永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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ミスコンから後夜祭へ

「じゃあ私、ミスコンの会場に行くわね」

 

「いってらっしゃいませ部長」

 

 桂子ちゃんが席を立つと、見張り役の「次期部長」が挨拶をする。

 

「浩介くん、龍香ちゃん、あたしたちも行こうよ」

 

「ああ、そうだな」

 

 こうして、あたし、桂子ちゃん、龍香ちゃん、浩介くん、天文部男子の5人組で体育館へ行き、桂子ちゃんを見送った。

 水着審査の直後に発表された中間発表では、桂子ちゃんは更に圧倒していて、去年のあたしと永原先生とを併せたのと同程度の票数でないと、他候補の逆転は不可能になっていた。

 

 時間と共に、徐々に席が埋まる。

 噂話もそう、他の観客も全員が桂子ちゃんの優勝を予想していて、中には再び「2位は誰か?」で盛り上がる人もいた。

 そんな中で、生徒会の人たちは、投票用紙の集計作業の他、会場の準備に取り掛かっていた。

 

「桂子ちゃん、どんな感じで優勝を受け止めるのかな?」

 

「うーん、よく分かりませんけど、今は見守りましょう」

 

 あたしと龍香ちゃんとで、口数も少ない。

 やはり、ミス小谷の発表前、結果は分かりきっていても、独特の緊張感がある。もちろん、去年のそれとは比べ物にならないけど。

 

 

「お待たせいたしました。ただいまより、2018年小谷学園ミスコンテストの結果発表と、表彰式に移りたいと思います。えー、途中でリタイアされた方もいらっしゃいますが、今回は特別に全員の参加者に来ていただきました! ではどうぞ!」

 

  パチパチパチパチ……

 

 拍手と共に桂子ちゃんを含めた参加者たちが舞台に上がる。

 

「えーっとですね、結果ですけど、ぶっちゃけていいですか? 集計し終わったんですけど、今年は全投票の97%が同じ人に集中しています! これはもう、満場一致でいいと思います」

 

 生徒会長の言葉に対して、観客の視線が一斉に桂子ちゃんに注がれる。

 桂子ちゃんは顔色一つ変えていない。

 

「はい、皆さん分かっているとは思いますが、今年のミスコンの優勝者は木ノ本桂子ちゃんです!!!」

 

  うおおおおおおお!!!

 

 割れんばかりの歓声と、桂子ちゃんを祝福する声が聞こえてくる。

 桂子ちゃんはほんの一瞬だけほっとしたような表情を見せたが、すぐに「まあ当然よね」という感じの表情になる。

 もしかしたら、どこかで票の操作とかそう言う横やりが入るんじゃないかという心配でもしていたんだと思う。

 もちろん、そんなことはあり得ない。強引に投票が捻じ曲げられるようなことがないのも、小谷学園のミスコンの権威を高めている。

 

 

「そして、2位と3位を発表したいと思います。まずは3位――」

 

 その後、生徒会長さんが、2位と3位の人を発表し、呼ばれた女の子にトロフィーを授与する。一応ながら拍手もあるが、それもまばらにしかないわね。

 一方でトロフィーをもらった生徒も、あんまり嬉しくなさそうだわ。

 まあ、1位じゃないものね。去年の桂子ちゃんと永原先生は泣いてたし、激戦の末じゃない分、ショックも小さいのかも。

 全体の投票数が何票で、そのうち何票を獲得したかという話は出てこない。それは多分、この2人に対する温情だと思う。

 

「では、今年の優勝者、木ノ本桂子ちゃんに、優勝記念トロフィーとお菓子を差し上げます」

 

 桂子ちゃんはっても嬉しそうに、誇らしそうにトロフィーを掲げる。

 2伊と3位の人は、申し訳なさそうにトロフィーを抱えて持っているだけ。それなら4位以下のほうが良かったかもしれないとさえ、思えてくるわね。

 

 

「それでは、これにて小谷学園ミスコンテストを終了します。最後に参加してくださいました全員に拍手をお願いいたします!」

 

  パチパチパチパチパチ……!

 

 生徒会長さんの声とともに、桂子ちゃんを含めた全参加者が退場する。

 小谷学園の文化祭の最大のイベントが、こうして終わった。

 

 あたしたちは、優勝トロフィーを持った桂子ちゃんのもとに駆け寄る。

 

「いやー素晴らしかったですよ桂子さん! 私も無理言って出ればよかったかもです……桂子さんにコテンパンにやられちゃうと思いますけど」

 

「あはは、でも龍香も美人だからね、クラス違ったら代表だったかも」

 

 桂子ちゃんにまず話しかけたのは龍香ちゃんだった。そう言えば龍香ちゃんは、結局3年間ミスコンには出なかった。

 

「まあ、私にも彼氏がいますから、彼氏のためにもミスコンには参加しません!」

 

 そう、龍香ちゃんは彼氏持ち。それでミスコンに出るのは確かにためらわれる。

 去年の文化祭の時点では、ほとんど恋人同然だったとは言え、あたしと浩介くんはまだ正式な恋人ではなかった。だけど今は婚約者になっている。

 そんなあたしが「ミスコンテスト」に出るにはちょっと不適合だと思う。確かにまだ「ミス」には違いないけど。

 

「桂子ちゃんはどうするの?」

 

「うん、教室に戻るわ。優子ちゃんたちは?」

 

「同じく、もう疲れたわ」

 

 あたしがそう言うと、みんなで一緒に教室に戻った。

 文化祭最大のイベントも終わり、これからは、文化祭も徐々に撤収モードになる。一般客は後夜祭には出られない。後夜祭は例年通り、前半戦と後半戦に分かれている。

 前半戦は文化祭の延長、そして後半戦が校舎でボードゲームやカードゲームになっている。

 そして明日明後日が、お休みという事になる。

 

「ふう」

 

 あたしたちは、教室に戻り、カーテンの向こうの「休憩場」にたどり着いた。

 見ると中には、遊び疲れた生徒たちがたくさんいた。

 その中には恵美ちゃんやさくらちゃんといったメンバーもいた。一方で虎姫ちゃんはまだいない。

 しばらくすると、生徒会長が何回も「文化祭間もなく終了です。一般のお客様は速やかにご退場願います」という放送を繰り返し始めた。

 

 夕日が沈み、外が暗くなり始めようとしている時間、あたしたちの最後の文化祭は、間もなく終わろうとしていた。

 名残惜しいけど、いつかは訪れること。だものね。

 

 

「ただいまを持ちまして、小谷学園文化祭を終了し、後夜祭を開始いたします。まだ残っている一般の方は速やかにご退場願います」

 

 生徒会長の放送と共に、文化祭が終了し、後夜祭がスタートした。

 

「じゃあ私は天文部に行くわね」

 

 桂子ちゃんは天文部に行く。部活の性質上、後夜祭はそれなりに混むらしい。

 やっぱり雰囲気の違いだろう。

 

「俺たちはどうしようか?」

 

 浩介くんが提案する。

 あたしは一つ、考えがある。

 

「うーん、ここを見ようよ」

 

「え!? ここって?」

 

「3年1組」

 

 あたしは、あっさりした風に言う。

 

「え?」

 

 浩介くんが少し驚いている。

 

「ほら、あたし達が作った最後の展示だし、もう一回ゆっくり見てみたいかなって」

 

「う、うん……」

 

 あたしたちは、文化祭ともお別れだけど、もうすぐこの展示ともお別れだから、最後にもう一度ゆっくり見ていきたい。

 

 あたしたちの教室では、球技大会がテーマになっている。

 今年の球技大会に関するレポート写真がたくさんある。

 2年生がやったフットサル、ドッジボール、3年生のテニスやソフトボールもある。

 1年生達の写真もあってみんな活き活きとしている。

 

 そして展示の最奥部の一角に大きなスペースが割かれているのが、浩介くんと恵美ちゃんのテニス対決で、学生テニスながら5セットマッチで行われたことが特に強調されている。

 映像がある他、大まかな試合結果もある。

 序盤は恵美ちゃんが圧倒していたが、徐々に体力が切れてくると、浩介くんに形成が傾き、最後には一方的な展開になってしまったということも書いてある。

 

「浩介くん、本当に強かったわ」

 

「ああ、ただ第2セットのあそこでブレークできなかったら分からなかったよ」

 

 浩介くんが懐かしそうに言う。

 

「それももう、4ヶ月も前のことなんだよな」

 

「そうよね。あっという間にも感じるし、遠い昔にも感じるわね」

 

 永原先生ほど生きても、意外と時間の感覚は同じらしい。それどころかここ最近は時間が長く感じるとも言っている。

 それもまた、不老がなせる技なのかもしれない。

 

 小谷学園は運動部が弱い。

 その分球技大会と体育祭では、極端な実力差が発生しにくいことでも知られている。

 もちろん、あたしみたいに本当に基礎の基礎が問題のこともあるけど、以前からそういう人にもハンデ戦が広く取り入れられていて、最近になってそれはより広く、また抵抗なく採用されるようになった。

 これも、あたしが女の子になったおかげとも言われている。

 恒常的に負け続けた人って、案外極端なハンデに抵抗がないみたいのよね。

 

「うむ、こんな所かな」

 

 やはり準備中に何度も見てきたこともあってあたしたちはあっという間に見終わってしまった。そのため、ここは適当に切り上げることにした。

 懐かしい気分ではあるが、他にも行きたい所がある。

 

 それがメイド喫茶、後夜祭のメイド喫茶は混んでいる。

 ちなみに、去年のあたしたちと同じく、後夜祭特別シフトで行われていた。

 

「おかえりなさいませご主人様―!」

 

 メイドさんが忙しそうに応対している。

 あたしたちはまた別のメニューを頼む。

 

「浩介くん、この後はどうするの?」

 

「うーん、天文部に行こうと思う」

 

 浩介くんと考えていたことは同じ。

 後夜祭ならば、天文部も盛り上がってくれると思う。

 

「お待たせいたしました――」

 

 メイドさんの持ってきてくれた軽食と飲み物を頬張りながらあたしは、浩介くんが少し落ち着かない様子なのに気がついた。

 何かこう、もっと緊張しているような気がするわね。

 うーん、とにかく、今は気にしないでおこうかな? 気のせいっていうのもあると思うし。

 

 

「ふう、じゃあ行こうか。後ろも詰まってるだろうし」

 

 浩介くんもあたしも、食べ終わったので次の人のためにすぐに立ち上がる。

 

「うん」

 

 一般のお客さんはもう居ない、そんな中で、あたしたちは、殆ど人通りの無くなった部活棟を奥へ奥へと進む。

 そして最奥部にある天文部の部屋の中からは、何やら話し声が聞こえてくる。

 

  コンコン

 

「はい」

 

 あたしたちはいつものようにノックをして入る。

 文化祭ではそういうのはいらないけど、つい癖になっている。

 

「あ、優子ちゃん、篠原、いらっしゃい」

 

 学校でも美人として有名かつ、ミスコン優勝者の桂子ちゃんが部長になったことで、天文部はかなりの人で賑わっていた。

 

「1、2年生に新しい入部希望者が増えたわよ。男子だけじゃなくて女子もね」

 

「え!? そうなの?」

 

 あたしが驚きながら言う。

 確かに、ミスコンの優勝で天文部も注目されたのね。

 去年がそうでもなかったから、やはり「部長」という肩書は大きいのかな?

 

「うん、これなら天文部もしばらくは安泰なんじゃないかと思うわ。既に結構知識持っている人もいるし」

 

 小谷学園のミスコンで桂子ちゃんが優勝することは1日目の時からほぼ確定事項だった。

 正式に確定したことで、天文部に注目が集まった。

 前年に桂子ちゃんや永原先生を退けて優勝したあたしも天文部に居るということも知られていた。

 

 夜の日が落ちた天文部に、新しく入った人も含め、部員全員が集まっている。

 そして、賑わうお客さんたちに、一人ひとりが解説を入れていく。

 特に去年作った「宇宙のミニチュア」は、このくらい空間ではかなり好評だった。

 

 

「桂子ちゃん、大学はどうなるの?」

 

 あたしが大学について聞いてみる。

 

「うん、佐和山かなあ? 優子ちゃんたちはもう決まったんだっけ?」

 

「うん、蓬莱教授のお陰でね」

 

 実際には多分一般入試でも合格していたと思うけどね。とは言え、早めに大学が決まるのはいいことだわ。

 

「同じ大学だといいわね」

 

 桂子ちゃんがちょっと願望を込めて言う。

 桂子ちゃんもまた、蓬莱教授の研究の完成を待ちわびている人の一人だったりする。

 この天文の世界、人間の今の寿命は短すぎる。数万年と言った単位でさえ、天文学的には短い数字とさえ言えるから、もしかしたら蓬莱教授の研究でさえ、短すぎる寿命なのかもしれない。

 

「優子ちゃん、篠原、頼むわよ」

 

 桂子ちゃんが、少しだけあたしたちを頼むように言う。

 

「蓬莱教授のこと?」

 

 分かっているけど、つい反射的に聞いてしまう。

 

「もちろんよ。ほら、以前ここに蓬莱教授来たでしょ?」

 

「うん」

 

 蓬莱教授は、あたしたちを佐和山大学に入れるために、ありとあらゆる手をつくした。

 あたしも、浩介くんとの日々をずっとのものにしたいから、それを承諾した。

 

「いくら近いとは言え、大学の先生が高校の部活棟まで来るもの。いかに優子ちゃんが大事かがわかるわよ」

 

 そう言えば、以前にもそんなことがあった。

 実際には頼らなかったけど、何か困ったことがあった時に、いざという時の後ろ盾として、蓬莱教授を使ってきたこともある。

 

 最終的に、球技大会の余波でしつこいスカウトを諦めさせたのも、「蓬莱教授の研究に参加する」というものだった。

 

「なあ優子ちゃん、俺は少し不安なんだ」

 

「うん? どうして?」

 

 浩介くんが、何やら緊張した面持ちで言う。

 どうしたんだろう?

 

「優子ちゃんが大事なのは分かるけど、どうして俺まで研究所に入れたんだろう?」

 

 浩介くんの指摘は確かに分かる。

 蓬莱教授にとってあたしがいないと研究に支障は出るけど、浩介くんは別にそう言うわけでもない。

 

「うーん、あたしにはわからないわ。でも、蓬莱教授にとって、あたしほどではないけど、浩介くんが研究において大事なのは確かよ。今は、蓬莱教授を信じましょう」

 

「ああ」

 

 浩介くんの心配には、蓬莱教授が居ないこの場では結論なんて出せるわけもなく、こうやって先送りにするしかない。もどかしいと言えばその通り。

 

 後夜祭も後半戦に近づくに連れて、賑わっていた天文部も人が減っていく。そう、みんな校庭に集まることになっている。

 ここで、最後の締めとして、ゲームで遊ぶことになっている。

 

「桂子ちゃん、あたしたちもそろそろ閉鎖する?」

 

「うん、そうするわ。じゃあみんな、ここから撤収して、校庭に行くわよ」

 

 部員以外誰も居なくなったため、桂子ちゃんが撤収を指示する。

 天文部員たちも、簡単な片付けに入る。

 

「あ、俺ちょっと用事があるから」

 

「え?」

 

 浩介くんが用事があると言ってきた。

 

「悪い。校庭で会おう」

 

 そしてそのまま、慌てたように部室を出て行ってしまった。

 うーん、一体どうしたのかな?

 

 ともあれ、片付けは次の登校日で本格的に行うから、ドアの前に「天文部の展示は終了しました」という掲示だけ掲げて、あたしたちは電気等を全て消し、校庭へと向かう。

 

 

  ピンポンパンポーン

 

「えーただ今より、後夜祭前半戦を終了し、後夜祭後半戦をはじめます。校庭ではカードゲーム、ボードゲームを行っておりますので、先生生徒の皆様は、奮ってご参加ください」

 

 校庭に向かう前に一旦教室に戻ると、すぐにこの放送が流れた。

 教室の中には浩介くんと龍香ちゃんを含め、約半数の生徒が居なかった。

 龍香ちゃんは確か、彼氏とのデートがあったんだっけ? 今頃はえっちなことしているのかな?

 後夜祭もついに後半戦、この2日に渡る楽しい文化祭も終わりが近付いていく。

 いや、それだけじゃないわ。3年間の高校生活も着々と終わりが近付いていっている。


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