永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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2027年12月10日 盛り上がる晩餐会

 あたしは、テーブルの更に別の場所に行く。

 デザートの時間まではまだ余裕があるので、どんどん交流を深めていきたい。

 

 佐和山大学のテーブルを抜けて次に来たのは、あたしたちにとっても特に身近な人のテーブルだった。

 

「優子」

 

「母さん」

 

 次にあたしたちが見たのは、あたしたちの家族、更に蓬莱教授の家族と思われる人達が座っているテーブルだった。

 

「優子、その格好。勇気あるわね」

 

「えへへ、これが一番男にモテるからね」

 

 あたしは、男の扱いにとても慣れている。

 それは、共学女子というだけでは決してない。

 

「もう、浩介くん、また嫉妬しちゃうわよ」

 

 母さんが、あたしに忠告をしてくれる。

 うん、確かに、浩介くんは嫉妬深いし、嫉妬しちゃったら、ご機嫌を直すにはすっごく恥ずかしい思いをしないといけない。

 それでも、あたしはやめることができない。

 

「あはは、うん、気を付けるわ」

 

 あたしには、もう1つ、このノーベル賞晩餐会の目的がある。

 あたしがくまさんのぬいぐるみを持っている姿は、まさしく子供そのもので、「27歳がこんな子供になれて、しかもノーベル賞まで取れるのが蓬莱の薬」ということを世に示す目的もある。

 

「ま、優子は浩介くんを嫉妬させちゃっても、ちゃんとフォローしているんでしょ?」

 

「うん、それに、あたしだって嫉妬深いもの。お互い様だわ」

 

「そう、まあ、優子を嫁に貰って浮気するわけないとは私も思ってるけど」

 

「当たり前よ」

 

 母さんも、あたしのことは自慢の娘だと思ってくれている。

 そのことが分かってよかった。

 父さんはというと、お義父さんと、おそらく蓬莱教授の親戚と思われる人と話していた。

 会話内容を聞く限りでは、どうやら「たかる親族」が怖いらしい。

 父さんもお義父さんも、会社はやめていない。

 もちろんやめることも考えていたが、息子夫婦、娘夫婦に完全に寄生するのは気が引けたのに加え、給料が全て自分たちのお金になって、事実上家賃や光熱費などの心配がなくなったため、趣味のお金を調達する目的もあるみたいね。

 

「そうそう優子、このノーベル賞が一段落したら、そろそろ孫の顔見せてよね」

 

「えっ!? う、うん……」

 

 うー、今日が一番の危険日だってことを意識してしまったわ。

 ホテルに帰ってからと思ったのに。

 

「あらその反応……いつもなら『はいはい』って感じで流すのに」

 

「うー、知らないっ!」

 

「あらあらまあまあ」

 

 逃げるようにその場から離れると、母さんからの不適な笑みが帰ってきた。

 ノーベル賞を取ったからといって、近しい人たちとの関係が劇的に変わるわけではない。

 だから、あたしは相変わらず母さんのペースには簡単に飲まれてしまう。

 ふう、日本語の会話で助かったわ。

 これが中央のテーブルの人に意味を理解されていたら大変だったもの。

 

 そして、それらのテーブルの隣には──

 

「優子おめでとう!」

 

「え、恵美ちゃん!」

 

 恵美ちゃんがドレスで思いっきりおめかししていた。

 全く飾らない恵美ちゃんでも、こういう場ではなるべくかわいく見えるように頑張っている。

 普段が普段なので、絶対評価以上にかわいく見える。

 

「いやー、あたいもニュース聞いたときは驚いたぜ。まさか世界2位の資産家になった挙げ句ノーベル賞ってさー」

 

 恵美ちゃんは、様々なテニス大会で優勝していて、現在でも世界ランキングは1位、恵美ちゃんが蓬莱の薬を飲んでいたことは既に周知の事実にはなっているけれど、もちろんあたしたち蓬莱カンパニーの圧力もあって、恵美ちゃんの蓬莱の薬使用による処分は何ら無いことが発表されている。

 

「うん、あたしもビックリしてるわ。あの時電話がかかってきてから、本当に大変よ」

 

「ねえ、メダル見してよ」

 

「うん」

 

 恵美ちゃんが、うきうきした顔であたしのメダルを取る。

 恵美ちゃんの方が多分この手のメダルや賞状を貰っていると思うけど、やっぱり学術的なノーベル賞ともなると違うらしい。

 

「この顔、本当にあちこちで見るよなー」

 

「まあそりゃあ、こんな時期だし」

 

 ノーベルの横顔を見て、恵美ちゃんも少し食傷気味らしい。

 

「で、裏面は……この絵は何だ?」

 

 恵美ちゃんがメダルをひっくり返し、覗き込んでいる。

 すると、知らない間に、女子たちが集まってきた。

 よくよく見ると、それはみんな小谷学園時代のクラスメイトだった。

 

「へえ、不思議な絵ですねー男女が寄り添ってるけど、男は何してるんでしょうか?」

 

「龍香ちゃん!」

 

「いやー、スウェーデンはあっという間に夜ですよねー。これはダーリンとの時間も長くとれますねーぎゅふふ」

 

 龍香ちゃん、相変わらず旦那に夢中らしい。

 まあ、変わらないみたいでよかったわ。

 

「あの……おめでとう……ございます……」

 

 さくらちゃんが、あたしをお祝いしてくれる。

 蓬莱の薬をまだ飲んでいないのか、あたしや恵美ちゃんなどと比べると、かなり大人びた女性になっている。

 口調や性格は、そこまで変わってないみたいだけどね。

 

「さくらちゃんもうまくいってるかしら?」

 

「はい」

 

 どうやら問題ないわね。

 

「ところで、ここにあるよく分からない文字列は何語何ですか?」

 

 恵美ちゃんと一緒にメダルを鑑賞していた龍香ちゃんがお決まりの質問をしてくる。

 

「これはラテン語で『見出だされた技術を通じて人々の生活を高めることが喜びとなる』って言う意味で、この絵は病気の少女と医者の絵なんだって」

 

「ほえー、まさに生理学・医学賞何だな」

 

 メダルの意味を説明すると、恵美ちゃんも納得した様子になる。

 蓬莱教授は以前、この言葉を「まさに自分にふさわしい」と言っていた。

 

「まさに、優子ちゃんにふさわしい言葉ね」

 

 突然の声に、あたしは頭を上にあげ、恵美ちゃんたちが後ろを振り向く。

 

「桂子ちゃん」

 

 そこにいたのは桂子ちゃんだった。

 左手薬指の指輪が、とても眩しい。

 

「やっほー、ビックリしたわ。優子ちゃんがノーベル賞だなんて」

 

 それ、あたしたちが世界一の資産家ファミリーになった時にも同じこといってたわよね。

 あーでも、どっちもそりゃあ驚くに決まってるか。

 

「あたしは、皆がここにいることの方がビックリだわ」

 

「あーうん、先生が手を回してくれたのよ」

 

 どうやら、永原先生を通じて、ノーベル財団に招待してもらったらしい。

 もちろん、ここにいるクラスメイトは一部で、例えば高月くんは、博士医学のための論文で忙しくて参加できなかったとか。

 

「メダル、見せてくれる?」

 

「うん」

 

 あたしは、桂子ちゃんにノーベル賞のメダルを見せてあげる。恵美ちゃんや龍香ちゃんと違い、かなり憧れの色の強い印象を、あたしは何となく受けた。

 

「いいなー。私も物理学賞とか受けてみたいわね。まあ、修士じゃ無理だとは思うけど」

 

「桂子ちゃん、蓬莱教授と同じこと言うのね」

 

 以前蓬莱教授は、「ノーベル賞は極めて受賞困難で、『才能と学歴は関係ないと言っても、最低限博士号が必要』だと思う」と言っていた。

 その上で、学士の学位でノーベル化学賞を取った日本人男性について、「俺の理解を越えた存在」とも話していた。

 やはり桂子ちゃんも同じ感想なのか、「修士ではノーベル賞なんて無理」と思っている。

 でも逆に言えば、博士ならノーベル賞のための最低限の力量を身に付けられたかもしれないという意味にもとれた。

 

「ま、仮に博士でも絶対無理と断言していいようなレベルだけどね。優子ちゃんや浩介とはレベルが違うのよあたしたちは」

 

 桂子ちゃんは、頭脳の出来について、あたしたちと大きな、埋めがたい開きがあると思っている。

 まあ、こんなメダルを貰っちゃったら、そう思うのは無理もないことよね。

 

「だな、しっかし優子、高校の成績はそんなに上位って感じでも無かったよな。真ん中よりはかなり上だったけど」

 

「あーうん、よく覚えてないわ」

 

 高校での勉強は、博士号を取った今振り替えると、子供の遊びのようなものにしか感じない。

 さすがに、大学の学部レベルの授業は、皆難しい大人の学問だとは思っているけどね。

 

「まあ、もう10年も前のことだものね」

 

「うんうん」

 

 桂子ちゃんが言うように、あたしたちも随分と長い時間を過ごした。

 またいつか、あたしたちで同窓会を開きたい。

 その時は、あたしたちと恵美ちゃん、どっちが注目されるのか見物よね。

 

「私も、JAXA頑張らなきゃ」

 

 桂子ちゃんが参加している宇宙移民計画も、あたしたちのノーベル賞受賞で奮起してくれると嬉しいんだけど。

 

「桂子ちゃんも、頑張ってね」

 

「うん」

 

 あたしは、クラスのみんなに一通りメダルを見せると、テーブルの端に到着した。

 そしてそこには──

 

「あら、篠原さんいらっしゃい」

 

 永原先生が、笑顔で歓迎してくれた。

 そして、ノーベル賞受賞者と同じくらいか、いや下手をするとそれ以上の数のマスコミが殺到している。

 

「Do you believe? She was born in 1833! She’s 194 years old. It's same age to Nobel!(信じられますか? 彼女が生まれたのは1833年、194歳です。これはノーベルと同い年なのです)」

 

 あたしが、テレビの方を見ると、困惑した表情の余呉さんと、懸命に通訳する通訳さんに、テレビカメラが向けられていた。

 

「今は余呉さんが取材を受けているみたいです」

 

 よく見ると、そこは協会の正会員たちが座っていて、みんな美女揃いというのもあって凄まじい取材攻勢を受けている。

 

「永原先生なんてもっと大変じゃないの?」

 

「ええそうよ。江戸時代の話とか暮らしぶりとか、本当によく聞かれたわ。この着物のこともね──」

 

 永原先生は、吉良上野介の着物を着ていて、この着物が「300年前のもの」と答えたら現地のメディアに仰天されたらしい。

 ちなみに、今朝のテレビの取材依頼に至っては、現地入りする前から調整していたものらしい。

 

「アメリカのメディアに取ってみれば、ジョージ・ワシントン建国以前から残っている着物ってことだもの。私本人だけではなく、着物よりも年下ってことになるもの」

 

「永原先生のお宝なんて、多くはそうでしょうに」

 

「まあね」

 

 永原先生がにっこりと笑いながらそう答える。

 永原先生の家宝は、国宝や重要文化財への指定が相次いでいる。

 経済的負担についても、株式のお陰で莫大な富を得たことで、特に問題はなくなったとか。

 

「They are over 80% Japanese.(彼女たちは80%以上が日本人だと言います)」

 

「They are no aging. But, this syndrome was often suicide. Because this syndrome is big mental blow.(彼女たちは老化しませんが、この病気はしばしば自殺者を出していたと言います。何故なら、とても精神的負担が大きいからです)」

 

 キャスターたちが、カメラに向かって話す。

 

「I think that their issue is their educational system.(私が思うに、彼女達の教育方法に問題があると思います)」

 

 あら? また好き勝手言っているわね。

 

「Where issue? Why?(どこに問題があるのかしら?)」

 

 ノーベル賞なので、あたしは遠慮なくテレビカメラに乱入する。

 

「Ah...I think that your educational system is too drastically.(あー、私が思うに、協会の教育方法は急激すぎないかと)」

 

 あら、どうやらフェミニズムイデオロギーではないみたいね。

 

「10 years ago, I reformed educational system. Ever since, suicide was decreased sharply.(10年前、あたしが教育方法を改革しました。それから、自殺者は急激に減り続けています)」

 

 そう、今の教育法の原点は幸子さんから始まっている。

 今は子育てに奮闘するママとして活躍している。

 ちなみに、会員たちは協会の持つ蓬莱カンパニー株式の配当金で、相応のお金を得ることができるようになった。

 会費も無料になったので、今まで払っていた分も戻ってきた。

 まあ、株の配当金なので、いくら蓬莱カンパニーでも、信用しすぎはいけないけど。

 

「Oh...10 years ago, you were 17 years old. Did you reform really?(おー、10年前と言うと17歳ですよね。本当にあなたが改革したんですか?)」

 

 驚いたようにキャスターさんが話す。

 そう、何を隠そうTS病患者への教育プランを改革したのも、このあたしなのよね。

 

「Yes, now educational system was designed by her. (そうよ。今の教育システムをデザインしたのは篠原さんなのよ)」

 

 あたしが言う前に、今度は近くにいた永原先生が乱入してきた。

 永原先生の英語は、あたしや浩介くんと同じでかなり怪しい。

 まあ、日本人には英語って難しいものね。

 

「I was surprised.She is genius.(驚いた。やっぱり彼女は天才だ)」

 

 キャスターの人が、やや大袈裟気味に驚く。

 いくらあたしでも、17歳でそういうことをするというのは、驚かれるらしい。

 

「If she is not genius, she is not come here.(篠原さんが天才じゃなかったら、今ここにいないわよ)」

 

「Humm...」

 

 あたしそっちのけで、永原先生が込んでいる。

 どうやら、フェミニストたちも、さすがにTS病患者に喧嘩を売る気はないみたいね。

 

 さて、あたしは別のところに行かなきゃ。

 

「はぁ……はぁ……ほら、篠原さん来ましたよ」

 

 余呉さんが、疲れた顔であたしを指差していた。

 

「余呉さん、どうしたんですか?」

 

「どうしたもこうしたも、私がノーベルと同い年だって分かってから、テレビの取材がとんでもなく多くて──」

 

 余呉さんが、かなりうんざりした表情で話している。

 どうやら、かなりの取材攻勢に遭ってるみたいね。

 

「あ、あはは……」

 

「Dr.Yuko Shinohara, why TS syndrome is no aging?(篠原優子博士、TS病はどうして不老なんですか?)」

 

「I don't know.(知らないわよ)」

 

 TS病が何故不老になるのか? という疑問の答えは、どちらかというと哲学に属すると思う。

 身も蓋もない言い方をすれば、「TS病の過程で不老遺伝子が作られるから」ということになるけど、その言い方じゃ納得してもらえないだろうし、「何故不老遺伝子が作られるのか?」と質問されるに決まっている。

 

「What do you think your future life?(これからの人生についてはどう考えていますか?)」

 

「For a while I will continue Horai company's director.(ひとまず、蓬莱カンパニーの取締役を続けたいと思っています)」

 

 最も、浩介くんとの赤ちゃんを作ったら、その限りではないかもしれないけどね。

 何だかんだで、主婦にも憧れがあるし。

 

「篠原さん、ノーベル賞おめでとうございます」

 

「あら、歩美さん」

 

 今度は歩美さんが話しかけてきた。

 

「これ、幸子さんから」

 

 歩美さんは、ドレスのポケットから手紙を出してきた。

 幸子さんは育児があるので、ここにはいないけど、どうやらあたしにメッセージがあるのね

 

 

「篠原優子さん、ノーベル賞おめでとうございます。私も、篠原さんに教わった身として、ノーベル賞の受賞は嬉しいです。私は今、育児に奮闘中です。直哉との赤ちゃんはとってもかわいくて、手のかかる子ですが、いつも癒されています。初めて赤ちゃんを産んだ時、怖いくらいかわいくて、命を懸けてもこの子を守ろうと、今でも強く思っています。篠原さん、私は今、篠原さんのようにお金持ちでも、ノーベル賞のような名誉もありません。でも、赤ちゃんがいるだけで、とても幸せな気持ちになれました。この幸せを、是非篠原さんにも味わってほしいと思います」

 

 

 手紙には、そのように書かれていた。

 そしてもう一枚の写真には、あの時と変わらない幸子さんと直哉さん、そして赤ちゃんが写った写真が同封されていた。

 幸子さんは、とても幸せな顔をしていた。

 

「歩美さん、ありがとうね」

 

「いえいえ、同門として、後輩として、当然のことですよ」

 

 歩美さんはかわいらしい笑顔でにっこりと笑った。

 歩美さんの左手薬指に嵌められた指輪が、あたしの指輪に負けないくらい、強く輝いていた。


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