永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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新婚旅行2日目 午前の東北

「うーん……」

 

 朝、小鳥のさえずり声が聞こえた気がした。もちろん、それは幻聴で、隣には浩介くんが熟睡していた。

 ここはラブホテル、防音設備はしっかりとしている。

 

 昨日、あたしはあれから浩介くんに何度も気絶させられた。

 浩介くんとの相性は、最高だった。

 特に、昨日まで石山優子として所属していた小谷学園の制服同士だったのは、半端ない臨場感と背徳感だった。機会があったら、また制服を着て、昔を思い出すのもいいのかもしれないわね。

 今日は、温泉へと向かう。出発の時間まで、かなりの時間があった。

 あたしはベッドから起きてパジャマを脱ぐ。下着も脱いでフルヌードになった所で、浩介くんが目を覚まし始める。

 

「うーん……」

 

 ま、まずい! 浩介くんが起きちゃうわ!

 そう思って、あたしはとっさにベッドに戻る。

 

「あ、優子ちゃん、おはよう」

 

「うん、おはよう」

 

 あれ? 浩介くんなんかちょっと苦しそうね。

 浩介くんのベッドが、尋常じゃないくらい盛り上がっているのが見えた。

 どうやら、ベッドの中で膝を曲げて盛り上げているみたい。

 あたしの女の勘としては、慌てて何かを隠しているような気がするわね。

 

 うーん……ピコーン!

 

 あたしは、「優一の知識」で浩介くんの行動を考えた結果、すぐに結論を見つけることができた。

 

「ねえあなた、肩こってる?」

 

 あえてすっとぼける。

 

「え? あーあんまり……」

 

 浩介くん、鍛えてるもんね。肩とかこらなさそうで羨ましいわ。

 

「まあ、でも昨日今日と疲れたと思うし、マッサージしてあげるわよ」

 

 そうは言っても、やはりマッサージは大切よね。新婚旅行で疲れすぎちゃいけないもの。

 

「え!? いやいいって! 大丈夫だから!」

 

 慌てて取り繕う様子を見てても、どうやら浩介くんは窮屈な感じみたいね。

 今、楽にさせてあげないと。

 

「あなた、遠慮しなくていいのよ」

 

 あたしは、素っ裸のまま浩介くんのベッドに移る。

 浩介くんは、そんなあたしを見て、すぐに息を荒く、頬を赤くする。あたしが着替えている途中だったのは災い転じて福となすになったわね。

 多分、今の浩介くんへのマッサージには、指だけではなくこの巨大な胸も役立つと思う。

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 浩介くんが激しく息遣いをする。

 結局、浩介くんは干からびそうになっている。

 

「ふう、あなた? どうだった?」

 

「うん、最高だったよ。固まってたのが一気にほぐれて、疲れが一杯出たよ」

 

 浩介くんはあたしのマッサージに大満足してくれた。

 とにかく、今回のマッサージは気持ちよさ、ほぐれ方だけではなく、見た目の魅力がとんでもなく良かったと言っていた。

 浩介くん曰く、「優子ちゃんは包容力がある」とのことでもあった。

 ともあれ、あたしのマッサージで、浩介くんもだいぶ楽になってくれたみたいでよかった。これからも、機会があればこの「挟み込み法」を使っていきたいわね。

 

 

「な、なあ優子ちゃん」

 

 浩介くんがぜえぜえ言いながら、冷静な口調で言う。毎度のことだけど、これって結構ギャップがあるわよね。

 優一の頃はこんな感じに良くなってたはずなんだけど、女の子になって長いから逆に新鮮だわ。

 

「うん?」

 

「今夜、どうしよう?」

 

 浩介くんが冷静な声で言う。

 確かに、朝のうちにこれはちょっと軽率だったかもしれないわね。

 

「ま、まあ多分ここの方が雰囲気出ると思うし、あっちのホテルは明日もあるから、ね」

 

「お、おう……」

 

 一応、このホテルにも売店があって、「マムシドリンク」とか「栄養剤」が売られている。いずれも、あたしや浩介くんのエネルギーを引き出すためのもの。

 チェックアウトの時に、それを買って飲ませることにしようかな?

 

「ごめん、あたし着替えるから向こう行くね」

 

「分かった」

 

 裸は見せても、着るところは見せない。

 変身中のことは、夫婦でも、いや、夫婦だからこその秘密にしていきたい。

 

 アニメの変身シーンでは、女の子たちは途中ですっぽんぽんにさせられちゃって、女の子によっては恥ずかしそうな表情を見せるわけだけど、その状態ならはたまに見せてもいい。

 あるいは、浩介くんの手でそうさせられる時には、いつも以上に恥ずかしがらないといけない。もちろん、浩介くんにされるのはすごく恥ずかしいけど、きちんと「恥ずかしい」を伝えないといけない。

 浩介くんの彼氏になってからというもの、いや、それ以前から「恥じらいの心を忘れてはいけない」というのは母さんに徹底的に叩き込まれたことで、それが今でも生きている。

 あたしは、老けることがないから、多分加齢とともに恥じらいがなくなるという事もないと思う。

 

 あたしは、本能的に分かっていた。

 恥ずかしがることで、浩介くんの征服欲を刺激し、独占欲を満たさせることで、あたしの本能的な被支配欲も満足するということに。

 

「よしっ」

 

 昨日のお風呂での出来事を思い出しつつ、あたしは服を着終わった。

 今日の服は、東北の山の温泉ということで、膝丈の茶色のスカートに、ストッキングを履くパターンにした。

 あまり私服ではストッキングを履かないので、ちょっとだけ新鮮な気分になる。

 

「ふう、浩介くんお待たせ」

 

「おう」

 

 浩介くんが荷物をまとめている。

 あたしも、やや急ぎ気味に同じように荷物をまとめる。

 ふと時計を見ると、結構な時間になっていた。

 

「あら、もうこんな時間なのね」

 

 もちろん、新幹線には十分間に合うけど。

 

「ああ、さっき優子ちゃんが気持ちいいマッサージをしてくれたのが響いたぜ」

 

「そ、そう……」

 

 ともあれ、荷物を整理しつつ、最も重要な財布と乗車券、そして時刻表があるかを確認する。

 うん、問題ないわね。忘れ物もなさそうだし、これでいつでも外に出られるわね。

 

「優子ちゃん」

 

「うん?」

 

 浩介くんがあたしに声をかけてくる。

 

「ん……」

 

「チュッ……」

 

 浩介くんが何の気なしにキスをねだる。

 あたしも、チュッと軽くキスをする。

 

「どうしたの急に?」

 

「優子ちゃんがかわいかったから、つい」

 

 浩介くんが、いかにも「深い理由はない」という感じで、苦し紛れに言う。

 

「もう! 何それ? あたしがかわいいのはいつものことでしょ?」

 

「そ、そうなんだけどね。あはは……」

 

 浩介くんとキスをし、こんな感じで甘々にいちゃつく。

 これもまた、ラブホテルという場所の不思議な雰囲気のせいなのかもしれないわね。またちょっとだけ抱きしめあって、浩介くんにお尻を一撫でされちゃった。

 でも、さすがにそろそろ出ないと時間もまずいので惜しみつつ部屋を後にする。

 あたしたちは、ラブホテルに別れを告げ、マムシドリンクと栄養剤をそれぞれ購入した。

 

 

「さて、次に使う切符を出してくれ」

 

「うん」

 

 地下鉄で仙台駅に到着した。今日の旅もまた、新幹線から始まる。

 今日乗るのは「はやぶさ」ではなく、「やまびこ」で、降りるのは北上駅。

 そこからは、本数の少ないローカル線に乗り換えることになっている。

 

 今回使うのは昨日のより古いタイプで、グランクラスはない。幸子さんの元を初めて訪れた時に使った思い入れのある車両でもある。

 いつの間にか相当に数を減らしていて、東北新幹線ではもはや貴重な存在になっている。

 というより、ほぼ風前の灯と言ってもいいだろう。

 まあそれでも、ちゃっかりとグリーン車に乗っちゃうあたり、今回の旅が窺い知れる。

 

「ここがグリーン車ね」

 

 列車が入線する。普通車と違い2列×2列で空間も広々としている。

 

「お、グランクラスほどじゃねえけど座り心地いいな」

 

「うん、快適よね」

 

 浩介くんが、グリーン車の座り心地について話す。

 まあ普段の普通車でも、あまり問題ないけど、足を伸ばしやすいのは利点よね。

 

「にしたって、結構グリーン料金は高いよなあ」

 

 浩介くんが、グリーン券を見ながら言う。

 内訳として特急料金とグリーン料金があるけどほぼ同じ料金になっている。

 つまり、グリーン車は普通車の倍かかるわけだ。昨日のグランクラスなんて特急料金の培近かかった。

 確かに座り心地やサービスは至れり尽くせりとは言え、あれだけのお金を取られてしまえば、なかなか利用者数を伸ばすのは難しいと思う。

 

 そして今回のグリーン車、グランクラスよりも料金は手頃で、ドリンクやアテンダントサービスはもちろんないものの、ゆったりと旅行できるのはこちらも同じ。

 やっぱり、割高に感じちゃうのはそれだけ普通車が快適になっていて、差をつけるのが難しくなっているためなのかもしれないわね。

 昨日の博物館を見た感じでは、特急列車だとそもそも昔のグリーン車より今の普通車の方が乗り心地が良さそうだし。

 このあたり、永原先生はどう思うんだろう?

 

「あーでも、永原先生によれば、グリーン車は依存症になる人も多いってさ」

 

「へー、そうなのね」

 

 確かに金銭に余裕がある人だと、グリーン車の魅力に取り憑かれて普通車に戻れなくなるってのはあるかもしれない。

 この新幹線は各駅停車で、仙台の次の駅は古川駅。当初の新婚旅行ではここで下車して温泉地帯に向かうのも考えていたけど、紆余曲折を経て今の旅程になった。まあ、行くのは温泉には変わりないけど。

 

「やっぱり、各駅停車タイプは結構止まるよな」

 

「うん、でもあまり通過待ちをしないのが不幸中の幸いね」

 

 東海道新幹線と比べると本数が格段に少ないおかげとも言えるけど。

 通過待ちは特に行われず、再び新幹線は発車する。この列車の最高時速は275キロで、昨日の320キロに比べるとやはりややゆっくり走っている感じがする。

 

「各停タイプでも、結構減速するまでは時間あるよな」

 

「うん」

 

 次の駅までは何だかんだである程度の時間がかかる。

 それでも、新幹線は速い。数駅止まった後であっという間に北上駅に到着した。

 あたしたちは、新幹線を降りて、改札口を出て途中下車をする。

 

「ふう、えっと北上線の次の列車は……2時間近くもあるわね」

 

 時刻表を見ると、北上線は昼間は3時間に1本程度しかなくて、とてつもないローカル線だということが分かる。

 首都圏で見かけるJR東日本とは、まるで別世界みたいよね。

 

「とりあえず、駅前を散策して食事を探さねえとな」

 

「うん」

 

 時間的にも、お昼ごはんにはちょうどいい時間になっているし。

 

「それから、時間管理は厳重に注意しないとダメだな」

 

 浩介くんがまた「例のノート」を取り出して言う。

 

「うん、分かっているわよ」

 

 鉄道に限らず、時間管理の大切さは小谷学園でも特に注意していたことだし、特に北上線のこの列車に乗り遅れると、次は更に3時間後になる。

 そうなればタクシー手配は免れ得ないし、何より下車駅から予約している送迎車に間に合わなくなってしまう。

 今回の旅行の予定や切符の手続きは、主に永原先生が立てているものだという。

 おそらく、北上駅で2時間待ちにしたのも、永原先生が意図的にそうしたからだと思う。

 

「よく旅番組で、時間ギリギリになって慌てるシーンがあるけど、永原先生曰く『有害だからBPOに訴えるべき』って言ってるそうだ」

 

「それはまた過激よね」

 

 番組の演出上仕方ないと思うけど。

 

「永原先生によれば『鉄道の旅行は常に時間を厳守しないといけないから、ああいった駆け込み行為は周囲の迷惑になるばかりか、真似をしたら事故にも繋がりかねない』んだってさ」

 

 永原先生的には許されないことなのよね。

 もちろん、真田幸村とか赤穂浪士ほどのタブーじゃないとは思うけど。

 

「うーん、確かに、時間通りに動くのが日本の鉄道だものね」

 

「うむ、そしてその正確性は多分、乗客が時間に無秩序だと実現できないことなんじゃないかな? だから永原先生は、こういう演出に対して怒っているんだと思う」

 

 難儀で窮屈だと言われればそれまでだけど、迷惑を被りかねないというのも事実である以上、致し方ないことなのかもしれないわね。

 

「俺達が普段住んでいる首都圏は乗り過ごしたり乗り間違えたりしても何とかなるけど、地方はそうもいかねえもんな」

 

 そう、逃せば何時間も待たされることになる。

 常に注意しないといけないわね。

 

「それから、あんまり駅の遠くにはいかないほうがいいらしいな。迷った時に精神衛生上もそうだし、そうじゃなくてもいつ元に戻れるかわからないからリスクが高いんだってさ」

 

 浩介くんは更にメモ帳を読んで永原先生からの注意を述べてくれる。

 

「一直線なら大丈夫じゃない?」

 

「まあ、そういう単純なのならな。あ、でも念のために時計を使って徒歩時間を記録しておくといいらしいぜ」

 

 浩介くんがそんなことを言う。

 時間を気にしすぎると楽しめないのも事実だけど、そのあたりは、旅行のプロはうまいんだと思う。

 

 あたしたちは、駅の名物のお土産屋さんを覗く。

 

「何か買っていく?」

 

「うーん、お土産は帰りでいいなあ」

 

 確かに、重くなっちゃうものね。

 

「じゃあ、食事屋さんを探すか?」

 

「うーん、12時まででいいかな?」

 

 それまでは、あたしたちは駅の待合室で待つことにする。さすがに2時間は長いし、お腹をすかせておくのも手だろう。いざとなれば、お土産買ってその場で食べちゃえばいいし。

 しばらく列車がないので、待合室はあたしたちだけだけ。

 

 

「それでね、蓬莱教授がね」

 

「なるほどねえ」

 

 この間、2人で静かに話す。

 時計がゆっくりと流れる。

 時間と共に、数人の人が待合室に入る。

 そして時間と共に、人が増えていく。

 

「えー間もなく、東北本線盛岡行きの改札を始めます」

 

 駅員さんの放送と共に、あたしたち以外のお客さんの殆どが入っていく。彼らは、どうやら盛岡行きの普通列車のお客さんだったみたいね。

 この駅、在来線は東北本線も本数が少なくて、新幹線もそこまで多いわけじゃないから、電光掲示板は持て余し気味になっている。

 

「ねえあなた、そろそろ行こうかしら?」

 

「ああそうだな。今から探せば昼食にはちょうどいいだろう」

 

 頃合いが良くなったので、あたしたちは立ち上がり、キャリーバッグを引きながら、北上駅の西口に歩みを進めていった。


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