永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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行く年来る年 クリスマスから正月へ

 2020年12月、あたしたちはクリスマスを迎えることになる。

 結婚してから2回目のクリスマス、思えば石山優子としての人生よりも、篠原優子としての人生のほうが長くなっていた。

 もちろん、優一だった頃にもあの家に居たから、実家にいた時間の方がずっと長い。

 だけどそう、将来、あたしは「篠原優子」としての人生を、ずっとずっと歩み続けるんだと思う。

 さて、そんなクリスマスのはずだったんだけど――

 

「うー」

 

「優子ちゃん、大丈夫?」

 

 クリスマスの日、分かっていたとは言えイブと今日で生理と重なってしまった。約束していたプレゼントを買いに行くことは、できなかった。

 しかもいつもよりも殊の外重くて、布団から起き上がるのも面倒で、浩介くんがこうしてつきっきりで看病してくれる。

 

「12月は寒いからな、お腹冷やすなよ」

 

「うん、分かってるわ」

 

 浩介くんの優しさが身に沁みてくる。

 身に沁みてくるんだけど――

 

「どれ、俺が温めてあげようかな」

 

  モゾモゾ……

 

「ちょ、ちょっと浩介くん!」

 

 浩介くんが布団の中に潜り込んであたしの下腹部をさすってくる。

 正直スケベ心が本心だと思う。

 

「んっ……ありがとう……」

 

 でも、お腹を温めてくれるのは、素直に嬉しくて、やっぱり弱ってる時に優しくされちゃうと、本当に惚れちゃうわ。

 やっぱり、恋愛は惚れたら負けなのよね。

 

「ちょっと待ってて優子ちゃん」

 

「うん」

 

 布団から出た浩介くんは、あたしの部屋を出て別の部屋、恐らくリビングルームに向かっていく。

 これまでも、生理の日は浩介くんに面倒かけっぱなしで、だけど浩介くんはいつも「普段優子ちゃんにえっちなことしてるから、その見返りとしてこれくらい当然だよ」と笑いながら言ってくれている。

 多分、浩介くんも他の男の子と同様、いや、ましてあたしみたいなかわいくて美人でしかも劣化しない女の子だから、もちろん性欲が凄まじいことになっているんだと思う。

 あたしも元男だからこういう看病も優しさも、全ては浩介くんが性欲を満たすためのご機嫌取りだということも分かっている。

 それでも、女の子として、浩介くんの気遣いは、下心があってもなくても、とても嬉しいことには代わりはなかった。

 それは結局、メスの本能には最後には負けちゃうという意味でもあるのよね。

 

「優子ちゃん、辛いだろ? ほら、これ」

 

「あ、うん」

 

 浩介くんが部屋から戻るとあたしにお義母さんが作った山盛りの野菜炒めを出してくれる。

 あー、人参たっぷりで美味しそうだわ。

 

「いただきます」

 

 あたしがベッドから起き上がり、野菜炒めを食べると、浩介くんがまた部屋を出て行く。

 そしてすぐに戻ってきて、今度はカイロをあたしに渡してくれる。

 

「気分悪かったら、これで温めるんだぞ」

 

「うん、ありがとう。大分温まってるわ」

 

 浩介くんの看病が、身に染みてくる。

 あたしは生理が重い方だけど、幸い精神的には軽い方で済んでいる。

 人によってはホルモンバランスが崩れやすくて、不安定な精神になってしまう人も多い。

 まあ、気分が悪くなりがちで、それに支配されすぎているという一面も無きにしもあらずだと思うけど、肉体的に重くても、心の変化が少ないのは、男性にとってはプラスらしい。

 

「ふう、クリスマスでもバレンタインでも容赦ねえんだな」

 

「ええ、辛いわ」

 

 クリスマスプレゼント、去年は面倒くさくなっちゃって何もやらなかったから、今年はやろうということになったのに。だから余計に辛いわ。

 

「なあ、俺からだけ、プレゼント送らせてくれねえかな?」

 

「え!?」

 

 浩介くんが、突然そんなことを言う。

 

「やっぱり、さ。去年もなあなあで終わっちゃったし、今年くらい、プレゼントしてやらねえとって思って」

 

「え!? でもあたしだけ――」

 

「いいから! ちょっと出かけてくるから、大人しくするんだぞ」

 

 あたしだけは悪いと言いたかったけど、浩介くんはそのまま部屋を飛び出すように出ていってしまった。

 あたしは、野菜炒めを食べ終わると、眠くなったので寝ることにした。

 とにかく、今日はゆっくり休まないと。

 

 

「うんっ?」

 

 電気がついていなくても、昼間ということもあってあたしは殆ど眠れなかった。

 生理の日はこういうことが多かった。

 

「優子ちゃん、起きた?」

 

 寝ている間に、いつの間にか、浩介くんがまた隣に座っていた。

 

「はいこれ」

 

 あたしは、クリスマスの日に浩介くんからぬいぐるみさんを貰った。

 

「わあ! 鯨さんのぬいぐるみね」

 

 あたしは、新しいぬいぐるみさんを抱きしめる。

 このフカフカ感が、何とも言えない安心感を与えてくる。

 お人形さん、大好き。

 

「気に入ってくれてよかったよ」

 

「うん、ありがとう浩介くん。あたし、嬉しいわ」

 

 こんな風に、弱ってる日に優しくされると、あたしは簡単に落ちてしまう。

 浩介くんも、乙女のツボが分かっているのよね。

 

「今日みたいな日は、甘えていいんだぞ」

 

「本当にもう、浩介くん、もうあなたに依存しちゃいそうだわ」

 

 浩介くんは、あたしの心を捉えて離さない。

 普段はスケベなくせに、こういう時に頼りがいのある男の子になったら、ますます浩介くんにのめり込んじゃうわ。

 

「はは、『依存』と来たか。優子ちゃんにはいつも無理言ってるし、こういう時くらい感謝しねえとな」

 

 浩介くんが物騒な単語を出したあたしを軽く笑ってくれる。

 うん、今はその方がいいわ。

 

「本当にありがとう。でも、ここまでしてもらっちゃったら、また次の日から頑張らなきゃ」

 

「健気だね優子ちゃんは。でも、優子ちゃんは弱くてもいいんだよ。辛い時が合ったら、ちゃんと泣くんだぞ。俺が守ってやるからさ」

 

 うん、そうだったわ。

 あたしの胸の中には、「泣いてもいい、弱くてもいい、甘えてもいい、かっこ悪くたっていい。だって私はもう、女の子なんだから」という気持ちが、いつまでも残り続けている。もちろん、今も。だから意地を張らずに、こうやって強い浩介くんに守ってもらっている。

 だから、弱くてもいいんだって。それでも、一生懸命になれば、浩介くんが助けてくれるから。

 あたしは健気だって言われることもある。もしかしたら本能的に、「そうすれば浩介くんが守ってくれる」って思ってるのかもしれないわね。

 

「ありがとう、浩介くん」

 

「クリスマス、ゆっくり休みなよ。何、俺は優子ちゃんに毎日プレゼントもらってるようなものだもの」

 

「……もうっ! ますます好きになっちゃうわよ」

 

 浩介くんの恥ずかしいセリフ。

 でも、そうしたセリフも、何だか安心感を覚えてしまうのも確かだった。

 今年のクリスマスは残念だったけど、それでも浩介くんが鯨さんのぬいぐるみをくれて、生理が重い日にはいつも、あたしのことを看病してくれた。

 

 くれたんだけど――

 

「浩介くん、ちょっと部屋の外のリビングで待っててくれる?」

 

「優子ちゃん、立つの大変だろ? 俺が取り替えてやるよ」

 

 生理用ナプキンを取り替えるために布団から起き上がろうとすると、浩介くんがまた、布団の中に潜り込もうとする。

 

「大丈夫! そこまではいらないから!」

 

「えー、遠慮しなくていいよ」

 

 本当にもう、結局浩介くんスケベなんだから! 大体、一昨年のバレンタインの時をはじめ、浩介くんはあたしの生理に興味津々すぎよ。

 あたしは、浩介くんを何とか説得して、生理用ナプキンをトイレのゴミ箱の中に入れて、新しいナプキンへと取り替えた。

 

「うー」

 

 やっぱり今日は特別辛いわ。それこそ初めて体験した時以来かもしれない。

 今日とばかりは介護してもらっても良かったかも? いやいや、浩介くんはまた良からぬことを考えてそうだから、今後もやめておこう。

 

 

 

 クリスマスが終わると、1週間で元旦になる。

 あたしたちは、去年と同じようなスケジュールで実家に帰省した。違ったのは12月29日に大掃除をしたことくらい。

 何だけど――

 

  もみもみっ!

 

「きゃあ! もう、あなた! お掃除中にやめて!」

 

「う、ごめん。優子ちゃんの大きい胸見たら、つい」

 

「もー、本当にしょうがないんだから!」

 

 浩介くんが頻繁にスケベなセクハラをしてきて困ったわ。

 まあ、あたしとしても、お掃除中にどうしても胸やお尻が強調されちゃうこともあるから、仕方ないと割り切って入るんだけどね。

 ちなみに、大掃除の中で一番手がかかったのは、お義父さんの書斎で、「いらないものを捨てる」作業を行った。

 幸い、この家はまだスペースに余裕があるらしく、捨てないと切羽詰まるということではない。

 大掃除中にお義母さんが「家族のものを勝手に捨てるのは違法行為だって知らない人があまりにも多くて驚いた」と言っていた。

 確かに、ちょっと考えれば分かることなのに、無断で断捨離するのはその人の所有権の侵害になるというのは分かりそうなのにそのことをご近所の主婦仲間やインターネットなどに投稿するとものすごい驚かれてしまうらしい。

 お義母さんは「世も末だ」と言っていた。

 あたしも、そう思う。例え知識がなくても、ちょっと推測すれば他の人のものを無断廃棄したら所有権の侵害になることくらい分かることなのにね。

 

 そして大掃除が終わった翌日の12月30日から31日の朝までは、おばあさんを自宅に呼ぶ事になっている。

 おばあさんには毎度のように、「まだ子供産んでなかったのか!」と怒られてしまった。

 あたしとしては、もうしばらく待って欲しいんだけど、何だろう? あたしたちが子供を産むことによって、おばあさんに死相が出る気がしてならないのよね。だって、今はひ孫が人生の目標って感じだもの。

 まあ、そうでなくてもおばあさんはもう90代だし、いつ死んでもおかしくないから必死になるとは思うんだけどね。だけどあたしたちにも生活計画があるもの。

 大晦日におばあさんを送った後、あたしたちはあたしの実家に移動して年末年始を過ごすのもいつも通り。

 あたしの両親は「よく来たわね」と歓迎してくれた。

 実家では去年と同じく、あたしがこの家を出てからは抜け殻となった「元あたしの部屋」に布団を敷いて、間借りすることにした。

 ちなみに、これも去年と同じことなんだけど、父さんと母さんからも浩介くんのおばあさんと同様「まだ子供産んでいないの?」と言われてしまった。

 とにかく、「大学卒業までは待ってくれ」と2人を説得し、何とかこの場は収まった。

 おばあさんよりはまだ寿命が長いせいか、父さん母さんは必死さが低い。まあ、仮にあたしたちが博士課程まで進んだとしても、十分寿命は残っているものね。

 大晦日は、去年と少し違って、夕食に年越しそばを食べた。ちなみに、大晦日ということで、いつもよりもかなり遅い時間で年越しそばを食べた。というよりも、「夕食」というより「夜食」というべき時間だった。

 ちなみに、このお蕎麦はあたしと母さん、そしてお義母さんで共同で作ったもので、あたしの母さんがお義母さんに「だいぶ家事がうまくなったわね。優子の指導が効いているわ」と褒めてくれた。

 本当、母さんが家事ができる人でよかったわ。もし家事ができない女性だったら、あたしのカリキュラムの指導にも支障をきたしただろうし、あたしの花嫁としての能力にも悪影響を及ぼしたに違いないもの。そしたらそこで、嫁姑問題が起きた危険性だってあるもの。

 

「ふー、ごちそうさまでした」

 

「優子ちゃん、良いお年を」

 

「うん、お義母さんもね」

 

 年越しそばを食べ終わったら、義両親と実両親はテレビで歌番組を見るためにリビングに残り、あたしたちはあの部屋に進む。

 

「なあ優子ちゃん」

 

「え!? まだ、みんな起きてるよ……」

 

「でも、俺我慢できない……年越しでしたい」

 

「もうっ!」

 

 あたしたちは、初めて夫婦生活中に新年を迎える事になった。

 でも多分、全国には同じカップルがたくさんいるのよね。

 

 

 こうして、2021年になった。4月からは大学も後半戦に入る。今のところあたしも浩介くんも、大学の勉強は問題なくついていけている。

 

「優子ちゃんおはよう。あけましておめでとう、だね」

 

「うんでも寝る前からそうなってたわよ」

 

「あはは、そうだったな」

 

 昨日は散々あたしを快感の渦に巻き込んだ浩介くんが、澄ました顔で新年の挨拶をする。

 

 

「あけましておめでとう」

 

「うん、優子おめでとう。昨日は激しかったわね。浩介くん、ちゃんと何も無しで注いだかしら?」

 

「うっ! か、母さん!」

 

 あうー、いつもよりも声が出ちゃってたから、やっぱり聞かれてたみたいだわ。

 

「歌手の音楽と優子ちゃんの声がいいメロディーになってたわよ」

 

 お義母さんがくすくす笑いながらあたしをからかう。

 

「そうね、私達の若いころそっくりだったわ」

 

「もうっ!!!」

 

 母さんがさらに冷やかすと、浩介くんもさすがにバツが悪そうにうつむいてしまった。

 そう言えば、以前にも「優子ちゃんのかわいい声が寝室まで響いてくる」とか言われちゃってたっけ?

 こればっかりは浩介くんの技術力が凄すぎるのもあるし、どうやっても気をつけようがないけど、何とかしないといけないわね。

 

 さて、今年も振り袖を着ていつも通り初詣に向かった。これももう、女の子になって4回目の出来事だった。

 その振り袖も、3人で着替えたのも去年と同じ。

 

 

「あ、篠原さん、あけましておめでとう」

 

「あ、永原会長。あけましておめでとうございます」

 

 初詣先では、またもや永原先生に出会った。4年とも出会えたのは、やっぱり永原先生の格好が目立つからなのかもしれないわね。

 ちなみに、永原先生は503年目の人生について、「今年から来年以降にかけて、また大きく変わっていくかもしれない」と言っていた。

 やはり、それは「蓬莱の薬」に関することだと思う。

 

「蓬莱教授はどうでした?」

 

「ええ、変なギャラリーに捕まらないように、さっさとお参りしてすぐに去ったわ。私とも、ちょっと声を掛け合って挨拶したくらいだったわね」

 

 蓬莱教授は、今年は直接には会わなかったけど、永原先生によれば「さっき帰った」とのことだった。

 

「やっぱ、有名になるって大変なんだな」

 

「まあ、私も私で、実は声をかけられるのよ。ほら、2年前に鑑定番組に出たでしょ?」

 

「あーはい」

 

 永原先生の鑑定番組出演、今は「柳ヶ瀬まつの日記」と「柳ヶ瀬まつ一代記」が歴史学会と古典の研究学会に長期貸出されている。

 これまで没年不詳だった人物の没年や諸説あってわからない学説が次々と定まっていくため、今でもニュースで時折「永原氏の資料で新事実」という感じで流れていく。

 特に日記は200年以上もの日々を書いたもののため、どうしても精査が遅れてしまうという。ただ、今年の夏頃までには、いずれも永原先生のもとに返却されることになっている。

 ただ、皮肉にも赤穂事件の部分に関しては「著者の感情が露にでている」ということで資料価値が下がってしまっているという。

 本当に、救いようもない話だわ。

 最も、それ以前から「吉良は悪くないんじゃないか?」と言われて定説化しつつあったため、この資料も「それを補強する」上では十分重要な資料ではあるとは思うけどね。

 ちなみに、あの鑑定番組は、「永原先生個人」としての出演だったため、協会への取材には当たらないというのは、永原先生自身も認めたことではある。

 

「特に最近では、オリンピックが終わって、世間の関心が蓬莱教授に集まりつつあるわ。そのせいでどうしても、私への関心も高まるのよ。篠原さんも、広報部長という立場だから、特に注意してね」

 

「ええ、分かってるわ」

 

 初詣が終わると、あたしたちは普段着に着替えてから去年と同じく家に帰還した。

 

「ふう、疲れたな」

 

「うん、浩介くんもお疲れ様」

 

 家に帰ったら、あたしたちは早速お互いをねぎらうことにした。

 

「優子ちゃんもね」

 

 今年の年始のイベントは全て終了したけど、10日後の1月11日にはあたしたちは一生に一度のイベントが待っている。

 それが成人式で、高月くんが幹事になった同窓会を行うことになっている。

 そこでまた、面白いことになりそうだわ。

 


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