宇宙に上がる。

 

 それから間もなく。とある人物から通信が入った。

 

[こちら第00特務試験MS隊の隊長、ファング・クラウド。ムゲン・クロスフォード、グレイ・シュタイナー、聞こえているな?]

 

 その声はとても懐かしく感じる。だが、しっかりと思い出す事はできない。

 

「聞こえています」

 

[よし、二人とも居るようだな。これより、俺達の部隊が回収を行う。ポイント8000まで移動を頼む]

 

「了解!!ポイント8000ですね?」

 

[あぁ、そこで俺達の艦と合流だ]

 

「了解です!それでは、後ほど!」

 

 そして、通信が終わるとグレイはこちらを向いて言った。

 

「あのう…。僕、操縦とか慣れてないんで…お願いできますか?」

 

 少し呆気にとられたが、俺は快く頷いて言う。

 

「分かった。ポイント8000だったね?」

 

「うん。すまないね」

 

「気にしないでくれ」

 

 俺は操縦席に座り、HLVから切り離された小型艇を操縦する。

 

 座標を修正し、ポイントを8000に指定し、移動を開始した。

 

 30分くらい移動しただろうか、ポイント8000に到着する。すると、大きな戦艦が目に入った。

 

「…あれが…」

 

「大きい…!」

 

 俺達二人は、ただあの大きな戦艦を見つめていた。

 

 

14 完




今回登場したキャラ設定です。


名前:グレイ・シュタイナー

年齢:14

性別:男

主な搭乗MS:ジム

階級:二等兵

説明

第30特別遊撃部隊に所属しているパイロット。

物心ついたときから病弱で、その代償としてニュータイプ的な勘の鋭さを持っている。

しかし、戦闘については絶望的であり、本人もあまり戦闘を好んではいない。

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