永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
エピローグ
──西暦2488年──
「浩介くん、手紙、届いているわよ」
元旦のこの日、あたしたち篠原家の元に1通の手紙が届いたのを、ロボットが知らせてくれた。
「お、ついに今年か。中を見ようぜ」
「うん」
今時珍しいこの手書きの手紙の送り主は、永原マキノ。
あたしたちの遠い昔の高校時代の恩師で、あたしと浩介くんが経営している「蓬莱カンパニー株式会社」の相談役にして、世界4位の大富豪、そして人類最高齢の女性でもあった。
「新年会の招待状だわ」
「にしても、人が悪いよなあ。永原先生も」
浩介くんが、やや呆れた口調で話す。
「うん、そうよね」
永原先生とは、かれこれ470年の付き合いになるけど、未だにつかみどころが分からない。
あたしたちも今年で488歳になり、後11年もすれば永原先生と最初に会った時の年齢と同じになる。
でも、永原先生が経験した500年とは、また濃さが違っていると思う。
それでも、ここ最近は宇宙開発がどんどん進んでいて、また1年を長く感じるようになった。
「あら? 手紙? 珍しいわね」
お義母さんが、手紙を後ろから覗き込んできた。
「うん、永原先生からよ」
「あー、そういえば、聖書の登場人物より長生きになったんだっけ?」
「うん、そんな感じよ。あたしたち招待されたわ」
もちろん、今日がパーティーの日ではない。
とはいえ、もちろん欠席するわけにもいかないので、あたしは「出席」の方にマルを付けてロボットに返した。
「あいつら、どうしてるかね?」
「さあ? そもそも誰が来るのかしら?」
「さあ?」
あれから、随分と月日がたった。
長男の優輝を始め、あたしたちには25人の息子と娘がいる。
一番したの子は、今は7歳で、一方で今では子会社の社長をしてくれている優輝の家を始め、子孫も数多くいる。
あたしたちでも、下の方の子孫は全員を把握するのは難しくなっている。
比良さんに至っては、もう子孫が万単位だし、あたしたちの知らないところで、親戚関係になっていてもおかしくはないわね。
蓬莱カンパニーは、世界に蓬莱の薬を解放し、名実ともに世界一の企業になった。
あたしたちは世界最大の大富豪集団として有名になり、経済紙が発表する世界長者番付も、あたしたちと蓬莱教授のTOP3は、もう460年以上も動いていない。
様々な大富豪が台頭しては没落する中で、あたしたちは唯一無二の存在だった。
でも、あたしたちはそのことには価値をあまり見いだせない。
「ママー」
一番下の娘が、あたしに抱きついてくる。
この子がいること。結婚と子供、それが何よりも幸せだった。
「よし、じゃあ行こうか」
「うん。いい? ちゃんとお留守番するのよ」
「はーい!」
娘の元気いい返事に、あたしたちは安堵する。
何度もリフォームした豪邸を出て、あたしたちは完全自動運転車に乗り込む。
そのドサクサに紛れて、浩介くんにお尻を触られちゃったわね。
「行き先を教えてください」
「私立小谷学園」
あたしがそう口にすると、自動車はひとりでに動き出す。
もう、手動運転車は道路には存在しない。
歩行者も、赤信号を渡ろうとすることは物理的に不可能になっている。
これらの交通安全システムは、あたしたちが投資した会社の作ったものだった。
車のスピードはとても速く、高速道路も使いながら小谷学園へ向かう。
外の景色は、きれいな高層ビルが立ち並び、その中央には宇宙空間まで伸びる軌道エレベーターが設置されていた。
車はやがて、佐和山大学を過ぎ、あたしの原点でもある病院を越え、小谷学園への駐車場へと停車した。
「到着しました」
あたしたちは、複雑なシートベルトを手解き、目的地へと向かう。
目的地は、あたしと浩介くん、そして永原先生の記念館の2階だった。
「緊張するわね」
「ああ」
ピピッ
「ご用件をどうぞ」
モニターに搭載されたAIが、あたしたちに要件を聞いてくる。
「こちらです」
あたしは、永原先生からの招待状を見せる。
「……確認しました。篠原様、どうぞこちらへ」
認識した人工知能が、扉を開けてくれた。
「おー! 優子ー! 久しぶりだなあ!」
部屋に入るなり、開口一番にあたしに声をかけたのは恵美ちゃんだった。
「恵美ちゃん。久しぶり」
「おう、元気にしてたか」
浩介くんが恵美ちゃんと話す。
「おうよっ」
恵美ちゃんは今でも女子プロテニス選手世界ランキング1位に君臨する絶対女王だ。
女子テニスの神様としても知られていて、今はオフシーズンなので日本へと戻っている。
「優子さん。お久しぶりです! 100年ぶりですか!」
「うん、龍香ちゃんも、久しぶり」
龍香ちゃんは、赤ちゃんを抱いての参加になった。
龍香ちゃんは、今も愛する旦那との子作りに勤しんでいる。
あたしたちにも25人いるけど、20世紀終盤から21世紀初頭の間に生まれた、いわゆる「蓬莱の薬の第一世代」としては、それほど目立つ多さではない。
一方で、龍香ちゃんはこれで102人目の子供で、いわゆる世界記録ではないものの、それでもかなり多い方だ。
「あ、あの……お2人とも、とてもとても、お久しぶり……です」
「さくらちゃんも、相変わらずね」
さくらちゃんは、やっぱり488年生きても、その引っ込み思案な性格は変わってなかった。
今では趣味の時代劇を見ながら、パートタイムで働いている。
「あ、お2人とも、よく来てくれました」
「あら、歩美さんも来ていたのね」
「あたしも忘れないで」
「幸子さん、それに弘子さん、みんなも!」
協会の会員たちが、多くこのパーティーに参加してくれていた。
特に、あたしがカウンセラーを勤めた患者さんはみんな来てくれた。
女の子の会話の中で、京子さんが、笑いながら手を叩いて盛り上がっていた。
幸子さんは、子育ての時にもとてもお世話になった。
優輝は、元気な男の子で、正義感も強いけど、少し融通が効かない一面もあって、そのあたりの子育てで色々と助言をもらったわね。
「篠原さん、おはようございます」
「おはようございます」
「比良さん、余呉さん、おはようございます」
比良さんと余呉さんが、近くに座っていた。
よく見れば、江戸時代生まれの生き残りや、明治大正時代の生き残りたちも、たくさんいた。
既に2人とも600歳を大きく越えていて、永原先生ほどでなくても、長い人生を感じさせている。
「篠原さん、変わったわね」
「そうかしら?」
「ええ。若さは変わらなくても、中身は変わるんですよ」
比良さんの話は、時に深い意味を持つことがある。
「それを言ったら、今日の主役なんて一番そうじゃないかしら?」
「あー、会長は……はい」
比良さんも余呉さんも、「永遠の美少女」を思い、幼さを強調した格好になっている。
栄養状態もよくなった今の社会では、江戸時代の人である比良さんと余呉さんはとりわけ幼く見えてしまう。
そこをあえて伸ばすところが、TS病患者の特徴でもある。
一方で、あたしの胸の大きさは、相変わらず目立っちゃってるけど。
「お、浩介に優子ちゃん、2年ぶりだな」
「あ、高月くん」
「へっへーん」
あたしたちに気付いて次に話しかけてきたのは、高月クリニック院長で高校時代のクラスメイトの高月章三郎くんだった。
高月くんも、とても羽振りがいい。
不老による容姿の安定が来れば、次は美容整形になるのは自然のことだったからだ。
「にしても、うちのクラスは本当にすげえよな。優子ちゃんと浩介が中心とはいえ、こうして記念館もできちまってるんだからよ」
「ああ、今思えば、な」
プロテニス選手の恵美ちゃんに、あたしたち篠原夫妻、そして高月くんに、JAXAに勤務して宇宙移民の技術開発に貢献した桂子ちゃん、何よりも今日のパーティーの主役でもある人類最高齢の永原先生が担任を勤めていた。
平成30年度卒業の小谷学園3年1組は今でも世間に語り継がれる伝説のクラスとなった。
「まあ、そういうクラスは結構あるだろ? 小中高とあるんだし、実はあの人とあの人が同じクラス何てよくあることだろ」
確かに、その通りかもしれないわ。
高月くんは、かなり多忙だし、他のクラスメイトにも、各自時間があるはずだけど、蓬莱カンパニーの名前を使うと、こんなに人を集めやすいのよね。
「蓬莱カンパニー様々だぜ。今や新人もあんまし入ってこねえし、あたいらの技術はどんどん増してくしなー」
恵美ちゃんが、ジュースを飲みながら豪胆に話していた。
恵美ちゃんの性格は相変わらずで、女子受けはいいけど、男子受けはあまりよくないままらしい。
でも、恵美ちゃんの顔には余裕がある。
それは、蓬莱の薬のお陰で、何歳になっても恋愛できるようになったからだと思う。
「それで、今度の巨大人工衛星コミュニティの開発計画はどうなってるんだ?」
「ええ、順調です。今後は実験を繰り返して、宇宙の延命や、場合によってはトンネル効果を作り出して宇宙の創造などを考えていきたいと思っています」
「夢のある話だが、まずは太陽系からの脱出が鍵だろう? 太陽系外移民には間に合うのか?」
「恒星たちは常に動いています。近付く恒星を狙うのも有りでしょう。このコミュニティができれば、惑星改造すれば住めるような星でも大丈夫になります」
別の一室で、2人の男女が会話していた。
1人は、あたしたちの両親と同様、人口が増えた今では珍しくなった古参世代の象徴である中年風の男性で、もう1人は若い少女だった。
「桂子ちゃん、それに蓬莱教授!」
「おお、優子さんと浩介さんも来ていたか」
「俺たちが来なきゃ、いかんでしょ」
桂子ちゃんと蓬莱教授は、22世紀になってから急速に連携を強めている。
あたしたちも株主に名を連ねていて、200年前に民営化を達成した大きな会社がある。
それが、「宇宙運輸株式会社」と「宇宙不動産株式会社」で、これらは桂子ちゃんが事実上の創業者である。
桂子ちゃんは、あくまで国営時代の創業者で、今でも身分はJAXAの職員だけど、それでも創業者としてかなりの株式を保持している。
これらの宇宙開発会社によって、人類は活動範囲とキャパシティを大きく広げ、不老に伴う人口爆発にも耐えられるようになった。
また、宇宙線による放射線問題も、蓬莱の薬が解決によく機能してくれていて、宇宙開発と蓬莱の薬は、切っても切れない関係になっていた。
お陰で、あたしたちは株式の配当金で出資したこれらの宇宙開発産業で大きな成功を納めて、今でも世界最大の資産家の地位を維持し続けている。
「桂子ちゃんに感謝しないとね」
「そうねえ、でも、私も夢を叶えられてよかったわ。もちろん、まだまだこんなところでは終わらないけどね」
桂子ちゃんは、次なる宇宙開発に目を向けている。
宇宙開発は、最初の100年のアドバンテージがあまりにも大きいとはいえ、蓬莱の薬と違い、基本的に他の国の会社とも競争しなくてはいけない。
「桂子ちゃん、本当にすごいわよね。あたしたちは、少し燃え尽きちゃってる所もあるのに」
黙っていても、もう蓬莱カンパニーの地位は揺るぎがない。
もちろん、世界解放になった前後は苦労も多かった。
特に厄介だったのが、「不老にならない権利を保証しろ」という海外の声だった。
もちろん、そんなことを日本が応じる必要もなく、あの当時の日本は今と同じく、世界の超大国としての地位を維持しており、結果的に「不老にならない権利」をうたった高福祉国は、悉く国家破綻の憂き目に遭った。
世界一の資産家として、本業をしつつもこうした政治的根回しもしなきゃいけなかったので当時はかなり忙しかったわね。
テーブルでは、小谷学園の教師や現在の生徒たちが忙しく料理の準備をしていた。
今回のパーティーは、永原先生曰く「神への勝利記念」でもあるという。
「でも驚いたのは、私たちが作ったあのジオラマ、今でも修復されながら使われているんだってね」
「そうよね」
あたしと桂子ちゃんが小谷学園を卒業したのは469年前の春のことで、今も続く天文部に保存されている。
毎年当時の写真を見ながら、学生たちが補修作業をしてくれている。
「あ、おばあちゃん」
聞き覚えのある女の子の声が聞こえてきた。
「うっ、こらあ! おばあちゃんって呼ぶの辞めなさいっていつもいってるでしょ!?」
この子には悪気はないんだけど、あたしたちの世代で「おばあさん」というと、老人女性一般を指す言葉になる。
あたしたちにとって、おばあさんは、優輝を産んで2年後に106歳でこの世を去った浩介くんのおばあさんのことを指す。
あの時は命は短いと思ったけど、意外と長生きしていて驚いたわ。
今のあたしたちは、そのおばあさんの4倍以上長生きになっちゃったけどね。
「だってー! 祖母は祖母だしー私孫の中では下の方よ」
孫娘が、駄々をこねる。
この子は、あたしの22番目の子供の孫で、小谷学園の生徒だった。
もちろん、あたしたちが最後に産んだ子供より年上ということになるけど、これでも孫たちの中ではかなり年下の方になる。
具体的には、あたしたちは初孫が70歳の時に出来たので、年の差は400歳ほどになる。
子孫がもう17代目までいることを考えれば、もはや遠い子孫は把握をしたくもないけど、孫と言えばまだまだ近いのでこうしたことが起きる。
「あー、オールド世代は辛いわねえー!」
「ジェネレーションギャップって言うのかしら?」
「まあ、そんなもんだろ。俺よりかマシだって2人とも」
蓬莱教授が笑いながら話す。
あたしたちやここのクラスのみんな、瀬田教授や優輝も含め、蓬莱の薬が世界解禁される100年ほど前に不老化したために、外国人の誰よりも年上になった日本人を「オールド世代」と言う。
更にその中でも、20世紀の産まれ、つまりギリギリあたしたちまでの生まれは、「古の世代」、更に、この世に生きる男性で一番年上で、530歳を越えた蓬莱教授より年上のTS病の女性たちを「TS病の世代」と呼ぶ。
特にその中でも19世紀の生まれは特に貴重な存在で、更に18世紀産まれと17世紀産まれを飛び越し、16世紀産まれの永原先生は、昔から「人類の長老」と呼ばれている。
蓬莱教授も蓬莱教授で、たくさんの苦労をしてきた。
貧乏人に妬まれることも多かったし、研究者仲間でも、どうしても嫉妬の的になってしまうことはあった。
それでも、既に5回受賞しているノーベル賞の中でも、あたしたちと共に受賞した2回目の業績は圧倒的であった。
「ヘえー直哉さんいい人ねえー!」
「直哉はあげないわよ」
「分かってるわ幸子さん。あたしにも旦那いるもの」
幸子さんと歩美さんが、仲良さそうに話している。
あたしが最初期に面倒を見た子達で、あたしがカウンセラーとして担当した子達の間でも一目置かれているみたいでよかったわ。
宇宙開発が進むことで雇用が満たされてはいるとはいえ、基本的には今の時代はやや人口が過剰気味になっている。
このあたりの対策は、各自待たれるものであるけど、基本的には今後も宇宙開発で新しい雇用が産まれ続けてくれるはずで、今では月人金星人火星人宇宙ステーション人は珍しくない。
月や金星、火星を領土に持つ国はまだなく、大半が「世界非解放時代」に開発されたために日本領になっていて、このアドバンテージが、特に今でも大きく作用している。
「それにしても、遅いですわね」
「ええ」
比良さんと余呉さんが、主役の永原先生が来ていないことに気を揉んでいた。
ピピッ
すると、突然扉が開かれ、女性が部屋に入ってきた。
低い身長に、比良さんと余呉さんに負けないきれいな童顔、あたしほどに真っ黒じゃないけど、そ美しい肩まで伸びる大和撫子のさらさらな黒髪の美少女は、レディーススーツに身を包んでいた。
「ごめんなさい、職員会議に遅れました!」
「お、真打ちの登場だ!」
浩介くんが、興奮した。
それは紛れもなく、永原先生だった。
「みんな、今日は私のためにありがとうね」
永正15年、西暦1518年に産まれた永原先生は、今年で970歳になった。
小谷学園の教師として、既に人生の半分を、小谷学園に費やしてきた。
「神を越えた日っかあ、永原先生もついにそこまで来たんだよな」
「ええ」
永原先生が、自分の席へと向かう。
あたしたちが現役の高校生だった時と同じく、美人な永原先生は生徒にもとても人気で、だけど実年齢もあって告白する人はいなかった。
永原先生は、少なくとも、あたしたちが知る限りでは彼氏はいなかった。
「でもよ、何で30年後じゃなくて今なんだ?」
高月くんは、「神を越えた日」の意味を知らないのか、永原先生に疑問を持っていた。
「あーうん、旧約聖書の人の中で一番年上の人が969歳で死んだことになってるのよ」
確か名前はメトシェラだっけ?
「あーそういえば、永原先生はキリスト嫌いだったか」
高月くんは、永原先生がキリスト教を嫌っていることを思い出し、納得してくれた。
「うんそうよ。20年くらい前からちょくちょくキリスト教の過激派に狙われそうになってねー、まあそれで警護とかつけてもらってたんだけど、多分後3年もしたら大丈夫だと思うわ」
「3年かあ、結構長いなー」
浩介くんが、ため息をつく。
今でも、宗教の過激派は結構いるらしい。
それでも、永原先生の所に来そうになったのは、蓬莱の薬を飲む前段階の一部のごく若い過激派で、蓬莱教授の予言通り、宗教は衰退の一途を辿っている。
「まあ、常に私にはベテランの警護がついているから大丈夫よ」
永原先生は、けろりと話す。
この神経の図太さが、永原先生の真骨頂なのかもしれないわね。
最も、そうした人を殺傷しそうな武器は、強く監視されているけども。
「ふう、じゃあそろそろ時間だから」
「うん」
永原先生が、立ち上がる。
「皆さん、今日は私の970歳の『神を越えた』記念パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます。皆さんには、今年も、来年も、そのまた来年も、ずっとずっと健やかに無事に過ごして下さいますことをお祈りいたします」
永原先生の口上に、全員が注目する。
「それからですね……皆さんにお知らせしたいことがあります……私に……彼氏が出来ました!」
「「「えー!?」」」
会場の全員が、驚きにどよめいた。
あたしは、特に驚きが強かった。
永原先生は、「孤高の人」という印象があまりにも強い。
もちろん、永原先生くらいに美人なら、なり手はいくらでもいるだろうけども。
「私も、いい加減江戸時代のことを根に持つのはよくないし、伊豆守殿も4代様も、それは不本意だと考えました。幸い、彼氏はすぐに見つかったわ。もちろん、結婚できるかは分からないけど、それでも頑張ってみるわ」
永原先生も、恋愛を始めるという。
今の時代は、いわゆる古い言葉で言う「できちゃった結婚」がとても多い。
それは、蓬莱の薬で結婚を焦る必要性もなく、さりとて子供が産まれれば現実問題シングルマザーや事実婚のままでは厳しいので、結婚ということになる。
そして、蓬莱の薬で長生きになったため、昔より結婚には慎重なカップルが多く、子作りをすることがプロポーズの代わりにもなっている。
でも、まさか永原先生が、また恋愛を始めるなんて思わなかったわ。
「私からは以上よ。乾杯!!!」
「「「乾杯!!!」」」
変わらないものもあれば、変わるものもある。
この500年で、地球は、人類は大きな変化をいくつも経験した。
その度に大きく乗り越え、そして更なる躍進へと繋がった。
あたしたちは、蓬莱教授は、桂子ちゃんは、そして永原先生は、その中心にいた。
永原先生という、「古さの象徴」にも、「新たな始まり」が芽生える。
あたしたちも、これから子供たち子孫たちと、「新たな始まり」を経験するだろう。
思えば471年前のあの日もそうだった。「石山優一」の終わりは、「石山優子」の新たな始まりでもあり、「石山優子」の終わりは、「篠原優子」の新たな始まりにすぎなかった。
あたしの中で残っていた「男」の終わりは、「女」の新たな始まりだった。
絶えず変化する中で、1つだけ、変わらないことがある。
「ねえ、浩介くん」
「うん? どうした優子ちゃん」
「愛してるわ」
「何だよいきなり。いつものことじゃん」
「言ってみたくなったのよ、ふふっ」
おしまい