永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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起床しての違和感

「んっ……」

 

 瞼に重みを感じる。

 眠っていたということか。

 徐々に意識がはっきりしてくる。

 まず下半身に何かがぽっかり空いているような違和感を覚える。

 次に上半身に逆に何かあり得ない重みを抱えているような違和感を覚える。

 目を開くが視界が暗い。太陽光が遮断されているか、夜なのか。そういえば何でこんなところで寝てるんだ?

 ……思い出せない。

 

 困った、とりあえず真っ暗と言っても僅かに光を感じる。

 どこからかライトが僅かに光ってる。とにかく光源を探る。

 今度は後頭部に違和感を感じる。なんかいつもより頭が重たい。寝起きのせいだろうか?

 小さなデスクライトが小さく光っているのを見つけた。

 よし、これを引っ張って最大にしよう。

 

 デスクライトを最大出力にすると、ライトのすぐ下に手紙とA4用紙が何枚か入っていた。

 まずはともあれ、この手紙を開けてみるか。

 

 

「石山優一君へ

 これを読んでいるということは、あなたはもう起きたんだと思う。

 今あなたはとんでもない病気になった。それも、死期の早まるような難病よりも遥かに質が悪いものだと私が考えている病気。でもあえてここの手紙には記さない。あなたが発見して、それで現実を見てほしいから。

 でも心配しないで、私も同じ病気だから。

                   2年2組担任:永原マキノ

 

 追伸:今日の午後のカリキュラムで行った内容のプリントを渡しておきました。学校は今週一杯お休みすることをすすめます」

 

 

「な、何だこれ……ってえ?」

 

 思わずつぶやいて出た言葉、自分の声にひどく違和感がある。

 

「あー、あー、あー」

 

 おかしい、明らかに女の子の声だ、それも女子の中でもかなり甲高い部類だ。

 でもこれはどう考えても自分から出た声。俺の声は男子の中でも低い部類だ。

 ん? どういうことだ?

 

 待て待て、まず落ち着け、状況を整理だ。

 そもそもここはどこだ? 顔を左右に振る、俺はベッドで寝ているがかなり小さい部屋だ。

 先ほどのデスクライトの付近より、更に壁側を見ると、何やら複雑なコードと、よく分からない機材がいくつかあった。正面にはテレビも一台ついている。

 ベッドの横をよく見ると「ナースコール」と書かれたボタンが有る。どうやらここは病院で、俺は入院中らしい。

 よく服の袖を見ると着慣れた制服ではなく、白い服になっている。どうやら、知らぬ間に病院服に着替えさせられていたみたいだ。

 

 では次、俺は何故入院している?

 えーっと、そうだ! 確か数学の授業を受けていて、下腹部がいきなり痛み出して、倒れて血を吐いてそれから……

 そうだ、血を吐いて視界が悪くなり、聴覚だけが活きてる感覚。

 そのまま救急車で運ばれて、えーっと。そうだ、この部屋に入れられた直後あたりでとんでもない射精をして意識を失ったんだっけ?

 

 待てよ、この特徴的な病状って……

 ……まさか、そんなまさかだよな。あれは物凄い珍しい病気だって聞いた。でも、この症状は典型的すぎる。

 

 その可能性を考慮した途端、自分の下半身の違和感に気づく。何かが足りない。

 とにかく、この布団をどかして、起き上がってみよう。

 

 腰を上げてから身体を起こし、次いで下半身をずらしてベッドから降りようとする。

 ベッドから立ち上がり、足元を見た時におかしい点に気付く。

 ん? 胸が膨らんでる?

 

 まさか、まさかまさか。やっぱりそうなのか!?

 もう一度目が覚めてからの経緯を思い出す。

 上下半身に違和感を感じた。上半身には何か余計なものを感じ、それは胸の膨らみだと気付いた。

 下半身はなにかが足りないと感じているが、おそらく嫌な予感は的中するだろう。

 そして、先ほど確認した所、声は信じられないくらい女の子の声になっている。

 

 そして、倒れた時の状況と病状の経過……

 

 インターネットの某百科事典サイトで見たことがある。

 「完全性転換症候群(かんぜんせいてんかんしょうこうぐん)」、別名「性転換病」とか「TS病」と呼ばれる病気。

 若い男性のみがなるもので、症例は全世界でも1300人と少ないが、そのうちの900人以上が日本人で占めている。

 原因遺伝子は一切不明で、発症する際には突発的で、下腹部の痛みと吐血を伴う。

 医学実験で証明されたわけではないが、患者の証言では一様に、意識を失っている間もしばらく聴覚のみはよく機能するとされている。

 

 まさに、俺が倒れた過程も「TS病」そのものだ。

 そうだ、さっきの永原先生からの不可解な内容の手紙も、納得がいく。にしても、そういえばこの病気、もう一個大きな特徴があることで有名だったが、うーん、ダメだ。思い出せない。

 死期の早まる難病より質が悪いっていうのはどういうことだろ?

 ……いや、普通に性別が変わるってことだろう。それもここまではっきりと。

 

 待てよ、まだTS病とは決まってない。身体が少し女性よりになってるだけかもしれないし、さっきの声は聞き間違いかもしれない。もう一度声を出してみよう。

 

「あー、あー、あいうえお!」

 

 ……だめだ、やっぱり女の子の声だ。

 喉に手をやる、結果は予想通りだ。あるはずの喉仏が存在してない。と言うか、首がかなり細かったぞ。俺の首、もっと太かったはずだ。

 

 そして、さっきから違和感のある下半身。正直その先にある現実を見るのが怖いが、調べないわけにも行かない。

 いつの間にか着替えさせられていた病院服のズボンから手を突っ込んで見る。

 ……ああ、なくなってる。やっぱりだ。そして、あったはずの場所に指を近づける。

 

「んぅっ!! あぁあっ!!」

 

 やばいやばい、とんでもなくエロい声を出してしまった!

 ともかく今はここには無闇に触れないほうがいい。

 今わかったことは、どうやら今の俺の体は男と女の最大の違いとも言われる下半身の部分も、女の子のものに変わっていたということだ。

 

 ……パズルのピースが埋まっていく、もうこの時点でほぼ100%、俺はTS病になったんだと確信した。

 

 しかしまだ現実が飲み込めない。飲み込めない、が! どの手がかりから分析しても、どうやら俺は「TS病」になってしまい、女の子になってしまったという事実の反証は何一つなく、むしろここまではその事実の裏付けばかりが揃っていっている。

 

 ……男の時の俺の身体は高校生にしては髪も薄めで髭や体毛だけは伸びていた。目つきも悪く、自分で言うのも何だがやや「悪人顔」みたいだった。そんな中で身体だけ女になったら。

 

 ……おえっ。想像しただけで吐き気がする。そんなのは嫌だ。とにかく、ど、どこかに鏡はないか???

 

 そう思って後ろを振り向くと移動式の姿見があった。でも蛍光灯だけじゃそれなりの距離もあってしかも光量が少なすぎて姿は輪郭しか見えない。どうもやや丸みを帯びてるみたいだ。

 

 とりあえず、もう一度横に振り向き直して、蛍光灯のもう少し奥側にスイッチが見えるのを確認。これを押せば電気が点くだろう。

 とりあえず身体をベッドにつけて……

 ……あれ?

 

 おかしい、本来の俺の身長なら十分届くはずなのに届かないぞ。

 そうか! 女の子になって身体が小さくなってるせいだ。

 と、とにかくベッドに足を乗っけよう。そうすれば点くはずだ。

 

 それにしても、なんか胸が擦れて微妙に痛い。そうか、女の子なのにブラジャー付けてないんだもんな。

 えっと、電源は……あった。これだ。

 

「うっ」

 

 一気に全部点けるスイッチを押したせいか、眩しさに目がくらむ。とっさに布団を掴んで目を覆い、徐々に光を入れて慣れさせていく。

 そしてもう一度、姿見のあった場所の前に立って、自分の姿を確認する。

 

「……え? 誰だこいつ?」

 

 鏡の中に映っていたのは今までの俺とは似ても似つかない少女の姿だった。鏡の中の少女は自分の姿に明らかに動揺した顔をしている。

 ともあれ、俺と思われるこの少女をもう少し観察してみたい。

 まず、やっぱり背が縮んでいた。それもかなり。届くと思ったはずの姿勢で電気のボタンに届かなかったのもこのせいだ。

 更に、髪は男だった頃以上に深い漆黒のような黒髪。そしてきれいなストレートで、癖毛の一つ無い。しかも長さは背中まであるロングヘアーだ。

 そして、服の上からでも分かるような大きな胸、クラスの女子どころか、俺が贔屓にしているアイドルでさえこんな大きいのは見たこと無い。それこそ巨乳グラドルを名乗れるくらいだ。

 更には、手足は透き通るくらいの美しい白い肌。肌の色もだが、首も腕も、見るからにデリケートで細い。

 

 そして顔、少女は幼さの残る童顔で、はっきり言うと「物凄い可愛い」、うちのクラス一の美人で可愛い子と言えば木ノ本桂子だ。

 その彼女と比べても、好みの差もあるだろうが俺だったら今鏡に映っている女の子の方が遥かに可愛いと断言する。

 というよりも、俺が知ってるアイドルグループの顔をひとりひとり思い浮かべたが、それでもこの子ほどじゃないという結論になった。

 飾りっ気も何もない病院服でさえ、そう言う結論になるんだから、おしゃれしたらとんでもないことになるだろう。

 

 

「で、誰なんだよこいつ……」

 

 可憐な声に似つかわしくない男言葉が出る。

 いや、俺だよな。ま、まさかドッキリだとか?

 

 ……足を上げてみる。

 ……鏡の中の女の子が足を上げた。

 

 ……腕を前に突き出す。

 ……鏡の中の女の子は腕を前に突き出してきた。

 

 ……恐る恐る胸を揉んで見る

 ……鏡の中の女の子が恐る恐る胸を揉んでいる、自分もちょっと気持ちいい。

 

 鏡像認知できないほど俺もバカじゃない。それにもしドッキリなら反応がワンステップ遅れるはずだがそれがない。

 やはり、この実験でも、この鏡の中に映った可愛い女の子は、どうやら自分らしいということを雄弁に物語っていた。つまり、どうも自分は可愛い女の子になってしまったということだ。

 現実逃避してはいけないな。うん。

 

 ……ともかく理屈では納得出来た。

 感情的に納得できるか、という問題はともかく置いておこう。理屈で納得できればいつかは受け入れざるを得なくなるだろう。

 いや、仮にそうじゃなかったとしてもとりあえず今はそう信じるしか無い。

 

 それよりも、さっきの永原先生の手紙……

 手紙をもう一度確認すると、そこには「でも心配しないで、私も同じ病気だから」と書いてあった。

 つまり、永原先生もTS病になった元男ということか。

 

 さて、状況は整理できた。でも今何時だ?

 

 病室の時計を探す。すると、自宅から持っていったと思われる電波時計が目に入った。

 ……午前5時55分だ。日にちは倒れた日の翌日、5月9日火曜日になっている。つまり17時間近くも意識を失っていたのか。

 

 うー、なんか眠い。一気に色々と考えすぎたかなあ。

 まあいいや、これだけの大事だ。どうせ朝になれば親や永原先生が来るでしょ。今あれこれ考えても仕方ないや。

 とりあえず、今のところは「俺は病気になってとびきりかわいい女の子になってしまった」ということがわかれば良しとしよう。

 寝よう。寝たらもしかしたら、これは夢だったというヲチになるかもしれない。




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