永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
株主総会も終わり、株の配当金が入ってきて、あたしたちの口座は一気に1000億円以上が入ってきた。
ちなみに、面倒なので税金についてはあれこれ節税するのではなく、自分で確定申告を出すだけにとどめることにした。
これだけの収入があったら節税なんてしても仕方ないし、更に全国民が満遍なく蓬莱の薬を飲めるようにするためにはある程度の再分配も必要だろうという観点からも、タックスヘイブンへの所得移転をする必要性は無いと判断した。
そして、収入の一部は、もちろん例の豪邸に充てられることとなった。
8月初頭、ついに豪邸が完成したという電話を受けた。
最も、その後は色々と試運転があるので、実際にあたしたちが住むのは1週間後ということになる。
ちなみにその間にも、大学院で残っていた最後の単位の合格通知が届き、あたしたちは佐和山大学に行くことはもうなくなった。
まあ、最後3月に一応卒業式が控えているけどね。
いずれにしても、これからは会社にほぼ専念することになるのは間違いない。
「この家も、もうすぐおさらばなのね」
「ええ」
あたしたちは、荷物をまとめている。
引っ越しの前準備で、段ボール箱に持っていくものをつめていく。
家具類に関しては、愛着のあるもの以外はほぼ持っていかないけど、衣服やおもちゃなどはあちらの家でも使っていく。
また、豪邸に引っ越す際にも、各自が独自に購入するものもあって、それらはインターネットの通販か、あるいはオプションとして不動産屋さんが追加料金で高級家具店に行って購入してくれたものを選ぶ。
あたしも、最新型高性能の家電品をいくつか買い求めている。
「何だか、そう思うと惜しいよな」
「まあ仕方ないわよ。今でも身に覚えのない親戚とかここに来るもの」
件の経済誌で、篠原家が「世界一の資産家ファミリー」に認定されてから、とにかく困ったのはこの手の「自称親戚」や「自称古い友人」というもので、あたしの実両親の元にも来ているらしい。
とにかく彼らは「お金を分けてくれ」とうるさい。
いくらあたしたちでも、所得を国民全員に配っていったら2000円にもならなくて到底生活も出来ない。
また自称親戚ではなく、本当に近しい親戚たちまであたしたちにたかり始めていて、もちろんあたしたちはそういうのは「いくら世界一に資産家でもそんなことしてたらすぐに破産する」と言ってお引き取りをお願いした。
実際、年収が1000万ドル以上あるようなアメリカのプロスポーツ選手も、そうした「たかる親戚」のせいで、引退後に数多くの人が破産してしまっているらしいし。
まあ、あたしたちの年収は、1000万ドル単位じゃなくて10億ドル単位だけど。
「ま、これで親戚連中からは恨まれるだろうな」
浩介くんがふうとため息を付きながら話す。
「仕方ないわよ」
ただでさえ浩介くんは、かわいくて美人でその上家事も上手いと評判のあたしと若くして結婚したことで、親戚たちからは嫉妬されていた。
そこに来て、今回の蓬莱カンパニーの成功で、蓬莱の薬を飲めた上で大金持ちになってしまったのだから大変だわ。
最近は、何の気なしに家の中を徘徊することが増えた。
この家に住んでいたのは8年半程度の時間で、石山家の実家に住んでいた時間の約半分だった。
「優子ちゃん、知ってると思うけど明日引っ越しになるわ。石山さんとは現地集合で、準備が一通り終わったらおばあさんが来るわ」
引っ越しの予定日はもちろん既に知っていた。
豪邸はもう、あたしたちの入居を待つだけの存在になった。
「ええ」
既に分かっていたため、特に深い感慨もなく、あたしはご飯を食べる。
ただ1つ気になるのは、また母さんたちとも住み始めること。
これは、実両親の元にも「自称親戚」や「自称古い友人」、あるいは「親戚」が来ているせい。
結果的ではあるけどあたしたちが迷惑をかけた補償でもあるけれども、仲のいい実両親と義両親が同居を始めることに不安がないわけでもないのよね。
まあ広い豪邸だし、大丈夫だとは思うけど。
「ふう……」
あたしは意味もなく、この家の周囲を回った。
やっぱりこの町にも、そしてこの家にも愛着があるから、引っ越しというのはやはり少しだけ心残りになるわね。
もちろん、引っ越す先は都内の高級住宅街で、敷地面積も交通の便も圧倒的にいいし、固定資産税やその他の維持費はかかるものの、あたしたちの収入からすれば、どうってことのない金額である。
恐らく、この家かあの豪邸か、あたしたちと同じくらいの収入があると仮定すれば、間違いなく1000人に1000人は豪邸の方を選ぶと思う。
ピンポーン
玄関の呼び鈴が鳴った。間違いなく、あたしたちのこの家での最後の来客になる。
「はーい」
そのとき一番玄関に近かったあたしが、応対する。
ちなみに玄関には、大量の段ボールが置いてある。
向こうに持っていく物は全てこの中に入っていて、今夜はホテルに泊まることになっている。
「すみません、これからこちらの段ボールを運びますね」
やって来たのは予想通り、引っ越し業者の人だった。
ちなみに、安全を期したいので、前日に来てもらって明日までという余裕のある日程で運んでもらうことになった。
お金は余っているので、もちろん余裕のある資金を持って人も増やしている。
「はい、お願いします」
「それでは」
玄関の向こうにトラックが見える。
この段ボールの中には、お人形さんや少女漫画、おままごとセットといったあたしの私物も入っている。
また、ベッドのように大きく重たいものは解体されている。
あたしのベッドは広くて大きいので倉庫部屋に予備として置いておくことになっている。
あたしは引っ越し屋さんを見送りつつ、昼食に向けてもう一度リビングへと向かった。
今日はいつもの休日と同じく、あたしとお義母さんで昼食を作ることになっている。
今はもう、あたしの部屋は殺風景で何もない。浩介くんの部屋はベッドがあるだけで、やはり多くは段ボール箱の中に入ってしまっている。
あたしたちは、この家で最後のお昼ご飯を食べる。
引っ越し業者さんが全ての荷物をしまい終わったら、あたしたちもいよいよホテルに向けてこの家を出ることになる。
そうすれば、この家は無人になる。
いくつか家具があるので、もしかしたら中古でこの家を買いたいという人も出てくるかもしれない。
「「ごちそうさまでした」」
食事が終わり、あたしたちは慌ただしく最後の準備をする。
あたしは念のためトイレに入った。
あたしは、小谷学園の卒業式の日を思い出す。
あの時も、実家から出る前には、「最後の食事」とか「最後のトイレ」というものが存在した。
実家での石山優子としての最後の食事は、あたしが作った。
「さ、行くわよ」
この住み慣れた家とも、とうとうお別れの時が来た。
あたしはリビングのソファーに座って、最後のひとときを過ごす。
未練はある、愛着もある。篠原家も、あたしの実家の石山家もなくなる。でもそれは新しい始まりに過ぎない。これから住む家は、間違いなく今よりもずっと住み心地がいいはずだから。
「はい」
お義母さんを先頭に、あたしたちは僅かな手荷物を持って家を出る。
浩介くんが財布から家の鍵を取り出して鍵を閉める。
正直、もうこの家に空き巣が入ってきても構わないんだけど、一応中古として買いたい人を想定することにした。
古い家の鍵は、不動産屋さんに後で郵送で送ることになっていて、それについても今夜ホテルに引っ越し業者さんが来てくれることになっている。
うーん、何でもかんでもやってもらっちゃってて、あたしたち大丈夫かしら?
「間もなく、電車が参ります」
この電車に乗るのも、恐らくもう殆どない。
もしかしたら、実験や研究のために佐和山大学に行くことはあるかもしれないけど、少なくとも今までと比べれば使用機会は格段に減ることは間違いなかった。
子供の頃から、ずっと慣れ親しんできた沿線だということを考えると、ある意味で家よりも未練があった。
使い慣れたICカードも、明日から定期券の区間が変わることになる。
渋谷駅と悩んだ末、結局「定期代は大したことない」ということで神泉駅から渋谷駅で乗り換えるルートになった。
「ふう」
あたしも浩介くんも、少しだけ感慨深いものがある。
でもまあ、この電車にもう二度と乗らなくなるというわけではないから、さっきの家よりは、深い感情はないかしら?
あたしたちは電車を何度か乗り継いで、渋谷駅に到着した。
「人が多いわね」
「ああ」
この駅は広くて迷う、立体的な複雑せいだけではなく、その人の数の多さも、渋谷駅の大きな特徴になっている。
あたしたちは目的のホテルに近い出口から出て、そのままホテルにチェックインした。都内のホテルで、比較的観光客が多く、あたしたちのような客は稀だった。
本当はスイートルームでよかったんだけど、部屋の都合上2人部屋が2部屋となって、あたしはもちろん浩介くんと2人の部屋になった。
「ふう、明日が楽しみねあなた」
入ったホテルは、以前浩介くんと2人で旅行した時と同じような広さのホテルだった。
恐らく、富山県の黒部と立山に行った時のホテルが、一番近いかしら?
「ああ」
ホテルでは、基本的に引っ越し屋さんが鍵を取りに行くのと、夕食があるだけで、後は全て自由時間になっている。
あたしたちは、テレビのニュースを見て過ごすことにした。
「次のニュースです、蓬莱カンパニーは──」
「また俺たちの会社がニュースになっているな」
蓬莱カンパニーは、今や日本中から毎日のように注目を浴び続けている。
「ええ」
正直、大したことでもないのにいちいちニュースにされるのは鬱陶しい気分でもあった。
今日話しているニュースだって、実際には取るに足らないニュースなのに。
「明日の引っ越し、スムーズに行くといいわね」
「だなあ、俺たちはともかく、親世代やばあちゃんはマスコミに慣れてねえし」
浩介くんは、明日豪邸にマスコミが押し寄せてくることを警戒している。
インターネットでは、「固定資産税や相続税で空き地になった松濤が1つになって豪邸が建設されている」という噂になっている。
そこには色々な憶測が飛び交っていて、もちろんその中には「篠原家の新築じゃないか?」という声もあった。
幸い、玄関の名札は直前までつけないことにはなっているけどね。
「通達は出しておいたし大丈夫でしょ?」
あたしたちは静かに引っ越したいので、マスコミに対しては来ないように通達を出してある。
もちろん、それを無視するような無謀な人間はいないと信じたい。
「さあな、問題は情報を嗅ぎ付けた一般人だろ?」
「あーそうよねえ……」
場合によっては、今ある空き部屋を活用し、警備員さんの部屋を充てて、常時玄関を見張ってもらうことも考えている。
まあ、今のところは必要ないとは思ってるけどね。
「優子ちゃんお休み」
「お休みなさいあなた」
あたしたちは、来てくれた引っ越し業者さんに鍵を渡して、夕食を食べてお風呂に入って、早めに寝ることにした。
夫婦生活について浩介くんは、「うずうずしているけど我慢する」と言っていた。
まあ、明日は新居だものね。当たり前かしら?
「ん……」
ゆっくりと意識を回復する。
「んーっ!」
窓の外には朝日が見える。
朝の渋谷は、既に人々が動き始めていた。
昨日は火曜日で今日が水曜日、あたしたちは有給休暇を取って今回の引っ越しを行った。
その理由としてはやはり、休日ともなるとどうしても人目につきやすく、また野次馬が発生しやすいと思ってのことだった。
とはいえ、もしかしたらあたしたちも既に昨日の時点で篠原家が渋谷のホテルに泊まったという情報が流れてしまっているかもしれない。
「お、優子ちゃんも起きたか」
あたしが起き上がると、浩介くんが声をかけてきてくれた。
ワンピースタイプのパジャマなので、あたしは予めスカートを直してから慎重に起き上がって着替えを出す。
「覗かないでね」
「う、うん」
あたしはいつものお決まりの台詞を言ってから、脱衣場と浴室のある部屋へと向かい始めた。
「ふう」
あたしはいつものように着替えを終え、浩介くんの元へ。
昨日着た衣服は手荷物の中に入れて、豪邸にある洗濯機の中に入れることになっている。
「お待たせー」
「おし、後数分あるし、座って休むか」
「そうね」
宛もなく、ボーッとする。
現代社会では、こういった時間はとても貴重だと思う。
寝起きの疲れが、どんどんと取れていく。
「優子ちゃん……」
浩介くんが、だらりとした感じで話しかけてくる。
浩介くんもまだ寝ぼけているのかしら?
「うん?」
「……えいっ!」
もみっ
「きゃあ!」
浩介くんに、両手で胸を鷲掴みにされ、もみもみと揉まれてしまう。
激しく揉むのではなく、微妙なゆっくりさで小さく揉まれていく。
揉まれるというよりは、触られているに近い。
もみっ……むにっ……むにんっ!
「もう、浩介くんえっちぃ!」
「あはは、昨日我慢しちゃったから、優子ちゃんの大きいの見てたらつい」
本当にもう、分かってはいるけど男の子って性欲の塊だわ。
「むー、ほらもうそろそろ時間よ」
「あーうんそうだね」
あたしがもうそろそろ時間だと言うと、浩介くんが手を離してくれる。
数十秒後に扉がノックされ、あたしたちはホテルの1階で朝食をとってからチェックアウトする。
渋谷の所定の位置であたしたちは石山家と合流し、一斉に豪邸を目指すことになった。
渋谷の道は広いけれど、さすがに6人も横に並んで歩けるスペースは、駅前のスクランブル交差点くらいなもので、他の場所では、あたしたちは2人1組で行動する。
この前の下見でたどったのと同じ道を進み、住宅街へと進んでいく。
「確かこの辺だったわね」
「あ、これだわ」
あたしがキョロキョロしていると、母さんが別の方向を指差した。
それは、あの時のCGで見たまんまの大豪邸だった。
フェンスはかなり高く侵入者を阻んでいて、玄関の柵も、容易には入れないようになっている。
「お待ちしておりました」
「あ、お疲れ様です」
あたしたち6人が到着したのを見て、不動産会社の人があたしたちに頭を下げてきてくれた。
渋谷の松濤は高級住宅街の中でも最高級住宅街と言ってよく、この家の坪単価は700万円以上、敷地面積は320坪、家の部分だけでも100坪を優に越える3階建ての2世帯住宅で、部屋の数は1階が16LDK、2階が13LDK、これでも20畳以上の部屋が多く、家の面積の割には部屋の数は抑え気味になっている。
3階は主に使わない倉庫で死にスペースが多いけど、それでもおばあさん用に4部屋あって、更に屋上には温水にも冷水にも出来る専用のプールまであり、これに広大な日本庭園の庭とはなれの倉庫と茶室も含めて、総工費は100億円という文句なしの大豪邸だ。
まさかこんな家に住むことになるなんて、蓬莱カンパニーが上場した時でさえ思いもよらなかったわ。
「こちらがご自宅の鍵になります」
「はい」
鍵については不動産会社の方で合鍵が1つの他、あたしたち7人と家の中にそれぞれ3つつで合計11個の合鍵を作ってある。
正面の玄関は比較的単純な鍵だが、銀色の鉄格子のような扉は、威圧感抜群だ。
その後更に数歩歩いて、あたしたちは家の扉に到着する。
家の建物はあたしたちが住んでいた場所よりもずっと大きく、しかもピカピカで真新しさに溢れていた。
こっちは以前の家と同じく、上下2箇所に鍵があり、またチェーンでもロックできるようになっている。
バタンッ
鍵が開けられ、ついにこれからあたしたちが住むことになる、その豪邸の内部が姿を表した。