永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
どうしよう、浩介くんにお尻触られちゃった……! しかも浴衣越し、布一枚で……!
反射的な嫌悪感もなくなり、またお化け屋敷から出たのもあって、さっきのトラブルのことを思い出してしまう。
「どうした石山? また落ち着きが無いぞ?」
「あ、あの浩介くん……」
なんとか会話しないと……
「うん?」
「お、お尻触った時……ど、どうだった?」
ってなんでそんなこと聞くのよ優子!
「お、おう……その、胸に負けないくらい大きかったな!」
うー、だんだんスケベがオープンになってきたような気がする……って昨日あんなことしたんだし当たり前だよね。
「そ、そう……それで、つ、次は何処に行こう?」
「とりあえず一件一件見て回ってみようぜ」
「う、うん」
屋台の多くは食事や遊びといったコーナーが多いが、中には古物商みたいなのもある。
「懐かしのおもちゃ」とあるけど確かにかなり古そうだ。
「あ、これがいいんじゃない?」
目に入ったのは「ヨーヨー釣り」の屋台、1回100円で3回挑戦で1セット、ただし1個も釣れなくてもボーナスで1個はもらえるという触れ込みだ。ただし手でヨーヨーに触れたら1ミス扱い。うーん……
「お、嬢ちゃんやってくかい?」
座っていたおじさんが声をかけてくる。
「は、はい……」
「俺からやろうか?」
「あ、うん……頑張ってね!」
浩介くんがしゃがみつつ、お金を払うと釣り糸を渡される。
「これに引っ掛けて釣るんだぜ。いいか、引き上げられるのは3回目までだぞ」
「うわー、結構小さい穴だなあ……」
浩介くんが集中しているので、あたしも声はかけない。後ろから見ているだけだ。
「……それっ!」
浩介くんが1回目の引き上げ、しかし空振り。
「うーん……えいっ! よしっ!」
「おおうまい!」
2回目、今度は成功、青い水ヨーヨーが釣れた。
「ふう……とっ……あ、ダメか……」
3回目は失敗、総じて景品は1個だけだ。
「お兄さん上手いねえ、1回引き上げられる人はそうそう居ないもんだよ」
「そうですか。でも1個はくれるって」
「そうしねえと大量に金注ぎ込んだ挙句キレる客とかいるからなあ。去年から始めたんだ……さすがにそれ以前でも1000円使った人にはサービスしたけどね」
まあ、原価考えればねえ……多分3つ取られても黒字なんだろうけど。
「さ、次は嬢ちゃんの番だぜ……やるかい?」
「う、うん……」
あたしはしゃがみこんでお金を払い、釣り糸を渡される。
長いから大丈夫とわかっていても、やっぱり落ち着かない。
でもしゃがみ込むと空気の流れが上手く遮断されて、胸の方だけを気にすれば良くなった。
でもヨーヨー釣り屋台のおじさんも胸見てるし、ノーブラってバレたらどうしよう何て思ってしまう。
それが普通だから特に何も思われないと分かっているはずなのに……
ともかく水の中を見る。ヨーヨーがいくつも転がっている。
釣り堀を慎重に慎重に……
水の中に入れ針の先を凝視する。水による光の微妙な屈折が、挑戦者を惑わしてきた原因かもしれない。そう思い、ほんの少しだけ中心からずらして引き上げる。
「よしっ!」
釣り堀の中に見事にヨーヨーが挟まっていた。
「お、嬢ちゃんすごいな、一回目で引き上げた人はそうめったに居ねえぜ」
「えへへ……」
2回目と3回目も同じように引き上げて、いずれも成功し、ヨーヨーを3個もゲットした。
「ひええ、嬢ちゃんパーフェクト! 2年ぶりだぜ。この釣り、意外と難しいんだぜ! 他のヨーヨーよりも輪っかも小せえしよ」
そういえば指がこのままだと入らない。
「あー待ってな。景品はこっちの輪ゴムに変えるんだ」
よく見ると、ヨーヨーにひっついている大きな輪ゴムがある。
「水を付けると剥がれるんだ。で、こっちの小さい方は切ると」
ハサミと水を出しながら、おじさんが言う。にしても、よく見ると上手く大きい輪ゴムが水面につかないようになっている。
「水面に付いてしまったら、また付け直しだぜ」
「大変ねえ……」
「まあな。でも難易度上げるにはこうするしかねえんだぜ」
ともあれ、水ヨーヨーは浩介くんと2つずつで分けることにした。あたしが3個、浩介くんが1個なので、あたしが浩介くんに1個あげることになる。
やっぱり体力やパワーがいらない競技なら、あたしもそれなりにやっていけると確信できた。
水ヨーヨーはとりあえず左手に2つ指に引っ掛けながら持つ。
「お、次はこっちなんかどうだ?」
次にやって来たのはお面売り場。
「うーん、顔にお面かあ……」
「石山はどれも似合うんじゃないか?」
鬼とか猫とか犬とか熊とか空想実在入り混じっているけど、いずれも動物のリアル系お面だ。
「うーん、これえ? 似合うかなあ……」
「似合うと思うけどなあ……」
「うーん……可愛い系じゃないからなあ……」
新しく女の子になった自分の顔は鏡で何度も見ているから知っている。というよりも一瞬男の頃の顔を忘れていたくらいだ。
でもお面の方がよく見えるとは全く思えないのだ。
「ほら、この鬼のお面なんてさ、外した時のギャップとかにちょうどいいと思うんだよ」
「うーん……じゃあ浩介くんはどれがいい?」
「あー、俺はどれも似合わ無さそうだなあ……」
「でもあたしの鬼よりはどれも似合いそうだけどなあ……」
「うーんそうかなあ? じゃあ他の人の評価も聞いてみようよ。とりあえず、浩介くんはこれを買ってみてよ」
「お、おう。分かった」
というわけで、ここでは鬼のお面とひょっとこのお面を買う。
顔の左側に鬼のお面を付ける。すぐにかぶることもできるけど止めておこう。
「石山、お面を被って店に入って、注文する時に外してみてよ」
「う、うん……」
とりあえず、第三者の評価が欲しい。あたしは鬼のお面をかぶると、すぐ向かいの綿菓子屋さんに行く。
そして屋台でしばらく綿菓子機の様子を見る。本当に何でこの白いのが膨らむのかよく分からない。
「すみませーん」
「へいっ」
「綿菓子一個お願いします」
あたしはお面を外して綿菓子一個を頼む。
「うおっ、こんな可愛かったのかよ。いやあびっくりだぜ」
屋台のおじさんが驚く。
「綿菓子一つくれるかしら?」
もう一度言ってからお金を払う。
「おうよ! ちょっと待ってな! よし、やるぞー!」
おじさんが妙にやる気になりながらわたあめを作ってくれる。
いやー、やっぱ美人って得だわ。
「はいわたあめ一個!」
「ありがとう」
ニッコリするとおじさんがほんのり照れているような気もする。
浩介くんが一瞬だけ不機嫌になる。やっぱり男の子だなあと思う。ってあたしもちょっと前までそうだったんだよなあ……
「石山、次の屋台でももう一度お面付けてみてよ」
「う、うん……」
どうやらギャップによってあたしの顔がよりかわいく見えるらしい。まあ確かにそういうのを狙うのはあるっちゃある。
さっきの感じだと、鬼のお面で少し視界が狭まれば、そちらに気が行って下着を付けてないことから気をそらすこともできる。
とは言え、わたあめを食べながらお面は付けられない。再び顔の横に付けておく。
よく見ると浩介くんがりんごあめを買っている。二人して食べ歩きの格好だ。
「ねえねえ、あの子可愛くない?」
「くー彼氏羨ましいなあー」
「本当に楽しんでるみたいだぜ」
「ううう……俺もああ言う青春があればなあ……」
「女友達でいいからほしいよなあ……」
正確にはあたしたち、まだ友達の仲なんだけど、やっぱり傍目から見れば彼氏彼女に見える。
今のあたしと浩介くんは、傍から見れば左手に水ヨーヨーをつけつつ、顔の横にも鬼とひょっとこのお面があり、右手でわたあめとりんご飴を舐めているように見えているはずだ。
いかにも「お祭り楽しんでいます」と言う感じだろう。
「ねえ浩介くん……」
「ん?」
「やっ、やっぱりあたしたちって、恋人同士に見えるんだね!」
「ま、まあそりゃあそうだろ……」
でも手を深く繋いだりとかはしていない。あたしのせいで出来ないのだ。まあ今はお互い両手塞がってるけど。
「……な、なあ石山!」
「ん?」
「それ食べ終わったらさ、ちょ、ちょっとだけ手をつなごうよ!」
「ふえ!?」
あたしは、突然の申し出に驚く。これまでの浩介くんはどちらかと言えばあたしの「症状」に配慮していたのに。
「ほ、ほら、いきなり恋人繋ぎみたいなことをするからいけないんだよ。昨日クリーム塗ったときみたいに急にやるんじゃなくて、ちょっとずつ、さ。まずはちょっとだけ手をつなぐ」
「う、うん……」
そうだ、すぐに結果を求めすぎちゃダメだ。一歩一歩やっていくしかない。
でも、あたしがわたあめを食べ終わる頃には、既に緊張からか、別の話題をしてしまう。
「ねえ、あの射的やってみようよ」
「お、そうだな。あ、お面しとけよ」
浩介くんも乗ってくる。
夏祭りの屋台で射的をやっているので、手をつなぐ前にそちらで時間稼ぎを試みた。
「あーくそっゲーム機取れねえ!」
「こっちのお菓子! あー外れたあ……」
子どもたちが射的に一喜一憂している。あたしはお面を付ける。
「うーんゲーム機とかあるけど……」
「まあ無理だろうな。重りつけて直撃しても落ちないようになってる」
「だろうねえ……」
最近じゃ上手い人が根こそぎ取ったりとかする上に、インターネットで情報共有もあって平均レベルも上がっているからこういう商法が増えざるを得ないとか。
「浩介くん、お菓子取ってみて?」
比較的安価なお菓子。これなら取られても元は取れるからそこまで意地悪にはなってないはずだ。
「ゲーム機はいいのか?」
「あれはいいのよ。あたしも子供じゃないから、どういう風になってるかは分かるよ」
こういうないものねだりのワガママは、男の子から嫌われるワガママだということを知っている。
「そうかい。おじさん、一回頼む」
「あいよ、1回に付き5発だ」
所定のお金を払う、水ヨーヨーをあたしに一旦預けていざスタート。
思いっきり前かがみになる。ラインは決められているが、浩介くんの背でも中々行かない。
って、お尻が強調されるよなこれ……うーん、かなり心配……
もしさっきみたいに触られたら……って何想像してるんだよ……
ふと浩介くんの隣にいる女性客の浴衣を見る。お尻のラインがかなり浮き出てみっともない。
そうか、穿いているせいなのか。
「あーだめかー」
意外と当てるのは難しい。3回連続で外している。
「よっしゃあ!」
浩介くんが4回目でようやくチョコレート菓子を一個落とす。
屋台のおじさんが浩介くんの前に置く。
5回目は別のお菓子を狙ったが外れ。うーん、やっぱり普通に買った方が安い。
「うーん買ったほうがいいよなあ……」
「まあそう言うゲームじゃないからねえ」
「石山もやってみてよ」
「えー」
正直お尻強調されるの恥ずかしい。さっき触られたばっかりだし。
「まあ固いこと言わず」
「う、うん……」
まあむしろパンツ穿いていた時のほうがみっともないから、むしろノーパンで都合がいいかもしれない。
「すいませーん」
「へい」
「1回お願いします」
あたしはお面を外しながら言う。
「うおっ」
わたあめの時と同じく、また屋台のおじさんが驚いている。
あたしは射的用の弾を5個もらう。水ヨーヨーを浩介くんに預ける。
ともあれ縦長の不安定そうなものを狙う。
あのお菓子の棒が良さそうだ。コンビニか駄菓子屋で20円位で買えるものだけど。
あたしは重心やや下に狙いを定め、引き金を引く。
ポンッ!
「お、やった!」
浩介くんが取ったのより大分安いお菓子だけど、まあいいや。
屋台のおじさんがお菓子を置いてくれる。
「んっー!」
もう少し身体を前に移動する。
浩介くんからはどう見えてるのかな? って考えちゃダメダメ。
2つ目、もう少し大きそうな小箱を狙う。
パンッ!
当たった。よし、何とか倒せた。
屋台のおじさんがニコニコしながらまたお菓子をくれる。
まあ、原価は安いしむしろそういうのを狙ってくれた方がありがたいのかも。
「な、なあ、い、石山……あの人形とかどうだ?」
浩介くんが左側にある人形を指差す。角度からして浩介くんの表情はわからない。
人形とかもあるが、間違いなくこの弾の威力じゃ落ちない代物。
「あーあれはちょっと無理かなあ……」
「そ、そうか……石山にお似合いだと思ったんだけど」
「いや仮に打ててもちょっと……」
実は模様替えの時に動物のお人形と一緒に寝ている何て言えない。
やっぱり、そういうのに抵抗を持ってしまうのが「男」が出る瞬間なのかもしれない。
本当は浩介くんに突っ込まれても「女の子がお人形さんと寝ちゃダメなの?」って言わなきゃいけないんだろうけど。
ともあれ、あたしは射的に戻り浩介くんが最初に取ったお菓子を狙う。
しかし、3発とも外れてしまい、取れたのは最初の2発だけだった。
あたしは貰ったお菓子を帯に半分見えるように入れる。ちなみに、わたあめで残った棒も同じだ。こちらはゴミ箱を探すか最悪持ち帰ればいいだろう。
よく見ると、浩介くんは顔を赤くしていた。やっぱりお尻のボディラインが浮き出て、さっきのことを思い出したのかも。
「こ、浩介くん……次は何処に回ろうか?」
再び鬼のお面をかぶり、言う。
「少し暑いから……これなんてどうだ?」
浩介くんは少し先に見える、うちわを並べているお店を指差す。
「ああいいねえ……金魚すくいってのもあるけど……」
あたしは金魚すくいの店を指差す。
「うーん、すぐに死んじゃうだろうしなあ……」
「そうねえ……あたしたちが取っちゃったら可愛そうよねえ……」
というわけで浩介くんの意見が通り、うちわ屋さんへ。
そういえば浩介くんはひょっとこのお面は横にかけてるだけだ。まあ浩介くんがお面して外してもしょうがないかなあ……
「どれにしようか?」
「うーん、石山はこのピンクのがいいんじゃない?」
いかにも女の子って感じだ。
「浩介くんは?」
「俺はこれかなあ……」
浩介くんが指差したのは青いうちわだ。
「会計はあたしがするね」
「おう頼む。お面外すんだぞ」
「分かってるって」
どれも同じ値段なので、浩介くんが値段分のお金を出す。そしてあたしも、同じように財布からお金を出す。
「すみませーんこれくださーい」
お面を外す。
「お、おうっ……ちょうどだな、へへっありがとよ……!」
また屋台のおじさんが驚いている。何だろう、こうも金太郎飴だとさすがに飽きてくる。
「とりあえずこれで涼めるな」
「う、うん」
うちわで扇ぎながら涼しい風を送る。
でも風を起こしたがために、また上下半身の大事な部分が気になってしまう。
「おっ、優子さんに篠原さんじゃないですか!」
「あ、龍香ちゃん!」
あたしたちは、神社の中心に向かうと、龍香ちゃんに声をかけられた。お面を付けてないから気付かれたのかな。
「お、河瀬じゃん。どうだそっちは?」
「夏祭り一人ですけど楽しんでますよ。ま、彼氏とは昨日散々遊びましたから」
うん、彼氏が龍香ちゃんのお尻を思いっきり撫でてた。
「そう言えば、海だったっけ?」
「ええ、優子さんたちも見かけましたよ。それにしても優子さん大胆ですねえ……」
「あ、あのそれは……」
あたしは顔が赤くなる。
「まったく、あんなの私だって恥ずかしいくらいですよ」
「うーやっぱ見られてたのかあ……」
浩介くんも恥ずかしそうな表情をする。
「そりゃあバッチリたくさん見られてましたよ。野次馬も居ましたし」
ですよねー
「ま、まあクリーム塗るだけだし……!」
「強がらないでくださいよ優子さん」
「あうう……」
「河瀬……ど、どこからどこまで見てたんだ?」
「うーん始まりはあんまり覚えてないですけど、塗り終わって篠原さん、トイレ駆け込んでましたよね。そこまでは見てましたよ。野次馬もそこでみんな居なくなりました」
ということは、一人で泣いていたのは気にもとめられなかったのか。
「と、ところで他の奴らはどうしたんだ?」
浩介くんが話題を変えてくれる。
「あー桂子さんなら先生と回ってますよ。もうじき神社の中心で盆踊りもあるみたいですから、そこで一旦集合できるんじゃないですか?」
「よし、じゃあとりあえず盆踊りの場所へ行こう。河瀬も石山もそれでいいか?」
「「うんっ」」
というわけで、あたしたちは盆踊り会場に向かうことにした。