永遠の美少女になって永遠の闘病生活に入った件   作:名無し野ハゲ豚

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残暑と初秋の日々

 9月1日、あたしは久々の学校登校になった。

 制服はあの時の蓬莱教授のAO入試以来のことだった。

 クラスの他のみんなは夏期講習とか部活とかで夏休み中にも学校に行くことがあるけど、あたしと浩介くんは結局夏休みはフルで休んだ。

 

「桂子ちゃん、おはよう」

 

「あ、優子ちゃんおはよう。久しぶり」

 

 駅までの通学路、久々に元気な桂子ちゃんに出会った。

 桂子ちゃんと駅まで一緒に歩く。

 

「優子ちゃん、入試どうだった? って聞くまでもないわね」

 

 桂子ちゃんが一応という感じで聞いてくる。

 

「うん、面接の時に、蓬莱教授が合格証渡しちゃったよ。どうもあたしたちが会場に来るよりも前から、合格証と不合格通知が印刷されてたみたいで」

 

「にゃはは……」

 

 桂子ちゃんも、さすがにこれには苦笑いのようね。

 ここまで出来レースだと、発覚した時どうするんだろうとは考えちゃうけど、まあ、蓬莱教授もそのくらい考えてあるかな?

 

「間もなく電車が参ります――」

 

 駅のホーム、あたしと桂子ちゃんが2人組だとあたし単独よりも更に目立つ。

 小谷学園の美少女が揃い組になるからだ。

 

 あたしと桂子ちゃんの2人で行動している「桂優ちゃん」という呼び方も、全校にすっかり定着してしまった。

 あたしとしては安直すぎると思っているんだけど、「子」が付く名前の美少女が2人組だとどうしてもそうなっちゃうのかな?

 

「私達、やっぱり目立つよね」

 

「うん」

 

 桂子ちゃんも、自分たちが目立つ存在だということは分かっていた。

 

「そう言えば、優子ちゃんは夏休み、篠原とどこに遊びに行った?」

 

「うん、プールデートと、両家でキャンプ場でお泊りしたわ」

 

「そう言えば、もう婚約まで話が進んでるのよね?」

 

 桂子ちゃんには、婚約のことは天文部で話したことがある。

 でも、本格的に進んでいることまでは話していない。

 

「うん」

 

「間もなく、電車が参ります」

 

 話している間に、電車が到着した。

 あたしたちは話を一時中断し、電車の中に入る。

 

 

「それで優子ちゃん、婚約のこと、どこまで話が進んでいるの?」

 

 桂子ちゃんが電車の中で話しかけてくる。

 

「う、うん……高校卒業で結婚ってことになって――」

 

「え!? 急じゃない?」

 

 桂子ちゃん、かなり驚いて絶句気味だわ。

 無理も無いわよね。

 

「ああうん、元々、もっと後にしようと思ってたんだけど、あたしの両親も浩介くんの両親も、とにかく急かすのよ」

 

「大変ねえ……」

 

 桂子ちゃんが同情するように言う。

 確かに、両家両親から結婚を急かされるって子供としては大変だと思う。

 

「実は浩介くんが18歳になったらすぐって言っててね。高校卒業後は妥協案として成立したのよ」

 

「そう、もし両親の言い分が通ってたら――」

 

「あたし、もう浩介くんの嫁になっちゃってたわ」

 

「うわあ……」

 

 桂子ちゃんもかなり驚いている。

 一応、高校側の事務作業が大変だとかそういうこともあって今の内容に落ち着いたんだけど。

 

 

 電車が学校の最寄り駅に到着し、あたしたちはいつものように学校へと向かう。

 通学路にも小谷学園の制服がたくさん見え隠れするのを見るのも、徐々に少なくなっていく。

 1日過ぎるごとに卒業を意識してしまう。

 

  ガラガラガラ……

 

「おはよー」

 

「あ、優子ちゃんおはよう。木ノ本も」

 

 浩介くんが真っ先に挨拶をしてくれる。

 

「うん、浩介くんおはよう」

 

「木ノ本さん、おはようございます!」

 

「おはよう! 龍香」

 

 桂子ちゃんの方は、龍香ちゃんとおはようの挨拶をしている。

 クラスメイトたちがそれぞれ思い思いに挨拶をし、ある人は1時間目の準備を、またある人は通学疲れを癒やすために椅子に座って休む。

 

 夏休み明けは、いつもどおりに過ぎていく。

 

  ガラガラガラ……

 

「はーい、みんな。夏休み明けのホームルーム始めるわよー!」

 

 そして最後に、永原先生が入ってくる。

 小谷学園は前後期制なので、この日は特に始業式等もなく、あたしたちは1時間目の授業の準備に取り掛かった。

 

 

  キーンコーンカーンコーン

 

「ふー」

 

 夏休み最初の学校だったけど、とりあえずうまく行ってよかったわ。

 もう大学進学先は決まったとは言え、やはり卒業するために、ある程度の勉強をしないといけないし、蓬莱教授の方からも、研究室の戦力として見込まれ始めている。

 だから、進学先が決まったからと言って遊び放題というわけにも行かない。

 

「優子ちゃん、篠原、天文部行こう」

 

「うんっ」

 

「分かった」

 

 3人での天文部への久々の移動、夏休み前のあたしたちは、文化祭での出し物について話し合っていた。

 その結果として、今回は人手が多いということや、既存の出し物も使いまわせてきたということで、思い切って各自で自由研究にし、桂子ちゃんが精査してくれるという。

 

 あたしは、「ベテルギウスの超新星爆発」について、浩介くんは「プロキシマ・ケンタウリと赤色矮星」がテーマになっている。

 他の男子部員たちはというと、夏休み中に結構作り上げてしまったらしい。

 それというのも、桂子ちゃんが「良いレポートを作ってくれると嬉しいな」なんてちょっとニッコリ笑顔で言うだけで、男子部員たちはしゃかりきになったのだ。

 

 とにかくこの天文部の男子たちは、下心が丸見えで、ちょっとしたことで簡単に転がされるバカしかいない。

 でも、そんなバカな所が男の子の大きな魅力なんだけどね。

 頼りになるのは事実だし、下心があると言っても、やっぱり男の子は女の子に優しいし。

 

「ところで、優子ちゃんはレポート進んでる?」

 

「うん」

 

 印刷して、壁に貼り付けるからそれなりにしっかりしたものを作らないといけないわね。

 あたしはPCを立ち上げて、推敲をする。

 

 夏休み前と、天文部ですることは変わらない。

 

 

「ふう」

 

 あたしは9月最初の学校を無事に終えた。

 制服を脱いでゆったりと寛ぐ。

 家事手伝いをしない日も久しぶりだわ。

 でも、お嫁に行ったら、毎日しないといけないのかな? まあ、夏休みで慣れているから、問題ないし、浩介くんに家事ができる所見せないとね。

 あたしは、去年の9月1日を思い出す。

 去年はそう、たしか夏休み明けでいきなり生理の日になっちゃって、浩介くんにお姫様抱っこで運ばれちゃったんだっけ?

 今でも、あたしが生理で気分悪かったりすると、保健室まで浩介くんにおんぶしてもらったり、お姫様抱っこしてもらったりしている。

 あの時のことを思い出して、緊張しちゃうことも多い。

 お姫様抱っこの時は、結構恥ずかしいし緊張しちゃうけど、顔が近いからよくキスに発展する。

 おんぶの時は……浩介くん、こういう時に限ってお尻は触らないのよね。

 

 

 その他の9月のイベントと言えば、月末の期末試験がある。

 小谷学園的には、卒業や内申点などのものだけど、あたしにとっては、佐和山大学へ進むための、最後の関門と言ってもいい。

 

 各教科、特に赤点は避けないといけない。

 ……とは言ったものの、実際には体育以外あたしに何の問題もない。

 そもそも、佐和山大学はあたしの進学先としては偏差値が低すぎる。

 小谷学園から佐和山大学に進む生徒が多いように、佐和山大学に合格できる学力なら、小谷学園は十分に卒業できる。

 

 あたしは、相変わらず成績はかなり良くなっていた。

 もともと優一時代から成績は悪くなかったけど、女の子になってますます成績が良くなっていった。もちろん体育は例外だけど。

 

 期末試験の直前になると、天文部の部活も一応中止になる。

 まあ、影でこっそりやってても、小谷学園なので怒られないんだけど。

 勉強に専念すると言っても、あたしはもう、試験勉強よりも、蓬莱教授から送られてくる大学レベルの内容の勉強の方が多い。

 何故かこういう時期だけ、捗るのよね。モチベーションが違うからかな?

 

 

「はーい、期末試験最初は古典ですよ! 皆さん、教科書ノートはしままってください!」

 

 9月末、永原先生の号令のもとで、古典から期末試験が始まる。

 あたしは、問題を解いていく。

 内容は平安時代のもので現代語訳や読解問題、文法問題など様々だ。

 あたしは、一つ一つ冷静に解いていく。

 

「ふう」

 

 よし、時間が余ったわね。

 見直し見直しっと。

 

  ピピピピッ……ピピピピッ……

 

「はーい、そこまで! 後ろから回収してください」

 

 試験官の先生が、試験の終了を告げ、答案用紙を回収させる。

 この期末試験が、数日に渡って続く。

 試験の反省をする人や、次の教科の勉強をする人など、みんな様々だ。

 

 期末試験の終了は、夏服の終了でもあり、あたしはもう、夏服を着ることはなくなるということになる。

 いかに長く、若い容姿を保っていても、高校生活はたった一度しか訪れない。

 期末試験が終わったら、文化祭に体育祭と、秋のイベントが目白押しになる。

 

 ともあれ今は、次の教科に集中しないといけないわね。

 万一大きなミスでもして、赤点にでもなったら悲惨だわ。それだけは避けないといけないわね。

 

 

「ねえ優子ちゃん」

 

「ん?」

 

 期末試験2日目の昼、教室で休んでいると浩介くんが話しかけてくる。

 

「期末試験、大丈夫か?」

 

「もちろん、浩介くんは?」

 

「ああ、多分このまま行けば、卒業はできるよ」

 

 まあ、万が一卒業要件満たさなくても、蓬莱教授が横槍を入れそうだけど。

 って、いくら蓬莱教授でも、あまりそこまでしては来ないかな?

 

「まあ、卒業は心配してないわよ。うちのクラス、みんな成績は悪くないし」

 

「ああ、永原先生が褒めてたな」

 

 うちのクラスはとにかく優秀なクラスだ。あたしが女の子になってからは特にその傾向が強い。

 

「それよりも、文化祭、どうするのかなって今は考えてるわ」

 

 あたしが、文化祭に話題を変える。

 

「俺と優子ちゃんの2人なら、どんな文化祭だってきっとうまくいくさ」

 

「ふふ、そうよね」

 

「優子ちゃん、好きだよ」

 

 突然、浩介くんが告白してくる。

 でも、あたしもドキドキする。

 何回言われても、慣れることはない。とても嬉しい言葉だから。

 

「うん、あたしも……浩介くん大好き」

 

「優子ちゃん……」

 

「浩介くん……」

 

 あたしと浩介くんは、自然に唇が近付いていって――

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 試験期間中でもいちゃつきやがってえええええ!!!!!」

 

「「わっ!」」

 

 突然高月くんが、教室の天井めがけて大声で叫び始めた。

 すると、数人の男子が同調してくる。

 そう、あたしと浩介くんがクラスでいちゃついていると、高月くんを中心とした男子たちの嫉妬と呪いの儀式が始まるのである。

 

「リア充死ね、リア充爆発しろ、リア充滅せよ、リア充死すべし慈悲はない!」

 

「篠原呪われろ、この世で最も不幸な死に方をしろお!」

 

「篠原ばっかりいい思いしやがって、くそおおおおおおおおお!!!!!」

 

「篠原死ね、死ね死ね死ね! 南無阿弥陀仏、南妙法蓮華経、アブラカタブラ、アーメン、アラーアクバル!」

 

 最初は微笑ましいとも思っていたけど、最近はちょっと嫌な感じもする。正直辞めてほしいわね。

 

「ねえ、あたしの好きな浩介くん呪わないでよ!」

 

「うっ……優子ちゃん」

 

 あたしの声に男子たちが怯む。浩介くんもちょっと驚いている。

 

「まあまあ優子ちゃん、男なんだから俺には嫉妬するでしょ」

 

「うっ、そ、そうだけど……やっぱり好きな男の子が呪われてるの見るのってやっぱり――」

 

「優子ちゃん、優しいね。でも、ほら、呪いなんて効果がないからさ」

 

 浩介くんがあたしをなだめてくれる。

 本当にずるいわ。こんなこと言われちゃったら、止められないじゃないの。

 

「浩介くん……」

 

 あたしはまた、浩介くんの唇に自分の唇を近づけて……

 

「「「うわあああああああああああああああああああああんんんんんん!!!!!」」」

 

「「「鬱ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」」」

 

 男子たちの、激しい悲鳴を聞き、居た堪れなくなってイチャつきは終わった。

 うん、確かに試験期間中だし、周りにも迷惑になっちゃうよね。小谷学園生として、それはまずいわね。

 

 

「ふー、終わった終わったー」

 

「優子ちゃん、天文部行くわよ」

 

「はーい」

 

 期末試験最終日、あたしたちは試験終了と同時に解禁された天文部へと行く。

 天文部には、既に浩介くんをはじめ、男性陣がいた。

 

「あの、木ノ本部長」

 

「ん?」

 

 男子の一人が話しかけてくる。

 

「俺の研究テーマ、『22世紀末までの日食表』が出来ました」

 

 この男子は、日食の予定表を作っていたという。

 日食の予定については、インターネットで簡単に調べられる、天文初心者向けのものだ。

 北関東で、17年後に日食があることは有名な話だろう。

 

「ほほう、見せてもらってもいい?」

 

「はいっ! この日食表、是非石山先輩と篠原先輩にも見てもらいたくて」

 

「ん?」

 

「俺達がどうかした?」

 

 突然の指名に、あたしと浩介くんも立ち上がる。

 

「ずっとずっと未来、ここに居る俺達が生きていないような22世紀でも、お二人が生きていて、日食を見られるように、作りました」

 

 天文部のみんなは、蓬莱教授の個人的都合で、あたしたちが佐和山大学に進学することになったことを知っている。

 蓬莱教授の実験が成功し、あたしにとって浩介くんが文字通り「生涯の伴侶」となれば、2000年生まれの高校3年生が、普通なら生きていない22世紀の日食も見られるということになる。

 元々、日食は月食より珍しいと言われているが、見られる範囲が狭いだけで、実は月食の方が珍しい天文現象でもある。

 

「2186年に興るこの日食は、1万年の中で一番長いんです。俺達は無理ですけど、石山先輩や、永原先生ならきっと見られます」

 

「無理なんて言わないのよ。蓬莱教授の研究がうまく行けば、不老は誰でもなれる身近なものになるわ」

 

 あたしが言う。

 

「そうね、私も、色々な天文現象を見ていきたいわ。そのためには、老化はしたくないの」

 

 桂子ちゃんも同調する。

 そう、浩介くんだってきっと、うまくいくから。

 

 こうして、9月の日々が過ぎていく。季節は10月になり、文化祭が近付いてくる。


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