永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
今日は大学生活の2日目、昨日が入学式なら今日は講義に関するガイダンスが主になる。
大学生活の他にも、あたしには蓬莱教授のこともある。
蓬莱教授は、今日に記者会見を予定している。
「120歳の記者会見」が一昨年のクリスマスの時期で、それから2年たった現在に、「200歳の記者会見」をする。
実際の所、「200歳の記者会見」はあたしたち協会に非難が集中した時に世論の目をそらさせるための切り札として残してあった。つまり、出来ることなら温存しておきたいというものでもある。
しかし、現在水面下で蓬莱教授に反抗するための勢力が作られつつあった。
彼らは必然的に、不老遺伝子を持ち、蓬莱教授とも親密な関係になっている協会も標的にしようとしていて、手をこまねいているのも限界だ。
そこで、「300歳の薬」が完成間近になっていることや、年度の初めというこのタイミングで、記者会見を開くことになった。
協会に関しても、広報部長のあたしがしっかりしないといけないわね。
「浩介くん、あたしたち大忙しよね」
「ああ、それにしても、優子ちゃん広報部長だろ?」
行きの電車の中で浩介くんがあたしに話しかけてくる。
ちなみに、あたしの服はまだ寒さが残るので落ち着いた緑のワンピースを選んだ。
「うん」
「部長って言うくらいだし、部員とか部下はいないのか?」
「うん、一応幸子さんと歩美さんが広報部に所属することになったわよ」
幸子さんも歩美さんも、あたしが広報部長になるという情報を手にいれると、すぐに広報部への所属を申し出てきた。
2人は
自殺一歩手前だった幸子さんに、更衣室をめぐって学校と大騒動を繰り広げた歩美さん、どちらも広報部としては重要な戦力になるわね。
幸子さんと歩美さんもあたし繋がりで結婚式後も仲が良いみたいだし、それに歩美さんはあたしに相談してくることも多い。やり取りが増えるのはいいことだろう。
「そうか、まあいいんじゃねーの、よく分からないけどさ」
浩介くんも、評価には悩んでいるみたいね。
あたしたちはキャンパスの地図を見つつ、決められた集合場所に到着する。
ちなみに、大学のガイダンスなので、キャンパスの地図はあるけど、具体的にキャンパス内を散策するのは各自でするようにとのこと。
やはり、高校までとは訳が違うわね。
「えー時間になりましたのでガイダンスをはじめさせてもらいます」
ガイダンスを担当するのは結婚式にもいた河毛教授だった。
「えっと、大学では授業ではなく講義と言います、また皆さんも生徒ではなく学生になります」
それは知っている。
「大学の時間割は高校までと違って、各自で作ります。学生の数だけ時間割がある……というほどでもわけではないですが、ともあれバラバラなので履修登録が必要になります。どのような科目を受けなければならないか、必修科目の他にも選択必修科目、選択科目もあります」
河毛教授が前のスクリーンに図を写しながら解説してくれる。
あたしたち1年次では、専門基礎と基礎教養科目が主になる。必修の基礎実験は、特に重要らしい。
2年次以降は、1科目あたりの負担も高まることになる。
ちなみに、小谷学園出身の人は、同じ最寄り駅という利便性でここを選ぶ人も多く、成績がいい傾向にある。
「これらはですね、皆さんの机の上にありますシラバスと講義概要、そして指定教科書を参照してください。なおこれは大変重要なものですから絶対に無くさないでください」
河毛教授の指示のもと、あたしたちは講義概要とシラバスを参照する。
明日からは講義が始まるから、特に注意しないといけないわね。
といっても、最初はガイダンスだろうけど。
「ではですね、大学生活における注意点ですが――」
河毛教授の説明が続く。
履修登録の他、試験やレポートの不正行為に際する注意換気もあった。
ともあれ、蓬莱教授の手前、これらには注意しないといけないわね。
「以上を持ちまして、ガイダンスを終了いたします。午後はですねノートパソコンの配布に当ててもらいます」
河毛教授がそう言うと一旦解散になる。
あたしたちは、しばらくシラバスと講義概要、時間割を見て吟味する。
2年次に上がるためには、必修科目の単位が必要になる。
再履修となると留年が確定する科目もあるから注意しないといけないわね。
「まず必修科目を潰すとこんな感じか」
浩介くんがシャーペンでまるをつけていく。
「うーん、そうするとこうかな?」
あたしも、同じように講義を吟味していく。
「一般教養の『社会』分野には『ジェンダー論』の他には『法学』とか『現代政治学』とか『経済学』というのもあるなあ……」
浩介くんが社会学について吟味している。
「うーん、何か怪しそうだわ」
インターネットでは、この手の社会学、特に一般教養では、本物の共産主義者とかがいるとか言うし。今の時代にそんなの都市伝説と思っていたけど、どうもそうではないらしい。
「この『法学』が良さそうじゃない?」
よく見ると、弁護士さんが講義を担当していて、「法治国家」とか「罪刑法定主義」などを学ぶらしい。
「とりあえず、食べてから考えようか」
「うん」
周囲は昼食に出かける人も多いので、あたしたちは地図を便りに学食へと進む。
学食のメニューは、小谷学園のものよりやや豊富なくらいで、規模はやはり小谷学園より多少広く取られている。
あたしは、まずノーマルにカレーを、浩介くんも普通サイズの醤油ラーメンを頼んだ。
食券に並び、購入して、机やカウンターなどで食べるのは小谷学園と同じ。
あたしたちは早速、2人がけの椅子に腰掛ける。
「「いただきます」」
あたしはまず一口カレーを食べてみる。
……うん、びっくりするくらい小谷学園と味がそっくりだわ。
「すげえな、このラーメン、味も量も小谷学園のまんまだぜ」
浩介くんが驚いた風に言う。実際、ここまで酷似しているのはあたしも予想外だった。
「あ、浩介くんも? 実はこっちもなのよ」
「場所が近いからな。もしかしたら働いてる人が共通とかなんじゃない?」
浩介くんが推測する。
「うーん、どうなんだろうね」
ともあれ、あたしたちは佐和山大学での最初の学食を食べ終わった。
ちなみに、キャンパス内にはコンビニもあったりする。
これからは学食だけでなく、コンビニも活用していきたいわね。
「さて、履修に関してだけど」
「うん、とりあえず、午後の集合場所で考えた方がいいわ」
「ああ、それなら遅刻しねえもんな」
あたしの提案を浩介くんが受け入れて、午後の集合教室に移動する。
時間管理を間違えないための工夫だ。
「なあ、あんなかわいい子、うちにいたっけ? ていうか、あの女の子、大分前に見たことあるような?」
「新入生じゃねーの? で、横にいるのが彼氏かよ!」
「何だ、2人とも知らねえの? あの2人は篠原夫妻だよ」
「え!? あの2人結婚してんの!?」
「マジかよ! くー羨ましすぎるぜ!」
「あ、よく見たら2人とも指輪はめてるし」
学食の大学生たちがあたしたちを噂している。
どうやら、ここでも、有名人になりそうね。高島さんの
あたしたちは、午後の集合場所に入る。
教室の中には学生は誰もいない。どうやらあたしたちが一番乗りみたいね。
「お、2人ともこんにちは」
中には、蓬莱教授がいた。
「あ、蓬莱さん、こんにちは」
「うむ、ところで、薬は飲んだかね?」
「あ! すみません、すぐ飲みます」
蓬莱教授の指摘に対して、浩介くんが慌てて鞄からペットボトルを取り出して蓬莱の薬を飲む。
「うむ、1日くらいなら飲み忘れても問題はないが、余裕を持って5日間、毎日頼むよ」
「はい」
蓬莱教授が指摘してくれないと、忘れていたわね。
明日以降は、あたしも特に注意しないといけないわね。
「さて、履修に悩んでいるかね?」
「はい」
あたしが蓬莱教授の質問に答える。正直に言えばYESだ。一般教養はどうもモチベーションが上がらない。
「うむ、あんまり大声では言えない上に……あー、君たち篠原夫妻にだけ当てはまる話なんだが、『ジェンダー論』に関しては、履修を避けた方がいいぞ」
「え? どうしてです?」
確かに、あたしたちはその講義は履修しないつもりだったけど、それにしても一体どうして?
「俺が見るに、あの先生はTS病の患者を嫌っているという噂がある。今の優子さんは、おそらく既にあらゆる側面から完全な女性だとは思うが、それでも大学の講師ともなれば話は別だ。おそらくTS病の君を純粋な女性として扱うとは限らん。下手に勉強だけできるバカはこういう手前が多いんだ」
「そうですか」
確かに、最年長の永原先生でさえ、男が出ることがあるものね。
それにしても、天才のステレオタイプみたいな蓬莱教授がこれを言うと、説得力が半端ないわね。
「この大学は小谷学園の出身者が多い。おそらく、君が有名人になるには時間はかからんよ」
「はい、分かります」
アイドルや女優たちをも寄せ付けないくらいの絶世の美少女でしかも超がつく巨乳で18歳ながら既婚者とあれば、目立つなというのが無理難題よね。
「しかも当該講師は37歳で独身、高圧的な態度を取り続けているせいで婚活も失敗続きだが、『私の魅力に気付けない男が悪い』といつも愚痴をたれている。18歳で既に旦那持ちの優子さんに嫉妬する可能性は高いだろう」
うわー、ビンゴ過ぎて笑えないわ。
「え!? でも大学の先生がそんな私情を持ち込むなんてあり得んだろ?」
浩介くんが不思議そうに言う。
「ふふ、浩介くん、女の感情は恐ろしいのよ」
あたしは浩介くんに女の怖さについて語る。
小谷学園の女子はあんまりそういうのがなかったけど、あたしにもそういう「女の感情の黒い部分」を理解できるようになった。
「そ、そういうものなのか……」
「俺も男だからよく分からんが、こじらせるというのはそういうことらしい」
「ふふ、あたしみたいに素敵な旦那さんをゲットできなかったり、男に恵まれなかったりすると、性格が歪む人がいるのよ」
多分、この人もその類いだとは思う。そして根拠はないけど胸は小さいと思う。
何だかんだで美人、だったり巨乳だったり女の子らしいと性格もよくなるのよね。
多分、女性ホルモンのお陰だと思う。
「なるほどねえ……」
「ま、優子さんの主張の是非はともかく、だ。俺個人としては『法学』がおすすめだぜ。意外な視点から語ってくれるんだ」
「分かりました、参考にしてみます」
あたしがそう言い終わると、扉を開く音と共に別の学生が入ってきた。
「さ、他の人も入って来たからこの辺にしようか」
「「はい」」
あたしたちは、指定された席に座る。
机の上には、ノートPCが置いてあった。
その後も、直前になるにつれて、入ってくる学生さんの数は増えていった。
「よし、時間になったから、説明会を始めよう。佐和山大学では、学習教材としてノートPCを配っている。まずはきちんとプリントにある通りか調べて欲しい」
予定の時間になり、蓬莱教授がそう言うと、あたしたちはプリントにあるように、本体と充電のためのアダプター、マウス、保証書と取り扱い説明書、そしてLANケーブルがあるかどうかを調べる。
……うん、あたしも浩介くんも問題なしね。
「では、次に取り扱い説明書と保証書についてだな」
蓬莱教授によれば、支給のノートPCのトラブルには学習サポートセンターで一括管理されているらしい。
保証書は大切に保管しておいて欲しいが、サポートセンターでも一応照会ができるらしい。
「それから注意点としては……あー、これを大学生にもなって言うのはどうかと思うが……それでも言わなきゃならんことになってるから言っておく」
蓬莱教授は嫌々そうな口調で注意点を話す。
その注意点というのは「乱暴に扱わない」「ウイルスセキュリティなどはきちんと更新する」「水をこぼさない」「怪しいファイルをダウンロードしない、開かない」といった極めて単純な内容だった。
確かに、大学生のあたしたち、それも2000年生まれになったあたしたちにとっては、「釈迦に説法」もいい所だった。
「まあ、大丈夫だとは思うけど。とりあえず注意してくれ」
確かに蓬莱教授にしてみればわずらわしいのはもっともよね。
そして、あたしたちはマニュアルの通り一通りの動作確認をして終了する。あたしも浩介くんも、特に問題はなかった。
ちなみに、コンピューター系列の学部は今のあたしたちに加えて、Linuxのインストールが必要らしい。
「以上で説明は終了する。ちなみにこちらのノートPC代は学費に含まれているから心配は無用だ、では今日は解散、明日からの講義、楽しみにしておいてくれ」
蓬莱教授がそう言うと、真っ先に教室から出ていく。
この後は、記者会見が予定されている。
邪魔をするのはやめておこう。
ともあれ、あたしたちも早くサークル勧誘に行かなきゃ。桂子ちゃん、もしかしたら首を長くして待ってるかもしれないし。
「あ、優子さんに浩介さんですね」
サークルの勧誘に向かおうとすると、ばったり龍香ちゃんと落ち合った。
「河瀬じゃん、結婚してからというもの、俺も名前で呼ばれること増えたなー」
「だってほら、結婚したんでしょ2人とも!」
龍香ちゃんが満面の笑みで祝福するように言う。まさに長続きしている彼氏を持っている女性の余裕よね。
「あ、ああ……」
確かに、あたしたちが一緒だと、苗字呼びしにくいものね。
「龍香ちゃんもこれからサークル?」
「いえいえ、私はサークルには所属する気無いですよ!」
そう言えば、小谷学園でも部活に入ってなかったっけ?
「あー河瀬も彼氏とデートか」
「はい、サークル何かより彼氏ですよ!」
そう言えば、龍香ちゃんも今の彼氏と結婚したいんだっけ? 何だかんだでお似合いよね。
「あはは、龍香ちゃんらしいわね」
「ところで優子さん」
「うん」
龍香ちゃんがあらたまった様子であたしに語りかける。
何か嫌な予感がするわ。
「愛しの旦那さんと、昨夜は激しかったですか!?」
「ちょ、ちょっと!」
あー、やっぱりこれだわ。
「気絶するほど気持ちよかったですか? それとも――」
「だー! 河瀬やめろ!」
「もー! 龍香ちゃん、浩介くんは確かにテクニシャンだけど……て何言わせるのよ!」
あたしと浩介くんが慌てて龍香ちゃんの暴走を止める。なんかあたしは止めてなさそうだけど。
「あはは、すみません。じゃあ私、デートの約束がありますのでこれで」
「お、おう……」
浩介くんがぎこちなく返事すると、龍香ちゃんは建物の外に消えていった。
「さ、サークルの所に行くか」
「うん」
あたしたちは、気を取り直してサークルの勧誘場へ行く。
もしかしたら、天文サークルがあるのかもしれないし、桂子ちゃんの様子も気になるし。