永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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林間学校四日目 ホテルでの最後の時間

 意識がゆっくり回復していく。

 例によって5時前だろうと思いつつ、ゆっくり時間をかけて起きる。

 

「ふう……」

 

「あれ? 優子ちゃんも起きた?」

 

 よく見ると虎姫ちゃんと桂子ちゃんがぼーっとしていた。

 

「う、うん……今何時?」

 

「4時11分よ」

 

「あはは、また早かったね」

 

「優子ちゃん、テレビでも見る?」

 

「うん、そうする」

 

 お風呂は4時半まで掃除中なので顔洗いと歯磨きをした後、少しだけ時間を潰す。

 

 見るのは朝のニュースだ。アナウンサーは「今日も暑い」と言っていたが、ここは山の中でいつもの夏よりは涼しい。

 

 そしてニュースが流れる。

 交通事故のニュース、更には殺人事件の裁判のニュースもやっていた。

 どうも数年前の事件で死刑が確定したという話だ。

 

「やだねえ、こんな殺人……」

 

「うんうん」

 

 連続殺人事件らしい。死刑も当然だよなあ……

 

「あ、優子、そろそろ行こうか!」

 

 時刻は4時27分、そろそろ4時半だ。

 私はタオルを持ち、今日の着替えも持つ。

 

「あれ、優子ちゃんそれ……」

 

「うん、お風呂出たら着替えようと思って」

 

「そう、じゃあ私も持ってくわね」

 

 いつもは朝風呂のあとはパジャマのままだったけど今回は変更する。

 桂子ちゃんと虎姫ちゃんも続き、今度はエレベーターで地下一階に降りる。

 途中で別の階に止まる。すると永原先生が乗ってきた。

 

「おはよー」

 

「あ、永原先生」

 

「ふふっ、結局私達朝風呂皆勤ね」

 

「桂子ちゃんと虎姫ちゃんは2日目に参加してないわよ」

 

「あ、そうだったわね」

 

 

 「地下一階です」という音声とともに、エレベーターが1階を飛び越えて地下一階に到着する。

 

「そう言えば、お風呂の男女入れ替えの見張りってやらなかったわね」

 

 私が思い出す。

 

「ああ、あれは二日目に私と恵美ちゃんがやったのよ」

 

「え? そうなの?」

 

「優子ちゃん、登山で大変だったから、私が先生に代役を申し出たのよ」

 

「ええ。数分の見張りだったんですけど。それでも登山の後の立ちっぱなしでしたたから、石山さんにはきついかもしれないという話がありました」

 

「そ、そうだったんだ……」

 

「気に病む必要はないわよ石山さん。石山さんは女の子、それもか弱い女の子なんだから」

 

「う、うん……ありがとう、そう言ってもらえると気が楽だよ」

 

 こういったところで意地にならず、助けられることへの抵抗感を緩めていくことも、今後重要かもしれない。

 

 ともあれ、地下の温泉の暖簾をくぐる。

 中にはもちろん誰もいない。私達は服を脱ぎタオルを持つ。昨日と同じ光景、桂子ちゃんと私がバスタオルで隠し、虎姫ちゃんと永原先生はそのままだ。

 2人ずつ2交代で軽くかけ湯を流す。

 

 せっかくの広さということで、思い思いの場所に散る。私は永原先生とともに、奥の方に入る。

 

「!? あっつ……!」

 

 あれ? かなり熱い。

 

「気をつけてね。この温泉、結構気まぐれだから」

 

「う、うん……」

 

 ともあれ少しずつ足を入れて行く。よし、大分慣れてきた。

 

「下半身入れたら一気に肩まで浸かるといいわよ」

 

「は、はい……」

 

 永原先生の指示の下、一気に肩まで体を入れる。

 

 うー熱い熱い……我慢我慢、これで体が温まるはず……

 

「ふふっ、無理のし過ぎもダメよ」

 

「は……はーい!」

 

 とは言え徐々に身体も温まってきた。体の芯から温まる感覚だ。

 

「体が温まると、気持ちいいわよ。少し長めに入ってもいいわね」

 

「ええ……」

 

 そうは言うけれども、さすがにちょっと熱い。41度に調整した風呂に入る。

 

「あ、優子ちゃん、あっちどうだった?」

 

 39度に入っている桂子ちゃんが話しかけてくる。

 

「ああうん、一昨日入った時よりずっと熱かったよ」

 

「気まぐれな温泉なんでしょ? だからこうして温度を調整するってこと?」

 

「うん、多分ね……でも熱いお湯気持ちいいよ。体温まるから」

 

「そう……じゃあちょっと行ってみるかな?」

 

 桂子ちゃんが浴槽から出る。バスタオルでうまく隠していて本当にすごい。

 あたしなんて、まだ結構見えちゃうことあるし(というよりも初日見られたし)

 このあたりの隠す練習は、女の子の自分の身体を理解し、練習と経験を積んでいくしかないだろう。

 

 そういう意味では、制服のスカートだって今はちょっと自意識過剰と思われているかもしれない。

 ミニスカートは可愛いんだけど、やっぱりパンツ見えちゃうの恥ずかしいし気を使わないといけないけど、それでも気を使いすぎて男性たちから自意識過剰女には見られたくない。

 

 

 遠くでは、永原先生と桂子ちゃんが話している。

 窯のところで虎姫ちゃんもいたので、私も近付く。

 

「あ、優子。ここもちょっと熱いよ」

 

「え? そうなの? どれどれ……お、でも正面ほどじゃないかなあ……」

 

「今の正面のところは43度のところより熱いみたいだし」

 

「そうなんだ……」

 

 そう言いながら私も入る。うん結構熱いお湯だ。

 体積分お湯がこぼれるけど、結構勢いがいい。

 

「うわ、結構こぼれたね」

 

「優子は体積があるのよ。体重じゃなくてね」

 

「た……体積って……」

 

「むう……この無自覚女め……」

 

 虎姫ちゃんが恨めしそうに私の胸を見る。

 

「あ、うん……ご、ごめんなさい」

 

「あ、ああいや……気分悪くしたら悪い。そうだよな、優子だって肩こりで悩んでるんだし……」

 

「ううん、こちらこそ、無自覚だったのは謝るわ。女の子として、やっぱりそういうのに鈍感なのはよくないし」

 

「そうかい、優子は優しい子ってだけじゃなくて、本当にいい子だよな」

 

「ありがとう虎姫ちゃん……」

 

「よし、私は別のところ回るよ。そんじゃっ!」

 

 そう言って虎姫ちゃんが出て、入れ替わりに桂子ちゃんがまた入ってくる。

 

「ふう……ここがちょうどいいかな?」

 

「そうなの?」

 

「ちょっとあそこは熱いかなあ……でもしっかり温まれたよ」

 

「それはよかった」

 

 地下ということもあってみんなと話す内容は風呂そのもののことが多い。

 私が出るとちょうど永原先生もいた。

 

「あ、石山さん、これからあのマッサージのところに行こうと思うんだけど、石山さんはどうする?」

 

「うーん、私も肩ほぐそうかなあ……」

 

「ふふっ、じゃあ決まりね。行きましょうか」

 

 4人の女の子が入る朝風呂だけど、実際はそれぞれバラバラの行動。

 蛇口から勢いよく無駄に噴出している空の風呂。もったいないと思いつつ私と永原先生が入る。

 

 肩こりの激しい部分に当てると、何ともたまらない至福の痛気持ちよさが襲い掛かる。

 

「んー! 肩が気持ちいいねー!」

 

「ええ、私もデスクワークしてるので肩がこることこること……」

 

 永原先生も肩こりの悩みがあるみたいだ。

 

「でもあたしなんてこの年で肩こりよ……」

 

「あらあら、先生も外見年齢なら石山さんに負けてないわよ」

 

「むむむ、確かに……」

 

「でしょでしょ」

 

 むしろ外見だけなら永原先生は2年2組の中でも1,2を争うほど若い。背も低いし。

 胸も……私ほどじゃないけど結構膨らんでる。顔もかなり童顔だし、同じTS病だからかそう言う特徴が出るんだろうか。

 

「永原先生は、確かに女性の中でもかなり小さいですよね……」

 

「ふふっ、これでも明治頃までは女性の中では大きな方だったのよ」

 

「ああ、そうか。昔の人は体格も小柄だもんね」

 

「そゆこと」

 

 永原先生は戦国時代の人だもんなあ……当時は仏教も強くて肉食もほとんどなかったみたいだし、他の栄養状態もあるだろうしそう考えると当時としては大きな方なのか……

 でも肩はこるんだよな。

 

「ふう……」

 

 さすがに4人せっかく集まったということで、マッサージが一段落したら、全員で熱い風呂に入る。

 

 

「ううう……熱いねえ」

 

「でも芯から温まるよ」

 

「うんうん」

 

「さ、一斉に出ましょうか?」

 

 

 そんな会話をしつつ、私たちは風呂から出る。脱衣所との温度差がまた気持ちいい。

 さて、私は新しい私服に着替える。

 身体をタオルやドライヤー、さらに扇風機も使ってよく拭く。

 

 脱衣所から下着をまず取り出す。パンツを穿く。今日は水色の水玉模様だ。

 続いて同じデザインのブラジャーもつける。水玉が可愛らしくて、この下着セットはお気に入りだったりする。

 

 

「優子ちゃんって、結構子供っぽいよねー」

 

「え? どうしたの桂子ちゃん?」

 

 私は、膝丈の茶色いスカートを手に取って穿きながら桂子ちゃんと話す。

 

「いやさ、その水玉とか。小学生っぽい気がするのよ」

 

「でも、私は好きだけどなあ。子供っぽいと言ってもなんだかんだで……女の子は幼くてもモテるわよ」

 

 白シャツとその上に青色のブラウスを着る。可愛らしくフリルがあしらわれている。

 

「そうなんだ。あまりに子供っぽいとさすがに男性受けも悪いかなって思ってたんだけど」

 

「うーん……まあ好き好きかな。でも、子供っぽいなんて思ってても、結構男性にとっては普通に可愛いってこともあるからね。逆に女目線での『大人っぽい』『きれい』みたいな方が危険度高いと思うわよ」

 

「ふむふむ。やっぱり優子ちゃんからは学ぶことは多いわね」

 

「桂子ちゃんの役に立ってくれればうれしいよ」

 

 よく見ると他の2人も着替え終わっている。そして、4人で風呂を出る。

 

 風呂への扉を出ると、一人の男性がいることに気が付いた。

 

「あ、石山さん……でしたっけ?」

 

「えっとあなたは……」

 

「ほ、ほら! 添乗員の野洲です! ゆ……石山さんも朝風呂です?」

 

 なんか明らかに挙動が不審だが、私たちが四人組なのを見て少し冷静さを取り戻した気もする。

 

「ええ。そうですけど、野洲さんも?」

 

「はい、今日は帰り道ですので早めに風呂に入ろうと思ってこれから……」

 

「そう……じゃあ私、部屋に戻るわね」

 

「あ、ああ……」

 

 エレベーターを使い、永原先生と添乗員さんがそれぞれの部屋に戻る。私たちは7階に行き、部屋に戻る。

 CSで以前やっていた飛行機事故の番組をやっていたので、またそれを見る。

 

 今度は副操縦士の些細な操縦ミスで墜落だそうだ。大西洋のど真ん中で墜落したわけだが、間違えた操縦を繰り返した果ての事故で、しかも操縦を変わろうともしなかったんだからひどい話だ。

 問題の副操縦士による「こんなの噓でしょ……何故なんですか?」という最期の言葉も印象に残った。虎姫ちゃんは「いや、お前のせいだろ」と突っ込んでたけど。

 

 飛行機の事故率なんて低いはずなのにこういう番組を見てしまうと高く感じてしまう。

 桂子ちゃんもそういうことを言っていた。ここでそのまま流される人が詐欺の網や悪い男に引っ掛かる気がするので特に注意しないといけないと思った。

 

 更にもう一本、同じ番組で別の内容が放送されている。こちらも見終わればちょうど7時で朝食の時間が始まるころだ。

 

 

「いやーしかしあの番組、謎の中毒性があるよねー」

 

「うん、私も、乗り物って言うとどっちかというと男子の趣味って感じだったけど」

 

 食堂に向かう途中、桂子ちゃんと虎姫ちゃんが話す。

 

「こう、調査していくってのが面白いよね。最後のやつなんかは乗客の立場からも勉強になったし」

 

「うんうん」

 

 朝食は今日は少し早めに締め切られ、残った時間でお土産を買うことができる。もちろん、地域経済の活性化という「錦の御旗」で、お土産の金額に制限はない。

 私の朝食はご飯とお味噌汁、そして卵焼きに鮭というシンプルなもので、飲み物もお茶と純和風に仕立て上げた。

 

 虎姫ちゃんもサラダが加わってるだけで私とほぼ同じ。桂子ちゃんは卵焼きが目玉焼きに、味噌汁がサラダになっている。

 

「「「いただきます」」」

 

 3人で食べながら、他愛もない話をする。永原先生のこと、これまでの林間学校の振り返り。

 帰り道でのサービスエリアを楽しもうということなどだ。人によってはサービスエリアでも追加でお土産を買うこともある。

 

 

 ともあれ、皆で食べ終わったら、3人で土産店へ。

 

「ねえねえ、優子ちゃん、これなんてどう?」

 

 桂子ちゃんがご当地クッキーを持ってくる。

 

「クッキーかあ……たしかにお菓子は無難よねえ……」

 

「優子、こっちはどうかな? ご当地のゆるキャラの人形だよ」

 

 虎姫ちゃんがゆるキャラ人形を指差す。

 

「へーでも、可愛いのかなこれ?」

 

「うーん……」

 

「修行がたりないわね優子ちゃんも」

 

 あたしは、女の子の感じる「可愛い」をまだ理解しきれていない。

 もちろん、男性からの視点も「知識」として保有しておくのはいい。それは必ず役に立つ。だけど同じ女の子の感覚からずれていると、こういうことも起こり得る。

 男性側も、女の子の感覚を勉強しているわけだからあたしも勉強したい、きっと楽しい世界がそこにあるはずだから。

 

 

「あ、こっちはどう?」

 

 桂子ちゃんが別の人形を指差す。

 

「え? どれどれ?」

 

 よく見ると、全国的にも有名な少女向けの着せ替え人形だ。この間まで男だったあたしでも知ってるものだ。

 メインターゲットは10代後半ではなく一桁から10代前半までの小中学生向けだが、成人女性にも遊べるようになっていて、今人気だそうだ。

 

 確かに、この人形の女の子は可愛いと感じる。ゆるキャラと違って人間がベースだからだろうか?

 

「うん、この人形で着せ替えかあ……確かに可愛いかも」

 

「優子ちゃんこれにする?」

 

「うん、ちょっとやってみようと思う」

 

 私は財布からお金を取り出す。痴漢事件の慰謝料裁判も進み始めている。

 こちらは大分相場が決まっているそうなので、しばらくはお金に困らないだろう。

 まあ、もういくらもらっても痴漢されるのは二度と嫌だけど。気持ち悪くて屈辱的だし。

 

 

 虎姫ちゃんと桂子ちゃんも土産が決まり、一旦自室に戻る。

 あたしは空き時間を利用して、早速お土産を開けてお人形遊びをしようとした。

 だけど桂子ちゃんに「お土産は家に帰ってからでしょ」と言われたので一旦断念する。家までのお楽しみにしよう。

 お土産をメインバッグの中に入れる。

 そして4日間分の散らかした荷物を整理する。と言っても、することはそんなに多くない。3人の生理用品のポーチとかもあった。

 今日明日危ないと思ったけど、今日はまだ大丈夫みたいだ。

 

 荷物の整理が終わり、少しくつろいでいると、永原先生から「そろそろ時間ですよ」との声がかかる。もちろんあたしの実行委員としての仕事だ。

 最後の朝食券整理で、時間的な都合もあって荷物を持ちながら先に出る。4日間お世話になったこの部屋と、みんなより少し早くお別れになる。

 

 

「はーい、最後になりますが、今日もいつものように食事券を確認してください。もし食べ忘れている人が居たら、出発時間が足りないので、軽食屋のテイクアウトを使うように急いで連絡してください」

 

「それじゃあ始めるわよー!」

 

 永原先生の号令のもと、篠原くんと一緒に食事券の確認作業をする。

 うちのクラスでは特段誰か忘れたというトラブルはなかった。

 

 また集合時間が近くなっていって、徐々にみんなが集まる。中には最後の時間にもう一度お風呂に入る人もいる。

 

 そしてクラス学年で一斉に駐車場に来る。

 初日と同じく、またホテルの支配人さんが来る。そして初日と同じようにマイクを持ち、挨拶をする。

 

「えー、小谷学園の皆様。名残惜しいですが、本日で当ホテルとはお別れとなります。帰り道、くれぐれも事故等の無いように、お願い致します。以上です」

 

 支配人さんの短いスピーチ、花火師さんと同じ。短い時間に凝縮する重要性。林間学校では何だかんだで今後の長い長い人生を生きる上で色々なことを学んだが、もしかしたらこれが一番大事なことかもしれない。

 クラスのみんながバスに乗る。添乗員さんと運転士さんが荷物を入れている間に、バスに入り、篠原くん、永原先生と一緒に人数とシートベルト着用を確認する。

 これは初日と同じ作業だ。

 全員のシートベルト着用まで確認したら、私達3人が最後に席を陣取る。

 

 添乗員さんと運転士さんが全ての荷物を入れ終わり、1組の1号車から出発する。

 

 

「さようならー!」

 

 ホテルの人達が見送ってくれる。

 帽振れする人、お辞儀する人様々だ。

 

 ともあれ、バスはこれから3回の休憩を挟み、学校へ帰ってくることになる。行きよりもかなりゆったりとした行程で、それでも日が沈む学校に帰る。

 道中、無事にやり過ごせればいいけど……


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