宇宙世紀0079 12.02 あの作戦の後、スレイヴ・レイス隊は地球連邦軍でお尋ね者として追われる身になった。
それは、レイスに保護されている俺も例外ではない。そんな俺たちは、帰る家も無く、ただただ放浪する身になっていた。
そして、そんな日の朝、俺たちは、簡易テントに招集をかけられたのだった。
「はい注目!」
ダイバーさんの言葉で全員の視線が彼女に向かう。
「これで私たちは晴れてお尋ね者ってワケね。無線を傍受した感じじゃ、生死不明扱いだけど、追撃が掛かるのは時間の問題ね」
「何より、グレイヴと、あの蒼いジムが諦めるとは思えないわ」
あの時見た蒼い機体、俺には見覚えがあった。ずっとそれが俺の胸の中で引っかかっている。
「ってことでまずは足を手に入れなくちゃね。船は遅いし、海の上じゃ逃げ場もないわ。北米沿岸の基地で、ミデアを拝借しましょう」
作戦の概要を説明し終わったダイバーさんは、トラヴィスさんにアイコンタクトを送ったのか、トラヴィスさんが口を開いた。
「んじゃあ、レイス共、その基地に向かうとするか!」
「了解です!」
俺はピクシーに乗り込み、システムを起動させる。
全員が機体に乗りこみ、北米沿岸の基地へ向けて移動を開始した。
移動している途中、俺は頭の中であの蒼い機体について考えていた。
奴と俺は一体どんな関係だったのか、どうしてあいつを見た瞬間胸騒ぎがしたのか、分からない。
[…ゲン!ムゲン!!]
トラヴィスさんの声で正気に戻る。
「あ、どうしましたか?」
[もし何か来ても油断はするなよ?]
「え…あ、はい」
[それで、お前さん…何を考えてたんだ?]
俺は少し考えた後、思い切って彼に聞いてみた。
「隊長…。あの前の作戦にいた蒼いジムって一体何なんですか…?」
少しの間が空いた後、トラヴィスさんは口を開く。
[お前さんがどうしても知りたいと言うのなら、先に言っておきたいことがある。世の中には思い出さなくて良い過去ってものはあるってことだ]
[お前さんと蒼いジムの関係が良い過去でなくても…それでもお前さんは聞きたいか?]
彼は、俺を察して言ってくれたのだろう。だが、今の自分にはどんなことでも知りたかった。自分の過去がどんなものかを。
「俺は…知りたい。たとえどんな過去であろうとも、知らないというのが一番辛いんです。だから…お願いします」
[…分かった…]
[簡潔に言っておこう。あの蒼いジムには、お前さんは乗ったことがある]
「どういうことですか…?」
[あの日は、ジャブローの夜間偵察をしていた時だったな。ジオンの部隊を見つけ、戦闘になっているときに、お前さんの乗ったあの蒼いジムが現れたんだ]
[そして、瞬く間にジオンの機体を3機落とし。俺たちを狙ってきた…]
「…そんな…事が…」
[お前さんは、その時少しずつ自分を思い出し、仲間とともに帰ろうとしたとき、あの蒼い機体に似た機体が来てな
[お前さんは、今乗っている機体でその蒼い機体を撃退したんだ]
記憶のなかった俺は、とてもショックな気持ちになった。レイスの皆を狙ったという事が分かってしまい、俺は自分自身を責める。
「隊長…申し訳ないです…」
[何、お前さんが悪いわけじゃない。あれは仕方なかったんだ…]
「でも…隊長たちを傷つけたことには変わりありません…」
[んー…なんだ。まあそんな自分を責めなさんな。俺たちレイスはそういうことやって拾われた奴らの集まりだからな]
彼の優しさが身に染みた。こんな自分でも許してくれるのなら、俺は彼らのために役に立とうと心に誓う。
そして、しばらくすると連邦軍の基地が見えてきた。
すると、ダイバーさんが口を開く。
[いい?あたしがうまいことやるから。余計な事言わずに黙ってるのよ?]
するとトラヴィスさんは少し呆れながら言った。
[へいへい]
俺たちは静かに彼女を見守ることにする。
[ハァ~イ、基地司令さん。ちょっとお願いがあるんだけどぉ~]
これにはさすがの俺も驚いた。なんか、うまいことやるってそういうことなのか…と。
司令は彼女の言葉を聞いていないのだろうか。もしくは無視しているかのどちらかだろう。
ダイバーさんは続けた。
[あたしたちの部隊ぃ、困ってるんですぅ~]
[…ひでぇ]
ボマーさんの口からそんな言葉が漏れ出した。
すると、ダイバーさんの誘惑(?)のせいかMS隊が出撃してきてしまう。
[げっ!]
[ダイバーの口調が怒りを買ったか?]
[んなわけあるか!情報がまわってんのよ!]
そんな話を聞き、俺は隊長に問いかける。
「こんなにも早く情報がまわってるなんて…!どうします?隊長」
[仕方無え。レイス共、実力行使でミデアを借りるぞ!]
「了解です!」
彼の言葉に頷いた俺はビームライフルを構え、1機のジムを射撃する。
[ムゲン!ミデアのある場所まで急ぐんだ!]
トラヴィスさんが叫ぶ。俺は彼の機体を追いながら敵を倒す。
だが、予定外の増援がやってきた。なんとジオン軍だった。
[なんだと!?]
「ジオン!?どうしてここに…!」
[ミデアまでもう少しだ!急ぐぞ!!]
「くっ…!」
俺たちは激しい攻撃を耐えながらミデアのある場所まで向かう。
ミデアにつくと、ダイバーさんは機体から降り、ミデアの操舵席に向かった。
[ツイてるわ。燃料満タン。機体の登録変更をかけるから、時間を稼いで]
[了解]
リッパーさんのピクシーが敵をまとめて切り伏せる。
ボマーさんがバズーカで敵を粉砕し、トラヴィスさんがビームライフルで敵を的確に撃ち抜いていく。
だが、さすがに数が多く3人では捌ききれていない。俺はビームダガーを引き抜いて、ジムを切り伏せた。
「くっ!こんなに多いなんて!!」
[黙って敵を倒せ。ムゲン]
「…了解…!」
ガンキャノンのビームライフルがリッパーさんのピクシーを掠める。
「ちっ!!」
ピクシーは間合いを取る。そして追撃してこようとするガンキャノンを俺はビームダガーで切り裂いた。
[遅い!!]
「まだなんですか!?ダイバーさん!!」
[偽造するのがたくさんあんのよ。命令書に作戦コード、それに身分証明書…]
[いいから、はやくやれ!]
[はいはい。もうちょっとだって…オッケー、準備完了!]
[いきます!乗ってください!]
その間にも次々と増援がやってくる。
3人は一足早くミデアに向かう。だが、俺は彼らの撤退した道に仁王立ちになり、敵を迎え撃つ。
[ムゲン!お前さんも早く来るんだ!!!]
「隊長!俺は大丈夫です。後は任せました!!」
[ムゲン!戻って来い!!ムゲン!!!]
「行って下さい!すぐに追いつきます!!」
[…すまない。ムゲン…!]
そして、その言葉を最後にミデアは離陸して行った。
「お元気で…レイスの皆…」
俺はそれを見送った後、レーダーを確認する。
敵は10機程度。俺とこの機体なら、それくらいは容易いと思った。
「いこう…。ハートライト…!」
俺はビームライフルで1機のジムを撃ち抜く。そして、背後に近づいてきたザクをビームダガーで振り向きざまに切り裂いた。
「お前らの相手は…この俺だああああ!!!」
そう叫びながら俺は突撃する。
「うおおおおおお!!どけぇええ!!!」
そして、威圧で圧されたザクを駆け抜けながら切り裂く。
[は、はやい!?うわああぁあああ!!]
なんだろう…この感覚。ずっと俺はこれを求めていた。なぜだろう、とても込み上げるものがあった。
レーダーに反応していた機体が次々に撤退していく。
「なんだ…?」
そして、撤退していく機体の中、2機だけこちらに迫ってくる機体がいた。
「くっ!!!」
突然ヒートホークを構えた白いザクが攻撃してくる。
[白いガンダム…。なるほど…こいつが]
俺はビームダガーでヒートホークを受け、
「くっ…!強い…!」
[そうか…なるほど…トラヴィスに聞いたとおりだ]
「…え?」
するとザクは間合いを取った後、ヒートホークを投げてくる。
「くっ!!」
ダガーで受けたため、ダガーが吹き飛ばされ、俺はビームライフルを構えようとした…が、背後からの殺気に気づいた俺は察して、ビームライフルを地面に落とした。
[…そうだ。そうして貰ったほうが話は早い。ムゲン・クロスフォード]
「なぜ…俺の名前を…?」
[話のとおり、記憶もなくなってるのかよ!あーあ…!前の借りを返したかったのによぉ…]
[黙ってろ、カカサ。とりあえず、お前には話が通じそうだな。俺の名前は
「…分かった」
[俺は
[カカサ、お前は黙れ!]
[へいへーい]
「…」
俺は彼らの後を追った。
しばらく歩いていると、小さな輸送機が見えてきた。あれは……ジオンの輸送機だろうか。
機体から降りると、背の高い銀髪の人物が迎えてくれる。
「さ、着いたぞ。ようこそ!
と、笑顔でクロノードと言う人物が言った。顔はどちらかというと美形なほうで、整っている。
「…あの…」
「さて、話はこいつの中で聞こう」
俺は機体から降り、輸送機の中へ入る。
廊下を歩いていると、連邦の制服を着た人物を見かけ、ジオンの人物と仲良く談笑しているのを見かける。
「ジオンと連邦が仲良くしてるのは変か?」
クロノードが聞いてきた。
「…変じゃないですけど、なんか新鮮だな…と」
「この特別遊撃部隊は、非公式で作った部隊でな、こいつは連邦にいられなくなったパイロットとかも流れてきてるのさ」
「そうなんですか…」
「さ、着いたぜ」
前を見ると、大きく看板に司令室と子供が書くような文字で書いてあった。
「これは…」
「ああ、こいつは子供たちが書いた文字だな」
「まあ気にせず入れって」
そういってクロノードが手招きをする。
「…」
「さて、話はだいたいトラヴィスから聞いてる。お前、記憶がなくなってるんだってな」
「隊長を知ってるんですか…?」
「あぁ、こっちではレイスは有名なんだぜ?…と、そんなことはいい」
「あ、はい」
「んで、俺と会ったことも覚えてないと」
「…申し訳ないですけど…はい…」
「気にするな。うーむ…まあ、レイスの囮になって残って戦い続けた度胸は変わってないみたいだが」
「そうだな、しばらくここにいるといいさ。そうすりゃあ、少しは記憶が戻るんじゃないか?」
「…だと良いんですが…」
「そんじゃま、俺は偵察に行って来るわ。お前はここをゆっくり見て回ると良いさ」
「あ…はい」
俺に手を振って、クロノードは出て行った。
「…」
俺は立ち上がり、司令室を後にする。
「よぉ!!」
さっきのうるさい人物だった。確かカカサとか言ったか。
短髪の黒髪。少し癖っ毛。
そして、顔はそれなりにカッコいいのだが……、なんか残念だ。
「…あ、どうも」
「お前、確かムゲンとか言ったよな!どうせ暇なんだろ?ちょっと一緒にここを見てまわらねえか?」
「…あ…はい」
と、半ば強引に俺はカカサに連れていかれた。なんだかまた面白そうな所に来たな…とか、心で思うのだった。
12 完
今回初登場の新キャラと彼らが乗るMSです。
名前:カカサ・キヤモイ(0079)
年齢:18
主な搭乗MS:ザク・インヴィジブル
階級:少尉
説明
サイド2生まれの青年。
ジオンの行動を怪しみつつも、軍に入隊し、持ち前の操縦センスで、少尉まで上り詰め
自分の専用機を受領するほどまでになった。
戦闘スタイルは、近接戦闘寄りの戦いをし、基本的には隠密行動を行なう。
なお、彼は隠密を得意としているせいか、色々な情報に長けており周囲からは情報屋として知れ渡っている。
そんな事ばかりしているため、性格がかなりひん曲がっているので、情報提供の際は色々な要求をしてきたりしてこなかったりと
さらに、重度の皮肉屋でたまにイラッとしてしまうが、本当は人のことを第一に思っており、サイド2の毒ガス攻撃をいち早くしった彼は、少ない数の住民を避難させる一面も垣間見えた。
名前:クロノード・グレイス(0079)
年齢:22
性別:男
主な搭乗MS:ザク(クロノード機)
階級:中尉
説明
幼くして両親を失い、ジオンの研究所でその子供時代を過ごした男性。
ただ殺人のみを行うように改造を施されてきていたものの、性格まで変化する事はなかった。
そのためか、失敗作とされ研究所を追い出され、そのままジオン公国に入隊する。
長い間改造を施されてきたためか、脳器官に障害を持っており、物事をしっかりと判断できない。
そのため、直感的に行動するため、カカサに止められているという一面もある。
人と関わる事は、好きなほうで、自然と自分の周りに人が集まってくるという才能を持っている。
普段はとても穏やかで、誰にでも好かれるような性格の持ち主のため、人望が厚い。
だが、戦闘時には多少性格が荒くなり、口調も変化してしまう。
カカサとは深い友情で結ばれた仲で、彼と共に過ごすうちに、クロノード自身も成長していく。
機体名 ザクⅡ(クロノード機)
正式名称 ZAKUⅡ
型式番号 MS-06S
生産形態 量産機
所属 ジオン公国軍
全高 17.5m
本体重量 56.2t
全備重量 67.1t
出力 976kw
推力 43.300kg
センサー 3,200m
有効半径
武装 120mmライフル
280mmバズーカ
135mm対艦ライフル(強化型)
ヒートホーク
搭乗者 クロノード・グレイス
機体解説
ジオン公国の量産型MSであるザクⅡの指揮官機型を白を基調に黒をあしらった、クロノード・グレイスの専用機である。
基本的な武装に加え、試作型の遠距離対艦ライフルを搭載しているため、どちらかというと遠距離寄りの戦いを主体としている。
135mm対艦ライフルは、その名の通り、戦艦の撃破に向いた武器で、戦艦の装甲を貫く火力があるのだが、本機のライフルの弾薬には
特殊な強化型の弾薬がいくつか使用されており、状況に応じてさまざまな対応が可能になる。
第三話で初登場し、道夜やムゲンに圧倒的な強さを見せ付けるものの、ムゲンの起死回生の一撃で、腕を損傷してしまった。
一見するとただの噛ませ犬な機体なのだが、クロノードの腕のおかげで、ムゲン達に恐怖を植え込み、存在感がある機体となった。
機体名 ザク・インヴィジブル
正式名称 ZAKU Invisible
型式番号 MS-06〔In〕
生産形態 量産機
所属 ジオン公国軍
全高 17.5m
本体重量 56.2t
全備重量 57.1t
出力 976kw
推力 43.300kg
センサー 3,200m
有効半径
武装 120mmライフル
クラッカーx5
試作型大型ヒートサーベル
シャドウクナイ
搭乗者 カカサ・キヤモイ
機体解説
ジオン軍量産型MSのザクを、カカサ・キヤモイ少尉の専用機。
機体色は、全身が黒く塗装されており、闇夜での行動に優れた機体。
武装は、ザクの武装に加え、試作型の大型ヒートサーベルを装備しており、近接寄りの戦闘に特化している。
さらに、投擲や近接攻撃でも使用可能なシャドウクナイは、刀身にジャミング効果のある武装になっているため、隠密に特化した機体になっている。
なお、本機の装甲のコーティングとして、ステルスコーティングを使用しており、レーダーに映らない仕様になっている。