永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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久々の再会

 今日は3月15日日曜日、明日は結婚記念日だけど、その前に同窓会というものがある。

 同窓会は3年1組卒業生で作るSNSで周知され、あたしたちはその予定を知ることになった。

 

 ちなみに、同窓会の幹事は恵美ちゃんが勤めてくれることになった。

 どうも今シーズン得たテニスの賞金で同窓会を開いてくれるらしい。場所は小谷学園近くの焼肉屋さんで、永原先生を含めてほぼ全員が参加してくれる運びになった。

 ちなみにクラスメイトたちとは、卒業生SNSだけではなく、協会のホームページにある会員専用掲示板でも交流があって、去年の夏頃まで一悶着あったときにも色々アドバイスをもらったりした。

 直接会うきっかけこそ、同じ佐和山に進んだクラスメイトを含め減っちゃったけど、それでもこうやって太いパイプを維持している。

 

 クラスメイトたちが会員になったことで、また既に卒業をした後と言うことで、あたしがTS病で倒れた時や、復学した時の第一印象を協会に話すことができた。

 やっぱり、あの時はクラスメイトたちも最初は別人だと思ったし、知識などから同一人物だと分かった後でも、外見はもちろん、中身も似ても似つかなくなっていてとても困惑したと言う。特に球技大会の時にあたしが泣いたのは、高月くんや浩介くんだけでなく、他の男子にも極めて衝撃的な出来事だったという。

 こうしたクラスメイトたちの本音や反応は、多く協会の財産となった。

 そういう意味でも、あたしのクラスメイトたちも、後に続く患者たちの負担軽減に貢献したと言えるだろう。

 

「優子ちゃん、着替え終わった?」

 

 浩介くんがドア越しに語りかけてくれる。

 

「うん、入っていいわよ」

 

 あたしの私服は、赤のトップスに赤の巻きスカート。そしてねこさんのぬいぐるみさんを抱くスタイル。

 幼さを最大限に出してこそ、あたしは健在ぶりをアピールできると考えていたから、ぬいぐるみさんを持ちながら歩くのは、恥ずかしくなかった。

 

「優子ちゃん、やっぱりその服かわいいよね」

 

「えへへ、ありがとう浩介くん。じゃあ行きましょう」

 

「ああ」

 

 同窓会にはぬいぐるみさん以外は特に持ち物はないので、あたしは財布だけをポケットに入れていく。

 

 

「高月、田村、安曇川に志賀、あいつらどうしてるかな?」

 

 電車の中で浩介くんが話しかけてくる。やはり、しばらく会わないと気になっちゃうわよね。

 

「恵美ちゃんはよくニュースに出てくるけど、他の子はどうかしら?」

 

「元気にしているといいな」

 

 世間的には、恵美ちゃんがこのクラスの卒業生の中では一番の有名人で通っているけど、恵美ちゃんが人類最高齢でもある永原先生のクラスだったということまではほとんど知られていない。

 

 一方で、世間に与えている影響力という意味では、あたしは恵美ちゃんでさえ、100倍にして勝ると自負している。

 

「そうね、でも恵美ちゃんより、あたしたちの方が影響力大きいわよね」

 

「だろうなあ……」

 

 以前、浩介くんがスポーツアカデミーからしつこいスカウトを受けたことがある。

 何を隠そう僅か1ヶ月の練習で恵美ちゃんを女子がしない5セットとはいえ、テニスで負かしたから。男女の差が大きいと言っても、やはり浩介くんに特別な才能がなければ出来ないことでもある。

 その時、浩介くんは断る口実として、「スポーツで世界ランキング1位になるよりも、蓬莱教授の研究に参加する方が世間への影響力が大きい」と言った。

 そう言う意味では、浩介くんはともかく、蓬莱教授の研究に貢献しているあたしは、世間的な知名度では恵美ちゃんに負けていても、世界に与えている影響力ではテニスやゴルフの世界ランキング1位よりも、いやサッカーで世界一有名な選手よりも大きいと思っている。

 それくらい、TS病以外の人間も不老にすると言うのは大きいことだから。

 

「それどころか、今のテニスの世界ランキング1位と比べたって、あたしたちの方が影響力が大きいわよ」

 

 まあ、あたしだってインターネットではそこそこの有名人だけどね。

 

「あー、俺はともかく、優子ちゃんは間違いなくそうだろうなあ」

 

 あたしは協会の正会員として、実際に「明日の会」を潰し、また世界のフェミ団体も、あたしたちに完全敗北して以降、世界各地で性役割の重要性が急速に再評価され始めている。

 そう言う意味では、あたしのあの声明は、間違いなく億単位の人間に影響を与えたと思う。

 これはもう、スポーツでどんな偉業を成し遂げたとしても、到底できないことだとあたしは思う。

 やはり、「両方の性別を実際に経験した」というのは、大きな説得力になることは確かだった。

 

「うん、あたしの提案で出した声明のお陰で、世界中でフェミ団体が大打撃を受けているみたいよ。ボールを打ち合うだけのテニスじゃどうやってもそんな風に社会の価値観を変えることなんてできないじゃない?」

 

「ああ。だろうなあ。永原先生なんかはもっとすごいだろうね」

 

 そう言う意味では、あたし以上に会長たる永原先生が世界に与えた影響は大きい。

 実際、江戸城では好むと好まざるとに関わらず、歴代将軍たちの政治に大きな影響を与えてきたと思うから、502年の人生だって決して細いものじゃない。

 

「うん、あたしたち以前から、蓬莱教授の実験を支えていたものね」

 

 まあ、本格協力する前は、取引材料と言ったほうが正しかったけど。

 

「多分、それ以外の学問にも影響与えるんじゃねえか? 例の鑑定番組もあるしさ」

 

「あー、そうよね」

 

 恐らく「江戸城での日記」と「柳ヶ瀬まつ一代記」も、今後学会に大きな影響を与えて行くと思う。

 ちなみに、美術品の数々は、永原先生が再び所有していて、保存方法については美術館の人から指導を受けた。

 また、「江戸城の日記」と「柳ヶ瀬まつ一代記」については、大学の方で原本を電子化し、続いて文字にして現代語訳もして、データベースにもするという。

 特に「江戸城の日記」と「柳ヶ瀬まつ一代記」の最初の巻は、作者が永原先生本人なので、著作権が消滅していないことになる。

 どうやら、その辺りの問題の処理もあったらしい。永原先生本人は「日記そのものはともかく、文章の内容は公の所有物なので自由にしていい」とのことだったけどね。

 ちなみに、永原先生の所有物について、国宝や重要文化財には、まだ指定されていない。

 世間では、「永原マキノの七大国宝」として「江戸城の日記」、「柳ヶ瀬まつ一代記」、「吉良上野介の着物」、「徳川吉宗贈の茶器」、「富嶽三十六景初版」、「東海道五十三次初版」、「歌川広重の肉筆画」として、これらを国宝に指定するように呼びかけているという。

 もっとも、「富嶽三十六景」と「東海道五十三次」については、重要文化財止まりで、別に大名から譲り受けたもので代える意見が多いみたいだけど。

 

 

 ともあれ、あたしたちは駅についたら電車を降りて、集合場所へと行く。

 するとそこには、恵美ちゃんが数人の男女に囲まれていた。

 

「恵美ちゃん、久しぶり」

 

 人混みをかき分け、あたしが話しかける。

 

「おう、優子! 1年ぶりだな! 元気にしてたか!? にしても優子は相変わらず少女趣味だな」

 

 恵美ちゃんは相変わらず豪快な口調で話す。体格は、小谷学園にいた頃よりだいぶがっしりしている気がするけど。

 どうやら、この1年でかなり自信がついたらしいわね。

 

「うん、あたしは元気よ。恵美ちゃんこそ、来シーズンはグランドスラムに出場するの?」

 

「ああ、もうすぐあたいのランクで予選に進めそうなんだ」

 

 プロになると言っても、やはり最初は一番下でポイントを得ないといけないらしい。

 去年は国内やアジアの大会が中心になったと言う。

 

 とはいえ、最下部の大会では恵美ちゃんはほぼ敵無しだったのも事実。上の大会で壁にぶち当たっていると言っても、まだ10代なので延びしろは抜群でもある。

 

「それは良かったわ」

 

「でだ、折り入って2人にお願いがあるんだ」

 

 恵美ちゃんがあたしたちにへりくだるように言う。

 

「え? 恵美ちゃんが珍しいわね」

 

 まあ、何を求めているかは大体想像つくけど。

 

「ああ」

 

「あんたたちの大学の蓬莱教授ってのが作った『蓬莱の薬』、あれをあたいにも分けてくれねえか?」

 

 恵美ちゃんの目的は、予想通りだった。

 

「え!? 蓬莱の薬を!? 田村が!?」

 

 一方、浩介くんは驚いているみたいね。

 

「ああ。今はいいが、20代になっちまったら体の成長は殆ど止まっちまう。しばらくは技術の蓄積でなんとかなるが、30代になるとそれもカバーしきれなくなってくるんだ」

 

「う、うん」

 

 言いたいことが分かってきたわ。

 

「だからあたいは、ずっと世界一じゃねえと気が済まねえんだ。そのためには、蓬莱の薬がどうしても必要なんだ! もちろん、蓬莱教授の同意は必要だろうけど、よ」

 

「んー」

 

 浩介くんが唸っている。

 

「その件については、あたしたちだけでは決められないわ。とりあえず、永原先生と4人でまずは話しましょう」

 

 蓬莱教授本人を呼び出すのは難しいので、まずは永原先生に相談することをとっさに決めた。

 

「ああ、分かった」

 

 でも何となく、今回は蓬莱教授も賛成してくれると思う。プロのスポーツ選手が実験に参加してくれるのは、蓬莱教授としても望むところだし、そもそも蓬莱の薬を禁止薬物にする理由がない。

 何故なら、ドーピングというのは、最悪競技中に選手が死亡するなど、身の安全に関わるために禁止されているわけだけど、蓬莱の薬は明らかに禁止薬物の成分のような危険なものではなく、それどころか老化を筆頭に、ガンを始めとして多くの病気から身を守ってくれる万能薬と言っていい。

 そしてもう一つ、もし蓬莱の薬が禁止薬物で、不老になるのが不正だとするならば、あたしたちTS病患者はスポーツをしてはいけないことになってしまうもの。そうなったらもう、協会案件よ。

 

「優子さん……お久しぶり……です……」

 

 人だかりの中で、次にあたしに話しかけてきたのはさくらちゃんだった。

 

「さくらちゃん、唐崎先輩とはうまくいってるかしら?」

 

「はい……色々な名所を……あの美術館にも行かせてもらいました……」

 

 さくらちゃんは恐らく、永原先生の企画展示のことを言っているんだと思う。

 

「あー、あの展示、私も見ましたよ」

 

 横から聞こえてきた声は、虎姫ちゃんだった。

 

「あ、虎姫ちゃん、久しぶり」

 

「優子も元気そうで何よりだよ。あー、旦那はどうしてる?」

 

 この遠慮のない割り込みは、気心がしれてる証拠。

 

「あそこで高月くんと何か話してるわ」

 

 あたしが、浩介くんの方を見る。

 浩介くんはいつの間にか高月くんと雑談していた。

 

 

「そりゃあもう、優子ちゃんの中身、気持ちいいの何のって! しかものりが良くてさー! 家事の手伝いするとご褒美スカートめくり何だぜ!」

 

「くそー! すげえ羨ましいぜ!」

 

「そうそう、ご褒美でも何でも、優子ちゃんスカートめくられると、すっげえかわいい声で『恥ずかしいよお……』ってさー。演技だと思うだろ? 最初は演技も入ってたけどいつの間にか本当に恥ずかしくなっちゃったんだって」

 

「うー! しかもあのおっぱいも触り放題揉み放題何だろー!?」

 

「はっはっはっ! 死んでも優子ちゃんは渡さないぞ!」

 

 

「ちょっと2人とも! 何話してんのよ!」

 

 聞いてられなくなったあたしが、会話の中に強引に入っていく。

 

「わっ、ごめん優子ちゃん、久々に高月に会ったらつい優子ちゃんの自慢したくなっちゃって……」

 

 浩介くんがいかにもな感じで言い訳をする。

 

「もうっ! あたし、エッチなところだけが魅力じゃないでしょ!?」

 

 もちろん、エロさも相当数加味するべきだとは思うけど。

 あたしも浩介くんの心情を理解できちゃうのが辛いのよね。

 

「分かってるって、優子ちゃんは性格も名前通りの優しい子だし、母性に溢れてて、大学の成績もいいし、何より主婦らしく家事がうちの母親よりもうまいもんな! 世界一の女だぜ!」

 

 浩介くんに講習の面前で誉められてしまう。

 

「むー、またそんなこと言ってー! 本当にずるいわよ浩介くんったら!」

 

 あたしは顔を赤くして言葉が出ない。

 

「ラブラブそうでよかったぜ」

 

 高月くんが締めるように言う。

 

 

「みんなごめーん、遅くなったかしら?」

 

 クラスメイトが次々登場する中で、最後に永原先生が表れる。

 永原先生は、いつも通りにレディーススーツで決めていた。

 

「実は同窓会って出るの初めてなのよ。だから私もよく勝手は分からないのよ」

 

 永原先生が少し慌ただしい口調で言う。

 

「あーそうか、先生は老けねえもんな」

 

 浩介くんが鋭く指摘する。

 いつまでも老けなければ、卒業生に怪しまれちゃうものね。

 最も、それは不老故の悲惨さというよりは、「隠そうとするから悲惨に見える」と言うだけだと思うけどね。

 

「うん、30年前に名前変えたのもその為なのよ。まあ、今は問題ないし、他に先生してる患者さんもカミングアウトできてるけどね」

 

 どうやら、ここ2年でTS病患者について理解が広まって、大分過ごしやすい世の中になったらしい。

 まあ、「変な配慮とかいらないから女の子扱いして」ってだけだものね。そんなの出来ないほうがどうかしてるわ。

 

「さ、ともあれ、これで全員揃ったし、行こうぜ」

 

「「「はい!」」」

 

 幹事の恵美ちゃんの誘導のもと、あたしたちは店内に入る。

 

 お店の人に席を案内され、あたしたちはもちろん隣同士に座る。

 恵美ちゃんとも協力して、永原先生との4人が近隣になるように配置する。

 

「よし、全員座ったな……ごほんっ! えー今回は2019年度小谷学園3年1組同窓会に参加していただきまして、誠にありがとうございます! 幹事の田村恵美です」

 

 恵美ちゃんが、いつになく敬語で話す。

 

「とりあえず、こうして再び会えたわけだし、今日はゆっくり楽しもう! 以上!」

 

 やっぱり恵美ちゃんも、小谷学園の卒業生だった。

 校長先生があたしたちに教えてくれた大切なこと。

 それは、「話は短く簡潔に。長話は嫌われる」ということだった。

 

 焼肉屋さんなのだけど、今日はあたしたちが貸し切っての食べ放題、もちろん利益を出さなきゃいけないから質は下がるけど、大学生にはそれくらいでいいのよね。

 

「うーん、こんなところかなあ?」

 

 肉と野菜を適当に取り、焼肉のたれをお皿に入れる。

 目の前にある網の上に、野菜から入れて、次に肉を入れる。

 

「ねえ優子ちゃん、このお肉なんだけど」

 

「うん、どこから仕入れたんだろうね?」

 

 食べ放題と言っても、それなりに仕入れるお金はかかるはずよね?

 

「まあ、大方アウトレットとかじゃないかな?」

 

 浩介くんがそんな意見を言う。

 

「うん、そうかも」

 

 確かに、神戸で食べた時のお肉とは比べるのもおこがましいけど、それでも時折スーパーで買ってしまう「ひどい肉」よりはずっとマシだと思う。

 まあ、あれはスーパーの「ひどい肉」が悪いだけだとは思うけどね。品質管理がなってないと、ダメなのよね。

 

「やっぱ肉はスタミナつくなー! くーうめー!」

 

 恵美ちゃんも、笑顔で肉を頬張っている。

 それにしても、相変わらずお行儀悪いわね。女子力低いわ。

 

「あはは、恵美ちゃんったら!」

 

「ふごっ……あたいはテニスがあんだよ!」

 

 テニスと関係ないわよね? まあいいわ。

 

「あーうん、そうよね。ところで恵美ちゃん、さっきの話はしなくていいの?」

 

 あたしが、蓬莱の薬について持ち出す。

 

「おっとそうだったな。今が好機だもんな」

 

 恵美ちゃんは急に真面目な顔になって、永原先生の方を向いた。


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