永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「で、物語一つ読了したところでさっきの話に戻るけど……幸子さんは、まだスカートで外出したことはないの?」
石山さんが、またスカートの話をしてくる。
「あ、ああ……普段着もまだ……こんな感じだ」
まだスカートには、早いと思う。
色々な意味で、自分にはまだまだなのだ。
「幸子さん、意地を張っちゃだめよ。それに、スカート、それも膝より上の短いのでで一日過ごしてみて?」
しかし、こちらの事情はどうあれ、石山さんはまた促してくる。
どうやら、スカートの中でも短いものを穿かせたいらしく、さすがにしつこいと思う。
「な、なんでそんな執拗に……スカートはかない女だっているだろ!?」
思わず、強く言ってしまう。
「そりゃあおばさんのミニスカートとか痛いわよ。でも、あたしたちはおばさんになる事はないのよ。かわいい女の子は相応にかわいく振舞わないといけないのよ」
石山さんが、また同じような話をする。
かわいい女の子はかわいく振る舞うべきだという、
たしかにその通りだと思うけど、それでも当事者としては話は別だ。
「だからどうして?」
だからもう一度、俺は問い詰める。
石山さんも、少しだけ考え込んでいる。
「それはね……変質者が寄ってくるからよ!」
石山さんが、意外な返答を出してきた。
スカートじゃないと変質者が寄ってくるってどういうことだろう?
「え!? どうして!? 普通狙われるのは派手な格好する人でしょ?」
もちろん、とっさに思いつく反論をする。
しかし、石山さんは静かに首を横に振ってきた。
「もし満員電車にあなたとあたしが乗ったら、痴漢常習犯の100人中99人はあなたの方を痴漢しようと思うわよ」
いや、そうじゃない。
「だからどうしてそんなことが言えんだよ!?」
質問に一切答えていないせいで、思わず雑な声が出てしまう。
「こら! 言葉遣いちゃんとしなさい!」
「ど、どうしてそんなことが言えるのよ!?」
石山さんに怒られて、とっさに言葉遣いを治す。
うー、すっかり癖になっちゃった。
「よろしい、じゃあ暗示をかけてね」
「わ、私は女の子……私は女の子……女の子らしい言葉遣いをしなければならない……」
ちゃんと声に出して暗示をかける。こんなのを続ければ状況が改善するのかな?
あーでもちょっと改善してるのかも、気付かないだけで。
「うんいいわよ。じゃあ話の続きをするわね……痴漢はね、叫ばなさそうな女の子を狙うの。地味な格好でおとなしく、化粧もしていない人を狙うのよ。自己主張が弱いと見られるから、漬け込まれるわよ」
石山さんが、痴漢されやすいタイプについて話す。
「じゃあ逆に、ミニスカートで髪染めて、厚化粧なら痴漢されないのか!?」
石山さんの話が正しいとすると、当然の疑問。
「ええそうよ。あたしも一回、制服のスカートを短くし忘れて、しかも運が悪いことに電車が遅れてて混んでいたものだから……やられたわ」
うええ、石山さんも痴漢された経験があるのかよ。
まあ、仙台は東京みたいに人だらけってわけじゃない
「で、でも……痴漢なんて……!」
もちろん痴漢があるのは知っているけど、現実感がなかった。
「女の子なんだから、常にそういうのを警戒しないとダメよ。それとも痴漢されたいの?」
石山さんは体験者だからか、やはり痴漢についてはうるさい。
「ああいや、その……は、はい……気をつけます……」
とりあえず、ここはうなずいておかないといけない。
実際、かわいいのに気が弱いとか、「痴漢してください」って言っているようなものというのは、分かる。
「もし改まらないようなら、スカート以外の服も隠してもらうわよ」
石山さんに脅される。
どうやら、服装に関しては更に厳しくなったらしい。うー、怖い。
「わ、分かったよ………」
「さ、ほかにも漫画を読みましょ。少女趣味は楽しいわよ」
そう言うと、石山さんが席を立った。
そして、しばらくすると石山さんが、また少女漫画を持ってきた。
「はーい! 新しいの持ってきたわよー」
そして、石山さんに渡された
少女漫画の女の子は、健気でかわいらしく、儚げな女の子で、一方でヒーロー役の男の子はかっこよく凛々しく書かれている。
そして思ったのは、女の子の心情描写がとても多く、また、恋する乙女は顔を真っ赤にしがちということだった。
「これも恋愛もの……」
最初の話を見ただけで、恋愛ものだと分かった。
石山さんも、黙々と少女漫画を読んでいる。
それにしても、恋愛物が多い。
単行本の後ろのあらすじを見ても、恋愛者ばかりになっている。
「ねえ石山さん」
「ん? どうしたの?」
自分と同じように少女漫画を読んでいた石山さんに声をかける。
石山さんは本から目をそらしてこちらに目を向けてきた。
いちいち仕草がかわいい。
「少女漫画って、どうしてこんなどれもこれも恋愛ものばっかり何だ!?」
「うーん……」
石山さんは顎に人差し指を当てて天井を見つめながら考えている。
どうやら、石山さんはだいぶ悩んでいて、どうやらかなり難しい問題らしい。
まあ確かに、石山さんはTS病になってそこまで日が深いわけでもないし。
「そうねえ……女の子は色恋沙汰が大好きなのよ。少女漫画だけじゃないわ。女性誌でも彼氏に好かれる服装とか、芸能人の恋愛スキャンダルとかばかりよ」
確かに、そんな感じがしないでもない。
でも、まだ実感が沸かない。
「そ、そうか……石山さんは?」
石山さんについても、よく知りたい。
余呉さんと違って、女の子になったばかりだし。
「うん、浩介くんと恋愛するのも楽しいし、クラスの女の子の恋の話も大好きよ」
石山さんもやっぱり、恋愛が好きらしい。
うーむ、女の子度が高まると、そうなるんだろうか?
「そ、そうなのか……ともかく続きを読んで見る」
とりあえず、漫画の続きを読めば何かが分かるはずだ。
恋愛のムードもよく進み、そろそろ終盤というところだけど……
な、なんか雰囲気があっち方面に向かってる!
「うっ……!」
思わず、声を上げてしまった。
そこには、明らかに「しています」という絵が描かれていたからだ。
明らかに、「少女」と呼ばれる年齢の女の子が読むようなものではない。
「な、なあ……これ……本当に少女向けなのか?」
石山さんに思わず訴える。
「うん、女の子向けの漫画だよ」
石山さんは、ニッコリと笑っている。
どこか「してやったり」と言った感じも含まれている気がする。
「でもこれ……少女漫画の方が過激な気がする……」
少年向けでこんなのを描いたら問題になりそうだ。
確かに際どいシーンが多い少年漫画もあるけど、この少女漫画ほどではないことだけは分かる。
「でも意外とあっさりしてるのも少女漫画の特徴よ」
石山さんはあっけらかんとしている。
「た、確かにそうだけど……」
確かに、ページ数だけで言えばそこまで多くない。
「女の子の恋愛とエロを知るのも大切なことよ」
石山さんの真意は分からないけど、ともかく女性の感性を叩き込むことが、今の自分達にとって極めて重要な課題になっているのもまた、事実だった。
少女漫画の単行本を読み続けて分かったのは、1巻を読む時間が明らかに少年漫画よりも長いということ。
まあこれは、週刊誌の連載との違いもありそうだけど。
「それにしても、少女漫画は読むのに時間がかかるなあ……」
「ふふっ、女の子の心情描写が多いものね」
確かに、言われてみれば、主人公の女の子の「心の声」の描写が多い。
それを読むために、必然的に「読書」する割合が高まる。
「さ、楽しい時間だけど、そろそろ時間も意識してね」
「あ、ああ……」
ともあれ、少女漫画の読書を続ける。
そうこうしていると、石山さんが席を立った。
どうやら、そろそろ時間らしい。
少女漫画を読んだこともなく、ゆっくりと読んでいたため、時間が経つのは意外と早かった。
短編の少女漫画を中心に読んだためか、どれもこれも恋愛ものばかりだった。
女の子がかっこいい男の子に恋をする。
恋愛対象の男の子はかっこいいだけではなく、強く凛々しく、それでいてお金持ちのケースが圧倒的に多い。
よく言われる、「男は女を守るもの」というのも、この少女漫画からは容易に想像が出来た。
その後も、少女漫画を読み終わると、石山さんが「そろそろ」と言うので、漫画喫茶から出ることになった。
「さて、次は東池袋に行くわよ」
「い、池袋? 何で?」
「あたしたち女の子だよ。秋葉原の電気街もいいけど行くなら乙女ロードでしょ?」
「あ、ああ……」
石山さんが示したのは、またしても女性向けという色合いの強い場所だった。
女子の多い空間は、もちろん未経験だった。
「心配しないで、あたしも初めてだからね」
「余計に不安な気がする」
「幸子さん、こっち」
「うん」
やっぱり、石山さんはすごい。
緑色のきれいなワンピース姿と、きれいで長い黒髪に頭の白いリボン、俺にはこんなおしゃれは、真似できそうになかった。
俺たちは、切符を買って今度は「山手線」に乗った。
ここからは池袋まで4駅で、そのまま東に進むことになった。
池袋には他にも様々な観光地があるけれど、今回は乙女ロードに絞るという。
石山さんが地図を見ながら、俺を案内してくれる。
とにかく、東京というのはその規模に圧倒されっぱなしだ。
「さ、ここからが乙女ロードよ。うん、あたしも来るのは初めてだわ」
とにかく女性の人通りが多い。
ただ、何故か俺たちはかなりの注目を浴びているような気がした。
「色々なお店があるね」
「すげえよ、お……あたしの地元じゃそういうのあんまなくて」
というよりも、ここまで女性に寄った場所というのも全国的には珍しいんじゃないかな?
ともあれ、石山さんいついていき、女性向けのものがたくさんありそうなお店へと入っていく。
「ねえあの2人……」
「うん、あそこまで服が違うのって珍しいよね」
「緑の人は気合入ってるよね」
「というか、かわいいし胸でかいし絶対彼氏いそうじゃん? 何でこんな所にいるのよ」
また噂になる。そして内容はさっきと同じ。
石山さんがお洒落でかわいく、俺の方はセンスがない。
「ほら幸子さん、服のセンスであれこれ言われてますよ」
「うううっ……」
こう何度も言われると、さすがに落ち込む。
うーん、正直そこまで言われてもノーダメージなはずなんだけど……
「女子は正直だからね。さ、エレベータに行くわよ」
「う、うん……」
石山さんの案内で、4階へと向かった。
そこは少女漫画とかBL系の漫画とかが大量にあった。さっきのネットカフェと全く同じだ。
「ねえ、この男同士って……」
「あーうん、BLはあたしもよく分からないんだよ」
石山さんも、どうやらそこまでは行ってないらしい。
少しだけ安心した。
「でも、ホモが嫌いな女子なんていないって話もあるけど」
昔、そんな話を聞いたことがある。
本当かは知らないけど。
「うーん、好き嫌い以前に判断できないって感じかな」
石山さんも、何やら考え込んでいる様子だった。
それよりも、館内の人の男女比を見てみると、店員さんを除けば……いや店員さんも含めて、ほぼ全員が女性だった。
さっきの場所は、女性専用以外には男性もいて、ここも特に「女性専用」というわけでもないのに、こっちの方が「女性だけ」という雰囲気が強かった。
「見事に女性ばかりだね」
「そりゃあそういう場所だし」
石山さんも、それを意図してここに来たことは知っているため、意外とあっさりとしていた。
ここでは色々なコミックが売っていて、石山さんは少女漫画を買い物かごに入れていた。
「幸子さんは何か買わないの?」
石山さんが、何も買おうとしない俺に声をかけてきた。
いや特に必要なものないからねえ……
「ああいや、その……まだよく分からないというか」
「ふふっ、しょうがないわね。でもこういうのを買えるようになると世界が変わるわよ」
石山さんの言葉の一つ一つ、私をなんとかしようという思いは伝わってくる。
だけど言う慣れば、それまでということもできる。
ともあれ、石山さんがレジで会計を終えると、この階では用無しになった。
うーんそれにしても、何だか女性の視線がひどく突き刺さる気がする。
おそらくだけど、彼女たちとしても、噂話まではしなくても、石山さんとの服装の差が、何か良からぬことを連想しているのかもしれないよなあ……
4階での買い物を終え、再び1階へ。そこにはガチャガチャがある。
「今日の記念に何かプレゼントしてあげるよ」
石山さんが、突然そんなことを言いだした。
「ああ、うんありがとう……」
突然のことで対処できなかったが、どうやらガチャを回してくれるらしい。
うーん、何だかよくわからないや。
「はいこれ。よく分からないけど」
って、石山さんもかよ!!!
「あ、ありがとう……」
どうやらストラップらしい。
うーん、つけていてもなあ……家の中で肥やしになりそうだ。
「さて、もう少し楽しもうか」
ともあれ、石山さんの言われたとおりにここを探検してみることにしよう。
「う、うん……」
「幸子さん、どこ行きたいとかあったら言ってね」
「は、はい……」
と言われても、全くわからない。
石山さんも手探りだし、しばらく手探りが続きそうだ。