永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件 作:名無し野ハゲ豚
「うーん……寒いわ……」
冬の寒さ厳しい中、あたしは何とかして起きる。
今日は待ちに待ったクリスマスイブの日で、冬休み最初の日でもある。
あれから歩美さんの女子更衣室問題に端を発する事件も鎮火した。
一時は蓬莱教授が200歳の記者会見を前倒しで開いて、メディアの目をそらす作戦さえ検討されたが、こちらは予定通り、4月まで先送りすることが出来た。
季節は完全に冬になり、日増しに寒さが厳しくなる。
今日のデートも防寒をきっちりしないと、浩介くんに心配されちゃうわね。
えっと、マフラーはどうしようかな?
うん、この白いのにしようっと。
デートの服も白くして……ロングスカートから見える長いレギンスだけは黒にして……よしっ!
白と黒で防寒も決めたあたしの冬デートのファッションが完成したわ。
殆どが白だけど足元と髪だけは真っ黒になっている。
ともあれ、デートファッションは決まった。
白い服は着こなす難易度も高いけど、男子受けを考えると実はシンプルだったりする。
……って、それはあたしの童顔や黒髪ロングのおかげかも。
ウェディングドレスも、こんな白なのかな?
「おはよー」
「優子おはよう。今日明日頑張ってね」
「うん」
今日明日と、母さんたちが空気を読んで旅行に行くという事はない。
既に結婚のことを完全に意識すべく、今日明日のデートもまた、あたしの家で、あたしが「実家に帰省をした」という想定で行われる。
「いい優子? 浩介くんの家はここから数駅の距離よ。嫁入りしたからって、この家のことを忘れちゃダメよ」
「うん、分かってるわ」
18年間お世話になったわけだし。
「それから、お墓参りは必ずするのよ。優子が生きている限り、大丈夫よ」
「う、うん……」
冠婚葬祭に関しても、あたしたちはまだよく分からないけど、今後大人になるにつれ、真摯に向き合わねばならない。
「それでね、優子、結婚式なんだけどね」
「う、うん……」
母さんが式について話す。
「卒業式の日になったわ」
「え!? 本当に!?」
あたしは嬉しさがこみあげてくる。
何故なら、その日はあたしの希望だったから。
「場所は?」
「うん、ここよ」
「え!?」
それは、随分と広い都内のホテルだった。この広さ、かなりのお金がかかっているはずよね。
「いい優子? 卒業式が終わったら、まずは区役所に寄ってちょうだい、そこで婚姻届を提出して、その足で式場に向かうのよ」
「う、うん……!」
あたしが思い描いてた理想と同じ。
卒業式で小谷学園を卒業して、そして新しい人生の始まりとしての結婚式が始まる。
結婚はゴールインではない、それを示すためには、卒業式の日の午後に結婚式を行うのは最も理に適っている。
打ち合わせなんかもあるけど、夕方の6時くらいには結婚式を始めたい。
「優子、2次会とかはどうするの?」
「うーん、この時間なら、やめたいわね」
結婚式が終わったら、このホテルの部屋で浩介くんと2人きりになりたい。
「あらそう? 色々楽しいわよ」
「それよりも、浩介くんとの時間が大事だから、初めての夜は、うん」
「あ、そうよね」
あたしは、浩介くんの意向もあって、未だに処女のまま。多分この日は、旦那になった浩介くんにそれを捧げる日にもなるから。
「ともあれ、ドレスのこととかも考えないといけないわね。優子の胸に入るドレス、多分無いと思うし」
「あ、あはは……」
巨乳だと服のデザインが少ないという。
なので実は、あのデパートは重宝している。たまにあのデパート以外の服屋さんに行くこともあるけど、下着コーナーであたし向けのサイズが売られている光景を見たことがない。
逆に言えば、何であそこでは売られていたのいつも疑問でもあるんだけど。
「さ、ご飯食べて行ってらっしゃい。あ、優子も手伝ってね」
「はーい」
今回のデートでは「帰省」の練習もする。でもまだ、この時間はいつも通りの朝だった。
「浩介くーん!」
あたしは、待ち合わせ場所で浩介くんを見かけて声をかける。
「お、優子ちゃん。うわー雪みたいだよ」
浩介くんがあたしの服を見て感激したように言う。
「えへへ、どう? 似合ってるかしら?」
「うんうん、やっぱり優子ちゃんに白い服って、すごくきれいだよ」
浩介くんは、やっぱりあたしの白い服が大好きみたいね。
「ふふ、ありがとう。さ、行きましょう」
今日の浩介くんとのデートは、冬のデートらしく、屋内でも出来るデートが中心になっている。
最初は本屋さんを考えたけど、色々あったので模型屋さんに変更になった。ちなみに、今回のデートはクリスマスプレゼントの選定も兼ねている。
サプライズもいいんだけど、「あのプロポーズよりいいサプライズは無いし、あえて相談して決めるのも楽しいんじゃない?」という、あたしの思い付きが採用された。
この辺りには珍しく、かなり大きな総合模型屋さんで、それなりの歴史があるみたい。
「そう言えば、あたしここには来たことないのよね」
あたしは、優一の頃からあまり模型への興味はなかった。
もちろん、興味があってはまる人ははまるんだとは思うけど、たまたまあたしの興味をそそられなかっただけかな?
「ここは乗り物だけじゃ無くて、建物の模型とかもあるんだな」
まず1階、そこは鉄道博物館で見たようなジオラマに、電車の模型もあった。
「結構、リアルよね」
「作るの大変だよなこれ」
「うんうん」
よく見ると、ボタンを使えば操作できるらしい。でもどれがどれだか分らない。
京都の鉄道博物館で見たのとは車両が全く違っていて、あたしたちが普段住んでいる地域の鉄道の模型もある。
「こうして見ると、普段使ってる電車も景色違って見えるよな」
「えっと、これかな?」
あたしがボタンの一つを何気なく押してみる。
シャー!
「お、動いた動いた」
あたしの操作で模型の電車が動き始め、ミニチュアの中の楕円形の路線をぐるりと一周し、元の場所に戻っていくと、模型の電車が停止した。
「商品を見る?」
「うん、こんなの置けるスペースないものね」
あたしたちは、入口のコーナーから奥に進む。
さっき出てきた線路や鉄道車両の他にも、駅舎の模型まである。
「お、これ子供の頃遊んだよ」
「うん、あたしも」
さっきの模型よりかなり大きくデフォルメされた子供向けの鉄道のおもちゃ。
青いレールが特徴で、男の子の遊びとして有名なものだった。
「でも、最近はこれで凄いのを作る大人もいるから、子供向けといってもバカにできねえぜ」
「うん」
最近の子供向けは、むしろ大人から見るとものすごい奥が深いということが多い。
「でも、純真に遊ぶのもいいよな」
「う、うん……」
あたしは、ちょっとだけコンプレックスのことを思い出す。
もちろん、こういう男の子向けのおもちゃもいいんだけど、やっぱりあたしは……ううん、考えない方がいいわね。
「? 優子ちゃん、どうしたの?」
「ああうん、何でもないわ」
「そう」
あたしが「何でもない」と言うと、浩介くんはそれ以上追及して来ない。
他にも、このお店には鉄道雑誌もある。永原先生に見せたら喜ぶかも。
「2階に行ってみようぜ」
「うん、分かったわ」
浩介くんの先導で、あたしたちはエスカレーターで2階に移動する。
クリスマスイブなので、店内はかなり混んでいる。
2階はやはり、鉄道模型のコーナーだが、さっきよりも大型だった。
「うえあー高いわねえ……」
大きな模型の場合、値段が6桁に達している。
主に黒の蒸気機関車の模型が多いけど、中には新幹線の模型なんかもある。
組み立てる必要のあるものもあって、こちらは完成品より値段が高くなっている。
「凄いなあ、一個欲しいけど……」
「置き場無いわね」
「それに、蓬莱教授の支援があったとしても、ここまでの値段は出せねえなあ……」
あたしと浩介くんは、このフロアにおいては「見るだけ」しか出来ないことを悟った。
ここに長居は無用なのでエスカレーターで3階まで移動する。
店内の広告を見るに、3階は自動車などの車のコーナーのはず。
「うお、ミニカーだ」
「わ、本当だわ」
これもまた、男の子が喜びそうなおもちゃ。車が具体的に何なのかまでは分からなくて、自動車やトラック、バス、あるいは緊急車両何て言う大雑把な区別しかつかない。
おもちゃらしく、これらはみんな値段も手ごろになっている。
「こっちはほら、もう少し大きいな」
「うん」
ミニカーより大きい模型が、所狭しと並んでいる。
自動車のサイドミラーとかまで再現されていて、これを使えば特撮が出来そうよね。
「これすげえなあ、自動でも動くから、文化祭の自主製作映画で使えねえか?」
「うん、まああたしたちには関係ないけどね」
もう文化祭終わっちゃったし、来年は卒業だし。
「うん、もっと早く知ってればなあ……1年の時にでも出し物にしてたのに」
「あはは、1年生かあ……」
「……あんまり、お互い思い出したくねえな」
あたしが女の子になったのは2年生の5月、1年生の1年間は丸ごと優一として過ごした。
だから浩介くんも、今よりずっと頼りなくて、優一だったあたしは浩介くんに乱暴に怒鳴り散らすことが特に多かった。
「うん、今はほら、これがあるもん」
あたしは、浩介くんに左手を見せる。薬指にはめられた婚約指輪が、浩介くんの視界に入った。
「ああ」
「ところで、特撮を本物に見せるのって結構難しいよね」
「それはほら、ここに道路の模型もあるだろ? 未舗装道路、町の道路や電柱、高速道路やインターチェンジの模型もあるから、これを使うんだろう」
浩介くんが隣にあったコーナーを見ながら言う。
「すごいわねえ……」
「ああ、よっぽどの金持ちじゃなきゃ無理だぜこれ」
「もしくは、土地代の安い地方とかならいけるのかもしれないわね」
北海道とかなら、市街地は別として、あたしの家の値段で数倍の広さの家が建てられると思う。
「あー、なるほど」
ともあれ、ここも素通りすることにした。
4階に上がると、そこは青い背景のお店になった。
ここは空のコーナーで、一般のヘリコプターや災害救難機、大小さまざまな旅客機から古今東西の軍用機までそろえている。
特に今人気なのは、航空自衛隊が採用した「F35」らしい。
「新型戦闘機かあ……性能も凄いらしいな」
「うんでもレーダーの映らないって怖いよね」
あたしは軍事の専門家じゃないから、よく分からないけど。
他にも、アメリカのボーイング社と、ヨーロッパのエアバス社という2大航空会社による旅客機もある。
模型の同一縮尺で並べると、特に「A380」の威圧感はすさまじい。まるで空の要塞ね。
更に進むと、「水上機」というコーナーもある。機体の下に特徴的な棒みたいなのがある。
「水上機ってどういう飛行機なの?」
「どうやら、川や海に着水したり、更にそこから飛び立つこともできるらしいぜ。滑走路はいらないってわけだ」
「へえ便利じゃない。でもその割には見かけないわね」
なんだか素人考えだと、よさそうに見えるんだけど。
「まあ、色々費用とかかかるんじゃない? 離島の多い日本では、結構使われているらしいぜ」
航空自衛隊が水上機を使っているらしく、また日本軍時代からも、重宝していたらしい。
他にも、ヘリコプターがある。水上機よりも船に簡単に搭載できるのもあって、最近では利便性も注目されているらしい。
「ふむ、これは海上自衛隊が護衛艦『いずも』に使っている対潜ヘリらしいな。潜水艦の側は対空攻撃能力は普通持っていないから、これをたくさん積んで飛ばしたら、潜水艦にとっても大きな脅威になるよな」
浩介くんがいずもの模型を見ながら考えている。ちなみに、船の模型は4階及び5階で売っている模様だ。
「潜水艦対策かあ……」
「現代の戦争は潜水艦こそ主役と言ってもいいみたいだしな。水中に潜れるってことは、隠れやすいし、水圧もあるから攻撃だって難しいだろうし」
「うーん、そうよねえ……」
そしてその近くには、やはり海上自衛隊が潜水艦対策に使っている「P-1」と呼ばれる哨戒機もある。
哨戒機は、哨戒ヘリの飛行機バージョンで、使える武装も多く、性能も高いという。
飛行機の模型は、これで終了した。他にも、爆撃機だとか色々なタイプの模型があった。艦載機のコーナーでは、昔の第二次世界大戦で使われた零戦をはじめとした各国の艦載機の他にも、現代のアメリカ軍が使っている艦載機の人気が高かった。
「F35は、艦載機のタイプもあるんだな」
「そうみたいね」
これらの艦載機は、船の模型と一緒に使うのが常識と言えるわね。
ちなみに、組み立てるタイプと最初から完成している対応があるのはここも同じ。
飛行機を見終わったあたしたちは、5階に上がる。
そこにあったのは予想通り、船のコーナーだった。
ここでは主に歴代の軍艦を展示していて、大昔の帆船、一番古いのだと「元寇」に使われたモンゴル軍のモデルがある他、織田信長が使ったとされる「鉄鋼船」の模型が、本願寺を支援する毛利水軍の模型と対峙している場面もある。
大砲を搭載していて、いくつかの毛利軍の船を沈めている所まで、芸が細かいわね。
「鉄鋼船かあ……」
「あれって実在なのかな?」
浩介くんが疑問に思って言う。
確かに、こんなすごい船、本当に当時作れたのかな?
「うーん、でも永原先生に聞いても分からないんじゃない? あの頃は長野にいたわけでしょ?」
「あー、そうだよなあ……」
「当時はインターネットどころか、飛脚さえいなかったわけだもん」
情報の伝達だって難しかっただろうし、ましてや当時は村娘だったし、あの時の永原先生は海を見たことさえなかったんじゃないかな?
そして歴史が下ると、帆船からやがて蒸気船へと変化していった。
黒船の模型もある。これが来なければ、今も永原先生は江戸城の中だっただろう。
「へえ、この時代の船はまだ衝突が攻撃になってたんだな」
浩介くんが日清戦争の敵船の模型の展示を見て言う。
船の先が尖っていて、確かに武器になりそうよね。
そして、日露戦争で活躍した戦艦三笠や、第二次世界大戦の駆逐艦や空母、そしておなじみ戦艦大和の模型は、かなり数が多い。
「やっぱり戦艦大和は人気だな」
「でもこれ、作るの大変よね」
「ああ、俺は遠慮したいわ」
例によって完成品もあるが、目玉が飛び出るように高い。
更に戦後の艦船もある。
自衛隊の軍艦はやはり人気で、さっき出てきた護衛艦「いずも」や、イージス艦として使われている「あたご型」や、アメリカの「ニミッツ級空母」もあった他、潜水艦は作りやすさもあってお店からもおすすめされている。
「あれ? 潜水艦だけここに隔離されているのね」
「そうみたいだな。この店、潜水艦推しなのかな?」
実際、第二次世界大戦の潜水艦もここに集められている。
「現代の潜水艦に比べると、昔の潜水艦はどうしてこうなったんだ?」
昔の潜水艦は、明らかに水中を進み辛い構造になっているし、これだと簡単に発見されちゃいそうよね。
「うーん、潜水する機会が少なかったとか? ほら、水上を走ることも考慮されてるじゃない」
「あー言われてみればそうだな。で、これが現在海上自衛隊で使われている『そうりゅう型』かあ」
アメリカの原子力潜水艦の模型と比べると小さいけど、それでも昔の潜水艦の模型と比べると、「伊400型」と書かれていたのを例外とすればかなり大きなサイズよね。
「エンジンの性能から静寂性までアップしていて、魚雷の性能も相当向上ってあるわね」
この模型店、魚雷の販売にまで力を入れている。
第二次世界大戦で日本軍で使われていた「酸素魚雷」との性能比較図まであって、当時の酸素魚雷は他の魚雷と比べて抜群の高性能を誇っていたが、現代の魚雷はそれをはるかに凌駕している。
ここで比較されている「89式魚雷」は29年前、ちょうど永原先生が今の名前に変えた頃の魚雷だけど、射程は大和型戦艦の主砲とほぼ同じらしい。空中よりもはるかに抵抗が大きそうな水中でこれだけ進めるって相当よね。
「テクノロジーの進歩はすげえよなあ」
現代の兵器って、多分大抵のファンタジー世界に勝てるんじゃないかな?
ここのお店が、やや現代兵器推しなのもあるかもしれないけど。
「うーん……」
「優子ちゃん、どうしたの?」
「いやほら、潜水艦プレゼントするって変かなって?」
潜水艦プレゼントしても、あまり映えない気もするし。
「あーいや、別に変じゃねえぞ。でもよ、さらに上層にもいいものあるんじゃない? それ見てからでも遅くねえだろ」
浩介くんが無難そうに言う。
「うん、じゃあ次の階に行こうか」
ちなみに、さらに上層は「フィクション」コーナーになっていて、「宇宙ロボットSF」の模型とかもあるけど、ここまでは見なくてよさそうね。
つまり、次の6階が事実上の最後になる。
さて、何が待っているかしら?