永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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注目の的

「さて、弘子さんに挨拶して、ミスコンに投票してから、面談をするわよ」

 

「おし分かった」

 

 浩介くんと一緒に、あたしたちは例の舞台控え室の前に進む。

 

「あー懐かしいぜ。あの時は、優子ちゃんに本当に救われたよなー」

 

 移動中、浩介くんがずっと控え室の奥を見つめていた。

 

「ふふ、感傷に浸る前に、まずは弘子さんを探しましょう」

 

 浩介くんには、あの控え室に思い出がある。

 あたしが女の子になったばかりの頃のこと。

 2年生の球技大会の時に、あたしがドッチボールで当てられて泣いちゃった時のこと。

 あの時、浩介くんはあたしをいじめていたのに、恋心まで抱いてしまった罪の意識に耐えられなくなってあの部屋に籠って自暴自棄になっていた。

 もちろん、その時の借りなんてとっくの昔に消えてなくなっているし、今ではあたしが借りてばっかり……というわけでもないわね。

 

「あ、弘子さーん!」

 

 弘子さんを見つけたあたしが大きな声で呼ぶ。

 

「えっと、篠原先輩!」

 

 すると弘子さんが大きな声であたしを呼び返してくれた。

 すると周囲から「え、篠原先輩!?」「あの伝説のミスコン優勝者の!?」「こうしちゃいられないわ」といった声が聞こえてくる。

 もー、どんだけあたし伝説になってるのよ。

 

「弘子さん、ここはまずいから相談室にいきましょう」

 

「え、はい」

 

 とにかく、人が増えたら厄介だわ。

 あたしは、弘子さんの腕を引っ張り一撃離脱を試みた。

 

「篠原先輩! サインください!」

 

「篠原先輩、私に投票してください!」

 

「稲枝さんだけ独り占めなんてずるいわ! 私なんてあのミスコンの映像を見て研究したのよ!」

 

 が、あえなく失敗してしまった。

 あたしはあっという間に、ミスコンの参加者に囲まれてしまう。

 

「えっとその、みんな、今のあたしは1年生ですから」

 

 動揺したあたしから出た言葉は全くの効果のない言葉だった。

 

「何を言ってるんですか! 篠原先輩は、今の私たちの4年先輩だから、結果的に1年生の色になってるだけですよ!」

 

 うー、生徒会長さんのぐうの音もでない正論に全く反論できないわ。

 

「その、あたし、永原先生の呼び出しとして来てるので──」

 

「とか何とか言ってー、先輩制服じゃないですかー!」

 

 今度は例のスカートめくられ子に鋭い指摘をされてしまう。

 

「ああいやその──」

 

 といっても、弘子さんと面談しないといけないのは本当で──

 

「ほーら、優子ちゃん困ってるでしょ!」

 

「「!?」」

 

 突然、この場にはいなさそうな女の子の声がする。

 聞き覚えのある声にあたしも振り向く。

 

「「「木ノ本先輩!!!」」」

 

 そこにいたのは、制服姿の桂子ちゃんだった。

 やはり桂子ちゃんも有名人らしくミスコン参加者たちは皆一様に驚いている。

 

「桂子ちゃん、どうしたのよ制服で」

 

 まさか、桂子ちゃんまで同じことをしているとは思わなかったわ。

 

「それはこっちのセリフよ。優子ちゃんこそどうしたのよ?」

 

 あたしの疑問に、桂子ちゃんも同じ質問を返す。

 まあ、考えることは同じよね。

 

「あーうん、この子、稲枝弘子さんって言うんだけど、あたしや永原先生と同じTS病の子で、あたしが今日面談することになったのよ」

 

 あたしが、桂子ちゃんに弘子さんのことを紹介する。

 

「へーその子が、通りで美人な上に男好みがうまいと思ったわ」

 

 桂子ちゃんが感心した風に言う。

 桂子ちゃんも男性受けのスペシャリストだけど、それでもやっぱりTS病の子ほどではない。

 ちなみに、あたしと弘子さんがTS病なのはこの学園では周知の事実なので、周囲は特段の驚きはない。

 

「それよりも、桂子ちゃんが制服なのはどうして? あたしたちはうん、浩介くんと昔を思い出しながらデートするためだけど」

 

「あーうん、あたしもそんなとこ。達也はほら、あそこで別の集団に捕まってるわ」

 

 桂子ちゃんが指差すと、浩介くんと同じように制服姿の達也さんが男子生徒に捕まっていた。

 大方、男子たちは桂子ちゃんをゲットした処世術でも学んでいるんだと思う。

 

「ふう……あ、篠原さんに木ノ本さん、こんにちは」

 

 するとあたしたちの集団に颯爽と現れたのは永原先生だった。

 弘子さんとは永原先生とも合わせて「3者面談」するので、永原先生がここに来るのは当然だった。

 

「あ、永原会長」

 

 

「キャー、あの3人が揃い組してるわー!」

 

「すごいわすごいわ! あの伝説のミスコンの再来よ!」

 

「こうしちゃいられないわ!」

 

 

 さて、今度こそ相談室に行かなきゃと思った矢先、制服姿の永原先生が見えたとたんに周囲の歓声が大きくなってしまった。

 更に生徒会長さんが、舞台裏に駆け込んでいくのが見えた。

 というか、桂子ちゃんが割って入ったのに、状況がさらに悪化してるような!?

 

「えー皆さん、生徒会です。突然ですが、ここで当校にスペシャルゲストとして、当校出身者の篠原優子先輩と木ノ本桂子先輩がいらしています」

 

「ちょ、ちょっと!!!」

 

 生徒会長さんの前で全校放送が流れてしまう。

 

「お2人は永原先生と共に伝説のミスコンを戦い、またそれぞれミス小谷に輝いた実績を持っています」

 

 んもー、無駄に詳しい自己紹介しないでよ!

 

「永原会長、早く退散しましょう」

 

「ああ、どこに逃げたらいいか──」

 

「うーん、でも逃げるわけにもいかないわね」

 

 永原先生も、苦笑いしながら話す。

 浩介くんも逃げる場所を計算しつつもうまくいかない様子で、桂子ちゃんが心配になったのか、達也さんもこっちに駆けつけてくる。

 

「先輩! サインください!」

 

 またサインをねだられてしまう。

 

「あそこの舞台に立ってください! 5年前のミスコンみたいに!」

 

 落ち着いて周囲を俯瞰してみると、あたしたちは完全に生徒たちに包囲されていた。

 そして、あたしたち3人で舞台に並ぶようにしきりに要求してくる。

 

「永原会長、弘子さんの面談時間どうしましょう!?」

 

 正直、急がないといい加減まずいわ。

 

「ここまで騒ぎが大きくなってはしょうがないわ。特別に少し遅らせることにします……稲枝さん、先に戻ってください。時間は文化祭終了の30分前、ミスコンの表彰式が終わってからにします」

 

 永原先生は仕方ないという表情で話す。

 

「はい」

 

 弘子さんが、自分の持ち場に戻る。

 騒ぎを聞き付けた人々のうねりが大きくなり、浩介くんと達也さん共々、あたしたち「偽生徒組」は舞台裏に隔離されてしまった。

 

「ふー、これからどうしようかしら?」

 

 桂子ちゃんがため息をつく。

 今更だけど、制服で来たのは失敗だったかもしれないわ。

 生徒の中に紛れ込もうと考えたけど、よくよく考えてみれば、「卒業生が制服着て母校の文化祭でデートしている」何て格好のネタだものね。

 

「あたしたちもまだ部活を見て回って無いわ。5分だけよ」

 

 あたしは生徒会長さんにそう要望する。

 はっきり言って、この後の仕事のこともあるから、それ以上は待てないわ。

 

「わ、分かりましたって」

 

 生徒会長さんも、悪い人ではないみたいね。

 そして、浩介くんと達也さんはここに隔離となった。

 更に、永原先生とも協力し、退場時の安全確保も条件とした。

 

「じゃあそろそろお願いします」

 

 生徒会長さんの声と共に、あたしたちは渋々会場を上がっていく。

 

  キャーーーーー!!!

 

 あたしたちが壇上に上がると、瞬く間に大歓声に包まれる。

 そしてよく見無くても、舞台の縁には男子生徒たちがあたしたちのスカートの中を覗こうと必死になって張り付いていた。

 

 それを察知したあたしたちは、やや後ろ側に構える。

 先頭の男子たちはあたしたちのパンツが見えなかったのか、悔しそうな表情を浮かべている。

 

「油断も隙もないわね」

 

 あたしも元男で、分かっていたこととは言え、やっぱり呆れてしまう。

 

「ええ」

 

 あたしは既婚者、桂子ちゃんも彼氏ともう4年目、永原先生に至っては504歳と、彼らが恋愛の範囲に入るかは甚だ疑問な人ばかりなのに、容姿だけでこうもスケベな男子に注目されるというのは、予想してたとはいえ、悲しい男の性よね。

 

「先輩、何か一言お願いします」

 

「えー」

 

 生徒会長さんからマイクを渡される。

 と言っても、何を話せばいいのかわからないわ。

 

「篠原先輩! がんばってください!」

 

 そんなあたしの気持ちも知らず、会場はますますあたしに何かを求めて煽り続ける。

 うー、何だかミスコンや卒業式の時よりも緊張するわ。

 

「えっと、あたし、小谷学園卒業生の篠原優子です!」

 

 うおおおおお!!!

 キャーーーーー!!!

 

 あたしがしゃべるだけで、この歓声。ちょっとは落ち着いてよもう。

 

「きょ、今日は学園祭ですから、気分を変えて、1年生女子になりました。この後あたしを見かけても1年女子の扱いをしてくれると、あたし嬉しいな!」

 

 とりあえず、このことをみんなに伝えておけば大丈夫かな?

 周囲は周囲で、大分困惑してるみたいだけど。

 

 あたしは続けて、マイクを永原先生に渡す。

 

「えっと、全校生徒の皆さん、永原マキノです。小谷学園の文化祭には、毎年制服を着た卒業生が紛れ込んでますが、もし見つけても騒ぎを大きくせずに暖かく見守ってくださいね」

 

 永原先生が、周囲を諭すように言う。

 うん、これならあたしたちも気楽に巡回できると思う。

 そして、最後にスピーチするのが桂子ちゃんだ。

 

「えっと、皆さん、私は卒業してからも毎年小谷学園の文化祭には来ていますが、ここまで注目されるのははじめてです。私と優子ちゃん、永原先生で争ったミスコンテストは今も思い出になってます。以上です」

 

 桂子ちゃんのスピーチが終わり、マイクを生徒会長さんに返す。

 

「木ノ本先輩は彼氏とデートの途中ですし、篠原先輩は日本性転換症候群協会の仕事も兼ねてここに来ていますので、生徒の皆さんはくれぐれも迷惑にならないように心がけてください」

 

「「「はーい!!!」」」

 

 生徒会長さんの注意喚起と共に、周囲が元気よく返事をする。

 あたしたちはようやく人の波から解放され、体育館の外まで安全に出ることができた。

 

「じゃあ私たちは達也と見て回るから、優子ちゃんも天文部に顔を出すのよ」

 

「うん、分かってるって桂子ちゃん」

 

 あたしたちは、桂子ちゃんと別れ部活棟へと進む。

 永原先生も、「メイドのシフトの時間」とのことで、弘子さんのクラスへと戻っていった。

 

 永原先生、相変わらず生徒気分で文化祭を堪能してるみたいね。

 コンプレックスはあの時に消えたとは言ってたけど、やはり年に1回くらいは、また生徒気分になりたいのよね。

 

「お、今年も文芸部は雑誌かあ」

 

「そうみたいね」

 

 卒業してから4年経つけど、相変わらず文芸部は小説雑誌の売り上げを部費の足しにしているらしいわね。

 更に美術部も今年の絵画はよく分からない勢いの絵だった。

 

「これは何て表現なんだろ?」

 

 浩介くんが独特の色使いをした絵を見て言う。

 

「うーん、そもそもこれは何を書いて、何を表現してるかさえ分からないわ」

 

 蓬莱の研究棟には、入り口にある「蓬莱教授の銅像」以外、美術的なものは何もない。

 あたしは、美術的なセンスは何もなかった。

 

「これはですね、竜巻を表現しているんですよ」

 

「え?」

 

 近くにいた美術部員が、解説をしてくれる。

 確かに、形だけ切り取ると竜巻に見えなくもないけど──

 

「うーん、竜巻ってピンク色だったかしら?」

 

 そもそも、ピンク色の自然現象って何があるのかしら?

 

「俺はこう、土砂が混ざった赤茶色と灰色の混ざったイメージだな」

 

 浩介くんも共感してくれる。

 

「まあ、その辺が美術なんですよ」

 

 確かに、絵画だから必ずしもリアルに書く必要はない。

 それならカメラで事足りるわけで、それにしたってあたしは違和感を感じずにはいられない。

 

 部活棟の一番奥、あたしが入った時と同じ部屋に、天文部があった。

 どうやら今は、部長さんがいらっしゃるらしい。

 今では、桂子ちゃんの次に部長になった達也さんから数えて4代目になったはずだわ。

 

  コンコン

 

「はーい」

 

 男子生徒の声が聞こえる。

 

  ガチャッ

 

 あたしはその声に合わせて扉を開く。

 

「お邪魔しまーす先輩!」

 

 あたしが明るい声で1年生を装う。

 天文部の面々は、男子がとても多い。

 みんな一様に、目を丸くしている。

 

 

「な、なあこの女の子」

 

「ああ、どっからどう見ても篠原先輩だよな!?」

 

「ああ、さっき体育館で見たぜ」

 

 

 あたし達を見た男子たちが、ヒソヒソと話している。

 あたしが自分達に向かって「先輩」と呼んできたことに違和感を感じているらしいわね。

 まあ、制服の色だけ見ればその通りのはずなんだけどね。

 

「えっと……どうぞゆっくり見てってください」

 

 部長と思われる男子生徒が、あたしと浩介くんを歓迎してくれる。

 部長の席は、かつての坂田部長や桂子ちゃんの席だった。

 どうやら部長の席の位置も、きちんと受け継がれているみたいでよかったわ。

 今年の展示は人工衛星特集で、なかでも日本が5年前に打ち上げた高性能GPSの「みちびき」の自作模型が展示されていた。

 

「凄いわね」

 

「ああ」

 

 人がそれなりに多くなったのか、あたしたちが部員だった頃に比べて、展示品のレベルは格段に上がっていた。

 まずきれいだし大きいし、一目見ただけでも作りが細かいのが分かる。

 よしっ、ちょっと質問してみようかしら?

 

「先輩、これどれくらいかかったんですか?」

 

「あー、この『みちびき』は去年のだよ。今年はこっち」

 

 「先輩」の部長さんも、空気を読んでため口になってくれる。

 どうやら、あの時のあたしの放送が、全国に流れていたみたいね。

 

「わー凄いわ」

 

 こっちの人工衛星も、とても完成度が高かった。

 こんなものを文化祭で作り込んじゃうなんて、本当に凄いわ。

 

「これは半年くらいそれでその、俺たちにも聞きたいことがあるんだけど」

 

 やはり向こうからも質問が飛んでくるわよね。

 

「うん、あたし1年生だからよく分からないわよ」

 

 またあたしは、こんな振る舞いをしてしまう。

 何だろう? 自分で言うのも何だけど、もう単に引くに引けなくなってるだけって感じだわ。

 

「あーいや、そのー、もしよろしければ、5年前の天文部について、木ノ本先輩とか坂田先輩のこと、知っていたら教えて欲しいなーって、僕思うんですよ」

 

 天文部の部長さんが、それとなくあたしに話す。

 

「ふーどうする優子ちゃん」

 

 浩介くんがふうと一息ついてから言う。

 もう後輩ごっこはしなくていいわね。

 

「仕方ないわね。でも5年前のことを知ってもそこまで面白い訳じゃないわよ。佐和山大学の天文サークルと、していることは変わらなかったわ」

 

 これだけの精巧な模型を作れるようなサークルではなかった。

 あたしは、膨大な展示品を見回したけど、懐かしい展示はなかった。

 

「地球近傍の恒星たちの模型はどこかしら?」

 

「あれですか? 部活棟の倉庫にあります」

 

 あら? 倉庫持てたのね。

 あたしたちの頃はそういうのはなくて部室の中に置いておいたのに。

 

「あれはあたしと桂子ちゃんと、それから当時あたしたちの1学年上だった坂田部長との3人で作ったのよ」

 

 シリウスが白い綿だったり、他の恒星も大きさこそ忠実だったけど、色々と難点があったもので、これとは比較にならないくらい簡素なものだった。

 

「あれがですか!? あれを3人でですか?」

 

 部長さんが驚いている。

 

「ええ」

 

「人手不足を考えれば、十分すごいことですよ。これなんて10人以上で時間をかけて作ってるんですよ」

 

 部長さんが、あたしの正体を見破った前提で話してくる。

 まああたしもあたしで、ほとんど正体ばらしちゃったけど。

 

「篠原先輩の頃の天文部も見たかったなあー」

 

 部長さんが遠い目をして言う。

 

「あはは、毎日JAXAとかのホームページ見ながら、天文中心にゆるーくトークするだけの部活だったわよ。佐和山大学の天文部も、似た感じだわ」

 

 あたしが、あの当時を思い出して言う。

 もしかしたら、今の部活の雰囲気だと、あたしたちは合わないかも。

 

「そうですか、今は結構部員が増えて……多分篠原先輩の頃よりは真面目になったと思います。でも、木ノ本先輩は小谷学園天文部『中興の祖』ですから」

 

 部長さんが、そう笑顔で答える。

 

「そうだな、俺たちが3年になった時の新入部員なんて、中庄も含めてみんな優子ちゃんや木ノ本目当てで近付きたい男子ばかりだったんだぜ」

 

 言うまでもなく、ものすごく不純な動機で、この天文部は大きくなっていった。

 桂子ちゃんが「中興の祖」になれたのだって、それは桂子ちゃんが、あたしが女の子になる前まで、「学校一の美少女」と呼ばれるくらいにかわいい女の子だったから。

 

「そうらしいですね。今はもう、木ノ本先輩や篠原先輩を目当てに入部した部員も、みんな卒業していきました」

 

 天文部長さんが、遠い目で見る。

 

「僕たちにとって、結婚前の石山先輩と篠原先輩がいて、坂田先輩がいた時代というのは、遠い昔の、それこそ宇宙の始まりのような、口伝で語り継がれるような時代なんです」

 

 天文部長さんの面白い発言にあたしたちも思わず押し黙ってしまう。

 変な話だけど、彼らにとって、あたしたちがいた時代、特にあたしが高校2年生の時の少人数でやっていた時代は、「神話の時代」と言ってもいいのかもしれないわね。

 たった5年前のことでも、あたしたちにとっては、長い長い出来事だと思う。

 

「そうね、あたしだって、例えばあたしたち以前の先輩たちがいた天文部の時代は神話のようなものよ」

 

 あたしたちも初代の部長さんを……いや、坂田部長以前の部員の誰にも会ったことさえないし、名前だって誰一人として、知らないもの。

 

「ええ、先輩、ゆっくり展示を見ていってください」

 

「はい」

 

 あたしたちは天文部を最後に部活棟を去り、運動部のある場所へと進んでいった。


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