永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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デートのお誘い

 夏休み真っ只中の8月半ば。

 夏休みの宿題も終わり、あたしは9月までにやるべきことをすべてやってしまっていた。

 今年の夏休みは去年や中学時代と比べても、一番早く宿題が終わった年になった。普通なら肩の荷が下りるところだが、これが時間を潰すのが意外と大変になる。

 一方で、たまにある天文部の活動は、徐々に形になってきた。

 

 坂田部長には夏休みの過ごし方を聞かれたので、海と夏祭りを楽しんだということだけ伝えておいた。

 永原先生の着物について、吉良上野介にもらったと言い、また「悪い人ではない」と言っていたというと「やはりそうなんですか……」と答えていた。

 どうやら史実追求派には「吉良善人説」は結構知られていた説なのかもしれない。よく分からないけど。

 

 ともあれ、天体の完成も近付いて来たある日のことだ。

 

「石山さん、このセットもう少しこっちですわ」

 

 坂田部長の指示通りに天体を移動させる。

 

「よし、プロキシマbも完成!」

 

「へえこれが最も近い系外惑星なんだ」

 

 プロキシマb、探査計画もある惑星のミニチュアだ。恒星ともどもすごく小さい。

 

「そうだねえ、水があるかもしれないなんて言われているのよ」

 

 それからミニチュアを作って思ったのは、宇宙の星というのは意外と連星系も多いということ。2つの恒星が互いに影響しあって回っているということだ。

 全宇宙だとむしろ連星系の方が多いとも言われているが、遠くの星だと極めて明るい星しか見えず、明るい星ほど連星系が多いので、単独星の方が多いんじゃないかという説もあるとは桂子ちゃんの言葉。

 

 

「よし、じゃあ今日はここまでだよ優子ちゃん」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんが「今日はここまで」と言う。

 後は天文ニュースを見たり、雑談をしたりしてゆっくり時間を過ごすことになっている。

 

「優子ちゃん最近暇なの?」

 

「うん、宿題全部終わっちゃったし」

 

「あら、それはいいことですわね」

 

 坂田部長がねぎらってくれる。

 

「でも暇なのよねえ……」

 

「うーん……」

 

  ブーブーブーブー

 

「あ、ゴメン」

 

 携帯電話が鳴ったので見てみると「浩介くん」とある。

 

 ともあれ読んでみよう。

 

 

 題名:明日

 本文:明日午後なんだけど、遊ばないか?

 集合場所と時間は――

 

 

「あら、優子ちゃんデートの誘い?」

 

 後ろから覗き込んでた桂子ちゃんが言う。メールにはデートとは書いてないけど、明らかにそれだ。

 

「ちょ、ちょっと桂子ちゃん!!!」

 

「ゴメンゴメン、でも大事だと思うよ。夏休みずっとこのままじゃお互いよくないし」

 

 確かに浩介くんと9月まで会わないというのも寂しい。

 

「そうですわね。篠原さんもきっとムラムラしてますわよ」

 

「坂田部長まで!!!」

 

 でもデートって言われると急速に意識が凄まじいことになる。

 デート……デート……浩介くんとデート……

 

 あたしと浩介くんは奇妙な関係だ。

 もう本人も周囲も分かりきってるくらい両想いで、明らかに「友達以上恋人未満」と言う関係ではなく、客観的に見れば「恋人同士そのもの」だ。

 でも、あたしと浩介くんの間では「友達以上恋人未満」どころか未だに「友達」のままになっている。

 

 どれもこれも、あたしがまだ本能まで女の子になれてないせい。

 これだけの変貌を遂げたあたしでさえ、あたしと浩介くんの関係はどこかに同性愛的な側面が残ってしまっているのだ。

 

「あら、石山さん、どうされましたの? 妙に考え込んで」

 

「ああ、その……浩介くんとの関係ですよ」

 

「あら? 恋人同士じゃないんですの?」

 

「うーん、私にもそう見えてるけど」

 

「実は――」

 

 あたしは二人に恋の悩み、本能がまだ「優一」が出てしまうこと、身体を触れ合うと嫌悪感と拒絶感が出ることを話した。

 

「なるほどねえ……」

 

「一難去ってまた一難ですわね」

 

「でももう一つ悩みがあるのよ」

 

「ふむふむ」

 

「男として女の子を好きになったことがなくてちょっと不安なのよ」

 

「なるほど、優子ちゃんが知識を活かせないと」

 

「う、うん……」

 

 男として好きな女の子ができたことはなかった。

 桂子ちゃんは可愛いし、もしうまくいけば……なんて漫然と考えていたもののいつどのように告白すればいいかもわからなかった。

 もちろん優一の頃に桂子ちゃんとデートなんてしたことはない。もしかしたら忘れているだけで幼稚園や(幼稚園の時一緒だったかは忘れたけど)小学校低学年くらいの時にしたかもしれないけど、いずれにしても男として女の子と恋愛するという経験はゼロに等しい。

 

 そんな中で、女の子として、女の子の気持ちで、好きな男の子と恋愛する。実際の所本心ではどこかに怖いところがあるのかもしれない(そしてそれが反射的嫌悪につながっているとしたら重大だ)

 

「優子ちゃん、緊張しているの?」

 

「だって、女の子としてどころか、男として恋愛もしたことないし……」

 

「でも、篠原さんもそのメールを出すのはとても勇気がいったと思いますわ」

 

「うん、もちろんOKの返事は出すけど――」

 

「ふふっ、石山さんはもう上がっていいですわ。それよりも明日の服のこととかをお考えになるといいですわ」

 

「ええ、優子ちゃんにとっては天文部より大事なことだから、むしろ今すぐ明日のことに集中してほしいわね」

 

「は、はい……それじゃあ失礼します」

 

 半ば強制的に部室を追い出される形であたしは学校を出る。

 通学路を帰りながら考える。

 

 浩介くん……男の子とデート。休日にクラスメイトと出かけたことは以前にもあった。

 桂子ちゃん、龍香ちゃんと3人でゲームセンターに行き、昼食を食べて映画を見たあれだ。

 

 そういえば、あの時プリクラ撮ったっけ?

 こ、浩介くんとプリクラ…あうあう……想像しただけで顔が熱くなっちゃうよ……

 

 でもゲームセンターはダメかなあ……女の子同士でも相当なハンデが必要だったのに、男の子の中でも強い浩介くん相手じゃどうにもならなさそうだ。

 初めてのデートだしうーん……どこを回るんだろう? 浩介くんにエスコートしてもらって、予定も全部浩介くん任せにした方がいいのかなあ……

 女の子の初めてのデートだし……って浩介くんもそうだよね……うーん、やっぱり後ろでゆっくりおしとやかについていこうかなあ……

 

 

 駅に着く、電車に乗る。自宅の最寄り駅に帰る間も、明日のデートのことで頭がいっぱいだ。

 とにかく早く家に帰って、明日の服装について考えたい。

 

 

「ただいまー」

 

「あら優子、どうしたの? 早いわね」

 

 母さんが怪訝に思う。

 

「ああうん、その……今日は早く終わって……」

 

「そ、そう……」

 

 やっぱり「浩介くんからデートに誘われたから早退するように言われた」なんて言えない。

 言いふらせなくなったのは女の子になったからかな? って男の子もそうか。

 男として知らないまま女になった分野については、男なのか女なのか、それとも両方に見られることなのか分からなくなることもある。そもそもの「知識」がないから仕方ない。

 深く考えない方がいいんだろうけど、もし「男」が出ちゃう行為だったらやっぱり嫌ではある。だからこうやって答えの出ない思考を続けてしまう。

 

 ともあれ、あたしは部屋に戻り、制服からパジャマに着替える。

 既に箪笥の中にある服はほぼ全て着てある。着てないのは何かのパーティーの時用とか後はパンツすれすれの超ミニスカートのようなものくらいだ。

 タイトスカートも一通り穿いてみたけど、思ったよりは動きやすかったものの、やっぱり普段穿いてるスカートに比べるとフィット感がきついのであまり穿いてない。OLとかになったら必要になるのかなあ……

 

 

 そういえば仕事だよなあ、あたしはずっと老けないから老後って概念もないし、500歳の永原先生が普通に働いているのを鑑みても、年金とかそういうのもらえそうにないしなあ……

 

 って今はそんなことどうでもいいや。それよりも浩介くんとのデートを楽しまないと。

 あたしは箪笥の奥から赤い服と赤い巻きスカートを取り出した。

 水着の日に着ていた水色のミニスカートワンピースと並んで、もう一つの候補になったこの服。

 幼さ・少女性の強調という意味ではこれが一番いい。赤い服は可愛く、女子3人で行った時のお出かけの時とか、カリキュラムで初めて学校行った時にも着ていたもので、何気に重要な場面で着ていたあたしの勝負服の一つ。

 水色ワンピースとか黒いロングワンピースなどは既に見せたものでこれ以外がいい。

 

 そして次に考えたのが白いワンピースの膝丈下のロングスカート。これと白いリボンを組み合わせ服装と装飾を白に統一して黒髪と栄えさせる方法で、家では何度も着てきたし、男受けという意味では多分どの組み合わせよりも最強だけど、これはもっと後に温存しておきたい。

 

 うーん普段からオシャレに気を配っていた分、デートの時に「もっとオシャレ」するためにどうすればいいのかということが思いつかない。

 いつも通りでも十分かわいいから欲張らなくていいと言われてしまえばそれまでだけどうーん……

 

 次に考えたのはセーラー服風のトップスに制服よりもやや青いミニのプリーツスカート。

 うーん、いつもの制服とはちょっとアレンジした、他校の制服って感じがする。

 ただパンチが効かないかなあ……女子の制服ってエロいけど、当の男子からはあまりエロさが感じられないとも言うらしいし。もちろんパンツ見えたら興奮するけど。

 

 あ? これがいいかも……

 茶色い膝丈の広がったジャンパースカートだ。このジャンパースカートというのが曲者だ。

 というのも、上のデザインでがらりと印象が変わるからだ。

 まずは黒い服で試す。うーんだめだなあ……

 明るい水色で試す……ちょっと色合いがきつい……

 

 おしゃれのコツについては、まだまだ手探りだ。最近はどうもいくつかのパターンで固定されていて、ここまで服選びに悩んだのも、もしかしたら初めてかもしれない。

 

 そうだ、白いブラウスなんてどうだろう?ちょうど脱いだ制服と組み合わせて肩から吊る。

 ……うん、可愛い。リボンは制服のではなく、ちょこんと黒いリボンにしてみようかなあ……

 うーんこれでぬいぐるみでも持つといいかなあ……お、よさそうよさそう。

 

 ちょっとまってよ……露出度高い方がいいかもしれないなあ……

 そう思ってさっきのプリーツのミニに胸元も空いた夏用のトップスを組み合わせる。

 うおっ、これはエロい。多分浩介くんはイチコロになっちゃいそうだ。

 ……いや待てよ水着の時は興奮してくれたけど、デートともなると独占欲と嫉妬が全面に出かねないよなあ……

 

 うーん、とりあえず試着してみようかな。ってそれだと母さんに明日のデートについて……うーんうーん……

 

 一人小田原評定が続く中、決定打を見いだせない。

 

「優子ー! おやついるー?」

 

「あ、うん持ってきてー!」

 

 母さんの声に正気に戻る。

 そうだ、母さんの意見も……って、明日のデートのこと秘密にしたばっかりじゃないの……

 

 うーんでも、浩介くんとのデートだし、一人じゃ決められないから……

 

 って、よく考えたら今までも母さんは女視点中心だったからアドバイス役に立たないこと多かったことを思い出す。

 最初の服選びでも、水着選びでも、やたら露出の高いのばかり推してきたし。

 

 そのことを思い出し、あたしは大急ぎで広げていた服を箪笥にしまう。

 

  コンコン

 

「優子ー! 入るわよー!」

 

「はーい!」

 

  ガチャッ

 

 母さんがチョコレートケーキの欠片を持ってきてくれる。

 

「うわーチョコレートケーキじゃん、どうしたの?」

 

「優子が帰った時に、1週間分のおやつにしようと思って買ったのよ」

 

「わーい!」

 

 あたしは上機嫌になる。

 あたしは林間学校の時以来、女の子になって甘いものが大好きになっていた事に気づいた。

 母さんも気付いていたそうで、優一だった頃より甘党になったとのこと。

 特にチョコレート系には目がなくなってしまうのだ。

 

「いただきまーす!」

 

 あたしはフォークを手に取りケーキを切り分け一口パクッ。

 

「うーんおいしいー!」

 

「ふふっ、美味しそうに食べる優子本当に可愛いわね」

 

「ありがとう?」

 

 語尾がちょっと疑問気味になる。

 

「ところで優子、服散らかして何してたの?」

 

「え?」

 

 あれ? 箪笥にしまったはずなのに……

 そう思って箪笥を見ると、僅かに服が出ていた。

 

 母さんは立ち上がり、箪笥を引く。

 

「普段の優子はきちんと畳んで入れるもの。明らかに大慌てで隠したんでしょ……」

 

 そう言うと箪笥の中に散らかったまま入れた服を全部出す。

 

「なるほどねえ……優子、彼氏とデートするの?」

 

  ギクッ

 

「あ、あの……あはははは……」

 

 笑ってごまかす。これじゃ「うんそうよ」と言っているようなもので……

 

「優子、これじゃ子供っぽいわよ」

 

 やっぱり参考になら無さそうだ。

 

「いいのよ、好きな人、同い年だし」

 

「そ、そう……」

 

「あたし、ちょっと顔が同世代より童顔だと思うのよ。それに不老だから子供っぽくするのは間違ってないと思うのよ」

 

「うーんそうかなあ。やっぱりお母さんは優子なら大人の魅力も出せると思うんだけどなあ……」

 

 母さんとおしゃれに対する見解の違いで最も顕著な部分なので、この手の押し問答は多い。

 

「男の子は若い女の子が好きなのよ」

 

「そうなのねえ……だとするとお母さんは力になれないわねえ……後でこのお皿、台所に持ってきてね」

 

「うん」

 

 そう言いながら、母さんは部屋を出て行く。

 チョコレートケーキの残りを美味しく食べる。

 

 部屋を出て母さんにお皿を返すと、もう一度デートの服装を考える。

 先程の茶色のジャンパースカート、これに制服のブラウスではなくボタンが胸の谷間に有る白い別のブラウスを組み合わせる。

 

 腰のくびれのラインが強調されているが、それ以上に胸の強調ぶりが凄まじい。

 まあ、和服や制服のように胸の強調を隠すデザインでも強調しちゃうくらい胸が大きいから、このように強調するデザインでのそれはとにかく凄まじい。

 

 しかしながら、下の方はスカートが膝まであってガードは固くしていて、男の子の嫉妬心にも配慮している。

 うん、これなら浩介くんも喜んでくれると思う。

 男受けについてはあたしも元男として「知識」はあるけど、デート特有の知識となると薄い。

 龍香ちゃんにアドバイスした時は、まだ「嫉妬」だということが分かりやすかったが、いざ自分が当事者になると全然違うものだ。

 

 浩介くんの性格にもよるけど、見た感じではそこまで異端の印象は受けなかった。

 多分この服で大丈夫なはず。

 

 

 服装選びが終わったので、再び暇な時間が出来る。

 浩介くんとデート、男の子とデートする。

 一人の女の子としてもドキドキするし、女の子になって初めてするデート、未知の世界への不安感もある。

 

 食事をし、いつもよりも入念に歯を磨く。

 お風呂では、普段行わない「二度洗い」で髪を洗った。シャンプーも、あの時買ってもらったシャンプーがようやく馴染んできた感じもある。

 でも浩介くんにはシャンプーについて何も言われなかったなあ……まあ男はそんなもんか。

 

 お風呂から出て、身体を拭き、パジャマに着替える。

 パンツとブラを付けてる時に、そういえば明日の下着をどうするか考えてなかったことを思い出す。

 

 うーん、縞パンがいいかなあ……それとも薄いピンクかなあ……水玉模様も捨てがたい……いや、これはすぐにわかった。

 

 当然「純白」一択だ。

 白は清純の象徴、男受けも極めていいし、初めてデートする女の子のパンツとしてはこれ以上ないくらいぴったりな色だ。

 って、もちろん見せるわけじゃないよ、好きな男の子に見られたらすごい恥ずかしいし。

 

 ともあれ、明日のデートの服装は決まった。バッグも自己主張しない程度の、桂子ちゃんと龍香ちゃんとで遊んだので大丈夫だろう。

 よし、明日を楽しみにしよう。


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